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【発明の名称】 脱ヒドロキシフッ素化剤
【発明者】 【氏名】石井 章央

【氏名】大塚 隆史

【氏名】安本 学

【氏名】鶴田 英之

【氏名】伊野宮 憲人

【氏名】植田 浩司

【氏名】茂木 香織

【要約】 【課題】新規で有用な脱ヒドロキシフッ素化剤を提供する。

【構成】スルフリルフルオリド(SO22)と、分子内に遊離のヒドロキシル基を有することのない有機塩基と、を含む、新規で有用な脱ヒドロキシフッ素化剤を見出した。本脱ヒドロキシフッ素化剤は、大量規模での使用が好ましくないパーフルオロアルカンスルホニルフルオリドを用いる必要がなく、医農薬および光学材料の重要中間体である、光学活性フルオロ誘導体、具体的には4−フルオロプロリン誘導体、2'−デオキシ−2'−フルオロウリジン誘導体および光学活性α−フルオロカルボン酸エステル誘導体、およびモノフルオロメチル誘導体等を大量規模でも有利に製造できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱ヒドロキシフッ素化剤であって、
スルフリルフルオリド(SO22)と、
分子内に遊離のヒドロキシル基を有することのない有機塩基と、
を含む、脱ヒドロキシフッ素化剤。
【請求項2】
スルフリルフルオリドのモル数と、有機塩基のモル数の比が、5:1〜1:5の範囲である、請求項1に記載の、脱ヒドロキシフッ素化剤。
【請求項3】
系外から加えられたフッ化水素源(フッ化水素もしくは、フッ化水素が有機塩基との間に形成した、塩または錯体をいう。)を更に含む、請求項1または請求項2に記載の、脱ヒドロキシフッ素化剤。
【請求項4】
スルフリルフルオリドのモル数と、系外から加えられたフッ化水素源のモル数(HF換算)の比が、3:1〜1:10の範囲である、請求項3に記載の、脱ヒドロキシフッ素化剤。
【請求項5】
有機塩基が、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、ピリジン、2,3−ルチジン、2,4−ルチジン、2,5−ルチジン、2,6−ルチジン、3,4−ルチジン、3,5−ルチジン、2,3,4−コリジン、2,4,5−コリジン、2,5,6−コリジン、2,4,6−コリジン、3,4,5−コリジン、および3,5,6−コリジンからなる群より選ばれる、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の、脱ヒドロキシフッ素化剤。
【請求項6】
非プロトン性有機溶媒を更に含む、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の、脱ヒドロキシフッ素化剤。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な脱ヒドロキシフッ素化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシル基を有する化合物のヒドロキシル基をフッ素原子に置換する「脱ヒドロキシフッ素化反応」は含フッ素有機化合物の合成における重要な反応である。代表例には、次のものがある。
【0003】
1)ヒドロキシル基を有する基質を、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン)等の特殊な強塩基性の有機塩基の存在下に、パーフルオロブタンスルホニルフルオリド等のパーフルオロアルカンスルホニルフルオリドと反応させる方法(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
2)ヒドロキシル基を有する基質を、トリエチルアミン等の有機塩基と、トリエチルアミン・三フッ化水素錯体等の「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の存在下に、パーフルオロブタンスルホニルフルオリドと反応させる方法(非特許文献1)。
【0005】
3)特定のヒドロキシ誘導体を有機塩基の存在下、または有機塩基と「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体(トリエチルアミン・三フッ化水素錯体等)」の存在下に、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドと反応させることによりフルオロ誘導体を製造する方法(特許文献3〜6)。
【0006】
4)ヒドロキシル基をフルオロ硫酸エステルに変換し、フッ素アニオンで置換する方法(非特許文献2)。
【特許文献1】米国特許第5760255号明細書
【特許文献2】米国特許第6248889号明細書
【特許文献3】国際公開2004/089968号パンフレット(特開2004−323518号公報)
【特許文献4】特開2005−083163号公報
【特許文献5】特開2005−336151号公報
【特許文献6】特開2005−008534号公報
【非特許文献1】Organic Letters(米国),2004年,第6巻,第9号,p.1465−1468
【非特許文献2】Tetrahedron Letters(英国),1996年,第37巻,第1号,p.17−20
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および特許文献2の方法では、大量規模での使用が好ましくない長鎖のパーフルオロアルカンスルホニルフルオリドや、高価で特殊な有機塩基を用いる必要があった。パーフルオロアルカンスルホニルフルオリドを用いる脱ヒドロキシフッ素化反応では、極めて安定なパーフルオロアルカンスルホン酸を有機塩基の塩として量論的に副生し、大量規模で本反応を実施する上で該酸の廃棄物処理が大きな問題であった。特に炭素数が4以上の長鎖のパーフルオロアルカンスルホン酸誘導体は環境への長期残留性や毒性が指摘されており、大量規模での使用が制限されている(例えばパーフルオロオクタンスルホン酸誘導体については、ファルマシア Vol.40 No.2 2004を参照)。非特許文献1の方法においても、長鎖のパーフルオロブタンスルホニルフルオリドを用いるという同様の問題があった。
【0008】
一方、特許文献3〜6の方法は、炭素数が1のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを用いるため、環境への長期残留性や毒性の問題を回避できる優れた方法であるが、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの工業的な生産量は、パーフルオロブタンスルホニルフルオリドやパーフルオロオクタンスルホニルフルオリドに比べて限られており、大量の入手が必ずしも容易ではなかった。
【0009】
非特許文献2の方法では、ヒドロキシ誘導体をフルオロ硫酸エステルに変換するためにイミダゾール硫酸エステルを経る必要があり、直接的なフッ素化反応ではなかった(スキーム1を参照)。
【0010】
【化1】


【0011】
また非特許文献1では、トリフルオロメタンスルホン酸無水物−トリエチルアミン・三フッ化水素錯体−トリエチルアミンからなる脱ヒドロキシフッ素化剤では、反応系内でガス状(沸点−21℃)のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドが生成し、基質のヒドロキシル基が効率的にトリフルオロメタンスルホニル化できず、沸点の高い(64℃)パーフルオロブタンスルホニルフルオリドとの組み合わせ(パーフルオロブタンスルホニルフルオリド−トリエチルアミン・三フッ化水素錯体−トリエチルアミン)が好適であると開示されている。この記載内容は、脱ヒドロキシフッ素化剤のパーフルオロアルカンスルホニルフルオリドとして、沸点の低いトリフルオロメタンスルホニルフルオリドは好適でないことを明示しており、本発明で使用するスルフリルフルオリドはさらに沸点が低く(−49.7℃)、脱ヒドロキシフッ素化剤として好適に利用できるか否かは全く不明であった。
【0012】
この様に、フルオロ誘導体を製造するための、大量規模での実施容易な、新規の脱ヒドロキシフッ素化手段が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の観点から、大量規模での実施容易な、新規の脱ヒドロキシフッ素化手段を見出すべく、鋭意検討した。その結果、スルフリルフルオリド(SO22)と、分子内に遊離のヒドロキシル基を有することのない有機塩基と、を含む、新規の脱ヒドロキシフッ素化剤を見出し、本発明に到達した。
【0014】
スルフリルフルオリド(SO22)は燻蒸剤として広く利用されている化合物である。しかし該化合物を脱ヒドロキシフッ素化剤として利用した例は未だ報告されていない。
【0015】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤を用いて脱ヒドロキシフッ素化を行えば、反応中間体であるフルオロ硫酸エステルを単離することなく、一つの反応器内でフルオロスルホニル化とフッ素置換を連続的に行うことができる。本発明の特徴は、スキーム2に示す様に、スルフリルフルオリドを用いることによりヒドロキシ誘導体をフルオロ硫酸エステルに変換でき、このフルオロスルホニル化の工程で反応系内に量論的に副生した「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」がフッ素置換のフッ素源として有効に利用できることである。
【0016】
またスキーム3に示す様に、「系外から加えられたフッ化水素源(フッ化水素もしくは、フッ化水素が有機塩基との間に形成した、塩または錯体をいう。)をさらに含む、上記の脱ヒドロキシフッ素化剤」を用いた場合は、スキーム2に示した方法に比べて、フルオロ誘導体がより高い収率および選択性で得られることも見出した。
【0017】
【化2】


