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【発明の名称】 砥石
【発明者】 【氏名】益子 正美

【要約】 【課題】複数の砥粒を含む金属めっき層を有する砥石の研磨効率の低下を抑える。

【構成】基体10上の金属メッキ層21中には、砥粒22の他に、樹脂製の軟性粒23が含まれている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の砥粒を含む金属めっき層を有する砥石において、
前記金属めっき層には、さらに、前記砥粒及び前記金属メッキ層よりも柔らかい複数の軟性粒が含まれている、
ことを特徴とする砥石。
【請求項2】
請求項1に記載の砥石において、
複数の前記軟性粒の平均粒径は、複数の前記砥粒の平均粒径以下である、
ことを特徴とする砥石。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか一項に記載の砥石において、
複数の前記軟性粒は、弾性材料で形成されている、
ことを特徴とする砥石。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の砥石において、
複数の前記軟性粒は、樹脂で形成されている、
ことを特徴とする砥石。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の砥粒を含む金属めっき層を有する砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レンズ等の光学素子を研削及び/又は研磨する砥石として、樹脂中に砥粒を混ぜたレジンボンド砥石と呼ばれるものがある。このレジンボンド砥石は、砥粒の結合材として樹脂を用いている関係で、砥石寿命が比較的短い。
【0003】
このため、例えば、以下の特許文献1では、台皿等の基体上に、例えば、多数のダイアモンド砥粒を含む金属めっき層を形成した砥石が提案されている。この砥石は、砥粒の結合材として金属を利用しているため、砥石寿命が長くなる等の利点がある。
【0004】
【特許文献1】特開平11−198052公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、砥石のユーザの多くは、前述の特許文献1に記載されている砥石のように、砥石寿命が長くなることを望んでいることは勿論、研磨効率が高くなることも望んでいる。
【0006】
本発明は、このような要望に応えるべく、研磨効率の高い砥石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための請求項1に係る発明の砥石は、
複数の砥粒を含む金属めっき層を有する砥石において、
前記金属めっき層には、さらに、前記砥粒及び前記金属メッキ層よりも柔らかい複数の軟性粒が含まれていることを特徴とする。
【0008】
この砥石では、研磨過程で、被加工物と接触した軟性粒が変形し、砥石の研磨面から軟性物が剥がれ、新たな研磨面が現れるため、研磨効率の低下を抑えることができる。
【0009】
請求項2に係る発明の砥石は、
請求項1に係る発明の砥石において、
複数の前記軟性粒の平均粒径は、複数の前記砥粒の平均粒径以下であることを特徴とする。このように、軟性粒の平均粒径を、砥粒の平均粒径以下にすることで、軟性粒の存在による砥粒の研磨作用の低下を防ぐことができる。
【0010】
請求項3に係る発明の砥石は、
請求項1及び2のいずれか一項に係る発明の砥石において、
複数の前記軟性粒は、弾性材料で形成されていることを特徴とする。
【0011】
軟性粒が弾性材料で形成されていると、この軟性粒が金属メッキ層に対する被加工物のクッションとして機能し、被加工物が金属メッキ層の表面に接触する確率が低くなり、スクラッチ傷の形成を抑制することができる。
【0012】
請求項4に係る発明の砥石は、
請求項1から3のいずれか一項に係る砥石において、
複数の前記軟性粒は、樹脂で形成されていることを特徴とする。
【0013】
