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【発明の名称】 液体噴射ヘッド及び液体噴射装置
【発明者】 【氏名】瀬下 龍哉

【要約】 【課題】液体を安定して噴射させることができるとともに、圧力室内の液体中に含まれた気泡の成長を安価なコストで抑制することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。

【構成】記録ヘッド19は、定形性を有した本体ケース30を備える。本体ケース30には、ノズル43aが形成されたノズルプレート43と、該ノズルプレート43との間で本体ケース30内に圧力室44を形成する振動板35と、該振動板35を振動させることによりノズル43aから圧力室44内のインクを噴射させる圧電素子39とが装着されている。そして、本体ケース30には、振動板35における圧力室44とは反対側で該振動板35との間に閉空間36を形成する第1封止フィルム34を装着し、該第1封止フィルム34を少なくとも水蒸気非透過性材料で構成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
定形性を有した本体ケースを備え、該本体ケースに、ノズルが形成されたノズルプレートと、該ノズルプレートとの間で本体ケース内に圧力室を形成する振動板と、該振動板を振動させることにより前記ノズルから前記圧力室内の液体を噴射させる駆動素子とを装着した液体噴射ヘッドにおいて、
前記本体ケースには、前記振動板における前記圧力室とは反対側で該振動板との間に閉空間を形成する閉空間形成部材を装着し、該閉空間形成部材を少なくとも水蒸気非透過性材料で構成したことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記閉空間形成部材は、前記閉空間内の圧力変動に伴い変形するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記本体ケースは、前記閉空間を大気に開放するための大気開放通路を備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記大気開放通路は、前記本体ケースにおける前記閉空間と対応する壁部を貫通する貫通孔と、該貫通孔と連通するようにして前記壁部の外面上に形成された蛇行状の凹溝と、該凹溝における前記貫通孔から遠い側の端部を大気に連通させた状態で前記貫通孔及び前記凹溝を覆うように前記壁部の外面に封着された封止部材とにより形成され、
該封止部材を少なくとも水蒸気非透過性材料で構成したことを特徴とする請求項3に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記貫通孔の断面積は、前記凹溝の断面積よりも大きいことを特徴とする請求項4に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドと、該液体噴射ヘッドへ液体を供給する液体供給機構とを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェット式プリンタ等の液体噴射装置及びこれに備えられる液体噴射ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、記録ヘッド(液体噴射ヘッド)に形成されたノズルからターゲットに対してインク(液体)を噴射させる液体噴射装置として、インクジェット式プリンタ(以下、単に「プリンタ」という。)が広く知られている。こうしたプリンタでは、インクを収容したインクカートリッジからキャリッジに搭載された記録ヘッドにインクを供給するようにしている。そして、このようなプリンタのキャリッジに搭載される記録ヘッドとしては、従来から、特許文献1に示されたものが知られている。
【0003】
この特許文献1に記載の記録ヘッドは、定形性を有した本体ケース(ヘッドケース)を備え、該本体ケースに、ノズルが形成されたノズルプレートと、該ノズルプレートとの間で本体ケース内に圧力室(圧力発生室)及び該圧力室に連通したインク貯留室を形成する振動板と、該振動板を振動させることによりノズルから圧力室内のインクを噴射させる駆動素子(圧電振動子)とを装着している。
【0004】
