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【発明の名称】 金型の表面改質方法および金型
【発明者】 【氏名】横井 大円

【氏名】春名 靖志

【要約】 【課題】金型の内部に靱性の高い残留オーステナイトを残存させることにより、耐割れ性を向上させ、金型寿命の延長を図ることを可能とした金型およびその方法を提供する。

【解決手段】硬さ40〜68HRC、残留オーステナイトが1〜30vol%からなる金型材に、粒径0.05〜2.0mm、硬さ400〜1000HVの投射材を用い、ショットピーニングを施す金型の表面改質方法。および上記にさらに加え、100〜500℃の温度域でショットピーニングを施す金型の表面改質方法およびその金型。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬さ40〜68HRC、残留オーステナイトが1〜30vol%からなる金型材に、粒径0.05〜2.0mm、硬さ400〜1000HVの投射材を用い、ショットピーニングを施すことを特徴とする金型の表面改質方法。
【請求項2】
請求項1に加え、100〜500℃の温度域でショットピーニングを施すことを特徴とする金型の表面改質方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の表面改質方法によって得られた金型。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、金型寿命の改善方法およびその方法によって寿命を改善した金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、家電などの部品を製造するに当たり、金型寿命の向上は重要な課題となってきている。その金型寿命には、型材だけでなく、潤滑条件、型設計などの様々な要因が影響している。そこで金型の面では、型材、熱処理、表面処理での取組みが進められてきた。その表面処理はその処理自体が単独で開発されることが多く、型材と表面処理を組み合わせた方法は殆ど知られていない。
【0003】
一方で表面に硬度、圧縮残留応力を付与する表面処理としてのショットピーニングは幅広く適用されている。このショットピーニングにより金型表面の硬化、圧縮残留応力の付与が可能であるが、しかし、高硬度の金型に対し、ショットピーニングの効果を得るためには、高硬度の投射材をショットすることが必要であるが、金型表面の粗さ低下が問題となり、これを回避するためには、特殊な投射材、投射装置を必要とする。
【0004】
そこで、例えば特開平10−100069号公報(特許文献1)に開示されているように、複数段のショットピーニングのうち、少なくとも1段を、粒径が30〜250μmで硬度が800〜2000HVで概ね球形状で比重が11〜20である投射材を投射するショットピーニング方法が提案されている。また、特開平10−217122号公報(特許文献2)に開示されているように、熱処理した金型の表面に対して、硬度が熱処理後の金型表面のビッカース硬度HVの80〜160%であり、かつ粒子径が30〜150μmであるほぼ球径の投射材を速度20〜150m/sで投射する金型表面の処理方法が提案されている。
【0005】
また、特開2002−36115号公報(特許文献3)に開示されているように、ビッカース硬さHvが900乃至1100、かつ、ヤング率が200000MPA以下のピーニング材を用いてショットピーニング処理方法が提案されている。さらに、特開2003−191166号公報(特許文献4)に開示されているように、金型材料に対して高硬度かつ低ヤング率のアモルファス投射材によりショットピーニングする金型寿命を改善する方法が提案されている。
【特許文献1】特開平10−100069号公報
【特許文献2】特開平10−217122号公報
【特許文献3】特開2002−36115号公報
【特許文献4】特開2003−191166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、ショットピーニングは簡易な表面処理法であり、表面に硬度と圧縮残留応力を付与することができるため、自動車部品などで幅広く適用されてきた。また、高硬度の金型材でも適用されているが、ピーニング効果を得るためには、高硬度の投射材を高速度でショットする必要がある。しかし、表面粗さが低下するという課題がある。さらには、金型材の硬さが高い場合、所要の硬さ、圧縮残留応力が得られないことも問題であった。
【0007】
