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【発明の名称】 ポリマーフイルムの製造方法
【発明者】 【氏名】浜本 伸夫

【氏名】鈴木 祐次

【要約】 【課題】フイルムの光学特性に影響を与えることなく、生産性を向上させる。

【構成】TACと溶媒とが含まれるドープを調製する。ドープを3層に分けて流延ダイ80から流延する。冷却ドラム82上に流延膜84を形成する。流延膜84を湿潤フイルム92として剥取ローラ85により剥ぎ取る。湿潤フイルム92をピンテンタ72及びクリップテンタ73により搬送する。ピンテンタ72及びクリップテンタ73の搬送速度V1と冷却ドラム82の回転速度V2との比率であるテンタドロー比を110%以上150%以下に設定する。ピンテンタ72及びクリップテンタ73内で湿潤フイルム92を乾燥させてフイルム96を得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと溶媒とが含まれるドープを回転する支持体上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜を冷却固化させて、前記流延膜が自己支持性を有するものとなった後に、前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取って湿潤フイルムとし、前記湿潤フイルムを搬送するテンタ内で、前記湿潤フイルムを乾燥させて、ポリマーフイルムを製造するポリマーフイルムの製造方法において、
前記ドープを複数の層に分けて流延し、
前記テンタの搬送速度と前記支持体の回転速度との比率であるテンタドロー比を110%以上150%以下の範囲にすることを特徴とするポリマーフイルムの製造方法。
【請求項2】
前記複数の層のうち中央の層のドープの粘度を、前記中央の層以外の層のドープの粘度よりも大きくすることを特徴とする請求項1記載のポリマーフイルムの製造方法。
【請求項3】
前記中央の層のドープの粘度を600ポイズ以上1000ポイズ以下の範囲とし、前記中央の層以外の層のドープの粘度を300ポイズ以上800ポイズ以下の範囲とすることを特徴とする請求項2記載のポリマーフイルムの製造方法。
【請求項4】
前記支持体と前記テンタとの間に、前記湿潤フイルムを前記テンタまで案内する複数のローラを設け、前記支持体から前記テンタにかけて各ローラの回転速度を徐々に大きくすることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載のポリマーフイルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用途に適したポリマーフイルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフイルム(以下単に「フイルム」とする)は、優れた光透過性や柔軟性を有し、軽量薄膜化が可能であることから、光学機能性フイルムとして多岐に利用されている。この中でも、セルロースアシレート等を用いたセルロースエステル系フイルムは、前述の特性に加えて、さらに強靭性や低複屈折率を有している。このセルロースエステル系フイルムは、写真感光用フイルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置(LCD)の構成部材である偏光板の保護フイルムや光学補償フイルムとして利用されている。
【0003】
フイルムの製造方法の一つとして、溶液製膜方法が挙げられる。この溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒が含まれたドープを流延ダイから支持体上に流延して流延膜を形成し、流延膜が自己支持性を有するものとなった後に、支持体から剥ぎ取って湿潤フイルムとし、テンタ内で湿潤フイルムを搬送させながら乾燥させてフイルムを製造する。この溶液製膜方法の利点は、光学等方性や厚み均一性に優れるとともに、含有異物が少ないフイルムを製造することができることにある。したがって、LCDに利用される光学機能性フイルムは、溶液製膜方法により製造されたものが多い。
【0004】
この溶液製膜方法では、ドープを流延する流延速度やフイルムを巻き取る巻取速度を高めてフイルムの生産性を向上させることが強く望まれている。しかしながら、流延速度を高めると製造工程で様々な故障を伴うことになる。例えば、流延膜の厚みにムラが発生したりする。また、支持体に冷却ドラムを用いて流延を行った場合には、流延速度を上げるとともに冷却ドラムの回転速度も上げる必要があるため、冷却ドラムの近傍にエアが発生し、流延直後のドープがそのエアを伴う現象が生じてしまう(エア同伴現象)。このエア同伴現象により、冷却ドラムへのドープの接触が不安定になる。さらに、冷却ドラムを用いた場合には、その回転速度によっては、ドープが冷却ドラムに接触したときに、シャークスキンと呼ばれる凹凸が流延膜の表面に発生することがある。これら故障は、結果として、製造後のフイルムの品質を低下させる一因となる。
【0005】
これら課題を解決するために、特許文献1記載の発明は、所定の時間内にドープを多層流延することで、厚みムラの抑制を行っている。また、特許文献2記載の発明は、減圧チャンバを用いて、ドープの支持体への接触を安定させている。また、特許文献3記載の発明は、テンタードロー比を1.105〜1.200とすることで、シャークスキンを抑制して、生産性を向上させている。ここに言うテンタードロー比(%)とは、100×(テンター装置の搬送速度/冷却ドラムの回転速度)のことを言う。
【特許文献1】特開2000−317960号公報
【特許文献2】特開2001−18241号公報
【特許文献3】特開平11−221833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、生産性の更なる向上のためには、テンタードロー比をさらに上げる必要がある。この点において、特許文献3は、テンタードロー比が1.200よりも大きくなると、フイルムの光学特性に影響を及ぼすと言及している。しかし、その裏付け及び実施例等は記載されておらず、真偽不明である。なお、特許文献1及び2については、発明と生産性の向上とを関連付ける旨の記載はない。
【0007】
