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【発明の名称】 アンモニアの回収方法
【発明者】 【氏名】天川 和彦

【氏名】田中 文生

【氏名】設楽 琢治

【要約】 【課題】アンモ酸化の反応生成ガスから生成したニトリル化合物を分離した後、残存ガス中のアンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を水に吸収させて得られた水溶液の蒸留によるアンモニアの回収を長期間にわたり実施可能な方法を提供する。

【解決手段】アンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を含有する水溶液からアンモニアを回収する方法であり、該方法は、少なくとも該水溶液に接触する部分がモリブデンを3wt%以上、ニッケルを15wt%以上、クロムを15wt%以上含有する合金1、または、モリブデンを1wt%以上、ニッケルを9wt%以下、クロムを20wt%以上含有する合金2で形成されている蒸留装置を用いて該水溶液を蒸留する工程を含むことを特徴とするアンモニアの回収方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を含有する水溶液からアンモニアを回収する方法であり、該方法は、少なくとも該水溶液に接触する部分がモリブデンを3wt%以上、ニッケルを15wt%以上、クロムを15wt%以上含有する合金1、または、モリブデンを1wt%以上、ニッケルを9wt%以下、クロムを20wt%以上含有する合金2で形成されている蒸留装置を用いて該水溶液を蒸留する工程を含むことを特徴とするアンモニアの回収方法。
【請求項2】
前記合金1がハステロイCまたはその相当材である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記合金2がSUS329J1、SUS329J3L、SUS329J4L、SUS447J1またはその相当材である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
2.7wt%以上のアンモニアを含む水溶液に接触し、かつ、90℃以上に加熱される部分を前記合金で形成する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記水溶液の蒸発と凝縮が定常的に起こる部位を前記合金で形成する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記水溶液がアンモニアを5〜50wt%、シアン化水素を0.1〜5wt%、二酸化炭素を1〜20wt%含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
蒸留を0.1〜0.7MPaGの圧で行う請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記蒸留装置の底部から得られた水の少なくとも一部を、アンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素の吸収に再使用する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記蒸留装置の頂部から得られる留出成分の一部を凝縮し、残部をガスとしてそのまま蒸留装置から抜き出す請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記水溶液を、少なくとも1個の有機置換基を有する環状炭化水素または複素環化合物とアンモニアを反応させて反応ガスを得、該反応ガスから生成したニトリル化合物を分離し、次いで、残存ガス中のアンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を水に吸収させて得る請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記環状炭化水素がキシレンであり、ニトリル化合物がジシアノベンゼンである請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1個の有機置換基を有する環状炭化水素または複素環化合物とアンモニアを反応させて反応ガスを得る工程、該反応ガスから生成したニトリル化合物を分離する工程、残存ガス中のアンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を水に吸収させて水溶液を得る工程、および、該水溶液から請求項1に記載の方法によりアンモニアを回収する工程を含むニトリル化合物の製造方法。