【0018】
【化3】


【0019】
本発明において、スルフリルフルオリドにはヒドロキシル基との反応点が二つあるが、ヒドロキシ誘導体として、特に光学活性ヒドロキシ誘導体である、4−ヒドロキシプロリン誘導体、1−β−D−アラビノフラノシルウラシル誘導体、光学活性α−ヒドロキシカルボン酸エステル誘導体、および第一級アルコール誘導体を用いた場合には、二置換の硫酸エステルを殆ど与えず(スキーム4を参照)、目的とするフルオロ硫酸エステルを経てフッ素置換が良好に進行することを見出した。パーフルオロアルカンスルホニルフルオリドではこの様な問題は起こり得ず、スルフリルフルオリドが脱ヒドロキシフッ素化剤として好適に利用できることを明らかにした。
【0020】
【化4】


【0021】
さらに、本発明者らは、ヒドロキシ誘導体として、ヒドロキシル基が共有結合した炭素原子のキラリティーに起因する光学活性体を用いた場合、スルフリルフルオリドとの反応で得られたフルオロ誘導体の立体化学が反転していることを見出した。本脱ヒドロキシフッ素化反応では、フルオロスルホニル化は立体保持で進行し、引き続くフッ素置換は立体反転で進行しているものと考えられる。この様な立体化学の反転を伴う脱ヒドロキシフッ素化反応は、特許文献2のパーフルオロアルカンスルホニルフルオリドを用いる方法においても既に開示されているが、フルオロ硫酸基の脱離能はパーフルオロアルカンスルホン酸基に比べて格段に劣っているため[Synthesis(ドイツ国),1982年,第2号,p.85−126]、立体化学の制御が困難な鎖状基質、特に、光学活性α−ヒドロキシカルボン酸エステル誘導体のスルフリルフルオリドを用いる脱ヒドロキシフッ素化反応においては、反応が高い不斉転写率で進行するか否かは不明であった。これに対して、本発明者らは、本発明のスルフリルフルオリドを用いる脱ヒドロキシフッ素化反応が、非常に温和な反応条件下で良好に進行し、原料基質として用いる、光学活性α−ヒドロキシカルボン酸エステル誘導体の光学純度が反映され、光学純度が極めて高い、光学活性α−フルオロカルボン酸エステル誘導体が得られることを見出した。
【0022】
また、4−ヒドロキシプロリン誘導体および、1−β−D−アラビノフラノシルウラシル誘導体からフルオロスルホニル化により変換される、それぞれの原料基質に対応するフルオロ硫酸エステルが、フッ素置換において充分な脱離能を有するか否かも不明であった。これに対しても、本発明者らは、本発明のスルフリルフルオリドを用いる脱ヒドロキシフッ素化反応が、4−フルオロプロリン誘導体および、2'−デオキシ−2'−フルオロウリジン誘導体の製造方法として好適に利用できることも見出した。
【0023】
すなわち本発明は[発明1]〜[発明6]を骨子とし、新規で有用な脱ヒドロキシフッ素化剤を提供する。
[発明1]
脱ヒドロキシフッ素化剤であって、
スルフリルフルオリド(SO22)と、
分子内に遊離のヒドロキシル基を有することのない有機塩基と、
を含む、脱ヒドロキシフッ素化剤。
[発明2]
スルフリルフルオリドのモル数と、有機塩基のモル数の比が、5:1〜1:5の範囲である、発明1に記載の、脱ヒドロキシフッ素化剤。
[発明3]
系外から加えられたフッ化水素源(フッ化水素もしくは、フッ化水素が有機塩基との間に形成した、塩または錯体をいう。)を更に含む、発明1または発明2に記載の、脱ヒドロキシフッ素化剤。
[発明4]
スルフリルフルオリドのモル数と、系外から加えられたフッ化水素源のモル数(HF換算)の比が、3:1〜1:10の範囲である、発明3に記載の、脱ヒドロキシフッ素化剤。
[発明5]
有機塩基が、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、ピリジン、2,3−ルチジン、2,4−ルチジン、2,5−ルチジン、2,6−ルチジン、3,4−ルチジン、3,5−ルチジン、2,3,4−コリジン、2,4,5−コリジン、2,5,6−コリジン、2,4,6−コリジン、3,4,5−コリジン、および3,5,6−コリジンからなる群より選ばれる、発明1乃至発明4の何れかに記載の、脱ヒドロキシフッ素化剤。
[発明6]
非プロトン性有機溶媒を更に含む、発明1乃至発明5の何れかに記載の、脱ヒドロキシフッ素化剤。
【発明の効果】
【0024】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤が、従来の技術に比べて有利な点を以下に述べる。
【0025】
まず、特許文献1、特許文献2、および非特許文献1の方法に対しては、廃棄物処理、環境への長期残留性や毒性が問題となるパーフルオロアルカンスルホニルフルオリドを用いる必要がなく、本発明では、燻蒸剤として広く利用されているスルフリルフルオリドを用いることができる。
【0026】
また本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤を用いて、脱ヒドロキシフッ素化反応を行った場合、フルオロ硫酸を有機塩基の塩として量論的に副生するが、該酸は最終廃棄物として蛍石(CaF2)に簡便に処理することができ、大量規模でのフッ素化反応に極めて好適である。
【0027】
さらにパーフルオロアルカンスルホニルフルオリドのパーフルオロアルキル部位は、最終的には目的生成物に組み込まれるわけではなく、充分なスルホニル化能と脱離能を有するものであれば、フッ素含量が少ない方が原子経済的に有利であり、この様な観点から見てもスルフリルフルオリドは格段に優れている。
【0028】
また、本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤においては、DBU等の高価で特殊な有機塩基を用いる必要がなく、トリエチルアミン等の安価で大量規模での製造に汎用されている有機塩基を用いることができる。
【0029】
また非特許文献2の方法に対しては、イミダゾール硫酸エステルを経る必要がなく、本発明では、スルフリルフルオリドを用いることにより、ヒドロキシ誘導体をフルオロ硫酸エステルに直接、変換することができる。
【0030】
またスルフリルフルオリドを用いることにより、新たな発明の効果が見出された。パーフルオロアルカンスルホニルフルオリドを用いる脱ヒドロキシフッ素化反応では、反応終了液にパーフルオロアルカンスルホン酸と有機塩基の塩が量論的に含まれているが、該塩、特に炭素数が4以上のパーフルオロアルカンスルホン酸に由来する塩は、有機溶媒に対する溶解性が極めて高いため、有機層を水またはアルカリ水溶液で洗浄する等の、有機合成で一般的に採用されている後処理操作を実施しても、該塩を効果的に取り除くことができず、精製操作に負荷がかかるという問題点があることを知った。さらにパーフルオロアルカンスルホン酸と有機塩基からなる塩が酸触媒として働く場合があり、酸に不安定な官能基を有する化合物を製造するためには、該塩を効率的に取り除く必要があった。実際に、二級アミノ基の保護基がtert−ブトキシカルボニル(Boc)基である、4−フルオロプロリン誘導体の粗生成物の蒸留精製において、パーフルオロブタンスルホン酸と有機塩基からなる塩が多量に含まれていると、脱Boc化反応が相当に認められ、目的生成物を収率良く回収することが出来なかった。一方、本発明で副生するフルオロ硫酸と有機塩基の塩は極めて水溶性が高く、有機層を水またはアルカリ水溶液で洗浄することにより完全に取り除くことができ、精製操作に殆ど負荷がかからないため、大量規模でのフッ素化反応に極めて好適であることを見出した。
【0031】
本発明で開示した特徴を有する脱ヒドロキシフッ素化剤は、関連する技術分野において全く開示されておらず、選択性が非常に高く、分離の難しい不純物を殆ど副生しないため、大量規模での脱ヒドロキシフッ素化剤として極めて有用である。特に医農薬および光学材料の重要中間体である、光学活性フルオロ誘導体、具体的には4−フルオロプロリン誘導体、2'−デオキシ−2'−フルオロウリジン誘導体および光学活性α−フルオロカルボン酸エステル誘導体、およびモノフルオロメチル誘導体の大量規模での製造方法に極めて好適に利用でき、従来の製造方法に比べて格段に効率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤について、さらに詳細に説明する。
【0033】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤は、有機塩基の存在する容器内に、スルフリルフルオリドを導入し、調製することができる。より反応性を向上させるために、フッ化水素源(フッ化水素もしくは、フッ化水素が有機塩基との間に形成した、塩または錯体をいう。)を系外からさらに加えることもできる。また、反応をより円滑に進行させるために、非プロトン性有機溶媒をさらに加えることもできる。
【0034】
ここで容器は、スルフリルフルオリドが常温、常圧では気体であるため、耐圧製の密閉容器が望ましい。
【0035】
