トップ :: B 処理操作 運輸 :: B32 積層体




【発明の名称】 親水性積層膜を備えた物品の製造方法、および、親水性積層膜を備えた物品
【発明者】 【氏名】岡田 智

【氏名】吉田 誠

【氏名】新野 史

【要約】 【課題】低温の気相成長法で形成可能な親水性積層構造を備えた物品を提供する。

【構成】表面に微小凹凸形状が形成された基材1、2と、親水性材料膜3とを有する物品であって、親水性材料膜3の表面形状は、基材1、2の表面形状にならった凹凸形状である。基材2と親水性材料膜3との間には、親水性材料膜3の成膜時に基材2の微小凹凸形状を保護するための中間層6が配置されている。この構造により、親水性材料膜3を成膜する際に、中間層6が基材の微小凹凸形状を保護する作用をするため、高密度プラズマを用いた低温の気相成長法で親水性材料膜6を形成可能になる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸を備えた基材上に、プラズマを用いた気相成長法により前記親水性材料層を成膜する工程を含む親水性積層膜を備えた物品の製造方法であって、
前記親水性材料層を成膜する前に、前記親水性材料層の成膜時の前記プラズマに耐性のある材料により、中間層を前記基材上に成膜することを特徴とする親水性積層膜を備えた物品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の親水性積層膜を備えた物品の製造方法において、前記中間層を、プラズマを用いた気相成長法により、前記親水性材料層の成膜速度よりも大きな成膜速度で成膜することを特徴とする親水性積層膜を備えた物品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の親水性積層膜を備えた物品の製造方法において、前記中間層として、有機シリコン化合物層を成膜することを特徴とする親水性積層膜を備えた物品の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の親水性積層膜を備えた物品の製造方法において、前記中間層である有機シリコン化合物層を成膜する際に、層中に酸化シリコンの相を生じさせることを特徴とする親水性積層膜を備えた物品の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の親水性積層膜を備えた物品の製造方法において、前記中間層として、前記基材表面を構成する材料よりも硬度の大きな材料の層を成膜することを特徴とする親水性積層膜を備えた物品の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の親水性積層膜を備えた物品の製造方法において、前記親水性材料層として、酸化珪素を主成分とする層を成膜することを特徴とする親水性積層膜を備えた物品の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の親水性積層膜を備えた物品の製造方法において、前記中間層および親水性材料層は、いずれも有機シリコン化合物ガスを原料ガスとして用いるプラズマを用いた気相成長法により連続して成膜されることを特徴とする親水性積層膜を備えた物品の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の親水性積層膜を備えた物品の製造方法によって製造された親水性積層膜を備えた物品。
【請求項9】
請求項8に記載の親水性積層膜を備えた物品において、前記中間層は、有機シリコン化合物であり、Si、C、Oの原子数の濃度比がO/Si=1.49、C/Si=0.66からO/Si=1.55、C/Si=0.59の範囲であることを特徴とする親水性積層膜を備えた物品。
【請求項10】
請求項8または9に記載の親水性積層膜を備えた物品において、前記親水性材料膜の表面は、算術平均粗さRaが0.05μm以上0.2μm以下の凹凸形状であることを特徴とする親水性積層膜を備えた物品。
【請求項11】
請求項8ないし10のいずれか1項に記載の親水性積層膜を備えた物品において、前記表面に凹凸を備えた基材は、基体と、該基体上に配置された、表面に凹凸を備えた凹凸層とを含むことを特徴とする親水性積層膜を備えた物品。
【請求項12】
請求項11に記載の親水性積層膜を備えた物品において、前記凹凸層は、有機シリコン化合物、または、無機金属酸化物によって構成されていることを特徴とする親水性積層膜を備えた物品。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇効果を発揮する親水性膜を備えた物品の製造方法に関し、特に、低温で形成することができる親水膜の積層構造に関する。