本発明は、フイルムの光学特性に影響を与えることなく、生産性を向上させるポリマーフイルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、ポリマーと溶媒とが含まれるドープを回転する支持体上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜を冷却固化させて、前記流延膜が自己支持性を有するものとなった後に、前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取って湿潤フイルムとし、前記湿潤フイルムを搬送するテンタ内で、前記湿潤フイルムを乾燥させて、ポリマーフイルムを製造するポリマーフイルムの製造方法において、前記ドープを複数の層に分けて流延し、前記テンタの搬送速度と前記支持体の回転速度との比率であるテンタドロー比を110%以上150%以下の範囲にすることを特徴とする。
【0009】
前記複数の層のうち中央の層のドープの粘度を、前記中央の層以外の層のドープの粘度よりも大きくすることが好ましい。前記中央の層のドープの粘度を600ポイズ以上1000ポイズ以下の範囲とし、前記中央の層以外の層のドープの粘度を300ポイズ以上800ポイズ以下の範囲とすることが好ましい。前記支持体と前記テンタとの間に、前記湿潤フイルムを前記テンタまで案内する複数のローラを設け、前記支持体から前記テンタにかけて各ローラの回転速度を徐々に大きくすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリマーと溶媒とが含まれるドープを回転する支持体上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜を冷却固化させて、前記流延膜が自己支持性を有するものとなった後に、前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取って湿潤フイルムとし、前記湿潤フイルムを搬送するテンタ内で、前記湿潤フイルムを乾燥させて、ポリマーフイルムを製造するポリマーフイルムの製造方法において、前記ドープを複数の層に分けて流延し、前記テンタの搬送速度と前記支持体の回転速度との比率であるテンタドロー比を110%以上150%以下の範囲にすることにより、フイルムの光学特性及びフイルムの面状に影響を与えることなく、生産性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施形態について以下に詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施形態に限定されない。
【0012】
[原料]
本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(a)〜(c)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(a)〜(c)において、A及びBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90質量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることが出来るポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(a) 2.5≦A+B≦3.0
(b) 0≦A≦3.0
(c) 0≦B≦2.9
【0013】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0014】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
【0015】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0016】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れた溶液(ドープ)を作製することが出来る。特に、非塩素系有機溶媒を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することが出来る。
【0017】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター綿,パルプ綿のどちらから得られたものでも良いが、リンター綿から得られたものが好ましい。
【0018】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステル等が挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等が挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等がより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0019】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)が挙げられる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶媒に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液をいう。
【0020】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度および光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合させることが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25質量%が好ましく、より好ましくは5〜20質量%である。アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール、エタノール、n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0021】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン、エステル、及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン、エステル、及びアルコールの官能基(すなわち、−O−、−CO−、−COO−、及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
【0022】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することが出来る。また、溶媒及び可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤(UV剤)、光学異方性コントロール剤、レタデーション制御剤、染料、マット剤、剥離剤、剥離促進剤等の添加剤についても、同じく、特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することが出来る。
