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【発明の名称】 鏡面仕上げ用砥石
【発明者】 【氏名】篠田 博之

【氏名】田中 清七

【氏名】吉田 英穂

【氏名】安藤 俊広

【要約】 【課題】加工精度が高く、砥粒の消費量を低減させると共に、製造コストに優れた鏡面仕上げ用砥石を提供する。

【解決手段】焼成後の砥石組織内に残存する結合剤を有しない、無機砥粒の焼結体から成る鏡面仕上げ用砥石であって、無機砥粒の粒度は#5000以上であり、砥石組織内に気孔形成剤を用いて形成された平均径が10乃至100μmの範囲内である気孔を有するものであることから、砥粒の消費を抑えて好適な鏡面仕上げ研磨加工を実現することができる。また、無機砥粒が分散状態にあるスラリを成形型を用いて鋳込み成形法により所定形状に成形し、その成形物を乾燥後に焼成する砥石の製造方法により作製されるものであるため、製造コストを低く抑えることができる。すなわち、加工精度が高く、砥粒の消費量を低減させると共に、製造コストに優れた鏡面仕上げ用砥石10を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成により砥石組織内から消失する分散剤を用い、無機砥粒が分散状態にあるスラリを成形型を用いて鋳込み成形法により所定形状に成形し、その成形物を乾燥後に焼成する砥石の製造方法によって得られた、焼成後の砥石組織内に残存する結合剤を有しない、前記無機砥粒の焼結体から成る鏡面仕上げ用砥石であって、
前記無機砥粒の粒度は#5000以上であり、前記砥石組織内に気孔形成剤を用いて形成された平均径が10乃至100μmの範囲内である気孔を有するものであることを特徴とする鏡面仕上げ用砥石。
【請求項2】
前記砥石組織内における前記気孔の比率は10乃至55容量%の範囲内である請求項1の鏡面仕上げ用砥石。
【請求項3】
前記砥石組織内に蝋又は硫黄を含浸させたものである請求項1又は2の鏡面仕上げ用砥石。
【請求項4】
専ら超仕上げ加工に用いられるものである請求項1から3の何れかの鏡面仕上げ用砥石。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の被加工物の鏡面仕上げ研磨加工に用いられる鏡面仕上げ用砥石の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の材料として用いられるシリコンウェハ等の仕上げ加工や玉軸受軌道面等の仕上げ加工では、それらの表面に鏡面仕上げ研磨加工が施される。斯かる鏡面仕上げ研磨加工には、従来、遊離砥粒によるポリシング加工が広く用いられている他、鏡面仕上げ用の固定砥粒による加工が行われている。
【0003】
ところで、上記遊離砥粒によるポリシング加工においては、砥粒の消費量が多いといった経済的な問題点に加え、廃水等の環境面での弊害が従来より指摘されていた。また、従来の鏡面仕上げ用の固定砥粒においては、結合剤による目詰まりや研削焼けが発生し、好適な研磨加工は困難であった。そこで、斯かる不具合を解消するための技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載された砥石及びその製造方法がそれである。この発明によれば、焼成により消失する分散剤を含有し、無機砥粒が分散状態にあるスラリを成形型を用いて鋳込成形法により所定形状に成形し、その成形物を乾燥後に焼成することにより製造される砥石により、加工精度に優れ且つ砥粒の消費量が少ない砥石を提供できる。また、特許文献2に記載された技術によれば、酸化クロムに立方晶窒化硼素砥粒又はダイヤモンド砥粒を配合し、ビトリファイド結合剤で結合した鏡面仕上げ用超砥粒砥石により、仕上げ面粗さや光沢面等の仕上げ面特性を損なうことなく、適度の研削性能を発揮できるとされている。
【0004】
【特許文献1】特許第3203311号公報
