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【発明の名称】 光重合性化合物
【発明者】 【氏名】菅井 昌治

【要約】 【課題】臭気が少なく環境への影響を最小限に抑え、かつ高い反応性、保存安定性を有し、かつ酸素による重合阻害を受けにくい、単官能(メタ)アクリレート化合物を提供すること。

【構成】本発明は、下記一般式(I)で表わされる化合物を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物。
一般式(I)
【化1】


(式中、R1は水素原子、もしくはメチル基を表わし、R2、R3はそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を表わし、Lは、アルキレン基、アリーレン基、−O−、−S−、−NR−、−CO−、−COO−、−NRCO−、−SO2−またはこれらの組み合わせからなる群より選択される2価の連結基を表わす。ただしR2、R3は連結して環を形成してもよい。)
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成材料、インク、塗料等の光硬化樹脂材料用途に利用できる光重合性化合物に関する。特に安価なリンゴ酸から誘導される単官能光重合性(メタ)アクリレート化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
光重合性化合物として知られている(メタ)アクリレート化合物は、安価に入手でき、反応性も高いことから、印刷用インク(インクジェット用UVインク)、塗料等、様々な分野で使用されている。特に単官能アクリレート化合物(重合性官能基としてアクリレート基を1つ有する化合物)は、インクジェット用UVインクの光重合成分として多用されている。
【0003】
しかしながら単官能アクリレート化合物は臭気が強く、健康、環境に悪影響を与える。また光重合後に残存した場合にも、その臭気が問題となる。
また、例えばインクジェット用UVインクの成分として用いる場合、希釈剤として多量に使用するため、前述のような悪影響がさらに増大してしまう。
【0004】
一方、光重合(光硬化)感度を上げるためには、高反応性を有する(メタ)アクリレート化合物が必要である一方、保存中にゲル化などしない保存安定性も良好な化合物が必要である。また一般にラジカル重合性化合物は酸素による重合阻害を受けやすく、空気中で重合させる場合、得られる重合体の硬化性が不十分であり、問題となる。例えばインクジェット用UVインクの成分として使用した場合、得られる画像が十分硬化せず、硬化感度が低くなるといった問題が生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって本発明は、臭気が少なく環境への影響を最小限に抑え、かつ高い反応性、保存安定性を有し、かつ酸素による重合阻害を受けにくい、単官能(メタ)アクリレート化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、一般式(I)で表わされる特定の構造を有する単官能(メタ)アクリレート化合物が、臭気が無く、高い反応性、保存安定性を有し、かつ酸素による重合阻害を非常に受けにくいことを見出し、本発明を完成した。また非常に安価なリンゴ酸から誘導できることも利点である。
【0007】
すなわち本発明は、下記一般式(I)で表わされる化合物を提供する。
一般式(I)
【化1】


(式中、R1は水素原子、もしくはメチル基を表わし、R2、R3はそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を表わし、Lは、アルキレン基、アリーレン基、−O−、−S−、−NR−、−CO−、−COO−、−NRCO−、−SO2−またはこれらの組み合わせからなる群より選択される2価の連結基を表わす。ただしR2、R3は連結して環を形成してもよい。)
【発明の効果】
【0008】
本発明の重合性化合物は、従来の単官能性化合物に比べて臭気が非常に少ない。また高い反応性、保存安定性を有し、かつラジカル重合性化合物に特有な酸素による重合阻害を非常に受けにくく、高い光重合性(硬化感度が高い)を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。ここで「(メタ)アクリレート」は「アクリレートまたはメタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイルまたはメタクリロイル」を意味する。
【0010】
一般式(I)で表わされる化合物は、置換基R1を含む(メタ)アクリロイル基と、リンゴ酸から誘導される5員環アセタール骨格とが、2価の連結基Lで結合した構造である。
【0011】
1は水素原子、またはメチル基を表わす。高反応性を付与する場合、水素原子であることが好ましい。
【0012】
2、R3は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を表わす。このような基としては、メチル基、エチル基、nプロピル基、nブチル基、nへキシル基等が挙げられる。またR2、R3は連結して環を形成してもよい。そのような例としては、R2、R3とそれらが結合している炭素原子とで、シクロへキサン環を形成する構造が挙げられる。これらの中では、合成の簡便性、原料の入手性を考慮し、R2とR3がメチル基であることが好ましい。
【0013】
Lは、アルキレン基、アリーレン基、−O−、−S−、−NR−、−CO−、−COO−、−NRCO−、−SO2−等の単独またはこれらの組み合わせからなる2価の連結基である。ここでRとは水素原子またはアルキル基、好ましくは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。
【0014】
アルキレン基としては直鎖、分岐状又は環状であってもよく、好ましくは炭素数1〜20のアルキレン基、より好ましくは炭素数2〜10のアルキレン基である。例えばメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、シクロへキシレン基等であり、より好ましくはエチレン基である。
また、アリーレン基としては、炭素数6〜12のアリーレン基であることが好ましい。例えば1,4−フェニレン基、1,2−ナフチレン基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0015】
上記のうち好ましくは、アルキレン基と−O−の組み合わせからなる基、アルキレン基と−S−の組み合わせからなる基であり、より好ましくはアルキレン基である。
【0016】
下記表1に一般式(I)で表される化合物の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。