試薬の添加順序および調製方法は特に限定されない。(i)分子内に遊離のヒドロキシル基を有することのない有機塩基(および、必要に応じて「系外から加えるフッ化水素源」、非プロトン性有機溶媒)を予め容器に投入して密閉し、そこに、ガス状のスルフリルフルオリドを導入すれば、本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤を調製することができる。また、(ii)容器内に、上記のうちスルフリルフルオリドを除く各成分と、反応原料(ヒドロキシ誘導体)を予め投入しておき、そこに、スルフリルフルオリドを、逐次または連続的に導入することもできる。(ii)の場合は、脱ヒドロキシフッ素化剤が調製されると同時に、脱ヒドロキシフッ素化反応が開始することになる。スルフリルフルオリドは低沸点の化合物であり、常圧では気体であることから、(ii)のように、反応系中(in situ)で、本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤を調製する方が、簡便で、取り扱いやすい。一方、大量規模での製造においては、スルフリルフルオリドを加圧条件下に液化状態で導入する方が実用的な場合もある。
【0036】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤に使用される有機塩基は、分子内に遊離のヒドロキシル基を有することのない有機塩基である。該塩基分子の一部に遊離のヒドロキシル基が存在する場合には、それらのヒドロキシル基を各種保護基によって保護すれば好適に使用することができる。ただし、敢えてそのような塩基を保護化して用いるよりは、一般に有機塩基として安価に入手可能なものをそのまま用いる方が、経済的に好ましい。中でも、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、ピリジン、2,3−ルチジン、2,4−ルチジン、2,5−ルチジン、2,6−ルチジン、3,4−ルチジン、3,5−ルチジン、2,3,4−コリジン、2,4,5−コリジン、2,5,6−コリジン、2,4,6−コリジン、3,4,5−コリジン、および3,5,6−コリジン等からなる群より選ばれる塩基が好ましく、特にトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、3,5−ルチジンおよび2,4,6−コリジンがより好ましい。
【0037】
本発明者らは、本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤に対して、「フッ化水素源」を更に系外から加えると、脱ヒドロキシフッ素化の反応性が著しく向上することを見出した。ここで「フッ化水素源」とはフッ化水素もしくは、フッ化水素が有機塩基との間に形成した、塩または錯体をいう。
【0038】
スキーム2に表されるように、本発明の脱ヒドロキシフッ素化反応では、まず「フルオロ硫酸エステル」生成反応において、等モル量のフッ化水素(このフッ化水素は、有機塩基との間に塩または錯体を形成していることもある)が系内において発生する。このフッ化水素が、次のフッ素置換におけるフッ素源となり、反応中間体の「フルオロ硫酸エステル」に求核攻撃し、フッ素置換が進行する。このフッ素置換は、系外から「フッ化水素源」が加えられ、フッ化水素が過剰の状態になっているとき、著しく促進され、とりわけ、反応性が低いヒドロキシ誘導体を脱ヒドロキシフッ素化する場合に、高い効果を生じることが見出された。
【0039】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤において、スルフリルフルオリドのモル数と、有機塩基のモル数の比に特別な制限はない。しかし、スキーム2に表されるとおり、脱ヒドロキシフッ素化反応に消費されるスルフリルフルオリドのモル数と、有機塩基のモル数の比は、理論上は1:1である。したがって、原則として、両者の比は1:1程度であればよい。しかし、両者の一方を過剰に用いることで、より高い反応性が得られる場合もある。具体的に、スルフリルフルオリドのモル数と、有機塩基のモル数の比は概ね5:1〜1:5の範囲が好ましい。
【0040】
さらに、本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤において、系外から「フッ化水素源」として、「フッ化水素もしくは、フッ化水素が有機塩基との間に形成した、塩または錯体(例えば、トリエチルアミン・三フッ化水素錯体)」を添加する場合、スルフリルフルオリドのモル数と、前記のフッ化水素源のモル数(HF換算)の比は概ね3:1〜1:10の範囲が好ましく、1:1〜1:10の範囲にあることがより好ましい。フッ化水素源のモル数(HF換算)がスルフリルフルオリドのモル数の1/3よりも少ないと、敢えて添加する効果が低く、10倍より多いと、経済的にも、生産的にも不利となる。
【0041】
これら、系外から加えられる「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」に用いられる有機塩基としては、本発明の必須要素である「分子内に遊離のヒドロキシル基を有することのない有機塩基」として挙げた種類のものを、何れも好適に用いることができる。この、塩または錯体中の「有機塩基」は、本発明の必須要素である「有機塩基」と、異なる種類のものであってもよいが、同一種類であることが簡便であり、やはりトリエチルアミンは特に好ましいものの1つである。
【0042】
「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」を用いる場合、この塩または錯体における、有機塩基とフッ化水素のモル比としては、100:1〜1:100の範囲であり、通常は50:1〜1:50の範囲が好ましく、特に25:1〜1:25の範囲がより好ましい。さらにアルドリッチ(Aldrich、2003−2004総合カタログ)から市販されている、「トリエチルアミン1モルとフッ化水素3モルからなる錯体」、および「ピリジン〜30%(〜10モル%)とフッ化水素〜70%(〜90モル%)からなる錯体」を使用するのが極めて便利である。
【0043】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤は、スルフリルフルオリドと有機塩基を相互に親和させるために、前述の有機塩基とは別に、非プロトン性有機溶媒を更に加えることが望ましい。そのような非プロトン性有機溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。その中でもn−ヘプタン、トルエン、メシチレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、プロピオニトリルおよびジメチルスルホキシドが好ましく、特にトルエン、メシチレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、およびアセトニトリルがより好ましい。これらの溶媒は単独に、または組み合わせて使用することができる。
【0044】
非プロトン性有機溶媒の使用量としては、特に制限はないが、スルフリルフルオリド1モルに対して0.1L(リットル)以上を使用すればよく、通常は0.1〜20Lが好ましく、特に0.1〜10Lがより好ましい。
【0045】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤を用いることにより、反応中間体であるフルオロ硫酸エステルを単離することなく、一つの反応器内でフルオロスルホニル化とフッ素置換を連続的に行うことができる。
【0046】
また、フルオロスルホニル化ではヒドロキシル基の立体化学は保持され、引き続くフッ素置換では立体化学が反転する。従って、4−ヒドロキシプロリン誘導体の4R/2R体からは、4−フルオロプロリン誘導体の4S/2R体が得られ、同様に4S/2R体からは4R/2R体が、4R/2S体からは4S/2S体が、4S/2S体からは4R/2S体が得られる。また、光学活性α−ヒドロキシカルボン酸エステル誘導体のα位R体からは、光学活性α−フルオロカルボン酸エステル誘導体のα位S体が得られ、同様にα位S体からはα位R体が、選択率良く得られる。
[ヒドロキシ誘導体について]
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤によれば、広範なヒドロキシ誘導体(分子内に少なくとも1つの遊離のヒドロキシル基を有する化合物をいう。)のOH基をF原子に置換することができる。以下、本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤を適用できるヒドロキシ誘導体について、説明する。
【0047】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤を適用できるヒドロキシ誘導体としては、一般式[1]
【0048】
【化5】


