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【発明の名称】 環状カーボネート直接合成方法およびこれによって製造された環状カーボネート
【発明者】 【氏名】冨重 圭一

【要約】 【課題】グリコールやグリセリンといったヒドロキシル基が隣接した化合物とCOを反応させて環状カーボネートを合成するものであって、環状カーボネートを高収率で直接合成する。

【構成】2つの反応に活性を示す活性金属担持の存在下、グリコールあるいはグリセリンを炭酸ガスと反応させる直接合成反応によってカーボネート骨格を含む構成がC−C結合で環状になった環状カーボネートを生成する工程と、前記カーボネートの生成の際に生成される水に、水和反応あるいは加水分解させる反応物を反応させる工程とを共存させることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性金属触媒の存在下、グリコールあるいはグリセリンを炭酸ガスと反応させる直接合成反応によってカーボネート骨格を含む構成がC−C結合で環状になった環状カーボネートを生成する工程と、前記カーボネートの生成の際に生成される水に、水和反応あるいは加水分解させる反応物を反応させる工程とを併存させることを特徴とする環状カーボネート直接合成方法。
【請求項2】
請求項1において、前記活性金属触媒は、環状カーボネートの生成工程および水に水和反応あるいは加水分解させる反応物を反応させる工程のいずれの工程にも使用されることを特徴とする環状カーボネート直接合成方法。
【請求項3】
請求項2において、前記活性金属触媒は、活性金属担持触媒であることを特徴とする環状カーボネート直接合成方法。
【請求項4】
請求項3において、前記活性金属担持触媒の活性金属は、Cu,Ag,Auのいずれかであり、かつ担体はZn,Ce,Zr,Ti,Alからなるグループの1つ又は2つ以上の酸化物であることを特徴とする環状カーボネート直接合成方法。
【請求項5】
請求項1から4において、グリコールはエチレングリコールあるいはプロピレングリコールであり、カーボネートはエチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートであることを特徴とする環状カーボネート直接合成方法。
【請求項6】
活性金属としてCu、担体としてZnOを使用し、BET比表面積が20/80〜5/95の活性金属担体触媒の存在下、グリコールあるいはグリセリンを炭酸ガスと直接反応させる工程を有することを特徴とする環状カーボネート直接合成方法。
【請求項7】
請求項6において、前記活性金属触媒の存在下、前記カーボネートの生成の際に生成される水に、水和反応あるいは加水分解させる反応物を反応させることを特徴とする環状カーボネート直接合成方法。
【請求項8】
請求項7において、水和反応させる反応物はアセトニトルであり、あるいは加水分解させる反応物は2、2−メトキシプロパンあるいは酢酸エチルであることを特徴とする環状カーボネート直接合成方法。
【請求項9】
請求項6または9において、グリコールはエチレングリコールあるいはプロピレングリコールであり、カーボネートはエチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートであることを特徴とする環状カーボネート直接合成方法。
【請求項10】
活性金属担持触媒の存在下、グリコールあるいはグリセリンを炭酸ガスと反応させる直接合成反応によってカーボネート骨格を含む構成がC−C結合で環状になったカーボネートを生成するものであって、前記活性金属担持触媒の存在下、前記カーボネートの生成の際に生成される水に水和反応あるいは加水分解させる反応物を反応させて製造されたことを特徴とする環状カーボネート。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、環状カーボネート合成方法およびこれによって製造された環状カーボネートに関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸エステルとは、炭酸CO(OH)の2原子の水素のうち1原子、あるいは2原子をアルキル基またはアリール基で置換した化合物の総称である。1原子のみが置換したROCOOHを酸性、または初級エステル、2原子置換したものを中性エステルと区別して呼ぶ場合がある。しかし、酸性エステルは、バリウム、マグネシウムおよびカリウム塩のみが知られており、遊離の状態では確認されていない。よって、炭酸エステルと言った場合、中性エステルを意味する。その中でも、最も単純かつ代表的な物に、−O−CO−O−の両端にメチル基がついた炭酸ジメチル(Dimethyl Carbonate、分子量90.1、以下DMCと略す)がある。


【0003】
DMCは常温で透明な液体(融点:0.5℃、沸点:90.2℃)であり、比重が1.07と1に近く、水に似た物性である事に加えて引火点が20℃付近と低く、623K付近まで熱的に安定であり、水に溶解しにくく、エーテル、ケトン、アルコールなどほとんどの有機化合物に混和する。石油代替エネルギーや、新しいクリーンなエネルギーとして有望なメタンや水素は実用化への障害の一つに、常温において気体であるが故の移動や貯蔵につきまとう困難があるという事と比較すると、DMCは扱いやすい物質であると言える。
【0004】
特許文献1には、エチレンカーボネートをエチレングリコールに加水分解し、生成したエチレングリコール水溶液からエチレングリコールを取得することが記載されている。
特許文献2には、エチレンオキシドと二酸化炭素とからエチレンカーボネートを製造する方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、プロピレンオキシドと二酸化炭素とをアルカリ金属の具化物及び塩化物を触媒として使用してプロピレンカーボネートを製造する方法が記載されている。
特許文献4には、エチレンカーボネートの製造方法が、
【0006】
そして特許文献5にはプロピレングリコールカーボネートの製造方法が記載されている。
特許文献6には、プロピレンオキシドと二酸化炭素を反応させるに当り、触媒としてスズ化合物を用い、プロピレンカーボネートを製造する方法が記載されている。
特許文献7には、環状カーボネート製造用触媒が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−199914号公報
【特許文献2】特開2001−233831号公報
【特許文献3】特開平7−267944号公報
【特許文献4】特開平5−271218号公報
【特許文献5】特開平6−345698号公報
【特許文献6】特開昭51−19722号公報
【特許文献7】特開2005−254068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、グリコールやグリセリンといったヒドロキシル基が隣接した化合物とCOを反応させて環状カーボネートを合成するものであって、環状カーボネートを高収率で直接合成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、2つの反応に活性を示す活性金属触媒の存在下、グリコールあるいはグリセリンを炭酸ガスと反応させる直接合成反応によってカーボネート骨格を含む構成がC−C結合で環状になった環状カーボネートを生成する工程と、前記カーボネートの生成の際に生成される水に、水和反応あるいは加水分解させる反応物を反応させる工程とを併存させることを特徴とする環状カーボネート直接合成方法を提供する。
【0010】
上記の環状カーボネート直接合成方法において、前記活性金属触媒は、環状カーボネートの生成工程および水に水和反応あるいは加水分解させる反応物を反応させる工程のいずれの工程にも使用されることを特徴とする。
【0011】
上記の環状カーボネート直接合成方法において、前記活性金属触媒は、活性金属担持触媒であることを特徴とする。
【0012】
上記の環状カーボネート直接合成方法において、前記活性金属担持触媒の活性金属は、Cu,Ag,Auのいずれかであり、かつ担体はZn,Ce,Zr,Ti,Alからなるグループの1つ又は2つ以上の酸化物であることを特徴とする。
【0013】
上記の環状カーボネート直接合成方法において、グリコールはエチレングリコールあるいはプロピレングリコールであり、カーボネートはエチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートであることを特徴とする。
【0014】
本発明は、また活性金属としてCu、担体としてZnOを使用し、BET比表面積が20/80〜5/95の活性金属担体触媒の存在下、グリコールあるいはグリセリンを炭酸ガスと直接反応させる工程を有することを特徴とする環状カーボネート直接合成方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
上記の環状カーボネート直接合成方法において、前記活性金属触媒の存在下、前記カーボネートの生成の際に生成される水に、水和反応あるいは加水分解させる反応物を反応させることを特徴とする。
【0016】
上記の環状カーボネート直接合成方法において、水和反応させる反応物はアセトニトルであり、あるいは加水分解させる反応物は2、2−メトキシプロパンあるいは酢酸エチルであることを特徴とする。
【0017】
上記の環状カーボネート直接合成方法において、グリコールはエチレングリコールあるいはプロピレングリコールであり、カーボネートはエチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートであることを特徴とする。
【0018】
本発明は、また2つの反応に活性を示す活性金属担持触媒の存在下、グリコールあるいはグリセリンを炭酸ガスと反応させる直接合成反応によってカーボネート骨格を含む構成がC−C結合で環状になったカーボネートを生成するものであって、前記活性金属担持触媒の存在下、前記カーボネートの生成の際に生成される水に水和反応あるいは加水分解させる反応物を反応させて製造されたことを特徴とする環状カーボネートを提供する。
【0019】
以上のように本発明によれば、グリコールやグリセリンといったヒドロキシル茎が隣接した化合物とCOを反応させて環状カーボネートを直接合成することができ、この場合に、この直接合成の反応中に副生する水を除去することができ、環状カーボネートの生成反応の平衡を誠生成物側に移動させることができ、以って環状カーボネートを高収率で直接合成することができる。
【0020】
また、本発明によれば、環状カーボネートの生成工程および副製した水の除去工程に最適な触媒、特に活性金属担当触媒を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施例の最良の形態は、グリコールやグリセリンといったヒドロキシル基が隣接した化合物とCOとの反応、この反応に際して、例えばアセトニトリル(AN)を溶媒とし、活性金属を用いて反応を行うことで環状カーボネートを高収率で直接合成できることを見いだしたことに基づく。本反応に関して、ヒドロキシル基が隣接した化合物としてエチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、グリセリンを用い、以下にそれぞれの反応式を示した。
【0022】
エチレングリコールからのエチレンカーボネート直接合成方法