この本体ケースにおけるインク貯留室に対応する部分には、該インク貯留室内に発生する圧力変動を、振動板を介して逃がすダンパ用凹部が形成されている。ダンパ用凹部は、十分なダンパ効果を得るために本体ケースに形成された外部連通路を介して大気開放されている。また、振動板は、樹脂製薄膜と金属製薄膜とを貼り合わせた積層構造になっているとともに、その機能上、ダンパ用凹部と対応する部分には、金属製薄膜が積層されていない。このため、この特許文献1の記録ヘッドでは、この振動板における金属製薄膜が積層されていない部分からインクの水蒸気が蒸発してインク貯留室内のインクが増粘しないように、インクの水蒸気拡散を抑制する流路抵抗が付与された制御通路を含むように前記外部連通路を構成している。
【特許文献1】特開2005−289074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の記録ヘッドでは、駆動素子が振動板における圧力室とは反対側となる面に固着されている。したがって、振動板においては駆動素子が固着された部分の周囲の部分においても、その機能上、金属製薄膜が積層されていない。そのため、この駆動素子が固着された部分の周囲から圧力室内のインクに外部から気泡が混入したり、圧力室内のインクの水蒸気が外部へ蒸発したりするという問題があった。特に、圧力室内のインクに混入した気泡が成長した場合には、印刷時のドット抜け等の不具合を招くおそれがあるため、気泡をできるだけ成長させないようにすることが望ましい。
【0006】
そこで、このような気泡成長の抑制策として、例えば振動板を構成する樹脂製薄膜として高いガスバリア性を有するガスバリア素材からなるフィルムを用いることで、圧力室内への空気の移行を抑制することが考えられる。ところが、ガスバリア素材は高弾性率のものが多く、ガスバリア素材で構成したフィルムは硬いものになって、駆動素子の駆動に基づいて振動板が振動する際の応答性が低下する。このように振動板の応答性が低下すると、記録ヘッドからのインクの噴射が不安定となって、印刷品質の低下を招くことになる。また、ガスバリア素材は一般に高価なため、ガスバリア素材を採用することにより製造コストの上昇を招くという問題もある。
【0007】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、液体を安定して噴射させることができるとともに、圧力室内の液体中に含まれた気泡の成長を安価なコストで抑制することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の液体噴射ヘッドは、定形性を有した本体ケースを備え、該本体ケースに、ノズルが形成されたノズルプレートと、該ノズルプレートとの間で本体ケース内に圧力室を形成する振動板と、該振動板を振動させることにより前記ノズルから前記圧力室内の液体を噴射させる駆動素子とを装着し、前記本体ケースには、前記振動板における前記圧力室とは反対側で該振動板との間に閉空間を形成する閉空間形成部材を装着し、該閉空間形成部材を少なくとも水蒸気非透過性材料で構成した。
【0009】
この発明によれば、閉空間内から閉空間形成部材を介して水蒸気が大気中に放出されることが規制され、閉空間内が水蒸気の飽和した状態に維持される。このため、圧力室内の液体中に気泡が存在したとしても、振動板を介した圧力室内の液体中の気泡内と閉空間内との間に水蒸気の分圧差が生じにくくなる。そして、この分圧差を駆動力とする振動板を介した閉空間側から圧力室内への空気等のガスの移行が抑制される。このため、振動板を構成する素材として高弾性率で硬く高価なガスバリア素材を用いる必要がなくなり、駆動素子の駆動に基づいて振動板が振動する際の応答性が確保される。したがって、液体を安定して噴射させることが可能となるとともに、圧力室内の液体中に含まれた気泡の成長を安価なコストで抑制することが可能となる。
【0010】
本発明の液体噴射ヘッドは、前記閉空間形成部材が、前記閉空間内の圧力変動に伴い変形するように構成されている。
この発明によれば、温度変化等により閉空間内の圧力が変動したとしても、閉空間形成部材が変形することで、その圧力変動を吸収することが可能となる。
【0011】
本発明の液体噴射ヘッドは、前記本体ケースが、前記閉空間を大気に開放するための大気開放通路を備えている。
この発明によれば、閉空間内が大気開放通路により大気に開放されているため、温度変化等により閉空間内の圧力が変動したとしても、その圧力変動を効果的に抑制することが可能となる。
