トップ :: C 化学 冶金 :: C01 無機化学

【発明の名称】 複合酸化物ナノ粒子の製造方法
【発明者】 【氏名】齊藤 肇

【要約】 【課題】3価金属元素と希土類元素との酸化物からなる複合酸化物ナノ粒子を組成および粒径が均一になるように製造することが可能な複合酸化物ナノ粒子の製造方法を提供する。

【解決手段】3価金属イオンおよび希土類イオンを含む酸性水溶液と炭酸を含む塩基性水溶液との混合液を、pH4〜5の範囲内、温度70〜95℃の範囲内で攪拌することにより、3価金属イオンを吸蔵した希土類炭酸塩からなる非晶質粒子を沈殿させる沈殿工程と、該非晶質粒子を焼成することにより結晶性の複合酸化物ナノ粒子を得る焼成工程とを含む、複合酸化物ナノ粒子の製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価金属元素と希土類元素との酸化物からなる複合酸化物ナノ粒子を得るための製造方法であって、
3価金属イオンおよび希土類イオンを含む酸性水溶液と炭酸塩を含む塩基性水溶液との混合液を、pH4.0〜5.0の範囲内、温度70〜95℃の範囲内で攪拌し、前記3価金属イオンを吸蔵した希土類炭酸塩からなる非晶質粒子を沈殿させる沈殿工程と、
前記非晶質粒子を焼成することにより結晶性の複合酸化物ナノ粒子を得る焼成工程と、
を含む、複合酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記3価金属イオンが、アルミニウムおよびガリウムから選択される1以上の金属元素のイオンである、請求項1に記載の複合酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記希土類イオンが、イットリウム、ランタン、ガドリニウム、ルテチウムから選択される1以上の希土類元素のイオンを含む、請求項1に記載の複合酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記希土類イオンが、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウムから選択される1以上の希土類元素のイオンをさらに含む、請求項3に記載の複合酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程における焼成温度が600〜1500℃の範囲内である、請求項1に記載の複合酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記焼成工程における焼成温度プロファイルが、600℃以上1000℃未満の範囲内および1000℃以上1500℃以下の範囲内のそれぞれに、30分以上の一定温度領域を1以上有する、請求項5に記載の複合酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記炭酸塩が、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムのいずれかである、請求項1に記載の複合酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記酸性水溶液および前記塩基性水溶液の少なくともいずれかがグリコールを含む、請求項1に記載の複合酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記グリコールが、テトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキサメチレングリコールのいずれかである、請求項8に記載の複合酸化物ナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、3価金属元素と希土類元素との酸化物からなる複合酸化物ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスの原料となる種々の金属酸化物においては、近年ナノオーダーの微粒子化が要求されている。たとえば、ナノオーダーの粒径を有する金属酸化物ナノ粒子を焼結させた焼結体をエンジニアリングセラミックスの分野に用いる場合、該金属酸化物ナノ粒子を作製するための原料をナノ粒子化することにより、機械的強度や耐摩耗性に優れる部材を与えることが可能な緻密な焼結体を形成できる。また上記のような金属酸化物ナノ粒子を蛍光体の分野に用いる場合、励起光の散乱損失を低減し発光中心の遷移確率を増大させることが可能な蛍光体が得られる。
【0003】
上記のような金属酸化物ナノ粒子は、多くの場合2以上の金属酸化物の複合体、すなわち複合酸化物ナノ粒子からなる。中でも、発光材料であるイットリウム・アルミニウム・ガーネットや、触媒材料であるランタン・アルミニウム・ペロブスカイト、磁性材料である希土類・鉄・ガーネット等、3価金属元素と希土類元素との酸化物からなる複合酸化物のナノ粒子は、産業上高い付加価値を有する。
【0004】
複合酸化物の代表的な合成手法である固相法は、所定の組成からなる単純酸化物を粉砕混合し、相互拡散を促進させるための融剤を添加して高温で焼成するものである。固相法は、簡便である反面ナノサイズの粒子の合成は困難である。一方、金属イオンの状態から酸化物を合成出来る液相法はナノ粒子化に有利であり、特に金属炭酸塩を沈殿させて得られる焼成前の1次粒子は、平均粒径が数nm〜数百nm程度と小さく、造粒を抑えた低温焼成による結晶化が容易である。このことから、従来、炭酸塩を用いた酸化物微粒子の製造技術が開示されている。
