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【発明の名称】 視感度補正フィルタガラスの製造方法
【発明者】 【氏名】鈴木 英俊

【要約】 【課題】固体撮像素子の視感度補正に用いられるフィルタガラスにおいて、レンズ系の近紫外線色収差に起因する輪郭ぼけなどの撮影画像の乱れを低減することのできる視感度補正フィルタガラスの製造方法を提供することを目的とする。

【構成】CuOを含有し、質量%で、P10〜60%、AlF0〜20%、RF(RはLi,Na,Kのうち少なくとも1種)1〜30%、R´F(R´はMg,Ca,Sr,Baのうち少なくとも1種)10〜75%、(ただし、弗化物総合計量の70%までを酸化物に置換可能)からなる基礎ガラス100質量部に対して、外割で、Vを0.02〜0.5質量部となるように添加し、かつVに対して酸化剤として作用する化合物成分0.1〜10質量部を加えて溶融する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuO−弗燐酸塩系ガラスからなる基礎ガラス100質量部に対して、外割で、Vを0.02〜0.5質量部となるように添加し、かつVに対して酸化剤として作用する化合物成分0.1〜10質量部を加えて溶融することを特徴とする視感度補正フィルタガラスの製造方法。
【請求項2】
前記Vに対して酸化剤として作用する成分を、前記基礎ガラスを構成する金属元素の、硝酸化合物、硫酸化合物、過酸化物、過塩素酸化物及び塩素酸から選ばれるいずれか1種以上の形態で添加することを特徴とする請求項1記載の視感度補正フィルタガラスの製造方法。
【請求項3】
前記基礎ガラスが、質量%で、P10〜60%、AlF0〜20%、RF(RはLi,Na,Kのうち少なくとも1種)1〜30%、R´F(R´はMg,Ca,Sr,Baのうち少なくとも1種)10〜75%、(ただし、弗化物総合計量の70%までを酸化物に置換可能)からなる成分の合計が90%以上である母ガラス100質量部に対し、外割でCuO0.5〜12質量部を含有するものである請求項1または2に記載の視感度補正フィルタガラスの製造方法。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は,デジタルスチルカメラ(以下、DSCと称する)やカラービデオカメラなどの色補正フィルタ等に使用され、可視域を透過し、700nm付近におけるシャープカット特性及び近紫外線カット特性を有する視感度補正フィルタガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、DSCやカラービデオカメラに使用されているCCDやCMOS等の固体撮像素子は可視域から1100nm付近の近赤外域にわたる分光感度を有している。したがって、このままでは良好な色再現性を得ることができないので、赤外域を吸収するフィルタを用いて、人の通常の視感度に補正することが必要である。このフィルタは近赤外波長を選択的に吸収するように、リン酸塩系ガラスまたは弗燐酸塩系ガラスにCuOを添加したフィルタガラスが使用されている。このフィルタガラスは多量のPを必須成分としてCuOを含有しており、酸化性の溶融雰囲気中で、多数の酸素イオンに配位されたCu2+イオンを形成させることによって青緑色を呈し、近赤外線カット特性を有するものである。
【0003】
前記フィルタガラスのうちリン酸塩系ガラスは、耐候性が不十分なため、ガラス研磨面にウェザリングを生じるので、長期間にわたって使用するには難点があり、現在では耐候性に優れた弗燐酸塩系ガラスが主に使用されている。
【0004】
CuO−弗燐酸塩系ガラスからなる近赤外線カットフィルタガラスとしては、代表的なものとして特許文献1記載のものが知られており、また600〜700nmにおけるシャープカット性を高め700〜1200nmでの吸収を強めるためにCuO−弗燐酸塩系ガラスに特定量のVを加えた特許文献2記載のものなどがある。
【0005】
【特許文献1】特開平1−219037号公報
