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【発明の名称】 液体移送装置及び液体移送装置の製造方法
【発明者】 【氏名】小出 祥平

【氏名】高橋 義和

【要約】 【課題】より一層のアクチュエータの変位量増大及びクロストークの抑制を実現しつつ、圧電層を挟む2種類の電極間のショートや放電を確実に防止可能な、圧電アクチュエータによる液体移送技術を提供すること。

【構成】圧電層の圧力室と反対側の面の、複数の圧力室と対向する領域の全域に導電層33が形成されており、この導電層33が、圧力室の中央部と対向する領域を取り囲むように形成された第1環状溝40により部分的に除去されて、第1環状溝40の内側に個別電極32が形成されている。さらに、圧電層の圧力室と反対側の面の、圧力室の周縁部と対向する領域であって第1環状溝40よりも外側の領域に、導電層33と圧電層の両方を貫通する第2環状溝41が、圧力室の周縁に沿って形成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面に沿って配置された複数の圧力室を含む液体流路を有する流路ユニットと、前記複数の圧力室内の液体に選択的に圧力を付与する圧電アクチュエータを備え、
前記圧電アクチュエータは、
前記複数の圧力室を覆うように前記流路ユニットの一表面に配置された振動板と、
前記振動板の前記圧力室と反対側の面の、前記複数の圧力室と対向する領域に跨って形成された圧電層と、
前記圧電層の前記圧力室と反対側の面の、前記圧力室の中央部と対向する領域に配置された第1電極と、
前記圧電層の前記圧力室側の面に前記第1電極と対向するように配置された第2電極を有し、
前記圧電層の前記圧力室と反対側の面において、前記複数の圧力室と対向する領域に導電層が形成されるとともに、前記圧力室の中央部と対向する領域を取り囲むように形成された第1環状溝により前記導電層が部分的に除去されて、前記第1環状溝の内側にその外側の前記導電層と絶縁された前記第1電極が形成され、
さらに、前記圧電層の前記圧力室と反対側の面において、前記圧力室の周縁部と対向する領域であって前記第1環状溝よりも外側の領域に、前記導電層を貫通して少なくとも前記圧電層の厚み方向途中部まで入り込んだ凹部が、前記圧力室の周縁に沿って形成されていることを特徴とする液体移送装置。
【請求項2】
前記圧力室が一方向に長い平面形状を有するものであり、
前記凹部は、少なくとも、前記圧力室の中央部を挟んで相対向するとともに前記一方向に延在する、前記圧力室の2つの縁に沿って形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体移送装置。
【請求項3】
複数の前記凹部が、前記圧電層の前記圧力室と反対側の面において、前記第1電極を取り囲むように、前記圧力室の周縁のほぼ全周にわたって配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体移送装置。
【請求項4】
前記凹部は、前記第1電極を取り囲むように、前記圧力室の周縁のほぼ全周にわたって環状に延在する第2環状溝であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体移送装置。
【請求項5】
前記振動板の少なくとも前記圧力室と反対側の面が電気絶縁性を有し、
前記第2電極は、前記振動板の前記圧力室と反対側の面において、前記複数の圧力室に跨って形成され、
さらに、前記圧電層の前記圧力室と反対側の面には、前記第1電極から前記圧力室と対向する領域よりも外側の領域まで引き出され、且つ、前記第1環状溝により前記第1電極とともにその外側の前記導電層と絶縁された接点部が形成されており、
前記第2環状溝は、前記第1電極と前記接点部の接続部分を除いて、前記第1電極を取り囲むように形成されていることを特徴とする請求項4に記載の液体移送装置。
【請求項6】
前記振動板の少なくとも前記圧力室と反対側の面が導電性を有し、且つ、この面が前記第2電極を兼ねており、
さらに、前記圧電層の前記圧力室と反対側の面には、前記第1電極から前記圧力室と対向する領域よりも外側の領域まで引き出され、且つ、前記第1環状溝により前記第1電極とともにその外側の前記導電層と絶縁された接点部が形成されており、
前記第2環状溝は、前記第1電極及び前記接点部を完全に取り囲むように形成されていることを特徴とする請求項4に記載の液体移送装置。
【請求項7】
前記凹部は、前記圧電層を貫通して前記振動板まで達していることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の液体移送装置。
【請求項8】
前記凹部に接する前記圧電層の端が、前記圧力室と対向する領域内にあることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の液体移送装置。
【請求項9】
平面に沿って配置された複数の圧力室を含む液体流路を有する流路ユニットと、
前記複数の圧力室を覆うように前記流路ユニットの一表面に配置された振動板と、前記振動板の前記圧力室と反対側の面に形成された圧電層と、前記圧電層の前記圧力室と反対側の面の前記圧力室の中央部と対向する領域に配置された第1電極と、前記圧電層の前記圧力室側の面に前記第1電極と対向するように配置された第2電極を有し、前記複数の圧力室内の液体に選択的に圧力を付与する圧電アクチュエータと、
を備えた液体移送装置の製造方法であって、
前記振動板の前記圧力室と反対側の面において、前記複数の圧力室と対向する領域に跨って前記圧電層を形成する圧電層形成工程と、
前記圧電層の前記圧力室と反対側の面の前記複数の圧力室と対向する領域に、導電層を隙間なく形成する導電層形成工程と、
