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【発明の名称】 知的材料における形状回復力の制御方法及び知的材料
【発明者】 【氏名】島本 聰

【氏名】山下 恵太郎

【要約】 【課題】複合パネルが曝される低温から高温までの広い環境温度範囲で複合材料などの母材の損傷の抑制、修復を効果的に行うことができる知的材料における形状回復力の制御方法及び知的材料を提供する。

【構成】複合パネルが曝される環境温度を検出し、検出した環境温度に応じてSMA線を通電加熱する知的材料における形状回復力の制御方法及びそれに用いて好適な知的材料。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と、該母材に予ひずみが付加された形状記憶合金(SMA)線を埋め込んでなる複合パネルと、前記SMA線の電気抵抗値を検出する抵抗検出回路と、前記SMA線へ電流を流す電流制御回路とを具備し、前記複合パネルが曝される環境温度を前記抵抗検出回路で検出し、検出した環境温度に応じて前記SMA線を通電加熱することを特徴とする知的材料における形状回復力の制御方法。
【請求項2】
前記複合パネルの使用前に、前記SMA線の電気抵抗の温度特性曲線を予め求めてマスター曲線とし、該マスター曲線と前記SMA線の電気抵抗値とに基づき、前記SMA線の温度を検出するように回路を構成しておき、さらに前記SMA線の温度をオーステナイト相(母相)への変態が終わる逆変態終了温度以上にまで上げるという予備加熱処理を行い、次いで前記複合パネルが曝される環境温度にまで冷却する過程で前記SMA線の温度を検出することを特徴とする請求項1に記載の知的材料における形状回復力の制御方法。
【請求項3】
前記SMA線を通電加熱するに際し、前記SMA線の電気抵抗値の極大点または極小点を求め、前記SMA線の加熱温度及びその相変態の進行状態を判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の知的材料における形状回復力の制御方法。
【請求項4】
前記SMA線を通電加熱するに際し、予めその電力よりも小さい小電力で通電加熱して前記母材を予熱することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の知的材料における形状回復力の制御方法。
【請求項5】
前記複合パネル内のSMA線をアクティブゲージとし、前記複合パネルと同じ条件で製造したパネル内のSMA線をひずみが加わらず、環境温度の変化のみに曝されるレファレンスゲージとしてブリッジ回路を構成し、前記ブリッジ回路からの出力電圧信号の時間変化に基づき、ひずみを検出するひずみセンサ機能を具備してなることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の形状回復力の制御方法に用いる知的材料。
【請求項6】
前記SMA線の予ひずみが0.5〜7%である複合パネルを具備することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の形状回復力の制御方法に用いる知的材料。
【請求項7】
相変態温度が異なった複数種類のSMA線を組み合わせて前記母材に埋設した複合パネルを具備することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の形状回復力の制御方法に用いる知的材料。
【請求項8】
変態するときR相が介在するSMA線を前記母材に埋設した複合パネルを具備することを特徴とする請求項7に記載の形状回復力の制御方法に用いる知的材料。
【請求項9】
前記母材に埋設したSMA線が互いに非接触状態で直角にクロスする格子状構造をもつ複合パネルを具備することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の形状回復力の制御方法に用いる知的材料。
【請求項10】
前記母材に埋設したSMA線が複数ブロックに分かれており、各ブロックのSMA線が独立して電気を流す電流制御回路に接続された複合パネルを具備することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の形状回復力の制御方法に用いる知的材料。
【請求項11】
