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【発明の名称】 L−ピペコリン酸の製造方法
【発明者】 【氏名】田中 昭宣

【氏名】長谷見 隆司

【要約】 【課題】

【構成】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるε位にアセタール構造を有するα−アミノカプロン酸を酸性溶媒中で還元処理することを特徴とする、式(2)で示されるL−ピペコリン酸の製造方法。
【化1】


【化2】


(但し、式(1)中のRとRは、構造が同一若しくは相異する低級アルキル基、又は互いに結合した〔CH2〕n(n=2〜3)で表されるアルキレン基からなる環状構造を示す。)
【請求項2】
式(1)のε位のアセタールがエチレンアセタールである、請求項1に記載のL−ピペコリン酸の製造方法。
【請求項3】
酸性溶媒が、塩酸、硫酸の何れか一種以上と水を含む溶媒である、請求項1に記載のL−ピペコリン酸の製造方法。
【請求項4】
還元処理が接触水素添加法である、請求項1に記載のL−ピペコリン酸の製造方法。
【請求項5】
パラジウムカーボン触媒を用いる、請求項4に記載のL−ピペコリン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、L−ピペコリン酸の製造方法に関する。詳しくは、式(1)で示されるε位にアセタール構造を有するα−アミノカプロン酸を反応原料として使用する、式(2)で示されるL−ピペコリン酸の製造方法に関する。さらに詳しくは、式(1)で示されるε位にアセタール構造を有するα−アミノカプロン酸を酸性溶媒中で還元処理することを特徴とする、式(2)で示されるL−ピペコリン酸の製造方法に関する。
L−ピペコリン酸は、医薬品の合成中間体として有用である他、有機合成における光学分割剤やキラルビルディングブロック剤、農薬や工業用薬品の合成中間体としても重要な物質である。
【化1】


【化2】


(但し、式(1)中のRとRは、構造が同一若しくは相異する低級アルキル基、又は互いに結合した〔CH2〕n(n=2〜3)で表されるアルキレン基からなる環状構造を示す。)
【背景技術】
【0002】
L−ピペコリン酸の製造方法として、従来、次のような方法が知られている。すなわち、
天然アミノ酸のL−リジンをジアゾ化し、次いでトシル化し、環化して目的物を得る方法である(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法は複雑かつ厳密な反応操作を要し、しかもそれが多工程に及ぶという欠点を有する。また、L−リジンから白金触媒存在下、光化学反応で目的物を得る方法も報告されているが(例えば、特許文献2,3参照)、光学純度が低いため、実用性に乏しい。
【0003】
一方、L−リジンに微生物を作用させてL−ピペコリン酸を得る方法が記載されているが生産性が低い(例えば、特許文献4,5、非特許文献1参照)。また、アルカリゲネス属の微生物を利用して不要の対掌体を資化する方法が報告されているが(例えば、特許文献6参照)、装置が大掛かりになるなど工業的に有利な方法とは言い難い。
【0004】
また、ラセミ体のピペコリン酸アミド、ラセミ体のピペコリン酸エステル、ラセミ体のN−アセチルピペコリン酸等にアミダーゼ、リパーゼ、アシラーゼ等の酵素を作用させてL−ピペコリン酸を得る方法が記載されている(例えば、特許文献7,8、9参照)。しかしながら、これらの方法は比較的低い基質濃度で酵素反応を行った後、当該希薄溶液からL−ピペコリン酸を分離回収する必要があり効率性の面で改善の余地を残す。また、D又はDL−ピペコリン酸にD−アミノオキシダーゼと還元剤を作用させてL−ピペコリン酸を得る方法も記載されているが(例えば、特許文献10参照)、この方法は、酵素活性が低く反応系が複雑であるという問題点も有しており実用的ではない。
【0005】
その他、キラルな光学分割剤を用いた方法も記載されているが(例えば、特許文献11,12参照)、分割後、使用した光学分割剤を脱離し回収する必要があり工程的に煩雑である。以上のように、未だL−ピペコリン酸を効率的に製造できる工業的に実施可能な方法は確立されていない。
【0006】
【特許文献1】特開昭50−59377号公報、
【特許文献2】特開平2−229152号公報
【特許文献3】特開平8−243390号公報
【特許文献4】特許第3266635号公報
【特許文献5】特開平6−38781号公報
【特許文献6】特開昭63−248393号公報
【特許文献7】特開平8−56652号公報、
【特許文献8】特表2002−509441号公報
【特許文献9】特表平9−503669号公報
【特許文献10】特許第3135367号公報
【特許文献11】特開平9−67344号公報
【特許文献12】特開2000−178253号
【非特許文献1】Tadashi Fujii, .Biosic. Biotechnol. Biochem., 66, 622, (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来技術における上記のような課題を解決し、医薬品の合成中間体、有機合成における光学分割剤やキラルビルディングブロック剤、農薬や工業用薬品の合成中間体等として重要なL−ピペコリン酸を、容易に製造できる工業的に実施可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、簡便で工業的に実施可能なL−ピペコリン酸の製造方法を確立すべく鋭意検討を行った結果、式(1)で示されるε位にアセタール構造を有するα−アミノカプロン酸を酸性条件下で還元処理することにより、光学純度、化学純度が共に優れたL−ピペコリン酸を高い収率で、しかも簡便に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、式(1)で示されるε位にアセタール構造を有するα−アミノカプロン酸を酸性条件下で還元し式(2)で示されるL−ピペコリン酸となす、以下の1〜5に示すL−ピペコリン酸の製造方法に関する。
1.式(1)で示されるε位にアセタール構造を有するα−アミノカプロン酸を酸性溶媒中で還元処理することを特徴とする、式(2)で示されるL−ピペコリン酸の製造方法。
【化3】