【背景技術】
【0002】
物品に防曇性能を付与する方法としては、物品の表面に親水性を持たせる方法が知られている。例えば、物品を構成する基材樹脂自体に親水性基を結合させる方法や、物品の表面に親水性のあるコーティング層を形成する方法が用いられている。
【0003】
特許文献1は、光学物品の表面の反射防止膜等に親水性物質を固定した構造を開示している。特許文献1では、反射性防止膜等の無機物質膜の光学特性を低下させることなく親水性物質を表面に固定するために、反射防止膜等の表面に細孔および微細な凹凸を生じさせ、この細孔や凹部の内部に親水性物質を固定している。反射防止膜等の表面に細孔や凹凸を生じさせる手法としては、特許文献1では、活性ガスを導入しながら低真空度で真空蒸着を行う方法を用いている。これにより、形成される反射防止膜等の充填率を低下させ、細孔や凹凸を生じさせることができる。親水性物質を反射防止膜等の細孔や凹凸の内部に固定する方法としては、所定の組成の反応液に無機物質膜付き物品を浸漬した後、引き上げ、紫外線照射と加熱処理により反応を生じさせ、親水性物質を無機物質膜表面で生成している。
【0004】
一方、非特許文献1には、防曇のために鏡の表面に形成する親水性コーティング層に微細な凹凸を形成することにより、表面積を増加させてさらに親水性を高めた構造が開示されている。非特許文献1では、親水性コーティング層に微細な凹凸を形成するために、親水性コーティング層に微粒子シリカを添加している。また、親水性コーティング層の形成方法として塗布法を用いている。
【0005】
上述の特許文献1および非特許文献1では、親水性の層を形成する方法として浸漬法や塗布法を用いているが、気相成長法を用いて表面に微細な凹凸のある親水性材料層を形成することができれば量産性が向上する。また、気相成長法は塗布法と比較して、膜厚制御を高精度で行うことができるため、親水性材料層を含めた物品の光学特性のコントロールが容易になる。
【0006】
気相成長法を用いる防曇ガラスの製造方法として、特許文献2には、SiO層やTiO層をスパッタ法によりガラス基板上に成膜した後、膜表面を化学的に腐蝕することにより、表面に微細な凹凸を備え、高い水濡れ性を示す膜を形成する方法が開示されている。なお、特許文献2では、高い水濡れ性を発揮させるためには、成膜時にガラス基板を150℃〜300℃以上に加熱するのが好適であると記載されている。
【0007】
一方、特許文献3には、親水性材料層ではないが、表面に凹凸を備えた撥水性の膜を低温プラズマCVD法により形成する方法が開示されている。この方法では、有機珪素化合物を原料ガスとし、低温プラズマCVD法の条件を適切に設定することにより、膜表面に凹凸を形成している。
【0008】
また、特許文献4には、微小凹凸を備えた光散乱板の製造方法として、予め基板上の下地層をプラズマに曝し、下地層に含有される金属を表面に遊離させて微小突起を形成し、その上に保護層を成膜することにより、下地層の微小突起にならった凹凸を有する保護層を形成している。この方法においても、基板は200℃〜300℃に保つことが好適であると記載されている。
【特許文献1】特許第3694881号公報
【特許文献2】特開昭61−91042号公報
【特許文献3】特開平11−263860号公報
【特許文献4】特開平8−334747号公報
【非特許文献1】松下電工技報 Aug. p.80〜85 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に記載のように、表面に凹凸を備え、親水性を示すSiO層をスパッタ法で成膜する方法は、基板を加熱する必要があるため、熱に弱いプラスチック基材には適用することができない。また、特許文献4の方法を応用して、下地層に微小突起を形成し、その上に親水性を示すSiO層を積層することにより、表面に微小突起にならった凹凸を備える親水性SiO層を形成することが考えられる。しかし、特許文献4の下地膜の形成方法は、基板を加熱する必要があるため、プラスチック基材には適用することができない。
【0010】