【0023】
プロピレングリコールからのプロピレンカーボネイト直接合成


【0024】
グリセリンからの環状カーボネート直接合成


【0025】
この合成法は温室効果ガスであるCOを固定化できるということ、副生成物として水しか生成しないことから環境に優しいプロセスとなっていることが特徴である。また、活性金属担持触媒は粉末であることからこの反応は不均一系反応となり、触媒を容易に分離することができるので触媒を再利用することができ、廃棄物が少なくなるという利点も持っている。
【0026】
しかし、炭酸エステル直接合成反応は平衡反応であり、平衡転化率が低く、平衡が反応物側に偏っている。本反応では、アセトニトリルが系内に存在することで水と以下の様に反応し、反応中に生成する水を連続的に反応させ、除去することができ、両反応を併存させて平衡を生成物側に移動させて環状カーボネートの収率を向上させることに成功した。この反応も担持金属触媒によって促進されていることから、活性金属担持触媒は2つの異なる反応に対して活性を示しており2元機能触媒であると据えることができる。勿論他の機能を付加的に持っていても構わない。
【0027】
以下、このような2つの機能を有する担持金属触媒を活性金属担持触媒という。
アセトニトリルの水和反応


【0028】
水を除去する反応としてはアセトニトリルの水和反応以外に、アセタールの加水分解、エステルの加水分解が可能であり、以下にそれぞれの反応の例として、2,2−ジメトキシプロパン(DMP)の加水分解と酢酸エチルの加水分解の反応式を示した。
【0029】
2,2−ジメトキシプロパンの加水分解


【0030】
酢酸エチルの加水分解


【0031】
本反応で使用する活性金属担持触媒概念を図1に示しており、担体2に活性金属3が担当して活性金属触媒1が形成されており、活性金属担持触媒1の活性金属としてはCu、Ag、Au、Ni、が有効であり、担体は、ZnO、CeO、ZrO、TiO、SiO、AlすなわちZn、Ce、Zr、Ti、Si、Al、の酸化物を用いることで活性を示した。反応は活性金属と担体の境界面で進行しており、活性金属をそれぞれの担体上に担持し、活性金属を高分散させることでが活性金属と担体との境界面が多くなり、触媒の活性を向上させることができる。担体の中ではZnO、CeOが特に有効であり、活性金属にCuまたはAuを選択した時により高い環状カーボネート収率を実現した。
【0032】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0033】
○触媒調製
CeO触媒は、市販のCe(OH)もしくはCeOの粉末を前駆体として空気焼成して調製したものと、前駆体の粉末を作るところから実験室において行ったものがある。
【0034】
市販酸化物、水酸化物から調製したものは、DMC生成活性における前駆体依存性等を調べるのに使用した。また、ロットによる変化が小さいため、CeO触媒全体のキャラクタリゼーションにも用いた。そして、そこから得られた結果をフィードバックしてDMC直接合成用のCeO触媒調製を行った。
【0035】
アセトニトリルの水和反応のための触媒
カーボネート生成の際に副生する水をアセトニトリルの水和反応を使って除去する目的で、ZnOとMDC−7を用いた。
ZnO(和光純薬工業製)は試薬をそのまま触媒として用いた。
【0036】
MDC−7はズードケミー製の銅‐亜鉛触媒であり、その組成はCuO:ZnO:Al=42:47:11wt%で、メタノールを水蒸気改質して水素を製造するための触媒として市販されている。
【0037】
銅触媒
銅(和光純薬工業製)、酸化銅(I)(和光純薬工業製)、酸化銅(II)(和光純薬
工業製)、水酸化銅(II)(和光純薬工業製)、酢酸銅(II)(和光純薬工業製)、
硫酸銅(II)(和光純薬工業製)の粉末をそのまま触媒として使用した。
【0038】
CuO−ZnO触媒
前駆体として銅、亜鉛の硝酸塩であるCu(NO・3HO、Zn(NO・6HOを用い、蒸留水に溶解させて、銅と亜鉛別個に硝酸塩水溶液を作る。これらを任意の割合で混合し1M炭酸ナトリウム水溶液をpH=7となるまで攪拌しながら滴定し、pH=7、室温で1時間攪拌すると、沈殿物ができる。その沈殿物を吸引濾過し、蒸留水で洗浄して得られた水酸化物凝集体を乾燥、粉砕してCu−Zn混合水酸化物を得た。得られたCu−Zn混合水酸化物を523Kで3時間温度を維持して焼成した。
【0039】
銅担持触媒
銅担持触媒は含浸法を用いて調製した。含浸法にはいくつか種類があるが、本研究では蒸発乾固法を用いた。蒸発乾固法とは担体を活性成分溶液に浸した後、溶媒を蒸発させて活性成分を担体上に乾固させる方法である。担体として使用したのは、以下のTable1に示した物質であり、担持量はCuが10wt%になるように調製した。


【0040】
調製は、Cu(NO・3HOを蒸留水に溶解して得られた硝酸塩水溶液に担体を浸し、攪拌しながら水溶液を蒸発させ、一晩乾燥させた後に773Kで3時間温度を維持して焼成した。そして、これとは別に、前駆体を酢酸銅(II)を使用する事で、523Kという低い焼成温度のものも調製した。
【0041】
○反応試験
反応試験装置を図2に示す。
反応の実験は回分式の反応器を用いて行った。実験装置は、図2に示すように、70ml Autoclave(回分式反応器、ヒロ株式会社製)に高圧のCOを導入できるようになっている。そして、反応中はホットスターラーとバンドヒーター、リボンヒーターによって任意の温度に加熱できるようになっている。
【0042】
反応試験操作を以下に示す。
実験操作の手順は基本的に、反応物の導入→反応開始(加熱・撹拌)→反応終了(冷却)→反応後のサンプルを採取して分析、という流れになる。実験手順は以下に示した。
【0043】
(1)70ml Autoclave(反応器)に磁気攪拌子、触媒、反応物となるアル
コールを入れ、密封してCO導入ラインに取り付ける
(2)5gのCOを導入し、2.5g放出する事を3回繰り返して反応器内をCO
パージする
(3)COを200mmol(8.8 g)導入する
(4)CO導入ラインから切り離し、ホットスターラー上に固定する
(5)バンドヒーターを取り付け、周囲を保温のため、マントルヒーターで覆い、反応器
上部にリボンヒーターを巻く
(6)ホットスターラーで撹拌し、加熱を開始する(反応器上部を加熱するリボンヒータ
ーは反応温度より10K低い設定温度)
(7)反応温度に達した時点で反応開始
(8)反応時間経過後、加熱と撹拌を止め、マントルヒーター、リボンヒーター、バンド
ヒーターを外し、冷水で急冷する
(9)室温まで冷却したらラインに接続して減圧しながら気相をガスバッグに採取する
(10)内部標準物質を反応器内の液相に打ち込み、液体サンプルを採取する
【0044】
○触媒のキャラクタリゼーション
触媒のキャラクタリゼーションには、BET比表面積測定、粉末X線回折法(XRD)、拡散反射式FT−IR(DRIFT)を行った。
【0045】
BET比表面積測定
BET法は1938年にBrunauer,Emmett,Tellerの3名が単分子層吸着説であるLangmuir理論を多分子層に拡張した理論である。分子は積み重なって無限に吸着する事ができるという事を前提として、吸着層間に相互作用がなく各層に対してLangmuir式が成立するとする仮定に基づいている。
【0046】
BET式は式 (1) で表される。左辺 対xのプロット(BETプロット)をとり、直線関係があればその直線の勾配と切片の和の逆数から,単分子吸着量Vが得られる。もしくは、Cの値が大きい事から (C−1)/C=1 と近似すると、直線の勾配の逆数でVを求める事もできる。本例では、Micrometrics Gemini 2360を使用して粉体サンプルのBET比表面積測定を行った。