前記母材に埋設したSMA線と接する外周物質の熱伝導率が0.5W/(m・K)以下でかつその外周の物質の熱伝導率が1.0W/(m・K) 以上である複合パネルを具備することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の形状回復力の制御方法に用いる知的材料。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶合金の収縮・復元力を利用して、複合材料などの母材の損傷の抑制、修復を行うことができる知的材料における形状回復力の制御方法及び知的材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維などの強化材を含有する複合材料の適用が最も望まれているのは宇宙・航空の分野である。この分野における複合材料の環境条件は大変厳しく、温度が低いことが特徴である。航空機の巡航高度は通常、1万mであり、−40℃〜−50℃の低温環境下に複合材料などからなる複合パネルが曝される。このような複合パネルに適用する材料とし、形状記憶合金(Shape Memory Alloy:SMA)を埋め込んだ高機能複合材料が検討されている(非特許文献1)。高機能複合材料は、複合材料に埋設したSMAの収縮・復元力を利用して、複合材料自体(母材という)の損傷の抑制、修復を行うものである。
【0003】
また、複合材料に埋設したSMA線自体に、母材の変形やひずみを検出するひずみセンサ機能と、母材の損傷の抑制、修復を行うアクチュエータ機能の両方を備えている知的材料(スマートマテリアル)の提案もなされている(特許文献1、2)。
特許文献1に記載の知的材料は、プロセッサ(CPU)がSMA線の電気抵抗値を抵抗検出回路で検出し、プロセッサによりひずみによる抵抗値変化を演算し、SMAワイヤの復元力を発生するようにしてなる。さらに好ましくは、無負荷状態のSMAワイヤを別に設けてレファレンスワイヤとし、その抵抗値を測定することで、複合材料に埋設したSMAワイヤの電気抵抗値の温度補償を行うようにしてなる。
【0004】
一方、特許文献2のスマートマテリアルは、図17(a)に示したように、複合材料1に予ひずみが付加されたSMA線2を格子状に埋め込んで複合パネル3を構成し、図17(b)に示した電気回路4とコンピュータ5を具備している。そして複合パネル3の損傷位置を、電気回路4でSMA線の電気抵抗を随時測定し、電気抵抗の時間微分を求め、損傷位置等の判定を行うようにしている。ここで電気回路4は、判定情報に基づき、損傷を検知したSMA線にパルス電流を流し、SMA線の加熱を行うと共に電流を遮断する機能を有する。このような機能を有する知的材料とすることで、周囲温度等の影響を受けることのないスマートマテリアルを構成してなる。
【特許文献1】特開2003−335876号公報
【特許文献2】特開2004−333306号公報
【非特許文献1】島本ほか:「形状記憶TiNiファイバの収縮効果を利用した複合材のき裂閉鎖作用」、日本機械学会論文誌(A),1996,Vol63,No605,pp26〜
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの知的材料は、−40℃〜−50℃の低温環境下で複合パネルを使用することを十分に考慮しているとは言い難く、複合パネルが曝される低温から高温までの広い環境温度範囲で複合材料などを用いた母材の損傷の抑制、修復を効果的に行うことが難しいという問題があった。
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、複合パネルが曝される低温から高温までの広い環境温度範囲で複合材料などを用いた母材の損傷の抑制、修復を効果的に行うことができる知的材料における形状回復力の制御方法、及び知的材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討し、複合パネルが曝される環境温度を精度よく検出し、検出した環境温度に応じて前記母材に埋設したSMA線を通電加熱することで、上記課題を解決できるとの知見に基づき、以下の発明をなした。すなわち、本発明は以下である。
1.母材と、該母材に予ひずみが付加された形状記憶合金(SMA)線を埋め込んでなる複合パネルと、前記SMA線の電気抵抗値を検出する抵抗検出回路と、前記SMA線へ電流を流す電流制御回路とを具備し、前記複合パネルが曝される環境温度を前記抵抗検出回路で検出し、検出した環境温度に応じて前記母材に埋設したSMA線を通電加熱することを特徴とする知的材料における形状回復力の制御方法。
