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【発明の名称】 ヨウ素化芳香族化合物の製造方法
【発明者】 【氏名】郭 海卿

【氏名】木村 早織

【氏名】細野 和美

【氏名】園部 兼士

【要約】 【課題】高い位置選択性を有し工業的生産に適したヨウ素化芳香族化合物の製造方法を実現する。

【解決手段】本発明のヨウ素化芳香族化合物の製造方法は、有機溶媒中、1以上の置換基および2以上の水素原子が核に結合している芳香族化合物と、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインと、を酸の存在下で反応させることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒中、1つ以上の置換基および2つ以上の水素原子が核に結合している芳香族化合物と、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインと、を酸の存在下で反応させる工程を含むことを特徴とするヨウ素化芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
前記置換基は、炭素数1〜12のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数1〜6のアシルオキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボキシル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アミノ基、アシルアミノ基、カルバモイル基、カルボニル基、ニトリル基、ニトロ基およびハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインの使用量は、前記芳香族化合物に対して0.6当量以上、1.5当量未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインの使用量は、前記芳香族化合物に対して1.5当量以上、3.3当量以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記酸は、有機酸および金属酸化物酸の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記酸は、トリフルオロメタンスルホン酸またはリンタングステン酸であることを特徴とする請求項1ないし5の何れか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、核にヨウ素が結合したヨウ素化芳香族化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族化合物の核にヨウ素原子が結合したヨウ素化芳香族化合物は、各種有機合成の中間体として幅広い需要がある。ヨウ素化芳香族化合物の製造方法の一例として、1以上の置換基を有する芳香族化合物と、ヨウ素化剤とを反応させる方法が挙げられる。ヨウ素化剤としては、ヨウ素分子、ヨウ化ナトリウムまたはヨウ化カリウムなどのヨウ素の無機化合物、スクシンイミドまたはヒダントインの窒素原子にヨウ素原子が結合したN‐ヨード‐スクシンイミド、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインなどが用いられている。
【0003】
非特許文献1、2には、ヨウ素化剤を用いたヨウ素化芳香族化合物の製造方法が報告されている。具体的には、非特許文献1には、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインをヨウ素化剤として、各種芳香族化合物をヨウ素化したことが開示されている。また、非特許文献2には、収率の向上を図るために、N‐ヨード‐スクシンイミドと、芳香族化合物とを、酸の存在下で反応させることが開示されている。
【0004】
このようなヨウ素化反応では、芳香族化合物に結合している置換基の種類に応じて、ヨウ素原子の結合位置が決定され、メタ配向をとる場合と、オルト‐パラ配向をとる場合とがある。ここで、メタ配向とは、置換基に対してメタ位にヨウ素原子が結合する特性をいい、オルト‐パラ配向とは、置換基に対して、オルト位またはパラ位のいずれかにヨウ素原子が結合する特性をいう。オルト‐パラ配向を示す場合には、オルト位にヨウ素が結合した生成物と、パラ位にヨウ素が結合した生成物とが混在して得られることとなる。
【0005】
上記のようにオルト‐パラ配向を示すヨウ素化反応では、収率の向上を図る以外に、ヨウ素原子の結合位置の選択性(以下、「位置選択性」ともいう。)を向上させることが望まれている。特許文献1には、位置選択性の向上を図った製造方法が開示されている。具体的には、パラジウム触媒の存在下で、芳香族化合物と、ヨウ素化剤とを反応させ、高い位置選択性が実現されたヨウ素化芳香族化合物を製造できたことが報告されている。