【0049】
[式中、R、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基またはアルコキシカルボニル基を表す。]で表されるヒドロキシ誘導体が挙げられる。本化合物を脱ヒドロキシフッ素化することにより、一般式[2]
【0050】
【化6】


【0051】
[式中、R、R1およびR2の意味は一般式[1]と同じ。]で表されるフルオロ誘導体を得ることができる。
【0052】
一般式[1]で表されるヒドロキシ誘導体のR、R1およびR2が水素原子以外のアルキル基、置換アルキル基、芳香環基またはアルコキシカルボニル基においては、炭素原子や軸等のキラリティーに起因する光学活性部位を有することもでき、これらの場合には、本発明のフッ素化反応を通して、該光学活性部位の立体化学は保持される。
【0053】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤を適用できるヒドロキシ誘導体としては、一般式[1a]
【0054】
【化7】


【0055】
[式中、R、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基またはアルコキシカルボニル基を表す。アルキル基は「炭素数1から16の直鎖または分枝のアルキル基」と定義され、置換アルキル基は「アルキル基の任意の炭素原子上にハロゲン原子、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、低級アルキルチオ基、シアノ基、アミノカルボニル基(CONH2)、不飽和基、芳香環基、核酸塩基、芳香環オキシ基、脂肪族複素環基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基の保護体、チオール基の保護体またはカルボキシル基の保護体が任意の数でさらに任意の組み合わせで置換したアルキル基」と定義される。また任意の二つのアルキル基または置換アルキル基の任意の炭素原子同士が共有結合を形成して脂肪族環を採ることもでき、該脂肪族環の炭素原子の一部が窒素原子または酸素原子に置換した脂肪族複素環を採ることもできる。芳香環基は「芳香族炭化水素基または、酸素原子、窒素原子もしくは硫黄原子を含む芳香族複素環基」と定義される。アルコキシカルボニル基は「炭素数1から12の直鎖または分枝のアルコキシ基からなるアルコキシカルボニル基」と定義され、アルコキシ基と任意のアルキル基または置換アルキル基の任意の炭素原子同士が共有結合を形成して、ラクトン環を採ることもできる。]で表されるヒドロキシ誘導体が挙げられる。本化合物を脱ヒドロキシフッ素化することにより、一般式[2a]
【0056】
【化8】


【0057】
[式中、R、R1およびR2の意味は一般式[1a]と同じ。]で表されるフルオロ誘導体を得ることができる。
【0058】
一般式[1a]で表されるヒドロキシ誘導体のR、R1およびR2の置換アルキル基としては、「アルキル基の任意の炭素原子上に、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の低級アルコキシ基、フルオロメトキシ基、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基等の低級ハロアルコキシ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基等の低級アルキルアミノ基、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基等の低級アルキルチオ基、シアノ基、アミノカルボニル基(CONH2)、アルケニル基、アルキニル基等の不飽和基、フェニル基、ナフチル基等の芳香環基、アデニン残基、グアニン残基、ヒポキサンチン残基、キサンチン残基、ウラシル残基、チミン残基、シトシン残基等の核酸塩基、フェノキシ基、ナフトキシ基等の芳香環オキシ基、ピペリジル基、ピペリジノ基、モルホリニル基等の脂肪族複素環基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基の保護体、チオール基の保護体、カルボキシル基の保護体等が、任意の数で、さらに任意の組み合わせで、置換したアルキル基」と定義される。
【0059】
なお、本明細書において、次の各用語は、それぞれ次に掲げる意味で用いられる。"低級"とは、炭素数1から6の直鎖または分枝を意味する。"不飽和基"が二重結合の場合は、E体またはZ体の両方の幾何異性を採ることができる。"芳香環基"は、芳香族炭化水素基以外の、フリル基、ピロリル基、チエニル基等の酸素原子、窒素原子、硫黄原子等を含む芳香族複素環基(縮合骨格も含む)を採ることもできる。"核酸塩基"は、核酸関連物質の合成分野で一般的に使用する保護基で保護することができる(例えば、ヒドロキシル基の保護基としては、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基、メトキシメチル基、アリル基等のアルキル基、ベンジル基、トリフェニルメチル基等のアラルキル基等が挙げられる。またアミノ基の保護基としては、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基、ベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。さらにこれらの保護基には、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基等が置換することもできる)。また"核酸塩基"の水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基を、水素原子、アミノ基、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルケニル基、ニトロ基等で置換することもできる。"ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基およびカルボキシル基の保護基"としては、Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.に記載された保護基等を使用することができる。また"不飽和基"、"芳香環基"、"芳香環オキシ基"および"脂肪族複素環基"には、低級アルキル基、ハロゲン原子、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、低級アルキルチオ基、シアノ基、アミノカルボニル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基の保護体、チオール基の保護体、カルボキシル基の保護体等が置換することもできる。
【0060】
一般式[1a]で表されるヒドロキシ誘導体のR、R1およびR2のアルキル基および置換アルキル基としては、任意の二つのアルキル基または置換アルキル基の、任意の炭素原子同士が共有結合を形成して、シクロペンタン環、シクロヘキサン環等の脂肪族環を採ることもでき、該脂肪族環の炭素原子の一部が窒素原子または酸素原子に置換した、ピロリジン環(二級アミノ基の保護体も含む)、ピペリジン環(二級アミノ基の保護体も含む)、オキソラン環、オキサン環等の脂肪族複素環を採ることもできる。
【0061】
一般式[1a]で表されるヒドロキシ誘導体のR、R1およびR2の芳香環基としては、「フェニル基、ナフチル基、アントリル基等の芳香族炭化水素基または、フリル基、ピロリル基、チエニル基、ベンゾフリル基、インドリル基、ベンゾチエニル基等の酸素原子、窒素原子もしくは硫黄原子等を含む芳香族複素環基」と定義される。またこれらの芳香族炭化水素基および芳香族複素環基には、低級アルキル基、ハロゲン原子、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、低級アルキルチオ基、シアノ基、アミノカルボニル基、不飽和基、芳香環基、芳香環オキシ基、脂肪族複素環基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基の保護体、チオール基の保護体、カルボキシル基の保護体等が置換することもできる。
【0062】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤を適用できるヒドロキシ誘導体としては、一般式[3]
【0063】
【化9】


