トップ :: B 処理操作 運輸 :: B27 木材または類似の材料の加工または保存;釘打ち機またはステ−プル打ち機一般

【発明の名称】 木材の加工方法、木材の加工装置及びこれを用いた加工木材
【発明者】 【氏名】西岡 守

【要約】 【課題】木材の表面を摩擦及び加圧して圧密化層を形成することにより木屑を発生せずして木材の表面改質ができ、また加工領域を制御することで所望の領域のみに表面改質を施すことが可能な木材の加工方法を提供することにある。

【解決手段】木材1との接触領域が、木材1の表面改質の加工を施す加工面4より小さい先端部2aを有し、かつ表面改質の加工領域5内において自在に移動可能な加工工具2を回転させながら、加工工具2の先端部2aを木材1の加工面4に所定の深さだけ押し込み、さらに加工工具2を加工領域5内で制御可能に移動させる。これにより木材1の加工面4において、加工工具2の回転及び押圧による摩擦熱と圧力とでもって加工工具2の走査領域に圧密化層が形成され表面改質される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材(1)の表面を圧密化させることで木材の表面改質を可能とする木材の加工方法であって、
前記木材(1)との接触領域が、前記木材(1)の表面改質の加工を施す加工面(4)より小さい先端部(2a)を有し、かつ表面改質の加工領域(5)内において自在に移動可能な加工工具(2)を回転させながら、前記加工工具(2)の先端部(2a)を前記木材(1)の加工面(4)に所定の深さだけ押し込む回転押圧工程と、
さらに、前記加工工具(2)を前記加工領域(5)内で移動させる走査工程と、
を備えており、
前記木材(1)の加工面(4)において、前記加工工具(2)の回転及び押圧による摩擦熱と圧力とでもって前記加工工具(2)の走査領域に圧密化層を形成し、
前記加工工具(2)の走査領域を制御することにより、前記木材(1)の所望の領域において表面改質が可能であることを特徴とする木材の加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の木材の加工方法であって、
さらに、前記回転押圧工程と前記走査工程とを複数回繰り返すことを特徴とする木材の加工方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の木材の加工方法であって、
前記木材(1)が5%〜18%の水分を含有する杉材であることを特徴とする木材の加工方法。
【請求項4】
木材(1)の表面を圧密化させることで木材の表面改質を可能とする木材の加工装置であって、
前記木材(1)と接触可能であって、前記接触領域が前記木材(1)の表面改質の加工を施す加工面(4)より小さい先端部(2a)を有する加工工具(2)と、
前記加工工具(2)を脱着可能に連結し、前記加工工具(2)を回転させ、かつ前記先端部(2a)と前記木材(1)の加工面(4)とが接近する方向に、前記加工工具(2)を前記加工面(4)に押圧可能にし、かつ前記加工工具(2)を前記木材(1)の加工領域(5)内において自在に移動でき、かつ移動量を制御可能とする回転押圧駆動体(3)と、
を備えることを特徴とする木材の加工装置。
【請求項5】
請求項4に記載の木材の加工装置であって、
前記加工工具(2)の回転数が1100rpm以上であることを特徴とする木材の加工装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の木材の加工装置であって、
前記加工工具(2)が前記木材(1)の加工面(4)を0.5mm以上押圧可能であることを特徴とする木材の加工装置。
【請求項7】
請求項4乃至6に記載の木材の加工装置であって、
前記加工工具(2)を回転させ、かつ前記木材(1)の加工面(4)を押圧することにより、前記木材(1)の加工面(4)の表面温度を60℃以上とできることを特徴とする木材の加工装置。
【請求項8】
請求項4乃至7に記載の木材の加工装置であって、
前記加工工具(2)における少なくとも先端部(2a)がセラミックス製であることを特徴とする木材の加工装置。
【請求項9】
木材(1)の表面を圧密化して表面改質された加工木材であって、
前記木材(1)の表面改質された加工領域(5)は、前記木材(1)の表面改質の加工を施す加工面(4)の少なくとも一部であり、
請求項4乃至8に記載の木材の加工装置によって表面改質されてなることを特徴とする加工木材。
【請求項10】
請求項9に記載の加工木材であって、
表面改質された前記木材(1)の加工領域(5)は、前記木材(1)の厚さ方向において0.5mm以上圧縮されてなることを特徴とする加工木材。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の加工木材であって、
表面改質された前記木材(1)の加工領域(5)のブリネル硬さは1.0kgf/mm以上であることを特徴とする加工木材。
【請求項12】
請求項9乃至11に記載の加工木材であって、
表面改質された前記木材(1)の加工領域(5)の光沢度が15以上であることを特徴とする加工木材。
【請求項13】
請求項9乃至12に記載の加工木材であって、
表面改質された前記木材(1)の加工領域(5)に、1mm以上2mm以下の圧密化層が形成されてなることを特徴とする加工木材。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、木材の加工方法、木材の加工装置及びこれを用いた加工木材に関するものであって、詳しくは低密度の木材を高密度の木材とできる木材の改質処理に関するものである。
【背景技術】
【0002】
杉は構成要素の約97%が仮道管で構成されているため軽量であり、また質量あたりの強度が高い材料である。さらにほぼ密閉された微小な空気、空隙の存在により断熱性、絶縁性、防音性などに優れている。加えて独特な木目の美しさにも魅力がある上、木材に含まれるリグニンという成分は眼に有害な紫外線を吸収する作用があることから、人間との親和性が高く、家具材や内装材等の人目に触れる場所に使用するのに適している。一方で杉材は柔らかく吸水性が高いため狂いが生じやすい特性を有しており、これにより利用用途が限定される。
【0003】
したがって杉材の硬度を高めようと、例えば杉材表面を圧縮して密度を高めその圧密状態のまま固定するといった木材の改質方法が開発されている。一般に木材の圧密化による改質処理法としては、プレスやローラー圧延による木材の圧縮が挙げられる。プレスの一例としては、図31に示すように少なくとも木材の長さと同長である金型102に木材101を狭着させ、さらにプレス機103でもって金型102を押圧する。これにより木材101が金型102に合致した形状に圧密化成型される。また、特許文献1に開示されるローラ圧延方式を図32に示す。この圧延機201は、径の異なる圧延ロール202、203を上下に有する。この圧延ロール202、203の離間距離は、挿通される木材204の上下厚さ寸法より小さく設定されており、この圧延ロール202、203間に木材204を押し込むことで木材204は圧延される。
【特許文献1】特開2001−310305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記いずれの場合も圧縮しようとする木材の長手方向における長さと同じかそれ以上のプレスの金型、または少なくとも木材の幅と同サイズの圧延ロールを用意する必要があり、装置の設置面積を広く必要とする。その上、材料全体にひとつの均質な圧密化層が得られるのみであり、部材としての利用の選択幅が制限される。また、必要以上の圧縮は無垢材の長所を失うばかりでなく、材料が減肉し材料費が余分にかかることになる。加えて部分的な圧密化や種々の圧密化層を形成することは困難であるため、使用条件に適した材料としての制御された圧密化層の形成は不可能である。特に建具や家具等にあっては意匠性の要求が高まっており、硬さに加えて、緻密で装飾性に優れた模様や光沢性を有する木材の加工が必要とされる。通常、意匠性を高める場合、例えば刃物等で木材の表面を彫り刻むことで木材を立体的に加工できるが、この場合だと木屑が発生して作業環境の悪化を招く。あるいは燃焼による木屑の処理が環境汚染やコスト高につながる。
