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【発明の名称】 タイヤ成形用金型の製造方法
【発明者】 【氏名】石原 泰之

【要約】 【課題】崩壊性鋳型材を用いた鋳造法を利用して、ピース組み立てタイプのタイヤ金型を効率的に製作する方法を提供する。

【構成】タイヤ金型の基本分割構造を構成するブロック鋳物10を鋳造製作し、またこれらのブロック鋳物10に後から嵌め込まれるピース鋳物11も別途鋳造製作する。ピース鋳物11を加工電極としてブロック鋳物10のピース鋳物嵌め込み部位を放電切削加工した後、ブロック鋳物内にピース鋳物を嵌合わせる。放電切削加工した際に生じる放電ギャップを金型の空気抜き機構とする。ピース鋳物背面に肉盗み材を挟み込む等の方法により、放電ギャップによる隙間寸法より大きい隙間寸法とすることもできる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ金型の基本分割構造を構成するブロック鋳物を鋳造製作し、またこれらのブロック鋳物に後から嵌め込まれるピース鋳物も別途鋳造製作し、ピース鋳物を加工電極としてブロック鋳物のピース鋳物嵌め込み部位を放電切削加工した後、ブロック鋳物内にピース鋳物を嵌合わせ、放電切削加工した際に生じる放電ギャップを金型の空気抜き機構とすることを特徴とするタイヤ成形用金型の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のタイヤ成形用金型の製造方法において、ピース鋳物のブロック鋳物との嵌め合わせ側面部を、ピース鋳物がタイヤ金型内径側もしくは幅方向側に移動した際、ピース鋳物とブロック鋳物間の隙間が増大する方向の勾配形状を持ったものとし、ピース鋳物とブロック鋳物の放電摺り合せ完了後に、ブロック鋳物との座り面であるピース鋳物の背面部を再切削し直し、ブロック鋳物とピース鋳物間の隙間を放電ギャップによる隙間寸法より狭いものとするか、ピース鋳物背面に所定の厚みの肉盗み材を挟み込み、ブロック鋳物とピース鋳物間の隙間を放電ギャップによる隙間寸法より大きいものとすることで、隙間寸法を調整することを特徴とするタイヤ成形用金型の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のタイヤ成形用金型の製造方法において、ブロック鋳物のピース鋳物嵌め込み部位に肉盗み形状を付与するために、
1) 金型に必要とされる意匠面形状を不足無く持ったブロック鋳物を製作出来る原型を製作し、
2) 原型からゴム型を注型反転製作し、ゴム型からピース鋳物形状のピース鋳物用ゴム型を切り出し、
3) 原型にピース鋳物用ゴム型を嵌め込み、離型剤を塗布した後、再度ゴム型を注型反転製作し、得られたゴム型からピース鋳物用ゴム型を分離して、ブロック鋳物用ゴム型とし、
4) 3)で得られたブロック鋳物用ゴム型のピース鋳物用ゴム型嵌め込み部位の側面部またはピース鋳物用ゴム型の側面部に、鋳物で放電摺り合せする為の摺り合せ代分の肉盛りを施し、
5) これらのピース鋳物用ゴム型とブロック鋳物用ゴム型を用いて、鋳型を反転製作し、この鋳型から鋳物を反転製作する
ことを特徴とするタイヤ成形用金型の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載のタイヤ成形用金型の製造方法において、ピース鋳物をタイヤ金型の半径方向の内径側若しくはタイヤ幅方向に、バネ力により弾発されるようにブロック鋳物に嵌合わせることを特徴とするタイヤ成形用金型の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ成形用金型の製造方法に関するものである。更に詳しくは、従来製法とほぼ同様な鋳造製法を用いてタイヤ金型の本体パーツであるブロック鋳物を製作しておき、別途鋳造しておいたピース鋳物を放電加工を用いてブロック鋳物内部に組み付け、ピース組み立てタイプの金型とするタイヤ成形用金型の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ金型はその分割方法から、タイヤ形状を幅方向に2分割するタイプの2ピースモールドと、円周方向に分割するセクショナルモールドとに大別される。これらの金型は、機械加工では対処しづらい形状(鋭い角を持った、凹ブロック形状や、サイプブレードと称する薄肉凸形状)を多数有している事から、鋳造製法で製作される事が多い。