前記複数の圧力室の各々に対して、前記圧力室の中央部と対向する領域を取り囲む環状溝を形成して前記導電層を部分的に除去し、この環状溝の内側にその外側の導電層と絶縁された前記第1電極を形成する電極形成工程と、
前記圧電層の前記圧力室と反対側の面の、前記圧力室の周縁部と対向する領域であって前記環状溝よりも外側の領域に、前記導電層を貫通して少なくとも前記圧電層の厚み方向途中部まで入り込む凹部を前記圧力室の周縁に沿って形成する凹部形成工程と、
を備えていることを特徴とする液体移送装置の製造方法。
【請求項10】
前記環状溝と前記凹部とを、ともにレーザー加工により形成することを特徴とする請求項9に記載の液体移送装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を移送する液体移送装置、及び、液体移送装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクの液滴を噴射するインクジェットヘッドとして、電界が印加されたときの圧電素子の変形(圧電歪)を利用して、インク流路内のインクに噴射圧力を付与する圧電式のアクチュエータを備えているものがある。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されたインクジェットヘッドの圧電アクチュエータは、複数の圧力室に跨って積層された複数枚の圧電シート(圧電層)と、最上層の圧電シートの表面において複数の圧力室にそれぞれ対向するように配置された複数の個別電極と、最上層の圧電シートとその下の圧電シートとの間において複数の圧力室に跨って配置されて、複数の個別電極と対向する共通電極とを備えている。そして、この圧電アクチュエータは、駆動回路からFPC(Flexible Printed Circuit)を介して個別電極に駆動電圧が印加されたときの、最上層の圧電シートの活性部に生じる変形(圧電歪)により、他の圧電シートに撓みを生じさせて、圧力室内のインクに圧力を付与するように構成されている。
【0004】
ところで、特許文献1には、前述した圧電アクチュエータの複数の個別電極を形成するための、以下のような工程が開示されている。この工程では、まず、最上層の圧電シートの表面に導電膜を全面的に形成し、その後、圧力室と対向する領域において、導電膜に環状の溝部をレーザー加工により形成して、導電膜を部分的に除去する。これにより、溝部の内側に、周囲の導電膜とは絶縁された個別電極が形成される。また、溝部は、導電膜の下側の圧電シートの厚み方向途中部まで入り込むように形成される。そのため、隣接した圧力室間において圧電シートの変形が伝播しにくくなり、クロストークが抑制される。
【0005】
【特許文献1】特開2004−160966号公報(図21、図22等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の特許文献1に記載の圧電アクチュエータにおいて、最上層の圧電シートに溝部が入り込む深さが深いほど、クロストークの抑制効果は大きくなる。また、溝部が深いほど圧電シートが変形しやすくなるため、低い駆動電圧で圧力室内のインクに効率よく圧力を付与するという効果も得られる。しかし、溝部を深くしすぎて、万が一、溝部が最上層の圧電シートを貫通してしまうと、この圧電シートの裏面(下面)に位置する共通電極が溝部内において露出するため、圧電シート表面の個別電極と裏面の共通電極との間でショートや放電が生じる虞がある。そのため、特許文献1の圧電アクチュエータでは、溝部をあまり深くすることができず、クロストークの抑制や圧電シートの変形量増大といった効果を十分に実現することができない。
【0007】
本発明の目的は、より一層のアクチュエータの変位量増大及びクロストークの抑制を実現しつつ、圧電層を挟む2種類の電極間のショートや放電を確実に防止可能な、圧電アクチュエータによる液体移送技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明の液体移送装置は、平面に沿って配置された複数の圧力室を含む液体流路を有する流路ユニットと、前記複数の圧力室内の液体に選択的に圧力を付与する圧電アクチュエータを備え、前記圧電アクチュエータは、前記複数の圧力室を覆うように前記流路ユニットの一表面に配置された振動板と、前記振動板の前記圧力室と反対側の面の、前記複数の圧力室と対向する領域に跨って形成された圧電層と、前記圧電層の前記圧力室と反対側の面の、前記圧力室の中央部と対向する領域に配置された第1電極と、前記圧電層の前記圧力室側の面に前記第1電極と対向するように配置された第2電極を有し、前記圧電層の前記圧力室と反対側の面において、前記複数の圧力室と対向する領域に導電層が形成されるとともに、前記圧力室の中央部と対向する領域を取り囲むように形成された第1環状溝により前記導電層が部分的に除去されて、前記第1環状溝の内側にその外側の前記導電層と絶縁された前記第1電極が形成され、さらに、前記圧電層の前記圧力室と反対側の面において、前記圧力室の周縁部と対向する領域であって前記第1環状溝よりも外側の領域に、前記導電層を貫通して少なくとも前記圧電層の厚み方向途中部まで入り込んだ凹部が、前記圧力室の周縁に沿って形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
この液体移送装置において、ある圧力室に対応する圧電アクチュエータの第1電極と第2電極の間に電圧が印加されると、第1電極と第2電極との間に挟まれる圧電層の部分に歪みが生じ、これに伴い、圧力室と対向する領域において振動板に撓みが生じる。このとき、振動板の変位に応じて圧力室内の容積が変化するため、圧力室内部の液体に圧力が付与されることになる。
【0010】