【0005】
ところが、上記の液相法によって所定の組成を有する複合酸化物、とりわけ3価金属元素と希土類元素との酸化物からなる複合酸化物の微粒子を合成することは甚だ困難である。酸性溶液中の希土類イオンは塩基性の炭酸塩水溶液の添加によって容易に金属炭酸塩を生成するのに対し、酸性溶液中の3価金属イオンは塩基性の炭酸塩水溶液の添加によって水酸化物を形成し易く、常圧下で3価金属の炭酸塩として単離することは困難であるからである。
【0006】
たとえば、特許文献1には、イットリウムアルミニウムガーネット微粉体の製造方法として、金属イオンの0.1〜2.0倍量の硫酸イオンを共存させ、沈殿剤として炭酸塩水溶液を母液のpHが3.5〜7.5の範囲となるよう添加して沈殿物を得ることにより、凝集が少なく均一かつ微細な一次粒径のイットリウムアルミニウムガーネット微粉体を得る方法が開示されている。ところが、当該公報に記されているpH範囲において生成する炭酸塩および塩基性炭酸塩の沈殿物のほとんどは炭酸イットリウムであり、アルミニウムの炭酸塩は極微量しか生成しない。このため、焼成段階でイットリウムとアルミニウムとの組成比にばらつきが生じやすく、単一組成からなるイットリウムアルミニウムガーネット結晶粉末は得られにくいという問題がある。
【0007】
特許文献2には、イットリウムアルミニウムガーネット微粉体の製造方法として、pHを7.5〜11.0とした炭酸塩水溶液中にイットリウムとアルミニウムとの鉱酸塩水溶液を添加して非晶質の炭酸塩沈殿物を得る方法が開示されている。しかし、アルカリ性である当該pH範囲ではイットリウム・アルミニウム共に水酸化物となりやすく、当該公報に記されている非晶質炭酸塩の占める割合はごくわずかである。水酸化物から焼成を経て得られたイットリウムアルミニウムガーネットは粒径が大きく不均一であるため、微細な結晶粉末は得られにくいという問題がある。
【0008】
すなわち、従来の製造方法およびその改良では、3価金属元素と希土類元素との酸化物からなる、組成と粒径とが均一な複合酸化物ナノ粒子を製造することができなかった。
【特許文献1】特開平10−101333号公報
【特許文献2】特開平10−101411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の課題を解決し、3価金属元素と希土類元素との酸化物からなる複合酸化物ナノ粒子を組成および粒径が均一になるように製造することが可能な複合酸化物ナノ粒子の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、複合酸化物ナノ粒子の製造工程における沈殿物の生成過程を詳細に研究した結果、3価金属の不溶性塩が生じずかつ希土類炭酸塩の非晶質粒子が生じ得る条件で中和反応を行なうことにより、希土類炭酸塩の非晶質粒子に3価金属イオンを吸蔵させることができ、これにより均一な組成のナノ粒子を形成できることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、3価金属イオンおよび希土類イオンを含む酸性水溶液と炭酸塩を含む塩基性水溶液との混合液を、pH4.0〜5.0の範囲内、温度70〜95℃の範囲内で攪拌することにより、3価金属イオンを吸蔵した希土類炭酸塩からなる非晶質粒子を沈殿させる沈殿工程と、該非晶質粒子を焼成することにより結晶性の複合酸化物ナノ粒子を得る焼成工程とを含む、複合酸化物ナノ粒子の製造方法に関する。
【0012】
本発明における3価金属イオンは、アルミニウムおよびガリウムから選択される1以上の金属元素のイオンであることが好ましい。
【0013】
本発明における希土類イオンは、イットリウム、ランタン、ガドリニウム、ルテチウムから選択される1以上の希土類元素のイオンを含むことが好ましい。この場合、希土類イオンが、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウムから選択される1以上の希土類元素のイオンをさらに含むことが好ましい。
【0014】
本発明の焼成工程における焼成温度は、600〜1500℃の範囲内であることが好ましい。
【0015】
本発明の焼成工程における焼成温度プロファイルは、600℃以上1000℃未満の範囲内および1000℃以上1500℃以下の範囲内のそれぞれに、30分以上の一定温度領域を1以上有することが好ましい。
【0016】
本発明における炭酸塩は、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムのいずれかであることが好ましい。
【0017】