【0047】
粉末X線回折法(XRD)
図3にもあるように、X線は電磁波の電磁スペクトルの中でも紫外線より短波長に位置し、ガンマ線よりも長波長であり、その波長領域が結晶格子の面間隔に相当する。そして、波としての性質からX線は回折現象を起こす。これらの特徴を結晶構造の分析等に応用したのがXRD(X−Ray Diffraction)である。本研究では、結晶の同定と結晶の平均粒子径計算に使用した。
【0048】
装置は、G308のPhilips X’pert MRDのMPSSステージを使用した。その測定条件は、以下の通りである。
X線源:CuKα(1.54178Å)
出力:40kV、20mA
スリット:1°、1/2°
【0049】
そして、XRDにとってもう一つ重要な分析パラメータとして、スキャンプログラムがある。スキャンの速度、角度範囲等を指定したプログラムであるが、例えばゆっくりスキャンする事でS/N比を改善したりできる。本研究に使用したプログラムファイルは“Program 11”であり、荒く全角度領域について観察するプログラムとなっている。プログラムの角度領域とスキャンスピードは下記の通りであるので、分析時間は1サンプルにつき14分程度となる。
【0050】
角度領域:5〜75°
スキャンスピード:毎秒0.0833°
本例では、触媒をXRDで分析して得られた回折パターンから、サンプルの定性と結晶粒子径の計算を行った。平均粒子径の計算には、以下に示すScherrerの式を用いた。


【0051】
拡散反射式FT−IR(DRIFT)
拡散反射式のFT−IRとは、DRIFT(Diffuse Reflectance Infrared spectroscopy Fourier Translationの略)とも略され、その名の通り粉体のサンプルに赤外光を導入し、反射して拡散する光を検出器に導入して粉体表面の吸着種を分析する測定法である。DRIFT用のセル(Spectra tech製)をFT−IRの装置にセットする事で触媒等の粉体を任意のガス存在下で任意の温度で赤外分光分析できる点は、研究室において一般に使われている透過型のセルと同様である。
【0052】
2つの異なる反応に対して活性を示す活性金属触媒のカーボネート直接合成反応および該反応におけるHO除去効果
すなわち、グリコールあるいはブリセリンアルコールとCOからのカーボネート直接合成反応における、反応の平衡によるカーボネート収率の低さに対して、反応系からの連続的な生成HO除去という方法で解決を試みた結果について説明する。HO除去の為に用いた反応は、ニトリルの水和反応である。これは、ニトリルとHOが反応して対応するアミドとなる反応であり、工業的にはアクリロニトリルの水和反応が重要であるとされている。この時、触媒としてはCuを用いたものが一般的であり、100℃前後で反応が進行する。本反応では、反応物のニトリルとしてアセトニトリルを使用した。
【0053】
アルコールとCOからのカーボネート合成反応は平衡反応であることから、カーボネート合成の際に副生する水を連続的に除去することができれば平衡に制約される事なく、高い収率でカーボネートを得ることができることが期待できる。そこで、以下の反応式のようにアルコールに水酸基を2つ持つプロピレングリコール(PG)とCOからプロピレンカーボネート(PC)を合成する反応系に、アセトニトリルとその水和反応を進行させる触媒を添加する事により、両反応を併存させ、アセトニトリルの水和反応によって反応中に副生する水を除去することを行った。


【0054】
反応においては、カーボネート合成用の触媒とアセトニトリルの水和反応用触媒の2種類の触媒を共存させて行っている。カーボネート合成用の触媒としては、これまでの研究でカーボネート合成反応に高活性であるとわかっているCeO触媒を使用した。反応は以下のような条件で行った。
【0055】
・反応条件
反応物:PG:Acetonitrile:CO=100mmol:120
mmol:200mmol
触媒量:100mg(触媒2種共存の条件では、100mgずつ)
反応温度:423K
反応時間:8h
【0056】
アセトニトリルの水和反応に向けた触媒としてZnOと市販のCuO−ZnO/Al触媒であるMDC−7を用いて反応を行い、結果として得られたPC生成量を図4に示した。
【0057】
ZnOをCeO触媒と共存させた時には、CeO触媒だけで反応させた時と比べてPC生成活性が減少するという結果になり、ZnOが共存することでCeO触媒上の酸・塩基のバランスが崩れて活性が減少してしまったと考えられる。
【0058】
一方、MDC−7をCeO触媒と共存させた時にはCeO触媒のみの場合よりも約2.5倍のPCを生成することができた。これは、CeO触媒によってカーボネート合成反応が進行し、MDC−7によってアセトニトリルの水和反応が促進されたためだと考えられた。しかし、MDC−7のみを触媒として反応を行った時にも、CeO触媒だけの時の2倍以上のPC収率を得ることができ、予想していたアセトニトリルの水和反応以外にも、MDC−7はカーボネート合成反応に効果をもたらしていると考えられ、銅‐亜鉛触媒が本反応における新規高活性触媒として期待できることを見いだした。
【0059】
MDC−7を用いた時にはアセトニトリルの水和反応によりアセトアミドが生成していた。よって、アセトニトリルは目的通り水和反応を起こし反応中に副生した水は除去できており、このことによってPC合成反応の平衡が生成物側に移動し、PC収率が向上したと考えられる。この一方で、副生成物として、エステルである1−アセトキシ−2−プロパノール、2−アセトキシ−1−プロパノールも検出された。この2種類のエステルはアセトアミドとカーボネート原料であるPGから次の副反応によるエステル生成に示すような反応によって生成したと考えられる。


【0060】
水を除去する反応としてはアセトニトリルの水和反応以外に、アセタールの加水分解、エステルの加水分解が可能であり、以下にそれぞれの反応の例として、2,2−ジメトキシプロパン(DMP)の加水分解と酢酸エチルの加水分解の反応式を示した。
【0061】
2,2−ジメトキシプロパンの加水分解


