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【発明の名称】 鏡面加工方法、および鏡面加工用の加工体
【発明者】 【氏名】大下 格

【氏名】神崎 壽夫

【要約】 【課題】難研削材を効率よく加工でき、しかも優れた表面平滑性が得られる鏡面加工方法と鏡面加工用の加工体を提供する。

【構成】それぞれ被加工物より軟質材からなる、酸化触媒作用とメカノケミカル作用を有するジルコニウム含有酸化セリウム粒子を含むセラミック成形体と、これらを結着する樹脂からなる加工体1を用いて、加工体1を運動転写式で被加工物に作用させて鏡面加工を行う。加工時には、被加工物5表面に酸化層を生成させ、同時に、メカノケミカル反応を引き起こす粒子を運動転写方式で酸化層に作用させて固相反応を生じさせ、固相反応による生成物を機械的に除去することによって、加工ダメージ層のない超平滑な鏡面を創成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉体を含むセラミック成形体からなる加工体を用いて、前記加工体と被加工物との相互作用によって、被加工物表面に酸化物層を生成させ、生成された酸化物層をメカノケミカル作用によって反応除去することにより被加工物の表面を鏡面化することを特徴とする鏡面加工方法。
【請求項2】
前記無機粉体がメカノケミカル作用を有する無機粉体と、酸化触媒作用を有する無機粉体からなることを特徴とする請求項1記載の鏡面加工方法。
【請求項3】
前記加工体を被加工物に運動転写方式で作用させながら被加工物の表面を鏡面化する請求項1または2記載の鏡面加工方法。
【請求項4】
前記加工体を構成する無機粉体のそれぞれが、被加工物よりも軟質の無機粉体で構成してある請求項1または3記載の鏡面加工方法。
【請求項5】
前記加工体が、酸化ジルコニウムと酸化セリウムとからなる複合酸化物を含んで構成してある請求項1ないし4記載の鏡面加工方法。
【請求項6】
複合酸化物粒子中の酸化セリウムと酸化ジルコニウムの含有量は、酸化セリウムが50〜95wt%、酸化ジルコニウムが5〜50wt%の範囲にある請求項5記載の鏡面加工方法。
【請求項7】
前記被加工物を固定支持する加工テーブルと、前記加工体の一群を固定支持する工具ホルダーとが上下に対向配置されており、
加工テーブルおよび工具ホルダーのそれぞれを回転駆動しながら被加工物の表面を鏡面化する請求項3記載の鏡面加工方法。
【請求項8】
無機粉体と、前記無機粉体を結着する樹脂とを含み、
前記の混合物を所定形状に成形し、加熱固化して得られるセラミック成形体で形成してあることを特徴とする鏡面加工用の加工体。
【請求項9】
前記無機粉体がメカノケミカル作用を有する無機粉体と、酸化触媒作用を有する無機粉体からなることを特徴とする請求項8記載の鏡面加工用の加工体。
【請求項10】
前記セラミック成形体を構成する無機粉体のそれぞれが、被加工物よりも軟質の無機粉体材で構成してある請求項8または9記載の鏡面加工用の加工体。
【請求項11】
前記セラミック成形体が、酸化セリウム(IV)、酸化ケイ素(IV)のうち少なくともひとつの成分と、酸化ジルコニウム(IV)、酸化クロム(III)、酸化鉄(III)、酸化チタン(IV)のうち少なくともひとつの成分を含んで構成してある請求項8ないし10記載の鏡面加工用の加工体。
【請求項12】
前記酸化セリウム(IV)、酸化ケイ素(IV)のうち少なくともひとつの成分がメカノケミカル作用を有し、酸化ジルコニウム(IV)、酸化クロム(III)、酸化鉄(III)、酸化チタン(IV)のうち少なくともひとつの成分が酸化触媒作用を有することを特徴とする、請求項11記載の鏡面加工用の加工体。
【請求項13】
前記セラミック成形体が、酸化ジルコニウムと酸化セリウムからなる複合酸化物粒子を含んで構成してある請求項8ないし12記載の鏡面加工用の加工体。
【請求項14】