本発明においては、酸性水溶液および塩基性水溶液の少なくともいずれかがグリコールを含むことが好ましい。また、該グリコールは、テトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキサメチレングリコールのいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、3価金属をイオンの状態で希土類炭酸塩に吸蔵させることにより、組成および粒径が均一な複合酸化物ナノ粒子を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の複合酸化物ナノ粒子の製造方法は、3価金属イオンおよび希土類イオンを含む酸性水溶液(以下、単に酸性水溶液とも称する)と炭酸塩を含む塩基性水溶液(以下、単に塩基性水溶液とも称する)との混合液を、pH4.0〜5.0の範囲内、温度70〜95℃の範囲内で攪拌することにより、3価金属イオンを吸蔵した希土類炭酸塩からなる非晶質粒子を沈殿させる沈殿工程と、該非晶質粒子を焼成することにより結晶性の複合酸化物ナノ粒子を得る焼成工程とを含む。
【0020】
本発明においては、沈殿工程におけるpH条件および温度条件を所定の範囲内に制御し、3価金属の不溶性塩が生じずかつ希土類炭酸塩の非晶質粒子が生じ得る状態で、上記の酸性水溶液と塩基性水溶液とを混合して中和反応を進行させることにより、3価金属イオンを確実に希土類炭酸塩に吸蔵させることができる。これにより、所望される組成を有し、組成および粒径が均一な複合酸化物ナノ粒子を形成することができる。
【0021】
本発明においては、生成が容易な希土類炭酸塩を非晶質粒子として沈殿させ、これに3価金属イオンを吸蔵させる沈殿工程の後、焼成工程において非晶質粒子の結晶化を行なう。なお、非晶質粒子が非常に微細で水溶液底部に必ずしも沈降しなくても、難溶性のコロイド粒子として水溶液中に分散した状態であれば沈降したものと同じ性質を有するので、本発明では上記のようなコロイド粒子が生じる場合も含めて沈殿と称する。
【0022】
<希土類元素>
本発明で得られる複合酸化物ナノ粒子の母材の構成元素となる希土類元素としては、たとえば、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムから選択される1以上の希土類元素を用いることができる。特に、複合酸化物ナノ粒子をより容易に製造するためには、他の希土類元素との格子置換が容易で、自身が不活性であるイットリウム、ランタン、ガドリニウム、ルテチウムから選択される1以上の希土類元素を用いることが好ましい。一方、該母材の構成元素の一部が、活性な電子配置を有するセリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウムから選択される1以上の元素で置換される場合、電気的、光学的、化学的な付加価値を有する複合酸化物ナノ粒子を製造できる点で有利である。
【0023】
本発明において用いられる酸性水溶液に含まれる希土類イオンは、上述したような希土類元素のイオンであることができるが、複合酸化物ナノ粒子の製造の容易性の点で、イットリウム、ランタン、ガドリニウム、ルテチウムから選択される1以上の希土類元素のイオンを含むことが好ましい
また、本発明において用いられる酸性水溶液に含まれる希土類イオンが、セリウム、プラセオジウム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウムから選択される1以上の希土類元素のイオンをさらに含むことが好ましい。この場合、活性な電子配置を有する希土類元素を複合酸化物ナノ粒子に含有させることによって電気的、光学的、化学的な付加価値を有する複合酸化物ナノ粒子を製造できる。
【0024】
<3価金属元素>
本発明で得られる複合酸化物ナノ粒子は、上記の希土類元素とともに3価金属元素を構成元素とする。3価金属元素としては、たとえば、13族に属するアルミニウム、ガリウム、インジウム、さらに、酸化数+3をとり得る元素であるビスマス、鉄、銅、コバルト、クロム、マンガン、ニオブ、ニッケル等のうち酸化数が+3であるもの、等が採用され得る。なお3価金属元素は希土類元素であっても良い。希土類元素との組み合わせにおいて複合酸化物ナノ粒子を容易に生成させることができ、さら生成した複合酸化物が有用である点で、3価金属元素は、アルミニウムおよびガリウムから選択される1以上の金属元素であることが好ましい。
【0025】
本発明において用いられる酸性水溶液に含まれる3価金属イオンは、上述したような3価金属元素のイオンであることができるが、生成する複合酸化物ナノ粒子の有用性および該複合酸化物ナノ粒子の製造の容易性の点で、アルミニウムまたはガリウムから選択される1以上の金属元素のイオンであることが好ましい。
【0026】
<炭酸塩>
本発明において用いられる塩基性水溶液に含まれる炭酸塩は沈殿剤としての作用を有する。炭酸塩としては、水溶性で塩基性水溶液を与えることができ、かつ副生成物の除去が簡便であるものが好ましく、たとえば炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムが好適である。
【0027】
<複合酸化物ナノ粒子の製造>
(沈殿工程)
本発明の沈殿工程においては、上述したような3価金属イオンおよび希土類イオンを含む酸性水溶液と、上述したような炭酸塩を含む塩基性水溶液とを撹拌下で混合する。このとき、該酸性水溶液と該塩基性水溶液との中和反応により、希土類炭酸塩が生成する。本発明においては、3価金属元素がイオンの状態で確実に希土類炭酸塩に吸蔵されるように、酸性水溶液と塩基性水溶液との混合液のpHおよび温度の範囲を制御する。3価金属元素をイオンの状態で吸蔵させることにより、3価金属元素の水酸化物や単純酸化物等の中間体からなる不溶性の副生成物の生成を抑制し、所望される組成を有し、かつ該組成が均一な複合酸化物ナノ粒子を形成できる。