一方、特許文献3のように、凹凸を備えた撥水性酸化珪素膜を低温プラズマCVDで成膜する方法は、低温で成膜ができるため、プラスチック基材にも成膜可能である。しかしながら、特許文献4に記載の技術で成膜されているのは、撥水性酸化珪素膜であり、親水性とは逆の性質の膜である。このため、表面に凹凸を備え、親水性を示す層を形成するには、特許文献3記載の低温プラズマCVD法で形成される、凹凸を備える撥水性酸化珪素膜の上に、その凹凸形状にならうように親水性酸化珪素膜を低温プラズマCVD法により形成することが考えられる。しかしながら、酸化珪素膜の親水性は膜中の酸素の組成比によって異なり、親水性酸化珪素膜を成膜するには、プラズマ中の酸素分圧を増大させ、膜中の酸素の組成を大きくする必要がある。酸素分圧を増大させたプラズマCVDは、一般的に、成膜速度が著しく低下すると共に、プラズマによるエッチング効果が大きくなるため、下地層となる凹凸を備えた撥水性酸化珪素膜に与えるダメージが大きくなり、下地層の凹凸形状が損なわれてしまうという問題が生じる。
【0011】
本発明の目的は、表面に凹凸を備えた親水性積層膜構造を、低温の気相成長法で物品表面に形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様では以下のような物品の製造方法が提供される。すなわち、表面に凹凸を備えた基材上に、プラズマを用いた気相成長法により前記親水性材料層を成膜する工程を含む親水性積層膜を備えた物品の製造方法であって、親水性材料層を成膜する前に、親水性材料層の成膜時のプラズマに耐性のある材料によって構成される中間層を基材上に成膜するものである。
【0013】
上記中間層は、プラズマを用いた気相成長法により、親水性材料層の成膜速度よりも大きな成膜速度で成膜することが可能である。成膜速度を大きくすることにより、基材表面に与えるダメージを抑制しながら中間層を成膜することができる。
【0014】
中間層として、有機シリコン化合物層を成膜することが可能である。この場合、中間層である有機シリコン化合物層を成膜する際に、層中に酸化珪素相を生じさせることが好ましい。これにより、中間層の硬度を大きくすることができるため、基材表面を構成する材料よりも硬度の大きな材料の中間層を成膜することができる。
【0015】
親水性材料層として、酸化珪素を主成分とする層を成膜することが可能である。これにより、中間層および親水性材料層は、いずれも有機シリコン化合物ガスを原料ガスとして用いるプラズマを用いた気相成長法により連続して成膜することが可能になる。
【0016】
本発明によれば、上記第1の態様の製造方法によって、親水性積層膜を備えた物品を製造することができる。
【0017】
上記物品の中間層の材質は、Si、C、Oの原子数の濃度比がO/Si=1.49、C/Si=0.66からO/Si=1.55、C/Si=0.59の範囲の機シリコン化合物にすることができる。
【0018】
上記物品の親水性材料膜の表面は、算術平均粗さRaが0.05μm以上0.2μm以下の凹凸形状にすることができる。
【0019】
上記物品の基材は、基体と、該基体上に配置された、表面に凹凸を備えた凹凸層とを含む構成にすることができる。この場合、凹凸層は、有機シリコン化合物により形成することが可能である。また、凹凸層は、無機金属酸化物により形成することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の一実施の形態の親水性積層構造を備えた物品について図面を用いて説明する。
本実施の形態の親水性積層構造を備えた物品は、図1に示すように、基材1上に、微小凹凸層2と、中間層6と、親水性材料層3とを積層した構成である。基材1は、透明樹脂からなる。基材1は、フィルムであってもよい。
【0021】
微小凹凸層2は、親水性材料層3の表面に所定の粗さの凹凸形状を形成するために、表面に凹凸形状を備えている。微小凹凸層2は、基材1に熱によるダメージを与えない方法であれば、所望の方法により形成することができる。微小凹凸層2の材質としては、例えば、有機シリコン化合物、InやZnOやSnO等の無機金属酸化物を用いることができる。なお、基材1の表面をエッチング等により凹凸加工することにより、微小凹凸層2を基材1と一体に形成することも可能である。
【0022】
中間層6および親水性材料層3は、その成膜時に熱によるダメージを樹脂基材1に与えない方法、例えば低温プラズマ化学気相成長(CVD)法により成膜されている。特に、本実施の形態では、アーク放電により生成した高密度・低温プラズマを用いたCVD法により成膜を行う。高密度・低温プラズマとは、放電電流10A以上、放電電圧150V以下のプラズマをいう。中間層6および親水性材料層3のみならず微小凹凸層2についても低温プラズマCVD法により成膜することが可能であり、その場合には、微小凹凸層2、中間層6、親水性材料層3を同一のCVD装置により連続成膜することができる。
【0023】