【0064】
[式中、RおよびR1はそれぞれ独立にアルキル基、置換アルキル基またはアルコキシカルボニル基を表し、*は不斉炭素を表す(RとR1は同一の置換基を採らない)。アルキル基は「炭素数1から16の直鎖または分枝のアルキル基」と定義され、置換アルキル基は「アルキル基の任意の炭素原子上にハロゲン原子、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、低級アルキルチオ基、シアノ基、アミノカルボニル基(CONH2)、不飽和基、芳香環基、核酸塩基、芳香環オキシ基、脂肪族複素環基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基の保護体、チオール基の保護体またはカルボキシル基の保護体等が任意の数でさらに任意の組み合わせで置換したアルキル基」と定義される。また二つのアルキル基または置換アルキル基の任意の炭素原子同士が共有結合を形成して脂肪族環を採ることもでき、該脂肪族環の炭素原子の一部が窒素原子または酸素原子に置換した脂肪族複素環を採ることもできる。アルコキシカルボニル基は「炭素数1から12の直鎖または分枝のアルコキシ基からなるアルコキシカルボニル基」と定義され、アルコキシ基と任意のアルキル基または置換アルキル基の任意の炭素原子同士が共有結合を形成して、ラクトン環を採ることもできる。反応を通してヒドロキシル基が共有結合した炭素原子の立体化学は反転する。]で表される光学活性ヒドロキシ誘導体が挙げられる。本化合物を脱ヒドロキシフッ素化することにより、一般式[4]
【0065】
【化10】


【0066】
[式中、R、R1および*の意味は一般式[3]と同じ。]で表される光学活性フルオロ誘導体を得ることができる。
【0067】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化反応は、医農薬および光学材料の重要中間体に要求される、光学純度の高いフルオロ誘導体の製造に、特に効力を発揮する。この効果を最大限に引き出すには、原料基質の選択が重要となる。具体的には、立体的に嵩高い光学活性第三級アルコール誘導体にも適用できるが、高い不斉転写率が期待できる、光学活性第二級アルコール誘導体("一般式[3]で示される光学活性ヒドロキシ誘導体"に対応)が一層好適である。さらに光学活性第二級アルコール誘導体の置換基("一般式[3]で示される光学活性ヒドロキシ誘導体のRおよびR1"に対応)としては、反応中間体であるフルオロ硫酸エステルがフッ素置換される過程において、ベンジル位カルボニウムイオンの様な遷移状態を経て部分的にラセミ化を伴うことが予想される、芳香環基よりも、アルキル基、置換アルキル基およびアルコキシカルボニル基が好適である。
【0068】
また得られる生成物の有用性から、アルキル基の炭素数としては、通常は1から14が好ましく、特に1から12がより好ましい。置換アルキル基の置換基としては、核酸塩基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基の保護体およびカルボキシル基の保護体が好適であり、また二つのアルキル基または置換アルキル基が脂肪族複素環を採ることが好適であり、アルコキシカルボニル基のアルコキシ基の炭素数としては、通常は1から10が好ましく、特に1から8がより好ましい。
【0069】
さらに光学活性第二級アルコール誘導体("一般式[3]で示される光学活性ヒドロキシ誘導体"に対応)の不斉炭素の立体化学としては、R配置またはS配置を採ることができ、エナンチオマー過剰率(%ee)としては、特に制限はないが、90%ee以上のものを使用すればよく、通常は95%ee以上が好ましく、特に97%ee以上がより好ましい。
【0070】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤を適用できるヒドロキシ誘導体としては、一般式[5]
【0071】
【化11】


【0072】
[式中、R3は二級アミノ基の保護基を表し、R4はカルボキシル基の保護基を表し、*は不斉炭素を表す。反応を通して4位の立体化学は反転し、2位の立体化学は保持される。]で表される4−ヒドロキシプロリン誘導体が挙げられる。本化合物を脱ヒドロキシフッ素化することにより、一般式[6]
【0073】
【化12】


【0074】
[式中、R3、R4および*の意味は一般式[5]と同じ。]で表される4−フルオロプロリン誘導体を得ることができる。
【0075】
一般式[5]で示される4−ヒドロキシプロリン誘導体の二級アミノ基の保護基R3としては、ベンジルオキシカルボニル(Z)基、tert−ブトキシカルボニル(Boc)基、9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基、3−ニトロ−2−ピリジンスルフェニル(Npys)基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル[Z(MeO)]基等が挙げられる。その中でもベンジルオキシカルボニル(Z)基およびtert−ブトキシカルボニル(Boc)基が好ましく、特にtert−ブトキシカルボニル(Boc)基がより好ましい。
【0076】
一般式[5]で示される4−ヒドロキシプロリン誘導体のカルボキシル基の保護基R4としては、メチル(Me)基、エチル(Et)基、tert−ブチル(t−Bu)基、トリクロロエチル(Tce)基、フェナシル(Pac)基、ベンジル(Bzl)基、4−ニトロベンジル[Bzl(4−NO2)]基、4−メトキシベンジル[Bzl(4−MeO)]基等が挙げられる。その中でもメチル(Me)基、エチル(Et)基およびベンジル(Bzl)基が好ましく、特にメチル(Me)基およびエチル(Et)基がより好ましい。
【0077】
一般式[5]で示される4−ヒドロキシプロリン誘導体は、第4版 実験化学講座22 有機合成IV 酸・アミノ酸・ペプチド(丸善,1992年,p.193−309)を参考にして、市販の光学活性4−ヒドロキシプロリンから製造することができる。また二級アミノ基の保護基R3とカルボキシル基の保護基R4の組み合わせによっては市販されているものがあり、これらを利用することもできる。また一般式[5]で示される4−ヒドロキシプロリン誘導体の内、二級アミノ基の保護基R3がtert−ブトキシカルボニル(Boc)基で、カルボキシル基の保護基R4がメチル(Me)基である化合物は、Tetrahedron Letters(英国),1998年,第39巻,第10号,p.1169−1172に従い、光学活性4−ヒドロキシプロリンメチルエステルの塩酸塩から容易に変換できる。
【0078】
一般式[5]で示される4−ヒドロキシプロリン誘導体の不斉炭素の立体化学としては、2位と4位がそれぞれ独立にR配置またはS配置を採ることができ、立体化学の組み合わせとしては、4R/2R体、4S/2R体、4R/2S体または4S/2S体があり、各立体異性体のエナンチオマー過剰率(%ee)またはジアステレオマー過剰率(%de)としては、特に制限はないが、それぞれ90%eeまたは90%de以上を使用すればよく、通常は95%eeまたは95%de以上が好ましく、特に97%eeまたは97%de以上がより好ましい。
【0079】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤を適用できるヒドロキシ誘導体としては、一般式[7]
【0080】
【化13】


【0081】
[式中、R5およびR6はそれぞれ独立にヒドロキシル基の保護基を表す。]で表される1−β−D−アラビノフラノシルウラシル誘導体が挙げられる。本化合物を脱ヒドロキシフッ素化することにより、一般式[8]
【0082】
【化14】