【特許文献1】特開2002−338516号公報(平成14年11月27日公開)
【非特許文献1】Orfeo O.Orazi,Renle A.Corral,Hector E.Bertorello,「Iodations with 1,3‐Diiodo‐5,5‐dimethylhydantoin」Journal of Organic Chemistry.,30,p1101−1104(1965)
【非特許文献2】Anne‐Sophie Castanet,Francoise Colobert,Pierre Emmanuel Broutin,「Mild and regioselective iodination of electron−rich aromatics with N−iodosuccinimide and catalytic trifuoroacetic acid」Tertrahedron Letters.,43,p5047−5048,(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の製造方法において用いられるパラジウム触媒は、高価な貴金属を用いた化合物であり、触媒自体が非常に高価である。そのため、触媒の使用による製造コストの上昇が避けられず、経済性が低いという問題があった。さらには、反応を終えた後にパラジウム触媒を除去するために抽出やカラムクロマトグラフィーなどの分離操作を行う必要がある。この製造方法を工業的生産に応用した場合には、工程数を増加させ製造コストの上昇を招くという問題もある。そのため、高い位置選択性を有し、かつ、低コストでの工業的生産を実現し得るヨウ素化芳香族化合物の製造方法の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い位置選択性を有し工業的生産に適したヨウ素化芳香族化合物の製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく、ヨウ素化芳香族化合物の製造方法について鋭意検討した。その結果、芳香族化合物と、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインとを、酸の存在下で反応させることにより、位置選択性が高く、工業的生産に適したヨウ素化芳香族化合物を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明にかかるヨウ素化芳香族化合物の製造方法は、有機溶媒中、1以上の置換基および2以上の水素原子が核に結合している芳香族化合物と、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインと、を酸の存在下で反応させることを特徴とする。
【0010】
なお、本発明において、芳香族化合物とは、芳香族性を示す化合物のことをいい、核が同素環または複素環からなる化合物である。また、芳香族化合物の同素環または複素環には、1つ以上の置換基が結合され、かつ、2つ以上の水素原子を有する。後述の反応の項で説明するが、本発明のヨウ素化反応では、置換基の種類に応じて、2つ以上の水素原子のうちいずれかの水素原子がヨウ素原子と置換することでヨウ素化芳香族化合物が得られる。また、本発明において、酸とは、他の物質にプロトンを与える物質のことをいう。
【0011】
本発明にかかる製造方法では、前記置換基は、炭素数1〜12のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数1〜6のアシルオキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボキシル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アミノ基、アシルアミノ基、カルバモイル基、カルボニル基、ニトリル基、ニトロ基およびハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
本発明にかかるモノヨード体の製造方法では、前記1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインの使用量は、前記芳香族化合物に対して0.6当量以上、1.5当量未満であることが好ましい。
【0013】
本発明にかかるジヨード体の製造方法では、前記1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインの使用量は、前記芳香族化合物に対して1.5当量以上、3.3当量以下であることが好ましい。従来にかかる製造方法では、ヨウ素化剤を大過剰に用いる必要があったが、本発明によれば、大過剰に用いることなく、転化率よく反応させることができる。
【0014】
本発明にかかる製造方法では、前記酸は、有機酸および金属酸化物酸の少なくとも1種であることが好ましい。なお、本発明にかかる製造方法において、有機酸とは有機化合物からなる酸、また、金属酸化物酸とは、炭素原子を含まない無機酸(なお、炭酸は無機酸に含まれる)のうち、金属元素を含有する酸のことをいう。金属元素は、タングステン、ケイ素、モリブデン、アルミニウム、鉄、パラジウムなどの遷移金属元素であることが好ましい。