【0005】
本発明は、このような実情を鑑みてなされたものである。本発明の主な目的は、木屑を発生させずに木材の所望の領域のみを部分的に圧密化可能な木材の加工方法、木材の加工装置及びこれを用いた加工木材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の木材の加工方法は、木材1の表面を圧密化させることで木材の表面改質を可能とする木材の加工方法であって、木材1との接触領域が、木材1の表面改質の加工を施す加工面4より小さい先端部2aを有し、かつ表面改質の加工領域5内において自在に移動可能な加工工具2を回転させながら、加工工具2の先端部2aを木材1の加工面4に所定の深さだけ押し込む回転押圧工程と、さらに、加工工具2を加工領域5内で移動させる走査工程と、を備えており、木材1の加工面4において、加工工具2の回転及び押圧による摩擦熱と圧力とでもって加工工具2の走査領域に圧密化層を形成し、加工工具2の走査領域を制御することにより、木材1の所望の領域において表面改質が可能であることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の第2の木材の加工方法は、さらに、回転押圧工程と走査工程とを複数回繰り返すことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の第3の木材の加工方法は、木材1が5%〜18%の水分を含有する杉材であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の第4の木材の加工装置は、木材1と接触可能であって、接触領域が木材1の表面改質の加工を施す加工面4より小さい先端部2aを有する加工工具2と、加工工具2を脱着可能に連結し、加工工具2を回転させ、かつ先端部2aと木材1の加工面4とが接近する方向に、加工工具2を加工面4に押圧可能にし、かつ加工工具2を木材1の加工領域5内において自在に移動でき、かつ移動量を制御可能とする回転押圧駆動体3と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の第5の木材の加工装置は、加工工具2の回転数が1100rpm以上であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第6の木材の加工装置は、加工工具2が木材1の加工面4を0.5mm以上押圧可能であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の第7の木材の加工装置は、加工工具2を回転させ、かつ木材1の加工面4を押圧することにより、木材1の加工面4の表面温度を60℃以上とできることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の第8の木材の加工装置は、加工工具2における少なくとも先端部2aがセラミックス製であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第9の加工木材は、木材1の表面を圧密化して表面改質された加工木材であって、木材1の表面改質された加工領域5は、木材1の表面改質の加工を施す加工面の少なくとも一部であり、本発明の第4乃至第8発明の木材の加工装置によって表面改質されてなることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第10の加工木材は、表面改質された木材1の加工領域5が、木材1の厚さ方向において0.5mm以上圧縮されてなることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第11の加工木材は、表面改質された木材1の加工領域5のブリネル硬さは1.0kgf/mm以上であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の第12の加工木材は、表面改質された木材1の加工領域5の光沢度が15以上であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の第13の加工木材は、表面改質された木材1の加工領域5に、1mm以上2mm以下の圧密化層が形成されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の木材の加工方法、木材の加工装置及びこれを用いた加工木材によれば、低密度の木材を強度及び意匠性に優れた木材とでき、木材の利用用途を拡大することができる。
【0020】
第1発明における摩擦熱圧による表面改質方法は、加工工具の先端を回転させながら木材に押し込んだ状態で移動させ、摩擦熱と圧力で表面改質を行うものである。この方法は加工箇所、工具の回転数、送り速度、押し込み深さ、工具の形状、工具の材質、添加助剤の種類など複数の変化因子を有する。これらの制御によって、杉材の片側表面のみに薄い圧密化層を選択的に形成することができ、圧密化層の深さや表面の状態を所定の範囲に所定量付与することが可能である。これによって、無垢の木材が本来持っている断熱性や防音性といった有用な性能を保持し得る表面圧密化材を生産することができる。また、この様な特徴を有しながら尚かつ木屑を発生させない表面の加工ができる。
【0021】
第2発明の木材の加工方法によれば、加工工具の押し込み量を、目的の圧密化層の厚さよりも小さくし、かつ複数回にわたって回転押圧工程及び走査工程を繰り返すことにより、圧密層を目的の厚みとすることで、意匠性及び硬度に優れた加工表面を有する木材とできる。
【0022】
第3発明の木材の加工方法によれば、木材の成分が軟化しやすくなり、木材の再形成が容易となる。これにより形状安定化した木材を得られる。
【0023】
第4乃至第8発明の木材の加工装置によれば、木材の不均質な組織の内、密度の小さい組織を圧密化させ密度を上昇させることで木材の材質を均質化させることができる。加えて木材の表面の密度を高くすることで、表面の耐摩耗性の向上と水分保持能力の低減により割れ及び反りの原因となる収縮を抑止でき、形状が安定化する。
【0024】
特に第5発明の木材の加工装置によれば、木材の表面と加工工具との摩擦熱圧により加工面における表面温度を所定の温度まで上昇させることができる。これにより木材を軟化させ、光沢及び硬度の高い木材へと再形成しやすくする効果を奏する。
【0025】
また、第8発明の木材の加工装置によれば、木材における加工工具の摩擦及び押圧による磨耗を抑止できる。これにより木材の加工面に加工工具の一部が付着し汚染するのを抑制でき、光沢の低減を防止できる。また加工工具の材質をセラミックスとすることで摩擦熱を発生しやすくできる効果を奏する。
【0026】