【0028】
3価金属イオンおよび希土類イオンを含む酸性水溶液としては、前述したような3価金属元素および希土類元素の硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩等の強酸塩を水に溶解させた水溶液が好ましく挙げられる。このような強酸塩の水溶液を用いる場合、3価金属元素および希土類元素が水溶液中で良好に電離して3価金属イオンおよび希土類イオンが供給され好ましい。
【0029】
また炭酸塩を含む塩基性水溶液としては、前述したような炭酸塩を水に溶解させた水溶液が好ましく挙げられる。
【0030】
酸性水溶液中の3価金属イオン濃度は、たとえば0.05〜5mol/lの範囲内とされることができる。該濃度が0.05mol/l以上である場合、電気的、光学的、化学的に有用な付加価値を有する複合酸化物ナノ粒子をより容易かつ高効率に製造することができ、5mol/l以下である場合、副生成物の生成による複合酸化物ナノ粒子の組成の不均一化や造粒による複合酸化物ナノ粒子の粒径の増大をより良好に抑制することができる。
【0031】
酸性水溶液中の希土類イオン濃度は、たとえば0.05〜5mol/lの範囲内であることができる。該濃度が0.05mol/l以上である場合、電気的、光学的、化学的に有用な付加価値を有する複合酸化物ナノ粒子をより容易かつ高効率に製造することができ、5mol/l以下である場合、副生成物の生成による複合酸化物ナノ粒子の組成の不均一化や造粒による複合酸化物ナノ粒子の粒径の増大をより良好に抑制することができる。
【0032】
一方、塩基性水溶液中の炭酸イオン濃度は、酸性水溶液と塩基性水溶液との混合液におけるpHにより左右されるが、本発明において用いられる塩基性水溶液は、たとえば0.1〜20mol/lの範囲内で炭酸塩を水に溶解させて調製することができる。該濃度が0.1mol/l以上である場合、電気的、光学的、化学的に有用な付加価値を有する複合酸化物ナノ粒子をより容易かつ高効率に製造することができ、20mol/l以下である場合、副生成物の生成による複合酸化物ナノ粒子の組成の不均一化や造粒による複合酸化物ナノ粒子の粒径の増大をより良好に抑制することができる。
【0033】
3価金属元素をイオンの状態で希土類炭酸塩に吸蔵させるためには、3価金属イオンおよび希土類イオンを含む酸性水溶液と炭酸塩を含む塩基性水溶液との中和反応を、希土類炭酸塩が生成可能なpH=4.0以上、かつ、3価金属元素の水酸化物や単純酸化物等の中間体が生じ難いpH=5.0以下で行なう必要がある。該中和反応は、pH4.2〜4.8の範囲内で行なうことがより好ましい。上記中和反応のpH条件の制御は、3価金属イオンおよび希土類イオンを含む酸性水溶液と炭酸塩を含む塩基性水溶液との混合比の調整により行なうことができる。
【0034】
本発明において、沈殿工程の温度条件は70〜95℃の範囲内とされる。本発明においては、3価金属イオンおよび希土類イオンを含む酸性水溶液と炭酸塩を含む塩基性水溶液との中和反応を進行させ、希土類炭酸塩からなる非晶質粒子を沈殿させる。非晶質粒子は、希土類炭酸塩の生成核の成長を抑制して急激な核生成を生ぜしめることにより生成させることができる。よって、本発明においては、沈殿物として生成する非晶質粒子の結晶化を促進させる熟成を避けることが好ましい。沈殿工程の温度条件が70℃以上であれば、中和反応による希土類炭酸塩の生成速度を十分高く確保して熟成を避けることができる。一方、沈殿工程における温度条件が95℃以下であれば、生成核の成長を抑制して非晶質粒子の結晶化を十分良好に抑制できる。該温度条件は、より好ましくは72℃以上、さらに好ましくは75℃以上とされることができ、また、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下とされることができる。
【0035】
沈殿工程における酸性水溶液と塩基性水溶液との混合は撹拌下で行なわれる。これにより、造粒を抑制して粒径の均一な非晶質粒子を形成できるため、粒径が均一な複合酸化物ナノ粒子を形成することができる。撹拌は、攪拌子を用いる方法等従来公知の方法で行なうことができる。
【0036】
沈殿工程の攪拌時間は1時間以内が好ましく、この場合、非晶質粒子の結晶化や造粒を防止して均一な粒径の非晶質粒子をより確実に形成することができる点で有利である。攪拌時間は30分以内がより好ましい。
【0037】
上記の酸性水溶液および上記の塩基性水溶液からなる混合液は、グリコールをさらに含んでも良い。本発明の製造方法においては、複合酸化物ナノ粒子を炭酸塩から合成するため、たとえば固相法に比べて複合酸化物ナノ粒子の粒径を十分小さくすることができるが、該混合液にグリコールが添加される場合、造粒が抑えられることよって、より粒径が小さい複合酸化物ナノ粒子を生成させることができる。グリコールは酸性水溶液中および塩基性水溶液中の少なくともいずれかに予め添加されていることが好ましい。グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等を用いることができる。造粒抑制効果はグリコールの分子量が大きい方が良好であり、分子量が90以上であるテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキサメチレングリコールが特に好ましい。