【0023】
上記原料を用いて、図1に示すように、ドープ製造ライン10でドープを製造する。ドープ製造ライン10は、TACを溶媒に溶解させてドープ27を調製する第1ドープ製造ライン10aと、調製されたドープ27を複数の層に分ける第2ドープ製造ライン10bとから構成される。
【0024】
図1に示すように、第1ドープ製造ライン10aは、溶媒を貯留する溶媒タンク11と、溶媒とTACなどを混合する溶解タンク12と、TACを供給するホッパ13と、添加剤を貯留する添加剤タンク14とを備えている。さらに、膨潤液を加熱する加熱装置15と、温調機16と、濾過装置17と、調製されたドープを濃縮するフラッシュ装置30と、濾過装置31と、溶媒を回収する回収装置32と、回収された溶媒を再生する再生装置33とが、第1ドープ製造ライン10aに備えられている。そして、この第1ドープ製造ライン10aは、第2ドープ製造ライン10bに備えられたストックタンク41へと接続する。
【0025】
第1ドープ製造ライン10aには、ドープ調製工程、濾過工程、濃縮工程、再生工程がある。ドープ調製工程で調製されたドープは、濾過工程を経た後に、濃縮工程もしくはストックタンク41へと送られる。また、再生工程で再生された溶媒は、溶媒タンク11へと送られ、再びドープ調製工程内で使用される。
【0026】
ドープ調製工程では、ドープを調製する。まず、始めに、バルブ18が開かれて、溶媒が溶媒タンク11から溶解タンク12に送られる。次に、ホッパ13に入れられているTACが、計量されながら溶解タンク12に送り込まれる。また、添加剤溶液は、バルブ19の開閉操作により必要量が添加剤タンク14から溶解タンク12に送り込まれる。
【0027】
添加剤は、溶液として送り込む方法の他に、添加剤が常温で液体の場合には、液体の状態で溶解タンク12に送り込むことが可能である。また、添加剤が固体の場合には、ホッパなどを用いて、溶解タンク12に送り込むことも可能である。複数の種類の添加剤を添加する場合には、添加剤タンクの中に複数の種類の添加剤を溶解させておくことも可能である。また、多数の添加剤タンクを用いて、それぞれに添加剤が溶解している溶液を入れて、それぞれ独立した配管により添加剤を溶解タンク12に送り込むこともできる。
【0028】
溶解タンク12には、溶媒、TAC、添加剤の順番で入れることが好ましいが、この順番に限定する必要はない。例えば、TACを計量しながら溶解タンク12に送り込んだ後に、溶媒を送り込むこともできる。また、添加剤は必ずしも溶解タンク12に予め入れる必要はなく、後の工程でTACとの溶媒との混合物に混合させることもできる。
【0029】
溶解タンク12は、その外面を包み込むジャケット20と、モータ21により回転する第1攪拌機22とを備えている。さらに、溶解タンク12には、モータ23により回転する第2攪拌機24が取り付けられている。溶解タンク12は、ジャケット20の内部に伝熱媒体(図示省略)を流すことにより温度調節されており、溶解タンク12の温度は−15℃以上55℃以下の範囲であることが好ましい。第1攪拌機22、第2攪拌機24のタイプを適宜選択して使用することにより、TACが溶媒中で膨潤した膨潤液25が調製される。なお、第1攪拌機22はアンカー翼が備えられたものが、第2攪拌機24はディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。
【0030】
溶解タンク12内で調製された膨潤液25は、ポンプ26により加熱装置15に送られる。加熱装置15は、ジャケット付きの配管を備えており、膨潤液25を加熱する。膨潤液25の温度は、50℃以上120℃以下の範囲であることが好ましい。この加熱装置15により、膨潤液25中の固形分を溶解させてドープ27を調製する。調製されたドープ27は温調機16により温度調節され、ドープ27の温度が略室温とされる。なお、膨潤液25を−100℃以上−30℃以下の範囲に冷却して溶解させる冷却溶解法を用いてもよい。
【0031】
濾過工程では、ドープ27を濾過してドープ27中の不純物を除去する。温調機16を経たドープ27は、濾過装置17により濾過されて不純物及びその他異物等が除去される。その後に、ドープ27は、バルブ28を介して、ストックタンク41もしくはフラッシュ装置30に送られる。なお、濾過装置17に使用される濾過フィルタは、平均孔径が100μm以下であることが好ましい。また、濾過流量は、50L/時以上であることが好ましい。
【0032】
濃縮工程では、ドープ27を濃縮する。上述のように、膨潤液25を製造してからドープ27を調製する方法においては、より高い濃度のドープ27を調製する場合には、調製に多くの時間がかかってしまう。調製に要する時間が長くなることは、製造コストの増大を引き起こす要因の一つとなる。そこで、この濃縮工程において、前述のドープ調製工程にて所望の濃度よりも低濃度のドープ27を調製した後に、フラッシュ装置30によりその低濃度のドープ27を濃縮して、所望の濃度のドープ27にする。フラッシュ装置30は、バルブ28を介して送られてきたドープ27から溶媒の一部を蒸発させる。この蒸発でドープ27から溶媒分が減少することにより、ドープ27の濃度が高められる。濃縮されたドープ27は、ポンプ34によりフラッシュ装置30から抜き出される。抜き出されたドープ27は、濾過装置31により、濾過されてストックタンク41へと送られる。なお、フラッシュ装置30からドープ27を抜き出す際に、ドープ27に発生した気泡を抜く泡抜き処理が行われることが好ましい。この泡抜き方法としては、公知の種々の方法があり、例えば超音波照射法が用いられる。
【0033】
再生工程では、フラッシュ装置30内で蒸発した溶媒を再生する。フラッシュ装置30内で蒸発により発生した溶媒ガスは、フラッシュ装置30内にある凝縮器(図示省略)により凝縮されて液化する。液化した溶媒は、回収装置32により回収される。回収された溶媒は、再生装置33によりドープ調製用の溶媒として再生される。再生された溶媒は、溶媒タンク11へと送られる。
【0034】
図2に示すように、第2ドープ製造ライン10bは、第1ドープ製造ライン10aで調製されたドープ27を3つの流路に分けて、それら3つの流路に分けられたドープをフイルム製造ライン70に送る。第2ドープ製造ライン10bは、ストックタンク41とフイルム製造ライン70のフィードブロック81(図3参照)との間を、支持体層ドープ流路45、中央層ドープ流路46、外層ドープ流路47の3つの流路により接続する。支持体層とは冷却ドラム82(図3参照)上で直接に流延される層を、中央層とは支持体層の上の層を、外層は中央層の上の層であって、その表面が露出している層をいう。