複数の無機粉体を結着する樹脂が、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂の、少なくとも1種以上で構成してある請求項8から13のいずれかに記載の鏡面加工用の加工体。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶炭化シリコンおよび炭化シリコン焼結体などの難加工材を鏡面加工するための鏡面加工方法と、鏡面加工用の加工体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化シリコン(SiC)は、シリコン(Si)に比べて優れた半導体物性を有するため、パワーデバイスの半導体基板として期待されている。SiCウェハを半導体デバイスとして使用する場合には、そのウェハ表面が平滑で、加工ダメージ層がない状態の鏡面に仕上がっていることが要求される。しかし、SiCはダイヤモンドに次ぐ硬度を有しており、耐薬品性にも優れているため、加工ダメージ層を伴わずに鏡面加工することが難しく、さらに加工に多大な時間が掛かる点に問題がある。
【0003】
従来、SiCの鏡面加工は、ダイヤモンド砥粒を用いて研磨する加工法が一般的である(特許文献1参照)。そこでは、SiCを鏡面加工するために、1〜3μmのダイヤモンド砥粒を含む研磨液を用いた研磨方法が提案されており、RMS値が0.3nm程度の超平滑な鏡面が形成できるとしてある。
【0004】
また、特許文献2では、SiC種結晶を加工する方法として電解インプロセスドレッシング研削法(ELID研削法)が提案されており、#20,000のダイヤモンド砥粒を含んでいるメタルレジンボンド定盤でELID研削を行なうと、1.8nmRaに仕上がるとしてある。しかし、SiCよりも硬度の高いダイヤモンド砥粒を用いて研磨研削加工を行う先の加工方法では、ダイヤモンド砥粒の機械的除去作用のみで鏡面加工を行うため、SiCの加工面に加工ダメージ層が発生するのを避けられない。
【0005】
そこで、加工ダメージ層を発生させない加工方法としてメカノケミカル効果を利用した研磨方法(乾式メカノケミカル研磨法)が提案されている(M.Kikuchi,Y.Takahashi,T.Suga,S Suzuki,and Y.Bando,“Mechanochemical Polishing of Silicon Carbide Single Crystal with Chromium(III)Oxide
Abrasive”, J.Am.Ceram.Soc.,75[1](1992)189−以下技術文献1と言う)。これによると、粒径0.5μmの酸化クロム砥粒を樹脂で固めた固定砥粒定盤上でSiCを乾式研磨することによって研磨傷、残留歪のない鏡面が創成できる。
【0006】
特許文献3、および特許文献4においては、酸化クロム粉末を遊離砥粒として用いた、別の乾式メカノケミカル研磨方法が提案されている。この研磨方法では、研磨面に300gf/cm2 の荷重をかけた場合の研磨レートが0.5μm/hで、加えて雰囲気を制御することによって1.2〜1.4倍ほど研磨レートが高くなるとしてある。
【0007】
特許文献5には、酸化クロム(III)を砥粒として用いて、研磨面に酸化剤が存在する状態で研磨を行う湿式メカノケミカル研磨方法が提案されている。この鏡面化法によれば、低圧力、かつ、湿式研磨というマイルドな条件で加工できる。
【0008】
【特許文献1】特開平8−323604号公報(段落番号0010、図3)
【特許文献2】特開2000−191399号公報(段落番号0015)
【特許文献3】特開平7−80770号公報(段落番号0010、図1)
【特許文献4】特開2000−190206号公報(段落番号0023、図1)
【特許文献5】特開2001−205555号公報(段落番号0034、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
技術文献1の乾式メカノケミカル研磨法によれば、研磨傷、残留歪のない鏡面が創成できる。さらに(0001)面面に対する研磨レートは1.47μm/hであり、充分な研磨レートが得られるものの、研磨面に3000gf/cm2 もの大きな荷重をかける必要がある。このような大きな荷重をかけると、ウェハに不均一に応力がかかったときにウェハが割れてしまう点に問題がある。
【0010】