【0038】
上記のような方法で沈殿として得られる、3価金属イオンが吸蔵された希土類炭酸塩からなる非晶質粒子は、水洗、乾燥等を経て適宜回収される。
【0039】
(焼成工程)
本発明においては、上記の沈殿工程で得られた非晶質粒子を焼成工程において結晶化させ、結晶性の複合酸化物ナノ粒子を得る。焼成工程においては、希土類炭酸塩からの脱炭酸、および複合結晶化による複合酸化物ナノ粒子の生成の2段階で反応が進行する。
【0040】
焼成工程は、大気中あるいは酸素中で行なうことが好ましい。一方、窒素中、水素中等の還元雰囲気下においては、組成が均一な複合酸化物ナノ粒子が得られ難い傾向がある。
【0041】
焼成工程における焼成温度は、600〜1500℃の範囲内であることが好ましい。該焼成温度が600℃以上である場合、希土類炭酸塩からの脱炭酸が良好に進行するとともに、未分解物による複合結晶化の阻害を良好に防止できる点で有利である。複合酸化物の種類によって好適な焼成温度は異なるが、本発明の製造方法において沈殿物として得られる非晶質粒子は原子レベルで均一な組成を有するため、固相法等に比べて大幅に低い焼成温度で高品質な複合酸化物の結晶を得ることが可能である。また、造粒による複合酸化物粒子の肥大化を防ぐため、焼成温度は低い方が好ましい。本発明において、焼成工程における焼成温度が1500℃以下である場合、たとえば数十〜数百nmの粒径を有する複合酸化物ナノ粒子が良好に得られる点で有利である。
【0042】
本発明において、上述した脱炭酸および複合結晶化の2段階の反応を十分に進行させるためには、各々の反応に対して好適な温度をそれぞれ一定時間保持する2段階以上の温度プロファイルで焼成を行なうことが好ましく、特に、600℃以上1000℃未満の範囲内および1000℃以上1500℃以下の範囲内にそれぞれ30分以上の一定温度領域を1以上有する焼成温度プロファイルで焼成を行なうことが好ましい。該一定温度領域は、さらに60分以上とされることが好ましい。
【0043】
本発明の製造方法によって得られる複合酸化物ナノ粒子は均一な組成を有する。該複合酸化物ナノ粒子の組成が均一であるか否かは、たとえばX線回折装置を用いて測定した回折パターンが単一相であることを示すか否かによって評価できる。
【0044】
本発明の製造方法によって得られる複合酸化物ナノ粒子は、粒径分布が小さく均一な粒径を有する。該複合酸化物ナノ粒子の粒径が均一であるか否かは、たとえば電子顕微鏡で観察される複合酸化物ナノ粒子の粒径の評価において、測定した粒径の最大ばらつきが粒径の標準偏差の3倍以内であるか否か、等の基準により評価できる。
【0045】
本発明の製造方法により得られる複合酸化物ナノ粒子は、好ましくは500nm以下、より好ましくは10〜100nmの範囲内の平均粒径を有することができる。該平均粒径が500nm以下である場合、たとえばエンジニアリングセラミックスの分野に適用された場合の機械的強度および耐摩耗性の向上や、蛍光体の分野に適用された場合の発光効率の向上等、使用される分野における電気的、光学的、化学的な付加価値を良好に得ることができる。なお該平均粒径は、たとえば電子顕微鏡で観察される複合酸化物ナノ粒子の粒径を計測し、その数平均を算出する方法等により求めることができる。
【0046】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
実施例1では、本発明の複合酸化物ナノ粒子として、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(Y3Al512、以下YAGと省略する)ナノ粒子を製造した。
【0048】
純度99.99%の硝酸イットリウム(Y(NO33)11.0g、純度99.99%の硝酸アルミニウム(Al(NO33)14.2gをイオン交換水200mlに攪拌しながら溶解させ、Y3+イオンからなる希土類イオンとAl3+イオンからなる3価金属イオンとを含む酸性水溶液を作製した。室温にて該酸性水溶液のpHを測定したところ、3.8であった。
【0049】
次いで、純度99.9%の炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)をイオン交換水250mlに攪拌しながら飽和するまで溶解させ、炭酸塩を含む塩基性水溶液を作製した。室温にて該塩基性水溶液のpHを測定したところ、8.0であった。
【0050】
(沈殿工程)
上記の塩基性水溶液を、Y3+イオンとAl3+イオンとを含む上記の酸性水溶液にpH=4.8となるまで加えて混合液を調製し、温度を90℃に調整して1時間攪拌を続けたところ、水溶液は白濁したコロイド液となった。
【0051】
遠心分離によって、白濁したコロイド液から沈殿物を湿潤ゲルとして分離し、該沈殿物を再度イオン交換水に分散させる水洗工程を4回行なった。得られた湿潤ゲルを150℃で30分乾燥させ、白色の乾燥粉末を得た。
【0052】
上記で得た沈殿物の乾燥粉末を電子顕微鏡で観察したところ、直径20nmの均一な粒径分布を有する球状粒子であった。