ここで、第1電極は第1環状溝によりその周囲の導電層と絶縁されている。また、圧電層の圧力室の周縁部と対向する領域であって第1環状溝よりも外側の領域には、導電層を貫通して少なくとも圧電層の厚さ方向途中部まで入り込む凹部が形成されている。そのため、圧力室の周縁部と対向する領域における圧電層の剛性が低下して変形しやすくなり、振動板の変位量の増大、あるいは、駆動電圧の低減を実現できる。また、圧力室と対向する領域における圧電層の変形が、隣接する圧力室と対向する領域に伝播しにくくなるため、クロストークを抑制できる。さらに、第1電極を区切る第1環状溝から外側にずれた位置において、凹部が圧電層内に入り込むように形成されている。そのため、圧電層の剛性を十分に低下させるために凹部を深く形成したときに、凹部が圧電層を貫通して第2電極が露出したとしても、凹部よりも内側の第1環状溝の位置において第2電極が露出する場合に比べると、第1電極と第2電極の間の離隔距離が長くなることから、両電極間におけるショートや放電が防止される。
【0011】
第2の発明の液体移送装置は、前記第1の発明において、前記圧力室が一方向に長い平面形状を有するものであり、前記凹部は、少なくとも、前記圧力室の中央部を挟んで相対向するとともに前記一方向に延在する、前記圧力室の2つの縁に沿って形成されていることを特徴とするものである。このように、圧力室が一方向に長い平面形状を有する場合には、圧電層の、圧力室の長手方向に延びる2つの縁近傍と対向する領域に特に凹部が形成されることにより、振動板の変位量の増大、あるいは、駆動電圧の低減を効果的に実現できる。
【0012】
第3の発明の液体移送装置は、前記第1又は第2の発明において、複数の前記凹部が、前記圧電層の前記圧力室と反対側の面において、前記第1電極を取り囲むように、前記圧力室の周縁のほぼ全周にわたって配置されていることを特徴とするものである。この構成によれば、振動板及び圧電層がさらに変形しやすくなり、より一層の振動板の変位量の増大、あるいは、駆動電圧の低減を実現できる。
【0013】
第4の発明の液体移送装置は、前記第1又は第2の発明において、前記凹部は、前記第1電極を取り囲むように、前記圧力室の周縁のほぼ全周にわたって環状に延在する第2環状溝であることを特徴とするものである。この構成によれば、振動板及び圧電層がさらに変形しやすくなり、より一層の振動板の変位量の増大、あるいは、駆動電圧の低減を実現できる。また、第1電極が第1環状溝と第2環状溝により2重に取り囲まれるため、周囲の導電層に対する絶縁がより確実なものとなる。
【0014】
第5の発明の液体移送装置は、前記第4の発明において、前記振動板の少なくとも前記圧力室と反対側の面が電気絶縁性を有し、前記第2電極は、前記振動板の前記圧力室と反対側の面において、前記複数の圧力室に跨って形成され、さらに、前記圧電層の前記圧力室と反対側の面には、前記第1電極から前記圧力室と対向する領域よりも外側の領域まで引き出され、且つ、前記第1環状溝により前記第1電極とともにその外側の前記導電層と絶縁された接点部が形成されており、前記第2環状溝は、前記第1電極と前記接点部の接続部分を除いて、前記第1電極を取り囲むように形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
振動板の圧力室と反対側の面(圧電層側の面)に第2電極が設けられている場合に、第2環状溝が圧電層を貫通するように形成されると、その下の第2電極も第2環状溝によって環状に区切られてしまうこともある。さらに、第2環状溝が第1電極及び接点部を完全に取り囲むように形成されると、第2電極が孤立してしまうことから、複数の圧力室にそれぞれ対応する第2電極に対して、個別に配線を接続して導通をとるなどの対策が必要になる。しかし、この第5の発明の液体移送装置においては、第2環状溝が第1電極と接点部との接続部分を除いて環状に形成されている。つまり、少なくとも第1電極と接点部との接続部分と対向する領域で第2電極が周囲の部分と導通した状態が維持されるため、第2電極が孤立することはない。従って、複数の圧力室に対応する第2電極同士を互いに導通させて、共通の電位を容易に付与することができる。
【0016】
第6の発明の液体移送装置は、前記第4の発明において、前記振動板の少なくとも前記圧力室と反対側の面が導電性を有し、且つ、この面が前記第2電極を兼ねており、さらに、前記圧電層の前記圧力室と反対側の面には、前記第1電極から前記圧力室と対向する領域よりも外側の領域まで引き出され、且つ、前記第1環状溝により前記第1電極とともにその外側の前記導電層と絶縁された接点部が形成されており、前記第2環状溝は、前記第1電極及び前記接点部を完全に取り囲むように形成されていることを特徴とするものである。
【0017】
このように、振動板の表面の導電面が第2電極を兼ねている場合には、第2環状溝を第1電極及び接点部を完全に取り囲むように形成しても第2電極が孤立することがない。従って、2重の環状溝によって第1電極と接点部を周囲の導電層から確実に絶縁するとともに、複数の圧力室に対応する第2電極同士を互いに導通させて共通の電位を容易に付与することができる。
【0018】
第7の発明の液体移送装置は、前記第1〜第6の何れかの発明において、前記凹部は、前記圧電層を貫通して前記振動板まで達していることを特徴とするものである。圧力室と対向する部分の圧電層が、凹部によりその周囲の部分から切り離されるため、圧電層が一層変形しやすくなる。
【0019】
第8の発明の液体移送装置は、前記第1〜第7の何れかの発明において、前記凹部に接する前記圧電層の端が、前記圧力室と対向する領域内にあることを特徴とするものである。このように、圧力室と対向する領域内に、凹部に接する圧電層の端が位置するため、圧力室と対向する領域内において圧電層がより変形しやすくなる。
【0020】