【特許文献2】特開昭62−57873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記特許文献1に記載された砥石では、焼成後の砥石組織内に残存する結合剤がないことから砥粒間隔が狭く、研削量を要求される加工には不向きであった。また、前記特許文献2に記載された鏡面仕上げ用超砥粒砥石は、製造コストがかさみ砥石が高価なものになるという弊害があった。このため、加工精度が高く、砥粒の消費量を低減させると共に、製造コストに優れた鏡面仕上げ用砥石の開発が求められていた。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、加工精度が高く、砥粒の消費量を低減させると共に、製造コストに優れた鏡面仕上げ用砥石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
斯かる目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、焼成により砥石組織内から消失する分散剤を用い、無機砥粒が分散状態にあるスラリを成形型を用いて鋳込み成形法により所定形状に成形し、その成形物を乾燥後に焼成する砥石の製造方法によって得られた、焼成後の砥石組織内に残存する結合剤を有しない、前記無機砥粒の焼結体から成る鏡面仕上げ用砥石であって、前記無機砥粒の粒度は#5000以上であり、前記砥石組織内に気孔形成剤を用いて形成された平均径が10乃至100μmの範囲内である気孔を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、焼成後の砥石組織内に残存する結合剤を有しない、前記無機砥粒の焼結体から成る鏡面仕上げ用砥石であって、前記無機砥粒の粒度は#5000以上であり、前記砥石組織内に気孔形成剤を用いて形成された平均径が10乃至100μmの範囲内である気孔を有するものであることから、前記砥石組織内に形成された気孔により前記無機砥粒が好適に保持されるものと考えられ、砥粒の消費を抑えて好適な鏡面仕上げ研磨加工を実現することができる。また、無機砥粒が分散状態にあるスラリを成形型を用いて鋳込み成形法により所定形状に成形し、その成形物を乾燥後に焼成する砥石の製造方法により作製されるものであるため、製造コストを低く抑えることができる。すなわち、加工精度が高く、砥粒の消費量を低減させると共に、製造コストに優れた鏡面仕上げ用砥石を提供することができる。
【0009】
ここで、好適には、前記砥石組織内における前記気孔の比率は10乃至55容量%の範囲内である。このようにすれば、前記砥石組織内に理想的な容積比で形成された気孔により前記無機砥粒が更に好適に保持されるものと考えられ、砥粒の消費を可及的に抑えて好適な鏡面仕上げ研磨加工を実現することができる。
【0010】
また、好適には、前記砥石組織内に蝋又は硫黄を含浸させたものである。このようにすれば、蝋又は硫黄の潤滑効果により前記気孔中に被加工物の研磨くずが溜まることを抑えて更に好適な鏡面仕上げ研磨加工を実現することができる。
【0011】
また、好適には、前記鏡面仕上げ用砥石は、専ら超仕上げ加工に用いられるものである。このようにすれば、加工精度が高く、砥粒の消費量を低減させると共に、製造コストに優れた超仕上げ用砥石を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、本発明の一実施例である鏡面仕上げ用砥石10(以下、砥石10と称する)の外観を例示する斜視図である。本実施例の砥石10は、例えば玉軸受けの内輪軌道面の鏡面仕上げ研磨加工やシリコンウェハの表面研磨加工等、平面、円筒面、螺旋形状面、及びその他の形状面のホーニング加工乃至は超仕上げ加工に専ら用いられる砥石であり、例えば、図1に示すように、長手方向の一方の端部における平面が部分円筒面状の加工面12とされた直方体状(スティック状)に形成されたものであり、例えば、横方向寸法Bが2乃至25mmの範囲内、縦方向寸法Cが2乃至25mmの範囲内、長手方向寸法Lが25〜300mmの範囲内となるように形成されている。また、上記加工面12は、被加工物における被加工面(例えば、玉軸受けの内輪軌道面)の形状に合わせて形成されたものであり、鏡面仕上げ加工に際しては、その加工面12が被加工物の被加工面に当接させられた状態で上記砥石10が揺動させられることにより、その被加工面の研削加工(研磨加工)が行われる。
【0014】