【請求項13】
回収したアンモニアを前記環状炭化水素または複素環化合物との反応に再使用する請求項12に記載のニトリル化合物の方法。
【請求項14】
前記環状炭化水素がキシレンであり、ニトリル化合物がジシアノベンゼンである請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明はアンモニア、二酸化炭素、およびシアン化水素を含有する水溶液から、蒸留によりアンモニアを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ニトリル化合物は、合成樹脂、農薬等の製造原料およびアミン、イソシアネート等の中間原料として有用である。一方、複素環ニトリル化合物は、医薬品、飼料添加剤、食品添加剤等の中間原料として有用である。有機置換基を有する環状炭化水素または複素環化合物等とアンモニアおよび酸素含有ガスを反応させる方法はアンモ酸化と呼ばれ、一般に気相接触反応によりニトリル化合物が製造される。該アンモ酸化にはバナジウム、モリブデン、鉄などを含む触媒を用いることが公知である。例えば特許文献1には、V〜Cr〜B〜Mo系の酸化物を含有する触媒を用い、アルキル置換の環状炭化水素や複素環化合物をアンモ酸化する方法が記載されている。また特許文献2には、Fe〜Sb〜V系の酸化物を含有する触媒を用い、キシレンのアンモ酸化によりジシアノベンゼンを製造する方法が記載されている。
【0003】
これらの方法で芳香族ニトリル化合物や複素環ニトリル化合物をより高収率で得る為に、理論量より過剰のアンモニアが使用される。アルキル置換の環状炭化水素や複素環化合物では、通常、アルキル基に対して1.5〜10倍モルのアンモニアが用いられる。従って、芳香族ニトリル化合物または複素環ニトリル化合物を経済的に製造する為には、反応生成ガス中のニトリル化合物を分離した後、残存ガスに含まれる未反応アンモニアを回収し反応系に戻すことが必要となる。
【0004】
アンモ酸化の反応生成ガスからニトリル化合物を分離した後、残存ガスから未反応アンモニアを回収し反応系に戻す方法としては、未反応アンモニアを水に吸収し、得られた水溶液から蒸留操作によりアンモニアを回収する方法が一般に知られている。
【0005】
例えば、非特許文献1には金属酸化物触媒存在下での気相接触流動反応のアンモ酸化により芳香族ニトリルを製造する方法が記載されている。この場合、反応生成ガスを冷却器で冷却してニトリル化合物を捕集した後、残存ガスを吸収塔に導き未反応アンモニアと副生したシアン化水素を水に溶解させ、廃ガス(一酸化炭素、窒素等)と分離する。得られた水溶液は放散塔に導き高沸点物を含む廃水とアンモニア、シアン化水素、水等を含む留分に分離される。該留分を蒸留塔に導きアンモニアと水溶液(シアン化水素と炭酸アンモニウムを含む)とに分離される。次に該水溶液はシアン化水素・炭酸ガスとアンモニア・水とに分離され、アンモニア・水は前段の蒸留塔に戻される。
【0006】
また、非特許文献2にはイソフタロニトリルの製造プロセスが開示されている。これによればメタキシレンとアンモニアおよび空気はバナジウム酸化物系触媒を用い固定床反応でアンモ酸化される。反応生成ガスはスクラバーに導かれ、水で冷却してイソフタロニトリルを晶出させる。残存ガスは吸収塔に導き未反応アンモニアと副生したシアン化水素を水に溶解させ、塔頂からの廃ガスは焼却される。スクラバーおよび吸収塔の水溶液からアンモニアを回収し反応系に戻すことが記載されているが、その方法は具体的に開示されていない。
【0007】
本発明者らは有機置換基を有する環状炭化水素または複素環化合物とアンモニアおよび酸素含有ガスを反応させてニトリル化合物を製造するに際し、反応生成ガスよりニトリル化合物を分離した後、残存ガス中の未反応アンモニアと副生シアン化水素を水に吸収させ、0.2〜0.7MPaの圧力範囲での蒸留により該吸収水からアンモニアとシアン化水素を回収し、反応系に戻す方法を提案している(特許文献3)。
【0008】
上記いずれの文献においてもアンモニア、二酸化炭素、およびシアン化水素を含有する水溶液の腐食性や蒸留装置の接液部材質に関してはなんら記載されていない。一方、非特許文献3には炭酸アンモニウム水溶液(アンモニア、二酸化炭素、水共存系)やアンモニア水、シアン化水素それぞれ単独の耐食性が記載されているが、これらはいずれもSUS304(オーステナイト系ステンレス鋼 18−8鋼)などの汎用ステンレス材料で十分取り扱い可能である(耐食性A級)と示されている。