【0015】
本発明にかかる製造方法では、前記酸は、トリフルオロメタンスルホン酸またはリンタングステン酸(タングストリン酸)であることが好ましい。
【0016】
本発明にかかる製造方法では、製造方法では、前記反応させる工程により得られた反応液に、生成物の溶解度が低い析出溶媒を加えた後、前記有機溶媒を除去する工程を含むことが、さらに好ましい。なお、本発明において、生成物とは、目的とするヨウ化芳香族化合物のことをいい、析出溶媒とは、生成物に対して難溶性を有する溶媒のことをいう。
【0017】
本発明にかかる製造方法では、製造方法では、前記析出溶媒は、水であることが好ましい。
【0018】
本発明にかかる製造方法では、製造方法では、前記反応液と前記析出溶媒とが、均一に混合されていることが好ましい。なお、本発明において、均一とは、反応液と析出溶媒とが完全に溶解しあっている状態のことをいう。
【0019】
本発明にかかる製造方法では、製造方法では、前記析出溶媒は、前記有機溶媒と比して沸点が高いことが好ましい。
【0020】
本発明に係る製造方法は、以上のように、特定の芳香族化合物と、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインとを、酸の存在下で反応させることで、位置選択性が高いヨウ素化芳香族化合物を製造することができる。本発明で用いられる酸は、特許文献1に記載のパラジウム触媒と比して、安価な化合物である。そのため、経済性が高く工業的生産に適したヨウ素化芳香族化合物の製造方法を提供することができる。
【0021】
さらに、本発明にかかる製造方法によれば、反応液から生成物を取り出す際に抽出操作を行う必要がない。抽出操作は、製造工程数を増加させ、多量の溶媒を使用するため製造方法の経済性を低下させる。特に、スクシンイミド類またはヒダントイン類のヨウ素化剤を用いた場合には、この抽出操作は必要な工程として行なわれるのが通常であるが、本発明者等は、反応液に析出溶媒を添加後に、有機溶媒を蒸留するのみで生成物を取り出せることを見出した。本発明の製造方法によれば、位置選択性が向上し、反応液中には単一の生成物を生じさせることができる。このように、単一の生成物が含まれる反応液に対して、上記取り出し方法を適用することで、一工程で純度の高い生成物を得ることができる。そのため、簡便であり工業的生産に適したヨウ素化芳香族化合物の製造方法を提供することができる。
【0022】
以上のように、本発明に係るヨウ素化芳香族化合物の製造方法は、有機溶媒中、1つ以上の置換基および2つ以上の水素原子が核に結合している芳香族化合物と、ヨウ素化剤とを酸の存在下で反応させる工程と、該反応させる工程により得られた反応液に、生成物の溶解度が低い析出溶媒を加えた後、前記有機溶媒を留去する工程とを、含むことを特徴とする。
【0023】
本発明に係る製造方法では、ヨウ素化剤が1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインおよびN‐ヨードスクシンイミドの少なくとも1種であることが好ましい。
【0024】
本発明に係る製造方法では、前記析出溶媒は、水であることが好ましい。
【0025】
本発明に係る製造方法では、前記反応液と前記析出溶媒とが均一に混合させることを含むことが好ましい。
【0026】
本発明に係る製造方法によれば、特定の芳香族化合物と、ヨウ素化剤とを、酸の存在下で反応させることで、位置選択性が高いヨウ素化芳香族化合物を製造することができる。本発明で用いられる酸は、特許文献1に記載のパラジウム触媒と比して、安価な化合物である。そのため、経済性が高く工業的生産に適したヨウ素化芳香族化合物の製造方法を提供することができる。さらに、この反応液に対して、析出溶媒の添加後に、有機溶媒を留去する工程を含むことで、生成物を容易に単離することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るヨウ素化芳香族化合物の製造方法は、以上のように、酸の存在下で、1つ以上の置換基を有する芳香族化合物と、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインとを、反応させることで、位置選択性が高く、工業的生産に適したヨウ素化芳香族化合物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明にかかるヨウ素化芳香族化合物の製造方法は、1つ以上の置換基および2つ以上の水素原子が核に結合した芳香族化合物と、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインとを、酸の存在下で反応させることを特徴とする。
【0029】
1.芳香族化合物