【0012】
本発明の液体噴射ヘッドは、前記大気開放通路が、前記本体ケースにおける前記閉空間と対応する壁部を貫通する貫通孔と、該貫通孔と連通するようにして前記壁部の外面上に形成された蛇行状の凹溝と、該凹溝における前記貫通孔から遠い側の端部を大気に連通させた状態で前記貫通孔及び前記凹溝を覆うように前記壁部の外面に封着された封止部材とにより形成され、該封止部材を少なくとも水蒸気非透過性材料で構成した。
【0013】
この発明によれば、大気開放通路が蛇行状の凹溝と水蒸気非透過性材料で構成された封止部材とで形成される通路を備えるため、該大気開放通路の距離を稼ぐことが可能となる。このため、閉空間内を大気に開放しつつ、閉空間内の水蒸気が大気中に拡散蒸発することを抑制することが可能となる。
【0014】
本発明の液体噴射ヘッドは、前記貫通孔の断面積が、前記凹溝の断面積よりも大きい。
この発明によれば、閉空間内が凹溝よりも断面積の大きい貫通孔を介して該凹溝と連通しているため、閉空間内の水蒸気が凝結して水(液体)になったとしても、該水によって大気開放通路が閉塞され難くすることが可能となる。
【0015】
本発明の液体噴射装置は、上記構成の液体噴射ヘッドと、該液体噴射ヘッドへ液体を供給する液体供給機構とを備えた。
この発明によれば、振動板を構成する素材として高弾性率で硬く高価なガスバリア素材を用いる必要がなくなり、駆動素子の駆動に基づいて振動板が振動する際の応答性が確保される。したがって、液体を安定して噴射させることが可能となるとともに、圧力室内の液体中に含まれた気泡の成長を安価なコストで抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る液体噴射装置をインクジェット式プリンタに具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下における本明細書中の説明において、「前後方向」、「左右方向」、「上下方向」をいう場合は図1に矢印で示す前後方向、左右方向、上下方向をそれぞれ示すものとする。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の液体噴射装置としてのインクジェット式プリンタ11は、略矩形箱状をなすフレーム12を備えている。フレーム12内の下部には、その長手方向である左右方向に沿ってプラテン13が架設されている。プラテン13上には、フレーム12の背面下部に設けられた紙送りモータ14の駆動に基づき、図示しない紙送り機構により記録用紙Pが後方側から給送されるようになっている。
【0018】
また、フレーム12内におけるプラテン13の上方には、該プラテン13の長手方向に沿ってガイド軸15が架設されている。ガイド軸15には、キャリッジ16が、該ガイド軸15の軸線方向(左右方向)に沿って往復移動可能に支持されている。すなわち、キャリッジ16は左右方向に貫通形成された支持孔16aにガイド軸15が挿通されることにより、このガイド軸15の長手方向に沿って往復移動自在に支持されている。
【0019】
また、フレーム12の後壁内面においてガイド軸15の両端部と対応する位置には、駆動プーリ17a及び従動プーリ17bが回転自在に支持されている。駆動プーリ17aにはキャリッジ16を往復移動させる際の駆動源となるキャリッジモータ18の出力軸が連結されるとともに、これら一対のプーリ17a,17b間には、キャリッジ16に連結された無端状のタイミングベルト17が掛装されている。従って、キャリッジ16は、ガイド軸15にガイドされながら、キャリッジモータ18の駆動力により無端状のタイミングベルト17を介して左右方向に移動可能となっている。
【0020】
キャリッジ16の下面側には液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド19が設けられる一方、キャリッジ16上には記録ヘッド19に対して液体としてのインクを供給するための液体供給機構を構成するインクカートリッジ21が着脱可能に搭載されている。そして、インクカートリッジ21内のインクは、記録ヘッド19に備えられた後述する駆動素子としての圧電素子39の駆動により、インクカートリッジ21から記録ヘッド19へと供給され、該記録ヘッド19に備えられた後述する複数のノズル43aからプラテン13上に給送された記録用紙Pに噴射されて印刷が行われるようになっている。