特許文献3、および特許文献4における乾式メカノケミカル研磨方法によれば、ある程度の研磨レートが得られるものの、実用に供するには研磨レートが低すぎて充分とはいえない。同様に、特許文献5の湿式メカノケミカル研磨方法においては、酸化剤の存在下で600gf/cm2 の荷重をかけたときの研磨レートは、3000gf/cm2 の荷重をかけたときの湿式研磨の研磨レートと同等であるとなっており、実用化レベルの研磨レートに至っていない。以上のように、従来のSiCの鏡面加工方法においては、高い加工レートと加工ダメージ層がない状態での鏡面加工を両立するのが困難であった。
【0011】
本発明の目的は、単結晶炭化シリコン基板や炭化シリコン焼結体などの難加工材を、高い加工レートで、従って短い加工時間で、しかも加工ダメージ層がない状態の優れた表面平滑性が得られる鏡面加工方法と鏡面加工用の加工体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の鏡面加工方法は、無機粉体を含むセラミック成形体からなる加工体を用いて鏡面加工を行う点に特徴を有し、前記加工体と被加工物との相互作用によって、被加工物表面に酸化物層を生成させ、生成された酸化物層をメカノケミカル作用によって反応除去することにより被加工物の表面を鏡面化する。
【0013】
前記無機粉体は、酸化触媒作用を有する無機粉体と、メカノケミカル作用を有する無機粉体であることが好ましい。
【0014】
前記加工体は、被加工物に運動転写方式で作用させながら被加工物の表面を鏡面化する。
【0015】
前記加工体を構成する無機粉体のそれぞれは、被加工物よりも軟質の無機粉体で構成する。
【0016】
前記加工体は、酸化ジルコニウムと酸化セリウムとからなる複合酸化物を含んで構成する。
【0017】
複合酸化物粒子中の酸化セリウムと酸化ジルコニウムの含有量は、酸化セリウムを50〜95wt%、酸化ジルコニウムを5〜50wt%の範囲に設定する。
【0018】
前記被加工物を固定支持する加工テーブルと、前記加工体の一群を固定支持する工具ホルダーとを上下に対向配置し、加工テーブルおよび工具ホルダーのそれぞれを回転駆動しながら被加工物の表面を鏡面化する。
【0019】
本発明の鏡面加工用の加工体は、無機粉体と、この無機粉体を結着する樹脂とを含み、これらの混合物を所定形状に成形し、加熱固化して得られるセラミック成形体で形成してあることを特徴とする。
【0020】
前記無機粉体は、酸化触媒作用を有する無機粉体と、メカノケミカル作用を有する無機粉体であることが好ましい。
【0021】
前記セラミック成形体を構成する無機粉体のそれぞれは、被加工物よりも軟質の無機粉体材で構成する。なお、本発明における無機粉体材(粒子)とは、被加工物の硬度より低い硬度の無機粉体材(粒子)を意味する。
【0022】
前記セラミック成形体は、酸化セリウム(IV)、酸化ケイ素(IV)のうち少なくともひとつの成分と、酸化ジルコニウム(IV)、酸化クロム(III)、酸化鉄(III)、酸化チタン(IV)のうち少なくともひとつの成分を含んで構成する。
【0023】
前記酸化セリウム(IV)、酸化ケイ素(IV)のうち少なくともひとつの成分がメカノケミカル作用を有し、酸化ジルコニウム(IV)、酸化クロム(III)、酸化鉄(III)、酸化チタン(IV)のうち少なくともひとつの成分が酸化触媒作用を有する。
【0024】
前記セラミック成形体は、酸化ジルコニウムと酸化セリウムからなる複合酸化物粒子を含んで構成する。
【0025】
複数の無機粉体を結着する樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂の、少なくとも1種以上で構成する。
【発明の効果】
【0026】
本発明においては、被加工物5より軟質の粒子を用いて、酸化触媒作用とメカノケミカル作用を有する粒子を含有したセラミック成形体を加工体1にして、この加工体1を運動転写方式で被加工物5に作用させながら鏡面加工を行う。具体的には、酸化触媒作用のある粒子を難加工材の加工表面に作用させて、被加工物表面に酸化層を生成させる。同時に、酸化層に対してメカノケミカル反応を引き起こす粒子を、例えば研削加工のような運動転写方式で酸化層に作用させて固相反応を生じさせ、固相反応による生成物を機械的に除去することによって超平滑な鏡面を創成する。