【0003】
タイヤ金型の鋳造製法として最も広く採用されている方式は、石膏などの崩壊性鋳型を用い低圧鋳造や重力鋳造でアルミ合金鋳物や鉄,鋼材鋳物を得る、『石膏鋳造法』もしくは『セラミックモール法』である。石膏鋳造法やセラミックモールド法等の崩壊性鋳型を用いた鋳造法で製作されたタイヤ成形用金型(意匠面型)は、型割りされた分が『一体鋳物』(連続体)で構成される事が多い。この方が意匠面金型の組立てコストが安いためである。この『一体鋳物』を本明細書においてはブロック鋳物と呼ぶ。
【0004】
なお、鋼材等の非崩壊性の鋳型を用いて加圧鋳造してアルミ合金鋳物や、鉄、鋼材鋳物を得る『ダイキャスト法』も存在している。ダイキャスト法を石膏鋳造法と比較すると、石膏鋳造法は石膏鋳型の段階での鋳型組立て、形状修正が可能な為、タイヤ金型の最終形状レベルの継ぎ目の無いブロック鋳物を寸法精度高く製作できる所にメリットが有る。石膏鋳造法の場合、2Pモールドで2リング、セクショナルモールドで1リングで、1セット分の金型の鋳造を完結させられるのに対し、ダイキャスト法では多数回(通常50〜200回)に分けて鋳造しなければ、1セット分の鋳造は終わらない。この為、リング鋳物としての寸法精度を考えた場合、石膏鋳造品の方は、1リング内での各部の寸法バラツキは小さいと言えるが、ダイキャスト品の方は、鋳造回数分のバラツキの影響が現われてくる可能性が有る。またダイキャスト法は『アンダーカット形状』を付与する事は不可能なのに対して、石膏鋳造法は崩壊性鋳型である事から、アンダーカット形状に対しても自由度高く対応できる。鋳物強度特性の点ではダイキャスト法が優れているものの、鋳物製作コスト面では石膏鋳造法の方が勝り、コストメリットが高く、必要とされる任意の形状に自由度高く対応できることから、石膏鋳造法が主流を占めている。よって本願発明では、『石膏鋳造法』もしくは『セラミックモールド法』によりタイヤ成形用金型を製造する。
【0005】
さてタイヤ成形用金型によるタイヤの成形は、図1に示すように未加硫状態のグリーンタイヤ1をブラダー2によりタイヤ成形用金型に押し付け、加熱硬化させる方式をとっている。この為、タイヤ金型意匠面3とグリーンタイヤ1との接触で『閉塞空間』が形成されるような部位では、残留空気によりタイヤにゴム充填不足欠陥が発生してしまう事になる。この対策として、タイヤ成形用金型には各種の『空気抜き(エアベント)』機構が付与されている。現在採用されている一般的な空気抜き機構としては、次の3つが挙げられる。
【0006】
第1は、金型本体に開口した小穴(ベントホール)から、タイヤ成形(コンプレッション成形)時に、金型−ゴム間に閉塞された空気を排出するベントホールタイプである。タイヤの該当部にスピュ−が発生し、タイヤ製品としての外観特性や初期性能を損なうと言ったデメリットとなるが、金型の製作コストが低く、金型使用時のクリーニング対応が容易であると言うメリットも存在する。
【0007】
第2は、金型の小ピースを組み立てた際の隙間(スリット)から閉塞空気を排出させるスリットベントタイプである。スピュ−は発生せず、バリ状のゴムはみだしが代わりに発生する。こちらは、タイヤとしての外観特性に優れ、かつ初期性能も優れるが、金型製作コストが高く、また金型使用時のクリーニング対応が困難で目詰まり問題が発生し易いと言うデメリットが存在している。
【0008】
第3は、金型に開口したベントホールに、開閉弁機構を付与して、空気は逃がすがゴム材は浸入させ無いと言う機能を持たせた開閉弁タイプである。この技術については特許文献1(特開平9-141660)、特許文献2(特開2002-234033)に開示されている。しかし比較的新しい技術であり、未だあまり普及していないのが実情である。このため、現在でもノンスピュー方案と言えばスリットベントタイプが一般的に採用されている。本発明のタイヤ成形用金型の製造方法もスリットベントタイプに近いものであるので、以下に詳細に説明する。
【0009】
スリットベントタイプの従来技術は、次の4タイプに大別することができる。