【0053】
図1は、実施例1で作製した沈殿物および焼成物の粉末X線装置による回折パターンを示す図である。上記で得た沈殿物の乾燥粉末の粉末X線装置による回折パターンは明瞭なピークを示さず、本粒子が非晶質粒子であることが確認された。
【0054】
(焼成工程)
次いで、上記乾燥粉末をアルミナるつぼに充填し、電気炉を用い、大気雰囲気中で、800℃で1時間、および1000℃で3時間の2段階の焼成温度プロファイルにより焼成を行なった。図2は、実施例1の焼成工程の焼成温度プロファイルを示す図である。
【0055】
焼成工程の終了後、アルミナるつぼを炉外に取り出し、急速冷却を行なった。室温まで冷却した後、得られた焼成物の粉末を電子顕微鏡で観察したところ、平均粒径70nmの均一な分布を有する不定形のナノ粒子であった。また、得られた焼成物の粉末の粉末X線装置による回折パターンから、該粉末はYAGの単一相よりなる結晶粒子であることが確認された(図1)。以上より、実施例1において複合酸化物ナノ粒子が得られたことが確認できた。
【0056】
なお、上記の沈殿工程で得た沈殿物の乾燥粉末を圧粉成型し、図2と同様の焼成温度プロファイルで焼成を行なって焼結体を作製したところ、透明度の高い焼結体が得られた。該焼結体の密度をアルキメデス法により評価したところ焼結体密度は理論密度に等しく、焼結体断面の電子顕微鏡観察では細孔は認められなかった。
【0057】
<比較例1>
比較例1では、従来の固相法にてYAG結晶粉末を作製した。純度99.99%の酸化イットリウム(Y23)4.5g、純度99.99%の酸化アルミニウム(Al23)3.4g、特級フッ化バリウム(BaF2)0.1gを計量し、エタノールを加えてボールミルで粉砕混合した。得られた混合粉末の平均粒径は0.3μmで、混合条件を変えてもこれ以上の微粉砕は不可能であった。該混合粉末をアルミナるつぼに充填し、電気炉を用いて大気雰囲気中1600℃で3時間焼成した。焼成終了後にアルミナるつぼを炉外に取り出し、急速冷却を行なった。得られた焼成塊を再度ボールミルで粉砕混合し、平均粒径1μmの粉末を得た。粉末X線装置による回折パターンは、実施例1の粉末と同様YAGの単一相よりなる結晶粒子であったが、焼成温度が1500℃以下では異相の混入が確認された。
【0058】
また、上記の混合粉末を圧粉成型して実施例1と同様の焼結を行ったところ、焼結体密度は理論密度のほぼ92%程度で、不透明な白色の焼結体であった。焼結体断面の電子顕微鏡観察では数百nmの大きさで細孔の残留が認められた。
【0059】
<実施例2〜9,比較例2〜9>
実施例2においては、本発明の複合酸化物ナノ粒子として、イットリウム・アルミニウム・ガーネットにセリウムイオン(Ce3+)を付活させたYAG:Ce蛍光体を作製した。
【0060】
実施例1における硝酸イットリウムを10.7gとし、純度99.99%の硝酸セリウム(Ce(NO33)0.4gを共に加えた他は実施例1と同様にして、酸性水溶液および塩基性水溶液を調製した。本実施例で調製した酸性水溶液の室温でのpHは3.5であった。上記で調製した酸性水溶液を、実施例1と同様の方法で塩基性水溶液にpH=4.2となるまで加えて混合液を調製し、さらに実施例1と同様の操作を行ない、複合酸化物ナノ粒子として、平均粒径70nmのYAG:Ce蛍光体(組成式は(Y0.97Ce0.033Al512)を得た。
【0061】
また、沈殿工程における混合液のpHおよび攪拌温度を表1に示す条件に設定した他は実施例2と同様にして、実施例3〜9,比較例2〜9の複合酸化物ナノ粒子を作製した。なお混合液のpHは、酸性水溶液と塩基性水溶液との混合比を変えることにより調整した。
【0062】
【表1】


【0063】
図3は、実施例5で作製した複合酸化物ナノ粒子の発光スペクトルを示す図である。実施例5の複合酸化物ナノ粒子を波長450nmのInGaN青色LEDで励起したところ、図3に示すようなスペクトルの緑黄色発光が得られた。
【0064】
図4は、実施例2〜6および比較例2〜4の沈殿工程における混合液のpHと、焼結工程を経て得られた複合酸化物ナノ粒子の平均粒径および発光効率との関係を示す図である。なおpHが4.0未満では沈殿工程において非晶質粒子の沈殿が認められなかった。pHが5.0を超える比較例2〜4では、pHが4.0〜5.0の範囲内である実施例2〜6と比べて複合酸化物ナノ粒子の平均粒径が増大した。これは、中和反応時に酸性水溶液中のAl3+イオンが水酸化物(Al(OH)3)となって沈殿したためと考えられる。またpHが5.0を超える比較例2〜4では、pHが4.0〜5.0の範囲内である実施例2〜6と比べて複合酸化物ナノ粒子の発光効率が低下した。これは、YAG以外の異相混入が生じ、また個々の粒子の組成も不均一となったためと考えられる。
【0065】
図5は、実施例2,7〜9および比較例5〜9の沈殿工程における攪拌温度と、焼結工程を経て得られた複合酸化物ナノ粒子の発光効率との関係を示す図である。攪拌温度が70℃未満である比較例5〜8、および95℃を超える比較例9においては、攪拌温度が70〜95℃の範囲内である実施例2,7〜9と比べて発光効率が低下した。これは、攪拌温度が70℃未満の場合には中和反応の速度が遅く、95℃を超える場合には生成核の成長が生じて、いずれの場合にも沈殿工程で非晶質粒子を形成することができず、またAl3+イオンの吸蔵が十分に行われなかったために、結晶構造においてYAG以外の異相混入が生じたためと考えられる。