中間層6は、微小凹凸層2の表面の凹凸が、親水性材料層3の成膜時のプラズマに曝されることによってダメージを受けるのを防ぐ作用をし、微小凹凸層2の凹凸形状を維持する。中間層6の表面形状は、微小凹凸層2の凹凸形状にならった形状である。中間層6の材質としては、例えば、Si、C、HおよびOの元素からなる有機シリコン化合物、ならびに、ZnOやSnO等の透明無機金属酸化物等を用いることができる。中間層6の材質が、有機シリコン化合物の場合には、Si、C、Oの原子数の濃度比をO/Si=1.49、C/Si=0.66からO/Si=1.55、C/Si=0.59の範囲のもの用いることが好ましい。例えば組成比をSi:C:O=1:1.55:0.6にすることができる。
【0024】
また、有機シリコン化合物膜が、SiOx相を含んでいる場合には、中間層6として好ましい。膜中にSiOx相を含む有機シリコン化合物は、膜の硬度が大きいため、中間層6が親水性材料層3の成膜時のプラズマから微小凹凸層2を保護する作用が大きくなるためである。
【0025】
有機シリコン化合物により中間層6を形成する場合には、原料ガスとして、有機シリコン化合物モノマーガス(例えば、ヘキサメチルジシロキサン:HMDSO)を用いる低温プラズマ化学気相成長(CVD)法を用いることができる。ZnOやSnO等の透明無機金属酸化物により中間層6を形成する場合には、本実施の形態で用いているような高密度プラズマを用いたイオンプレーティングやプラズマ化学気相成長法(CVD)を用いることができる。
【0026】
親水性材料層3は、親水性を示す材料によって形成されている。例えば、親水性を示す組成の酸化シリコンによって構成することができる。酸化シリコンの酸素組成は、SiO1.6〜SiOの範囲であることが望ましい。例えば、SiとOの組成比がSi:O=1.00:1.71の酸化シリコンによって親水性材料層を形成することができる。親水性材料層3の表面には、中間層6の凹凸形状にならった凹凸形状が備えられている。親水性材料層3は、その材質(親水性を示す組成の酸化シリコン)によって親水性を示すだけでなく、表面の凹凸によって表面積が増加することにより、より大きな親水性を示し、防曇効果を発揮する。
【0027】
親水性材料層3の表面の凹凸は、算術平均粗さRa=0.05μm以上0.2μm以下であることが望ましい。微小凹凸膜2の凹凸は、中間層6および親水性材料層3の膜厚および成膜方法を考慮して、親水性材料層3の表面に上記範囲の粗さの凹凸があらわれる粗さに設定されている。
【0028】
酸化シリコンにより親水性材料層3を形成する場合には、原料ガスとして、有機シリコン化合物モノマーガス(例えば、ヘキサメチルジシロキサン:HMDSO)を用いる低温プラズマ化学気相成長(CVD)法を用いることができる。
【0029】
本実施の形態の親水性膜を備えた物品の製造方法について説明する。ここではでは、一例として、微小凹凸層2が有機シリコン化合物層、中間層がSiOx相を含む有機シリコン化合物層、親水性材料層3が酸化シリコン層であり、これらをいずれも高密度・低温プラズマを用いたCVD法により成膜する場合について説明する。
【0030】
成膜には、図2の高密度プラズマ源を備えた成膜装置を用いる。この装置は、成膜空間を構成する成膜真空容器15と、成膜真空容器15のプラズマ導入口15aに接続されたプラズマガン8とを有する。プラズマガン8は、プラズマ生成室(不図示)の内部に配置された複合陰極9と、オリフィスを備えた中間電極10と、中間電極10と成膜真空容器15との間に配置された陽極(A)23aと、成膜真空容器15内に配置された陽極(B)23bと、プラズマを収束させ、中間電極10を通過させるための電磁コイル13とを備えている。複合陰極9と陽極(A)23aとの間、および、複合陰極9と陽極(B)23bとの間には、それぞれスイッチ24,25を介してプラズマ発生電源14が接続されている。複合陰極9と中間電極10との間は、絶縁ガイシ11により絶縁されている。また、プラズマガン8の内部には、放電ガス12が供給される。
【0031】
複合陰極9の構造は、グロー放電からアーク放電に移行して、高密度プラズマを生成することのできる公知の複合陰極構造を用いる。例えば、グロー放電を生じ、逆流イオンの衝突によって加熱される補助陰極と、補助陰極の放射熱等により加熱されてアーク放電を生じる主陰極とを備える構成にすることができる。
【0032】