【0062】
以下、水和反応を例にとって説明するが、加水分解による水の除去についても同様に類推することができる。
【0063】
銅触媒のプロピレンカーボネート生成活性
前述では水和反応に加えて、PGとCOから環状カーボネートであるPCを合成する反応に、市販のCuO−ZnO/Al触媒であるMDC−7が高い活性を示すということを見いだした。また前述したようにCu系触媒はCuO−ZnO触媒以外にも様々な触媒が広範囲に利用されていることから、CuO−ZnO触媒以外のCu系触媒の中にも活性な触媒が存在するかもしれない。そこで、銅、酸化銅(I)、酸化銅(II)、水酸化銅(II)、酢酸銅(II)、硫酸銅(II)を触媒として用いて以下に示すような条件において反応試験を行った。この結果得られたPC生成量を図5に示した。比較用として、CeO触媒を使用した場合と、MDC−7を用いた場合のPC生成量も同時に示した。
【0064】
・反応条件
反応物:PG:Acetonitrile:CO=100mmol:120
mmol:200mmol
触媒量:100mg
反応温度:423K
反応時間:4h
【0065】
ここで試験したCu系触媒の中では、酢酸銅(II)を用いた時に最もPC生成量が多く、CeO触媒と同程度のPC生成量であった。これに次いで硫酸銅(II)のPC生成量が多く、酸化銅(I)、酸化銅(II)、水酸化銅(II)では、同程度のPC生成量であった。しかし、0価の銅ではPCが全く生成しなかった。様々な銅触媒を試験した結果では酢酸銅(II)が最も高活性であったが、CuO−ZnO触媒以上に高活性な触媒は見いだせなかった。その反面、0価のCuではまったく反応しなかった事から、この反応において、Cu(I)またはCu(II)が重要であると考えられる。
【0066】
CuO−ZnO触媒のPC生成活性PCの合成反応においてMDC−7のようなCuO−ZnO触媒が高活性を示すことがわかったが、使用した触媒は元々メタノールを水蒸気改質して水素を製造するために用いられていたものなので、本反応に対して最適化されたものではなかった。そこで、CuとZnの組成や調製法を変える事によってPC合成反応に対して市販のCuO−ZnO触媒よりも高活性な触媒を調製する事ができると考えられる。そこでまず、CuとZnのモル比を変えて共沈法でCuO−ZnO触媒を調製し、以下に示すように、前述した副反応によるエステル生成と同様な条件で活性試験を行い、その結果を図6に示した。
【0067】
・反応条件
反応物:PG:Acetonitrile:CO=100 mmol:120
mmol:200 mmol
触媒量:100mg
反応温度:423K
反応時間:4h
【0068】
調製したCuO−ZnO触媒の中では、CuとZnのモル比がCu/Zn=12/88、10/90、5/95と亜鉛の割合が多い触媒は高活性を示し、市販のCuO−ZnO触媒であるMDC−7と比べて約3倍のPCを生成することができ、より本反応に適したCuO−ZnO触媒を調製することができた。逆に、Cuの割合が多いCuO−ZnO触媒はZnが多い触媒に比べて活性が低く、Znの割合が増えていくにつれて活性が向上するといった傾向が見られた。Cu/Zn=100/0または0/100というのはそれぞれCuO、ZnOであり、CuO−ZnO触媒を調製したのと同様の手順でそれぞれの硝酸塩水溶液から沈殿物をつくり調製したものである。2つの触媒のPC生成量を比較すると、CuO触媒の方が明らかに高活性であった。このことからCuO−ZnO触媒の中のCuOが本反応に対して重要な役割を果たしていると考えられる。また、CuOやZnOとCuO−ZnO触媒を比べると、明らかにCuO−ZnO触媒の方が高いPC生成活性を持ち、CuOとZnOの相互作用がCuO−ZnO触媒の活性に大きな影響を及ぼしていると考えられる。
【0069】
共沈法で調製したCuO−ZnO触媒を用いた反応では、市販のCuO−ZnO触媒(MDC−7)を用いた時と同様に、アセトニトリルの水和反応により生成するアセトアミドと、副生成物のエステルである1−アセトキシ−2−プロパノール、2−アセトキシ−1−プロパノールが検出された。ここから、アセトアミド生成の際に、PC合成反応中に副生する水が除去できたことによって、平衡が生成物であるPC側に移動できていることがわかり、共沈法で調製したCuO−ZnO触媒でも反応系からのHO除去が進行していると判断できる。
【0070】
図6において定量的な面を見ると、アセトアミドとPGからエステルが生成しているので、反応中のアセトニトリルの水和反応で除去されたHOの量はアセトアミドと2種類のエステルの生成量の和ということになる。例えば、Cu/Zn=10/90のCuO−ZnO触媒の結果を見てみると、PC生成量が約9mmol、アセトアミドとエステルの生成量の和が約11mmolとなり、PC生成量よりもアセトアミドとエステルの生成量の和が多くなっていた。このことから、反応系にカーボネート生成量以上の水が存在したことになり、この水はPG、ANといった反応物の試薬に含まれていた不純物のHO、触媒上に吸着したHO、そしてカーボネート生成以外の反応によるHOの生成が可能性として考えられる。このうち、反応物と触媒上のHOの量を調べるために、PC合成反応の原料であるCOを導入しないでカーボネートが生成しない以下の条件において触媒、PG、ANを導入して反応試験を行った。
【0071】
・反応条件
反応物:PG:Acetonitrile:CO=100mmol:120
mmol: mmol
触媒:CuO−ZnO触媒(Cu/Zn=10/90)100mg
反応温度:423K
反応時間:4h
【0072】
その結果、アセトアミドとアセトキシプロパノールの生成量の和は約1mmolとなり、反応物と触媒上のHOの量は合計で約1mmolと見積もれた。このことを考慮に入れて、Cu/Zn=10/90のCuO−ZnO触媒の結果を見ると、アセトアミドとエステルの生成量の和から不純物のHOの量(1mmol)を引くと約1mmolとなり、PC生成量の9mmolとほぼ一致する結果となった。その他のCu/Zn比のCuO−ZnO触媒の反応試験結果でも、アセトアミドとアセトキシプロパノールの生成量の和から不純物のHO(1mmol)を引いた値がPC生成量とほぼ一致する結果となり、カーボネート合成時に副生するHOがほぼアセトニトリルの水和反応によって消費されているということが証明できた。このことからCuO−ZnO触媒を用いた時には、反応中に副生するHOを連続的にほとんど除去できており、PC合成反応の平衡が生成物側に移動できていると考えられ、これまで行われてきたCeO、ZrO、CeO−ZrO固溶体を用いての反応と違い、平衡制約を受けないことから実験条件によってはさらに高いPC収率を得る事ができると期待できる。
【0073】
共沈法調製CuO−ZnO触媒のBET比表面積
固体表面の活性は、表面エネルギー、表面官能基にかなり支配されるが、活性は表面現象なのであるから、表面積により大きく影響される。したがって、表面積の値は、その固体の表面活性を予測する一つの手段である。そこで共沈法で調製したCuO−ZnO触媒のBET比表面積を測定し、測定結果を図7に、BET比表面積とPC生成活性のグラフを図8に示した。
【0074】
Cu/Zn = 80/20、60/40といったCuの割合が多いCuO−ZnO触媒は表面積が小さく、Znの割合が増えていくにつれて表面積も大きくなるという傾向が見られ、Cu/Zn = 5/95の触媒がCuO−ZnO触媒の中で最も表面積が大きいという結果になった。
【0075】
また、図8から、CuO−ZnO触媒は表面積が大きくなるにつれてPC生成活性も向上するという傾向が見られた。このことからCuO−ZnO触媒は表面積の大きさが活性に影響を及ぼし、表面積が大きいほど本反応に適した触媒であるということが示唆された。
【0076】
また、Cu/Zn = 100/0と0/100つまりCuOとZnOを比べると明らかにCuOの方が表面積は小さいが、図6を見ると、PC生成活性はCuOの方が高い結果となっていて、このことからも前述したようにCuO−ZnO触媒の中のCuOが重要な役割をしていると考えられる。そしてCuO、ZnOと、CuO−ZnO触媒を同様に比較すると、PC生成量、表面積共にCuO−ZnOはCuOとZnOを上回っており、CuOとZnOの相互作用が重要である事がわかる。
【0077】
XRDによる共沈法調製CuO−ZnO触媒のキャラクタリゼーション