【0007】
2.前記複合パネルの使用前に、前記SMA線の電気抵抗の温度特性曲線を予め求めてマスター曲線とし、該マスター曲線と前記SMA線の電気抵抗値とに基づき、前記SMA線の温度を検出するように回路を構成しておき、さらに前記SMA線の温度をオーステナイト相(母相)への変態が終わる逆変態終了温度以上にまで上げるという予備加熱処理を行い、次いで前記複合パネルが曝される環境温度にまで冷却する過程で前記SMA線の温度を検出することを特徴とする上記1.に記載の知的材料における形状回復力の制御方法。
【0008】
3.前記SMA線を通電加熱するに際し、前記SMA線の電気抵抗値の極大点または極小点を求め、前記SMA線の加熱温度及びその相変態の進行状態を判定することを特徴とする上記1.又は2.に記載の知的材料における形状回復力の制御方法。
4.前記SMA線を通電加熱するに際し、予めその電力よりも小さい小電力で通電加熱して前記母材を予熱することを特徴とする上記1.〜3.のいずれかに記載の知的材料における形状回復力の制御方法。
【0009】
5.前記複合パネル内のSMA線をアクティブゲージとし、前記複合パネルと同じ条件で製造したパネル内のSMA線をひずみが加わらず、環境温度の変化のみに曝されるレファレンスゲージとしてブリッジ回路を構成し、前記ブリッジ回路からの出力電圧信号の時間変化に基づき、ひずみを検出するひずみセンサ機能を具備してなることを特徴とする上記1.〜4.のいずれかに記載の形状回復力の制御方法に用いる知的材料。
【0010】
6.前記SMA線の予ひずみが0.5〜7%である複合パネルを具備することを特徴とする上記1.〜4.のいずれかに記載の形状回復力の制御方法に用いる知的材料。
7.相変態温度が異なった複数種類のSMA線を組み合わせて前記母材に埋設した複合パネルを具備することを特徴とする上記1.〜4.のいずれかに記載の形状回復力の制御方法に用いる知的材料。
【0011】
8.変態するときR相が介在するSMA線を前記母材に埋設した複合パネルを具備することを特徴とする上記7.に記載の形状回復力の制御方法に用いる知的材料。
9.前記母材に埋設したSMA線が互いに非接触状態で直角にクロスする格子状構造をもつ複合パネルを具備することを特徴とする上記1.〜4.のいずれかに記載の形状回復力の制御方法に用いる知的材料。
【0012】
10.前記母材に埋設したSMA線が複数ブロックに分かれており、各ブロックのSMA線が独立して電気を流す電流制御回路に接続された複合パネルを具備することを特徴とする上記1.〜4.のいずれかに記載の形状回復力の制御方法に用いる知的材料。
11.前記母材に埋設したSMA線と接する外周物質の熱伝導率が0.5W/(m・K)以下でかつその外周の物質の熱伝導率が1.0W/(m・K) 以上である複合パネルを具備することを特徴とする上記1.〜4.のいずれかに記載の形状回復力の制御方法に用いる知的材料。
【発明の効果】
【0013】
本発明の知的材料における形状回復力の制御方法によれば、複合パネルが曝される低温から高温までの広い環境温度範囲で複合材料などの母材の損傷の抑制、修復を効果的に行うことができる。それを実現するため、複合パネルの使用前に、SMA線の電気抵抗の温度変化特性を正確に測定することで、複合パネルが曝されている環境温度を精度よく検出するようにした。
【0014】
なお、母材に埋設したSMA線の変態は通電加熱によって引き起こされる。SMA線が逆変態完了温度Afを超えて加熱され、マルテンサイト相からオーステナイト相へと変態する。このときに、マルテンサイト相で与えられていた塑性変形(予ひずみに相当)が除かれ、逆変態完了温度Afよりも高い形状記憶処理温度で形状記憶処理された元の形状に戻る。その際にSMA線に生じる収縮・復元力を知的材料が利用している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を試験結果に基づいて詳細に説明する。図1に知的材料の試験のために構成した試験装置を示した。この知的材料の試験装置は、母材1に予ひずみが付加されたSMA線2を埋め込んでなる複合パネル3(以下、試験片ともいう)と、SMA線2の電気抵抗値を検出する抵抗検出回路と、SMA線2へ電流を流す電流制御回路とを具備し、試験時に母材に埋設したSMA線2を通電加熱することができるようになっている。この電気回路4は、抵抗検出回路と電流制御回路などを含み、抵抗検出回路でSMA線の電気抵抗値を随時測定し、試験片3が曝される環境温度などを温度情報としてコンピュータ5へ送ることができる。また母材1に埋設した複数本のSMA線2は、本例では並列接続しているが、直列接続とすることもできる。