陽極23bとプラズマ導入口15aとの間の成膜空間には、透明基材1を保持する基板ホルダー16と、原料ガス(材料ガス)18、20を供給する原料ガス導入管19、21が配置されている。原料ガス18として、有機シリコン化合物モノマーガス(例えば、ヘキサメチルジシロキサン:HMDSO)を用いる。また、原料ガス20として、酸素を必要に応じて導入する。なお、成膜真空容器15は、排気管17により、真空ポンプへ接続されている。
【0033】
このような構造の成膜装置に成膜を行う際には、成膜真空容器15を真空排気した後、プラズマガン8の複合陰極9にAr、He、Kr、Xe、Hなどの放電ガス12を導入し、電源14によって複合陰極9と陽極23(A)23aまたは陽極23(B)23bとの間に直流の電圧をかけ、放電させる。点火直後はグロー放電であるが、電離した放電ガスの逆流イオンが複合陰極1に衝突して複合陰極が加熱されると、熱電子を放出するようになり、これによりグロー放電の電離度が上昇してアーク放電に遷移する。アーク放電は、電流量10〜100A程度の高密度放電である。この放電により発生した高密度プラズマ22は、電磁コイル13の磁場でビーム状に収束され、中間電極10の中央の穴(オリフィス)を通過して、成膜真空容器15の基板ホルダー16近傍まで引き出される。引き出されたプラズマは、原料ガス18,20と混合され、これにより、原料ガス18,20の反応プラズマ22aが生じると、原料ガスの分解・反応が起こった後、基板ホルダ16上の基材1に微小凹凸膜2、中間層6、親水性材料層3が積層される。陽極(A)23aを用いる場合、スイッチ24を閉、スイッチ25を開とし、一旦基板ホルダ16近傍まで引き出されたプラズマ22は引き戻されて、陽極(A)23aに流入する。一方、陽極(B)23bを用いる場合、スイッチ24を開、スイッチ25を閉とし、プラズマ22は、対向配置された陽極(B)23bに流入する。陽極(A)23aは、微小凹凸膜2の成膜時に使用し、陽極(B)23bは、中間層6および親水性材料層3の成膜時に使用する。
【0034】
有機シリコン化合物層の微小凹凸膜2を成膜する際には、原料ガス18として、有機シリコン化合物モノマーガス(例えば、ヘキサメチルジシロキサン:HMDSO)を導入し、酸素ガス20は導入しない。成膜圧力、放電ガスと有機シリコン化合物モノマーガスとの分圧比等の成膜条件を適切に設定することにより、有機シリコン化合物モノマーガス18の分解・重合物である有機シリコン化合物を堆積させ、成膜を行う。このとき、成膜条件を適切に設定することにより、成膜しながら表面に凹凸を備える微小凹凸膜を形成することができる。
【0035】
この後、成膜真空容器15を開放することなく、連続して中間層6を成膜する。原料ガスとして、有機シリコン化合物モノマーガス18と、酸素ガス20を導入して、SiOxを含んだ有機シリコン化合物を堆積させる。このとき、成膜圧力や、有機シリコン化合物モノマーガス18と酸素ガス20との混合比等を適切に設定することにより、有機シリコン化合物モノマーガス18の分解・重合物を堆積による成膜プロセスを、酸素プラズマによるエッチングプロセスよりも優位に生じさせる。これにより、微小凹凸膜2の凹凸形状に与えるダメージをほとんど与えず、中間層6を形成することができる。また、酸素と炭素を含有する有機シリコン化合物ガスを用いたCVDにおいては、Si−Oの結合力の方が、Si−Cよりも強いため、堆積物中のSi−Oがエッチングされにくい。これにより、SiOx相を含んだ有機シリコン化合物からなる中間層6を堆積させることができる。SiOx相が含有されていることにより、中間層6は、有機シリコン化合物のみの層よりも硬度が大きく、親水性材料層3を成膜する際の酸素プラズマによるエッチング作用を受けにくくなる。これにより、堆積されたSiOx相を含んだ有機シリコン化合物層は、微小凹凸層2を保護する中間層6として作用することができる。
【0036】
親水性材料層3を成膜する際には、原料ガス18として、有機シリコン化合物モノマーガス(例えば、ヘキサメチルジシロキサン:HMDSO)、および、酸素ガス20を導入する。成膜圧力や、有機シリコン化合物モノマーガス18と酸素ガス20との混合比等を適切に設定することにより、酸化シリコンを堆積させて親水性酸化シリコン膜3を形成する。
【0037】
親水性材料層3を成膜する際には、有機シリコン化合物モノマーガス18の他に、酸素ガス20を導入するため、酸素ガスが励起された酸素プラズマが発生し、下地膜の表面をエッチングする作用が生じる。このため、中間層6が配置されていない場合には、酸素プラズマが微小凹凸膜2の表面をエッチングし、微小凹凸膜2の表面の凹凸が平坦化されるという問題が生じる。本実施の形態では、酸素プラズマによるエッチング作用を受けにくい中間層6を、微小凹凸膜2の上に積層配置しているため、微小凹凸膜2の凹凸が平坦化されるのを防止でき、凹凸形状を維持できる。