第9の発明の液体移送装置の製造方法は、平面に沿って配置された複数の圧力室を含む液体流路を有する流路ユニットと、前記複数の圧力室を覆うように前記流路ユニットの一表面に配置された振動板と、前記振動板の前記圧力室と反対側の面に形成された圧電層と、前記圧電層の前記圧力室と反対側の面の前記圧力室の中央部と対向する領域に配置された第1電極と、前記圧電層の前記圧力室側の面に前記第1電極と対向するように配置された第2電極を有し、前記複数の圧力室内の液体に選択的に圧力を付与する圧電アクチュエータとを備えた液体移送装置の製造方法であって、
前記振動板の前記圧力室と反対側の面において、前記複数の圧力室と対向する領域に跨って前記圧電層を形成する圧電層形成工程と、前記圧電層の前記圧力室と反対側の面の前記複数の圧力室と対向する領域に、導電層を隙間なく形成する導電層形成工程と、前記複数の圧力室の各々に対して、前記圧力室の中央部と対向する領域を取り囲む環状溝を形成して前記導電層を部分的に除去し、この環状溝の内側にその外側の導電層と絶縁された前記第1電極を形成する電極形成工程と、前記圧電層の前記圧力室と反対側の面の、前記圧力室の周縁部と対向する領域であって前記環状溝よりも外側の領域に、前記導電層を貫通して少なくとも前記圧電層の厚み方向途中部まで入り込む凹部を前記圧力室の周縁に沿って形成する凹部形成工程とを備えていることを特徴とするものである。
【0021】
この液体移送装置の製造方法においては、圧電層の圧力室と対向する領域であって、第1電極を区画する環状溝の外側の領域に、導電層を貫通して少なくとも圧電層の厚さ方向途中部まで入り込む凹部を形成する。そのため、この凹部により圧電層の剛性を低下させて、振動板の変位量の増大、あるいは、駆動電圧の低減を実現できる。また、圧力室と対向する領域における圧電層の変形が、隣接する圧力室と対向する領域に伝播しにくくなるため、クロストークを抑制できる。さらに、第1電極を区切る環状溝から外側にずれた位置において、凹部を圧電層内に入り込むように形成する。そのため、圧電層の剛性を十分に低下させるために凹部を深く形成したときに、凹部が圧電層を貫通して第2電極が露出したとしても、凹部よりも内側の環状溝において第2電極が露出する場合に比べると、第1電極と第2電極の間の離隔距離が長くなることから、両電極間におけるショートや放電が防止される。
【0022】
第10の発明の液体移送装置の製造方法は、前記第9の発明において、前記環状溝と前記凹部とを、ともにレーザー加工により形成することを特徴とするものである。この場合には、環状溝と凹部の形成工程を続けて行うことができるため、電極形成用の環状溝のみを形成する場合と比較して、特段、製造コストが上昇したり、環状溝や凹部の形成工程にかかる時間が長くなったりすることがない。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、圧電層の圧力室と対向する領域であって、第1電極を区切る環状溝の外側の領域に、導電層を貫通して少なくとも圧電層の厚さ方向途中部まで入り込む凹部が形成される。そのため、この凹部により圧力室の周縁部と対向する領域の圧電層の剛性が低下し、振動板の変位量の増大、あるいは、駆動電圧の低減を実現できる。さらに、第1電極を区切る環状溝からずれた位置において、凹部が圧電層内に入り込むように形成される。そのため、圧電層の剛性をより一層低下させるために凹部を深く形成したときに、凹部が圧電層を貫通して第2電極が露出したとしても、第1電極と第2電極の間の離隔距離が長くなることから、両電極間におけるショートや放電が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、インクに圧力を付与してノズルへ移送し、このノズルから記録用紙に対してインクの液滴を噴射して所望の画像や文字等を記録するインクジェットヘッド(液体移送装置)に本発明を適用した一例である。
【0025】
まず、本実施形態のインクジェットヘッドを備えたインクジェットプリンタについて簡単に説明する。図1に示すように、インクジェットプリンタ100は、図1の左右方向に移動可能なキャリッジ2と、このキャリッジ2に設けられて記録用紙Pに対してインクを噴射するシリアル型のインクジェットヘッド1と、記録用紙Pを図1の前方へ搬送する搬送ローラ3などを備えている。インクジェットヘッド1は、キャリッジ2と一体的に左右方向(走査方向)へ移動して、その下面に配置されたノズル20(図2〜図6参照)から記録用紙Pに対してインクを噴射して所望の文字や画像等を記録する。また、インクジェットヘッド1により画像等が記録された記録用紙Pは、搬送ローラ3により前方(紙送り方向)へ排出される。
【0026】
次に、インクジェットヘッド1について説明する。図2はインクジェットヘッド1の平面図、図3はインクジェットヘッド1の一部拡大図、図4は振動板上面から見たインクジェットヘッド1の一部拡大図である。また、図5は図4のV-V線断面図、図6は図4のVI-VI線断面図である。
【0027】
図2〜図6に示すように、インクジェットヘッド1は、ノズル20及び圧力室14を含むインク流路(液体流路)が形成された流路ユニット4と、圧力室14内のインクに噴射圧力を付与する圧電アクチュエータ5とを備えている。
【0028】
まず、流路ユニット4について説明する。図5、図6に示すように、流路ユニット4はキャビティプレート10、ベースプレート11、マニホールドプレート12、及びノズルプレート13を備えており、これら4枚のプレート10〜13が積層状態で接合されている。このうち、キャビティプレート10、ベースプレート11及びマニホールドプレート12はステンレス鋼製の板であり、これら3枚のプレート10〜12に、後述するマニホールド17や圧力室14等のインク流路をエッチングにより容易に形成することができるようになっている。また、ノズルプレート13は、例えば、ポリイミド等の高分子合成樹脂材料により形成され、マニホールドプレート12の下面に接着される。あるいは、このノズルプレート13も、3枚のプレート10〜12と同様にステンレス鋼等の金属材料で形成されていてもよい。