【0035】
ストックタンク41は、その外面を包み込むジャケット42と、モータ43により回転する攪拌機44とを備えている。図示は省略するが、ジャケット42の内部には伝熱媒体が流されており、これにより、ストックタンク41内の温度は所定の温度に調節されている。
【0036】
支持体層ドープ流路45には、ポンプ50が接続されている。このポンプ50によりストックタンク41から支持体層ドープ流路45にドープ27が流れる。このドープ27に支持体層用添加剤タンク51からドープ組成調製用の添加剤がポンプ51aを介してインラインで加えられる。ドープ組成調製用の添加剤が加えられた支持体層用ドープ54は、ポンプ50の下流にあるスタティックミキサ55で攪拌混合される。支持体層用ドープ54の粘度(単位;ポイズ(Pa・s))は、300ポイズ以上800ポイズ以下の範囲であることが好ましく、400ポイズ以上800ポイズ以下の範囲であることがより好ましい。支持体層用ドープ54は、フィードブロック81(図3参照)に送られ、後述の中央層用ドープ64及び外層用ドープ65とともに流延される。
【0037】
支持体層用添加剤タンク51に貯蔵される添加剤としては、流延膜の剥離を容易にする剥離促進剤(クエン酸エステル)、フイルムをロール状に巻き取った際にフイルム面間での密着を抑制するマット剤(二酸化ケイ素等)などの添加剤が挙げられる。
【0038】
中央層ドープ流路46、外層ドープ流路47には、ポンプ58、59が接続されている。これらポンプ58、59を介してストックタンク41から、各流路46、47にドープ27が流れる。中央層用添加剤タンク62及び外層用添加剤タンク63からそれぞれドープ組成調製用の添加剤が、ポンプ62a及びポンプ63aを介して、インラインで加えられる。ここで、中央層用添加剤タンク62からドープ組成調製用の添加剤が加えられた中央層用ドープ64の粘度は、外層用添加剤タンク63からドープ組成調製用の添加剤が加えられた外層用ドープ65の粘度よりも大きくなるように、設定されている。具体的には、中央層用ドープ64の粘度は、600ポイズ以上1000ポイズ以下の範囲であることが好ましく、500ポイズ以上1000ポイズ以下の範囲であることがより好ましい。また、外層用ドープ65の粘度は、300ポイズ以上800ポイズ以下の範囲であることが好ましく、400ポイズ以上800ポイズ以下の範囲であることがより好ましい。中央層用ドープ64及び外層用ドープ65は、ポンプ58,59の下流側にあるスタティックミキサ68,69により攪拌混合され、スタティックミキサ68,69の下流にあるフィードブロック81(図3参照)に送られる。
【0039】
中央層用添加剤タンクに貯蔵されるものとしては、トリフェニルフォスフェート、ビオフェニルジフェニルフォスフェート等の可塑剤、紫外線吸収剤等の添加剤が挙げられる。外層用添加剤タンクに貯蔵されるものとしては、前述の中央層用添加剤タンクに貯蔵されるものに加えて、コロイダルシリカ、劣化防止剤等の添加剤が挙げられる。
【0040】
なお、本実施形態では、ドープを3層に分けて、中央層用ドープ64の粘度を外層用ドープ65の粘度よりも大きくしたが、ドープを3層以上の複数の層に分けて、その複数の層のうち略中央に相当する層のドープの粘度を、その略中央に相当する層以外の層のドープの粘度よりも大きくしてもよい。
【0041】
上記で得られたドープを用いてフイルムを製造する方法を説明する。図3は、フイルム製造ライン70を示す概略図である。フイルム製造ライン70は、流延室71、ピンテンタ72、クリップテンタ73、乾燥室74、冷却室75、巻取室76を備えている。
【0042】
流延室71には、ドープが流延される流延ダイ80と、流延ダイ80に取り付けられ、ドープ製造ライン10からのドープ54,64,65を合流させるフィードブロック81と、支持体である冷却ドラム82と、冷却ドラム82から流延膜84を剥ぎ取る剥取ローラ85と、流延室71の内部温度を調整する温調設備86と、流延室71内部に浮遊する揮発した溶媒を液化させる凝縮器87(コンデンサ)とが備えられている。凝縮器87で凝縮液化された溶媒は、回収装置88により回収され、さらに再生装置(図示省略)により再生されれ、ドープ調製用溶媒として再利用される。また、流延ダイ80には、その背部周辺を所望の圧力に減圧させる減圧チャンバ89が取り付けられている。
【0043】
冷却ドラム82は、駆動装置(図示省略)により回転する。冷却ドラム82には、冷却ドラム82の表面温度を所望の温度に保持するために、冷媒供給装置90が取り付けられている。冷媒供給装置90から所定の温度に調整された冷媒を、冷却ドラム82の内部に供給して、循環・通過させる。これにより、流延されたドープを冷却ゲル化させて、流延膜84を形成する。そして、流延膜84のゲル化が促進されて自己支持性を有するものとのなった後に、この流延膜84を剥取ローラ85により冷却ドラム82から剥ぎ取って、湿潤フイルム92とする。
【0044】
流延室71とピンテンタ72との間には複数のパスローラ94が設けられている。パスローラ94は、流延膜84が冷却ドラム82から剥ぎ取られて得られる湿潤フイルム92を、ピンテンタ72まで案内する。図示は省略するが、パスローラ94の上側には乾燥風給気装置が設けられており、この乾燥風給気装置から乾燥風をパスローラ94上の湿潤フイルム92に当てて、湿潤フイルム92を乾燥させる。
【0045】
ピンテンタ72は複数のピン(図示省略)を有しており、これらピンを湿潤フイルム92の両側縁部に突き刺して、湿潤フイルム92を搬送する。またピンテンタ72内で、湿潤フイルム92の乾燥を行うことにより残留溶媒量を減少させて、湿潤フイルム92をフイルム96にする。クリップテンタ73は、ピンテンタ72の下流に設けられ、ピンテンタ72から出たフイルム96の両側縁部を把持してフイルム96を搬送するとともに、フイルム96の乾燥を行う。
【0046】
クリップテンタ73の下流には耳切装置97が設けられている。耳切装置97はフイルム96の両側縁部(耳)を切断し、切断された耳は、耳切装置97に備えられたクラッシャ97aに送り込まれ、このクラッシャ97a内で粉砕される。耳が切り取られたフイルム96は、耳切装置97の下流側にある乾燥室74に送られる。
【0047】
乾燥室74には、多数のローラ98が備えられている。乾燥室74内で、フイルム96はローラ98により搬送されながら乾燥される。この乾燥室74内でフイルム96から発生した溶媒ガスは、乾燥室74の外側に設けられた吸着回収装置99により吸着回収される。
【0048】