【0021】
なお、フレーム12内の右端部に位置する記録用紙Pが至らないホームポジション領域(非印刷領域)には、非印刷時に記録ヘッド19のメンテナンスを行うためのメンテナンスユニット22が設けられている。
【0022】
次に、記録ヘッド19について詳述する。
図2及び図3に示すように、記録ヘッド19は、定形性を有し、且つ水蒸気や大気等の気体を透過させない合成樹脂材料からなる本体ケース30を備えている。本体ケース30は、その上端に上端開口部30aを有するとともに、その下端に下端開口部30bを有する略四角筒状をなしている。本体ケース30の左右両側壁の外面上端部にはそれぞれ矩形状の取付片31が左右方向に向かって延設されている。両取付片31の中央部には、それぞれ取付孔31aが貫通形成されており、該両取付孔31aには本体ケース30(記録ヘッド19)をキャリッジ16(図1参照)に取り付ける際に用いられる固定用のボルト(図示略)が挿通されるようになっている。
【0023】
本体ケース30の上面において、上端開口部30aの四隅のうち前方右側隅及び後方左側隅の両近傍位置には、一対の円筒状をなすインク供給部32a,32bが立設されている。すなわち、本体ケース30の上面上において、右側のインク供給部32aが前端部寄りの位置に配置されるとともに、左側のインク供給部32bが後端部寄りの位置に配置されている。また、本体ケース30には、該本体ケース30を上下方向に貫通する2つのインク供給路33a,33bが形成されており、該両インク供給路33a,33bは、両インク供給部32a,32bと連通している。
【0024】
本体ケース30の上面には、該本体ケース30の上端開口部30aを封止するように、閉空間形成部材としての可撓性及び水蒸気非透過性を有する第1封止フィルム34が溶着されている。すなわち、第1封止フィルム34は、少なくとも水蒸気非透過性材料により構成されている。この場合、両インク供給部32a,32bと対応する位置には、これら両インク供給部32a,32bの外径よりも若干大きい内径を持つ挿通孔34aがそれぞれ形成されており、両挿通孔34aに両インク供給部32a,32bがそれぞれ挿通されることで、第1封止フィルム34の位置決めがなされている。
【0025】
本体ケース30の下面には、該本体ケース30の下端開口部30b及び両インク供給路33a,33bの下端開口を封止するように、振動板35が固着されている。したがって、本体ケース30内における振動板35と第1封止フィルム34との間には、閉空間36が形成される。この振動板35は、可撓性及び水蒸気非透過性を有する合成樹脂製のフィルム層37の上面にステンレス鋼(SUS)等の薄膜よりなる金属層38を部分的に積層することで構成されている。
【0026】
振動板35の中央部には、閉空間36内に位置し、金属層38における他の部分から独立した左右一対の金属層38からなる島部35aが形成されている。振動板35における両島部35aを囲む部分は、振動板35の金属層38側をエッチングすることで、その金属層38の下側のフィルム層37が露出した露出部35bとされている。
【0027】
本体ケース30内(閉空間36内)において、両島部35aの上面には、一対の直方体状の圧電素子39の下面がそれぞれ固着されている。両圧電素子39における互いに対向する面と反対側の面の上側半分は、固定基板40を介して本体ケース30内の左右の側壁にそれぞれ固着されている。図4に示すように、本体ケース30の後壁上端部には、該本体ケース30の内外(閉空間36の内外)を貫通するケーブル用開口部30cが形成されている。
【0028】
そして、一端側がインクジェット式プリンタ11(図1参照)の制御部(図示略)に接続された帯状のフレキシブル回路基板41の他端側が、ケーブル用開口部30cを通って両圧電素子39の上端部にそれぞれ接続されている。この場合、ケーブル用開口部30cは、フレキシブル回路基板41が通された後に、樹脂モールド等によって隙間なく閉塞される。そして、制御部(図示略)で発生させた駆動信号を、フレキシブル回路基板41を介して両圧電素子39に入力することで、該両圧電素子39が上下方向に伸縮するようになっている。
【0029】