軟性粒が樹脂の場合には、金属メッキ層の形成の際に、軟性粒がメッキ液に腐食されず、目的のサイズ及び形状を維持することができる上に、樹脂の弾性で前述のようにスクラッチ傷の形成を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る砥石の一実施形態について、図面を用いて説明する。
【0015】
本実施形態の砥石は、図1に示すように、被加工面の面形状のほぼ反転面形状の基礎面11が形成されている基体10と、この基体10の基礎面11上に形成された砥粒層20とを有する。この砥粒層20は、複数の砥粒22と、この砥粒22よりも柔らかい複数の軟性粒23と、これらの粒22,23の結合材となる非晶質メッキによる金属メッキ層21と、を有する。この金属メッキ層21の形成には、以下で詳細に説明するように、均一析出性の良い無電解メッキ液を用いる。
【0016】
本実施形態の砥石を得るには、先ず、前述した、被加工面の面形状のほぼ反転面形状の基礎面11が形成されている基体10を準備する。基体10の材料は、機械的剛性を保つために金属が最も適している。その中でも、金属メッキ層21を得るための無電解メッキ液に容易に浸食されず、且つ無電解メッキと良好な密着性を得られるもの、つまり、メッキ反応を促す触媒作用を有する金属、若しくは、メッキ前に、容易に基体10の表面に触媒を形成できる金属が適している。前者の材料としては、例えば、鉄やニッケルがあり、後者の材料としては、ステンレスやアルミや黄銅がある。また、寸法の大きな砥石を得る場合には、操作性の容易性から、軽量なアルミを基体材料にするとよい。
【0017】
また、無電解メッキ法では、基体10の表面形状が忠実に転写されるため、基体10の基礎面11を予め滑らかに仕上げておくことが好ましい。
【0018】
無電解メッキの前処理としては、基体10自体が触媒性を有するものであれば、基体10の基礎面11に対して、所定のアルカリ脱脂と活性化処理を行って、この基礎面11の酸化皮膜等を除去する。また、基体10自体が触媒性を有していないものであれば、前述の場合と同様に、基体10の基礎面11に対して、所定のアルカリ脱脂と活性化処理を行った後、基礎面11に触媒層を形成する。触媒層の形成は、基体10の材質が黄銅やステンレスの場合、例えば、塩化パラジウムを主成分とする水溶液中に基体10を浸漬し、触媒となるパラジウムの層を基礎面11に析出させる。また、基体10の材質がアルミニウムの場合は、亜鉛置換液中に基体10を浸漬し、触媒となる亜鉛の層を基礎面11に析出させる。なお、無電解メッキの反応を促す触媒としては、鉄、ルテニウムなどの第8属の金属元素から、ニッケル、パラジウムなどの第10属までの金属元素がある。
【0019】
基体10の準備が完了すると、この基体10を無電解メッキ液に浸す。無電解メッキ液としては、例えば、無電解ニッケル−リン・メッキ液を用いる。そして、この無電解メッキ液中に、砥粒22及び軟性粒23を混入する。砥粒22としては、市販されているダイヤモンドパウダーや立方晶窒化ホウ素(cBN)等を使用する。この砥粒22の粒径は、被加工物の研磨で求める仕上がり状態に応じて選定することになるが、概ね0.1μm〜200μmである。また、軟性粒23としては、ポリアミド、環状ポリオレフィン、スチレン・アクリル等の熱可塑性樹脂の粒を使用する。この軟性粒23の粒径は、後述する理由で、砥粒22の粒径と同じか、それ以下の粒径とする。
【0020】
砥粒22及び軟性粒23をメッキ液に混入した後は、スターラー等でメッキ液を攪拌して、砥粒22及び軟性粒23を均一に分散させながら、基体10をメッキ液中に投入する。基体10をメッキ液中に投入してから、所定時間経過すると、基体10の表面に、砥粒22及び軟性粒23を含む均一な厚さの金属メッキ層21が形成され、これが、砥粒層20となる。この砥粒層20の厚さは、主としてメッキ液温度とメッキ時間により制御する。また、金属メッキ層21中の砥粒22及び軟性粒23の含有量は、メッキ液中に混入させる砥粒22及び軟性粒23の量、及びスターラー等による撹拌条件により制御する。
【0021】
基体10をメッキ液中に投入した後、基体10上の砥粒層20の厚さが目的の厚さになった時点で、砥粒層20が形成された基体10をメッキ液から取出し、これを水洗いすることで、砥石が完成する。