芳香族化合物としては、1つ以上の置換基および2つ以上の水素原子が核に結合された芳香族化合物を用いる。なお、本発明において、芳香族化合物とは、芳香族性を示す化合物のことをいい、同素環又は複素環を有する化合物のいずれであってもよい。また、置換基の結合位置は、特に限定されるものではなく、核の任意の位置に結合していることができる。同素環を有する芳香族化合物としては、ベンゼン環、ナフタレン環などの炭素数6〜12の同素環を有する化合物が挙げられる。
【0030】
複素環を有する芳香族化合物としては、酸素、窒素および硫黄原子から選択された少なくとも1つ(通常、1〜3つ程度)のヘテロ原子を有する5員又は6員ヘテロ環を有する化合物が挙げられる。この場合、ヘテロ環は縮合環を構成してもよい。具体的には、ヘテロ原子として酸素原子を含むフラン類、ヘテロ原子として硫黄原子を含むチオフェン類、チアゾール類、イソチアゾール類、ヘテロ原子として窒素原子を含むピロール類、ピラゾール類、イミダゾール類、トリアゾール類、ピリジン類を例示することができる。
【0031】
本発明では、この芳香族化合物の核(環)に結合している2つ以上の水素原子の何れか一方が、ヨウ素原子と置換することで、目的とするヨウ素化芳香族化合物を製造することができる。
【0032】
また、本発明で好適に用いられる芳香族化合物の一例として、下記一般式(1)で示す化合物を例示することができる。
【0033】
【化1】


【0034】
(式(1)中、nは2以上、5以下の整数であり、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、ニトロ基、ハロゲン原子、‐OR´‐COOR´、‐SR´、‐NR´から選択される1種であり、R´は、水素原子または炭素数1から6のアルキル基である。)
本発明で使用される芳香族化合物に結合する置換基は、炭素数1〜12のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数1〜6のアシルオキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボキシル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アミノ基、アシルアミノ基、カルバモイル基、カルボニル基、ニトリル基、ニトロ基およびハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種であることができる。
【0035】
アルキル基は、炭素数が1〜12のアルキル基である。中でも、炭素数が1〜8のアルキル基であることが好ましく、炭素数が1〜6であることがより好ましい。このような置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s‐ブチル基、t‐ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基を挙げることができる。また、アルキル基は、直鎖状または環状のいずれであってもよく、側鎖を有していてもよい。
【0036】
アルキル基が結合した芳香族化合物としては、トルエン、o‐,m‐,p‐キシレン、メシチレン、1,2,3‐トリメチルベンゼン、1‐メチルナフタレン、2‐メチルナフタレン、1,2‐ジメチルナフタレン、エチルベンゼン、α‐ハロエチルベンゼン、ジエチルベンゼン、プロピルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、s‐ブチルベンゼン、クメン、シメンなどを例示することができる。また、メチル基が置換した複素環化合物としては、たとえば、1〜6個(好ましくは1〜3個、特に1または2個)程度のメチル基が置換した化合物、たとえば、メチル基置換インドール、メチル基置換イソインドール、メチル基置換キノリン、メチル基置換イソキノリンなどを例示することができる。
【0037】
側鎖に芳香環を有する芳香族炭化水素類(ジフェニルメタン、1,2‐ジフェニルエタン、2,2‐ジフェニルプロパンなど)、縮合多環式炭化水素類(フルオレン、インダン、イソクロマン、クロマンなどを例示することができる。
【0038】
アルコキシ基は、炭素数が1〜8のアルコキシ基である。中でも、炭素数が1〜6のアルコキシ基であることが好ましく、炭素数が1〜4のアルコキシ基であることがより好ましい。このようなアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基などを挙げることができる。
【0039】
アルコキシ基が結合した芳香族化合物としては、メトキシ基を含有する化合物としてアニソール、o‐,m‐,p‐メチルアニソール、エチルアニソール、フェネトール、メトキシフェノールなどを例示することができる。また、これらのメトキシ基含有化合物に対応する炭素数2〜4のアルコキシ基含有化合物などを例示することができる。
【0040】
カルボキシル基が結合した芳香族化合物としては、安息香酸、o‐,m‐,p‐メチル安息香酸、エチル安息香酸、オキシ安息香酸、アミノ安息香酸、ジメチルアミノ安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、フランカルボン酸、チオフェンカルボン酸、ピリジンカルボン酸などを例示することができる。