【特許文献2】特開平10−194776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおりCCDやCMOS等の固体撮像素子は可視域から1100nm付近の近赤外域にわたる分光感度を有しており、近紫外域にも感度を有している。上記特許文献記載のようなCu2+イオンを含有した弗燐酸塩系ガラスフィルタの透過率カーブは、ほぼ300nm以下の波長を透過せず、波長300nmから400nmの範囲で急激に透過率が上昇し、600nmから700nmにかけて緩やかに下降する曲線であり、可視域における透過率を一定以上に設定した場合、900〜1000nm超の長波長側を若干透過する特性を持つ。このため、ガラスフィルタによる吸収のみでは人の視感度と撮影画像の色再現性とを完全に一致させることが難しい場合がある。
【0007】
このような場合、誘電体多層膜を併用することによって近紫外域及び近赤外域をさらにカットすることが行われている。誘電体多層膜は、高屈折率層として二酸化チタン(TiO)及び低屈折率層としての二酸化シリコン(SiO)の交互積層膜などからなり、近赤外線カットフィルタガラスの表面に成膜される場合もあれば、ローパスフィルタとしてカメラに内装される水晶板表面に真空蒸着やスパッタによって成膜される場合もある。誘電体多層膜による赤外線カット膜の透過特性は、成膜面に垂直に入射する光線に対して、およそ400nm以下と700nm以上の波長光を反射してほとんど透過せず、400〜700nmを透過する。この結果、ガラスフィルタによる吸収と誘電体多層膜による反射とを併用した光学系では、400〜600nmを高率に透過し、600〜700nmにかけて緩やかに下降し、700nm以上を透過しない透過率曲線を描き、人の視感度に近似した特性とすることができる。
【0008】
ところで、近年、高画素数の撮像素子を用いたDSCなどにおいて、レンズ系の色収差に起因して、撮影された画像にパープルフリンジと称される紫色の輪郭ぼけが認識されるようになっている。すなわち、光学要素を構成するガラスなどの媒質の屈折率は光の波長に依存する性質をもっており、同一の媒質であっても、可視光に対する屈折率と、近紫外線に対する屈折率、近赤外線に対する屈折率とは異なる。このような性質により、光線がガラス光学要素を通過する際には、短波長の光ほど強く屈折し、長波長の光ほど屈折度合いが弱くなるため、可視光の光路と近紫外線の光路、近赤外線の光路とが分岐され、可視光の焦点位置に対して近紫外線は手前に、近赤外線は後方に焦点を結ぶ(軸上色収差)。このように分岐された光線が、撮像素子の光電変換面に到達する位置では、色収差が2次元方向のずれとなり、このずれが近紫外線または近赤外線によるボケ半径となって、輪郭ぼけを発生させる原因となる。特に高画素数の撮像素子では、ピクセルサイズが小さくなる分、色収差の影響が大きく認識されやすく、また撮影画像中心部に比べて周辺部でその影響が出やすい。換言すると、色収差による輪郭ボケの問題は、撮像素子の高画素化の進展によって顕在化した課題と言える。
【0009】
上記した誘電体多層膜は、反射によって紫外域や赤外域の光をカットするが、誘電体多層膜は光線の入射角度によって反射特性が変化するため、成膜面に垂直に入射する光線に対する透過率が0の波長の光であっても斜めに入射した光に対しては完全に反射することができず透過してしまう場合がある。このため、色収差による輪郭ボケをなくすことはできず、撮像素子に対して斜めに入射する光が多くなる画像周辺部で影響が出やすくなる。また、誘電体多層膜に反射された光が光学系の中で迷光となって再度誘電体多層膜に斜めに入射すると、撮像素子の光電変換面に到達して偽色など撮影画像の色彩を乱す原因になる。
【0010】