第9乃至第13発明の加工木材によれば、硬度や意匠性に優れた木材となり、利用用途が拡大する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための、木材の加工方法、木材の加工装置及びこれを用いた加工木材を例示するものであって、本発明は、木材の加工方法、木材の加工装置及びこれを用いた加工木材を以下のものに特定しない。さらに、本明細書は、特許請求の範囲を理解しやすいように、実施例に示される部材に対応する番号を、「特許請求の範囲」、及び「課題を解決するための手段の欄」に示される部材に付記している。ただ、特許請求の範囲に示される部材を、実施例の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0028】
本実施の形態に係る木材の加工方法を図1を用いて説明する。図1に係る木材の表面改質方法は、先端が半球状の加工工具2を回転させながら木材1に押し込む回転押圧工程と、さらに、この状態から加工工具2を移動させる走査工程とを有しており、木材1の表面における加工工具2の摩擦熱と圧力とでもって木材1の表面改質を行うものである。実施の形態では加工を施す木材1として杉を使用した。ただ、木材は杉に限定されず種々のものが利用できる。以下に加工工具及び加工方法を説明する。
【0029】
(加工工具)
加工工具2は回転押圧駆動体3に脱着可能に取り付けられ、回転押圧駆動体3の回転に連動して回転する。回転押圧駆動体3を駆動する媒体は特に限定しないが、本実施の形態ではNCフライス盤(図示せず)を用いた。NCフライス盤のNC(数値制御)装置により加工工具2の回転数、圧密化させる木材1への押し込み深さ、加工工具2を移動させる送り速度等を精密に制御でき、さらに加工形状をプログラミングすることも可能であるため、多彩な加工パターンを施せる。本実施の形態で使用したNCフライス盤の仕様は、浜井産業株式会社製のラム型精密立フライス盤MAC−85Nであって、本体重量は4200kg、テーブルは1350mm×400mm、運動範囲は850mm(テーブル)、500mm(ラム)、400mm(ニー)、切削送りは2〜1600mm/min、主軸に関しては主軸端形式(JIS B 6101 No.50)、旋回角度は±90°、変速はギヤ変速 手動16 70〜2200rpm、主軸モータはAC 3.7kWである。
【0030】
また、種々の形状の加工工具2を備えることができ、各加工工具2は回転押圧駆動体3に自在に付け替え可能である。例えば本実施の形態では、図2(a)に示すように先端部2aが半球状であって、この先端部と連接された胴部は円柱状をなす加工工具2を使用した。具体的に、円柱状領域の直径φは16mm、半球の曲率半径SRは8mmである。また、加工工具2の先端部2aは図1に示すように木材1の表面と接する。先端部2aと木材1との接触領域は、木材1の表面改質加工を施す加工面4よりも小さい。したがって加工工具2の走査を制御すれば、木材1の広範囲な表面を一様に加工するのではなく、木材表面の一部のみに加工領域5を施すことができる。あるいは部位により加工条件を変化させることもでき、例えば木材の特質の偏在に適宜対応した加工が可能となる。また、加工工具2の先端を平坦とすれば木材1との接触領域が増加し、より広域な面状での加工が一度に可能となるため加工能率が上昇すると共に加工に要する時間の短縮が図れる。一方、図2(b)に示すように加工工具2の先端部が略尖塔状であれば木材1との接触領域が減少し、よりシャープで緻密な加工が施せる。つまり加工工具2の先端形状を適宜選択することで、所望の条件に適した加工が可能となる。
【0031】
また、加工を施した領域は加圧方向に圧縮されるため、厚さ方向において減少する。したがって未加工領域との高低差を利用すれば木材の装飾が可能となり意匠性に優れた木材とできる。通常、木材に凹凸を形成させるためには例えば彫刻刀等で立体的に堀り刻むため技巧を要する上、木屑が生じる。従来、美術品や工芸品では、その製作がほとんど手作業に依存しているため加工に時間がかかり製作数が少ない。また個々の微妙な差異が生じ再現性が低い。本実施の形態における木材の加工方法でれば、摩擦と加圧により凹部を形成し立体を表現するため、文字や模様等を描く感覚で容易に達成できる。しかも木屑が発生せず産廃の発生も抑制でき、これらの廃棄コストを低減できる上、装置や環境にも優しいという優れた特徴を有する。さらに加工領域はNCフライス盤によりコンピュータで制御されるため同一形状のものを優れた精度で短期間に大量生産できる。このような方法で加工された木材の写真を一例として図3に示す。図3の写真の木材は、その表面に渦巻き状の加工を施したものであるが、加工形状は同心円状、文字、模様など様々のパターンに形成可能である。さらに、加工工具2の材質は炭素鋼、工具鋼、セラミックスなど種々のものが使用できる。
【0032】
(加工方法)
以下に木材の表面改質に係る加工方法を説明する。まず、NCフライス盤に加工工具2を取り付け、杉板1を所定の位置にセットする。次に図1に示すように加工工具2を木材2との接触方向(図1の下方向)へと近接させる。続いて、加工工具2の回転数や送り速度、押し込み深さなどの加工条件と原点を設定し、加工プログラムを実行する。加工プログラムに従って加工工具2は回転しながら杉板1の所定の深さまで押し込まれ、設定した送り速度で杉板1の表面を摩擦、押圧しながら移動していく。本実施の形態では、300mm×150mm×15mmサイズの杉材のひき板を使用した。この杉材は図4に示すように、板厚方向から見ると年輪がハの字状に表出しており、板目面でハの字の狭くなっている木表の一面4のみを加工した。加工工具2の移動軌跡の概略を図4に実線の矢印で示す。図示されているように、加工工具2は板目面である加工面4上を幹軸と平行方向に90mm移動し、さらに幹軸方向と垂直な接線方向に2mm移動した後、再び幹軸と平行方向に折り返して進んでいく。加工工具2はこのピッチで往復を繰り返し、90mm×50mmの面積を加工した。ただ、加工工具2の加工ピッチ及び加工面積はこれに限定されず、加工を施したい所望の領域上を加工工具2でもって走査させればよい。本実施の形態においては、一の杉板に加工条件を変化させた数種類の加工方法を離間させて施し、後述する各条件における領域の表面温度、硬さ、光沢度を比較検討することで加工条件と改質面の性質との関係を調べた。具体的に加工条件としては加工工具の回転数、送り速度、押し込み深さ、工具材料等をパラメータとした。また、圧密化された改質面の評価試験と電子顕微鏡、実体顕微鏡による分析を行った。さらに、市販化されているローラープレスによる圧密化杉材などと比較し、より優れた杉材とするための改質技術を検討した。
【0033】
以下に測定に係る機器及び測定方法等を記載する。
(表面温度)
改質加工時における杉材表面の温度を測定するために、赤外線温度測定器を用いた。赤外線温度測定器は、検査物に接触することなく物質表面の温度を測定することができる。測定箇所は、加工終了直前における工具通過直後の杉板表面を測定するものとした。なお、加工前の杉材表面温度は日時や天候によって若干の違いがあるが、その差があまり大きくなく低温であること、工具自身の熱で条件を合わせることが困難であること、加工箇所からの予熱で測定箇所において加工前に若干温度上昇があることから、加工前の杉板表面温度の違いは考慮しないものとする。
【0034】
(硬度)
加工された木材の硬度は硬さ試験器を使用した。硬さ試験器とは、試料表面に鋼球を圧入し一定深さ押し込んだときの荷重からブリネル硬さを測定するものである。試験器の先端に取り付けられたゲージで荷重がかかり始めた点からの距離を測る。具体的に、試験面の板目面に木表から垂直に直径10mmの鋼球を深さ1/πmm(約0.32mm)まで圧入し、このときの荷重を測定する。平均圧入速度は0.5mm/minとする。測定位置を変えて3か所測定し、その平均値をその面における圧入深さが1/πmmとなる荷重とする。ブリネル硬さは次の式によって算出し、有効数字2桁まで求める。
【0035】
【数1】