共沈法により調製したCuO−ZnO触媒の粒子状態を調べるためにXRD測定を行い、各組成のCuO−ZnO触媒のXRDパターンを図9に示し、XRDパターンから求めたCuOとZnOの平均粒子径を図10に示した。
【0078】
どの組成の触媒のXRDパターンにおいても、観測されたピークはCuOかZnOに帰属することができ、このことからCuO−ZnO触媒はCuOとZnOから構成されている事がわかる。しかし、Cu/Zn=5/95、10/90、12/88といったZnの割合が多い触媒では、CuOのピークが観測できず、ZnOのピークもブロードになっている。これはCuO、ZnOの粒子径が小さく高分散していることを意味していると考えられる。逆にCuの割合が高い触媒はCuO、ZnO両方のピークがZnの割合が高いCuO−ZnO触媒に較べて鋭く、高いことから、CuO、ZnOが凝集して粒子径が大きくなったと考えられる。このことから、CuO−ZnO触媒はZnの割合が増えるに従って、CuO、ZnOが微粒子化していき高分散するという特徴を持つと考えられ、図10に示している実際に求めた平均粒子径を見ても、Znの割合が増えるにつれて粒子径が小さくなってゆく傾向にある。
【0079】
またCuO−ZnO触媒の比表面積は、Cuの割合が多い触媒で小さく、Znの割合が増えるに従って大きくなるという傾向が見られた。この点を踏まえると、CuO−ZnO触媒はCuの割合が多いとCuO、ZnO両方の粒子径が大きくなってしまうため比表面積が小さい触媒となり、Znの割合が高いとCuO、ZnOが微粒子で高分散し表面積が大きい触媒になるという特徴を持つと言える。また図6から、Cuが多い触媒に比べてZnが多い触媒の方が高いPC生成量を示した事から、CuO−ZnO触媒はCuO、ZnOが微粒子となり高分散している触媒が高活性であるという特徴をもつと考えられる。
【0080】
銅担持触媒のPC生成活性
共沈法で調製したCuO−ZnO触媒を用いることで高いPC収率を得る事ができることがわかり、CuO−ZnO触媒のキャラクタリゼーション結果から、CuO、ZnOが高分散し、表面積が大きいCuO−ZnO触媒ほどPC生成量が多いということがわかった。しかし、この触媒が高活性を示した要因が、CuOが高分散しているためなのか、それともCuOとZnOの相互作用によるものなのかをはっきりと結論付けることはできなかった。そこで、銅担持触媒を調製することで、CuOが高分散した触媒の調製を試みた。CuO−ZnO触媒の活性点CuOにあるとすれば、CuOが担体上に高分散した銅担持触媒は高い性能を示すはずであり、銅担持触媒の活性が低ければCuO−ZnO触媒はCuOとZnOの相互作用によって高い活性を実現していると考えられる。様々な担体を用いた銅担持触媒の反応試験を以下の、これまでと同様な条件で行い、この結果を図11に示した。単体として使用したのは、TiO、MgO、Al、SiO、ZrO、CeOそして、ZnOである。
【0081】
・反応条件
反応物:PG:Acetonitrile:CO=100mmol:120
mmol:200mmol
触媒量:100mg
反応温度:423K
反応時間:4h
【0082】
CuO/CeO以外の銅担持触媒のPC生成量は1mmol程度、あるいはそれ以下で活性が高いとはいえない結果となった。このことからCuO単体ではそれほど高い活性を持たないと考えられ、CuO−ZnO触媒はCuOとZnOの相互作用によって高活性を示しているということが示された。このことからCu/ZnOは高活性を示すと期待できたが、結果は同程度のCu/Zn比である共沈法で調製したCuO−ZnO触媒の9分の1程度というPC生成量であった。これはあとに示す銅担持触媒のキャラクタリゼーション結果から、焼成温度が共沈法の場合よりも高く、その影響によって表面積が低下してしまったことがひとつの要因ではないかと考えられる。一方、Cu/CeOを用いた反応では約5mmolのPCを生成することができ、銅担持触媒の中では最も高活性であった。これは担体として用いたCeOがカーボネート生成反応に活性を持つことと、担持されたCuOが、アセトニトリルの水和反応に活性を持つことから、CeO上でカーボネート生成反応が起こり、そのとき副生したHOがCuO触媒の働きによって除去され、カーボネート生成反応の平衡が生成物側に移動したためだと考えられる。実際にCeO触媒のみを用いた反応での平衡時に生成するPC生成量が2mmol程度であるのに対して、Cu/CeOを用いた反応ではその2倍以上ものPCを生成できていて、平衡が生成物側に移動していることがわかる。
【0083】
XRDによる銅担持触媒のキャラクタリゼーション
担体上に分散した銅の粒子状態を調べるためにXRD測定を行い、各銅担持触媒のXRDパターンを図12に示し、各XRDパターンから求めたCuOの平均粒子径を図11に示した。
【0084】
CuO/CeO、CuO/ZnO以外はCuOのピークが比較的ブロードになっていてCuOの粒子径が小さいことが示唆され、計算した平均粒子径も20nmと、比較的小さいものであった。しかし、CuO−ZnO触媒と比べると、Cu/Zn比とXRDパターンの傾向から、銅の含有率が同程度のCu/Zn=10/90のCuO−ZnO触媒の方がCuO粒子径は小さいと考えられる。担持触媒のCuO/ZnOと共沈法調製のCuO−ZnO触媒はともにCuOとZnOからできているので似た触媒になると予想していたが、XRDパターンはそのピーク形状が明らかに異なり、担持触媒のCuO/ZnOは、ZnOのピークが鋭いことから、ZnOの粒子径が共沈法の場合よりも大きいと判断できる。この原因は、前述したように銅担持触媒の焼成温度が共沈法調製のCuO−ZnO触媒に比べて300 Kも高かったことであると考えられる。
【0085】
低温で焼成した銅担持触媒のPC生成活性
共沈法で調製したCuO−ZnO触媒は、CuOが高分散している触媒の方がPC合成反応に高活性を示すということがわかった。このことから、担体上にCuOを高分散で担持した触媒が高活性を示すと考えられる。そこで、含浸法で銅担持触媒を調製し、活性試験を行った。しかし、焼成温度を773 Kとしていたため、523Kで焼成した共沈法調製のCuO−ZnO触媒と比較するには、焼成温度が高過ぎた。そこで、前駆体を変えることによって、焼成温度を523 Kに下げて銅担持触媒を調製し、活性試験をした結果を図14に示した。反応条件は、以下に示す通りである。
【0086】
・反応条件
反応物:PG:Acetonitrile:CO=100mmol:120
mmol:200mmol
触媒量:100mg
反応温度:423K
反応時間:4h
【0087】
ZnO、CeOを担体とした触媒は、共沈法で調製したCuO−ZnO触媒ほどではなかったが高活性を示した。一方、それ以外の担体を用いた触媒では、CuOが高分散しているにも関わらずPC生成量が1mmol以下と低い活性であった。このことから、CuOが高分散すれば高活性を示すというわけではないということがわかり、特定の担体上にCuOが高分散した時に高活性を示すと考えられ、担体としてZnOとCeOが有効であるということを見いだすことができた。ZnOを担体とした触媒は、共沈法で調製したCuO−ZnO触媒と似た構造をしていると考えられ、2つの触媒は同じ理由で高活性を示したと考えられる。また、CeOを担体とした触媒が高活性を示したのは、CeO自体がPC生成反応に活性を示すことが理由の一つとして考えられる。
【0088】
CuO−ZnO触媒と水和反応を用いてのカーボネート合成
前述のように、アセトニトリルの水和反応をグリコールとCOからの環状カーボネート合成反応に応用し、その効果によってこれまでにない高い収率でプロピレンカーボネート(PC)を得る事ができた。そして、その反応系にとってより良い活性を持つ触媒を目指し、Cu系の触媒を中心に数々の触媒を一定の反応条件で試験した結果、共沈法で調製したCu/Zn比の低いCuO−ZnO触媒において、現時点では最も良好な結果を得た。そこで、グリコール、CO、アセトニトリルとCuO−ZnO触媒による反応のキャラクタリゼーションとして、反応条件を様々に変えて、反応試験を行った。
【0089】
反応時間依存性
以下の反応式に示すようなPG(プロピレングリコール)とCOからのPC(プロピレンカーボネート)直接合成反応は平衡反応であり、CeO触媒を用いての反応では平衡時のPC収率は約2%であった。