【0027】
このように被加工物5よりも軟質の粒子で研磨研削を行うと加工歪が生じにくく、加工ダメージ層を生じることなく鏡面を創成できる。しかも酸化触媒作用とメカノケミカル作用を併用して研磨を行うので、従来の加工方法に比べて加工レートが高くなる。従って、本発明による加工方法および加工体を用いると、加工ダメージ層を生じることもなく鏡面を短時間で創成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
[実施形態]
以下に、本発明のセラミック成形体からなる鏡面加工用の加工体と、この加工体を用いた鏡面加工方法の実施形態を具体的に説明する。鏡面加工用の加工体は、図1に示すように、酸化物粒子の合成、沈殿物の作製、水熱処理、加熱処理、セラミック成形体の作製などの過程を経て作製する。
【0029】
(酸化物粒子の合成)
セラミック成形体を構成する酸化物粒子は、それぞれ被加工物より軟質で、被加工物に対して酸化触媒作用およびメカノケミカル作用を有する無機粉体材で構成されている。たとえば、メカノケミカル作用を有する酸化セリウム、酸化ケイ素、酸化触媒作用を有するジルコニウム含有酸化セリウム、酸化クロム、酸化鉄、酸化チタンなどが挙げられる。これらの酸化物粒子は、共沈法、ゾルゲル法、水熱法、フラックス焼成法、メカノケミカル法、および、気相成法などの既知の方法により合成することができる。たとえば、ジルコニウム含有酸化セリウム複合酸化物粒子は、以下の沈殿法と水熱法を経て合成する。
【0030】
(沈殿物の作製)
所定量のセリウム塩およびジルコニウム塩を水に溶解し、セリウムおよびジルコニウムイオンを含有する金属塩水溶液を作製する。金属塩としては、例えば塩化物、硝酸塩、硫酸塩、ナトリウム塩などが使用できるが、これらの金属塩に限定されるものではない。沈殿液としてアルカリ溶液を用意する。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどが挙げられる。
【0031】
前記金属塩水溶液をアルカリ水溶液中に滴下して、pHが8〜11の範囲になるように調整する。このpH調整のために、アルカリ水溶液に金属塩水溶液を加えた後、必要に応じてさらに塩酸等の水溶液を滴下してpH調整を行うことができる。得られた懸濁液は室温において1日程度熟成することが好ましく、熟成を行うことによって、その後の水熱反応を効果的に行うことができる。
【0032】
(水熱処理)
セリウムとジルコニウムからなる水酸化物あるいは水和物の沈殿物を含む縣濁液を、オートクレーブ等を用いて水熱処理を行う。先の沈殿物を含む縣濁液は、そのまま水熱処理を行ってもよいが、水洗を行って沈殿物以外の生成物や残存物を除去し、その後水酸化ナトリウムなどにより再度pH調整することが好ましい。この時のpHの値は8〜11とすることが好ましい。
【0033】
水熱処理温度は、110℃から300℃の範囲とすることが好ましい。水熱処理温度が110℃より低いと、水熱処理の効果が不十分になり、粒子サイズ分布が広くなる。さらに処理後の水酸化物あるいは水和物の結晶性が悪くなり、その後の熱処理工程において焼結しやすくなる。また、水熱処理温度が300℃より高いと、水熱処理時の発生圧力が高くなり、その分だけ装置が高価となる。
【0034】
水熱処理時間は、1時間から4時間の範囲が好ましい。水熱時間が短すぎると、上述した水熱処理温度が低い場合と同様の問題を生じやすい。逆に、水熱処理時間が長すぎた場合には、水熱処理の効果が飽和し複合酸化物粒子の製造コストが高くなる。
【0035】
最終的に得られる複合酸化物粒子として、粒子サイズ分布の良好なものを得るうえで、上記の水熱処理は有効であり、最終目的物である複合酸化物粒子中の酸化セリウムと酸化ジルコニウムの含有量は、酸化セリウムが50〜95wt%、酸化ジルコニウムが5〜50wt%の範囲に設定することが好ましく、この状態において、被加工物に対して適当な酸化触媒作用とメカノケミカル作用を有する複合酸化物粒子が得られる。酸化セリウムの含有量が50wt%未満であると、メカノケミカル作用を充分に発揮することができない。また、酸化ジルコニウムの含有量が5wt%未満であると酸化触媒作用を十分に発揮させることができず、実用可能な加工レートを得ることができない。