【0016】
なお、試験片3が曝される環境温度の影響を調べるために、SMA線2を通電加熱するのに先立ち、−40℃〜−50℃の低温から常温以上の高温までの所定の環境温度に雰囲気を設定可能な恒温室(図示せず)に試験片3を入れた後、試験片3全体が設定した環境温度に対し、温度差=±1℃以内となるまで保持した。
(試験条件)
SMA線の予ひずみ=6%、SMA線の直径=0.4mm、試験片3の幅方向に並べたSMA線の数=7本、間隔=2.5mm、SMA線の埋設位置:試験片3の厚さ方向中央(図1参照)。試験片3の形状:巾20mm、長さ130mm、厚さ5mm。
【0017】
ただし、この知的材料の試験では、母材1としてポリカーボネイト樹脂を用い、図1に示したように、試験片3は直方体としたが、構造物や航空機の部材として適用する際には、それに合わせて、例えば炭素繊維強化複合材料(CFRP)などを母材1として用い、SMA線2を各種形状にして母材1に埋め込んでなる複合パネル3とする。なお、試験片3としては、AタイプのSMA線を埋設したものと、BタイプのSMA線を埋設したものをそれぞれ作成し、知的材料の試験に供した。
用いたAタイプ、BタイプのTiNi合金のSMA線の組成と相変態温度を表1に示す。
【0018】
【表1】


【0019】
Aタイプのものは、通電加熱した時の逆変態開始温度Asが39.0℃であり、一方Bタイプのものはそれが4.4℃と低い。このため、Bタイプのものを母材に埋め込んでなる試験片はAタイプのものを用いた試験片に比べて、低い環境温度下で母材の損傷の抑制、修復の効果を発揮できるという特徴がある。また、Aタイプのものは中間相(R相)が介在するので、後述するように、SMA線の電気抵抗の温度変化特性に大きいヒステリシスがあるが、BタイプのものはR相が介在しないので、ヒステリシスがないという特徴がある。
【0020】
(試験結果)
図2は、母材に埋設したAタイプのSMA線に電流を流した後、電流を遮断することを繰り返し行った場合の時間と試験片の変位の関係を、環境温度を3種類変えて調べた結果である。SMA線に2.5Aの直流電流を5秒間流して通電加熱し、その後電流を5秒間遮断した。その結果、いずれの環境温度においても、通電と遮断の繰り返しに伴い、試験片が熱膨張し試験片の変位が増加している。ただし、試験片を曝している環境温度が低いT=−40℃の場合、通電加熱の初期段階ではSMA線で生じたジュール発熱が試験片に奪われてしまい、収縮が見られない。これはSMA線の温度が逆変態温度:Afに至らず、SMA線に形状回復が起こっていないからである。このことから、−40℃〜−50℃の低温環境下で試験片3を使用する場合には、この通電加熱条件では母材の損傷の抑制、修復を行うのに不十分であることがわかる。これに対して試験片を曝している環境温度がT=20、80℃と高い場合、通電加熱の初期段階からオーステナイト相(母相)への逆変態が進行するため、SMA線の回復力によって試験片の収縮が生じている。その回復力が複合材料などの母材の損傷の抑制、修復に利用される。したがって、広い環境温度範囲で使用できる知的材料を実現するためには、複合パネルが曝される環境温度に応じて、SMA線を通電加熱する必要がある。
【0021】
次いで、試験片が曝される環境温度を種々変化させ、SMA線に流す直流電流の通電時間を5秒としたときの環境温度と試験片の収縮量との関係を調べ、図3(a)、(b)に示した。この結果から、SMA線に流す電流条件を一定とした場合、環境温度が逆変態開始温度Asよりも低くなるほど、試験片の収縮量が小さくなっている。このことから、試験片3を低温環境下で使用する場合、環境温度が逆変態開始温度Asよりも低くなるほど、オーステナイト相(母相)への逆変態を進行させ、所定の収縮量を得るには、SMA線に流す電流を増加させて発熱量を増やす必要があることがわかる。一方、SMA線に流す電流条件を一定とした場合、環境温度がオーステナイト相(母相)への変態が終わる逆変態終了温度Afよりも高いほど、試験片の収縮量が小さくなっていることがわかる。これはSMA線を通電加熱する前から環境温度によって、SMA線のオーステナイト相(母相)へ逆変態が進行するためである。これから、広い環境温度範囲で使用できる知的材料を実現するためには、複合パネルが曝される環境温度を精度よく検出し、検出した環境温度に応じてSMA線を通電加熱する必要があることが判明した。