第1は特許文献3(特開平2−295706)に記載されているもので、図2の様に、母材の適当な部位に入れ子をした後、機械加工で意匠面を掘り出す事で、タイヤ金型の各部に『母材−入れ子』間で形成される『スリット』構造を作り出し、ここをエアベント部として利用する方法である。意匠面部を機械加工で製作する為、複雑なデザインには対応できないと言う弱点がある。
【0010】
第2は特許文献4(特開2001−150455)や特許文献5(特開2001−232640)等に記載されているもので、図3に示すように、アルミ合金もしくは鉄系合金で出来た母材(母相金型,またはピース金型)の一部分もしくは隣接するピース全体を、ダイキャスト法によりアルミ合金で『鋳継ぐ』方法である。鋳継いだ部分が、凝固・冷却収縮した分を『スリット』として利用し、タイヤ金型のエアベント機構とする事を特徴としている。
【0011】
しかしこの方法には、次の3つの問題が存在する。
1)鋳継ぎ部の凝固・冷却収縮量でスリット幅寸法が決定されてしまう為、スリット幅寸法を厳密にコントロールする事は困難である。
2)基本的に、鋳継ぎ側と、鋳継がれ側で『段差』が発生する。
3)平面鋳継ぎではなく、曲面鋳継ぎをした場合、スリットが形成される部位に『ムラ』が出来る。
【0012】
第3は、特許文献5(特開平10−24423)に記述されているもので、図4に示すようにタイヤ金型意匠面形状を持った鋼材(アルミ合金より熱膨張率の小さい材質の)ピースを、ダイキャストで『鋳包み』し、金型使用時の温度(150〜200℃)での熱膨張量差で鋼材ピースとアルミ金型間で生まれる隙間を、『スリット』として利用し、タイヤ金型のエアベント機構とすると言うものである。しかしこの方法も熱膨張率差でスリット幅寸法を決定づけられてしまう事から、スリット幅寸法を意図した数値にコントロールし辛いと言う弱点をもっている。
【0013】
第4は、特許文献6(特許2005562)や特許文献7(特開2004−42505)に記述されているもので、図5に示すように石膏製の分割モデル相互間に耐火性の間仕切り板を挟んで1リング分の鋳造を行い、これらの間仕切り板を除去してピース鋳物を得ることにより、ピース鋳物間に一定のスリット幅のエアベント機構を形成するものである。この方法は、上記第1〜第3の技術の弱点を克服し、少ない鋳造回数でピース金型を製造出来、かつ、ピース間隙間も、狙い寸法に持ってゆけると言う特徴を持っており、1セット分のピース金型を揃えるには良好な方法であると言えるが、金型補修用に数ピースだけ鋳造製作したいという様な場合でも、基本的に1リング分相当の鋳造を行なわなくてはならない上、後追いで製作したピース金型と、先に出来上がっているピース金型間で、精度の高い嵌め合いを維持しづらいと言う欠点を持っている。
【0014】
このように、ピース組み立てタイプのタイヤ金型の現状製法には、どれも一長一短があり、完璧な製法技術が確立されていない状況にあった。
【特許文献1】特開平9-141660号公報
【特許文献2】特開2002-234033号公報
【特許文献3】特開平2−295706号公報
【特許文献4】特開2001−150455号公報
【特許文献5】特開2001−232640号公報
【特許文献6】特許2005562号公報
【特許文献7】特開2004−42505号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、この様な状況下でなされたものであり、その第一の目的は、石膏鋳造法やセラミック鋳造法と言った崩壊性鋳型材を用いた鋳造法を利用して、ピース組み立てタイプのタイヤ金型を効率的に製作できる技術を提供する事にある。
また第二の目的は、五軸加工機等を用いて意匠面又は嵌合面の機械加工をする必要がなく、所定の隙間形状を付与した状態でピース組み立てタイプのタイヤ金型を製作できる技術を提供する事にある。