【0038】
なお、上述した例では、中間層6の成膜時に酸素ガス20を導入したが、酸素ガス20を導入しない条件に設定することも可能である。
【0039】
これら高密度・低温プラズマCVD法では、微小凹凸膜2,中間層6および親水性材料層3を形成する際の基材1を加熱する必要がないため、低温に維持したまま成膜を行うことができる。具体的には、基材1の温度を120℃以下程度に維持したまま成膜を行うことができる。
【0040】
このように、本実施の形態では、親水性材料層3の成膜時に生じるプラズマエッチング作用に対して優れた耐性を示す中間層6を配置したことにより、微小凹凸膜2の凹凸形状をほとんど損なうことなく、高密度プラズマを用いた気相成長法により親水性材料層3を形成することができる。中間層6の成膜時に凹凸膜2の凹凸形状を維持できるのは、150V以下の低電圧−低温プラズマを使って速い成膜速度で中間層6を形成することにより、凹凸膜2に与えるダメージが高温プラズマを用いた場合よりも緩和されたことに拠るものと考えられる。また、高密度プラズマを用いた気相成長法は、親水性材料層3等を低温で製造できるため、基材1に対して熱によるダメージをほとんど与えない。この成膜方法は、成膜速度が速いため、量産に適している。さらに、親水性材料層3を気相成長法で成膜できるため、膜厚制御が容易であり、基材1の光学特性に影響を与えない膜厚に容易に設定できる。
【0041】
本実施の形態によって製造した超親水性膜を備えた物品は、表面に凹凸を備えた親水性膜が最表面に配置されているため、優れた防曇性を示す。
【0042】
また、本実施の形態の成膜方法は、親水性材料層3のみならず、微小凹凸膜2および中間層6についても、高密度プラズマを用いた気相成長法によって成膜することができる。よって、途中で成膜装置から基材1を取り出して、加熱処理等をする必要が一切なく、同一の成膜装置の中で連続して成膜を行うことができ、量産性を高めることができる。
【0043】
なお、微小凹凸層2としては、反射防止膜やハードコート層を兼用することができる。すなわち、基材1の反射防止膜やハードコート層の表面に微小凹凸を備えた微小凹凸層2として用いることが可能である。
【0044】
微小凹凸層2の凹凸の形成方法は、上述したように成膜しながら表面に凹凸を形成する方法の他、平坦な膜を成膜した後に、表面をエッチングやプラズマ処理することによって微小凹凸を形成する方法を用いることも可能である。また、微小凹凸層2を低真空度の真空蒸着によって形成し、充填率を低下させることによって成膜しながら凹凸を形成することも可能である。さらには、微小凹凸層2を構成する材料に、微粒子を添加することにより、表面に微小凹凸を形成することも可能である。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。
(実施例)
本実施例では、上記実施の形態の図1の親水性積層膜を備えた物品を製造した。基材1としては、厚さ3mmのポリカーボネート板を用いた。基材1の上に、図2の成膜装置を用いて、CVD法により、微小凹凸膜2、中間層6および親水性材料層3を連続して成膜した。
【0046】
まず、微小凹凸膜2として、有機シリコン膜(組成Si:C:O=1:1.36:0.19)を成膜した。微小凹凸膜2を成膜するときの条件を表1に示す。表1のように、原料ガス18としてヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、および、酸素ガス20を導入した。放電ガスとしては、Arを用いた。表1に示したように成膜圧力、放電ガス、HMDSOガス、酸素ガスの混合比を設定した。この条件で成膜することにより、表面に微小凹凸のある有機シリコン膜を成膜することができた。表面粗さは、Ra=〜0.1μm、膜厚は、6000オングストローム〜1μmであった。基材1を保持する基材ホルダー16は加熱せず、基材1の温度は120℃以下に維持されていた。なお、ここでは酸素ガス20を導入したが、酸素ガス20を導入しなくても条件を適切に設定することにより微小凹凸膜2を形成することは可能である。
【表1】


【0047】