【0036】
上記の数式においてHBはブリネル硬さ(kgf/mm)を、Pは圧入深さが1/πmmとなるときの荷重(kgf)を示す。
【0037】
(光沢度)
加工後の木材における光沢度を光沢計によって測定した。光沢計は、光沢の度合いを数値(光沢度)で表すものである。光沢度は表面に光を当てたときの反射の程度を表す量で、測定部分での反射光の強さと、光沢標準板からの反射光の強さの比で決められている。JIS Z 8741においては、屈折率1.567のガラス板表面の光沢度を光沢の基準として100と定められている。ただし、このガラスは化学的に不安定であるため、本実施の形態ではグロスチェッカを使用し、60°計にて90、20°計にて84の光沢度のガラス板(黒色ガラス)を校正用標準板として用いた。本実施の形態に使用したグロスチェッカの仕様は、堀場製作所製のハンディ光沢計 グロスチェッカ IG−331であって、測定範囲は0〜100、光学系は 入射角60°−受光角60°(60°計)、入射角20°−受光角20°(20°計)、測定部面積は長径6mm×短径3mmの楕円形(60°計)、光源はLED(波長890nm)、受光部はシリコンフォトダイオード、表示は液晶ディスプレイ、2(1/2)桁デジタル表示、0〜199MAXである。
【0038】
測定面は平坦であることが必要で、表面に著しい凹凸のある材料や曲面状のもの及び透明な材料は底面反射の影響を受ける場合があり正しく測定できないことがある。また一般に高光沢のものは斜めから見るより真上から見た方が光沢の違いがわかりやすくなる。本器においては測定角度が60°の光学系と20°の光学系の2系統を設けており、様々な材料の光沢を測定することができる。本実施の形態では60°計にて光沢度の測定を行った。具体的には校正用標準板で校正した後、光沢計を木材の改質面に隙間なく押さえつけ光沢度を測定する。改質面を数箇所測定し、その測定値の平均値をその面の光沢度とした。
【0039】
(走査型電子顕微鏡による断面観察)
摩擦熱圧による表面改質方法で改質された木材において、その圧密化層の構造を観察し、杉の仮道管や組織がどのように変化しているかを調べるため、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用した。これにより光学顕微鏡の分解能を超えた倍率で立体的に試料の形状が評価できる。この走査型電子顕微鏡(SEM)は、試料に電子線を照射し、その表面形態を観察する装置で、試料に電子線を照射すると試料表面から2次電子線が発生する。細く絞られた入射電子ビームを試料表面に走査させ発生した2次電子を検出し、発生量を輝度の信号に変換すると目的のSEM像が得られる。2次電子線は凹凸のうち凸部分の方は発生量が多いため、SEM像では凸部分が明るく凹部分が暗いものとなり、三次元的な凹凸をディスプレイや写真のような二次元の像として表すことができる。SEM観察を行うには試料に金属やカーボンを蒸着し導電性を付与する必要があり、これは試料に導電性がない場合、試料表面に電化がたまり(チャージアップ)、正常なSEM像が得られないからである。また、観察時の環境は高真空化であるため生体試料などの含水試料は脱水処理も必要となる。他の材料でも断面構造解析には機械研磨や切断などの試料調製を行う。本実施の形態においては摩擦熱圧による表面改質方法で改質された面の一部をカッターで切り出し、導電性を良くするため切り出した断片の表面に金属を蒸着させたものを走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。
【0040】
(実体顕微鏡)
同様に、圧密化層の構造を観察するためズーム式双眼実体顕微鏡を用いた。ズーム式双眼実体顕微鏡は、対物レンズで微小な観察物を拡大し、接眼レンズでさらに拡大し大きな像を写すことが可能となる。また、左右で独立した光学系レンズを持ち、立体的な像を見ることができる。総合倍率は15〜210倍である。具体的には、摩擦熱圧による表面改質方法で改質された面の一部をカッターで切り出し、実体顕微鏡にセットして圧密化層を観察し、圧密化層の程度などを調べた。
【0041】
(添加助剤)
加工時に表面改質を促進させる目的として各種添加助剤を用いた。水、ケイ酸ナトリウム粉末、ケイ酸ナトリウム水溶液、水ガラス、高炉スラグ、高炉スラグ混合水、未晒し蜜ロウワックスを添加助剤として添加し、実験を行った。未晒し蜜ロウワックスは天然・自然原料のみで作られた安全性が高く木材にしっとりとした自然なつやを与えるワックスである。
【実施例】
【0042】
以下の実施例では様々な改質の条件による杉材表面の違いを調べ、硬さ、光沢度などを検討した。具体的な改質条件として工具の材質をセラミックス、工具鋼、炭素鋼と変化させ、添加助剤の有無、工具回転数を450〜2200rpm、送り速度を300〜1200mm/min、押し込み深さを0.5〜3.0mmとした。これら各改質条件により摩擦熱と圧力とでもって木材を圧密化し杉材表面の改質加工を行った。その後評価試験として硬さ試験機を用いた硬さ試験と、光沢計を用いた光沢度の測定、圧密化層と改質表面の観察を行った。以下に加工時における木材の表面温度、加工後の硬さ及び光沢の、改質条件による影響について記す。
【0043】
(木材の表面温度)
ところで、木材の細胞壁はセルロース、リグニン、ヘミセルロースから構成される筒状の複合体である。セルロースの熱軟化点は230℃以上であるが、リグニンとヘミセルロースは湿潤状態では70〜130℃程度で熱軟化する。つまり適度な水分を含有する木材であれば軟化しやすくなるが、過度な水分は木材の圧密が不完全となり、また改質後も残存する水分により木材が柔軟化してしまう。したがって表面改質加工時における木材の水分含有量は5%〜18%が好適である。また、上記の木材成分を軟化させ再形成することにより木材の形状安定化を図ることができる。よって、加工時の温度は圧密化層に大きく影響を及ぼすと考えられる。温度上昇の要因として、工具の回転数、送り速度、押し込み深さ、工具の材質が考えられる。これらの様々な条件を変化させ(実施例1〜9)、加工時における杉材表面温度を赤外線温度測定器を用いて測定し、温度変化の関係を調べた。
【0044】
(木材の表面温度と工具回転数[実施例1〜3])
表1に示すように添加助剤なし、工具材料をセラミックス、送り速度を600mm/min、押し込み深さを0.5mm、1mm、1.5mmの条件で、工具回転数(450rpm、700rpm、1100rpm、1400rpm、2200rpm)を変化させ、加工時の杉材表面温度に及ぼす影響を調べた。結果を図5に示す。どの押し込み深さにおいても表面温度は回転数にほぼ比例し、2200rpmでは450rpmの2倍ほどの温度になった。つまり工具の回転数の増加につれて杉材との摩擦が大きくなり、これにより摩擦熱が上昇して杉材の表面温度に大きな影響を与えると考えられる。
【表1】