【0041】
アルコキシカルボニルアルキル基が結合した芳香族化合物としては、アルコキシカルボニルアルキル基を有する化合物としては、たとえば、エチルフェニルアセテート(メトキシカルボニルエチルベンゼン)エトキシカルボニルエチルベンゼンなどの炭素数1〜6アルコキシ‐カルボニル‐C1‐4アルキル基含有化合物などが例示できる。
【0042】
ハロゲン基を有する芳香族化合物としては、ブロモベンゼン、クロロベンゼン、ハロトルエン(p‐ブロモトルエン、p‐クロロトルエン)、ハロキシレンなどを例示することができる。
【0043】
ニトロ基が結合した芳香族化合物としては、ニトロベンゼン、p‐メチルニトロベンゼン、p‐エチニルニトロベンゼン、ピクリン酸などを例示することができる。
【0044】
水酸基が結合した芳香族化合物としては、フェノール、o‐,m‐,p‐クレゾール、キシレノール、1‐ヒドロキシ‐4‐イソプロピルフェノール、チモール、ヒドロキノン、レゾルシノール、ピロガロール、ナフトール、ジ(4‐ヒドロキシフェニル)メタン、1,2‐ジ(4‐ヒドロキシフェニル)エタン、2,2‐ジ(4‐ヒドロキシフェニル)プロパン、キノリノール、インドール‐5‐オールなどを例示することができる。
【0045】
さらに、上記置換基の他に、以下の置換基が結合していてもよい。
【0046】
ビニル基、1‐プロペニル基、2‐プロペニル基、アリル基、ブテニル基などのアルケニル基;ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基などの炭素数1〜6のアルキル‐カルボニル基、ベンゾイル基などのアリール‐カルボニル基などのアシル基;ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基などの炭素数1〜6のアシルオキシ基;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基などのモノ又はジアルキルアミノ基などのアミノ基;ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基などの炭素数1〜6のアシルアミノ基;カルバモイル基;置換カルバモイル基;カルボニル基;ニトリル基などを例示することができる。
【0047】
2.ヨウ素化剤
本発明に係る製造方法では、ヨウ素化剤として、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインを用いる。1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインは、窒素原子に結合しているヨウ素原子が容易に解離し得るため、ヨウ素化剤として好適に用いることができる。
【0048】
本発明において、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインの使用量は、目的とするヨウ素化芳香族化合物に応じて適宜変更することが好ましい。モノヨード体(1つのヨウ素が結合したヨウ素化芳香族化合物)を生成したい場合には、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインの使用量は、前記芳香族化合物に対して0.6当量以上、1.5当量未満であることが好ましく、0.8当量以上、1.2当量以下であることがより好ましい。また、ジヨード体(2つのヨウ素原子が結合したヨウ素化芳香族化合物)を生成したい場合には、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインの使用量は、前記芳香族化合物に対して1.5当量以上、3.3当量以下であること好ましく、2.0当量以上、2.3当量以下であることがより好ましい。上記範囲内であれば、ヨウ素化が効率良く進行し、かつ位置選択性を向上させることができる。
【0049】
3.酸
酸は、芳香族化合物と、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインとを反応させる触媒としての役割を果たす。酸としては、無機酸、有機酸、金属酸化物酸、ポリ酸などを例示することができる。無機酸としては、硫酸、リン酸、硝酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、塩素酸、過塩素酸を好適に用いることができる。有機酸としては、カルボン酸、スルホン酸、アクリル酸を例示することができる。中でも、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、m‐キシレン‐4‐スルホン酸、酢酸、メタンスルホン酸が好ましい。金属酸化物酸としては、リンタングステン酸(HPW1240)、ケイ素タングステン酸(HSiW1240)を好適に用いることができる。ポリ酸としては、ポリへテロ酸、好ましくは、下記一般式(2)で示されるポリアクリル酸およびPerfluorinated resin‐Sulfonic‐acid(ナフィオン登録商標)を例示することができる。特に、トリフルオロメタンスルホン酸、リンタングステン酸が好ましい。このような酸を用いることで、ヨウ素化転化率および位置選択性を向上させることができる。