【0022】
ここで、−40℃〜−50℃の低温環境下で複合パネル(上記試験片3に相当)を使用する場合、複合パネルの使用前に、SMA線の電気抵抗の温度特性曲線を予め求めてマスター曲線とし、該マスター曲線とSMA線の電気抵抗値とに基づき、SMA線の温度を検出するように回路を構成しておき、複合パネルの使用時にSMA線の温度を検出する。さらに後述するが、AタイプのSMA線を母材に埋設して複合パネルを製作した場合には、SMA線の温度をオーステナイト相(母相)への変態が終わる逆変態終了温度以上にまで上げるという予備加熱処理を行い、次いで前記複合パネルが曝される環境温度にまで冷却する過程でSMA線の温度を検出する必要がある。
【0023】
なお、SMA線の温度を精度よく検出するために必要なマスター曲線を作成する場合、実際の航空機や構造物の複合パネルで実施しなくても、それと同じ条件で作成した試験片、あるいは実際の複合パネルを縮小した小型試験パネルで代用してもよい。
上述したA、BタイプのSMA線の電気抵抗の温度特性を調べ、その結果を図4、図5に示した。
【0024】
R相が介在するAタイプのものは、図4のように、加熱時と冷却時で大きなヒステリシスがある。一方、中間R相を有しないBタイプのものは、図5のように、電気抵抗の温度特性が非線形であるがヒステリシスがない。したがって、BタイプのSMA線を用いた場合、複合パネル(試験片3に相当)の使用前に、SMA線の温度をオーステナイト相(母相)への変態が終わる逆変態終了温度以上にまで上げるという予備加熱処理を行い、SMA線を母材に埋設して複合パネルを製造した以降にSMA線が受けた温度履歴を消し去る必要はない。このような予備加熱処理を行わずとも、−40℃〜−50℃以下の低温から常温以上の高温までの広い環境温度に雰囲気を設定可能な恒温室に試験片を入れてゆっくりとした温度変化状態で、試験片の温度とSMA線の電気抵抗値を測定する試験を行えば、図5のようなBタイプのSMA線に特有の電気抵抗の温度特性曲線が正確に作成できる。
【0025】
一方、大きいヒステリシスを有するAタイプのものでも、コイルバネ状のアクチュエータなどに多用されていることから、AタイプのSMA線を母材に埋設して複合パネルを製作した場合、複合パネルの使用前に、AタイプのSMA線に特有の電気抵抗の温度特性曲線を正確に作成しておく。そして更に、AタイプのSMA線を母材に埋設して複合パネルを作成した場合には、航空機や構造物の複合パネルを使用する前に、複合パネル内のSMA線の温度をオーステナイト相(母相)への変態が終わる逆変態終了温度以上にまで上げるという予備加熱処理を行い、次いで複合パネルが曝される環境温度にまで冷却する過程でSMA線の温度を検出する必要がある。この理由は、AタイプのSMA線は大きいヒステリシスを有するので、AタイプのSMA線を母材に埋設して複合パネルを製造した以降にSMA線が受けた温度履歴を予備加熱処理で消し去る必要があるからで、この予備加熱処理を行わないと、複合パネルが曝される環境温度が精度よく検出できなくなる。
【0026】
図4で具体的に示せば、AタイプのSMA線を母材に埋設してなる複合パネルの場合、予備加熱処理を行い、次いで複合パネルが曝される環境温度にまで冷却する過程でA点−E点(極小点)−B点(最大点)−C点で表したマスター曲線に沿ってSMA線の温度が検出される。したがって、複合パネルが曝される環境温度が精度よく検出できる。
その後、通電加熱する過程でC点−D点(極大点)−E点(極小点)−A点で表したマスター曲線に沿ってSMA線の温度が検出される。したがって、通電加熱する過程でSMA線の加熱温度が精度よく検出できる。その際、SMA線を通電加熱するに際し、SMA線の電気抵抗値の極大点または極小点を求め、SMA線の加熱温度及びその相変態の進行状態を判定するようにすれば、SMA線の加熱温度及びその相変態の進行が極大点または極小点を超えているのか否か判定することができる。
【0027】
なお、SMA線の温度をマスター曲線と抵抗検出回路で検出した電気抵抗値に基づき、検出するという絶対値法でなくとも、逆変態終了後のほぼ一定の電気抵抗値Aと、最大の電気抵抗値Bとの比A/Bで標準化した標準化法で、SMA線の温度を検出することも可能である。