【特許文献1】特開平11−209332号公報
【特許文献2】特開平9−71561号公報
【特許文献3】特開2001−348370号公報
【非特許文献1】ハイドロカーボンプロセッシング(HYDROCARBON PROCESSING)1976年2月号103〜106頁
【非特許文献2】ケミカルエンジニアリング(CHEMICAL ENGINEERING)1971年11月号53〜55頁
【非特許文献3】「化学装置材料耐食表 新増補版」、化学工業社(1984年)、83、88、91頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らがアンモ酸化の反応生成ガスから生成したニトリル化合物を分離した後、残存ガス中のアンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を水に吸収させて得られた、アンモニア、二酸化炭素、およびシアン化水素を含有する水溶液の蒸留に関して検討したところ、SUS304のような材質では激しい腐食を起こし、工業的に長期間の運転を実施することが不可能であった。
【0010】
したがって本発明の目的は、上記問題点に鑑み、蒸留装置の腐食による不具合を解決し、アンモ酸化の反応生成ガスから生成したニトリル化合物を分離した後、残存ガス中のアンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を水に吸収させて得られた水溶液の蒸留によるアンモニアの回収を長期間にわたり実施可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、蒸留装置の接液部材質として、特定の合金を使用することにより上記課題を解決することを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち本発明は、アンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を含有する水溶液からアンモニアを回収する方法であり、該方法は、少なくとも該水溶液に接触する部分がモリブデンを3wt%以上、ニッケルを15wt%以上、クロムを15wt%以上含有する合金1、または、モリブデンを1wt%以上、ニッケルを9wt%以下、クロムを20wt%以上含有する合金2で形成されている蒸留装置を用いて該水溶液を蒸留する工程を含む方法を提供する。
さらに本発明は、少なくとも1個の有機置換基を有する環状炭化水素または複素環化合物とアンモニアを反応させて反応ガスを得る工程、該反応ガスから生成したニトリル化合物を分離する工程、残存ガス中のアンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を水に吸収させて水溶液を得る工程、および、該水溶液から請求項1に記載の方法によりアンモニアを回収する工程を含むニトリル化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
上記合金を接液部材質として使用することにより、アンモニア、二酸化炭素、およびシアン化水素を含有する水溶液の蒸留によるアンモニア回収を長期間安定して行うことが可能となり、それに伴い長期間安定したアンモ酸化反応によるニトリル化合物の連続製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明においては気相接触アンモ酸化反応によりニトリル化合物を製造する。アンモ酸化の方法は公知の方法で実施可能である。一般的には環状炭化水素または複素環化合物、アンモニア、および酸素を含有するガスを気相アンモ酸化触媒と接触させ、ニトリル化合物を生成させる。触媒によっては酸素不在下でアンモ酸化を行う場合もある。酸素不在下でアンモ酸化を行う場合は触媒中の酸素がアンモ酸化反応の際に消費されるため、アンモ酸化反応後の触媒を酸素含有ガス中で酸化して再生し、アンモ酸化反応に再使用される。アンモ酸化反応の反応形式としては固定床、移動床、流動床等の形式が例示されるが、いずれの形式でも良い。本発明で用いる触媒は気相接触反応に適したアンモ酸化用触媒であれば特に制限されない。例えば、バナジウム、モリブテン、鉄、マンガン、タングステンから選ばれた少なくとも一種の元素の酸化物を含む触媒が好適に用いられる。
【0015】