図3に示すように、振動板35の下面には、枠状体42を介してノズルプレート43が設けられている。振動板35とノズルプレート43との間には、枠状体42の左右方向の中央部において前後方向に延びる枠42aによって隔絶された左右一対の圧力室44が形成されている。両圧力室44は、振動板35に形成された左右一対の連通孔35cを介して両インク供給路33a,33bとそれぞれ連通しており、該両インク供給路33a,33bを介してインクカートリッジ21(図1参照)から供給されるインクがそれぞれ流入するようになっている。
【0030】
また、両圧電素子39は、枠状体42の枠42aを挟んで対向するように配置されている。すなわち、両圧電素子39は、両圧力室44と上下方向においてそれぞれ対応するように配置されている。ノズルプレート43には、両圧力室44を介して両圧電素子39と上下方向においてそれぞれ対応する位置に、前後方向に複数のノズル43aが配列されてなるノズル列43bがそれぞれ設けられている。そして、制御部(図示略)からの駆動信号を、フレキシブル回路基板41を介して両圧電素子39に入力することで、該両圧電素子39が上下方向に伸縮し、この伸縮動作に基づいて振動板35が振動することで、両圧力室44内のインクがそれぞれ両ノズル列43bから噴射されるようになっている。
【0031】
図2及び図4に示すように、本体ケース30の前壁(壁部)外面には、略四角板状に隆起した隆起部45が形成されている。本体ケース30の前壁下端部の左右方向における中央部には、該本体ケース30の前壁とともに隆起部45を貫通する貫通孔46が形成されている。隆起部45における貫通孔46の上側には、該隆起部45の厚さと同じ深さの凹溝47が蛇行状に形成されている。凹溝47は、その一端が貫通孔46の上端に接続されるとともに、その他端(貫通孔46から遠い側の端部)が隆起部45の右側面における上端部で大気に連通するべく開口している。そして、隆起部45の前面全体には、凹溝47及び貫通孔46を覆うように、封止部材としての少なくとも水蒸気非透過性材料よりなる合成樹脂製の第2封止フィルム48が封着されている。
【0032】
したがって、本体ケース30の閉空間36は、貫通孔46及び凹溝47を介して大気開放されている。なお、貫通孔46及び凹溝47は、大気開放通路を構成している。また、この場合、貫通孔46の断面積は、凹溝47の断面積よりも大きくなるように設定されている。
【0033】
ここで、振動板35を構成するフィルム層37、第1封止フィルム34、及び第2封止フィルム48としては、例えばポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、塩化ビニリデン(サラン)をコーティングしたポリアミドフィルム、ポリフェニレンエーテルフィルム、ポリブチレンフィルム等、またこれらの変性樹脂フィルム、これらのフィルムを積層した複合フィルム等が挙げられる。
【0034】
これらのフィルムは、必ずしも高いガスバリア性を有するものではないが、ガスの透過を十分抑制しうるものである。このため、閉空間36内及び大気開放通路内の水蒸気が第1封止フィルム34及び第2封止フィルム48を透過して外部の空間(大気中)に放出されたり、両圧力室44内のインクの水蒸気が振動板35の露出部35bを透過して閉空間36内に放出されたりすることが規制される。
【0035】
次に、圧力室44内での気泡の成長メカニズムについて説明する。
図5(a)は、本実施形態の記録ヘッド19を、圧力室44内のインクに気泡核が存在せず、且つ本体ケース30内に閉空間36が存在しないようにした状態を示している。この状態では、振動板35の露出部35bを通して、大気を構成する酸素、窒素、二酸化炭素等のガスは、インク内へと入っていくが、インクがガスの飽和状態になれば、ガスの流入は止まり、気泡の成長プロセスは発生しない。
【0036】
これに対して、本実施形態の記録ヘッド19を、図5(b)に示すように、圧力室44内に気泡核49が存在し、且つ本体ケース30内に閉空間36が存在しないようにした場合には、気泡核49内は水蒸気が飽和した状態となるので、気泡核49内の水蒸気圧は飽和水蒸気圧となり、例えば5kPa程度となる。1気圧の大気条件下では、気泡核49内におけるガスの分圧は95kPaとなる。このとき、振動板35の露出部35bの外側の空間(大気)の水蒸気圧は、必ず飽和水蒸気圧よりも低くなる。
【0037】