第三の目的は、スリット方式の空気抜き機構を持たせると同時に、タイヤ脱型時に金型に作用する負荷を減少させ、脱型抵抗を少なくする事が出来るタイヤ金型を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するためになされた請求項1の発明は、タイヤ金型の基本分割構造を構成するブロック鋳物を鋳造製作し、またこれらのブロック鋳物に後から嵌め込まれるピース鋳物も別途鋳造製作し、ピース鋳物を加工電極としてブロック鋳物のピース鋳物嵌め込み部位を放電切削加工した後、ブロック鋳物内にピース鋳物を嵌合わせ、放電切削加工した際に生じる放電ギャップを金型の空気抜き機構とすることを特徴とするものである。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1記載のタイヤ成形用金型の製造方法において、ピース鋳物のブロック鋳物との嵌め合わせ側面部を、ピース鋳物がタイヤ金型内径側もしくは幅方向側に移動した際、ピース鋳物とブロック鋳物間の隙間が増大する方向の勾配形状を持ったものとし、ピース鋳物とブロック鋳物の放電摺り合せ完了後に、ブロック鋳物との座り面であるピース鋳物の背面部を再切削し直し、ブロック鋳物とピース鋳物間の隙間を放電ギャップによる隙間寸法より狭いものとするか、ピース鋳物背面に所定の厚みの肉盗み材を挟み込み、ブロック鋳物とピース鋳物間の隙間を放電ギャップによる隙間寸法より大きいものとすることで、隙間寸法を調整することを特徴とするものである。
【0018】
請求項3の発明は、請求項1または2記載のタイヤ成形用金型の製造方法において、ブロック鋳物のピース鋳物嵌め込み部位に肉盗み形状を付与するために、
1) 金型に必要とされる意匠面形状を不足無く持ったブロック鋳物を製作出来る原型を製作し、
2) 原型からゴム型を注型反転製作し、ゴム型からピース鋳物形状のピース鋳物用ゴム型を切り出し、
3) 原型にピース鋳物用ゴム型を嵌め込み、離型剤を塗布した後、再度ゴム型を注型反転製作し、得られたゴム型からピース鋳物用ゴム型を分離して、ブロック鋳物用ゴム型とし、
4) 3)で得られたブロック鋳物用ゴム型のピース鋳物用ゴム型嵌め込み部位の側面部またはピース鋳物用ゴム型の側面部に、鋳物で放電摺り合せする為の摺り合せ代分の肉盛りを施し、
5) これらのピース鋳物用ゴム型とブロック鋳物用ゴム型を用いて、鋳型を反転製作し、この鋳型から鋳物を反転製作する
ことを特徴とするものである。
【0019】
さらに請求項4の発明は、請求項1記載のタイヤ成形用金型の製造方法において、ピース鋳物をタイヤ金型の半径方向の内径側若しくはタイヤ幅方向に、バネ力により弾発されるようにブロック鋳物に嵌合わせることを特徴とするものである。これにより、ピース鋳物間の隙間が広がっている状態から金型閉動作が開始し、加硫前のタイヤが金型に接触する事による外力若しくは、タイヤ金型本体を閉動作させる外力を利用して、ピース鋳物がブロック鋳物の所定の位置に移動してゆくようにし、金型からのタイヤ脱型時に、ピース鋳物がブロック鋳物から押し出される構造とする事ができる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明によれば、従来製法である石膏鋳造法と同じ原型を用いて、コストミニマムでピース組み立て方式に近い形態の『ノンスピュータイプタイヤ金型』を製作する事が出来る。請求項2の発明によれば、請求項1の発明では対応が困難であったブロック鋳物とピース鋳物間の隙間寸法(スリット幅寸法)を自由に調整出来る様になり、個々のノンスピュータイヤ金型に必要とされるスリット幅寸法に簡易に追従させる事が可能となる。請求項3の発明によれば、従来製法で製作しておいた原型をそのまま流用して、ピース組み立て式に近いタイヤ成形金型を製作する事が可能となる。請求項4の発明によれば、タイヤ成形時の形状転写性を向上させることができ、タイヤ脱型時の脱型抵抗を減じる事が出来るタイヤ成形用金型を得ることができる。
以下に各発明の好ましい実施形態を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(請求項1の発明)
先ず図6、図7の模式図の様に、ブロック鋳物10とピース鋳物11とを製作する。図6はセクショナルモールドの場合、図7は2Pモールドの場合である。ブロック鋳物10はタイヤ金型の基本分割構造1ヶ分の大きさで、従来製法で鋳造製作する。またピース鋳物11も、ブロック鋳物10に嵌め込まれる形状のものを(ニアネットシェイプで)鋳造製作する。ブロック鋳物10においてピース鋳物11が嵌め込まれる部位は、ピース鋳物11の大きさより小さい肉盗み形状となる様にしておく。このブロック鋳物11の肉盗み形状は、鋳造による鋳出し(この対応方法の一例が請求項3)や、機械加工により形成する。