本発明に用いられる少なくとも1個、好ましくは1〜3個の有機置換基を有する環状炭化水素は、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、シクロヘキセン、シクロヘキサン、ジヒドロナフタレン、テトラリン、デカリン等の炭素環を有し、その側鎖にメチル基、エチル基、プロピル基、ホルミル基、アセチル基、ヒドロキシメチル基、メトキシカルボニル基等の有機置換基を有する環状炭化水素である。また、この環状炭化水素には更にハロゲン基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、フェニル基、アミノ基、ニトロ基等のアンモ酸化反応に関与しない置換基を含んでいてもよい。具体例としては、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、メチルテトラリン、ジメチルテトラリン、クロロトルエン、ジクロロトルエン、メチルアニリン、クレゾール、メチルアニソール等が挙げられる。
本発明に用いられる少なくとも1個、好ましくは1〜3個の有機置換基を有する複素環化合物は、フラン、ピロール、インドール、チオフェン、ピラゾール、イミアゾール、オキサゾール、ピラン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ピロリン、ピロリジン、イミドゾリン、イミダゾリジン、ピペリジン、ピペラジン等の複素環に上記の有機置換基を有する複素環化合物である。その側鎖には、上記の環状炭化水素と同様にアンモ酸化反応に関与しない置換基を含んでもよい。具体例としては、フルフラール、2−メチルチオフェン、3−メチルチオフェン、2−ホルミルチオフェン、4−メチルチアゾ−ル、メチルピリジン、ジメチルピリジン、トリメチルピリジン、メチルキノリン、メチルピラジン、ジメチルピラジン、メチルピペラジン等が挙げられる。
これらの化合物は単独または混合物で使用できる。これらの化合物とアンモニアを反応させることにより、上記有機置換基がシアノ基に変換され、これらの化合物に対応するニトリル化合物が得られる。これらの中でもキシレンからジシアノベンゼンを製造する方法に本発明が特に好適に適用される。
【0016】
アンモニアには工業用グレードのものを用いることができる。アンモニアの使用量は原料の環状炭化水素または複素環化合物に含まれる有機置換基に対するアンモニアのモル比(NH3/有機置換基)として、1.5〜10倍モル、好ましくは3〜7倍モルの範囲である。このように理論量に対してアンモニア過剰の条件を選択することでニトリル化合物の収率が向上する。未反応のアンモニアは回収使用される。アンモニア量が上記範囲内であると、ニトリル化合物の収率低下が防止され、また、未反応アンモニアのロスまたは回収コスト増大を防ぐことができる。
【0017】
酸素含有ガスとしては一般的に空気が用いられるが、必要に応じ純酸素等で酸素を富化しても、もしくは、窒素等の不活性ガスをさらに添加しても良い。酸素の使用量は、原料の環状炭化水素または複素環化合物に含まれる有機置換基に対する酸素のモル比(O2/有機置換基)として1.5〜7倍モル、好ましくは1.5〜5倍モル比の範囲となるように調節する。上記範囲内であると、ニトリル化合物の収率および空時収率が良好である。
【0018】
アンモ酸化の反応圧力は常圧、加圧或いは減圧のいずれでも良いが、常圧付近から0.3MPaGの範囲が好ましい。反応ガスと触媒の接触時間は、有機置換基を有する化合物の種類、供給原料組成、触媒の種類、反応温度等の条件に依存するが、通常は0.1〜50秒の範囲である。反応温度は300〜500℃、好ましくは330〜470℃の範囲である。上記範囲内であると、十分な反応速度が得られ、また、炭酸ガス、シアン化水素等の副生が抑制され、ニトリル化合物の収率がよくなる。なお、反応温度は上記の操作条件で触媒の活性状況等を勘案しながら最適収率が得られる温度に適宜選択される。
【0019】
本発明においてはアンモ酸化反応器出口より排出される反応ガスから、生成したニトリル化合物を分離するとともに、該反応ガスに含有されるアンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を水に吸収させ、得られた水溶液を蒸留に供する。反応ガスに含有されるアンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を水に吸収させる方法としては、
(1)反応ガスを有機溶媒と接触させて、ニトリル化合物を溶媒中に捕集した後、残存ガスを水と接触させて残存ガスに含有されるアンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を水に吸収させる方法、