したがって、誘電体多層膜に頼ることなくガラスの吸収によって紫外域や赤外域の光をカットできれば、これら不要光が斜めに入射しても、その悪影響をなくすことができる。その方法として、上述のCuO−弗燐酸塩系ガラスは、元来紫外域にも吸収をもっているので、近紫外域の吸収を高めるためにCuOの添加量を増加することが考えられる。図4に従来のCuO−弗燐酸塩系ガラスにおいて、CuO添加量を変えたガラスの透過率曲線を示す。これは、後述する比較例ガラスのものであり、弗燐酸塩系ガラスからなる母ガラス100質量部に対して、曲線9がCuOを2質量部、曲線10がCuOを5質量部添加したものである。図4からわかるようにCuOの添加量を増やすと、近紫外域の吸収とともに近赤外域における吸収も増加し、600〜700nmのカットパターンが短波長側に移動する。つまり、CuO添加量を変化させただけでは、近紫外域と近赤外域のカット特性を独立して制御することはできない。
【0011】
実際にDSCやビデオカメラに使用される視感度補正フィルタの近紫外域または近赤外域のカットパターンは、個々のCCDやCMOSの感度特性あるいはカメラの設計に合せて決められるものであるため、近紫外域のカット特性と近赤外域のカット特性とは独立して制御できることが望ましい。
【0012】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、固体撮像素子の視感度補正に用いられるフィルタガラスにおいて、近紫外線吸収特性をもち、かつ近赤外線吸収特性と近紫外線吸収特性とを独立して変えられるガラスを安定的に供給できる方法の提供を目的とする。また、これによりレンズ系の近紫外線色収差に起因する輪郭ぼけなどの撮影画像の乱れを低減することのできる視感度補正フィルタガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、CuO−弗燐酸塩系ガラスからなる基礎ガラス100質量部に対して、外割で、Vを0.02〜0.5質量部となるように添加し、かつVに対して酸化剤として作用する化合物成分0.1〜10質量部を加えて溶融することを特徴とする。
【0014】
また本発明は、前記基礎ガラスが、質量%で、P10〜60%、AlF0〜20%、RF(RはLi,Na,Kのうち少なくとも1種)1〜30%、R´F(R´はMg,Ca,Sr,Baのうち少なくとも1種)10〜75%、(ただし、弗化物総合計量の70%までを酸化物に置換可能)からなる成分の合計が90%以上である母ガラス100質量部に対し、外割でCuO0.5〜12質量部を含有することを特徴とする。
【0015】
前記Vに対して酸化剤として作用する成分は、前記基礎ガラスを構成する金属元素の硝酸化合物、硫酸化合物、過酸化物、過塩素酸化物及び塩素酸から選ばれるいずれか1種以上の形態で添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、近赤外線の吸収特性に加え近紫外線も吸収することができるガラスを安定的に生産することができるので、本発明によって得られたガラスを使用する撮像光学系において、不要な紫外線が撮像素子に到達せず、近紫外線色収差に起因する輪郭ぼけや迷光紫外線などによる撮影画像の乱れを低減することができる。また、近紫外域のカット特性と近赤外域のカット特性とを独立して制御できるので、本発明によって得られるガラスと組合せ使用される撮像素子に合せた特性のフィルタを提供でき、撮像デバイスの色再現性向上に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、上記構成により上記目的を達成したものであり、本発明においてガラスを構成する各成分の含有量等を上記のように限定した理由を以下に説明する。
【0018】
まず、CuO−弗燐酸塩系ガラスを基礎ガラスとするのは、上述のとおり酸素イオンに配位されたCu2+イオンによる近赤外域の吸収特性が視感度補正に必要なためである。
【0019】
は、弗燐酸塩系ガラスにおいて紫外域に吸収を示すため、紫外線吸収剤として添加するが、基礎ガラス100質量部に対する外割で0.02質量部未満では近紫外域での吸収効果が十分でなく、0.5質量部を超えて添加すると可視域にも吸収が現れ可視透過率が大きく低下する。好ましくは0.05〜0.3質量部、より好ましくは下限値を0.1質量部位上とする。
【0020】