【0022】
次に図8のように、ブロック鋳物10にピース鋳物11を『放電加工』を活用して嵌め込む。具体的には、ピース鋳物11を電極側、ブロック鋳物10を加工物側に電極設定し、白灯油等の加工液中で放電加工し、ブロック鋳物10にピース鋳物11の形状の溝を彫り込む。放電加工は、電極と加工物間に電気火花(アーク)を飛ばして、この熱で加工物を溶かし飛ばす事で加工物を削って行く加工方式である為、電極と加工物間には、このアーク長分の『放電ギャップ』が隙間として発生する。
【0023】
図8中のΔ1、Δ2が放電ギャップである。ピース鋳物11がブロック鋳物10に対してΔ2だけ突出している状態で放電加工をストップすると、組み立てた際、ピース鋳物11とブロック鋳物10間の段差が無い状態となる。通常の放電加工では、放電ギャップ(Δ1、Δ2:通常Δ1≒Δ2)は0.02〜0.1mm程度となる。このように放電切削加工した後、ブロック鋳物10内にピース鋳物11を嵌合わせ、放電切削加工した際に生じる放電ギャップを金型の空気抜き機構として活用する。なお、ブロック鋳物11に肉盗み形状を予め付与しておく理由は、放電加工時間を短くする為と、ピース鋳物11側の消耗(電極消耗)を極小化する為の2点である。
【0024】
図9はブロック鋳物10内にピース鋳物11を嵌合わせた状態のセクショナルモールドを示し、図10は2Pモールドを示す。これらの図中の下穴12は、放電ギャップにより形成された『スリット部』の空気抜き特性を補助して向上させる為のものである。図8では放電加工後に下穴12を開口しているが、放電加工開始前に開口しておいても良い。下穴12を放電加工前に開口すると、この下穴12の部分が放電加工時の『加工液排出』『スラッジ排出』に役立つことになり、放電加工効率も向上する利点がある。
【0025】
このようにブロック鋳物10にピース鋳物11を放電加工で嵌め込む事で、
1)多軸制御エンドミル加工等の比較的複雑な機械加工を必要とせず、汎用の放電加工機のみで対応が出来る。
2)空気抜き機構として必要な『スリット』形状が、自動的に形成される。
3)ピース鋳物自体を電極として使用する為に、ピース鋳物とブロック鋳物間の形状整合性(嵌め込み形状整合性)が高い。
4)従来製法である石膏鋳造法と殆ど同じ製法で(同じ原型を用いて)、コストミニマムでピース組み立て方式に近い形態の、『ノンスピュータイプタイヤ金型』を製作する事が出来る。ブロック金型、ピース金型を鋳造製法で『鋳物』として製作する事の意義は、ここに有る。
5)一体のブロック鋳物10に側面および背面を接触させる形でピース鋳物11を配置する事で、金型全体に対して安定した位置でピース鋳物11を保持し易い
等のメリットが生じてくる。
【0026】
(請求項2の発明)
請求項2の発明では図11に示すように、ブロック鋳物10に対してピース鋳物11が内径側に移動した際に、ブロック鋳物−ピース鋳物間の隙間が大きくなる様な勾配(抜き勾配:角度θ)の側面形状をピース鋳物11に持たせる。次に図12に示すとおり、請求項1同様にピース鋳物11を用いて、ブロック鋳物10を放電加工する。ピース鋳物11の底面にアークが飛ばない内は、ブロック鋳物10のピース鋳物側面部と接触する部位のみが放電切削される。ピース鋳物11の底面にもアークが飛ぶと、ブロック鋳物10の該当部が放電除去され始める。ピース鋳物11の意匠面部とブロック鋳物10の意匠面段差がピース鋳物底面部の放電ギャップΔ2の値になった時点で放電加工を停止すると、放電加工後のブロック鋳物−ピース鋳物間の隙間はΔ1−Δ2・cosθとなる。このようにして放電擦り合せ加工が行われる。
【0027】
スリット幅をΔ1−Δ2・cosθより小さい値としたい場合には、図13に示すようにピース鋳物底面部をΔ3だけ切削除去すると、組み立て後のブロック鋳物−ピース鋳物間隙間をΔ3・cosθだけ狭くする事が出来る。逆にスリット幅をΔ1−Δ2・cosθより大きい値としたい場合には、図14に示すようにピース鋳物底面部にΔ3の厚みの肉盗み材を挟み込むと、組み立て後のブロック鋳物−ピース鋳物間隙間をΔ3・cosθだけ広くする事が出来る。このようにして請求項1の発明と同様に、放電加工でピース鋳物を嵌め込み加工すると同時に、空気抜き用スリット形状を付与する事が出来る。図15に組立て状態を示す。請求項2の発明を用いれば、このスリット寸法を自由に調整出来る様になる。