【0029】
図2〜図6に示すように、4枚のプレート10〜13のうち、最も上方に位置するキャビティプレート10には、平面に沿って配列された複数の圧力室14がプレート10を貫通する孔により形成され、複数の圧力室14は隔壁部10aにより区画されている。そして、複数の圧力室14は上下両側から後述の振動板30及びベースプレート11によりそれぞれ覆われている。また、複数の圧力室14は、紙送り方向(図2の上下方向)に2列に千鳥状に配列されている。さらに、各圧力室14は、平面視で走査方向(図2の左右方向)に長尺な、略楕円形状に形成されている。
【0030】
図3〜図5に示すように、ベースプレート11の、平面視で圧力室14の両端部と重なる位置には、それぞれ連通孔15,16が形成されている。また、マニホールドプレート12には、平面視で、2列に配列された圧力室14の連通孔15側の部分と重なるように、紙送り方向に延びる2つのマニホールド17が形成されている。これら2つのマニホールド17は、後述の振動板30に形成されたインク供給口18に連通しており、図示しないインクタンクからインク供給口18を介してマニホールド17へインクが供給される。さらに、マニホールドプレート12の、平面視で複数の圧力室14のマニホールド17と反対側の端部と重なる位置には、それぞれ、複数の連通孔16に連なる複数の連通孔19も形成されている。
【0031】
さらに、ノズルプレート13の、平面視で複数の連通孔19にそれぞれ重なる位置には、複数のノズル20が形成されている。図2に示すように、複数のノズル20は、紙送り方向に沿って千鳥状に2列に配列された複数の圧力室14の、マニホールド17と反対側の端部とそれぞれ重なるように配置されて、2列のノズル列を構成している。
【0032】
そして、図5に示すように、マニホールド17は連通孔15を介して圧力室14に連通し、さらに、圧力室14は、連通孔16,19を介してノズル20に連通している。このように、流路ユニット4内には、マニホールド17から圧力室14を経てノズル20に至る個別インク流路21が複数形成されている。
【0033】
次に、圧電アクチュエータ5について説明する。図7は図6の部分拡大図である。図3、図5〜図7に示すように、圧電アクチュエータ5は、複数の圧力室14を覆う振動板30と、この振動板30の上面に複数の圧力室14に跨って連続的に形成された圧電層31と、この圧電層31の上面に配置された複数の個別電極32(第1電極)とを備えている。そして、圧電アクチュエータ5は、複数の圧力室14内のインクに対して選択的に圧力を付与するように構成されている。
【0034】
振動板30は、平面視で略矩形状の金属板であり、例えば、ステンレス鋼等の鉄系合金、銅系合金、ニッケル系合金、あるいは、チタン系合金などからなる。この振動板30は、キャビティプレート10の上面に複数の圧力室14を覆うように配設された状態で、複数の圧力室14を区画する隔壁部10aに接合されている。また、振動板30の上面は導電性を有し、複数の圧力室14に跨って配置されて複数の個別電極32との間の圧電層31に厚み方向の電界を生じさせる共通電極(第2電極)を兼ねている。従って、振動板30とは別に共通電極を設ける必要がなく、その分、圧電アクチュエータ5の構成が簡単になる。さらに、この共通電極としての振動板30は常にグランド電位に保持されている。
【0035】
振動板30の上面には、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との固溶体であり強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする、圧電材料からなる圧電層31が形成されている。この圧電層31は、複数の圧力室14を覆うように連続的に形成されている。
【0036】
圧電層31の上面(圧力室14と反対側の面)には、金、銅、銀、パラジウム、白金、あるいは、チタンなどの導電性材料からなる導電層33が、ほぼ全域に形成されている。また、この導電層33の複数の圧力室14と対向する領域には、圧力室14の中央部と対向する領域を取り囲む略楕円状の複数の第1環状溝40がそれぞれ形成されている。各第1環状溝40は導電層33を貫通しており、この第1環状溝40が形成されている部分において、導電層33が部分的に除去されている。そして、圧電層31の上面において、第1環状溝40の内側の圧力室14の中央部と対向する領域に、圧力室14よりも一回り小さい略楕円形状の平面形状を有する個別電極32(第1電極)が形成されている。また、第1環状溝40の一部は圧力室14の長手方向端部(貫通孔15側の端部)から圧力室14の周縁を越えて外側の領域へ突出している(突出部40a)。つまり、複数の第1環状溝40の突出部40aの内側に、複数の個別電極32から圧力室14の周縁を越えて外側の領域までそれぞれ引き出された、複数の接点部35がほぼ円形に形成されている。
【0037】
以上のように、第1環状溝40は切れ目のない形状に形成されるとともに、全周にわたって導電層33を貫通していることから、第1環状溝40の内側に位置する個別電極32と接点部35は、第1環状溝40によりその外側の導電層33と電気的に絶縁されている。尚、第1環状溝40は、導電層33を貫通するだけでなく、その下側の圧電層31の厚み方向途中部まで入り込んでいてもよいが、振動板30には達していない。そのため、共通電極としての振動板30の上面は第1環状溝40において露出しておらず、この第1環状溝40内において個別電極32と振動板30との間でショートや放電が生じることが防止されている。