【0017】
【表1】


【0018】
次に本発明の化合物の製造方法について述べる。
本発明の化合物はリンゴ酸由来部分と(メタ)アクリロイル部分からなる化合物であるため、当業者であれば市販の原料から適宜製造することが可能である。下記に示す合成例は単なる例示であって、本発明の化合物の製造方法は下記方法に限定されるものではない。
【0019】
例示として示す下記製造方法は下記工程からなる(下記スキーム参照)。
工程1:リンゴ酸のジオール部分とアセタール化合物とを反応させることにより、5員環アセタール構造を有するリンゴ酸誘導体(A)を合成する。
上記工程1は、アセトニトリル、塩化メチレン等の溶媒中で、触媒としてp−トルエンスルホン酸、塩酸、トリフルオロ酢酸等を用いて、室温〜100℃で、30分〜10時間反応させることにより、収率よく行うことができる。
工程2:リンゴ酸誘導体(A)のカルボキシル基を活性化した中間体(B)を合成する。
工程2は、例えば、中間体(A)と塩化チオニル、塩化オキサリル等と室温〜100℃において1〜10時間反応させることにより酸クロリド体を作成することができる。また、脱水反応や、リンゴ酸に対して2分の1当量の塩化チオニル等を反応させることにより酸無水物としてもよい。
工程3:中間体(B)と、(メタ)アクリロイル誘導体とを塩基存在下に反応させることにより一般式(I)の化合物を得る。
工程3は、(メタ)アクリロイル誘導体と中間体(B)を、アセトニトリル、塩化メチレン等の適当な溶媒中で、トリエチルアミン、ピリジン、炭酸カリウム等の塩基存在下に、0〜50℃にて、30分〜4時間程度反応させることにより得ることができる。


【0020】
【化2】


【0021】
本発明の化合物は、特に光重合性化合物として優れた効果を奏する。光重合性化合物として機能させる場合には、光重合開始剤と混合して光重合性組成物とすることが好ましく、この組成物にUV光等の光線を照射することにより、重合が開始され、高分子化合物(ポリマー)を得ることができる。
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
<例示化合物(I−1)の合成>
例示化合物(I−1)を下記スキームに従って合成した。
【0023】
【化3】