は、ガラス中においてV5+の状態で紫外域に強い吸収をもつことが知られているが、V5+はガラス中の成分のうち、特に他の遷移金属によって容易に還元され、紫外域に吸収を持たないV4+,V3+に変化する。このため、紫外線吸収特性が弱められ安定しないといった欠点がある。ガラス中に共存する遷移金属としては、近赤外線吸収剤としての必須成分であるCu、原料等から不純物として混入するFe、Tiなどがあるが、不純物として混入するFe、Tiなどは微量であるため、その影響は小さく、Cuの影響が大きい。
【0021】
上記特許文献2においてもCuO−弗燐酸塩系ガラスに少量のVを添加したガラスが開示されているが、通常の溶融条件下ではCuまたはFの影響により、ガラス中のVイオンはV4+となって1000nm前後に吸収を示し、V5+による紫外線吸収特性を安定的に発現させることができない。そのため、上記特許文献2においては、700〜1200nmでの吸収を強める目的でVを導入している。
【0022】
本発明では、Vを上記所定量添加したうえ、Vに対して酸化剤として作用する化合物成分0.1〜10質量部を加えて溶融することにより、V5+による紫外線吸収特性を安定的に発現させるようにした。この場合、Vに対して酸化剤として作用する化合物成分としては、本発明における基礎ガラスを構成する金属元素の、硝酸化合物、硫酸化合物、過酸化物、過塩素酸化物及び塩素酸から選ばれるいずれか1種以上の形態、たとえば、後述する実施例に示すように、LiNO、MgSO、BaO、KClO、NaClO、またNaLiNO、Sr(NO、LiSO、BaSO、Na、K、Ca(ClO、LiClO、KClO、Ba(ClOなどとして添加することが好ましい。ガラス構成成分の化合物として添加することにより、これらの陽イオンは最終的にガラス中に残存してガラスを構成するので、使用原料の無駄がなく、Vに対し溶融過程を通して比較的安定的に酸化剤として作用し、その結果、Vによる紫外線吸収特性を安定させることができる。また、それ自体が特定の波長に対する吸収を示さないため、本発明が目的とする視感度補正フィルタとしての透過率特性を乱さない利点がある。
【0023】
酸化剤としては、MnO,Cr,CeOなども知られているが、添加量によっては、これら成分に固有の吸収が現れる場合があるほか、たとえば、CeOは、CuO含有弗燐酸塩系ガラス中でVイオンと共存すると、VがCeの酸化還元平衡を酸化方向に移動させ、V自身は還元されて紫外域に吸収をもたないV4+またはV3+になることが、本発明者による実験で判明しているため、本発明の目的には適さないことになる。したがって、本発明においては、Vに対して酸化剤として作用する化合物成分0.1〜10質量部を加えて溶融することを要件とした。
【0024】
Vに対して酸化剤として作用する成分が、基礎ガラス100質量部に対する外割で0.1質量部未満では、Vの酸化還元平衡をV5+に維持する効果が十分でなく、10質量部を越えると、熔解初期の発泡が多くなりすぎてガラス中に気泡が残存する場合があるので、光学フィルタ用ガラスとしては好ましくない。好ましくは0.5〜8質量部である。
【0025】
次に基礎ガラスを構成する成分について説明する。Pはガラスの網目構造を形成する主成分であるが、10%未満ではガラス化が困難であり、60%を越えると化学的耐久性が低下して長期使用におけるウエザリングの影響が懸念される。好ましくは20〜50%である。
【0026】
AlFはガラスの化学的耐久性向上に有効な成分であるが、20%を越えるとガラスの溶融性が低下する。好ましくは1〜15%である。
【0027】
RFとして示したLiF、NaF,KFは、ガラス中にフッ素を導入し溶融温度と粘性を下げるために有効な成分であるが、RFの合量が1%未満ではその効果が得られず、30%を越えると化学的耐久性が著しく低下する。好ましくは5〜25%の範囲である。
【0028】
R´Fとして示したMgF、CaF、SrF、BaFは、化学的耐久性を低下することなくガラスを安定化するのに効果があるが、R´Fの合量が10%未満ではガラス化しにくく、75%を越えると失透傾向が顕著になる。好ましくは20〜60%の範囲である。
【0029】