(2)反応ガスを水と接触させて冷却し、アンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を含有する水溶液を得ると共に、ニトリル化合物の固体スラリー(ニトリル化合物が該条件で固体の場合)またはニトリル化合物を含有する有機質液相(ニトリル化合物が該条件で水に難溶である液体の場合)を得る方法、および
(3)反応ガスを冷却してニトリル化合物の固体を析出、または液体を凝縮させて、この固体または液体を分離した後、さらに残存ガスを水と接触させてアンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を含有する水溶液を得る方法
が挙げられるがこれらに限定されない。
【0020】
上記で得られた水溶液の組成はアンモニア5〜50wt%、シアン化水素0.1〜5wt%、二酸化炭素1〜20wt%、残りのほとんどが水であり、他に分離し切れなかったニトリル化合物等の少量の有機物成分が含有される場合もある。組成はアンモ酸化におけるアンモニア使用量や反応成績、反応ガスに含有されるアンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を水に吸収させる方法、吸収に使用する水の量などにより異なる。水の割合が少ない方が蒸留装置の液処理量が少なくなるので有利であるが、水の割合が少なすぎると液中に炭酸アンモニウム等のアンモニウム塩が析出して配管閉塞等のトラブルを招く場合がある。また水に難溶な有機物成分が存在すると蒸留装置の温度や圧力が安定せず運転が不安定となる場合があるので、これらの有機物成分濃度は0.5wt%以下であるべきである。水に難溶な有機物成分としてはベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、ベンゾニトリル、メチルベンゾニトリル、クロルベンゼン、アニソール等が例示され、これらはアンモ酸化の原料、生成物、ニトリル化合物を捕集するための溶媒等に由来するものである。
【0021】
本発明では、アンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を含有する水溶液を蒸留してアンモニアを回収する。該水溶液としては、上記ニトリル化合物製造の際に発生するものが挙げられるが、これに限定されない。蒸留に使用する蒸留装置としては蒸発器型蒸留塔、充填塔型蒸留塔、棚段型蒸留塔等が挙げられるが、中でも充填塔型蒸留塔が好ましい。充填塔に用いられる充填物としては汎用の不規則充填物、規則充填物等が使用される。蒸留装置にはリボイラー、コンデンサー等の一般的な蒸留装置に備わっている設備が備わっている。
【0022】
前記水溶液は蒸留装置に導入され、蒸留分離される。通常アンモ酸化反応は連続で実施されるため、それに伴う水溶液の蒸留についても連続蒸留の形式で行われることが好ましい。蒸留装置頂部からはアンモニアが回収され、底部からは水が回収される。シアン化水素および二酸化炭素は蒸留の条件により頂部、底部、またはその双方に分配される。ニトリル化合物を経済的に製造する為には、頂部から得られたアンモニア含有成分をアンモ酸化反応へとリサイクルすることが好ましい。本発明は頂部からアンモニア、シアン化水素、二酸化炭素をあわせて回収し、底部からアンモニア、シアン化水素、二酸化炭素をほとんど含有しない水を回収する場合に特に適している。底部から得られた水は通常排水として処理されるが、一部もしくは全量をアンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を吸収させるための水として再使用することもできる。この形態では水を循環使用することにより排水量の大幅削減が可能であるため、排水処理のための負担が減り有利である。
【0023】
塔頂から得られるアンモニアを含むガス成分は冷却されるが、冷却後の温度は60〜100℃が好ましい。60℃以上にすることにより、炭酸アンモニウム成分が固体として析出しないので、運転に支障をきたすことがない。冷却によりガスが凝縮し液が生成するが、この際留出成分すべてを全凝縮させず、一部をガスとしてそのまま蒸留装置より抜き出す分縮操作を行うことが好ましい。この場合、分縮後の残存ガス成分はアンモニアに富み、そのままアンモ酸化反応器へとリサイクルさせるのに好適である。分縮で得られた液成分は還流液として蒸留装置内に戻される。塔頂ガスを60〜100℃に冷却する場合、概ね塔頂ガスの一部は凝縮せず分縮の状態となる。
【0024】