【0024】
(1)中間体(A)の合成
DL-リンゴ酸100g(0.75mol)、2,2−ジメトキシプロパン233g(2.24mol)、p−トルエンスルホン酸一水和物1.4g(7.5mmol)をアセトニトリル(500ml)に加え、室温で5.5時間撹拌した。その後、反応液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/1)で精製することで中間体(A)を98.2g得た(収率76%)。
1HNMR 400MHz(CDCl3):δ1.58(s,3H),1.63(s,3H),2.86(m,2H),4.72(m,1H)
【0025】
(2)中間体(B)の合成
中間体(A)34.8g(0.20mol)を塩化チオニル60mlに加え80℃で4時間撹拌した。その後、減圧蒸留を行うことで中間体(B)を29.0g得た(収率75%)。b.p. 122℃(8Torr)
1HNMR 400MHz(CDCl3):δ1.58(s,3H),1.65(s,3H),3.33-3.54(m,2H),4.69(m,1H)
【0026】
(3)例示化合物(I−1)の合成
2−ヒドロキシエチルアクリレート8.2g(70.8mmol)、ピリジン6.2g(77.9mmol)をアセトニトリル150mlに加え氷浴下撹拌した。ここに中間体(B)15.0g(77.9mmol)をゆっくりと滴下後、室温で1時間撹拌した。その後、蒸留水150mlを加え、酢酸エチル150mlで抽出し、さらに水層を酢酸エチル100mlで抽出した。有機層を飽和重曹水150ml、飽和食塩水150mlで1回ずつ洗浄し、有機層に活性炭3gを加え30分撹拌した。セライトろ過を行い、濃縮することで例示化合物(I−1)を18.0g得た(収率93%)。この化合物は、市販品であるイソボルアクリレートと比較し、ほとんど臭気を感じなかった。また、室温で1週間程度放置してもゲル化等の重合の進行は見られず、非常に安定であった。
1HNMR 400MHz(CDCl3):δ1.57(s,3H),1.62(s,3H),2.85-2.96(m,2H),4.37-4.40(m,4H),4.73(m,1H),5.88(m,1H),6.12-6.18(m,1H),6.42-6.47(m,1H)
【0027】
<例示化合物(I−8)の合成>
例示化合物(I−1)の合成において、2−ヒドロキシエチルアクリレートに代わって2−ヒドロキシエチルメタクリレートを用いた以外は、同様の方法で例示化合物(I−8)を合成した。この化合物も、市販品であるイソボルアクリレートと比較し、ほとんど臭気を感じなかった。また、室温で1週間程度放置してもゲル化等の重合の進行は見られず、非常に安定であった。
1HNMR 400MHz(CDCl3):δ1.57(s,3H),1.62(s,3H),1.95(s,3H),2.80-3.00(m,2H),4.35-4.41(m,4H),4.72-4.74(m,1H),5.60(s,1H),6.13(s,1H)
【0028】
<光重合反応性の評価>
例示化合物(I−1)の7.00gと、イルガキュア1870(チバ製光重合開始剤、3.00g)を混合し、完全に溶解していることを確認して、光重合性組成物Aを調液した。
また例示化合物(I−1)の代わりに、市販品であるイソボルニルアクリレート(東京化成工業社製)を用いた以外は同様にして、光重合性組成物B(比較組成物)を調液した。
【0029】
これらA、Bの重合性の評価を、サーモエレクトロン社製FT−IR(NICOLET6700)と、HOYA製UV光源装置(EXECURE3000)を用いて行った。初めに、上記光重合性組成物をステンレス板に膜厚が10μmとなるように塗布し、これにUV光(365nm:45mW/cm2)を2.8秒間照射した。この時の光重合反応性を、アクリロイル基のIR特性ピーク(C=C二重結合由来、810cm-1)の消失を観察することで評価した(酸素による重合阻害の程度を調べるため、窒素中と空気中で評価した)。下記表2に光照射を終了し、10分後の反応率の結果を示す。反応率とは、次式で表される。次式において“特性ピーク面積”とは、チャート上に示されたアクリロイル基のIR特性ピークの面積を測定した値である。
1−(光照射後10分経過した時の特性ピーク面積/光照射前の特性ピーク面積)




【0030】
【表2】


【0031】
表2からわかるように、光重合性組成物B(比較例)では、空気中での反応率が窒素中に比べて非常に低く、酸素による重合阻害を大きく受けていることがわかる。一方、本発明の化合物を含む光重合性組成物Aは、窒素中と酸素中の反応率にほとんど差が無く、酸素による重合阻害を受けていないことがわかる。
【出願人】 【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
【出願日】 平成18年6月27日(2006.6.27)
【代理人】 【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男

【識別番号】100084009
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信夫

【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤

【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治

【識別番号】100114007
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 孝二

【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき


【公開番号】 特開2008−7421(P2008−7421A)
【公開日】 平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願番号】 特願2006−176683(P2006−176683)