【0090】
しかし、CuO−ZnO触媒を用いることで反応中に副生するHOがアセトニトリルと反応し、アセトアミドとなることで除去できることがわかった。このことからCuO−ZnO触媒を用いて長時間の反応を行えば、平衡制約を受けることなく、さらに高い収率でPCが得られると期待できる。そこで、以下のような条件で反応時間を変えて活性試験を行い、その結果を図15に示した。
【0091】
・反応条件
反応物:PG:Acetonitrile:CO=100 mmol:
120mmol:200mmol
触媒:CuO−ZnO触媒(Cu/Zn=10/90)100mg
反応温度:423K
反応時間:2~32h

この結果、反応時間を延ばしても、PC生成量が飽和する事なく、より多くのPCを生成することができた。しかし、16時間以上の長時間の反応ではPC生成量の増加が緩やかになっていた。この原因は、以下の3つの仮説が成り立つ。
【0092】
1.触媒劣化によるカーボネート合成反応への影響
2.触媒劣化によるHO除去反応への影響
3.水を生成する副反応による見かけの反応速度低下
【0093】
そこで注目したのが副生成物であるアセトアミドとエステルの生成量変化であるが、アセトアミドと副生成物のエステルであるアセトキシプロパノール生成量の反応時間による変化はそれぞれ異なった傾向を示した。アセトアミドは16時間以降も32時間の反応まで反応時間が延びるにしたがって生成量が増加し続けた。このことから反応系内に存在するHOは水和反応で除去できているということがわかり、触媒劣化によるHO除去反応への影響は否定された。また、PC生成量はあまり増加していないことから、16時間以上に長時間の反応ではPC合成反応による新たなHOの生成はわずかということになる。それにも関わらずアセトアミドの生成量がそれ以上のペースで増加し続けているのは、その他の副反応によってHOが生成しているためであると考えられる。一方、アセトキシプロパノールはPCと同様に、16時間の反応までは反応時間が延びるにつれて生成量も増加しているが、16時間以上に長時間の反応では生成量がPCと同様にあまり増加しなくなった。これは、アセトアミドとPGからアセトキシプロパノールを生成する反応が触媒の存在下でしか反応せず、長時間の反応で触媒劣化が進んでしまってPC合成反応が減速するのと同時にこの反応も遅くなってしまったというのが一つの原因と考えられる。もう一つの原因としてアセトキシプロパノールが副反応の反応物として消費され、アセトアミドから生成する反応の反応速度と副反応の反応速度が等しくなり見かけ上生成量の変化が緩やかになったということが考えられる。このときの副反応で水が生成してしまっているとすれば、PC生成量が変化しなくなった結果も説明できることになる。
【0094】
触媒量依存性
反応時間が16時間を越えるとPC生成速度が遅くなるという結果が得られ、触媒劣化によるカーボネート合成反応への影響、HOを生成する副反応によってカーボネート合成反応の平衡が反応物側に傾いたことが原因として考えられた。このことについて調べるために触媒量を変えて以下の条件で反応を行い、その結果を図16に示した。
【0095】
・反応条件
反応物:PG:Acetonitrile:CO=100mmol:120
mmol: 200 mmol
触媒:CuO−ZnO触媒(Cu/Zn=10/90)10mg,100mg,
200mg
反応温度:423K
反応時間:4~24h
【0096】
図16を見ると、どの触媒量の結果でも、16時間まではPC生成速度は速いが、16時間から24時間までの反応ではPC生成量があまり増加しておらず、16時間以降は見かけのPC生成速度が遅くなっている。また、触媒劣化によってPC生成速度が遅くなったとしたら、触媒量を10倍にすれば約10倍のPC生成量で、触媒量を2倍にすれば約2倍のPC生成量で反応速度が遅くなると考えられるが、触媒量を10mgから100mgに増やしても反応速度が遅くなっている24時間の結果で比べると3倍程度のPCしか生成できておらず、触媒量を100mgから200mgに増やしても反応速度が遅くなっている24時間の結果で2倍のPCは生成できなかった。このことからPC生成速度が遅くなったのは触媒劣化以外の原因が大きく影響していると考えられる。
【0097】
CuO−ZnO触媒を用いた反応の反応温度依存性
反応温度を変えることでPC合成反応、アセトアミド、アセトキシプロパノールを合成する反応がどのような挙動を示すかを調べるために反応温度を403Kから443Kまで変えて以下の条件で反応試験を行い、結果を図17に示した。
【0098】
・反応条件
反応物:PG:Acetonitrile:CO=100mmol:120
mmol:200mmol
触媒:CuO−ZnO触媒(Cu/Zn=10/90)100mg
反応温度:403~443K
反応時間:4h
【0099】
423Kまでは反応温度を上げていくごとにPC生成量も増加しており、PC合成反応の反応速度が速くなっていることがわかる。しかし、423Kから443Kに反応温度を上げても403Kから423Kに反応温度を上げた時ほどPC生成量が増加しなかった。酸塩基両機能性触媒を用いての環状または直鎖状カーボネート合成でも同様の傾向が見られたが、それはカーボネート生成反応が平衡に達しているためであった。CuO−ZnO触媒では同じ条件でも反応時間を延ばすことで最大20mmolのPCを生成できていること、PC合成反応の副生成物であるHOがアセトニトリルの水和反応により除去でき、平衡が生成物側に移動していることから、423K、443Kの反応では平衡に達していないと考えられる。
【0100】
実験によって、CuO−ZnO触媒を用いてのEG(エチレングリコール)とCOからのEC(エチレンカーボネート)合成反応では、EGからエーテルのジエチレングリコールが生成すると同時に水が副生することによってECの生成が妨げられている事がわかっている。


【0101】
このことから高温でのPC合成反応でもエーテルが生成し、そのとき副生するHOによって反応が妨げられるということが考えられるが、CuO−ZnO触媒を用いた反応では443Kの高温反応でもエーテルは検出できなかった。よって平衡による制約、エーテルの副生以外の理由により、高温域では反応温度の変化に比べ反応速度の変化が小さいという結果が得られたといえる。考えられる原因として、触媒劣化による反応の停止、アセトアミド、アセトキシプロパノール、エーテル合成反応以外の反応によるPC合成反応の抑制等が挙げられる。
【0102】
アセトニトリル量依存性
これまでPGとCOからのPC合成反応に溶媒としてアセトニトリルを用いることで平衡時のPC生成量が溶媒を用いなかった時と比べ大幅に増加することがわかっている。またアセトニトリル量を変えることで平衡時のPC生成量に影響を及ぼすことがわかっている。本研究では、アセトニトリルは溶媒であると同時に水を除去するための反応物としても消費されており、アセトニトリルを使用する目的がこれまでの研究とは異なっている。このことからアセトニトリル量を変化させることが反応に及ぼす影響においても、異なる結果が得られると考えられる。そこで、アセトニトリル量を変えて次の条件で反応試験を行い、その結果を図18に示した。
【0103】
・反応条件
反応物:PG:Acetonitrile:CO=100 mmol:
0~180mmol:200mmol
触媒:CuO−ZnO触媒(Cu/Zn=10/90)100mg
反応温度:423K
反応時間:4h
アセトニトリルを用いない反応ではごく微量のPCしか生成できず、本反応で多くのPCを生成するためにはアセトニトリルが必要であるということがわかった。また、アセトニトリル量を増やしていくと、アセトニトリル量90mmolまではPC生成量も増加していくという結果になった。これは、AN量を増やしていくことでCOが液相へ溶解しやすくなり、PGと反応しやすくなったためであると考えられる。このことからアセトニトリル量をさらに増やしていけばPC生成量も増加していくと期待していたが、アセトニトリル添加量を90mmolより増やしてもPC生成量は増加せず、逆に減少してしまった。これはアセトニトリル量を増やすことで、反応物であるPGの濃度が低くなってしまったためではないかと考えられる。
【0104】
CO導入量依存性
CO導入量の変化が本反応に及ぼす影響を調べるために、CO導入量を変えて反応試験を行い、その結果を図19に示した。
【0105】
・反応条件
反応物:PG:Acetonitrile:CO=100mmol:120
mmol: 50~200 mmol
触媒:CuO−ZnO触媒(Cu/Zn=10/90)100mg
反応温度:423K
反応時間:4h
【0106】
200mmolまでCO量を増やすにつれてPC生成量も増加するという傾向が見られ、CO導入量を増やすことによりPC生成反応の反応速度が速くなるという結果になった。これは、溶液に溶けているCOの濃度が高くなったことが原因として考えられる。また、COの臨界温度が304.1K、臨界圧力が7.3MPaであることから、200mmol以上のCOを導入することで超臨界状態になると考えられる。超臨界状態になることによって、COと触媒、またはグリコールとの接触が容易になり、より反応しやすくなると予想することができる。このことからCO超臨界状態における本反応についても検討してみる価値がある。よって、次の図19に超臨界COの効果について検証した。
【0107】
超臨界COでの反応
CO導入量の効果について検討した結果、PC生成量はCO導入量によく相関するという結果が得られた。さらに、CO導入量を増やして超臨界条件にする効果について検証した。反応試験はこれまでと同様に以下に示す反応条件において回分式反応器で行った。
【0108】
・反応条件
反応物:PG:Acetonitrile=100mmol:120mmol
触媒:CuO−ZnO触媒(Cu/Zn=10/90)100mg
反応温度:423K
反応時間:4h
【0109】
しかし、COが超臨界となる条件を得るために、通常の反応とはCOの導入方法を変更している。通常は、気体状態の高圧CO(5MPa弱)を導入しているが、それでは反応中に超臨界条件にする事が難しい。そこで、実験ではシリンジポンプとサイフォン式の液化COボンベを使用して高圧の液体状態(6.7MPa程度)でCOを導入した。よって、COの導入量はこれまで物質量(mmol)で表記しているが、ここでは常温での全圧で示した。ちなみに、6.7MPa導入した場合は、反応中14MPa以上になっており、反応物の蒸気圧を差し引いても超臨界条件を満たしている事が確認されている。図20がその結果であり、比較用に図19と同じく200mmolのCOを導入して超臨界でない条件で反応を行った結果も示した。
【0110】
これを見ると、PC生成量は超臨界COを使用してもほとんど変わっておらず、超臨界条件にした事によるPC生成反応への効果は見られなかった。しかし、副生成物を見ると、エステルの生成量は変わっていないものの、アセトアミドの生成量が減少した。これは、アセトニトリルの水和反応とエステル生成の反応のバランスが変化した事を意味している。副反応は、アセトニトリルの水和反応も、エステル生成の反応もCOが関与していない。よって超臨界COは、期待していた反応物を溶媒として用いる事による触媒やPGとの接触の効果を持ってはいなかった。
【0111】
○グリセリンを原料とした炭酸エステル合成
酸・塩基両機能性触媒を用いて様々なアルコールから炭酸エステルを合成してきた。モノアルコールで最も単純なメタノールから始まり、エタノール、そして水酸基を1分子内に2つ隣接して持っているグリコール類ときている。本研究では、水酸基を1分子内に3つ持っているグリセリンを反応物として炭酸エステルが合成できるか、実験を行った。触媒として使用したのは、モノアルコールやグリコールからの反応において活性を示したCeO。触媒と、近年本研究グルプによって開発が進行しているCuO−ZnO触媒である。CuO−ZnO触媒については前述した。