蒸留の操作圧力は0.1〜0.7MPaG、好ましくは0.2〜0.5MPaGの加圧の条件が好ましい。この範囲内であると、長時間の安定連続運転が容易となる。即ち、上記範囲内であると、蒸留装置内でシアン化水素の変質に由来すると思われる副生物の生成が抑制され、その結果、発泡、フラッディング、熱交換器へのスケーリングによる運転能力が避けられる。また、底部から得られる水の着色やTOD成分の増大を避けることができるので、得られた水の処理が容易となる。さらに、蒸留装置頂部の露点温度が低下しないので、炭酸アンモニウムが析出せず、安定運転が可能になる。蒸気負荷の増大が避けられるので、蒸留装置の能力が低下することがなく、処理量が低下することもない。
【0025】
蒸留の温度は操作圧力、水溶液の組成、頂部および底部からの抜き出し成分の組成等により決まるが、頂部温度は80〜140℃、好ましくは90〜120℃の範囲内であり、底部温度は120〜170℃、好ましくは130〜160℃の範囲内である。蒸留の還流比は蒸留に供する水溶液の組成や所望する分離スペックに依存するが通常は0.1〜2.0、好ましくは0.2〜1.5の範囲内である。
【0026】
本発明では蒸留装置の接液部の部材のすべてまたは少なくとも表面、例えば、接液部表面の0.02〜1mmを合金1または合金2により形成する。
合金1は、モリブデンを3wt%以上、ニッケルを15wt%以上、クロムを15wt%以上含有する。モリブデン含有率は好ましくは3〜25wt%、より好ましくは3.5〜20wt%である。ニッケル含有率は好ましくは15〜82wt%、より好ましくは15〜70wt%である。クロム含有率は好ましくは15〜30wt%、より好ましくは15〜25wt%である。
合金2は、モリブデンを1wt%以上、ニッケルを9wt%以下、クロムを20wt%以上含有する。モリブデン含有率は好ましくは1〜10wt%、より好ましくは2〜8wt%である。ニッケル含有率は好ましくは0〜9wt%、より好ましくは0〜8wt%である。クロム含有率は好ましくは20〜40wt%、より好ましくは20〜30wt%である。
ニッケル、クロム、モリブデン以外の合金を形成する金属としては、銅、アルミニウム、タングステン、コバルト、チタン、マンガン等が挙げられ、バランスとしては鉄が使用される。合金中のニッケル、クロム、モリブデン、鉄以外の金属の含量は14wt%以下であることが好ましく、6wt%以下であることがより好ましい。合金中の銅の含有量が高くなると耐腐食性は低下する傾向があるため銅の含有量は、好ましくは10wt%以下、より好ましくは5wt%以下、特に好ましくは3wt%以下である。合金中の炭素含量は低い方が好ましく、好ましくは0.08wt%未満、より好ましくは0.03wt%未満である。
【0027】
合金1としては市販品が使用可能である。合金の具体例としては、ハステロイC(三菱マテリアル社製)、NAR−A(住友金属工業社製)、NAR−B(住友金属工業社製)、NAR−20−25−LMCu(住友金属工業社製)、2RK65(サンドビック社製)、NTK−M5(日本金属工業社製)等が挙げられる。またこれらの相当材も好適に使用可能である。中でもハステロイC(高ニッケル合金)およびその相当材が特に耐腐食性に優れており好ましい。
合金2としてはフェライト系ステンレス、または二相系ステンレスに分類されるものが好ましい。合金の具体例としては、SUS329J1、SUS329J3L、SUS329J4L、SUS447J1等が挙げられ、これらの規格を満たす市販品が使用可能である。またこれらの相当材も好適に使用可能である。
【0028】
本発明者らは、接液部の中でも棚段や充填物といった、液の蒸発と凝縮が定常的におこる部位、すなわち本発明で「精留部位」と呼ぶ部位においては特に腐食が進行しやすいことを見出した。理由は不明であるが蒸発と凝縮の相変化に伴う物理的衝撃や、気相および液相の組成変動が腐食を加速していると推測している。アンモニア、二酸化炭素、シアン化水素を含有する水溶液の蒸留におけるこのような加速された腐食は従来まったく知られていない。精留部位は腐食が進行しやすく、また構造的に十分な耐腐食性を確保することが難しい。このため接液部の中でも特に精留部位の表面を合金1または合金2で形成することが特に有効である。
【0029】
本発明者らの検討によれば接液部の温度が高いほど、またアンモニア濃度が高いほど腐食は進行しやすい。特に蒸留装置接液部の温度が90℃以上、かつ液中のアンモニア濃度が2.7wt%以上である場合には、腐食進行が著しく、本発明の適用が特に有効である。蒸留装置の頂部および頂部に近い精留部位はこのような環境となる場合が多いため、この部位には本発明で示す合金を用いるべきである。