続けて、中間層6として、有機シリコン膜を成膜した。中間層6を成膜するときの条件を表2に示す。表2のように、原料ガス18としてHMDSOガス、および、酸素ガス20を導入した。放電ガスとしては、Arを用いた。表2に示したように成膜圧力、放電ガス、HMDSOガス、酸素ガスの混合比を設定した。この条件で成膜することにより、表面に微小凹凸のある有機シリコン膜を成膜することができた。HMDSOガスと酸素ガスとの混合比を10:4に設定した場合、組成Si:C:O=1:1.55:0.6の有機シリコン膜が得られた。成膜速度は、70オングストローム/sであった。基材1を保持する基材ホルダー16は加熱せず、温度は120℃以下に維持されていた。
【表2】


【0048】
なお、中間層6の成膜の前に、成膜条件の最適化をおこなうために、予め以下のような実験を行った。まず、HMDSO分圧を変化させ、酸素分圧および放電ガス分圧は固定して、有機シリコン膜の成膜速度を測定した。その結果を図3に示す。分圧が0.1Pa程度の領域30では成膜速度が著しく低いが、1.0Pa以上の領域31では成膜速度が立ち上がっている。このことから、この領域31では有機シリコン化合物モノマーガス18の分解・重合成膜プロセスの方が、酸素プラズマによるエッチングプロセスよりも優位に生じていると考えられ、下地層となる微小凹凸層2にダメージを与える作用が少ないと判断できた。
【0049】
次に、得られた有機シリコン膜について、XPS(X線光電子分光分析装置)により組成分析を行った。表3に、成膜時のHMDSO分圧ごとに得られた膜のSi、C、Oの原子濃度を示す。HMDSO分圧0.086Pa付近で得られた膜の構成原子はSi、Oが主であるが、0.76Pa以上では酸素を一定量含んだ有機シリコン層であることがわかった。また、0.76Paおよび2.14Paで得られた膜のXPSの結合ピークを調べたところ両者ともに、SiOの結合を示す103eVのピークが確認された。このことから、HMDSO分圧0.76Pa以上で成膜することにより膜中にSiO相が形成されることがわかった。
【表3】


【0050】
これらのことから、HMDSO分圧が1.0Pa以上の領域31において中間層6の成膜を行うことにより、プロセス中の微小凹凸層2へのダメージが低減でき、しかも、膜中にSiOx相が含まれる硬い有機シリコン膜を形成できるので、中間層6の成膜条件として適している。
【0051】
中間層6の成膜後、親水性材料層3として、炭素を含んだ酸化シリコン膜(組成Si:C:O=1:1.7:0.03)を成膜した。親水性材料層3を形成するときの条件を表4に示す。表4のように、原料ガス18として、HMDSOガス18と酸素ガス20を導入し、HMDSOガスと酸素ガスとの混合比は、1:4に設定した。この他、表4に示したように成膜圧力および、放電ガス分圧を設定した。親水性材料層3の成膜速度は、約1.0オングストローム/sであった。基材1を保持する基材ホルダー16は加熱せず、温度は120℃以下に維持されていた。
【0052】
中間層6と親水性材料層3は、連続的に成膜し、その膜厚は、2層併せて2000〜2300オングストローム、親水性材料相3の最表面の表面粗さはRa=〜0.1μmであった。
【表4】


【0053】
(比較例)
比較例として、上記中間層6を形成せず、微小凹凸膜2と親水性材料層3のみを備えた物品を製造した。成膜条件については、表1、表4に示した条件と同じである。
【0054】
(評価)
上記実施例で得られた積層構造の親水性材料層3表面のAFM像(原子間力顕微鏡像)を図4に示す。図4から明らかなように、実施例の親水性材料層3の表面には、凹凸形状がはっきり見られ、測定により得られた平均表面粗さRaは約0.1μm程度であった。
【0055】
また、本実施例で製造された積層構造(3つの層2,6,3)を備えた基材1の水に対する接触を測定したところ1°以下であり、良好な親水性を示した。また、透過率は94.5%、ヘイズ率は8.7%であり、基材1の透明性は維持されていた。
【0056】
これに対し、比較例で製造した中間層6を備えない積層構造の表面のAFM像を図5に示す。図5からわかるように、表面には微小な凹凸が存在するが、本実施例の図4のAFM像と比較して、比較例のAFM像は凹凸の高さが低く、その比は1/2程度であった。
【0057】
このように、比較例で製造した中間層6を備えない積層構造の表面の粗さが小さくなったのは、図6のようなメカニズムのためであると推測される。すなわち、微小凹凸膜2の上に直接、親水性材料層3を形成した場合には、膜の成膜速度が著しく遅い(約1オングストローム/s)ため成膜に時間を要し、微小凹凸膜2の凹凸が原料ガスのプラズマ4に曝される時間が長くなる。このため、プラズマ4に含まれる酸素ガスプラズマ5により微小凹凸層2がダメージを受け、親水性材料層3の表面凹凸も小さくなったものと推測される。これに対し、本実施例の積層構造は、微小凹凸層2の上に、その表面形状にそうように中間層6を配置している。中間層6は、SiO相を含む有機シリコン層であり、微小凹凸層2よりも硬度の大きいため、親水性材料層3の成膜時に酸素プラズマに長時間曝されてもダメージを受けにくく、表面の凹凸形状を維持できるため、親水性材料層3の表面凹凸が大きくなったと推測される。