【0022】
ところで、以上の無電解メッキ法の代わりに電解メッキ法を用いる場合、凸部に電解メッキ層が集中して析出し、層厚さを均一にすることができない。これに対して、本実施形態では、無電解メッキ法を採用しているので、凸部や外周部にメッキ層が多く析出することがなく、層厚さを均一にすることができる。また、ここでは、砥粒22及び軟性粒23を液体であるメッキ液中に混入し、金属メッキ層21を析出させる最中、砥粒22及び軟性粒23が混入されているメッキ液を攪拌しているので、析出した金属メッキ層21内には、砥粒22及び軟性粒23が均一に分散することになる。さらに、無電解メッキ法で形成した金属メッキ層21は、砥粒22及び軟性粒23の結合材として作用するので、砥粒22の保持力が高くなり、砥石寿命を長くすることができる。
【0023】
また、本実施形態では、図2に示すように、被加工物Wの研磨過程で、砥石の研磨面25から軟性粒23aが剥がれることにより、新たな研磨面25aが現れ、つまり砥粒22が露出し易くなり、研磨効率の低下を抑えることができる。このように、砥石の研磨面25から軟性粒23が剥がれるのは、研磨過程で、結合材である金属メッキ層21に埋めこられている軟性粒23bが被加工物Wからの力で変形し、金属メッキ層21から抜け落ち易いからである。
【0024】
また、本実施形態の砥石では、研磨過程で、条痕状のスクラッチ傷が被加工物に形成されるのを抑制することができる。このスクラッチ傷の形成・抑制メカニズムについては明確に解明されていないが、仮に、図3(b)に示すように、砥粒層20A中に軟性粒23が含まれていない場合、被加工物Wが金属メッキ層21の表面に接触する確率が高く、この金属メッキ層21との接触によりスクラッチ傷Sが形成されると考えられる。一方、本実施形態では、同図(a)に示すように、砥粒層20中に軟性粒23が含まれているので、この軟性粒23が金属メッキ層21に対する被加工物Wのクッションとして機能し、被加工物Wが金属メッキ層21の表面に接触する確率が低くなるからと考えられる。なお、軟性粒23のクッション性を機能させる場合、この軟性粒23の粒径はある程度大きい方が好ましいが、砥粒22の粒径よりも大きいと、砥粒22による研磨作用が低減するので、この軟性粒23の平均粒径は砥粒22の平均粒径より大きくないことが好ましい。
【0025】
「実施例」
図1に示す砥石の具体的な製造方法について、図4に従って説明する。
【0026】
まず、基体10の素材として、直径200mmのA5056(アルミ合金)材を準備する。この素材をNC旋盤で加工し、半径219.9mmの球面を形成すると共に、この球面上に、球面の中心から45°毎に放射状の溝と、球面の中心と同心の環状溝とを形成する。これらの溝の幅は3mmで、溝深さは1mmである。この球面は、前述の基礎面11と成し、その表面粗さは、例えば、Ra0.2以下にしてある。
【0027】
基体10の加工が終了すると、この基体10に対して、メッキ前処理を施す。
【0028】
このメッキ前処理では、基体10の表面を脱脂してから、図4(a)に示すように、基礎面11を除く表面をマスキング剤31でマスキングする。マスキング剤31としては、例えば、ターコ5980−1A(米国、アトフィナケミカルズ社の商品名)を用いる。このマスキング剤31が硬化すると、基体10の基礎面11に対して、アルカリ脱脂と活性化処理とを順に行った後、亜鉛置換液中に基体10を30秒浸漬し、触媒となる亜鉛層(図示されていない)を基礎面11に析出させる。
【0029】
次に、同図(b)に示すように、砥粒22及び軟性粒23が混入している85℃の無電解ニッケル−リン・メッキ液32中に、基体10を投入する。この基体10が投入されている間、スターラー33で無電解ニッケル−リン・メッキ液32を撹拌し、砥粒22及び軟性粒23を均一に分散させる。
【0030】
無電解ニッケル−リン・メッキ液32は、硫酸ニッケルと次亜リン酸ナトリウムとを主成分としている。砥粒22としては、平均粒径0.5μmのダイヤモンドパウダーを用い、軟性粒23としては、平均粒径0.3μmのスチレン・アクリル粒子を用いている。また、この砥粒22は、無電解ニッケル−リン・メッキ液32中に、2g/Lの割合で混入させ、軟性粒23は、無電解ニッケル−リン・メッキ液32中に、1g/Lの割合で混入させている。