また、上記母ガラスを構成する金属弗化物の合計量の70%までを金属酸化物に置換しても所望の分光特性、化学的耐久性を得ることができる。
【0030】
以上、P、AlF、RF、R´F(金属弗化物を置換した金属酸化物を含む)からなる成分の合計が90%以上であるガラスを本発明では母ガラスと称する。母ガラスは、上記成分からなるガラスとすることもできるが、上記成分のほか視感度補正フィルタガラスの特性を損なわない物質、たとえば、ZnF、ZrF、LaFなどを、ガラスの耐候性、溶融性の改善や熱膨張係数の調整などを目的として10%までの範囲で含有させることが可能である。
【0031】
CuOは近赤外線カットのための必須成分であるが、上記の母ガラス100質量部に対して外割で、0.5質量部未満では近赤外線吸収効果が十分でなく、12質量部を越えると可視域における透過率をも低下させ、またガラスが不安定になって失透性が増す。好ましくは1〜10質量部である。一般にDSCやカラービデオカメラにおける視感度補正では、近赤外域で透過率が50%となる波長が590nmから670nmの範囲内、多くは610nmから650nmの範囲となるカットパターンが好ましく使用される。また、良好な色再現性と入射光量を確保するために波長500nmにおける透過率は、反射防止膜等を被着していないガラス単体で少なくとも80%以上、より好ましくは85%以上であることが好ましい。他方、撮像素子が感度を有する近紫外線の影響を低減するためには、近紫外域の分光透過率において透過率が50%を示す波長が360nm以上、より好ましくは370nm以上の長波長側にあることが好ましい。
【0032】
本発明のガラスは次のようにして作製することができる。まず得られるガラスが上記組成範囲になるように原料を秤量、混合する。この原料混合物を白金ルツボに収容し、蓋をして、電気炉内において700〜1000℃の温度で加熱溶融する。十分に攪拌・清澄した後、金型内に鋳込み、徐冷した後、切断・研磨して内厚0.1〜1mmの平板状に成形する。CuOを増加することにより、ガラスは不安定となり失透し易くなる傾向があるが、ルツボで溶融する場合は、白金製などの蓋でルツボを密閉してフッ素成分の揮発を抑え、かつルツボ内でのガラスの停滞をなくすため、ガラスの撹拌方法を工夫して強化することで、ガラスの失透を抑制することができる。本発明のガラスは、溶融、成形工程を通じて、後の研磨工程で除去できないような目立った脈理の発生はなく、光学的にも均質なガラスを得ることができる。
【0033】
なお、白金容器を使用してガラスを溶融する場合、Vに対して酸化剤として作用する成分が多いと、白金の損耗が促進され白金容器の寿命が短縮されたり、白金由来の微小異物がガラス中に析出したりすることがあるので、この点からもVに対して酸化剤として作用する成分の添加量は、上記の範囲内とすることが好ましい。
【実施例】
【0034】
次に、本発明のガラスについて、実施例に基づき詳細に説明する。本発明の実施例を表1に、比較例を表2に示す。なお、表中の組成は母ガラス部分を質量%で示し、CuO含有量を母ガラス100質量部に対する外割で示し、V及びVに対して酸化剤として作用する化合物成分を母ガラスとCuOとからなる基礎ガラス100質量部に対する外割で示してある。表中記載のガラスは、表に示す組成となるよう原料粉末を秤量・混合し、白金るつぼを用いて700〜1000℃の温度で溶融した。その後、充分に攪拌・清澄したガラスを矩形枠内に流出させ、徐冷後に厚さ1mm程度にスライスし、11mm×11mmの大きさに切断したものを300枚ずつ研磨装置の定盤に固定し、研磨剤として酸化セリウムを使用し肉厚0.3mmになるまで光学研磨した。
【0035】
【表1】


【0036】
【表2】


【0037】
以上のようにして作成した平板状のガラスについて、分光透過率を測定した。分光透過率は、光学系に回折格子を使用している日本分光株式会社製のUV−IR分光光度計V−570を用い、ガラスに反射防止膜などを被着していないガラス単体での透過率を測定した。この結果として、各実施例および比較例ガラスの紫外側の透過率が50%を示す波長を表1及び表2に示し、またいくつかの例の分光透過率曲線を図示した。