【化4】


(但し、式(1)中のRとRは、構造が同一若しくは相異する低級アルキル基、又は互いに結合した〔CH2〕n(n=2〜3)で表されるアルキレン基からなる環状構造を示す。)
2.式(1)のε位のアセタールがエチレンアセタールである、1に記載のL−ピペコリン酸の製造方法。
3.酸性溶媒が、塩酸、硫酸の何れか一種以上と水を含む溶媒である、1に記載のL−ピペコリン酸の製造方法。
4.還元処理が接触水素添加法である、1に記載のL−ピペコリン酸の製造方法。
5.パラジウムカーボン触媒を用いる、4に記載のL−ピペコリン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、医薬品の合成中間体、有機合成における光学分割剤やキラルビルディングブロック剤、農薬や工業用薬品の合成中間体等として有用なL−ピペコリン酸を容易に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳しく説明する。本発明の原料は、式(1)に示されるε位にアセタール構造を有するα−アミノカプロン酸であればよく、その製法に制限はなく、どのように調製されたものであっても特に差し支えなく用いることができる。ただし、原料の光学純度は、本発明の目的物であるL−ピペコリン酸の光学純度に大きく影響を及ぼすため、光学純度の高い原料を用いることが好ましいことは言うまでもない。本発明の原料となる、式(1)で示されるε位にアセタール構造を有するα−アミノカプロン酸は、例えば特開2000−86605号公報に記載された方法等により容易に製造することができる。
【0012】
ε位のアセタール構造中のRとRは、ε位のアルデヒド基を簡便かつ効果的に保護できる点で、構造が同一若しくは相異する低級アルキル基、又は、互いに結合した〔CH2〕n(n=2〜3)で表されるアルキレン基からなる環状構造物が適している。具体的には、ジメチルアセタール、ジエチルアセタール、エチレンアセタール等が好ましい例として挙げられ、そのうちでも特にエチレンアセタールが好ましい。
【0013】
本発明で酸性溶媒用に使用する酸に特に制限はないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、若しくはリン酸等の鉱酸、蟻酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、若しくはパラトルエンスルホン酸等の有機酸、又は酸性イオン交換樹脂等を水溶液中で用いる方法や含水有機溶媒中で用いる方法等がある。これらのうち、水溶液中で塩酸又は硫酸で処理する方法が、安価であり、工業的に好適に用いることができる。酸の使用量は、使用する酸の種類や反応条件によって異なり、特に制限はないが、通常、原料のε位にアセタール構造を有するα−アミノカプロン酸の0.01〜100モル倍量、好適には0.1〜10モル倍量、特に好適には1〜10モル倍量であることが望ましい
【0014】
次ぎに、酸性溶媒中での還元処理を行う。この酸性条件下で行う還元処理は、原料の式(1)で示されるε位にアセタール構造を有するα−アミノカプロン酸を酸性溶媒に溶解した後、直ぐに又は例えば攪拌下に一定時間保持した後に行うことができる。大きな差ではないが、後者の方が前者に比べ収率的に勝る傾向が認められる。なお、一定時間保持する際の酸性溶媒の液温に特に制限はないが、通常、0〜100℃、好適には15〜40℃の温度で行うのが望ましい。
【0015】
本発明における還元処理は、それ自体公知の方法で行えばよく、特に制限はないが、例えば塩酸酸性下で亜鉛粉末を用いる方法等で代表される金属及び金属塩による還元方法、水素化ホウ素ナトリウムを用いる方法等で代表される金属水素錯化合物による還元方法、電解還元方法、光化学還元方法、パラジウムとカーボンを含む触媒等を使用する接触水素添加による還元方法等があり、価格と操作性及び後処理の容易さから、接触水素添加による還元方法(接触還元)が好適である。
【0016】
接触還元用の触媒としては、特に制限はないが、酸化白金、白金とカーボン等を含む白金系触媒、パラジウムとカーボン、パラジウムと硫酸バリウム等を含むパラジウム系触媒、ラネーニッケル等のニッケル系触媒、その他ロジウム系触媒、ルテニウム系触媒、クロム系触媒等があり、価格と活性の点でパラジウムとカーボンを含む触媒が好適である。