図6には、母材にSMA線を埋め込んだ以降にSMA線が受けた温度履歴によって、破線で示すSMA線の電気抵抗の温度変化曲線が測定されてしまうため、SMA線の電気抵抗値が6オームと測定されたとき、異なる環境温度(α、β、γ、δなど)が検出されて、複合パネルが曝されている環境温度を一義的に得ることが出来ないことを示した。
【0028】
図7には、環境温度T=−22℃とし、AタイプのSMA線に流す電流を3種類(通電電流×通電時間:2.0A×90秒、2.5A×60秒、3.0A×30秒)に変えて通電加熱し、その後電流を遮断し、SMA線の電気抵抗の時間変化を調べた結果を示した。この通電加熱条件としてやれば、前記した予備加熱処理を行うことが出来、その後冷却過程でSMA線の電気抵抗値が、通電条件に関係なくほぼ一本に重なり、冷却の進行とともに上昇して最大値に到達した後、最終的に環境温度T=−22℃に対応する電気抵抗値に低下する。なお、通電加熱時には、R相の変態によって極大値が明確に現れる。また図8には、50℃から−22.5℃範囲で4種類に環境温度を変え、同様な通電加熱条件で前記した予備加熱処理を行った後、冷却過程でSMA線の電気抵抗の時間変化を示した。冷却過程でのSMA線の電気抵抗値は、通電加熱条件の相違によらず、環境温度に対応した値になっている。図9には、Bタイプのものを用いた複合パネルにおけるSMA線の電気抵抗値の時間変化を示した。Bタイプのものはヒステリシスがないため、複合パネルの使用前に、前述した予備加熱処理を行う必要がない。
【0029】
図10には、6%の予ひずみを付与したAタイプのSMA線を空気中に曝し、それに通電したときのSMA線の復元力と電気抵抗値の時間変化を示した。ポリカーボネイト樹脂にSMA線を埋設した場合と異なり、複合パネルが曝される環境温度が−55℃と低いとき、SMA線に最も大きな復元力が発生していることがわかる。またSMA線の電気抵抗値の変化と復元力の変化とは良好な対応関係があり、R相変態が終了した後の電気抵抗値の極小点で復元力が最大となることが確認できる。すなわち、SMA線の電気抵抗値の温度変化を測定した後、電気抵抗値の極大点または極小点を求め、通電加熱時、SMA線の電気抵抗を追跡することで、オーステナイト相(母相)への変態の進行状況と、これに対応した復元力の発生状況をモニタリングできる。
【0030】
図11、図12には、同じAタイプのSMA線を母材に埋め込んでなる試験片3を、T=23℃とT=−40℃の環境温度に曝し、2.5Aの電流を60秒間通電し、その後遮断することを2回繰り返したときの試験片3の変位と、その表面温度の時間変化を示した。試験片3には環境温度T=23℃の場合、一回目の通電開始直後に回復力の発生による収縮(*印付き矢印箇所)が起こり、この収縮は通電中持続され、通電を遮断すると消滅するため、その直後に急激な膨張が現れる。一方、環境温度T=−40℃と低い場合、1回目の通電開始直後に試験片3に収縮が現れず、回復力が発生していないが、通電途中で回復力が発生する(*印付き矢印箇所)。これによって変位の勾配が減少し、次いで通電を遮断すると、形状回復力が消滅するので、その直後に膨張が現れる。
【0031】
すなわち、SMA線を通電加熱した直後に、試験片3に収縮が現れないほど環境温度が低い場合、その電力よりも小さい小電力で予めSMA線を通電加熱して母材を予熱することで、SMA線に回復力を迅速に発生できることが示されている。
次いで、知的材料として具備して好適なひずみセンサ機能を説明する。母材に加わるひずみを検出するひずみセンサ機能は以下のように構成する。前述した母材にSMA線を埋め込んでなる試験片を2個を用い、一方の試験片内のSMA線はひずみと環境温度の変化の両方が加わるアクティブゲージとし、他方の試験片内のSMA線は、ひずみが加わらず、環境温度の変化のみに曝されるレファレンスゲージとしてなるブリッジ回路を構成する。SMA線はAタイプのものを用い、環境温度を常温とし、アクティブゲージとした一方の試験片の長さ方向に5MPaの応力を負荷した。一方の試験片に応力を負荷する際の負荷方向は、SMA線2の伸びる方向、すなわち一方の試験片の長さ方向とした。そのときのブリッジ回路の出力電圧を記録し、結果を図13に示す。これから、知的材料に生じるひずみの検出が十分なS/N比で出来ることがわかる。また−40℃以下の低温環境下から80℃までの高温環境下に曝し、同様な応力を負荷したときの出力電圧を記録し、その結果を図14に示した。図15には、BタイプのSMA線を母材に埋め込んだ試験片を2個用い、それ以外は、Aタイプのものを用いた場合と同様にしてひずみセンサ機能の試験を行った結果を示した。