【0036】
複合酸化物粒子中の酸化セリウムと酸化ジルコニウムの含有量は、沈殿物作製時の各金属塩の添加量で調整することができる。なお、上記の水熱処理を省いても本発明の目的とする複合酸化物粒子を得ることができ、その場合には水熱処理工程を省略した分だけ複合酸化物粒子の製造コストを削減できる。
【0037】
(加熱処理)
水熱処理により得られたセリウムとジルコニウムからなる複合酸化物粒子は、ろ過し、乾燥した後に加熱処理を行う。ろ過する前に、水洗によりpHを7〜8の付近の中性領域に調整しておくことが好ましい。ろ過し、乾燥した水酸化物、酸化物あるいは水和物は、加熱処理により酸化セリウムと酸化ジルコニウムからなる複合酸化物粒子とすることができる。加熱処理時の雰囲気は特に限定されないが、空気中での加熱処理が最も製造コストがかからない。
【0038】
加熱処理時の加熱温度は、400℃から1000℃の範囲が好ましく、500℃から900℃の範囲がさらに好ましい。加熱温度が400℃より低いと、水熱処理によって得られた水酸化物あるいは水和物粒子が、酸化物粒子へ変化しにくく、さらに酸化セリウムと酸化ジルコニウムからなる均一な複合酸化物を形成しにくくなる。一方、加熱温度が1000℃より高いと、焼結により粒子サイズが大きくなり、さらに粒子径分布が広くなる。加熱処理を加えることにより、酸化セリウムと酸化ジルコニウムからなる複合酸化物粒子の一次粒子が適度に結合した二次粒子が得られる。
【0039】
得られた複合酸化物粒子は、平均粒子サイズが2nmから300nmの範囲にあり、セリウムとジルコニウムの複合酸化物粒子によるメカノケミカル作用と触媒作用の相乗効果により、鏡面加工に適した粒子となる。
【0040】
(セラミック成形体の作製)
酸化触媒作用とメカノケミカル作用を有する複合酸化物粒子は、電気泳動を応用したEDP(Electro Phoretic Deposition)法で作製でき、あるいはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂と混合して、プレスおよび加熱処理を施すことによりセラミック成形体とすることができる。
【0041】
例えば、バインダーとしてフェノール樹脂を用いてセラミック成形体を形成する場合には、酸化触媒作用およびメカノケミカル作用を持つ複合酸化物粒子とフェノール樹脂を混合し、この混合体を円筒状の金型に投入したのちプレスすることにより、外観形状が円柱状のペレット状成形体が得られる。この成形体に加熱処理を施して熱硬化することにより、図2に示すように酸化触媒作用およびメカノケミカル作用を持つ複合酸化物粒子を含むセラミック成形体からなる加工体1が得られる。なお、セラミック成形体の形状は円柱状に限定されるものではなく、金型の形状を変えることによって鏡面加工に適した形状に変形することができる。
【0042】
加工体1は、酸化触媒作用およびメカノケミカル作用を持つ複合酸化物粒子を少なくとも50wt%以上含有することが好ましい。複合酸化物粒子の含有量が50wt%より低いと、被加工物に対する酸化触媒作用およびメカノケミカル作用を充分に発揮できない。また、加工体1のフェノール樹脂の含有量は1.5〜20wt%の範囲であることが好ましい。フェノール樹脂の含有量が1.5wt%より低いと、セラミック成形体の強度が低く形状を保持することが難しくなる。さらにフェノール樹脂の含有量が20wt%より高いと、加熱処理のときに成形体が変形することがある。
【0043】
プレス成形時の圧力は10MPa〜200MPaの範囲であることが好ましい。成形圧力が10MPaよりも低いと、成形体の強度が低く形状を保持することが難しくなる。また、成形圧力が200MPaより高いと、成形体内部に応力が残留し、割れを生じやすい。加熱処理の温度は、150℃〜200℃の範囲であることが好ましい。加熱温度が150℃より低いと熱硬化反応が促進されず、加熱温度が200℃より高いと樹脂の強度が低下する。
【0044】
(加工工具の作製)