【0083】
[式中、R5およびR6の意味は一般式[7]と同じ。]で表される2'−デオキシ−2'−フルオロウリジン誘導体を得ることができる。
【0084】
一般式[7]で示される1−β−D−アラビノフラノシルウラシル誘導体のヒドロキシル基の保護基R5およびR6としては、トリチル基(トリフェニルメチル基)、テトラヒドロピラニル基(THP基)、テトラヒドロフラニル基(THF基)等が挙げられる。その中でもテトラヒドロピラニル基(THP基)およびテトラヒドロフラニル基(THF基)が好ましく、特にテトラヒドロピラニル基(THP基)がより好ましい。一般式[7]で示される1−β−D−アラビノフラノシルウラシル誘導体は、Chem.Pharm.Bull.(日本),1994年,第42巻,第3号,p.595−598、およびKhim.Geterotsikl.Soedin.(ロシア),1996年,第7号,p.975−977を参考にして製造することができる。これらの文献の方法にならえば、3'位と5'位のヒドロキシル基を選択的に保護したものが得られる。
【0085】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤を適用できるヒドロキシ誘導体としては、一般式[9]
【0086】
【化15】


【0087】
[式中、R7は炭素数1から12のアルキル基または置換アルキル基を表し、R8は炭素数1から8のアルキル基を表し、R7とR8のアルキル基または置換アルキル基の任意の炭素原子同士が共有結合を形成してラクトン環を採ることもでき、*は不斉炭素を表す。反応を通してα位の立体化学は反転する。]で表される光学活性α−ヒドロキシカルボン酸エステル誘導体が挙げられる。本化合物を脱ヒドロキシフッ素化することにより、一般式[10]
【0088】
【化16】


【0089】
[式中、R7、R8および*の意味は一般式[9]と同じである。]で表される光学活性α−フルオロカルボン酸エステル誘導体を得ることができる。
【0090】
一般式[9]で示される光学活性α−ヒドロキシカルボン酸エステル誘導体のR7としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ラウリル基が挙げられ、炭素数3以上のアルキル基は直鎖または分枝を採ることができる。またアルキル基の任意の炭素原子上に、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基、ビニル基等の不飽和炭化水素基、炭素数1から6の直鎖または分枝のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、カルボキシル基の保護体、アミノ基の保護体またはヒドロキシル基の保護体が、一つまたは任意の組み合わせで二つ置換することもできる。カルボキシル基、アミノ基およびヒドロキシル基の保護基としては、上記と同様に、Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.に記載された保護基を使用することができ、具体的にカルボキシル基の保護基としてはエステル基等が挙げられ、アミノ基の保護基としてはベンジル基、アシル基(アセチル基、クロロアセチル基、ベンゾイル基、4−メチルベンゾイル基等)、フタロイル基等が挙げられ、ヒドロキシル基の保護基としてはベンジル基、2−テトラヒドロピラニル基、アシル基(アセチル基、クロロアセチル基、ベンゾイル基、4−メチルベンゾイル基等)、シリル基(トリアルキルシリル基、アルキルアリールシリル基等)等が挙げられ、特に1,2−ジヒドロキシル基の保護基としては2,2−ジメチル−1,3−ジオキソランを形成する保護基等が挙げられる。
【0091】
本発明で対象とする製造方法は、一般式[9]で示される光学活性α−ヒドロキシカルボン酸エステル誘導体のR7が芳香族炭化水素基の場合にも採用できるが、R7がアルキル基または置換アルキル基の場合に比べて、目的生成物である一般式[10]で示される光学活性α−フルオロカルボン酸エステル誘導体(R7=芳香族炭化水素基)の光学純度が有意に低下するため、一般式[9]で示される光学活性α−ヒドロキシカルボン酸エステル誘導体のR7としてはアルキル基または置換アルキル基が好適である。
【0092】
一般式[9]で示される光学活性α−ヒドロキシカルボン酸エステル誘導体のR8としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基が挙げられ、炭素数3以上のアルキル基は直鎖または分枝を採ることができる。
【0093】
一般式[9]で示される光学活性α−ヒドロキシカルボン酸エステル誘導体の不斉炭素の立体化学としては、R配置またはS配置を採ることができ、エナンチオマー過剰率(%ee)としては、特に制限はないが、90%ee以上のものを使用すればよく、通常は95%ee以上が好ましく、特に97%ee以上がより好ましい。
【0094】
一般式[9]で示される光学活性α−ヒドロキシカルボン酸エステル誘導体は、Synthetic Communications(米国),1991年,第21巻,第21号,p.2165−2170を参考にして、市販されている種々の光学活性α−アミノ酸から同様に製造することができる。また実施例で使用した(S)−乳酸エチルエステルは市販品を利用した。
【0095】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤を適用できるヒドロキシ誘導体としては、一般式[11]
【0096】
【化17】


【0097】
[式中、Rはアルキル基または置換アルキル基を表す。アルキル基は「炭素数1から16の直鎖または分枝のアルキル基」と定義され、置換アルキル基は「アルキル基の任意の炭素原子上にハロゲン原子、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、低級アルキルチオ基、シアノ基、アミノカルボニル基(CONH2)、不飽和基、芳香環基、核酸塩基、芳香環オキシ基、脂肪族複素環基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基の保護体、チオール基の保護体またはカルボキシル基の保護体等が任意の数でさらに任意の組み合わせで置換したアルキル基」と定義される。]で表される第一級アルコール誘導体が挙げられる。本化合物を脱ヒドロキシフッ素化することにより、一般式[12]
【0098】
【化18】


【0099】
[式中、Rの意味は一般式[11]と同じ。]で表されるモノフルオロメチル誘導体を得ることができる。
【0100】
新規薬効を有する医薬品開発において、"モノフルオロメチル基"は重要なモチーフとして認識されており、モノフルオロメチル誘導体("一般式[12]で示されるモノフルオロメチル誘導体"に対応)を効率良く製造できる、第一級アルコール誘導体("一般式[11]で示される第一級アルコール誘導体"に対応)も好適な基質である。
【0101】
一般式[1]で示されるヒドロキシ誘導体としては、一般式[3]で表される光学活性ヒドロキシ誘導体、一般式[5]で表される4−ヒドロキシプロリン誘導体、一般式[7]で表される1−β−D−アラビノフラノシルウラシル誘導体、一般式[9]で表される光学活性α−ヒドロキシカルボン酸エステル誘導体および、一般式[11]で表される第一級アルコール誘導体が特に好適である。
[脱ヒドロキシフッ素化の反応条件]
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤中のスルフリルフルオリド(SO22)の、ヒドロキシ誘導体1モルに対する使用量としては、特に制限はないが、1モル以上を使用すればよく、通常は1〜10モルが好ましく、特に1〜5モルがより好ましい。
【0102】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤中の有機塩基の、ヒドロキシ誘導体1モルに対する使用量としては、特に制限はないが、1モル以上を使用すればよく、通常は1〜20モルが好ましく、特に1〜10モルがより好ましい。
【0103】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化剤中のフッ化水素源(フッ化水素もしくは、フッ化水素が有機塩基との間に形成した、塩または錯体をいう。)の、ヒドロキシ誘導体1モルに対する使用量としては、特に制限はないが、HF換算として0.3モル以上を使用すればよく、通常は0.5〜50モルが好ましく、特に0.7〜25モルがより好ましい。
【0104】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化の温度条件としては、特に制限はないが、−100〜+100℃の範囲で行えばよく、通常は−80〜+80℃が好ましく、特に−60〜+60℃がより好ましい。スルフリルフルオリドの沸点(−49.7℃)以上の温度条件で反応を行う場合には、耐圧反応容器を使用することができる。
【0105】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化の圧力条件としては、特に制限はないが、大気圧〜2MPaの範囲で行えばよく、通常は大気圧〜1.5MPaが好ましく、特に大気圧〜1MPaがより好ましい。従って、ステンレス鋼(SUS)またはガラス(グラスライニング)の様な材質でできた耐圧反応容器を用いて反応を行うのが好ましい。
【0106】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化の反応時間としては、特に制限はないが、0.1〜72時間の範囲で行えばよく、基質および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、NMR等の分析手段により、反応の進行状況を追跡して原料が殆ど消失した時点を終点とすることが好ましい。
【0107】
本発明の脱ヒドロキシフッ素化の後処理としては、特に制限はないが、通常は反応終了液を水またはアルカリ金属の無機塩基(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウム等)の水溶液に注ぎ込み、有機溶媒(例えば、トルエン、メシチレン、塩化メチレンまたは酢酸エチル等)で抽出することにより、粗生成物を得ることができる。スルフリルフルオリドから副生するフルオロ硫酸と有機塩基からなる塩、またはフルオロ硫酸のアルカリ金属塩は、水に対する分配が格段に高いため、水洗等の簡便な操作により、これらの塩を効率的に除去することができ、目的とするフルオロ誘導体を高い化学純度で得ることができる。また必要に応じて、活性炭処理、蒸留、再結晶等により、さらに高い化学純度に精製することができる。
【実施例】
【0108】
以下、実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式
【0109】
【化19】