【0028】
この様に請求項2の発明を用いると、請求項1では対応が困難であったブロック鋳物10とピース鋳物11間の隙間寸法(スリット幅寸法)を自由に調整出来る様になり、個々のノンスピュータイヤ金型に必要とされるスリット幅寸法に簡易に追従させる事が可能となるのである。
【0029】
(請求項3の発明)
上記した請求項1、2の説明では、ブロック鋳物10のピース鋳物11を嵌め込む部位が肉盗みされた形状を前提としており、その形状を鋳造による鋳出しや機械加工で付与することとしている。請求項3の発明は、この肉盗み形状を鋳造による鋳出しで付与するための具体的な方法に関するものである。図16〜図20によって詳細に説明する。
【0030】
図16に示すように、まず従来製法の原型13を製作・準備する。原型13にゴム材を注型し反転製作したゴムから、ピース鋳物形状のゴム型を切り出しピース鋳物用ゴム型14を製作する。(モデル上で、ピース鋳物用ゴム型の側面・背面形状をワックスなどを用いて見切り製作しておき、そこにゴム材を注型して製作しても良い。)このピース鋳物用ゴム型14を原型13に嵌め込む。
【0031】
次に図17に示すように、)ピース鋳物用ゴム型14上にブロック鋳物で必要な肉盗み形状分の肉盛り(脱着可能な肉盛り。シートワックスや粘土で可。)をし、ゴム材を注型反転する。なお、ピース鋳物用ゴム型,肉盛り材には離型剤を塗布しておく。得られたゴム型からピース鋳物用ゴム型14を脱型回収し、残ったゴム型の溝部に、ピース鋳物を放電摺り合せする際に必要な肉盛りを付与し、ブロック鋳物用ゴム型15を完成させる。そして図18に示すように、ブロック鋳物用ゴム型15から鋳型を注型反転製作し、従来製法を用いて、ブロック鋳物10を鋳造製作する。ブロック鋳物10にはピース鋳物嵌め込み用の肉盗み形状が『鋳出し』で形成される。
【0032】
次に図19に示すように、ピース鋳物用ゴム型15の背面側に、押し湯・湯口形状を持った原型(スリーブ等)16を設置し、意匠面側を粘土等の見切り台の上に乗せ、ピース鋳物用鋳型(上型)17を注型・反転製作し、その鋳型から見切り台のみを除去し、ピース鋳物用鋳型(下型)18を注型・反転製作する。完成した鋳型(上下型)を型バラシし、ピース鋳物用ゴム型、押し湯・湯口原型を脱型した後、再度鋳型を組み立て、鋳型を完成させ、鋳造に使用する。図20はブロック鋳物10にピース鋳物11を嵌め込む状態を示す図である。この鋳物を用いれば、予備加工を必要とする事無く、請求項1、2を実施することができる。
【0033】
この請求項3の手法用いると、従来製法で製作しておいた原型をそのまま流用して、ピース組み立て式に近いタイヤ成形金型を製作する事が可能となる。また、ブロック鋳物上の肉盗み形状、ピース鋳物との放電摺り合せ代を、ピース鋳物用ゴム型そのものを用いて形状付けする為、摺り合せ精度高く、少ない工数で請求項1、2の対応が可能となると言う特徴もあわせ持っている。
【0034】
(請求項4の発明)
請求項4の発明は、ピース鋳物11をタイヤ金型の半径方向の内径側若しくはタイヤ幅方向に、バネ力により弾発されるようにブロック鋳物10に嵌合わせることを特徴とするものである。図21〜図23にセクショナルモールドに適用した場合、図24〜図26に2Pモールドに適用した場合を示す。セクショナルモールドの場合にはピース鋳物11をバネ19とガイドピン20とによりタイヤ金型の内径側に弾発し、2Pモールドの場合にはピース鋳物11をバネ19とガイドピン20とによりタイヤ金型のタイヤ幅方向に弾発する。
【0035】
図22と図25に示すように、(グリーン)タイヤを成形する際の金型開状態から閉状態への移行時に、グリーンタイヤからの外力、若しくは金型の閉動作の為の外力のいづれかの力を利用して、ピース鋳物11が所定の位置に移動してゆく構造とし、金型からのタイヤ脱型時には、図23と図26に示すようになピース鋳物11のシフトアクションにより、成形後のタイヤ脱型を補助する。
【0036】
この様な機構を金型に付与する事で、下記の新たな利点が生じる。
1)タイヤ成形時の空気抜き特性を向上させられる。