【0050】
【化2】


【0051】
4.反応
本発明にかかるヨウ素化芳香族化合物の製造方法は、以下の反応式(1)に従う。
【0052】
【化3】


【0053】
(上記式(1)中、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数1〜6のアシルオキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボキシル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アミノ基、アシルアミノ基、カルバモイル基、カルボニル基、ニトリル基、ニトロ基およびハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種である)
本発明では、芳香族化合物と、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインと、酸とが溶解した溶液を攪拌することでヨウ素化反応を完結することができる。この反応では、必要に応じて、冷却、加熱または還流しつつ反応を進めることができる。
【0054】
有機溶媒としては、芳香族化合物と、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインと、酸とが可溶な溶媒であれば特に制限されない。具体的には、ニトリル系、ケトン系、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、トルエン等を例示することができる。より好ましくは、下記一般式(4)、(5)で示される溶媒である。
R−CN・・・(4)
R−CO−R´・・・(5)
(式中(4)、(5)中、RおよびR´は、炭素数1〜3のアルキル基である。)
また、後述の生成物の取り出し法を適用する場合には、その沸点が析出溶媒(この析出溶媒については後述の説明を参照されたい)と比して沸点が低く、析出溶媒と溶解し得る溶媒であることが好ましい。この利点についても後述する。
【0055】
5.生成物の取り出し方法
次に、前記反応液から生成物を取り出す方法について説明する。まず、反応液に析出溶媒を添加する。この析出溶媒は、目的とするヨウ素化芳香族化合物以外を溶解し得る液体であり、前記有機溶媒と比して沸点が高い溶媒である。この析出溶媒を反応液に添加することで、その後上記反応に用いた有機溶媒を反応系外に除去する際に、生成したヨウ素化芳香族化合物が析出溶媒に対して分離し易くすることができる。
【0056】
析出溶媒としては、水を用いることが好ましいが、水溶性アルコール(メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなど)やアセトンと、水との混合した析出溶媒であっても、好適に用いることができる。なお、以下、反応液と析出溶媒とが混合した溶液を「混合液」と称する。また、析出溶媒を反応液に添加したときには、生成物の全てが析出していなくてもよい。
【0057】
この混合液は、混合液の全体が均一になるように混ざり合っていることが好ましいが、2層に分離していてもよい。ここで、「全体が均一」とは、析出溶媒が反応液に完全に溶解していることを意味する。このように析出溶媒の添加により、ヨウ素化芳香族化合物以外の水溶性物質を確実に析出溶媒に溶解させることができ、生成物の純度を向上させることができる。特に混合液の全体が均一に混ざり合っている場合には、不純物の除去をより確実に行うことができる。また、析出溶媒には、還元剤が添加されていることが好ましい。1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインから抜けたヨウ素原子は、ヨウ素分子として反応液に存在しているが、還元剤を添加することで、このヨウ素分子を還元し、水に溶解させることができる。還元剤としては、亜硫酸、亜硫酸アルカリ金属塩、亜硫酸アルカリ土類金属塩、亜硫酸アンモニウム塩、チオ硫酸、チオ硫酸アルカリ金属塩、チオ硫酸アルカリ土類金属塩、チオ硫酸アンモニウム塩などを例示することができる。中でも、亜硫酸アルカリ金属塩、チオ硫酸アルカリ金属塩が好ましい。
【0058】
ついで、混合液から有機溶媒を留去(除去)する。有機溶媒の留去は、通常の蒸留操作によって行うことができる。有機溶媒の混合割合が低下するに従い、ヨウ素化芳香族化合物が析出する。このとき、系内に存在する水溶性物質は、反応液に溶解したままとなるため、純度の高いヨウ素化芳香族化合物を析出させることができる。ついで、有機溶媒の留去の完了を確認した後、析出したヨウ素化芳香族化合物を濾別する。その後、得られた濾物を析出溶媒で洗い、乾燥させることで生成物を得る(反応液から取り出す)ことができる。その後、必要に応じて、再結晶を行って、より純度の高い生成物を得ることができる。