上記砥石10を構成する無機砥粒としては、例えば、JIS R 6002に規定する方法によって測定される粒度#5000以上(以細)のアルミナ(Al23)、炭化珪素(SiC)、窒化硼素(BN)、或いはそれらのうち2種類以上の砥粒が適宜選択されて用いられる。
【0015】
上記砥石10は、残存する結合剤を有しない、実質的に無機砥粒の焼結体のみから成る砥石組織から構成されている。また、その砥石組織内には、気孔形成剤を用いて意図的に形成された平均径が10乃至100μmの範囲内、好適には20乃至70μmの範囲内、更に好適には30乃至60μmの範囲内である多数の気孔が形成されている。また、上記砥石組織内における斯かる気孔の比率は10乃至55容量%の範囲内、好適には12乃至45容量%の範囲内、更に好適には13乃至35容量%の範囲内とされる。なお、気孔率55容量%以上の砥石は、気孔径の制限及び製法上製造が不可能である。
【0016】
前記砥石10の砥石組織には、好適には、潤滑剤としての蝋(ワックス)又は硫黄が含浸させられている。この蝋としては、例えば、カルナバワックス等の植物蝋、石蝋(石油系パラフィン)、地蝋等が好適に用いられる。また、硫黄としてはその単体が好適に用いられる。
【0017】
図2は、前記砥石10の製造工程の一例を示す工程図である。この図2に示すように、前記砥石10の製造工程では、先ず、秤量工程P1において、それぞれ平均粒径の異なる2種類の無機砥粒が所定の重量割合(例えば、平均粒径1.2μmのアルミナ砥粒75重量%、平均粒径0.6μmのアルミナ砥粒25重量%)となるように秤量される。次に、混合工程P2において、秤量工程P1にて秤量された砥石原料に澱粉粉体等の気孔形成剤が混合されて混合粉体とされる。この気孔形成剤の混合割合は、焼成後の砥石組織における気孔の比率が前記割合となるように調整される。続いて、プラスチック製容器にジルコニア製ボールを取り、蒸留水及び上記混合粉体が加えられて粉体濃度80重量%程度のスラリが調整される。この際、ポリカルボン酸アンモニウム塩等の分散剤が上記混合粉体に対して0.7重量%程度の割合で添加される。そのようにして調整されたスラリは、ボールミル等により24時間程度の混合が行われた後、脱泡工程P3において真空脱泡が行われる。次に、鋳込工程P4において、調整されたスラリが例えば65mm×65mm×7mmの成形型に流し込まれ、固形鋳込成形が行われる。この成形型は水分を吸収可能な脱水型であり、例えば石膏型の他、粘土を焼成することにより構成された型、セメント粉から構成された型等が好適に用いられる。そのようにして鋳込成形された成形体は、脱型工程P5において成形型から脱型された後、乾燥工程P6において、所定の温度雰囲気で所定時間乾燥処理が施される。次に、焼成工程P7において、例えば1220℃程度の温度雰囲気で1時間程度の焼成処理が施される。次に、切断/加工工程P8において、焼成体が例えば5.5mm×5.5mm×30mmの直方体状に切り出されると共に仕上げ加工が施される。そして、含浸工程P9において、例えば150℃程度にて液化させられたカルナバワックス(或いは170℃程度にて液化させられた硫黄)が砥石組織に含浸させられて、前述した本実施例の砥石10が製造される。
【0018】
続いて、本発明者等が本発明の効果を検証するために行った試験について説明する。本試験では、上述した図2に示す製造方法により、表1に示す混合割合で無機砥粒(砥材)及び気孔形成剤を混合して、本発明の実施例である実施例試料1乃至6、及び従来の砥石である比較例試料2乃至5を作製した。この表1に示す気孔形成剤の割合は、無機砥粒の重量を100%とした場合の相対割合であり、その無機砥粒の重量は実施例試料1乃至6、比較例試料2乃至5で共通である。また、鏡面加工に用いられる一般的な砥石であるクロム(粒度#6000)が配合された従来砥石を比較例1として用意した。これら実施例試料1乃至6、比較例試料1乃至5の嵩密度、砥粒率、気孔形成剤により形成された気孔の気孔率、平均気孔径、及びワックス又は硫黄含浸の有無を表2に示す。以上のように構成された実施例試料1乃至6、及び比較例試料1乃至5を用い、表3に示す加工条件で玉軸受けの内輪軌道面の研削加工試験を行った。
【0019】
【表1】