乾燥室74から出たフイルム96は冷却室75に送られて、この冷却室75内で略室温まで冷却される。冷却室75の下流には、フイルム96の帯電圧を所定の範囲(例えば−3kV〜+3kV)に調整する強制除電装置100(除電バー)が設けられている。その下流には、フイルム96の両縁にエンボス加工のナーリングを付与するナーリング付与ローラ101が設けられている。ナーリングが付与されたフイルム96は、巻取室76内の巻取ローラ103により巻き取られる。巻取ローラ103の近傍には、フイルム96に対するテンションを制御するプレスローラ105が設けられている。
【0049】
次に、フイルム製造ライン70における製造条件を示す。流延室71内の温度は、温調設備86により−10℃以上57℃以下の範囲にすることが好ましい。また、冷却ドラム82の表面温度は、冷媒供給装置90により−50℃以上0℃以下の範囲にすることが好ましい。
【0050】
ピンテンタ72及びクリップテンタ73の搬送速度V1(単位;m/分)と冷却ドラム82の回転速度V2(単位;m/分)との比率であるテンタドロー比は、110%以上150%以下の範囲であることが好ましく、110%以上150%以下の範囲であることがより好ましく、120%以上150%以下の範囲であることが最も好ましい。ここに言うテンタドロー比(%)は100×V1/V2で表される。特許文献3では、テンタドロー比が120%以上になると、フイルムの光学特性に影響を及ぼす旨の記載がされている。しかしながら、本発明においては、テンタドロー比が120%以上150%以下の範囲である場合であっても、光学特性を示す値である正面レタデーションRe及び厚み方向のレタデーションRthは、光学用途に適したセルロースエステルフイルムが示すRe及びRthの範囲内にある。さらに、テンタードロー比を150%まで引き上げても、シャークスキンが発生することはない。なお、テンタドロー比が110%よりも小さいと、所望の生産性を達成することができない。また、テンタドロー比が160%よりも大きいと、湿潤フイルムが破れてしまうおそれがある。

【0051】
また、パスローラ94の回転速度V3(単位;m/秒)は、回転速度V2以上搬送速度V1以下の範囲である。さらに、各パスローラ94の回転速度V3は、上述の範囲内で、冷却ドラム82からピンテンタ72にかけて徐々に大きくなるように設定されている。例えば、パスローラ94の回転速度V3と冷却ドラム82の回転速度V2との比率をパスローラドロー比とした場合であって、パスローラ94を3つ(94a,94b,94c)設けて、テンタドロー比を130%とした場合に、冷却ドラム82側のパスローラ94aのパスローラドロー比を105%とし、その隣のパスローラ94bのパスローラドロー比を112%とし、ピンテンタ72側のパスローラ94cのパスローラドロー比を120%とする。このように、パスローラ94の回転速度V3を徐々に大きくことにより、剥ぎ取られた直後の湿潤フイルム92が急激に引っ張られることなく、徐々に湿潤フイルム92を引っ張ることが可能となる。したがって、テンタドロー比を大きくしたとしても、湿潤フイルム92が破れることはない。
【0052】
なお、本実施形態では、ピンテンタ72及びクリップテンタ73の二つのテンタにより湿潤フイルム92を搬送しながら乾燥させたが、ピンテンタ72のみを用いてもよい。
【0053】
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースアシレートフイルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号公報の[1073]段落から[1087]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0054】
[表面処理]
このセルロースアシレートフイルムにおいては、少なくとも一方の面が表面処理されていることが好ましい。表面処理は、真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
【0055】
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の面が下塗りされていてもよい。
【0056】
さらに、セルロースアシレートフィルムをベースフィルムとして、他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。機能性層としては、帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層、及び光学補償層のうち、少なくとも1層を設けることが好ましい。そして、この機能性層は、少なくとも一種の界面活性剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましく、少なくとも一種の滑り剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましい。また、機能性層が、少なくとも一種のマット剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましく、少なくとも一種の帯電防止剤を1〜1000mg/m含有することが好ましい。なお、セルロースアシレートフィルムに、種々様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも、特開2005−104148号公報の[0890]段落から[1072]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されており、これらの記載も本発明に適用することが出来る。
【0057】
本発明により得られるフィルムの用途について説明する。本発明により得られるフィルムは、高レタデーション値を有し、透明性に優れている。そのため、特に、偏光板保護フィルムとして有用である。なお、このフィルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を液晶層に2枚貼ることにより作製した液晶表示装置は、液晶表示能力に優れる等の特長を示す。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、公知の各種配置とすることが出来る。特開2005−104148号公報(例えば、[1088]段落から[1265]段落)には、液晶表示装置として、TN型、STN型、VA型、OCB型、反射型、その他の例が詳しく記載されており、この方法も本発明に適用させることが出来る。また、同出願には光学的異方性層を付与した、セルロースアシレートフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフィルムについての記載や、適度な光学性能を付与し二軸性セルロースアシレートフィルムとして光学補償フィルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フィルムと兼用して使用することも出来る。これらの記載も、本発明に適用させることが出来る。また、本発明により得られるフイルムは、写真用支持体としても用いることができる。