【0038】
図1に実施例No.3と比較例No.11のガラスの分光透過率曲線を曲線3、曲線11として示す。これらのサンプルは、CuO含有量及びV含有量が同一であるが、実施例No.3はVに対して酸化剤として作用する成分としてBaOを添加したものである。CuO含有量が同一であるため、近赤外側のカットパターンは、ほぼ同等の特性を示すが、実施例ガラスNo.3はV5+の作用により近紫外域の吸収が大きく拡大している。
【0039】
図2に実施例No.4、比較例No.12及び比較例No.13のガラスの分光透過率曲線を曲線4、曲線12、曲線13として示す。ふたつの比較例は実施例No.4と同量のVを含有するが、Vに対して酸化剤として作用する成分を添加していないもので、比較例No.12よりも比較例No.13の方がCuO含有量が多い。V含有量が多くなると近紫外域にも吸収が現れるが、酸化剤の添加により近赤外域のカットパターンを変えずに、近紫外域の吸収をより長波長側にシフトさせることができる。
【0040】
図3には実施例No.6及びNo.7のガラスの分光透過率曲線を曲線6、曲線7として示した。これらのサンプルは、CuO、V、酸化剤とも含有量が異なる例であり、これら赤外線・紫外線吸収成分の調整によって可視域の透過率を高く保ったまま近赤外域と近紫外域のカット特性を調整できることを示す。
【0041】
なお、研磨した各実施例のガラスサンプルの耐候性試験として、温度60℃、相対湿度95%の条件下に保持し、ガラスの表面に変質が見られるまでの時間を測定した。その結果、本実施例のガラスはいずれも1000時間経過後も特に表面に変化は認められず、実使用に耐えうるものであると判断した。
【0042】
図5に本発明の方法により得られた視感度補正フィルタガラスをDSCなどの撮像光学系に適用した例を示す。図5は、撮像光学系の構成の一例を模式的に示す断面図である。撮像光学系30は、被写体の像を結像するための撮影レンズ31と光軸を一にして視感度補正フィルタ32、水晶板などからなる光学的ローパスフィルタ33、カバーガラス34とを介してパッケージ35内に封入された撮像素子36が配設されている。そして、撮影レンズ31により撮像素子36の光電変換面361に結像された被写体光像は、光電変換されて電気的な映像信号として出力される。前記視感度補正フィルタ32は、上述した本発明の方法により得られたガラスからなるものであり、可視光を透過し近赤外線及び近紫外線を吸収する特性をもつ。
【0043】
このような撮像光学系30に、光線が入射した場合、撮影レンズ31の可視光に対する屈折率と近紫外線に対する屈折率とが異なるため、可視光の光路Vと近紫外線の光路Uとは図示のように分岐し、光路上に近紫外線カットフィルタを持たない撮像光学系では、近紫外線は光路U、U’を経て撮像素子36に到達する。その結果、撮像素子36の光電変換面361では、図中にLで示すずれが発生する。一般の撮像素子は近紫外線に感度を有するので、このずれLが輪郭ボケとなって画像に記録されることになる。
【0044】
本発明により得られた視感度補正フィルタ32を用いた撮像光学系30では、可視光をほぼ透過し、近紫外線以下の波長の光線をほぼ吸収することができるため、可視光は光路Vのように光電変換面361に到達するが、光路Uに分岐された近紫外線は、視感度補正フィルタ32で吸収されて光電変換面361に到達せず、レンズ等の光学要素によって発生する色収差を除去して、撮影画像における輪郭ボケ、偽色などの画質低下を低減することができる。
【0045】
このとき、撮像素子36の中心に到達する中心光束と、撮像素子36の周辺に到達する周辺光束とを比べると、周辺光束の方が斜めに入射する光線を多く含んでいるが、視感度補正フィルタ32の近紫外線吸収量は、光線がフィルタを通過する光路の長さが長いほど、多くの光線が吸収されるため、視感度補正フィルタ32に垂直に入射する光線よりも斜めに入射する光線の方が光路長が長くなり、周辺光束の方が中心光束よりも近紫外線以下の波長の光線をより多く吸収できることになる。