【0020】
【表2】


【0021】
【表3】


【0022】
本試験による加工結果を表4に示す。砥石摩耗は、ワーク(加工物)を10個加工した後の砥石摩耗からワーク1個当たりの摩耗量を算出した値である。また、前記実施例試料3及び比較例試料1において100個のワーク(加工物)を加工した際の結果を表5に、面粗さの推移を図3及び図4にそれぞれ示す。
【0023】
【表4】


【0024】
【表5】


【0025】
表4から明らかなように、実施例試料1乃至6の加工によるワークの面粗さは何れも0.20(Rzμm)未満、面粗さの標準偏差も0.28以下と優れており、鏡面状態も良好であった。一方、気孔率又は気孔径が異なる、或いはワックス又は硫黄の含浸がない比較例試料1乃至5の加工については面粗さが悪く、それらに比べて上記実施例試料1乃至6の加工精度が優れていることが確認された。特に、実施例試料2等では砥石摩耗が多く、砥粒の目変わりが頻繁に行われていることで切れ味が良いものと予想され、その結果として安定した加工が行われて標準偏差も小さくなっているものと考えられる。また、表5、図3及び図4から明らかなように、本発明の実施例である実施例試料3による加工では、従来の技術である比較例試料1に比べて連続研削において安定した面粗さが得られることがわかる。この推測は本発明を限定するものではないが、実施例試料1乃至6では、気孔中に砥石から遊離した砥粒が研削液と共に留まり、これらの砥粒が遊離砥粒のような働きをしているものと考えられる。砥粒を留めおくためには気孔の量及び大きさが所定の条件を満たす必要があるものと思われ、本実施例の加工によるワークの加工精度が優れているのは斯かる条件を満たしているためであると考えられる。また、ワックス又は硫黄による潤滑効果により気孔中に加工物の切り屑が溜まることなく、砥粒が気孔中に好適に留まることで更に研削加工精度が向上しているものと考えられる。なお、砥材を炭化珪素、窒化硼素、及びそれらとアルミナとの混合砥粒として作製した砥石によっても、概ね本試験と同様の結果が得られた。
【0026】
このように、本実施例によれば、焼成後の砥石組織内に残存する結合剤を有しない、無機砥粒の焼結体から成る鏡面仕上げ用砥石であって、前記無機砥粒の粒度は#5000以上であり、前記砥石組織内に気孔形成剤を用いて形成された平均径が10乃至100μmの範囲内である気孔を有するものであることから、砥粒の消費を抑えて好適な鏡面仕上げ研磨加工を実現することができる。また、無機砥粒が分散状態にあるスラリを成形型を用いて鋳込み成形法により所定形状に成形し、その成形物を乾燥後に焼成する砥石の製造方法により作製されるものであるため、製造コストを低く抑えることができる。すなわち、加工精度が高く、砥粒の消費量を低減させると共に、製造コストに優れた砥石10を提供することができる。
【0027】
また、前記砥石組織内における前記気孔の比率は10乃至55容量%の範囲内であるため、前記砥石組織内に理想的な容積比で形成された気孔により前記無機砥粒が更に好適に保持されるものと考えられ、砥粒の消費を可及的に抑えて好適な鏡面仕上げ研磨加工を実現することができる。
【0028】
また、前記砥石組織内に蝋又は硫黄を含浸させたものであるため、蝋又は硫黄の潤滑効果により前記気孔中に被加工物の研磨くずが溜まることを抑えて更に好適な鏡面仕上げ研磨加工を実現することができる。
【0029】
また、前記砥石10は、専ら超仕上げ加工に用いられるものであるため、加工精度が高く、砥粒の消費量を低減させると共に、製造コストに優れた超仕上げ用砥石を提供することができる。
【0030】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
【0031】
例えば、前述の実施例では、長手直方体状の砥石10について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、円筒状砥石やブロック状砥石等、鏡面仕上げ研磨加工に用いられる砥石であればその形状を問わず好適に適用される。
【0032】
また、前述の実施例では、特に玉軸受けの内輪軌道面の鏡面仕上げに本実施例の砥石10が用いられる例を説明したが、本発明の砥石は、多種のワークの鏡面仕上げ研磨加工乃至は超仕上げ加工に広く用いられ得るものであることは言うまでもない。
【0033】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施例である鏡面仕上げ用砥石の外観を例示する斜視図である。
【図2】図1の鏡面仕上げ用砥石の製造工程の一例を示す工程図である。
【図3】本発明の鏡面仕上げ用砥石の効果を検証するための試験において実施例試料にて100個のワークを加工した際の面粗さの推移を示すグラフである。
【図4】本発明の鏡面仕上げ用砥石の効果を検証するための試験において比較例試料にて100個のワークを加工した際の面粗さの推移を示すグラフである。
【符号の説明】
【0035】
10:鏡面仕上げ用砥石
【出願人】 【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
【識別番号】597079005
【氏名又は名称】安藤 通廣
【出願日】 平成18年10月26日(2006.10.26)
【代理人】 【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸


【公開番号】 特開2008−105150(P2008−105150A)
【公開日】 平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願番号】 特願2006−291664(P2006−291664)