【0032】
このような母材に加わるひずみを検出するひずみセンサ機能を具備した場合には、低温から高温までの広い環境温度範囲でSMA線を埋め込んだ試験片に生じるひずみの変化を、ブリッジ回路の出力電圧の変化として検出可能であることがわかる。図中:*印がアクティブゲージとした一方の試験片に5MPaの応力を負荷した箇所である。この場合、2個の試験片が環境温度の変化に曝されることで、生じるブリッジ回路の出力電圧の変動巾が、ひずみセンサ機能で生じるひずみ検出信号よりも大きくなってしまうが、一般に構造物や航空機などに用いる複合パネルは大きな熱容量を持っている。そこで、複合パネルが曝される環境温度の変化が急激に起こった場合でも、複合パネルの温度変化に時間がかかることを利用し、たとえば10秒ごとに、ブリッジ回路の出力電圧をサンプリングし、所定の評価時間と、その前後における比較時間とで出力電圧の差を比較し、出力電圧の差がある許容レベルを超えたときに、SMA線へ電流を制御して流す電流制御回路を具備した制御システムを構成することができる。
【0033】
図16には、前記ブリッジ回路を具備した制御システムの構成例を示した。この制御システムは、温度センサシステム6と、ブリッジ回路を具備したひずみセンサシステム7と、コントローラ8と電流制御回路9とを具備している。前記した温度センサシステム6は、SMA線の電気抵抗の温度変化特性曲線に基づき(例えば図4、図5参照)、複合パネルが曝される環境温度を精度よく検出できるようになっている。この制御システムを具備した知的材料の動作は次のようである。
【0034】
まず、ひずみセンサシステム7を利用して、SMA線の電気抵抗値の変化をモニタリングし、その検出信号をコントローラ8に送る。コントローラ8では、複合パネルが曝される環境温度の変化による不平衡電圧部分を除去し、あらかじめ設定した許容レベル値と比較する。そこで母材のひずみが許容レベル値を超え、母材の損傷の抑制、修復を行う必要があると判断した場合に、温度センサシステム6から送られる環境温度の情報に基づいて、SMA線へ流す電流値と通電時間を電流制御回路9に送信する。この送信情報に基づき、電流制御回路9がSMA線へ流す電流を制御する。この結果、複合パネルが曝される環境温度が低温であっても、低温から高温までの広い環境温度範囲でSMA線に十分な回復力を発生させることができ、母材の損傷の抑制、修復を効果的に行うことができる。
【0035】
なお、温度センサシステム6に具部するブリッジ回路は、ストレンゲージの場合と同様に、レファレンスゲージを用いずに2ゲージ法や4ゲージ法などを適用できる。
以下、好適な知的材料の構成について述べる。
SMA線の予ひずみを0.5〜7%とした複合パネルを具備することが好適である。SMA線の予ひずみが0.5%以下では、母材の損傷の抑制、修復を行うのに十分な収縮・復元力を得られず、7%以上では永久塑性変形が増して母材の損傷の抑制、修復を行う収縮・復元力の繰り返し特性が低下する。SMA線の予ひずみを6%として母材に埋め込んでなる複合パネルが普通、最大の回復力が得られる。相変態温度が異なった複数種類のSMA線を組み合わせて母材に埋設した複合パネルを具備することも好適である。この場合、通電加熱したときの回復力が異なる逆変態温度(As,Af)域で最大となるので、回復力の発生温度域を拡大でき、複合パネルが曝される低温から高温までの広い環境温度範囲で母材の損傷の抑制、修復を効果的に行うことができる。またさらに変態するときR相が介在するSMA線を母材に埋設した複合パネルを具備することで、R相変態部の電気抵抗の極大点を利用して、低温環境での逆変態の完了及び複合パネルが曝される環境温度を精度よく検出することが出来る知的材料を実現できる。SMA線が互いに非接触状態で直角にクロスする格子状構造をもつ複合パネルを具備することも、低温から高温までの広い環境温度範囲で母材の損傷の抑制、修復を効果的にかつ高精度に行うことが出来る知的材料を実現できる。
【0036】