2)タイヤ成形時のグリーンタイヤの流動を促進させられる(形状転写性を向上させられる)。
3)タイヤ脱型時の脱型抵抗を減じる事が出来る。
4)タイヤ脱型時にブロック鋳物−ピース鋳物間にゴムバリを残り難くする事が出来る。
5)タイヤ金型のクリーニングを行いやすく出来る。
【実施例】
【0037】
図27に全実施例を通じて製作したタイヤ金型を示す。
☆ 基本デザイン(ピッチデザイン) 63ピッチ/1周
☆ ブロック鋳物分割数9ヶ/1リング
☆ ピース鋳物嵌め込み数3ヶ/1ブロック鋳物
(27ヶ/1リング)
☆ ピース鋳物1ヶにつき、M12六角穴付ボルトと押しバネ各2ヶずつで、ブロック鋳物にピース鋳物を組付け(ピース鋳物可動・非可動兼用構造)
【0038】
ブロック鋳物・ピース鋳物鋳造製法概要は下記の通り。
(原型)
☆ 材質 : 合成木材(ケミウッド材)
☆ 原型 : 3種類(概ね45degの角度のブロック原型3ヶ)
☆ 鋳造収縮率は原型の部位毎に11〜15/1000とし、原型はこの分だけ金型寸法を拡大して形状定義した
(一次ゴム型)ピース鋳物用ゴム型
☆ ゴム材:縮合型シリコーンゴム(硬化体硬度 ショアA 60)
(二次ゴム型)ブロック鋳物用ゴム型
☆ 裏打ち材:石膏
☆ ゴム材:縮合型シリコーンゴム(硬化体硬度 ショアA 30)
(ブロック鋳物鋳造)
☆ 鋳型材:ノリタケジプサムG−6非発泡石膏(パウダー100重量部に対して水60重量部で調合)
☆ 合金材:AC4C(Si:7%,Mg:0.4%,残Al)
(ピース鋳物鋳造)
☆ 鋳型材:エチルシリケート40をバインダーとしたセラミック鋳型材
☆ 合金材:FCD600(C:3.4%,Si:1%,残Feの球状黒鉛鋳鉄)
鋳造方案は、アルミ,鉄ともに重力鋳造方式を採用した。
【0039】
(実施例1・・・請求項1、3の実施例)
原型から一次ゴム型を反転成形し、得られた一次ゴム型からピース鋳物形状のピースゴム型を切り出した後、原型の所定の位置にピースゴム型を嵌め直し、二次ゴム型を反転成形した。得られた二次ゴム型から、ピースゴム型を取り外し、二次ゴム型のピースゴム型との嵌め合わせ側面部に、厚み0.1mmのシリコーンゴムシートを貼り付け、これらの一次ゴム型、二次ゴム型を用いてピース鋳物はFCD600で、ブロック鋳物はAC4Cにて鋳造製作した。これらの工程は請求項3の実施形態である図16〜図20に示す通りである。
【0040】
得られたブロック鋳物の所定の位置にピース鋳物を仮置きし、嵌め合いズレ・傾きを手作業による摺り合せ(ブロック鋳物側を手切削)により修正した後、ブロック鋳物・ピース鋳物の仮組み体を放電加工機上に載せ、可動電極(アクチュエータ)側を移動させピース鋳物をグリップし、これを初期位置として放電加工を開始、ピース鋳物がブロック鋳物に段差無い状態となるまで放電加工を進めてゆくと言う方法で、全27ヶ/1リングのピース鋳物を放電摺り合せした。
【0041】
放電摺り合せ完了時点でブロック鋳物とピース鋳物間には、およそ0.03mmの隙間(放電ギャップ)が確認された。この隙間に同等の厚みを持ったゲージ鋼板を差し込みガタツキ発生を防止した後、ブロック鋳物背面から、ピース鋳物連結用ボルト穴加工を行い、M12六角穴付ボルトでピース鋳物をブロック鋳物に締結しゲージ鋼板を抜き取り、ピース組立て方式のタイヤ成形用金型(セクショナルモールド)を完成させた。この様にして、5軸加工機等のNC制御加工機を用いる事無く、ピッチ境界線上に0.02〜0.04mmの空気抜き用スリット溝を持ったタイヤ成形用金型を完成させる事が出来た。
【0042】
(実施例2・・・請求項2実施例)
実施例1で製作したタイヤ金型を継続使用(10,000本ほどのタイヤを成形)した所、クリーニング等による金型表面のダレやゴム付着物等の影響で、十分なスリット溝隙間が得られない状態となった。(スリット溝幅0.01mm未満の状態となってしまった。)この為、ピース鋳物背面部に厚さ0.1mmのシム(嵩上げゲージ鋼板)を挟み込み、ブロック鋳物とピース鋳物を組み付け直した所、スリット溝幅を0.02mm程度に復元させる事が出来た。(ピース鋳物背面に0.1mm厚のシムを挟み込む事で発生した、ピース鋳物−ブロック鋳物間段差は、段差許容公差範囲内であった為、そのままの状態で使用する事とした。)