【0045】
(木材の表面温度と加工工具の送り速度[実施例4〜5])
表2に示すように、添加助剤なし、工具材料をセラミックス、押し込み深さを1.5mm、回転数を1100rpm、2200rpmの条件で、送り速度(300mm/min、600mm/min、900mm/min、1200mm/min)を変化させ、加工時の杉材表面温度に及ぼす影響を調べた。結果を図6に示す。2200rpmでは600mm/minのときその前後より温度は高くなっている。しかし、1100rpmの場合、300mm/min〜1200mm/minの間でほとんど温度の違いはなく、送り速度が杉材表面温度に与える影響は小さいと考えられる。送り速度が速くなると抵抗が大きくなり摩擦も大きくなるが、摩擦熱が発生する時間も短くなり、その結果、杉材表面温度に違いが大きく現れなかったと考えられる。また、送り速度が速くなると加工効率は向上するが、表面で摩擦熱が発生する時間も短くなるため、杉材内部まで温度が伝わりにくくなると考えられる。
【表2】


【0046】
(木材の表面温度と加工工具の押し込み深さ[実施例6])
表3に示すように、添加助剤なし、工具材料をセラミックス、送り速度を600mm/min、工具回転数を2200rpmの条件で、押し込み深さ(0.5mm、1mm、1.5mm、2mm、2.5mm、3mm)を変化させ、加工時の杉材表面温度に及ぼす影響を調べた。結果を図7に示す。押し込み深さが大きいほど、杉材表面の温度上昇が大きいことがわかる。工具の接触面積及び杉材表面の密度が増すことで、摩擦の抵抗が大きくなり摩擦熱が上昇したと考えられる。押し込み深さが深くなると温度上昇率が下がるのは、杉材表面の圧密化が進行していき表面密度の変化が小さくなったためと考えられる。したがって、押し込み深さが2.5mmと3mmで温度がさほど変わらないのは、表面の圧密化が十分に行われ表面密度がほぼ変わらなくなったためと推測される。
【表3】


【0047】
(木材の表面温度と工具材料[実施例7〜9])
表4に示すように、添加助剤なし、回転を数2200rpm、送り速度を600mm/minと300mm/minの条件で、工具材料(炭素鋼、工具鋼、セラミックス)を変化させ、加工時の杉材表面温度に及ぼす影響を調べた。結果を図8に示す。工具の材質が工具鋼の場合は炭素鋼より温度が2〜3℃高くなったがほとんど違いはなかった。セラミックスの場合は送り速度が300mm/minと600mm/minの両方で炭素鋼や工具鋼と比較して20℃以上杉材の表面温度が高くなる結果となった。セラミックスは炭素鋼や工具鋼に比べて熱伝導率が低いため、工具表面からの摩擦による熱の放熱を抑え杉材の表面温度が高くなったものと考えられる。
【表4】


【0048】
(木材の硬さ)
摩擦熱圧による杉材表面の改質方法で杉材を改質する場合、得られる圧密化層の性質に影響を及ぼす要因として、工具の回転数、送り速度、押し込み深さ、工具の材質が考えられる。したがって、これらの条件を変化させ杉材を加工し(実施例10〜13)、硬さ試験機を用いて硬さとの関係を調べた。また、表面改質を施していない杉材の板目面のブリネル硬さは0.8kgf/mmであり、これを基準として比較検討した。
【0049】
(木材の硬さと工具回転数[実施例10])
表5に示すように、添加助剤なし、工具材料をセラミックス、送り速度を600mm/min、押し込み深さを1.5mmの条件で、工具回転数(450rpm、700rpm、1100rpm、1400rpm、2200rpm)を変化させ、改質面の硬さに及ぼす影響を調べた。結果を図9に示す。木材は板や場所によって年輪幅及び含水率などが違うため硬さにばらつきがあり、表面改質における硬さの変化は比較しにくい。しかし今回の実験では、回転数が高い方が硬さも大きくなっていることがわかる。特に2200rpmではブリネル硬さは1.2kgf/mmとなり、表面改質を施していない杉材と比較して1.5倍の硬さとなった。これは、工具回転数と加工時の温度は略比例関係にあり(図5)、回転数の増加につれて上昇した木材の表面温度によって杉の組織が軟化しやすくなったと考察される。したがって木材をより圧密化することができ、硬さが上昇したと推測される。
【表5】