【0030】
本発明の合金は必ずしも蒸留装置すべての接液部に用いる必要はない。例えば底部から回収される水中のアンモニア、シアン化水素、二酸化炭素の濃度が非常に低い場合には底部材質はSUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L等の汎用ステンレスが使用できる。
【実施例】
【0031】
以下実施例及び比較例により本発明をより具体的に説明する。ただし本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0032】
実施例1
図1に示したプロセスによりアンモ酸化反応、ニトリル化合物の分離、残存ガスと水の接触、得られた水溶液の蒸留を連続で行った。図1において、1はアンモ酸化反応器、2はニトリル捕集塔、3は冷却器、4はデカンター、5はアンモニア吸収塔、6は蒸留塔を示す。
<アンモ酸化反応>
特公平6−23158号公報に記載の方法に従ってシリカ担持流動床用アンモ酸化触媒を調製した。この触媒はシリカ以外の活性成分としてV:Cr:Mo:Bが1:1:0.1:0.2の割合で含有され、シリカの含有量は50重量wt%である。この触媒を流動床アンモ酸化反応器に充填し、メタ・パラ混合キシレン(メタキシレン80wt%、パラキシレン20wt%)、アンモニア、空気、および蒸留塔から得られるアンモニアを含有する留出成分をアンモ酸化反応器1に供給し、アンモ酸化反応を連続的に実施した。混合キシレンの供給量(WHSV)は0.07h−1、アンモニア/キシレンのモル比が10、分子状酸素/キシレンモル比を5.5、反応温度を410℃、GHSVが700h−1、圧力を0.05MPaGとした。運転開始直後の原料キシレンを基準としたジシアノベンゼン(メタ・パラ異性体の合計)の収率は81モル%であった。
【0033】
<ニトリル化合物の分離>
アンモ酸化反応器1からの反応生成ガスをニトリル捕集塔2の底部に導入した。捕集塔は塔型容器であり、底部に反応ガス吹き込み口および捕集液抜き出し口を有し、塔内中部には金属製不規則充填物が充填されている。ニトリル捕集塔2上部からは捕集用の溶媒としてトリメチルベンゼンを供給して連続的に反応生成ガスと溶媒を接触させた。捕集塔底部の液温度は140℃とした。ニトリル捕集塔2頂部からはアンモニア、シアン化水素、二酸化炭素、窒素、酸素、一酸化炭素、溶媒、未反応キシレン等からなるガスが排出される。このガスは冷却器3で20℃に冷やされ、溶媒および水の一部を凝縮させた後、デカンター4へと導入した。デカンター4では凝縮生成した溶媒相、水相、ガス相の気液分離および液液分離が行われる。デカンター4から出るガス相はアンモニア吸収塔5へと導いた。溶媒相はニトリル捕集塔2へと再供給した。水相にはアンモニア、シアン化水素、二酸化炭素が含有されており、アンモニア吸収塔5から得られた水溶液とあわせて蒸留塔6へと導き蒸留に供した。
【0034】
<水吸収>
デカンター4出口のガス成分はアンモニア吸収塔5に導入し、水と接触させ、アンモニア、シアン化水素、二酸化炭素が吸収された水溶液を得た。吸収後の窒素、酸素、二酸化炭素、シアン化水素、一酸化炭素、アンモニア等を含む残存排ガスは排ガス処理設備へと導いた。
【0035】
<水溶液の蒸留>
蒸留塔6は塔頂にコンデンサーおよび還流槽を備え、不規則充填物(カスケードミニリング)が充填された充填塔型蒸留装置である。塔本体胴部および不規則充填物の接液部材質はハステロイC22、コンデンサーおよび還流槽の接液部材質はNAR−A、底部およびリボイラーの接液部材質はSUS316Lである。これらの材質の成分組成(カタログ値)を表1に示す。
【0036】
蒸留塔6の上段へと供給した水溶液の組成はアンモニア15.4wt%、二酸化炭素4.9wt%、シアン化水素1.3wt%、残分が水であり、他に少量の有機物不純物を含んでいた。操作圧力0.32MPaG、塔底温度148℃、塔頂ガス温度103℃、コンデンサー出口温度81℃、還流比0.6なる条件で蒸留を実施した。塔頂ガスはコンデンサーで分縮され、分縮後の残ガスはガスのまま抜き出されアンモ酸化反応器へとリサイクルされ、分縮液は還流に使用した。分縮後の残ガス(回収アンモニアガス)の組成はアンモニア60.7wt%、二酸化炭素26wt%、シアン化水素5.7wt%、残分が水であった。塔底液はほとんどが水であり、アンモニア濃度は0.02wt%、二酸化炭素およびシアン化水素は検出されなかった(検出下限2wtppm)。約300日間の運転を継続後、装置を停止して蒸留装置の開放点検を実施したところ、接液部(本体胴部、不規則充填物、コンデンサー、還流槽)の減肉はいずれも0.02mm/Y未満であり、腐食進行はほとんど認められなかった。約300日間の運転中における原料キシレンを基準としたジシアノベンゼン(メタ・パラ異性体の合計)の収率は76〜81モル%であり、長期間安定したアンモ酸化反応によるジシアノベンゼンの連続製造が達成された。