【0058】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0059】
実施例1で使用した原料の質量部は下記の通りである。なお、ドープ調製用の溶媒として、予め、メチレンクロライド(第1溶媒)とメタノール(第2溶媒)とn−ブタノール(第3溶媒)とを混合した混合溶媒を、溶媒タンク11に貯留した。
セルローストリアセテート(置換度2.86、粘度平均重合度306、含水率0.2質量%、メチレンクロライド溶解中6質量%の粘度315mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.5mmである粉体) 100質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 397質量部
メタノール(第2溶媒) 75質量部
n−ブタノール(第3溶媒) 3質量部
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.6質量部
可塑剤B(ジフェニルフォスフェート) 3.8質量部
UV剤a:2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール 0.7質量部
UV剤b:2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール 0.3質量部
微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05質量部
【0060】
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1質量%以下であり、Ca含有量が80ppm、Mg含有量が42ppm、Fe含有量が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンが15ppm含まれるものであった。また、アセトン抽出分は8質量%、重量平均分子量/数平均分子量比は2.7であった。イエローインデックスは6.0であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であり、Tg(ガラス転移温度;DSCにより測定)は160℃、結晶化発熱量は6.4J/gであった。このセルローストリアセテートは、パルプから採取したセルロースを原料としてセルローストリアセテートを合成した。
【0061】
図1に示す第1ドープ製造ライン10aにより、流延用のドープ27を調製した。第1攪拌機22及び第2攪拌機24を有する4000Lのステンレス製溶解タンク12に、溶媒タンク11から第1〜第3溶媒を混合した混合溶媒を送液した。ホッパ13からTACを溶解タンク12へと送り込み、溶解タンク12全体が2000kgになるように調整した。このとき、溶媒はすべてその含水率が0.5質量%以下のものを使用した。溶解タンク12の内部をディゾルバータイプの攪拌機を備えた第2攪拌機24により攪拌剪断速度が最初は5m/秒(剪断応力5×10Kgf/m/秒)の周速で攪拌した。次に、中心軸にアンカー翼を備えた第1攪拌機22により、周速1m/秒(剪断応力1×10Kgf/m/秒)の条件下で30分間分散した。なお、分散の開始温度は25℃であり、最終到達温度は48℃となった。そして、分散終了後に、高速攪拌を停止させて、第1攪拌機22の周速を0.5m/秒として、さらに100分間攪拌してから、セルロースアセテートフレークを膨張させて膨潤液25を得た。なお、膨潤終了までは、窒素ガスで溶解タンクの内部を0.12MPaになるように加圧し、溶解タンク12の内部の酸素濃度を2vol%未満として、防爆上で問題のない状態を保持した。また、膨潤液25中の水分量は0.3質量%であった。
【0062】
膨潤液25を溶解タンク12からポンプ26を介して加熱装置15に送り込み、50℃まで加熱した。そして、膨潤液25を2MPaの加圧下で90℃まで加熱して、TACを溶媒中に完全に溶解させた。このとき、加熱時間は15分であった。次に、この溶解液を温調機16に送り込み、36℃まで温度を下げてから、公称孔径8μmのフイルムを有する濾過装置17を通過させて異物を除去し、ドープを得た(濃縮前ドープ)。なお、濾過装置17における1次側圧力を1.5MPa、2次側圧力を1.2MPaとした。また、高温にさらされるフィルタや、各装置を接続する配管などは、ハステロイ(商品名)合金製のものを使用した。
【0063】
濃縮前ドープを、80℃で常圧としたフラッシュ装置30によりフラッシュ蒸発させることにより濃縮し、ドープ27とした。フラッシュ後のドープ27の固形分濃度は22.5質量%であった。このとき、蒸発した溶媒を回収装置32で回収してから、再生装置33により再生した。そして、この再生した溶媒を、溶媒タンク11に送ってドープ調製用溶媒として再利用した。なお、回収装置32や再生装置33では、蒸留や脱水処理を行った。フラッシュ装置30のフラッシュタンクには、攪拌軸にアンカー翼を備えた攪拌機(図示省略)を設け、周速を0.5m/秒としてフラッシュされたドープ27を攪拌し、脱泡処理を行った。このフラッシュタンク内のドープ27の温度は、25℃であり、タンク内におけるドープ27の平均滞留時間は50分であった。また、このドープ27を採取して25℃で測定した剪断粘度は、剪断速度10(秒−1)で450Pa・sであった。
【0064】
濃縮後のドープ27は、弱超音波を照射して泡抜きを行った後、ポンプ34により1.5MPaに加圧した状態で、濾過装置31に送り込み濾過した。濾過装置31では、最初公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルタを通過させてから、公称孔径10μmの焼結繊維フィルタを通過させた。このとき、それぞれの1次側圧力は1.5MPa,1.2MPaであり、2次側圧力は1.0MPa,0.8MPaであった。濾過後、温度を36℃に調整したドープ27を、2000Lのステンレス製ストックタンク41に送液して貯留した。ストックタンク41の内部では、中心軸にアンカー翼を備えた攪拌機により、周速0.3m/秒で常時攪拌した。
【0065】