SMA線が複数ブロックに分かれており、各ブロックのSMA線が独立して電気を流す電流制御回路に接続された複合パネルを具備することでも、ブロックごとに通電加熱することができ、母材の損傷の抑制、修復を効果的にかつ高精度に行うことが出来る知的材料を実現できる。またSMA線と接する外周物質の熱伝導率が0.5W/(m・K)以下でかつその外周の物質の熱伝導率が1.0W/(m・K) 以上である複合パネルを具備することも好適である。
【0037】
このような知的材料によれば、SMA線に電気を流して通電加熱した後、遮断する制御を繰り返し行うに際し、通電加熱時に母材の損傷の抑制・修復を迅速に行うことと、短時間で加熱前の状態に冷却することを両立できる。SMA線と接する外周物質としては、ポリカーボネイト、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコン樹脂、フェノール樹脂などが好適である。その外周の高熱伝導材料としては、アルミニウム合金やステンレス合金の繊維などを強化材として含有する複合材料や炭素繊維強化複合材料(CFRP)などが好適である。なお、炭素繊維強化複合材料(CFRP)を母材1として用いる場合、電流がCFRP中を流れることを防止するため、SMA線の表面に電気絶縁処理を行うことが一般的である。SMA線を取り囲む外周物質の厚みは、低温から高温までの広い環境温度範囲で母材の損傷の抑制、修復を効果的にかつ高精度に行うことが出来るよう適宜設定できる。
【0038】
以上説明した、母材1にSMA線2を埋め込んでなる複合パネル3は、ホットプレスなどを用いて加熱しつつ加圧して製造してもよいし、オートクレーブ中で真空として製造してもよい。なお、製造工程中、必要とされる加熱はSMA線2を通電加熱することで行うことができる。母材1としては、ポリカーボネイトやエポキシなどのエンジニアリングプラスチックス材料や、エンジニアリングプラスチックス材料にガラスや炭素繊維などを含有させなるFRP(Fiber Reinforced Plastics)を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】知的材料の試験装置の構成例を示す斜視図である。
【図2】通電と遮断を繰り返したときの試験片の変位例を示す特性図である。
【図3】試験片が曝される環境温度と試験片の収縮量との関係の一例を示す特性図である。
【図4】SMA線の電気抵抗の温度変化例を示す特性図である。
【図5】他のSMA線の電気抵抗の温度変化例を示す特性図である。
【図6】SMA線の電気抵抗の温度履歴による温度変化例を示す特性図である。
【図7】通電加熱時及び冷却時のSMA線の電気抵抗の時間変化例を示す特性図である。
【図8】冷却時のSMA線の電気抵抗の時間変化例を示す特性図である。
【図9】冷却時のSMA線の電気抵抗の時間変化例を示す特性図である。
【図10】通電加熱時のSMA線の電気抵抗値と復元力の変化例を示す特性図である。
【図11】通電加熱時の試験片の変位と表面温度との対応関係の一例を示す特性図である。
【図12】通電加熱時の試験片の変位と表面温度との対応関係の他の例を示す特性図である。
【図13】応力負荷時の出力電圧の一例を示す特性図である。
【図14】試験片が曝される環境温度が変化した場合の出力電圧の一例を示す特性図である。
【図15】試験片が曝される環境温度が変化した場合の出力電圧の他の例を示す特性図である。
【図16】知的材料に具備して好適な形状回復力制御システムの説明図である。
【図17】従来例の知的材料の構成とそれを用いた実験装置の説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1 母材
2 形状記憶合金線(SMA線)
3 複合パネル(試験片)
4 電気回路
5 コンピュータ
6 温度センサシステム
7 ひずみセンサシステム
8 コントローラ
9 電流制御回路
【出願人】 【識別番号】301000907
【氏名又は名称】島本 聰
【出願日】 平成18年7月31日(2006.7.31)
【代理人】 【識別番号】100099531
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 英一


【公開番号】 特開2008−30351(P2008−30351A)
【公開日】 平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願番号】 特願2006−207695(P2006−207695)