【0110】
で示される4−ヒドロキシプロリン誘導体2.45g(9.99mmol、1.00eq)、アセトニトリル10.0mLとトリエチルアミン1.10g(10.87mmol、1.09eq)を加え、内温を−40℃に冷却してスルフリルフルオリド2.00g(19.60mmol、1.96eq)をボンベより吹き込んだ。内温を室温に戻して20時間20分攪拌した。反応の変換率をガスクロマトグラフィーにより測定したところ100%であった。反応終了液を炭酸カリウムの水溶液[炭酸カリウム2.80g(20.26mmol、2.03eq)と水50.0mLから調製]に注ぎ込み、酢酸エチル50.0mLで2回抽出した。回収有機層を減圧下濃縮し、真空乾燥し、下記式
【0111】
【化20】


【0112】
で示される4−フルオロプロリン誘導体の粗生成物を褐色の油状物質として得た。粗生成物の回収量は理論収率の重量を若干超えていた。粗生成物の選択率をガスクロマトグラフィーにより測定したところ82.4%であった(主な不純物は3種類あり、不純物A〜Cと命名すると、不純物A、不純物Bおよび不純物Cは、それぞれ8.2%、3.3%、4.9%含まれていた)。得られた4−フルオロプロリン誘導体の粗生成物の機器データを下に示す(NBoc基に起因するE/Z異性体の混合物として帰属)。粗生成物にはフルオロ硫酸に由来する塩(FSO3H・Et3NまたはFSO3K)が全く含まれていないことが19F−NMRスペクトルより分かった。
1H−NMR(基準物質:Me4Si,重溶媒:CDCl3),δ ppm:1.43&1.49(s×2,トータル9H),1.95−2.55(トータル2H),3.51−3.94(トータル2H),3.75(S,3H),4.36−4.58(トータル1H),5.10−5.31(トータル1H).
19F−NMR(基準物質:C66,重溶媒:CDCl3),δ ppm:−11.27(トータル1F).
[実施例2]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式
【0113】
【化21】


【0114】
で示される4−ヒドロキシプロリン誘導体2.45g(9.99mmol、1.00eq)、アセトニトリル13.0mL、トリエチルアミン3.50g(34.59mmol、3.46eq)とトリエチルアミン・三フッ化水素錯体1.60g(9.92mmol、0.99eq)を加え、内温を−40℃に冷却してスルフリルフルオリド2.00g(19.60mmol、1.96eq)をボンベより吹き込んだ。内温を室温に戻して20時間攪拌した。反応の変換率をガスクロマトグラフィーにより測定したところ100%であった。反応終了液を炭酸カリウムの水溶液[炭酸カリウム6.30g(45.58mmol、4.56eq)と水100.0mLから調製]に注ぎ込み、酢酸エチル100.0mLで2回抽出した。回収有機層を減圧下濃縮し、真空乾燥し、下記式
【0115】
【化22】


【0116】
で示される4−フルオロプロリン誘導体の粗生成物を褐色の油状物質として得た。粗生成物の回収量は理論収率の重量を若干超えていた。粗生成物の選択率をガスクロマトグラフィーにより測定したところ91.0%であった(主な不純物は3種類あり、不純物A〜Cと命名すると、不純物A、不純物Bおよび不純物Cは、それぞれ6.4%、2.4%、0.1%含まれていた)。得られた4−フルオロプロリン誘導体の粗生成物の機器データは、実施例1と同様であった。
[実施例3]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式
【0117】
【化23】


【0118】
で示される1−β−D−アラビノフラノシルウラシル誘導体12.30g(29.82mmol、1.00eq)、アセトニトリル38.0mL、トリエチルアミン18.15g(179.37mmol、6.02eq)とトリエチルアミン・三フッ化水素錯体19.30g(119.71mmol、4.01eq)を加え、内温を−40℃に冷却してスルフリルフルオリド10.00g(97.98mmol、3.29eq)をボンベより吹き込んだ。内温を室温に戻して16時間30分攪拌し、さらに40℃で5時間30分攪拌した。反応の変換率を液体クロマトグラフィーにより測定したところ99%以上であった。反応終了液を炭酸カリウムの水溶液[炭酸カリウム58.00g(419.65mmol、14.07eq)と水300.0mLから調製]に注ぎ込み、酢酸エチル300.0mLで2回抽出した。回収有機層を10%食塩水200.0mLで洗浄し、減圧下濃縮し、真空乾燥し、下記式
【0119】
【化24】


【0120】
で示される2'−デオキシ−2'−フルオロウリジン誘導体の粗生成物12.83gを褐色の油状物質として得た。粗生成物の回収量は理論収率の重量を若干超えていた。粗生成物の選択率を液体クロマトグラフィーにより測定したところ83.2%であった。得られた2'−デオキシ−2'−フルオロウリジン誘導体の粗生成物の機器データを下に示す(二つのTHP基に起因する四種のジアステレオマーを観測)。
19F−NMR(基準物質:C66,重溶媒:CDCl3),δ ppm:−43.13(dt,51.9Hz,15.4Hz),−42.50(dt,51.5Hz,15.4Hz),−37.62(dt,51.5Hz,15.0Hz),−37.55(dt,51.9Hz,15.0Hz)/トータル1F.
[実施例4]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式
【0121】
【化25】


【0122】
で示される光学活性α−ヒドロキシカルボン酸エステル誘導体9.60g(81.27mmol、1.00eq、光学純度98.4%ee)、メシチレン27.0mLとトリエチルアミン8.50g(84.00mmol、1.03eq)を加え、内温を−40℃に冷却してスルフリルフルオリド11.50g(112.68mmol、1.39eq)をボンベより吹き込んだ。内温を室温に戻して22時間10分攪拌した。反応の変換率をガスクロマトグラフィーにより測定したところ100%であった。反応終了液を炭酸カリウムの水溶液[炭酸カリウム7.90g(57.16mmol、0.70eq)と水100.0mLから調製]に注ぎ込み、メシチレン45.0mLで2回抽出した。回収有機層を塩酸食塩水(1N塩酸95.0mLと食塩10.00gから調整)で洗浄し、下記式
【0123】
【化26】