【0043】
(実施例3・・・請求項3の実施例)
実施例1と同様な方法でタイヤ成形用金型を完成させる中で、ピース鋳物とブロック鋳物間に押しバネ(バネ定数1kg/1cm程度)を嵌め込み、ブロック鋳物に対してピース鋳物が10mm半径方向に可動する構造のものを製作した。この金型を用いてタイヤを成形を繰り返した所、実施例2でスリット隙間減少問題が発生した10,000本ほどのタイヤ成形を過ぎても、スリット部に目詰まりは発生せず、良好な品質のタイヤを成形する事が出来た。
【0044】
これらの実施例からも明らかなように本発明によれば、精度のよいピース組み立てタイプのタイヤ金型を、5軸加工機等のNC制御加工機を必要とせず、汎用加工機による加工と鋳造製法のみによって、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】タイヤ成形用金型によるタイヤの成形工程を示す断面図である。
【図2】従来技術(積層材の機械加工法)を示す断面図である。
【図3】従来技術(合金間鋳継法)を示す断面図である。
【図4】従来技術(異種金属ピース鋳包み法)を示す断面図である。
【図5】従来技術(間仕切り板分割ピース鋳造法)を示す断面図である。
【図6】請求項1の発明をセクショナルモールドに適用した場合の説明図である。
【図7】請求項1の発明を2Pモールドに適用した場合の説明図である。
【図8】請求項1の発明の実施形態を示す工程説明図である。
【図9】完成したセクショナルモールドの断面図である。
【図10】完成した2Pモールドの断面図である。
【図11】請求項2の発明の実施形態を示す断面図である。
【図12】請求項2の発明の実施形態を示す工程説明図である。
【図13】請求項2の発明においてスリット幅を小さくする場合の工程説明図である。
【図14】請求項2の発明においてスリット幅を大きくする場合の工程説明図である。
【図15】完成したセクショナルモールドと2Pモールドの断面図である。
【図16】請求項3の発明の実施形態を示す工程説明図である。
【図17】請求項3の発明の実施形態を示す工程説明図である。
【図18】請求項3の発明の実施形態を示す工程説明図である。
【図19】請求項3の発明の実施形態を示す工程説明図である。
【図20】請求項3の発明の実施形態を示す工程説明図である。
【図21】請求項4の発明により得られたセクショナルモールド用のブロック鋳物を示す正面図と、そのV-V、W-W断面図である。
【図22】セクショナルモールドの場合のタイヤ成形時の金型アクションの説明図である。
【図23】セクショナルモールドの場合のタイヤ脱型時の金型アクションの説明図である。
【図24】請求項4の発明により得られた2Pモールド用のブロック鋳物を示す正面図と、そのX-X、Y-Y断面図である。
【図25】2Pモールドの場合のタイヤ成形時の金型アクションの説明図である。
【図26】2Pモールドの場合のタイヤ脱型時の金型アクションの説明図である。
【図27】全実施例を通じて製作したセクショナルモールド用のブロック鋳物を示す正面図と、その断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 グリーンタイヤ
2 ブラダー
3 タイヤ金型意匠面
10 ブロック鋳物
11 ピース鋳物
12 下穴
13 原型
14 ピース鋳物用ゴム型
15 ブロック鋳物用ゴム型
16 原型
17 ピース鋳物用鋳型(上型)
18 ピース鋳物用鋳型(下型)
19 バネ
20 ガイドピン
【出願人】 【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
【出願日】 平成18年7月13日(2006.7.13)
【代理人】 【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄

【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫


【公開番号】 特開2008−18627(P2008−18627A)
【公開日】 平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願番号】 特願2006−192739(P2006−192739)