【0066】
<実施例10〜21>
焼成工程における焼成温度を表2に示す温度に設定して3時間焼成した他は、実施例5と同様にして、複合酸化物ナノ粒子としてのYAG:Ce蛍光体を作製した。
【0067】
【表2】


【0068】
図6は、実施例10〜21の焼成工程における焼成温度と複合酸化物ナノ粒子の平均粒径および発光効率との関係を示す図である。複合酸化物ナノ粒子の平均粒径は焼成温度が低い程小さくすることができ、特に焼成温度が1500℃以下である場合には微粒子化を良好に行なえることが分かる。また1500℃以下である場合発光効率も良好であり、これは粒径が小さいことによって散乱損失が抑制されているためと考えられる。
【0069】
<実施例22>
実施例22においては、複合酸化物ナノ粒子として、さらに微細なYAG:Ce蛍光体を作製した。
【0070】
3+イオン、Ce3+イオンおよびAl3+イオンを含む酸性水溶液中に、エチレングリコール200gを溶解させ、水洗工程の回数を6回とした他は、実施例5と同様にして、複合酸化物ナノ粒子としてのYAG:Ce蛍光体を作製した。得られたYAG:Ce蛍光体の平均粒径は64nmであり、実施例5に比べてさらに微細なナノ粒子蛍光体が得られた。
【0071】
<実施例23〜26>
グリコールの種類を、エチレングリコールに代えて表3に示すグリコールとした他は、実施例22と同様にして、複合酸化物ナノ粒子としてのYAG:Ce蛍光体を作製した。各々の実施例で用いたグリコールの分子量、および得られた複合酸化物ナノ粒子の平均粒径を表3に示す。
【0072】
【表3】


【0073】
<実施例27>
ヘキサメチレングリコールを酸性水溶液に代えて塩基性水溶液中に溶解させた他は実施例25と同様にして、複合酸化物ナノ粒子としてのYAG:Ce蛍光体を作製したところ、実施例25とほぼ同様の平均粒径のYAG:Ce蛍光体が得られた。
【0074】
<実施例28>
ヘキサメチレングリコールを酸性水溶液中および塩基性水溶液中に溶解させた他は実施例25と同様にして、複合酸化物ナノ粒子としてのYAG:Ce蛍光体を作製したところ、実施例25とほぼ同様の平均粒径のYAG:Ce蛍光体が得られた。
【0075】
グリコールを添加して沈殿工程を行なった実施例22〜28においては、実施例5に比べていずれも平均粒径が小さい複合酸化物ナノ粒子を得ることができた。また、用いたグリコールの分子量が大きくなる程造粒抑制効果が高いという結果が得られた。特に、蛍光体用途としてはMie散乱による損失を抑えるために、複合酸化物ナノ粒子の平均粒径を50nm以下とすることが望ましく、分子量90以上のグリコールを添加することが好ましいと考えられる。
【0076】
<実施例29>
実施例29においては、複合酸化物ナノ粒子として、ランタン・アルミニウム・ペロブスカイト(LaAlO3、以下LAOと省略する)ナノ粒子を作製した。
【0077】
純度99.99%の硝酸ランタン(La(NO33)13.0g、純度99.99%の硝酸アルミニウム(Al(NO33)8.5gを、イオン交換水200mlに攪拌しながら溶解させ、La3+イオンとAl3+イオンとを含む酸性水溶液を作製した。次いで純度99.9%の炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)をイオン交換水250mlに攪拌しながら飽和するまで溶解させ、炭酸塩を含む塩基性水溶液を作製した。これを、La3+イオンとAl3+イオンとを含む酸性水溶液にpH=4.5となるまで加え、温度を95℃に調整して1時間攪拌を続けた。遠心分離によってコロイド液から湿潤ゲルを分離し、水洗工程を経て得られた湿潤ゲルを150℃で30分乾燥させ、非晶質粒子からなる乾燥粉末を得た。これをアルミナるつぼに充填し、電気炉を用いて大気雰囲気中で800℃、3時間で焼成を行なった。焼成終了後にアルミナるつぼを炉外に取り出し、急速冷却を行なった。以上の操作により複合酸化物ナノ粒子の結晶粉末を得た。
【0078】
得られた複合酸化物ナノ粒子を電子顕微鏡で観察したところ、平均粒径50nmの均一な粒径分布を有するナノ粒子であった。また、粉末X線装置による回折パターンから、該複合酸化物ナノ粒子は、LAOの単一相よりなる結晶粒子であることが確認された。
【0079】
<比較例10>
比較例10では、従来の固相法にてLAO結晶粉末を作製した。酸化ランタン(La23)18gおよび酸化アルミニウム(Al23)4gを原料とし、比較例1と同様の方法でLAO結晶粉末を作製し、粉末X線装置で回折パターンを評価したところ、ペロブスカイト相を得るのに1500℃以上の焼成温度を必要とし、1700℃で焼成しても異相が残留していることが分かった。
【0080】
<実施例30>
実施例30では、複合酸化物ナノ粒子として、ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(Gd3Ga512、以下GGGと省略する)結晶粉末を作製した。
【0081】