第1ドープ製造ライン10aで調製されたドープ27を、支持体層ドープ流路45、中央層ドープ流路46、外層ドープ流路47の3つの流路に流した。支持体層用添加剤タンク51からドープ組成調製用の添加剤を加えて、粘度が500ポイズの支持体層用ドープ54をフイルム製造ライン70側に流した。また、中央層用添加剤タンク62からドープ組成調製用の添加剤を加えて、粘度が800ポイズの中央層用ドープ64をフイルム製造ライン70側に流した。また、外層用添加剤タンク63からドープ組成調製用の添加剤を加えて、粘度が500ポイズの外層用ドープ65をフイルム製造ライン70側に流した。
【0066】
流延ダイ80は、フイルム96の膜厚が80μmとなるように、流量を調整してドープの流延を行った。流延ダイ80の幅を1700μmとした。また、流延速度を20m/分とした。流延ダイ80にジャケット(図示省略)を設けて、このジャケット内に供給する伝熱媒体の入口温度を36℃とすることにより、ドープの温度を36℃に調整した。
【0067】
流延ダイ80は、コートハンガータイプのダイを用いた。流延ダイ80には厚み調整ボルト(図示省略)を20mmピッチで設けた。また、流延ダイ80として、ヒートボルトによる自動厚み調整機構(図示省略)を備えているものを使用した。このヒートボルトは、フイルム製造ライン70に設置した赤外線厚み計(図示省略)によりフィードバック制御をして厚みを調整することもできる。
【0068】
また、流延ダイ80には、減圧チャンバ89を設置した。減圧チャンバ89の減圧度は、流延ビードの前後で、1Pa以上5000Pa以下の圧力差が生じるように調整され、この調整は流延速度に応じてなされる。その際に、流延ビードの長さが20mm以上50mm以下の範囲となるように、流延ビードの両側面の圧力差を設定した。また、減圧チャンバ89によって、流延ビード背面側の圧力を前面部よりも150Pa低くした。また、減圧チャンバ89は、流延部周辺のガスの凝縮温度よりも高い温度に設定できる機構を備えたものを用いた。さらに、流延ダイ80には、流延ビードの両縁の乱れを調整するためのエッジ吸引装置(図示省略)を取り付けた。このエッジ吸引装置は、エッジ供給風量が1L/m以上100L/m以下の範囲となるように適宜調整した。また、減圧チャンバ89には、伝熱媒体によって35℃に調整されたジャケット(図示省略)が取り付けられている。このジャケットによって減圧チャンバ89の内部温度は一定の温度に保持されている。
【0069】
支持体として幅2.1mのステンレス製の冷却ドラム82を用いた。冷却ドラム82の表面粗さは0.05μm以下となるように、その表面は研磨されている。冷却ドラム82は、十分な耐低温性と耐腐食性と強度とを有するものとした。冷却ドラム82の回転速度V2については、製造後にフイルムの評価をするために、テンタドロー比が100%以上160%以下の範囲となるように、変更した。また、1回転の幅方向の蛇行は1.5mm以下に制限するように、冷却ドラム82の両端位置を検出して制御した。冷却ドラム82に冷媒供給装置90を用いて、−30℃の冷却媒体を送液し、循環させることにより、表面温度を−5℃とした。なお、流延ダイ80直下におけるダイリップ先端と冷却ドラム82との上下方向の位置変動は200μm以下とし、冷却ドラム82は、風圧変動抑制装置(図示省略)を有する流延室71内に設置した。
【0070】
冷却ドラム82は、表面欠陥がないものが好ましく、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm以上30μm以下の範囲のピンホールは1個/m以下、10μm未満のピンホールは2個/m以下であるものを用いた。流延室71の温度は、温調設備86を用いて35℃に保持した。流延室71内の溶媒ガスを凝縮回収するために、凝縮器87(コンデンサ)を設け、その出口温度は、−10℃に設定した。また、流延室71の内部に送風機(図示省略)を設けて、この送風機から流延膜84に対して40℃、10%RHの乾燥風を風速10m/分で送風した。
【0071】
流延膜84中の残量溶媒量が乾量基準で150質量%になった時点で、冷却ドラム82から剥取ローラ85で流延膜84を湿潤フイルム92として剥ぎ取った。このときの流延膜84の温度は−10℃であり、流延膜84が冷却ドラム82上で搬送されていた時間は3秒であり、剥ぎ取りテンションは10kgf/mであった。なお、冷却ドラム82上での流延膜84の乾燥速度は乾量基準で平均60質量%/分であった。そして、本実施例では、乾燥して発生した溶媒ガスを、−10℃の凝縮器87で凝縮液化した後に、回収装置88で回収した。回収された溶媒は水分除去の調整がなされた後に、ドープ調製用溶媒として再利用した。その際に、溶媒に含まれる水分量は、0.5%以下となるように調整した。
【0072】
次に、湿潤フイルム92を、回転するパスローラ94を介して、ピンテンタ72及びクリップテンタ73に送った。ピンテンタ72及びクリップテンタ73内で、湿潤フイルム92を搬送しながら乾燥させて、フイルム96を得た。ピンテンタ72及びクリップテンタ73の搬送速度V1については、製造後にフイルムの評価をするために、テンタドロー比が100%以上160%以下の範囲となるように、変更した。
【0073】
耳切装置97によりフイルム96の耳を切断した。耳切装置97としては、NT型カッターを使用し、フイルム96の両端から50mmの耳を切断した。切断した耳は、カッターブロワ(図示省略)によりクラッシャ97aに風送してから、平均80mm程度のチップに粉砕し、耳サイロ(図示省略)に収納した。この耳サイロには、溶媒濃度計が設けられており、常に耳サイロ内の溶媒濃度をモニタリングしていた。耳サイロ内の溶媒濃度が爆発下限値(LEL)である25体積%を超えると爆発する場合があるが、本実施例では、常に25体積%未満であり、爆発の可能性は全くなかった。そして、このチップは再度ドープ調製用原料としてTACフレークとともにドープ製造の際に原料として利用した。なお、酸素濃度を5vol%に保持するために空気を窒素ガスで置換した。後述する乾燥室74で高温乾燥させる前に、100℃の乾燥風が供給されている予備乾燥装置(図示省略)でフイルム96を予備乾燥した。
【0074】
次に、両端を切断したフイルム96を乾燥室74で高温乾燥した。乾燥室74の内部を4区画に分割して、上流側から120℃、130℃、130℃、130℃の乾燥風を送風機(図示省略)から給気した。このとき、ローラ98によるフイルム96の搬送張力は100N/幅として、最終的に残量溶媒量が0.3質量%になるまで約10分間乾燥した。このとき、ローラ98に対するフイルム96のラップ角度は、90度及び180度とした。また、ローラ98の材質は、アルミニウム製もしくは炭素鋼製であり、表面にはハードクロムめっきを施し、さらに、ローラ98の表面形状は、フラットなものとブラストによりマット加工したものとを用いた。ローラ98の回転による振れは、全て50μm以下であった。なお、搬送張力が100N/幅でのローラたわみは、0.5mm以下となるように調整した。