【0037】
【表1】


【0038】
実施例2
塔本体胴部、不規則充填物、コンデンサーおよび還流槽の接液部材質をSUS329J4L(サンドビック社 SAF2507)に変更した以外は実施例1の操作を繰り返した。SUS329J4Lの成分組成(カタログ値)を表2に示す。
【0039】
約300日間の運転を継続後、装置を停止して蒸留装置の開放点検を実施したところ、接液部(本体胴部、不規則充填物、コンデンサー、還流槽)の減肉はいずれも0.02mm/Y未満であり、腐食進行はほとんど認められなかった。約300日間の運転中における原料キシレンを基準としたジシアノベンゼン(メタ・パラ異性体の合計)の収率は76〜81モル%であり、長期間安定したアンモ酸化反応によるジシアノベンゼンの連続製造が達成された。
【0040】
【表2】


【0041】
比較例1
蒸留塔の塔本体胴部、不規則充填物、コンデンサー、還流槽の接液部材質をSUS316Lとした以外は実施例1と同じ条件でアンモニアの回収を連続的に行った。約180日間が経過した頃、分離能力の低下や蒸留塔内の温度分布の変化が発生した。そこで装置を停止して蒸留装置の開放点検を実施したところ、不規則充填物に全面腐食の進行による減肉、変形が認められ、また不規則充填物の変形に起因するとおもわれる不規則充填物層の沈降が確認された。充填物層最上部不規則充填物の重量減少から計算される腐食速度は0.2mm/Yであった。また塔本体胴部にも同様の全面腐食が認められた。更なる継続運転は不可能であった。
【0042】
実施例3〜12、比較例2〜7
蒸留塔の不規則充填物層の上部に種々の材質からなる板状のテストピースを設置した以外は実施例1と同様にして暴露試験を行った。約300日間の運転継続後、装置を停止して蒸留装置を開放し、テストピースを取り出した。テストピースの重量減少から腐食速度を計算した。試験した材質の成分組成(カタログ値)を表3に、腐食速度の結果を表4に示す。NAR−20−3は住友金属工業社製、SUS329J4Lは住友金属工業社製DP−3、SUS329J3Lはサンドビック社整SAF2205、SUS447J1は昭和電工社性ショーマック30、ハステロイB、モネルおよびカーペンター20はいずれも三菱マテリアル社製である。
【0043】
【表3】


【0044】
【表4】


【0045】
実施例の合金はいずれも0.05mm/Y以下の高い耐腐食性を示し、これらの材質を蒸留装置の接液部材質として用いれば、アンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を含有する水溶液の蒸留によるアンモニアの回収を長期間にわたり実施可能であり、長期間安定したアンモ酸化反応によるニトリル化合物の連続製造が可能となる。
一方、一般に耐食性が優れているとされるハステロイB、モネル、純チタン等は、アンモニア、二酸化炭素およびシアン化水素を含有する水溶液の蒸留という過酷な条件では腐食が進行した。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明で回収されたアンモニアは有機置換基を有する環状炭化水素または複素環化合物のアンモ酸化によるニトリル化合物の製造に再使用される。ニトリル化合物は合成樹脂、農薬、医薬、飼料添加剤などの原料として有用な化合物である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は本発明のニトリル化合物を製造するプロセスの一例を示す概略図である。
【出願人】 【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
【出願日】 平成19年10月26日(2007.10.26)
【代理人】 【識別番号】100117891
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 隆


【公開番号】 特開2008−133179(P2008−133179A)
【公開日】 平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願番号】 特願2007−278643(P2007−278643)