【0031】
本実施例では、無電解ニッケル−リン・メッキ液32中に基体10を約6時間投入しておき、基体10の基礎面11上に、0.1mmの厚さの金属メッキ層21を析出させる。この金属メッキ層21内には、複数の砥粒22及び複数の軟性粒23が均一に混入している。このように、複数の砥粒22及び複数の軟性粒23が混入している金属メッキ層21が砥粒層20を形成する。
【0032】
基体10の基礎面11上に、目的の厚さの砥粒層20が形成されると、図4(c)に示すように、この砥粒層20が形成された基体10をメッキ液から取出し、これを水洗いした後、マスキング剤31を除去すると、砥石が完成する。この砥石の研磨面25は、基体10の基礎面11の形状に対応して、球面を成し、その半径は220mmである。また、この研磨面25の表面には、基体10の基礎面11上に形成した溝に対応した研磨粉排出用の溝26(図1)が形成されている。
【0033】
「性能試験例」
以上の実施例で示した砥石に関して、性能試験を行ったので、以下で説明する。
【0034】
この性能試験では、以上の実施例の砥石での試験の他に、比較対象として、軟性粒23を有していない従来の砥石での試験も行った。この従来の砥石は、軟性粒23を有していないことを除いて、以上の実施例の砥石と同一である。
【0035】
この性能試験では、実施例の砥石及び従来の砥石に対して、以下の加工条件で行った。
【0036】
被加工物の材質:石英(SiO
被加工物の寸法と形状:直径140mm、凹面
研磨装置:市村製オスカー型
研磨条件 砥石回転数:200rpm
被加工物回転数:50rpm
ゲージ圧:0.4MPa
研磨液:水1Lあたり、酸化セリウムを主成分とする研磨剤を200g混入したもの
この性能試験の結果を図5に示す。なお、同図中に示す研磨量の測定では、ディジタル式マイクロメータを用いて、被加工物の中心の厚さの変化を測定した。
【0037】
図5に示すように、本実施例の砥石を用いた場合の被加工物の磨耗量は、研磨開始から60分後までの各5分間の全てで、1μmであった。これに対して、従来の砥石を用いた場合の被加工物の磨耗量は、研磨開始から最初の5分間では1μmであったが、次の5分間では0.5μm、さらに次の5分間では0.0μm、つまり被加工物が研磨されなくなり、以降の時間では研磨を中止した。
【0038】
また、本実施例の砥石で、60分間研磨した被加工物の表面を目視したところ、スクラッチ傷は見当たらなかった。一方、従来の砥石で、中止までの15分間研磨した被加工物の表面を目視したところ、被加工面の全体に条痕状のスクラッチ傷が存在していた。
【0039】
以上の結果からも理解できるように、本実施例の砥石は、研磨効率の低下を防ぐことができる。また、スクラッチ傷の形成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る一実施形態として砥石の要部断面図である。
【図2】本発明に係る一実施形態としての砥石の研磨効率の低下抑制メカニズムを示す説明図である。
【図3】本発明に係る第一の実施形態としての砥石のスクラッチ傷抑制メカニズムを示す説明図である。
【図4】本発明に係る一実施形態としての砥石の製造方法の実施例を示す説明図である。
【図5】図4に示す方法で製造した実施例の砥石の性能試験結果を示す説明図である。
【符号の説明】
【0041】
10:基体、11:基礎面、20:砥粒層、21:金属メッキ層、22:砥粒、23:軟性粒、25:研磨面、W:被加工物
【出願人】 【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
【出願日】 平成18年6月26日(2006.6.26)
【代理人】 【識別番号】110000198
【氏名又は名称】特許業務法人湘洋内外特許事務所


【公開番号】 特開2008−864(P2008−864A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−175111(P2006−175111)