【0059】
本発明にかかる製造方法によれば、1つ以上の置換基を有する芳香族化合物と、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインとを、酸の存在下で反応させることで、位置選択性が高いヨウ素化芳香族化合物の製造方法を実現することができる。酸は、パラジウム触媒と比して、安価であり、本製造方法を工業的生産に適用した場合には、経済性の高いヨウ素化芳香族化合物の製造を実現することができる。
【0060】
また、本発明にかかる製造方法によれば、位置選択性が向上するため、異性体を分離するためのカラムクロマトグラフィーなどによる分離操作が不要である。
【0061】
さらに、本発明にかかる製造方法によれば、反応液から生成物を取り出す際に抽出操作を行う必要がない。抽出操作は、製造工程数を増加させ、多量の溶媒を使用するため製造方法の経済性を低下させる。特に、スクシンイミド類またはヒダントイン類のヨウ素化剤を用いた場合には、この抽出操作は必要な工程として行なわれるのが通常であるが、本発明者等は、反応液に析出溶媒を添加後に、有機溶媒を蒸留するのみで生成物を取り出せることを見出した。特に、本発明の製造方法によれば、位置選択性が向上し、反応液中には単一の生成物が生じている。この反応液に対して、上記取り出し方法を適用することで、一工程で純度の高い生成物を得ることができる。そのため、簡便であり工業的生産に適したヨウ素化芳香族化合物の製造方法を提供することができる。
【0062】
また、上述の実施形態では、ヨウ素化剤として、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインを用いた場合について説明したがこれに限定されない。
【0063】
たとえば、本発明の他の実施形態に係るヨウ素化芳香族化合物の製造方法は、有機溶媒中、1つ以上の置換基および2つ以上の水素原子が核に結合している芳香族化合物と、ヨウ素化剤とを酸の存在下で反応させる工程と、該反応させる工程により得られた反応液に、生成物の溶解度が低い析出溶媒を加えた後、前記有機溶媒を留去する工程とを、含む。
【0064】
この実施形態においても、芳香族化合物、有機溶媒および酸としては、上述の説明と同様の化合物を使用することができる。また、ヨウ素化剤としては、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインの他に、N‐ヨードスクシンイミドを選択することができる。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例を参照しつつ本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
[実施例1]
冷却および攪拌機能、還流装置を備えた25mLガラス製フラスコおよびそのフラスコを加熱する装置を準備した。フラスコにアニソール1.08g(0.01mol)、次にアセトニトリル5.13mlを入れた。そこに、トリフルオロメタンスルホン酸(以下、「TFMSA」と称する)0.15g(10mmol:10mol%)を加えた。その溶液に、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントイン2.09g(1.1当量)を、3回に分けて加え、その後、70〜80℃まで加熱し、3時間還流した。
【0067】
得られた反応液の一部をH−NMRの測定溶媒であるジメチルスルホキシド‐d6に溶解し、H−NMRで測定した結果、アニソールからの転化率が99%であり、目的物である4‐ヨードアニソールが95%の選択率で得られたことが確認された。これに対して、2‐ヨードアニソールは、5%であった。
【0068】
ヨウ素化反応終了後の反応液に、2%の亜硫酸ナトリウム水溶液20mLを加え30分間攪拌した。減圧留去が可能な蒸留菅および冷却菅を装着し、反応溶液中のアセトニトリルを減圧下で留去した。溶液中に沈殿した結晶をヌッチェ吸引ろ過器にてろ別し、その結晶をイオン交換水100mLで3回洗浄を繰り返した。こうして得られた結晶を真空デシケータに入れ、室温下で一晩減圧乾燥した。得られたヨウ素化合物の分析は、H‐NMRもしくはHPLCを用いて実施した。収量は、2.28g(収率97.4%)、純度99%であった。なお、HPLCの条件は、以下のとおりである。InersiI ODS(5μm、4.6×250nm)、溶媒:50%アセトニトリル水溶液、流速:1mL/min、UV検出波長:254nm。
【0069】
[実施例2−24]
出発物質である芳香族化合物、酸、反応時間、反応温度を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてそれぞれヨウ素化芳香族化合物を得た。各反応の転化率および位置選択率を表1に示す。
【0070】
[比較例1−5]
出発物質である芳香族化合物、反応時間、反応温度を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてそれぞれヨウ素化芳香族化合物を得た。各反応の転化率および位置選択率を表1に示す。