【0038】
複数の接点部35には、図示しないフレキシブルプリント配線板(Flexible Printed Circuit:FPC)等の可撓性を有する配線部材の接点が接合され、複数の個別電極32は、配線部材及び複数の接点部35を介してドライバIC(図示省略)とそれぞれ電気的に接続されている。そして、圧電アクチュエータ5の駆動時には、ドライバICから、インクを噴射させる所望のノズル20に対応する個別電極32に対して所定の駆動電圧が印加されるようになっている。
【0039】
さらに、図3及び図5〜図7に示すように、圧電層31の上面の圧力室14の周縁部と対向する領域であって、前述した第1環状溝40よりも外側の領域には、導電層33及び圧電層31の両方を貫通して振動板30の上面まで達する第2環状溝41が、圧力室14の周縁に沿って形成されている。また、この第2環状溝41は、接点部35を区切る突出部40aを囲う突出部41aを有する。そして、突出部40aを含む第1環状溝40全体を完全に取り囲むように、圧力室14の周縁の全周にわたって切れ目なく形成されている。従って、第2環状溝41の内側の、圧力室14と対向する領域の圧電層31がその外側の部分から完全に切り離されることから、後述のように、個別電極32と振動板30との間に駆動電圧が印加されたときに圧電層31が変形しやすくなる。
【0040】
また、万が一、内側の第1環状溝40による個別電極32及び接点部35の絶縁が不十分である場合でも、外側の第2環状溝41により、個別電極32及び接点部35が周囲の導電層33から確実に絶縁される。
【0041】
尚、振動板30の上面に複数の圧力室に跨る共通電極が別に設けられている形態では、圧電層31を貫通するように第2環状溝41を形成したときに共通電極もこの第2環状溝41で区切られて、個別電極32と対向する共通電極の部分が孤立しまうことがある。この場合には、これらの孤立した共通電極部分にそれぞれグランド電位を付与するための配線等が必要になってしまう。しかし、本実施形態では、前述したように、振動板30が導電性材料(金属)からなり、その上面が共通電極を兼ねていることから、複数の個別電極32にそれぞれ対応する共通電極の部分が第2環状溝41により分断されることはなく、互いに導通した状態が維持されるため、これらに対して共通にグランド電位を容易に付与することができる。
【0042】
また、第2環状溝41は、個別電極32を区切る第1環状溝40よりも外側にずれた位置に形成されている。そのため、圧電層31を貫通するように第2環状溝41が形成されて、共通電極としての振動板30の上面が第2環状溝41において露出しても、個別電極32と振動板30の上面の間の離隔距離がある程度確保される。
【0043】
即ち、図7に示すように、外側の第2環状溝41が圧電層31を貫通している場合には、個別電極32と振動板30の上面との間の離隔距離は、圧電層31の面方向に関する2つの環状溝40,41のズレ量dと圧電層31の厚さtとの和となる。一方、内側の第1環状溝40が圧電層31を貫通している場合を仮定すると、このときの個別電極32と振動板30の上面との間の離隔距離は圧電層31の厚さtとなる。つまり、外側の第2環状溝41の位置で圧電層31が分離される場合には、第1環状溝41の位置で分離される場合よりも、個別電極32と振動板30の上面との間の離隔距離が環状溝40,41間のズレ量dだけ長くなることから、個別電極32と振動板30との間におけるショートや放電が確実に防止される。
【0044】
次に、インク噴射時における圧電アクチュエータ5の作用について説明する。複数の個別電極32に対してドライバICから選択的に駆動電圧が印加されると、駆動電圧が印加された圧電層31上側の個別電極32と、グランド電位に保持されている圧電層31下側の共通電極としての振動板30の電位が互いに異なった状態となることから、個別電極32と振動板30の間に挟まれた、駆動領域の圧電層31に厚み方向の電界が生じる。そして、圧電層31の分極方向と電界の方向とが同じ場合には、圧電層31はその分極方向である厚み方向に伸びて水平方向に収縮し、この圧電層31の収縮変形に伴って、振動板30の圧力室14と対向する領域が圧力室14側に変位して、振動板30が圧力室14側に凸となるように変形する。このとき、圧力室14の容積が減少することからその内部のインクに圧力が付与され、圧力室14に連通するノズル20からインクの液滴が噴射される。
【0045】
ここで、前述したように、圧電層31の上面の圧力室14の周縁部と対向する領域には、導電層33及び圧電層31の両方を貫通する第2環状溝41が形成されており、第2環状溝41の内側に位置する圧電層31が、その外側の部分から完全に切り離されている。そのため、個別電極32と振動板30との間に駆動電圧が印加されたときに圧電層31が変形しやすくなることから、振動板30の変位量の増大、あるいは、駆動電圧の低減を実現できる。また、圧力室14と対向する領域における圧電層31の変形が、隣接する圧力室14と対向する領域に伝播しにくくなるため、クロストークを抑制することができる。さらに、個別電極32及び接点部35が2種類の環状溝40,41により2重に取り囲まれていることから、個別電極32及び接点部35の絶縁がより確実になされる。
【0046】
尚、図7に示すように、外側の第2環状溝41の内端E(即ち、第2環状溝41により切り離された圧電層31の、第2環状溝41に接する端)が、圧力室14の周縁かそれよりも内側、つまり、圧力室14と対向する領域に位置していることが好ましい。この場合には、個別電極32に駆動電圧が印加されたときに、第2環状溝41により切り離された圧電層31の部分が平面視で圧力室14内に収まることから、圧電層31がより変形しやすくなり、振動板30の変位量が一層大きくなる。