【0046】
上述した色収差によるずれLは、光軸に対して光線がなす角度が大きいほど大きくなるので、近紫外線等により発生する色収差は、光電変換面361の周辺部ほど大きくなるが、前記のように斜めに入射する光線を多く含む周辺光束ほど視感度補正フィルタ32による近紫外線の吸収量が増えるため、効果的に色収差の影響を除去できる。
【0047】
また、たとえば、視感度補正フィルタ32の撮影レンズ31側表面に誘電体多層膜からなる紫外線カット膜が成膜されている場合、成膜面に対して斜めに入射した紫外線が紫外線カット膜で反射されず透過してしまっても、前記のように視感度補正フィルタ32によって効果的に吸収されるため、近紫外線以下の波長の光線の光電変換面361への到達を防止または抑制することができる。
【0048】
なお、図5に示した撮像光学系の構成は一例であり、たとえば、視感度補正フィルタを2枚の水晶板間に挟んだり、カバーガラスに置換したりするなどの変更があっても、本発明に係る視感度補正フィルタによる効果は変わるものではない。
【0049】
以上のように、本発明によれば、得られるガラスは近赤外線に加え安定した近紫外線吸収特性を呈し、CuOとV及び酸化剤成分の含有量を調整することで、近紫外域のカット特性と近赤外域のカット特性とを独立して制御することができる。なお、ガラスの吸収特性のみによって所望の分光特性が得られない場合に誘電体多層膜を併用するときも、本発明によって得られたガラスを用いた場合、従来のガラスに比べてガラスによる近紫外域などの不要光線の吸収量が増加している分、上述した成膜面に斜めに入射する光などによる影響を小さく抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る視感度補正フィルタガラスの製造方法は、以上に詳述したように、簡単な操作により安定的に近紫外線吸収特性を付与することができ、この方法によって得られたガラスは撮像素子にとって不要な赤外線及び紫外線を選択的、効果的に吸収除去することができるので、DSCやカラービデオカメラなどの撮像デバイスの色再現性向上に有用であり、これら撮像機器に使用される視感度補正フィルタとして好適するものを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る実施例No.3及び比較例No.11のガラスの分光透過率曲線を示す曲線図である。
【図2】本発明に係る実施例No.4、比較例No.12及び比較例No.13のガラスの分光透過率曲線を示す曲線図である。
【図3】本発明に係る実施例No.6及びNo.7のガラスの分光透過率曲線を示す曲線図である。
【図4】比較例No.9及びNo.10のガラスの分光透過率曲線を示す曲線図である。
【図5】本発明に係る視感度補正フィルタガラスを適用した撮像光学系の構成を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0052】
3…実施例ガラスNo.3の分光透過率曲線、4…実施例ガラスNo.4の分光透過率曲線、6…実施例ガラスNo.6の分光透過率曲線、7…実施例ガラスNo.7の分光透過率曲線、9…比較例ガラスNo.9の分光透過率曲線、10…比較例ガラスNo.10の分光透過率曲線、11…比較例ガラスNo.11の分光透過率曲線、12…比較例ガラスNo.12の分光透過率曲線、13…比較例ガラスNo.13の分光透過率曲線、30…撮像光学系、31…レンズ、32…視感度補正フィルタ、33…光学的ローパスフィルタ、34…カバーガラス、36…撮像素子、361…光電変換面

【出願人】 【識別番号】000158208
【氏名又は名称】AGCテクノグラス株式会社
【出願日】 平成18年6月21日(2006.6.21)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−1545(P2008−1545A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−171335(P2006−171335)