【0017】
接触還元に用いる触媒の量は、使用する触媒の種類や活性によって異なり、特に制限はないが、例えば5%パラジウムカーボン触媒を使用する場合、通常、反応液量の0.01〜20重量%、好適には0.1〜10重量%の範囲が望ましい。反応温度も使用する触媒の種類や活性によって異なるが、通常、0〜100℃、好適には15〜40℃で良好に進行する。
【0018】
接触還元を行う際の反応系の圧力は、常圧系でも加圧系でもよく制限はない。加圧系にすると反応液中への水素の溶解速度が上がり、反応速度が速くなる点で好ましいが、常圧系でも速やかに反応が進行するため、装置価格等の経済性の面から常圧系で行うのが現実的である。
【0019】
L−ピペコリン酸の反応液からの分離精製は、反応に用いた触媒を濾過等で除去した後、或いはそのまま、反応液をイオン交換樹脂処理や濃縮、晶析等の通常の分離精製法で処理することによって行うことができる。特に、濃縮、晶析を行う前に、反応液をイオン交換電気透析で脱塩処理し必要に応じて粗結晶化させる工程を設けることで、副生塩等の不純物の少ない高純度のL−ピペコリン酸を容易に取得することができ非常に好ましい。また、場合によっては、反応液から触媒を除去した後、そのまま濃縮、晶析等を行うことによっても、L−ピペコリン酸を塩酸塩等の各種の塩として単離することも可能である。
【実施例】
【0020】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
実施例1
ε位にエチレンアセタール構造を有するL−α−アミノカプロン酸19.0g(0.1mol)に2N塩酸水溶液250ml(0.5mol)を加え溶解した。これを室温で30分間攪拌下に保持した後、5%パラジウムカーボン触媒2gを加え、水素ガスを吹き込みながら室温で24時間攪拌下に反応させた。反応液を濾過して触媒を除去した後、濾液を濃縮、乾固し、生じた固体をエタノール−ヘキサンで再結晶して、L−ピペコリン酸塩酸塩15.2g(0.092mol、収率92%)を得た。
【0021】
実施例2
ε位にエチレンアセタール構造を有するL−α−アミノカプロン酸19.0g(0.1mol)を2N塩酸水溶液250ml(0.5mol)に加え溶解した。これを室温で30分間攪拌に保持した後、5%パラジウムカーボン触媒2gを加え、水素ガスを吹き込みながら室温で24時間攪拌下に反応させた。反応液に28%アンモニア水を加えてpH8に調整し、濾過して触媒を除去した後、イオン交換電気透析機で脱塩透析を行い、脱塩後の液を濃縮、乾固し、生じた固体をメタノール−ヘキサンで再結晶して、L−ピペコリン酸11.1g(0.086mol、収率86%)を得た。
【0022】
実施例3
ε位にエチレンアセタール構造を有するL−α−アミノカプロン酸19.0g(0.1m
ol)に2N塩酸水溶液250ml(0.5mol)を加え溶解した後、直ちに5%パラ
ジウムカーボン2gを加え、水素ガスを吹き込みながら室温で24時間攪拌下に反応させ
た。反応液を濾過して触媒を除去した後、濾液を濃縮、乾固し、生じた固体をエタノール
−ヘキサンで再結晶して、L−ピペコリン酸塩酸塩14.5g(0.088mol、収率
88%)を得た。
【0023】
比較例1
2N塩酸水溶液250ml(0.5mol)を用いなかったこと以外は実施例1と同様に操作したが、目的とするL−ピペコリン酸は全く得られなかった。
【出願人】 【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
【出願日】 平成18年6月30日(2006.6.30)
【代理人】 【識別番号】100117891
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 隆


【公開番号】 特開2008−7480(P2008−7480A)
【公開日】 平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願番号】 特願2006−181503(P2006−181503)