【0047】
次に、本実施形態のインクジェットヘッド1の製造方法について説明する。
まず、流路ユニット4を構成するプレート10〜13のうち、キャビティプレート10、ベースプレート11、及び、マニホールドプレート12の3枚の金属プレートに、圧力室14やマニホールド17等のインク流路を構成する孔をエッチングにより形成する。そして、図8に示すように、キャビティプレート10、ベースプレート11、及び、マニホールドプレート12と金属製の振動板30の、計4枚の金属プレートを、接着剤、あるいは、金属拡散接合により接合する。
【0048】
次に、図9に示すように、振動板30の上面の、複数の圧力室14と対向する領域に跨って連続的に圧電層31を形成する(圧電層形成工程)。この圧電層31は、振動板30の上面に圧電材料の粒子を堆積させることにより形成する。例えば、粒子とキャリアガスとからなるエアロゾルを基材に噴射して粒子を堆積させるエアロゾルデポジション法(AD法)や、化学蒸着(CVD)法、スパッタ法等を用いることができる。あるいは、グリーンシートを焼成して得られた圧電シートを振動板30の上面に接着剤で貼り付けることにより圧電層31を形成してもよい。
【0049】
さらに、図10に示すように、圧電層31の上面の複数の圧力室14と対向する領域に、導電層33を隙間なく形成する(導電層形成工程)。この導電層33は、スクリーン印刷法、蒸着法、あるいは、スパッタ法などにより形成することができる。
【0050】
次に、図11に示すように、圧電層31の上面の圧力室14の中央部と対向する領域を取り囲むように第1環状溝40を形成し、導電層33を部分的に除去することによって、第1環状溝40の内側にその外側の導電層33と絶縁された個別電極32と接点部35とを形成する(個別電極形成工程)。また、圧電層31の上面の圧力室14の周縁部と対向する領域に、圧電層31を貫通して振動板30の上面まで達する第2環状溝41(凹部)を圧力室14の周縁に沿って形成する(凹部形成工程)。
【0051】
ここで、2種類の環状溝40,41を、ともにレーザー加工により形成することができる。但し、2つの環状溝40,41のうち、個別電極32を区切る内側の第1環状溝40は圧電層31を貫通しないように形成する必要があるのに対し、外側の第2環状溝41はより深く形成して圧電層31を貫通させることから、2つの環状溝40,41を形成する際のレーザー加工の設定を少し異ならせる。具体的には、外側の第2環状溝41を形成するときには、内側の第1環状溝40を形成するときよりも、レーザーの強度を上げたり、あるいは、レーザーの照射時間や走査回数を長くしたりすればよい。また、レーザーの焦点距離を変えることにより、深さの異なる2種類の環状溝40,41をそれぞれ形成することも可能である。尚、2種類の環状溝40,41はどちらを先に形成してもよく、内側の第1環状溝40を形成してからその後に外側の第2環状溝41を形成してもよいし、その逆でもよい。
【0052】
このように、2種類の環状溝40,41をともにレーザー加工で形成する場合には、これら2種類の環状溝40,41の形成工程を続けて行うことができるため、従来のように、個別電極32の形成用の第1環状溝40のみを形成する場合(前述の特許文献1参照)と比較して、特段、製造コストが上昇したり、環状溝40,41の形成工程にかかる時間が長くなったりすることがない。
【0053】
最後に、図12に示すように、合成樹脂製のノズルプレート13をマニホールドプレート12の下面に接着剤等により接合して、インクジェットヘッド1の製造を完了する。
【0054】
尚、以上説明したインクジェットヘッド1の製造工程において、ノズルプレート13がステンレス鋼等からなる金属プレートである場合には、振動板30、キャビティプレート10、ベースプレート11、マニホールドプレート12、及び、ノズルプレート13の5枚の金属プレートを金属拡散接合により一度に接合してもよい。
【0055】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0056】
1]前記実施形態では、振動板の導電性を有する上面が、複数の個別電極(第1電極)と対向して圧電層に電圧を印加する共通電極(第2電極)を兼ねているが(図5、図6参照)、振動板の少なくとも上面が電気絶縁性を有し、この上面に振動板とは別の共通電極が設けられていてもよい(変更形態1)。尚、図13、図14に示すように、前記実施形態と同様に、振動板30が金属板である場合には、導電性を有する振動板30の上面に絶縁層50を形成して、振動板30と共通電極34とを絶縁する必要がある。この絶縁層50は、例えば、アルミナやジルコニアなどの絶縁性セラミックス材料、あるいは、ポリイミドなどの合成樹脂材料により形成することができる。一方、振動板30が絶縁性材料で形成された板である場合には、振動板30の上面そのものが電気絶縁性を有することから、前述の絶縁層50は不要である。
【0057】
また、この変更形態1においても、圧電層31の上面には、圧力室14の中央部と対向する領域を取り囲むように形成されて、個別電極32を区切る内側の第1環状溝40と、この第1環状溝40を取り囲む外側の第2環状溝41Aとが形成される。但し、前記実施形態と同じように、外側の第2環状溝41Aを、圧電層31を貫通し、且つ、個別電極32と接点部35を完全に取り囲むようにレーザー加工等で形成すると、圧電層31の下側に位置する共通電極34が第2環状溝41により周囲から完全に切り離されて孤立してしまうこともあり得る。このような場合に、孤立した部分も常にグランド電位に保持しようとすると、それらの部分に個別に配線を接続するなどして確実に導通を取る必要があり、その分、構造が複雑になる。
【0058】