図3に示すように得られた加工体1の一群を、リング状に形成されたホルダー2のリング端面に貼り付けて、被加工物の表面を鏡面加工するための加工工具3を構成する。
【0045】
(加工方法)
図4に示すように、平面研削機の加工テーブル4の上面に被加工物(SiC)5を接着固定し、先の加工工具3をスピンドル6に固定して、加工体1と被加工物とが接触する状態で、加工工具3および加工テーブル4の両者を回転駆動することにより鏡面加工を行う。このように加工体1を運動転写方式によって被加工物5に作用させると、被加工物5表面に酸化物層を生成させ、生成された酸化物層をメカノケミカル作用によって反応除去して、加工ダメージ層のない状態で被加工物5の表面を鏡面化できる。
【0046】
鏡面加工時の加工工具3の駆動回転数は5m・s-1から50m・s-1であることが好ましい。加工工具3の駆動回転数が5m・s-1より低速であると、被加工物5に対して酸化触媒作用およびメカノケミカル作用が発現し難い。また、加工工具3の駆動回転数が50m・s-1より高速であると加工体1の強度を保つことができない。加工時の被加工物5表面への加工液の供給の有無、および供給方法は特に限定しないが、被加工物5の焼け、切屑による作業環境の悪化が懸念される場合は、水などの加工液を供給することができる。また、雰囲気は特に限定されないが、空気中、もしくは、酸化反応を促進できる酸素濃度の高い雰囲気が好ましい。
【実施例1】
【0047】
以下、実施例および比較例によって本発明の詳細を説明する。
(複合酸化物粒子の作成)
0.067モルの塩化セリウム(III)七水和物を溶解した400mlの水溶液に、0.008モルの塩化酸化ジルコニウム(IV)八水和物を溶解した。この金属塩水溶液とは別に、0.3モルの水酸化ナトリウムを800mlの水に溶解してアルカリ水溶液を作製した。アルカリ水溶液に、塩化セリウムと塩化酸化ジルコニウムとの混合水溶液を滴下して、水酸化セリウム−水酸化ジルコニウムを含む沈殿物を作製した。このときのpHは10.8であった。約1時間攪拌した後、塩酸水溶液によりpHを8.5に調整し、室温で20時間熟成させた。その後上澄み液を除去した後、沈殿物の懸濁液をオートクレーブによって、200℃で2時間水熱処理した。
【0048】
水熱処理生成物を、pHが8以下になるまで水洗した後、ろ過し、90℃で空気中において乾燥した。さらに乳鉢で軽く解砕したのち、空気中において700℃で2時間の加熱処理を行って、セリウムとジルコニウムからなる複合酸化物粒子を得た。得られた複合酸化物粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、CaF2 構造に対応するスペクトルが観測され、セリウムとジルコニウムが均一に置換された複合酸化物粒子が得られていることを確認した。さらに、粒度分布測定を行ったところ、平均粒子径D50が約0.5μmであることがわかった。
【0049】
(加工体の作製)
セリウムとジルコニウムの複合酸化物粒子とフェノール樹脂(スミライトレジンPR−217;住友ベークライト社製)を体積比率が70対30になるように混合した。この混合粒子を直径15mmの円筒状の金型に3g投入し、50MPaで1分間プレスして、図2に示すペレット状の成形体を作製し、150℃で1時間加熱処理を施して、セリウムージルコニウム複合酸化物粒子を含有したセラミック成形体からなる加工体1を作製した。
【0050】
(加工工具の作製)
図3に示すように、作製した直径15mmの加工体1の60個を、直径が310mmのホルダー2のリング端面に貼り付けてツルーイングを行ない、加工体1の高さを揃え、セリウムージルコニウム複合酸化物粒子を含有した加工体1の一群からなる加工工具3を作製した。
【実施例2】
【0051】
(複合酸化物粒子の作成)
0.075モルの塩化クロム(III)六水和物を400mlの水に溶解した。この塩化クロム水溶液とは別に、0.3モルの水酸化ナトリウムを800mlの水に溶解してアルカリ水溶液を作製した。アルカリ水溶液に塩化クロム水溶液を滴下して、水酸化クロムの沈殿物を作製した。このときのpHは10であった。約1時間攪拌した後、塩酸水溶液によりpHを8.5に調整し、室温で20時間熟成させた。その後、上澄み液を除去した後、沈殿物の懸濁液をオートクレーブによって200℃で2時間水熱処理を施した。