【0050】
(木材の硬さと加工工具の送り速度[実施例11])
表6に示すように、添加助剤なし、工具材料をセラミックス、押し込み深さを1.5mm、回転数を2200rpmの条件で、送り速度(300mm/min、600mm/min、900mm/min、1200mm/min)を変化させ、改質面の硬さに及ぼす影響を調べた。結果を図10に示す。加工工具の送り速度が600mm/minのときブリネル硬さが最も高くなり1.2kgf/mmであった。また、送り速度が900mm/minではブリネル硬さが0.8kgf/mmとなり最も低かった。この図10のグラフは、図6の同じ2200rpmのグラフと形状が類似している。したがって加工時の木材の表面温度の違いにより、加工後の木材の硬さに違いが生じたと考察される。つまり硬さは、送り速度による影響は小さく温度による依存が大きいと推測される。また、ブリネル硬さの値の幅が0.8〜1.2と大きくなったが、これは加工部分における含水率及び年輪幅などの杉の質の違いであると考えられる。
【表6】


【0051】
(木材の硬さと加工工具の押し込み深さ[実施例12])
表7に示すように、添加助剤なし、工具材料をセラミックス、送り速度を600mm/min、工具回転数を2200rpmの条件で、押し込み深さ(0.5mm、1mm、1.5mm、2mm、2.5mm、3mm)を変化させ、改質面の硬さに及ぼす影響を調べた。結果を図11に示す。加工工具の押し込み深さが0.5mmと1mmではブリネル硬さが0.9kgf/mmで、ほとんど硬さの変化はなかったが、1.5mmと2.5mmではブリネル硬さが1.2kgf/mmで、もとの1.5倍の硬さになった。一方、加工工具の押し込み深さが3mmではブリネル硬さが0.9kgf/mmまで下がった。以上の結果より加工工具の押し込み深さが1mm以下では木材の表面付近の圧密化が十分に行われなかったが、押し込み深さを1.5mmまで増加させると木材の表面付近がほぼ圧密化され木材の硬さがより大きくなったと考えられる。また押し込み深さが3mmの場合は木材の表面に割れが発生した。押し込み量が多すぎると木材への負荷が大きくなり硬さが低下したと考えられる。
【表7】


【0052】
(木材の硬さと添加助剤[実施例13])
工具材料をセラミックス、工具回転数を2200rpm、送り速度を600mm/min、押し込み深さを1.5mmの改質条件で、添加助剤を用いない場合と添加助剤として蜜ロウワックスを用いた場合でどのような変化があるかを比較した。また、他の木材圧縮方法で加工された杉材とブリネル硬さを比較した。結果を表8に示す。添加助剤として蜜ロウワックスを用いた場合、ブリネル硬さが1.2kgf/mmともとの1.5倍の硬さになった。添加助剤を用いない場合は、0.9kgf/mm〜1.4kgf/mmであったため、添加助剤を用いても硬さに大きな変化は見られなかった。また、市販のローラープレスにより圧密化された杉材と表面に樹脂コーティングされた杉材はブリネル硬さがともに1.1kgf/mmであった。よって本改質方法は、改質条件を適宜選択することで製品化されている表面改質材以上の硬さを実現させられることがわかった。
【表8】


【0053】
(木材の光沢度)
光沢の変化の主な要因として杉材表面の密度及び細胞内容物の変化が考えられる。したがって、加工条件及び加工時の加工工具の回転数、杉材表面温度、加工工具の送り速度、押し込み深さ、添加助剤の使用によってどのような変化があるか調べた(実施例14〜21)。また、既製の表面改質杉材との比較を行った。なお、改質していない杉材の板目面の光沢度はおよそ5であった。
【0054】
(工具回転数及び木材の表面温度[実施例14])
表9に示すように、添加助剤なし、工具材料をセラミックス、送り速度を600mm/min、押し込み深さを1.5mmの条件で、工具回転数(450rpm、700rpm、1100rpm、1400rpm、2200rpm)を変化させ、改質面の光沢度に及ぼす影響を調べた。結果を図12に示す。回転数の増加につれ光沢度も上昇した。2200rpmでは光沢度は20となり、もとの杉材の4倍ほどの光沢度となった。同じような圧縮作用を受けているにもかかわらず、光沢度が異なるのは摩擦熱による作用であると考えられる。図12は図5とグラフの形状が似ており、回転数が高くなると温度が上昇し、光沢度も大きくなると推測される。摩擦熱と圧力で、杉に内容される成分が変化、あるいは軟化と再形成したことにより、表面付近に光沢を上昇させる層ができたと考えられる。また、図13に光沢度と加工時の杉材表面温度の関係を示す。図13では、100℃付近までは光沢度と温度はほぼ比例しており、それ以上では光沢度は少し低下している。この図からも光沢度と温度が密接に関係していることがわかる。
【表9】


【0055】
(木材の光沢度と加工工具の送り速度[実施例15、16])
表10に示すように、添加助剤なし、工具材料をセラミックス、押し込み深さを1.5mm、回転数を1100rpm、2200rpmの条件で、送り速度(300mm/min、600mm/min、900mm/min、1200mm/min)を変化させ、改質面の光沢度に及ぼす影響を調べた。結果を図14に示す。600mm/minのとき光沢度は若干高くなっている。しかし、図14と図6はグラフの形状が似ており、図14では2200rpm、900mm/minのときその前後より光沢度が低くなっているが、図6でも同様の送り速度の温度が前後よりも低くなっている。これより光沢度は送り速度の影響は小さく温度による依存性が高いと推測される。
【表10】


【0056】
(木材の光沢度と加工工具の押し込み深さ[実施例17])
表11に示すように、添加助剤なし、工具材料セラミックス、送り速度600mm/min、工具回転数2200rpmの条件で、押し込み深さ(0.5mm、1mm、1.5mm、2mm、2.5mm、3mm)を変化させ、改質面の光沢度に及ぼす影響を調べた。結果を図15に示す。加工工具の押し込み深さが0.5mmの場合の光沢度はそれほど上昇していないが、1mm以上では光沢度はほぼ一定で18〜20と大きく上昇している。一般に緻密なほど光沢は大きくなるので、圧縮による密度の上昇で光沢度が大きくなったと考えられる。また、押し込み深さが1mmの場合で表面の密度が十分に上昇し、それ以上圧縮を行うと表面付近よりさらに下の、光沢に影響を与えない部分が圧縮されたため、光沢度はほぼ一定の値になったと考えられる。
【表11】