そして、この外側の空間(大気)の水蒸気圧を仮に2kPaであるとすると、大気中のガスの分圧は98kPaとなる。このため、圧力室44の内外で、ガスの分圧差が生じ、この分圧差を駆動力としてガスが高圧側から低圧側へと振動板35の露出部35bを通して移行することになる。このガスの移行により、圧力室44内の気泡が成長して大きくなる。圧力室44内の気泡の回りはインクで満たされているため、気泡が大きくなっても、気泡内は直ちに水蒸気の飽和状態となる。つまり、気泡が大きくなっても、圧力室44の内外でのガスの分圧差は縮まらず、気泡はますます大きく成長していくことになる。
【0038】
一方、本実施形態の記録ヘッド19において、図5(c)に示すように、圧力室44内に気泡核49が存在する場合には、振動板35の上側に水蒸気が外部に放出されることなく保持される閉空間36が存在するため、その閉空間36内も水蒸気が飽和した状態となる。このため、圧力室44の気泡核49内と閉空間36内とでガスの分圧差が生じず、閉空間36から圧力室44へのガスの移行は生じない。このため、圧力室44内での気泡の成長は抑制される。
【0039】
以上詳述した実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)本体ケース30には、該本体ケース30内に、振動板35における圧力室44とは反対側で該振動板35との間に閉空間36を形成し、且つ可撓性及び水蒸気非透過性を有する第1封止フィルム34が該本体ケース30の上端開口部30aを封止するように溶着されている。このため、閉空間36内から第1封止フィルム34を介して水蒸気が大気中に放出されることが規制されるので、閉空間36内を水蒸気の飽和した状態に維持することができる。したがって、圧力室44内のインク中に気泡が存在したとしても、振動板35を介した圧力室44内のインク中の気泡内と閉空間36内との間に水蒸気の分圧差が生じにくくなり、この分圧差を駆動力とする振動板35の露出部35bを介した閉空間36側から圧力室44内への空気等のガスの移行が抑制される。このため、振動板35の露出部35b(フィルム層37)を構成する素材として高弾性率で硬く高価なガスバリア素材を用いることなく、柔軟性に富んで安価なポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルム等を使用することができる。この結果、圧電素子39の伸縮運動に基づく振動板35の良好な応答性を確保しつつ、圧力室44内における気泡の成長を抑制することができる。よって、圧力室44内のインクを安定して各ノズル43aから噴射させることができるとともに、圧力室44内のインク中に含まれた気泡の成長を安価なコストで抑制することができる。
【0040】
(2)第1封止フィルム34は、可撓性を有しているため、温度変化等で閉空間36内の圧力が上昇した時には、該第1封止フィルム34が閉空間36の外側に向かって膨らむように弾性変形することにより、閉空間36の体積の増大が許容される。一方、閉空間36内の圧力が降下した時には、該第1封止フィルム34が閉空間36の内側に向かって膨らむように弾性変形することにより、閉空間36の体積の減少が許容される。したがって、温度変化等による閉空間36内の圧力変動を、極めて簡単な構成であるにも拘わらず、確実に吸収することができる。
【0041】
(3)閉空間36は、大気開放通路を構成する貫通孔46及び凹溝47を介して大気開放されているため、温度変化等により閉空間36内の圧力が変動したとしても、その圧力変動を効果的に抑制することができる。
【0042】
(4)閉空間36を大気開放する大気開放通路が蛇行状の凹溝47と水蒸気非透過性を有する第2封止フィルム48とで形成される通路を備えるため、限られたスペースの中で該大気開放通路の距離を稼ぐことができる。このため、閉空間36内を大気開放しつつ、閉空間36内の水蒸気が大気中に拡散蒸発することを好適に抑制することができる。
【0043】
(5)閉空間36を大気開放する大気開放通路において、貫通孔46の断面積が凹溝47の断面積よりも大きくなるように設定されている。すなわち、閉空間36内が凹溝47よりも断面積の大きい貫通孔46を介して該凹溝47と連通している。このため、閉空間36内の水蒸気が温度変化等により凝結して水(液状)になったとしても、該水によって形成される膜により大気開放通路の入り口である貫通孔46が閉塞され難くすることができる。したがって、閉空間36の大気開放状態を安定して維持することができる。
【0044】
(変更例)
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・貫通孔46の断面積を、凹溝47の断面積と同じになるように設定してもよい。