純度99.99%の硝酸ガドリニウム(Gd(NO33)13.7g、純度99.99%の硝酸ガリウム(Ga(NO33)16.8gをイオン交換水200mlに攪拌しながら溶解させ、Gd3+イオンとGa3+イオンとを含む酸性水溶液を作製した。次いで純度99.9%の炭酸水素カリウム(KHCO3)をイオン交換水250mlに攪拌しながら飽和するまで溶解させ、炭酸塩を含む塩基性水溶液を作製した。これをGd3+イオンとGa3+イオンとを含む酸性水溶液にpH=5.0となるまで加え、温度を95℃に調整して1時間攪拌を続けた。遠心分離によってコロイド液から湿潤ゲルを分離し、水洗工程を経て得られた湿潤ゲルを150℃で30分乾燥させ、非晶質粒子からなる乾燥粉末を得た。これをアルミナるつぼに充填し、電気炉を用いて大気雰囲気中で800℃、1時間および1000℃、3時間の2段階の焼成温度プロファイルで焼成を行なった。焼成終了後にアルミナるつぼを炉外に取り出し、急速冷却を行なった。以上の操作により複合酸化物ナノ粒子の結晶粉末を得た。
【0082】
得られた複合酸化物ナノ粒子を電子顕微鏡で観察したところ、平均粒径30nmの均質な形状を有する微粒子であった。また、粉末X線装置による回折パターンから、該複合酸化物ナノ粒子はGGGの単一相からなる結晶粒子であることが確認された。
【0083】
<比較例11>
比較例11では、従来の固相法にてGGG結晶粉末を作製した。酸化ガドリニウム(Gd23)14.5gおよび酸化ガリウム(Ga23)12.4gを原料とし、比較例1と同様の方法でGGG結晶粉末を作製した。比較例11では、ガーネット単一相を得るのに1400℃以上の焼成温度を必要とし、粉砕混合や焼成条件を改善しても、平均粒径0.5μm以下の粒子は合成できなかった。
<比較例12>
1mol/lのYCl3水溶液90mlと1mol/lのAlCl3水溶液150mlとを混合し、0.75倍等量となる硫酸10mlを添加して母液とした。室温に保った母液に炭酸水素アンモニウムを加えてpH=4.8とし、25℃で12時間の攪拌熟成を行なった。これにアンモニア水を加えてpH=7.5とした後、沈殿物を6回水洗濾過して生成物を得た。X線回折パターンおよび組成分析の結果から、該生成物は結晶学的にはアモルファスで、組成はY:Al=3:5(化学量論的組成)であることが分かった。
【0084】
上記の生成物を、大気中、120℃で2時間乾燥した後、大気中、1200℃で1時間焼成し、YAG粒子を得た。該YAG粒子の粒子径は100〜200nmであった。該YAG粒子を10φ金型を用いてペレット成型した後、大気中、1650℃で3時間焼成し、YAG焼結体を得た。
【0085】
図7は、比較例12で作製したYAG焼結体のX線回折パターンを示す図である。比較例12で作製したYAG焼結体の化学量論比はYAG組成であるが、回折パターンから、該YAG焼結体は単一相ではなく異相の混入が生じていることが分かった。
【0086】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の製造方法により得られる複合酸化物ナノ粒子は、たとえばエンジニアリングセラミックスや蛍光体等に好適に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】実施例1で作製した沈殿物および焼成物の粉末X線装置による回折パターンを示す図である。
【図2】実施例1の焼成工程の焼成温度プロファイルを示す図である。
【図3】実施例5で作製した複合酸化物ナノ粒子の発光スペクトルを示す図である。
【図4】実施例2〜6および比較例2〜4の沈殿工程における混合液のpHと、焼結工程を経て得られた複合酸化物ナノ粒子の平均粒径および発光効率との関係を示す図である。
【図5】実施例2,7〜9および比較例5〜9の沈殿工程における攪拌温度と、焼結工程を経て得られた複合酸化物ナノ粒子の発光効率との関係を示す図である。
【図6】実施例10〜21の焼成工程における焼成温度と複合酸化物ナノ粒子の平均粒径および発光効率との関係を示す図である。
【図7】比較例12で作製したYAG焼結体のX線回折パターンを示す図である。
【出願人】 【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
【出願日】 平成18年9月29日(2006.9.29)
【代理人】 【識別番号】100064746
【弁理士】
【氏名又は名称】深見 久郎

【識別番号】100085132
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 俊雄

【識別番号】100083703
【弁理士】
【氏名又は名称】仲村 義平

【識別番号】100096781
【弁理士】
【氏名又は名称】堀井 豊

【識別番号】100098316
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 久登

【識別番号】100109162
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 將行


【公開番号】 特開2008−87977(P2008−87977A)
【公開日】 平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願番号】 特願2006−267149(P2006−267149)