【0057】
(木材の光沢度と加工工具[実施例18〜20])
表12に示すように、添加助剤なし、回転数2200rpm、送り速度600mm/minと300mm/minの条件で、工具材料(炭素鋼、工具鋼、セラミックス)を変化させ、改質面の光沢度に及ぼす影響を調べた。結果を図16に示す。光沢度は温度にほぼ比例すると予想されるが、図16では工具材料による光沢度の違いはあまりなく、逆に温度の高かったセラミックスより炭素鋼や工具鋼の方が、若干光沢度が高い結果になった。図16でセラミックスが他と比較して温度が高かったのに対して、炭素鋼と工具鋼は、後述するが、改質表面に存在する黒い汚れで光沢度が上昇し、その結果材料による光沢度の違いがあまり発生しなかったものと考えられる。
【表12】


【0058】
(添加助剤[実施例21])
工具材料をセラミックス、工具回転数2200rpm、送り速度600mm/min、押し込み深さ1.5mmの加工条件で、添加助剤を用いない場合と添加助剤として蜜ロウワックスを用いた場合で改質面の光沢度にどのような変化があるかを比較した。また、他の木材圧縮方法で改質された杉材と光沢度を比較した。結果を表13に示す。表面改質をせずに蜜ロウワックスを塗布した場合はもとの杉材より2程度、光沢度が上昇した。しかし、蜜ロウワックスを添加助剤として用いて表面改質を行った場合は、添加助剤を用いない場合よりも光沢度は1〜7ほど低くなった。さらに蜜ロウワックスを添加した場合は、添加しない場合と比較して加工時の杉材表面温度が10℃程度低くなった。つまり加工時に添加助剤が冷却剤の役割をし、杉材の温度が上昇しにくくなったと考えられる。このため、蜜ロウワックスを添加した場合、光沢度も低くなったと推測される。また、摩擦熱圧による本改質方法で改質された押し込み深さ1.5mmの杉材は、ローラープレス及び樹脂コーティングした杉材よりも光沢度が高くなった。この結果から、杉材の質感を残したまま光沢を増すのにも、本方法は優れているといえる。
【表13】