【0058】
つぎに、実施例で得られた親水積層構造体を備えた物品と、比較例で得られた積層構造体を備えた物品について、親水性の耐久性を測定するために、本実施例の物品と比較例の物品を温度50℃、湿度98%の恒温恒湿槽に保管し、接触角の変化を測定した。その結果を図7に示す。本実施例の物品は、150時間程度まで、親水性の著しく高い接触角15°以下を維持していたが、比較例の物品は50時間程度で20°を逸脱し、その接触角の増加スピードは、本実施例の物品の倍以上で加速度的に増加していた。この結果より、本実施例の中間層6を備えた積層構造により、中間層6を備えない比較例の積層構造と比較して、長時間超親水性を持続できることが確認された。
【0059】
つぎに、実施例で得られた積層構造を備えた物品の曇り試験を図8の実験装置を用いて行った。上部の蓋に開口を有する水槽124には、40℃に保たれた温水128が入っている。蓋の開口には、試験対象125として、実施例の物品が、親水性材料層3を温水128に向けて配置されている。温水128の液面から、試験対象125までの距離127は5cmである。温水128の液面からは水蒸気126が開口部に向けて蒸発し、試験対象125の表面で結露する。本実施例の物品は、10分経過しても、結露が親水性材料層3の表面で濡れ広がり、水膜となって曇りを生じなかった。
【0060】
上述してきたように、本実施例では、耐久性に優れた超親水性積層構造を、高密度・低温プラズマを用いた気相成長法で成膜することができた。これにより、塗布法と比較して、超親水性膜を形成する防曇処理を効率よく行うことができ、量産性を向上させることができた。また、低温処理が可能であるため、基材1として樹脂を用いた場合であっても成膜時の熱によって基材1の光学特性に悪影響を与えることがない。また、気相成長法は、膜厚制御を高精度で行うことができるため、親水性積層構造を含めた基材1の光学特性を所定の光学特性にするための膜構成を容易に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本実施の形態の親水性積層膜を備えた物品の構成を示す断面図。
【図2】本実施の形態で高密度プラズマを用いた気相成長法を行う成膜装置の構造を示すブロック図。
【図3】本実施例において中間層6の成膜条件を最適化するために、成膜時のHMDSO分圧と成膜速度との関係を示すグラフ。
【図4】本実施例の親水性積層膜を備えた物品の表面についてのAFM像。
【図5】比較例の親水性積層膜を備えた物品の表面についてのAFM像。
【図6】比較例の親水性積層膜の成膜時に微小凹凸が平坦化されることを示す説明図。
【図7】実施例と比較例の親水性積層膜を備えた物品について、接触角の経時変化を示すグラフ。
【図8】実施例の親水性積層膜を備えた物品の曇り試験に用いた装置構成を示す説明図。
【符号の説明】
【0062】
1・・・基材、2・・・微小凹凸膜、3・・・親水性材料層、6・・・中間層、8・・・プラズマ発生源、9・・・陰極、10・・・中間電極、11・・・絶縁ガイシ、12・・・放電ガス、13・・・電磁コイル、14・・・電源、15・・・成膜真空容器、16・・・基板ホルダー、17・・・真空排気管、18,20・・・原料ガス、19,20・・・原料ガス導入管、23・・・陽極、24・・・プラズマ電源と陽極Aを接続するスイッチ、25・・・プラズマ電源と陽極Bを接続するスイッチ、124・・・水槽、125・・・試験対象、126・・・水蒸気、128・・・温水。
【出願人】 【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
【出願日】 平成18年9月8日(2006.9.8)
【代理人】 【識別番号】100099852
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 公子

【識別番号】100099760
【弁理士】
【氏名又は名称】宮川 佳三


【公開番号】 特開2008−62561(P2008−62561A)
【公開日】 平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願番号】 特願2006−244371(P2006−244371)