【0112】
Ce0触媒でのグリセリン+C0反応
これまでモノアルコールやグリコールとC0から選択的に炭酸エステルを合成するのに酸・塩基両機能性触媒が有効であるとしてきた。その中でも最も高い活性とされたのが、Ce0である。この実験では、第一稀元素製のCeO−HSを873Kで焼成したものを触媒として、グリセリンとCOからの炭酸エステル合成を行った結果である。
【0113】
グリセリンとC0を反応物に用い、Ce0触媒で反応を行った場合に反応後のサンプルは粘度が高く、何かグリセリンではないものができている事が確認されているが、それが何であるかは確認できていない。沸点や粘性の関係上GCとHPLCが使用できないので、現状ではIRに頼らざるを得ない。よって、生成物の分析には液相のFT−IRを使用した。液相のFT−IRを用いる事によって、炭酸エステルのC=O伸縮振動に起因するピークが1740〜1790cm−1に現れる事から炭酸エステルの生成が確認できる。そして、その波数は直鎖状か環状かによって以下のように違ってくるので、特に1分子内に複数の水酸基を持つグリコールやグリセリンにとってはFT−IRによる情報は重要になる。その理由は、分子内で2つの水酸基が反応して環状カーボネートになっているか、それとも分子間の反応でポリ化して直鎖状のカーボネートが生成しているのかを確認できるからである。


【0114】
反応後のサンプルを液相FT−IRで分析し、得られたスペクトルを図21に示す。このスペクトルに示したサンプルの実験条件は、次の通りである。
【0115】
・反応条件反応物:G1ycero1:C0=1OOmmo1:200mmo1
触媒:Ce0−HS(873K焼成)200mg
反応温度:443K
反応時問:1h
【0116】
これ以外の実験条件においても、反応温度が403K〜463K、反応時間が1h〜6hと実際には実験を行っているが、いずれの実験でもサンプルのIRスペクトルはほとんど同じであった。図21に示しているのは、4000cm−1から1000cm−1と広い領域を網羅している。しかし、このキャラクタリゼーションにおいて重要な情報は、炭酸エステルのC=O伸縮振動からもわかるように、2000cm−1から1OOOcmの間に集中している。よって、その波数域を拡大したのが図22である。図22には、比較としてグリセリン単体のスペクトルとグリセリンにC0を実験と同様にG1ycero11:CO=100mmo1:200mmo1の比率で反応器内にて導入してから減圧し、採取した液相サンプルのスペクトルをそれぞれ図22B,30Cに示した。また、無触媒で反応試験したサンプルのスペクトルも図22Dに示した。
【0117】
図22において、まず注目すべきは反応後のスペクトル図22Aで1779cm−1と1653cm−1に観測されるピークである。これは図22Bに示したグリセリンのスペクトルには見られない。この領域は、C=O伸縮振動の領域に相当し、1779cm−1のピークは、環状カーボネートの吸収波数である1790cm−1に近いが、これだけでカーボネートが生成したと言うには、証拠として弱い。では、1653cm−1に出ているピークは何なのか。この答えは図22Cのグリセリン+C0のスペクトルにあった。このサンプルは、一度C0を加圧しただけのグリセリンであるが、1653 cm−1に図22Aと同様のピークを観察する事ができた。つまり、グリセリンに溶存したC0の吸収である事が想像できる。しかし文献では、C02−の赤外活性な振動モードは1415 cm−1(縮重変角振動)、880cm−1 (縮重伸縮振動)そして680cm−1(面外変角振動)しかない。よって、単純にCO2−の形で存在しているわけではないようである。
【0118】
続いて、無触媒で反応試験を行った結果の図22Dを見ると、このスペクトルにおいても、反応後に1779cm−1と1650 cm−1にピークが出現した。1650cm−1のピークは、図22同様に溶存C0に帰属できる。しかし、Ce0触媒ありで観測された1779cm−1のピークは無触媒でも反応後に現れた。過去にグリコールで同様の液相FT−IR測定を行った時は無触媒の条件ではカーボネートのピークは触媒を使用した時のみで、無触媒条件のサンプルにおいて観測された事はない。こうした経験から、このピークがカーボネート由来であるのかどうかは、可能性として捨てきれないものの、カーボネートであるかどうかは断言できないという結論となった。そこで、収率を上げればまた違ったスペクトルが得られるのではないかという予想から、触媒を変更して本反応に取り組んだ。
【0119】
CuO−ZmO触媒でのグリセリン+アセトニトリル+C0反応
前述したように、Ce0触媒を用いて様々な条件で反応を行い、サンプルをIRで分析してきた。しかしどれもマクロな物性は明らかに変化しているにも関わらず、得られるスペクトルはグリセリンとほとんど変わりがなかった。しかし今回、CuO−Zn0触媒が、隣接した2つの水酸基を持つジオールであるPG(プロピレングリコール)からPC(プロピレンカーボネート)を合成する反応において、これまでの実験において平衡による限界とされていた収率をはるかに上回る結果を得た。このCuO−ZnO触媒を使用してグリセリンで反応試験し、サンプルを分析してみた所Ce0触媒を使用した時とは違うIRスペクトルを得る事ができた。
【0120】
Cu0−Zn0触媒が本反応にどのように応用されたのかをここで紹介する。詳しい内容は前述した。元々は、反応系からの水除去を狙った実験への応用であった。反応系からの水除去は、アルコールとCOからのカーボネート直接合成の反応において問題となっている平衡によるカーボネート収率が低いレベルに制約される事を解決するためのアイディアである。つまり、カーボネートと一緒に副生するHOを除去することで、反応の平衡をより生成物側にずらすことを行った。反応系にアセトニトリルと水和触媒をやり生成物側にずらしてやるのが目的であった。反応系にアセトニトリルと水和触媒が加わることで、以下の反応式のようにアセトニトリルの水和反応が起きると予想された。このため、当初はカーボネートの合成のためにCeO触媒を使用し、アセトニトリルの水和反応のために水和用のCu−Zn系触媒を使用するという2種の触媒が共存する条件での両反応の併存を目指していた。