【0052】
水熱処理生成物をpHが8以下になるまで水洗した後、ろ過し、90℃で空気中において乾燥した。さらに乳鉢で軽く解砕し、空気中において700℃で2時間の加熱処理を行って酸化クロム(III)粒子を得た。粒度分布測定を行ったところ、平均粒子径D50が約0.4μmであった。得られた酸化クロム(III)粒子と、実施例1で合成したセリウム−ジルコニウム複合酸化物粒子を重量比率で10対90になるように混合し、酸化クロム(III)粒子とセリウム−ジルコニウム複合酸化物粒子の混合粒子を調製した。以下、実施例1と同様の方法で、酸化クロム(III)粒子とセリウム−ジルコニウム複合酸化物粒子を含有したセラミック成形体からなる加工体で加工工具を作製した。
【実施例3】
【0053】
0.075モルの塩化鉄(III)六水和物を400mlの水に溶解した。この塩化鉄水溶液とは別に、0.3モルの水酸化ナトリウムを800mlの水に溶解し、アルカリ水溶液を作製した。アルカリ水溶液に塩化鉄水溶液を滴下して、水酸化鉄の沈殿物を作製した。このときのpHは10であった。約1時間攪拌した後、塩酸水溶液によりpHを8.5に調整し、室温で20時間熟成させた。その後、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、オートクレーブによって200℃で2時間、水熱処理を施した。
【0054】
水熱処理生成物を、pHが8以下になるまで水洗した後、ろ過し、90℃で空気中において乾燥した。さらに乳鉢で軽く解砕し、空気中において700℃で2時間の加熱処理を行って酸化鉄(III)粒子を得た。粒度分布測定を行ったところ、平均粒子径D50が約0.6μmであることがわかった。以上のように合成したα−酸化鉄(III)粒子と実施例1で合成したセリウム−ジルコニウム複合酸化物粒子を重量比率で10対90になるように混合し、セリウム−ジルコニウム複合酸化物粒子とα−酸化鉄(III)粒子の混合粒子を作成した。以下、実施例1と同様の方法で、α−酸化鉄(III)粒子とセリウム−ジルコニウム複合酸化物粒子を含有したセラミック成形体からなる加工体で加工工具を作製した。
【0055】
[比較例1]
0.75モルの塩化アルミニウム(III)六水和物を400mlの水に溶解した。この金属塩水溶液とは別に、2.25モルの水酸化ナトリウムを800mlの水に溶解してアルカリ水溶液を作製した。アルカリ水溶液に、塩化アルミニウム水溶液を滴下して、水酸化アルミニウムの沈殿物を作製した。このときのpHは8.5であった。約1時間攪拌した後、アルカリ水溶液によりpHを10に調整し、90℃で20時間熟成させた。その後、上澄み液を除去し、沈殿物の懸濁液をオートクレーブによって200℃で2時間水熱処理を施した。
【0056】
水熱処理生成物を、pHが8以下になるまで水洗した後、ろ過し、90℃で空気中において乾燥した。さらに乳鉢で軽く解砕し、空気中において1200℃で2時間の加熱処理を行って酸化アルミニウム粒子を得た。粒度分布測定を行ったところ、平均粒子径D50が約1.2μmであることがわかった。以下、実施例1と同様の方法で、α−酸化アルミニウム粒子を含有したセラミック成形体からなる加工体で加工工具を作製した。
【0057】
[比較例2]
平均粒子径25μmのダイヤモンド粒子を含有したレジンボンド砥石を用意し加工体とした。
【0058】
(加工方法の評価)
以上の各実施例および比較例の加工体を用いた加工性能を調べるため、これらを用いて実際に被加工物を加工して、その加工性能を評価した。被加工物として直径2インチの6H−SiCウェハを用意した。鏡面加工はエムエーティー社の平面研削装置で行った。装置上部に設けられる加工体は1500rpmで回転させ、6H−SiCウェハが貼り付けられたテーブルは100rpmで回転させながら、10μm/minの切込速度でのウェハ表面を鏡面加工した。
【0059】
加工レートは、HEIDENHAIN社のデジタル測長機(SG60M)によってウェハの厚みを測定して確認した。加工後の表面性状は、PHASE SHIFT社製の非接触表面粗さ計(MicroXAM)を用いてSiCウェハの表面粗さ(中心線平均粗さ)Raを測定した。