【0075】
乾燥室74では、その乾燥室74内に含まれる溶媒ガスを、吸着回収装置99を用いて回収除去した。吸着回収は、吸着材を活性炭とし、脱着を乾燥窒素により行った。そして、回収した溶媒は、水分量を0.3質量%以下に調整してドープ調製用溶媒として再利用した。乾燥風には溶媒ガスの他に、可塑剤、UV吸収剤、その他の高沸点物が含まれており、これらを冷却機及びプレアドゾーバ(予備吸着材)で冷却除去して、再生循環使用した。そして、最終的に屋外排出ガス中のVOC(揮発性有機化合物)は10ppm以下となるように、吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶媒のうち凝縮法で回収する溶媒量は90質量%であり、残りの大部分は吸着回収により回収した。
【0076】
乾燥室74と冷却室75との間に、第1調湿室と第2調湿室(図示省略)とを設けて、フイルム96を調湿することによりカール等の矯正を行った。第1調湿室において、温度50℃、露点20℃の空気を給気した後に、続けて第2調湿室にフイルムを搬送して、フイルムに対して直接に90℃、湿度70%の空気を当てた。
【0077】
調湿後のフイルム96を冷却室75に送り込んで30℃以下になるまで冷却した。そして、強制除電装置(除電バー)100により、フイルム96の帯電圧が常時−3kV以上+3kV以下の範囲となるように調整した。続けて、ナーリング付与ローラ101によりフイルム96の両側端部にナーリングの付与を行った。なお、ナーリングは、フイルム96の片側からのエンボス加工とした。このとき、ナーリングを付与する幅は10mmであり、凹凸の高さがフイルム96の平均厚みよりも平均して12μm高くなるようにナーリング付与ローラ101による押し圧を調整した。
【0078】
そして、巻取室76の内部に設置されている巻取ローラ103(φ169mm)により、巻き始め張力を300N/mとし、巻き終わりを200N/mとなるように調整しながらフイルム96を巻き取って、幅が1340mmであり、ナーリングを付与した内側の幅が1313mmであるフイルム96のロール状製品を得た。巻き取り時のフイルム96の温度は23℃であり、含水量が1.0質量%、残留溶媒量が1重量%であった。巻取室76の内部は、室内温度28℃、湿度70%に保持するとともに、イオン風除電装置(図示省略)を設けて、フイルム96の帯電圧が−1.5kV以上+1.5kV以下の範囲となるように調整した。巻き取り時では、巻きズレの変動幅(オシレート幅)を±5mmとし、巻取ローラ103に対する巻きズレ周期を400mmとし、巻取ローラ103に対するプレスローラ105の押し圧を50N/mに設定した。フイルム製造ライン70では、全工程を通して、流延膜84や湿潤フイルム92及びフイルム96の平均乾燥速度を20質量%/分とした。なお、製膜速度は巻取装置により50m/分とした。
【0079】
[フイルムの光学特性の測定及び評価]
実施例1〜4及び比較例1〜2において、テンタドロー比TD及び流延方式(共流延または単層流延)を以下のように変えて実施し、製造後のフイルムに対して、正面レタデーションRe及び厚み方向のレタデーションRthを測定し、シャークスキンが発生しているか否か、及び冷却ドラム82からの剥取性について評価した。
【0080】
[実施例1]
テンタドロー比を114%とし、ドープ27を3層に分けて流延した(共流延)。
[実施例2]
テンタドロー比を120%とし、ドープ27を3層に分けて流延した(共流延)。それ以外の条件は実施例1と同様とした。
[実施例3]
テンタドロー比を125%とし、ドープ27を3層に分けて流延した(共流延)。それ以外の条件は実施例1と同様とした。
[実施例4]
テンタドロー比を150%とし、ドープ27を3層に分けて流延した(共流延)。それ以外の条件は実施例1と同様とした。
[比較例1]
テンタドロー比を160%とし、ドープ27を3層に分けて流延した(共流延)。それ以外の条件は実施例1と同様とした。
[比較例2]
テンタドロー比を104%とし、ドープ27をそのまま流延した(単層流延)。それ以外の条件は実施例1と同様とした。
【0081】
表1は、各実施例及び比較例におけるフイルム96の光学特性の測定結果及び評価を示している。
【表1】


[レタデーション]
レタデーションを以下の式に基づいて算出した。
Re=(nx−ny)×d
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
ここで、nxはフイルム96面内の遅相軸方向(搬送方向)の屈折率であり、nyはフイルム96面内の進相軸方向(幅方向)の屈折率であり、nzはフイルム96の厚み方向での屈折率である。dはフイルム96の厚み幅である。なお、光学用途に適したセルロースエステルフイルムは、Reが0nm以上10nm以下の範囲にあることが好ましく、Rthは、フイルム96の厚み幅dが50μm以上110μm以下の範囲である場合に、20以上50以下の範囲にあることが好ましい。
[シャークスキン]
A:シャークスキンは発生しなかった。
B:シャークスキンが発生した。
[剥取性]
○:フイルムが破けることはなかった。
×:フイルムは破けてしまった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】第1ドープ製造ラインを示す概略図である。
【図2】第2ドープ製造ラインを示す概略図である。
【図3】フイルム製造ラインを示す概略図である。
【符号の説明】
【0083】
27 ドープ
54 支持体層用ドープ
64 中央層用ドープ
65 外層用ドープ
72 ピンテンタ
73 クリップテンタ
82 冷却ドラム
84 流延膜
85 剥取ローラ
92 湿潤フイルム
94 パスローラ
96 フイルム
【出願人】 【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
【出願日】 平成18年6月26日(2006.6.26)
【代理人】 【識別番号】100075281
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 和憲

【識別番号】100095234
【弁理士】
【氏名又は名称】飯嶋 茂

【識別番号】100117536
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 英了


【公開番号】 特開2008−1074(P2008−1074A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−175650(P2006−175650)