【0045】
・少なくとも水蒸気非透過性を有していれば、封止部材としてステンレス鋼(SUS)等の金属よりなる薄膜や合成樹脂成型品を用いてもよい。
・閉空間36を大気開放する大気開放通路は、本体ケース30内に設けてもよい。
【0046】
・第1封止フィルム34は、弛ませた状態で本体ケース30に対してその上端開口部30aを封止するように溶着してもよい。このようにすれば、閉空間36内の圧力が変動しても、第1封止フィルム34の弛み分が張ったり弛んだりすることで、該閉空間36内の圧力変動を一層効果的に吸収することができる。
【0047】
・少なくとも水蒸気非透過性を有していれば、閉空間形成部材としてさほど可撓性を有さない硬質のフィルムを用いてもよい。さらに、この場合、硬質のフィルムを断面視でジグザグになるように折り曲げたものを用いてもよい。
【0048】
・少なくとも水蒸気非透過性を有していれば、閉空間形成部材としてステンレス鋼(SUS)等の金属よりなる薄膜や合成樹脂成型品を用いてもよい。
・凹溝47の両端部のうち貫通孔46から遠い側の端部の開口(隆起部45の右側面における上端部の開口)を塞ぎ、該貫通孔46から遠い側の端部近傍における凹溝47を覆う第2封止フィルム48に鋭利な工具等で孔を開けることで、該孔を介して凹溝47を大気に連通するようにしてもよい。
【0049】
・インクジェット式プリンタ11は、インクカートリッジ21をキャリッジ16とは離隔して配置し、該インクカートリッジ21から可撓性のチューブ等からなるインク供給路を介して、キャリッジ16に搭載された記録ヘッド19にインクを供給する、いわゆるオフキャリッジタイプのプリンタであってもよい。
【0050】
・上記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式プリンタ11として具体化したが、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタの製造や、有機ELディスプレイ等の画素形成に利用される液体噴射装置であってもよい。また、そうした液体噴射装置において噴射される液体としては、インク以外の他の液体(機能材料の粒子が分散されている液状体を含む)であってもよい。例えば基板などをエッチングするために該基板上に液体を噴射する液体噴射装置にあっては、液体としてエッチング液を噴射するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施形態のインクジェット式プリンタの斜視図。
【図2】同プリンタに装着される記録ヘッドの一部分解斜視図。
【図3】図2の3−3線断面図。
【図4】図2の4−4線断面図。
【図5】(a)は圧力室内に気泡核が存在せず、閉空間も存在しない状態、(b)は圧力室内に気泡核が存在し、かつ閉空間が存在しない状態、(c)は実施形態の記録ヘッドにおいて、圧力室内に気泡核が存在する状態でのガス移動に関する説明図。
【符号の説明】
【0052】
11…液体噴射装置としてのインクジェット式プリンタ、19…液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド、21…液体供給機構を構成するインクカートリッジ、30…本体ケース、34…閉空間形成部材としての第1封止フィルム、35…振動板、36…閉空間、39…駆動素子としての圧電素子、43…ノズルプレート、43a…ノズル、44…圧力室、46…大気開放通路を構成する貫通孔、47…大気開放通路を構成する凹溝、48…封止部材としての第2封止フィルム。
【出願人】 【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
【出願日】 平成18年7月10日(2006.7.10)
【代理人】 【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣

【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠


【公開番号】 特開2008−18536(P2008−18536A)
【公開日】 平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願番号】 特願2006−189458(P2006−189458)