【0060】
表1に各実施例および比較例で用いた粒子の種類、および平均粒子径を示し、表2に各実施例および比較例の加工体を用いて行なった加工の評価結果を示す。なお、表2に示す加工レートおよび加工面のRa値は、3分間加工を行った時点で測定したものである。加工レートが大きいものほど効率が高く、またRa値が小さいものほど表面平滑性が優れていることになる。
【0061】
【表1】


【0062】
【表2】


【0063】
表2から明らかなように、実施例1、2、3のセリウム−ジルコニウム複合酸化物粒子、セリウム−ジルコニウム複合酸化物/酸化クロム(III)混合粒子、およびセリウム−ジルコニウム複合酸化物/α−酸化鉄(III)混合粒子を含有したセラミック成形体を用いた加工体は、加工レートと加工後の表面平滑性のバランスが良好な加工体であることが分かる。これは、SiCに対して、セリウム−ジルコニウム複合酸化物粒子、酸化クロム(III)粒子が大きな酸化触媒作用を示すためである。また、酸化作用によって生成するSiO2 に対して、セリウム−ジルコニウム複合酸化物粒子は酸化クロム(III)粒子、α−酸化鉄(III)粒子と比較して大きなメカノケミカル作用を示すために、加工レートが高くなった。
【0064】
一方、α−酸化アルミニウム粒子を含有した比較例1の加工体では、加工量がほとんど得られず表面平滑性も著しく劣る。これは、α−酸化アルミニウム粒子を含む加工体の硬度は比較的高いが、SiCよりも低硬度であること、しかも酸化触媒作用およびメカノケミカル作用を備えていないためである。また、ダイヤモンド粒子を含有した比較例2の加工体は、ダイヤモンド粒子の高い硬度を反映して加工レートは高いが、加工後に明らかに加工痕が残り、表面平滑性は著しく劣る。
【0065】
以上のように、本発明の酸化触媒作用とメカノケミカル作用を有する粒子を含有するセラミック成形体を運動転写方式で被加工物に作用させる触媒援用加工法では、優れた加工レートと表面平滑性を同時に実現でき、従来の加工方法では得られない、優れた加工特性を有する加工方法であることが分かる。
【0066】
上記以外に、加工体1の形状は、断面が四角形の横長棒状や、部分円弧棒状、三角柱状など必要に応じて任意形状に形成することができる。加工体1はチップ構造にする必要はない。例えば、加工体1を円盤状に形成して、これを円板状のホルダーの下面に貼り付けて加工工具とすることができる。テーブルに固定した加工体に被加工物を押付けながら相対摺動させて、被加工物の表面を鏡面化することができる。圧力転写方式によって鏡面加工することもできる。本発明は、単結晶炭化シリコンおよび炭化シリコン焼結体などの表面を鏡面化するのに好適であるが、単結晶炭化シリコンなどより僅かに軟質の、他の難加工材の表面を鏡面化する際にも適用できる。ホルダー2はリング状である必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】加工体の形成過程を示す説明図である。
【図2】加工体の一例を示す斜視図である。
【図3】加工工具の一例を示す斜視図である。
【図4】鏡面化方法を概念的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0068】
1 加工体
2 ホルダー
3 加工工具
4 テーブル
5 被加工物
【出願人】 【識別番号】000005810
【氏名又は名称】日立マクセル株式会社
【出願日】 平成18年6月30日(2006.6.30)
【代理人】 【識別番号】100148138
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡

【識別番号】100081891
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 茂雄


【公開番号】 特開2008−6559(P2008−6559A)
【公開日】 平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願番号】 特願2006−181874(P2006−181874)