そこで、この変更形態1においては、図13に示すように、圧電層31を貫通する外側の第2環状溝41Aは、個別電極32と接点部35との接続部分において分断されて平面視でほぼC字形状に形成されており、この接続部分を除いて個別電極32を取り囲んでいる。そのため、第2環状溝41Aが共通電極34をも貫通するように形成されたとしても、共通電極34の第2環状溝41Aよりも内側の部分が孤立することはなく、少なくとも個別電極32と接点部35との接続部分と対向する領域で周囲の部分と導通した状態が維持されるため、共通電極34の複数の個別電極32とそれぞれ対向する部分を常にグランド電位に保持することが容易になる。
【0059】
2]前記実施形態では、圧電層31を分離する第2環状溝41が圧力室14の周縁に沿って形成されていたが、圧力室14の全周にわたって溝が形成されている必要は必ずしもなく、圧力室14の周縁部と対向する領域の一部に溝が形成されていてもよい。例えば、図15に示すように、一方向に長尺な圧力室14の短手方向に関する2つの周縁部に、圧力室14の中央部を挟んで相対向するとともに長手方向に延在する2つの縁に沿って、2本の溝41Bがそれぞれ形成されていてもよい(変更形態2)。このように、圧力室14の長手方向に延びる2つの縁近傍と対向する領域に特に溝41Bが形成されて、この領域における圧電層31の剛性が低下することにより、振動板30の変位量の増大、あるいは、駆動電圧の低減を効果的に実現できる。
【0060】
3]前記実施形態の第2環状溝41のような連続的に延びる溝の代わりに、図16に示すように、圧電層31の上面に、圧力室14の周縁のほぼ全周にわたって複数の凹部41Cが離散的に形成されていてもよい(変更形態3)。また、これら複数の凹部41Cは、図16のように、圧力室14のほぼ全周にわたって形成されていてもよいが、圧力室14の周縁部と対向する領域の一部(例えば、前述した変更形態2と同様に、圧力室14の長手方向に延在する2つの縁に沿う領域)に形成されていてもよい。このような構成でも、圧力室14の周縁部と対向する領域における圧電層31の剛性が低下するため、振動板30の変位量の増大、あるいは、駆動電圧の低減といった効果が得られる。
【0061】
4]前記実施形態及びその変更形態においては、圧力室14の周縁部と対向する領域に形成される第2環状溝41(図3)、溝41B(図15)、複数の凹部41C(図16)等は、圧電層31を貫通して振動板30の上面まで達しているが、少なくとも圧電層31の厚み方向途中部まで入り込んでいるだけでもよい。このような構成でも、圧力室14の周縁部と対向する領域における圧電層31の剛性を低下させる作用は得られることから、振動板30の変位量の増大、あるいは、駆動電圧の低減といった同様の効果が得られる。
【0062】
以上説明した実施形態及びその変更形態は、ノズルからインクを噴射するインクジェットヘッドに本発明を適用した一例であるが、本発明を適用可能な対象はこのようなインクジェットヘッドに限られない。例えば、導電ペーストを噴射して基板上に微細な配線パターンを形成したり、あるいは、有機発光体を基板に噴射して高精細ディスプレイを形成したり、さらには、光学樹脂を基板に噴射して光導波路等の微小電子デバイスを形成するための、種々の液滴噴射装置に本発明を適用できる。
【0063】
また、液滴噴射装置だけでなく、マイクロ総合分析システム(μTAS)内部で薬液や生化学溶液等の液体を移送する液体移送装置、マイクロ化学システム内部で溶媒や化学溶液等の液体を移送する液体移送装置等、インク以外の液体を移送する液体移送装置にも本発明を適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。
【図2】インクジェットヘッドの平面図である。
【図3】図2のインクジェットヘッドの一部拡大図である。
【図4】振動板の上面から見たインクジェットヘッドの一部拡大図である。
【図5】図3のV-V線断面図である。
【図6】図3のVI-VI線断面図である。
【図7】図6のアクチュエータ部分の拡大図である。
【図8】金属プレートの接合工程を示す図である。
【図9】圧電層形成工程を示す図である。
【図10】個別電極形成工程を示す図である。
【図11】圧電層に2種類の環状溝を形成する工程を示す図である。
【図12】ノズルプレートの接合工程を示す図である。
【図13】変更形態1のインクジェットヘッドの一部拡大平面図である。
【図14】図13のXIV-XIV線断面図である。
【図15】変更形態2のインクジェットヘッドの一部拡大平面図である。
【図16】変更形態3のインクジェットヘッドの一部拡大平面図である。
【符号の説明】
【0065】
1 インクジェットヘッド
4 流路ユニット
5 圧電アクチュエータ
14 圧力室
30 振動板
31 圧電層
32 個別電極
33 導電層
34 共通電極
35 接点部
40 第1環状溝
41,41A 第2環状溝
41B 溝
41C 凹部

【出願人】 【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
【出願日】 平成18年8月24日(2006.8.24)
【代理人】 【識別番号】100089196
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 良之

【識別番号】100104226
【弁理士】
【氏名又は名称】須原 誠

【識別番号】100125162
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 亨


【公開番号】 特開2008−49569(P2008−49569A)
【公開日】 平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願番号】 特願2006−227282(P2006−227282)