【0121】
研究を進める中で、Cu0−Zn0触媒のみであっても以下に示すようなジオールとCOからの環状カーボネート合成に対しても活性を持つ事がわかってきた。例えば、PGを反応物に用いた場合、環状カーボネートのPCを生成している。その反面、メタノールからの反応においては、活性を示さなかった。


【0122】
そして、PGを反応物としてより高活性な触媒を求めると、CuO−Zn0触媒は、Cu触媒やZn0よりも高い活性を示したので、Cu0−Zn0系触媒の調製法とCu/Zn比の最適化を行った。この結果、CuとZnの比率はZnリッチな方が高い活性を示した。こうして調製されたCuO−Zn0触媒は、PGの反応において高いカーボネート収率を実現し、本反応の課題である平衡による収率の制約を乗り越えた。しかし、以下に示すような、反応物であるPGとHOを除去した結果生成したアセトアミドが反応してエステルを生成する副反応が起きている事も確認された。
【0123】
このように、選択性に難点はあるものの、高いカーボネート収率を実現する本触媒を、反応物がPGからOHが一つ増えただけのグリセリンになっても同様に活性を示すのではないかという予想の下、グリセリンの反応に応用した。


【0124】
グリセリンを反応物に、Cu0−Zn0触媒を応用した反応の反応後サンプルを液相FT−IRで分析し、得られたスペクトルを図23に示す。このスペクトルに示したサンプルの実験条件は、次の通りである。また、反応後のサンプルは2層に分離しているが、スペクトルは、下層のものである。上層はアセトニトリル、下層はグリセリンリッチになっており、より沸点が高く、分析中に気化しにくい下層を選んだ。
【0125】
・反応条件
反応物:G1ycero1:Acetonitrile:CO=1OOmmo1
:12mmo1:200mmo1
触媒:Cu−Zn0(Cu:Zn=1:9)100mg
反応温度:423K
反応時間4h
【0126】
反応後サンプルの液相FT−IRスペクトルである図23と反応物であるグリセリンのスペクトルである図23を比較すると、この結果で最も特徴的なのは、反応後にグリセリンのピークと明らかに違うピークが1700cm−1前後に3本出現していることである。この領域は、C=O伸縮振動の領域であるが、PGを反応物とした反応試験の経験から、分子構造にC=Oを含む物質としてアセトアミド、エステル、カーボネートが生成していると予想される。よって、比較用にアセトアミドとエステルの液相FT−Rスペクトルも示した。アセトアミドは常温で固体であるため、アセトニトリルに溶解して測定した。また、エステルも、予想されるエステルは市販されていないので、モデル化合物として酢酸メチル(CHC00CH)をグリセリンとmo1比でG1ycero1:CHCOOCH=95:5にて混合して測定した。
【0127】
まずは、3本のピークの帰属を行う。この3本のうち最も低波数側に出ている1664cm−1のピークは、図23に示したアセトアミドのC=O伸縮振動と同じ波数に出ている。よって、1664cm−1のピークは、アセトアミド由来であると考えられる。では、それよりも高波数側(1783,1718cm−1)のピークは何なのであろうか。先にも説明したが、炭酸エステル(−O−CO−O)のC=0伸縮振動は、環状であれば1790cm−1、環状でないものは1740〜1750cm−1(不飽和のアルキル基が付くと高波数シフトする)となる。そして、エステルのC=O伸縮振動は、1710〜1760cm−1となる。
【0128】
もしカーボネートが出来ているとすると、どのような形になっているのだろうか。考えられる可能性は大きく2通りある。グリセリン分子内で反応し、環状カーボネートとなる場合と、分子間で反応し直鎖状となる場合である。ジオールでの反応が分子内で、しかも水酸基が隣接している場合にしか反応が起こらなかった事、1783cm−1にピークが見られた事等を勘案すると、グリセリンの隣接水酸基で反応が起き、下のような生成物ができていると考えられる。


【0129】
そして、エステルについては、以下のスキームに示すように反応物のグリセリンと、水を除去した結果生成するアセトアミドが反応してエステルが副成すると考えられる。これは、ジオールでの反応で同様にエステル生成の副反応が起きているので、十分に起こり得る反応である。図23に示した酢酸メチルのスペクトルを比較すると、エステルのC=O伸縮振動に由来するピークが1725cm−1に観察された。実際に生成が予想されるエステルは、アルキル基側にOHが2つ付くので、これよりも若干低波数側にシフトすると予想される。ここから、1718cm−1のピークはエステルに由来するものと考えられる。
【0130】
そして、定量的な評価についても試みた。通常液相のFT−IRのスペクトルから定量的な評価をするのは難しい。それは、液相の厚みが薄い所で一定にする事が実験的に難しい事が主原因である。そこで、いくつかあるグリセリンのピークのうち安定したピークの面積を用いて、目的物質のピーク面積をノーマライズする事により、大まかに定量を行った。
【0131】
まず、エステルは、定量的にはピーク面積から計算すると10〜20mmo1程度あると予想できる。そして、生成が予想される環状カーボネートのモデル化合物としてPC(プロピレンカーボネート)を使用し、グリセリンとmo1比で(PC:グリセリン=10=90)の比率で混合した混合液の液相FT−IRスペクトルが図24である。ここで、PC+グリセリンのスペクトルにおけるピーク面積から、グリセリンからの反応によって生成したカーボネートの定量も行うと、10mmo1程度のオーダーで環状カーボネートが生成していると予想される。
【0132】
以下に実施例をまとめて示す。
【0133】
主な反応条件は
・反応温度 443K
・反応時閣4h
・反応物:溶媒:CO=100mmol:120mmol:200mmol
・触媒量:100mg
である。
【0134】


【0135】
図25(図8と実質的に同一)にCuO−ZnO触媒の表面積とPC生成量の相関を示した。Cu/Zn=5/95、10/90、20/80の触媒が高い表面積で高い活性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】活性金属担持触媒の概念を示す図。
【図2】反応試験装置の概念を示す図。
【図3】Electromagnetic spectrum図。
【図4】アセトニトリル水和反応触媒を共存させてのPC合成結果図。
【図5】様々な銅触媒を用いてのPC合成結果図。
【図6】CuO−ZnO媒を用いたPC合成結果図。
【図7】CuO−ZnO触媒のBET比表面積を示す図。
【図8】CuO−ZnO触媒のBET比表面積とPC生成活性図。
【図9】CuO−ZnO触媒のXRDパターン図。
【図10】共沈法で調整したCuO−ZnO触媒のCuO、ZnO平均粒子径を示す図。
【図11】銅担持触媒を用いてのPC合成結果図。
【図12】銅担持触媒CuO/ZnO触媒のXRDパターン図。
【図13】銅担持触媒のCuO平均粒子径図。
【図14】低温焼成の銅担持触媒を用いてのPC合成結果図。
【図15】反応時間依存性を示す図。
【図16】触媒量依存性を示す図。
【図17】反応温度依存性を示す図。
【図18】アセトニトリル量依存性を示す図。
【図19】CO量依存性を示す図。
【図20】超臨界CO効果を示す図。
【図21】CeO−HS触媒を用いてGlycerol+ CO反応における液相FT−IRスペクトルを示す図。
【図22】CeO−HS触媒を用いてGlycerol+ CO反応における液相FT−IRスペクトルを示す図。
【図23】CuO−ZnO触媒スペクトルを示す図。
【図24】Glycerol+PC溶液の液相FT−IRスペクトルを示す図。
【図25】CuO−ZnO触媒のBET比表面積とPC生成量の相関を示す図。
【符号の説明】
【0137】
1…活性金属担持触媒、2…担持、3…活性金属。
【出願人】 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
【出願日】 平成18年6月23日(2006.6.23)
【代理人】 【識別番号】100074631
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 幸彦


【公開番号】 特開2008−1659(P2008−1659A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−174383(P2006−174383)