【0071】
【表1】


【0072】
表1に示すように、比較例1から5と比して、実施例1から実施例24では、いずれも、転化率および位置選択率とも高く、良好にヨウ素化芳香族化合物を製造できることが確認された。
【0073】
[実施例25]
実施例25では、まず、実施例1と同様の装置を準備した。フラスコにアニソール1.08g(0.01mol)、次にアセトニトリル7.69mlを入れた。そこに、TFMSA0.15g(10mmol:10mol%)を加えた。その溶液に、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントイン4.18g(2.2当量)を加え、その後、70〜80℃まで加熱し、3時間攪拌した。
【0074】
得られた反応液の一部をH−NMRの測定溶媒であるジメチルスルホキシド‐dに溶解し、H−NMRで測定した結果、転化率が99%であり、目的物である2,4‐ジヨードアニソールが97%の割合で得られることが確認された。
【0075】
[実施例26]
実施例26では、実施例25と同様の装置を準備した。4‐ヨードアニソール2.35g(0.01mol)、次に、アセトニトリル5.13mlを入れた。そこに、TFMSA0.15g(10mmol:10mol%)を加えた。その溶液に、1,3‐ジヨード−5,5‐ジメチルヒダントイン2.09g(1.1当量)を3回に分けて加え、その後、70〜80℃まで加熱し還流させ、2時間攪拌した。反応の分析は実施例25で示したとおりに行なった。その結果、4‐ヨードアニソールからの転化率が99%であり、目的物である2,4‐ジヨードアニソールが98%の選択率で得られることが確認された。
【0076】
[実施例27、28]
出発物質である芳香族化合物、触媒、反応時間、反応温度を下記の表2に示すように変更した以外は、実施例25と同様にしてそれぞれ芳香族ジヨード化合物を得た。各反応の転化率および位置選択率を表2に示す。
【0077】
【表2】


【0078】
表2に示すように、実施例26から28によるヨウ素化芳香族化合物の製造方法によれば、いずれも転化率および位置選択率が高く目的物を生成できることが確認された。つまり、リンタングステン酸の存在下で、芳香族化合物と、特定のヨウ素化剤を反応させることにより、2つのヨウ素原子が核に結合した芳香族ジヨード化合物を製造反応できることが確認された。
【0079】
[実施例29]
冷却および攪拌機能、還流装置を備えた300mLガラス製フラスコおよびそのフラスコを加熱する装置を準備した。フラスコにアニソール10.8g(0.1mol)、次にアセトニトリル51.3mlを入れた。そこに、トリフルオロメタンスルホン酸(以下、「TFMSA」と称する)1.50g(10mmol:10mol%)を加えた。その溶液に、1,3‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントイン20.9g(1.1当量)を、3回に分けて加え、その後、70〜80℃まで加熱し、3時間還流した。
【0080】
得られた反応液の一部をH−NMRの測定溶媒であるジメチルスルホキシド‐d6に溶解し、H−NMRで測定した結果、アニソールからの転化率が99%であり、目的物である4‐ヨードアニソールが95%の選択率で得られることが確認された。これに対して、2‐ヨードアニソールは、5%であった。
【0081】
ヨウ素化反応終了後の反応液に、2%の亜硫酸ナトリウム水溶液120mLを加え30分間攪拌した。減圧留去が可能な蒸留菅および冷却菅を装着し、反応溶液中のアセトニトリルを減圧下で留去した。溶液中に沈殿した結晶をヌッチェ吸引ろ過器にてろ別し、その結晶をイオン交換水500mLで3回洗浄を繰り返した。こうして得られた結晶を真空デシケータに入れ、室温下で一晩減圧乾燥を行った。得られたヨウ素化合物の分析は、H‐NMRもしくはHPLCを用いて実施した。収量は、22.8g(収率97.4%)、純度99%であった。なお、HPLCの条件は、以下のとおりである。InersiI ODS(5μm、4.6×250nm)、溶媒:50%アセトニトリル水溶液、流速:1mL/min、UV検出波長:254nm。
【0082】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
有機合成の中間体として有用なヨウ素化芳香族化合物の工業的生産を低コストで実現することができる。
【出願人】 【識別番号】000227652
【氏名又は名称】日宝化学株式会社
【出願日】 平成20年4月7日(2008.4.7)
【代理人】 【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所


【公開番号】 特開2008−285473(P2008−285473A)
【公開日】 平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願番号】 特願2008−99209(P2008−99209)