【0059】
(走査型電子顕微鏡による評価分析)
表面改質を行った改質面の圧密化層を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて杉の仮道管及び組織がどのように変化しているかを写真に取り、比較、分析を行った。撮影した写真を図17、図18、図19、図20、図21、図22に示す。圧密化していない杉の組織は、図17及び図18のようにほぼ仮道管で構成されたハニカム構造のようになっている。図19は工具押し込み深さ1mmの組織であるが、仮道管は変形しているものの隙間が多く十分に圧密化されたとは言えない。図20の押し込み深さ1.5mmと図21の押し込み深さ2mmではその組織はほとんど変わらず、圧密化されている。図22は圧密化された仮道管の2000倍の拡大写真であり、大きく密度は上昇しているが、完全には空隙が消えていないことがわかる。摩擦熱の温度が低いか工具の通過が速く杉材の内部まで摩擦熱が十分に伝わらず、リグニンやヘミセルロースの軟化点まで温度が上昇しなかったか、または温度上昇が一時的だったため組織が十分に軟化しなかったと考えられる。しかし、これだけ密度が上がれば、表面の性質は大きく改質されたと考えられる。
【0060】
(実体顕微鏡による評価分析)
本実施の形態による表面改質を行った面の一部をカッターで切り出して実体顕微鏡にセットして、圧密化層を観察した。結果を図23、図24、図25、図26に示す。図23は肉眼で見た改質面の断面であるが、表面から1〜2mm程度に、色が濃くなった層が形成されていることがわかる。図24はその層を実体顕微鏡で見た写真であり、色の濃淡ではっきりと層が分かれている。この色の薄い部分では図25のように仮道管は圧密化されていない。色が濃くなっている層では、図26のように仮道管が圧密化されて、空隙が確認できない。この色の濃い層が圧密化層であると考えられる。密度の上昇と杉細胞内の成分の変化によって、圧密化された層は色が濃くなっていると考えられる。
【0061】
(表面状態)
さらに、加工条件や添加助剤によって杉材の表面状態がどのように変化するか調べた(実施例22〜26)。
(添加助剤[実施例22])
添加助剤(水、ケイ酸ナトリウム粉末、ケイ酸ナトリウム水溶液、高炉スラグ、高炉スラグ混合水、未晒し蜜ロウワックス)を木材の加工面に塗布した後、表面改質の加工を施し、これと、添加助剤を塗布しない杉材との表面状態を比較した。その結果、実施例22では添加助剤を用いないものが最も杉材の良さが出た美しいものになった。これは、添加助剤は水及びケイ酸ナトリウム水溶液、高炉スラグ混合水など水分を多く含んでおり、この水分を杉材が吸収することで柔らかくなり、さらに軟化した杉材に加工工具を押し込むことで杉材の表面が割れ、十分に圧密化がなされなかったためであると考察される。ただし木材は乾燥状態よりも湿潤状態の方がリグニン及びヘミセルロースの軟化点が低いため、木材中に適度な水分が存在した方がよいと考えられるが、過多な水分は木材の加工時における表面温度の上昇を抑止してしまい、圧密層の形成が不十分となる。また表面改質後も水分が木材に多く存在するため、木材が膨張あるいは柔らかくなる結果となった。
【0062】
また、ケイ酸ナトリウム粉末及びケイ酸ナトリウム水溶液、水ガラスはアルカリ性のため杉材が黒く変色してしまい、杉材の美観を損ねるものとなった。高炉スラグ粉末及び高炉スラグ混合水は、杉材の表面に薄くコーティングされたようになったが、黒色の層で木目を隠してしまううえに、簡単に剥がれ落ちてしまい有用な効果はなかった。
【0063】
さらに未晒し蜜ロウワックスの場合は、杉の持つ美しさを損ねることなく撥水効果も期待できるが、添加剤を用いない場合と比較して加工時の表面温度が若干低くなり、硬さは変わらなかったが、光沢は低くなった。これは、ワックスが冷却材として機能したため温度が下がり、杉の成分の変化が少なくなったためと考えられる。したがって5%〜18%の適度な水分量を含有する木材においては、添加助剤を用いない方が木材の表面温度を十分に上昇させられるため表面改質をより確実に達成でき、意匠性、コスト性、機能性にも優れている結果となった。
【0064】
(工具材料[実施例23、24])
工具材料を炭素鋼、工具鋼、セラミックスと変化させて杉材表面の状態を調べた。炭素鋼を工具材料に用いた際の木材の表面状態を図27に、セラミックスの際の表面状態を図28に示す。図27では表面に黒い汚れが所々に付いている。工具には磨耗した様子が見られたので、磨耗した部分が杉材表面に付着し、それが黒い汚れになったものと考えられる。また工具鋼の場合も、程度は低いが同様の現象が見られた。しかしセラミックスの場合は図28のように汚れの付着はなく、工具の磨耗も確認されなかった。
【0065】
(工具押し込み深さ[実施例25、26])
工具の押し込み深さを0.5mmずつ最大3mmまで押し込んだ場合(実施例25)と一度で1.5mm押し込んだ場合(実施例26)で杉材表面にどのような変化があるか調べた。加工後の写真をそれぞれ図29及び図30に示す。0.5mmずつ工具を押し込んだ場合、0.5mm〜2mmの間は滑らかな面が得られたが、2mmよりも深くなると部分的に図29のような割れが発生することがあった。十分に圧密化されているうえにさらに圧縮しようとしたため、硬くなった表面に割れが生じたものと考えられる。また、一度に1.5mm押し込んだ場合は杉材表面全体に図30のような連続したひび割れが発生した。これは一度に深く押し込みすぎると工具通過の前後で高低差が大きくなり杉材表面に負荷が大きくなったため、ひび割れが発生したものと考えられる。したがって、所定の厚み以上の圧密層を形成する場合は、加工工具の押し込み量を、目的の圧密層の厚さよりも小さくし、複数回にわたって回転押圧工程及び走査工程を繰り返すことにより、意匠性に優れた加工表面を有する木材であって、目的の厚みを備える圧密層を得ることができる。
【0066】
以上より、木材の改質加工における加工工具について、材質は磨耗が確認されなかったセラミックス、回転数は2200rpm、送り速度は600mm/min、押し込み深さは1.5mmの条件のものが、加工後の杉材表面に割れ等が視認されず意匠的に優れており、そのブリネル硬さは1.2kgf/mm、光沢度は20と、他の条件の加工面と比較して共に高くなった。この値は改質していない杉材の1.5倍の硬さで、4倍の光沢度である。また、ローラープレス及び樹脂コーティングによる、製品化されている表面改質杉材と比較しても、硬さは同じ程度で、光沢にいたっては2〜3倍ほど高い値となった。つまり、加工工具の回転数を大きくし、或いは工具押し込み深さを深くすることで、木材の表面温度が上昇し、これにより硬さや光沢度は上昇する。ただし、ある一定以上になると飽和した値となる。特に、工具押し込み深さが2.5mm以上になると木材の表面に割れが発生することもあり、硬さの低下の原因や美観を損ねるものとなった。また、工具押し込み深さが同じ1.5mmのものでも、一度で1.5mm押し込むより、0.5mmずつ3度で圧縮する方がきれいな面を得ることができる。さらに、本方法により杉材表面に1〜2mm程度の薄い圧密化層が形成されていることも確認された。つまり、本発明によれば、木屑を発生せずして木材の表面改質が可能となり、尚かつ圧密化層の形成領域を制御することで改質領域を自在に付与できる。これにより強度及び意匠性等に優れた木材とでき、木材の付加価値が高まる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の木材の加工方法、木材の加工装置及びこれを用いた加工木材は、間伐材等の低密度の木材に適用でき、改質された木材は壁材、床材等の建築材や建具材に利用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施の形態に係る木材の加工方法を説明する概略図である。
【図2】実施の形態に係る加工工具の概略斜視図である。
【図3】実施の形態に係る表面の一部が加工された木材の写真である。
【図4】実施の形態に係る木材の加工工具の走査領域を説明する概略図である。
【図5】実施例1〜3に係る木材の表面温度と工具回転数との関係を示すのグラフである。
【図6】実施例4〜5に係る木材の表面温度と送り速度との関係を示すのグラフである。
【図7】実施例6に係る木材の表面温度と押し込み深さとの関係を示すのグラフである。
【図8】実施例7〜9に係る木材の表面温度と工具材料との関係を示すのグラフである。
【図9】実施例10に係る木材の硬さと工具回転数との関係を示すグラフである。
【図10】実施例11に係る木材の硬さと送り速度との関係を示すグラフである。
【図11】実施例12に係る木材の硬さと押し込み深さとの関係を示すグラフである。
【図12】実施例14に係る木材の光沢度と工具回転数との関係を示すグラフである。
【図13】木材の光沢度と木材の表面温度との関係を示すグラフである。
【図14】実施例15、16に係る木材の光沢度と送り速度との関係を示すグラフである。
【図15】実施例17に係る木材の光沢度と押し込み深さとの関係を示すグラフである。
【図16】実施例18〜20に係る木材の光沢度と工具材料との関係を示すグラフである。
【図17】実施の形態に係る改質前の木材の木口面方向の組織の形状を示す写真である。
【図18】実施の形態に係る改質前の木材であって、表面付近の圧密していない組織を示す写真である。
【図19】実施の形態に係る圧密化された木材の組織の形状を示す写真である。
【図20】実施の形態に係る圧密化された木材の組織の形状を示す写真である。
【図21】実施の形態に係る圧密化された木材の組織の形状を示す写真である。
【図22】実施の形態に係る圧密化された木材の仮道管の2000倍の拡大写真である。
【図23】実施の形態に係る圧密化された木材の断面写真である。
【図24】実施の形態に係る圧密化された木材の15倍拡大断面写真である。
【図25】実施の形態に係る木材の非圧密層の105倍拡大断面写真である。
【図26】実施の形態に係る木材の圧密層の105倍拡大断面写真である。
【図27】実施例23に係る木材の圧密層の105倍拡大断面写真である。
【図28】実施例24に係る木材の圧密層の105倍拡大断面写真である。
【図29】実施例25に係る圧密化された木材の表面を示す写真である。
【図30】実施例26に係る圧密化された木材の表面を示す写真である。
【図31】従来のプレス方式における木材の加工方法を説明する概略図である。
【図32】従来のローラー圧延方式における木材の加工方法を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0069】
1、101、204…木材
2…加工工具
2a…加工工具の先端部
3…回転押圧駆動体
4…加工面
5…加工領域
102…金型
103…プレス機
201…圧延機
202、203…圧延ロール
【出願人】 【識別番号】594009335
【氏名又は名称】株式会社アルボレックス
【出願日】 平成19年2月2日(2007.2.2)
【代理人】 【識別番号】100104949
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康司

【識別番号】100074354
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康弘


【公開番号】 特開2008−188811(P2008−188811A)
【公開日】 平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願番号】 特願2007−23726(P2007−23726)