【0124】
で示される光学活性α−フルオロカルボン酸エステル誘導体の粗生成物のメシチレン溶液110.63gを得た。粗生成物の選択率をガスクロマトグラフィーにより測定したところ99.0%以上(メシチレンを除く)であった。粗生成物のメシチレン溶液を分別蒸留(81−90℃/20000Pa)し、本留26.82gを回収した。本留には、光学活性α−フルオロカルボン酸エステル誘導体が46.90mmol含まれていることが1H−NMRスペクトルより分かり、本留の濃度は21.0重量%であった。トータル収率は58%であった。得られた光学活性α−フルオロカルボン酸エステル誘導体の本留の光学純度と機器データを下に示す。
光学純度97.7%ee(テトラヒドロフラン中、過剰の水素化リチウムアルミニウムを用いてヒドリド還元し、得られた(R)−2−フルオロ−1−プロパノールをMosher酸エステルに誘導し、ガスクロマトグラフィーにより決定した。不斉転写率は99.3%であった).
1H−NMR(基準物質:Me4Si,重溶媒:CDCl3),δ ppm:1.32(t,7.2Hz,3H),1.58(dd,23.6Hz,6.9Hz,3H),4.26(q,7.2Hz,2H),5.00(dq,49.0Hz,6.9Hz,1H).
19F−NMR(基準物質:C66,重溶媒:CDCl3),δ ppm:−21.88(dq,48.9Hz,24.4Hz,1F).
[実施例5]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式
【0125】
【化27】


【0126】
で示される第一級アルコール誘導体3.50g(15.00mmol、1.00eq)、アセトニトリル30.0mL、トリエチルアミン8.35g(82.52mmol、5.50eq)とトリエチルアミン・三フッ化水素錯体4.84g(30.02mmol、2.00eq)を加え、内温を−40℃に冷却してスルフリルフルオリド7.86g(77.01mmol、5.13eq)をボンベより吹き込んだ。内温を室温に戻して1時間10分攪拌し、さらに60℃で39時間30分攪拌した。反応の変換率をガスクロマトグラフィーにより測定したところ100%であった。反応終了液に水50.0mLを加え、減圧下濃縮し、濃縮残渣に水50.0mLを加え、酢酸エチル100.0mLで1回抽出した。回収有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮し、真空乾燥し、下記式
【0127】
【化28】


【0128】
で示されるモノフルオロメチル誘導体の粗生成物2.72gを濃褐色の油状物質として得た。粗生成物の選択率をガスクロマトグラフィーにより測定したところ69.4%であった。粗生成物には、モノフルオロメチル誘導体が3.45mmol含まれていることが19F−NMRの内部標準法(内部標準物質:C66)により分かった。収率は23%であった。得られたモノフルオロメチル誘導体の粗生成物の機器データを下に示す。
1H−NMR(基準物質:Me4Si,重溶媒:CDCl3),δ ppm:0.90(d,6.8Hz,3H),1.08(d,6.8Hz,3H),2.44(m,1H),4.24(m,1H),4.76(ddd,46.6Hz,9.5Hz,4.8Hz,1H),5.01(dt,46.6Hz,9.5Hz,1H),7.74(Ar−H,2H),7.86(Ar−H,2H).
19F−NMR(基準物質:C66,重溶媒:CDCl3),δ ppm:−62.12(dt,13.3Hz,46.6Hz,1F).
原料基質の第一級アルコール誘導体は、Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.を参考にして、市販されている光学活性バリノールから製造することができる。また得られたモノフルオロメチル誘導体は、同図書を参考にして、光学純度を損なうことなく光学活性1−イソプロピル−2−フルオロエチルアミンに変換することができる。
[実施例6]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式
【0129】
【化29】


【0130】
で示される第一級アルコール誘導体1.39g(7.98mmol、1.00eq)、アセトニトリル16.0mL、トリエチルアミン4.45g(43.98mmol、5.51eq)とトリエチルアミン・三フッ化水素錯体2.58g(16.00mmol、2.01eq)を加え、内温を−40℃に冷却してスルフリルフルオリド3.00g(29.39mmol、3.68eq)をボンベより吹き込んだ。内温を室温に戻して19時間15分攪拌した。反応の変換率をガスクロマトグラフィーにより測定したところ100%であった。反応終了液に水10.0mLを加え、アセトニトリルを減圧下濃縮し、濃縮残渣を酢酸エチル30.0mLで1回抽出した。回収有機層を飽和食塩水10.0mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮し、真空乾燥し、下記式
【0131】
【化30】


【0132】
で示されるモノフルオロメチル誘導体の粗生成物0.36gを褐色の油状物質として得た。粗生成物の選択率をガスクロマトグラフィーにより測定したところ98.6%であった。収率は26%であった。得られたモノフルオロメチル誘導体の粗生成物の機器データを下に示す。
1H−NMR(基準物質:Me4Si,重溶媒:CDCl3),δ ppm:1.42−1.88(m,10H),3.35−3.52(m,2H),3.70−3.88(m,2H),4.45(dt,46.8Hz,6.1Hz,2H),4.56(m,1H).
19F−NMR(基準物質:C66,重溶媒:CDCl3),δ ppm:−56.37(septet,23.4Hz,1F).
原料基質の第一級アルコール誘導体は、Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.を参考にして、市販されている1,4−ブタンジオールから製造することができる。また得られたモノフルオロメチル誘導体は、同図書を参考にして、4−フルオロ−1−ブタノールに変換することができる。
[実施例7]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式
【0133】
【化31】


【0134】
で示される第一級アルコール誘導体1.58g(9.98mmol、1.00eq)、アセトニトリル20.0mL、トリエチルアミン5.57g(55.04mmol、5.52eq)とトリエチルアミン・三フッ化水素錯体3.22g(19.97mmol、2.00eq)を加え、内温を−40℃に冷却してスルフリルフルオリド2.04g(19.99mmol、2.00eq)をボンベより吹き込んだ。内温を室温に戻して22時間20分攪拌した。反応の変換率をガスクロマトグラフィーにより測定したところ100%であった。反応終了液に水20.0mLを加え、酢酸エチル20.0mLで1回抽出した。回収有機層を水20.0mLで洗浄し、飽和食塩水20.0mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮し、下記式
【0135】
【化32】


【0136】
で示されるモノフルオロメチル誘導体の粗生成物を褐色の油状物質として得た。粗生成物の選択率をガスクロマトグラフィーにより測定したところ94.2%であった。粗生成物には、モノフルオロメチル誘導体が2.10mmol含まれていることが19F−NMRの内部標準法(内部標準物質:C66)により分かった。収率は21%であった。得られたモノフルオロメチル誘導体の粗生成物の機器データを下に示す。
1H−NMR(基準物質:Me4Si,重溶媒:CDCl3),δ ppm:0.89(t,6.8Hz,3H),1.20−1.45(m,14H),1.60−1.70(m,2H),4.44(dt,47.6Hz,6.2Hz,2H).
19F−NMR(基準物質:C66,重溶媒:CDCl3),δ ppm:−55.97(septet,23.8Hz,1F).
原料基質の第一級アルコール誘導体は市販品を利用した。
【出願人】 【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
【出願日】 平成18年6月30日(2006.6.30)
【代理人】 【識別番号】100123401
【弁理士】
【氏名又は名称】花田 吉秋


【公開番号】 特開2008−7488(P2008−7488A)
【公開日】 平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願番号】 特願2006−182235(P2006−182235)