そこで、表面粗さの低下を極力小さくするために、上述した特許文献が提案されている。すなわち、特許文献1は、高硬度、高比重の投射材を用い、複数段のショットピーニングを施す方法であるが、しかしながら、型材の組織については全く考慮されていないし、特殊な投射材を必要とするという問題がある。また、特許文献2は、処理面の粗さを極小にするショットピーニング法であって、上記特許文献1と同様に、型材の組織については全く考慮されていない。
【0008】
また、特許文献3は、高硬度、低ヤング率のアモルファス系投射材を用いる方法であって、上記特許文献1と同様に、金型材の組織については全く考慮されていないし、特殊な投射材を必要とするという問題がある。さらに、特許文献4は、特許文献3と同様に、高硬度、低ヤング率のアモルファス系投射材を用いる法であって、やはり型材の組織については全く考慮されていないし、特殊な投射材を必要とするという問題がある。このように、粒径の小さい投射材や低ヤング率の投射材など特殊の投射材、投射装置を用いることが提案されてきたが、ショットピーニング方法のみで課題解決を図っており、金型材の組織との関係をも考慮されていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述したような問題を解消するために発明者らは鋭意開発を進めた結果、型材中に残留オーステナイトを残存させた状態でショットピーニングすることにより、表面粗さを低下させることなく、金型表面に硬度、圧縮残留応力を付与する。すなわち、残留オーステナイトを残存させた状態でショットピーニングすると残留オーステナイトが微細組織(ナノ結晶、局部的にはアモルファス化)を有するマルテンサイトに変態し、金型表面の硬度上昇、圧縮残留応力の増加に付与する。金型の内部に靱性の高い残留オーステナイトを残存させることにより、耐割れ性が向上するものである。
【0010】
その発明の要旨とするところは、
(1)硬さ40〜68HRC、残留オーステナイトが1〜30vol%からなる金型材に、粒径0.05〜2.0mm、硬さ400〜1000HVの投射材を用い、ショットピーニングを施すことを特徴とする金型の表面改質方法。
(2)前記(1)に加え、100〜500℃の温度域でショットピーニングを施すことを特徴とする金型の表面改質方法。
(3)前記(1)または(2)に記載の表面改質方法によって得られた金型にある。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、金型材中に残留オーステナイトを残存させた状態でショットピーニングすることにより、表面粗さを低下させることなく、金型表面に硬度、圧縮残留応力を付与し、金型寿命向上により、トータルコスト低減を図ることができる極めて優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る金型としては耐摩耗性、強度が必要であるため、硬さ40〜68HRCとした。40HRC未満では耐摩耗性および強度を得るには十分でなく、68HRCを超えるとピーニング効果が十分得られなくなることから、硬さの上限を68HRCとした。
【0013】
また、残留オーステナイトが1〜30vol%からなる金型材とした理由は、残留オーステナイトは母材の靱性の向上に寄与する。ショットピーニングによって微細組織(ナノ結晶、局所的にはアモルファス化)を有するマルテンサイトに変態し、金型表面の硬度上昇、圧縮残留応力の増加に寄与する。その効果を得る下限は1vol%とした。残留オーステナイトが多過ぎると、使用中に径年変化を生じる。また、ピーニング効果を逆に緩和するので、その上限を30vol%とした。初期の残留オーステナイト量は焼入温度、焼戻温度によりコントロールできる。好ましくは、10〜20vol%とする。
【0014】
投射材粒径は小さいほど金型表面の粗さは小さくなるが、小さ過ぎるとピーニング効果が得られないため、下限を0.05mmとした。粒径が大きくなると金型表面の粗さが大きくなるため、その上限を2.0mmとした。また、投射材硬さはピーニング効果を得るため、投射材の硬さの下限は400HVとした。硬さが高過ぎると金型表面の粗さが大きくなるために、その上限を1000HVとした。
【0015】
次に、投射材形状は表面粗さを小さくするため、望ましくは、投射材形状は球状とする。さらに、加工温度は加工発熱が生じるので、金型材の加工開始時点の温度は室温であれば十分である。しかし、金型材の温度を上げるとピーニング効果が高くなることから、金型材の加工開始時点の温度は100℃以上であれば望ましい。一方、加工開始時点の温度が高過ぎると逆に圧縮残留応力が緩和されるために、上限は500℃とした。
【実施例】
【0016】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
表1に示す化学成分の各種の金型用鋼を用いて粗加工し、作製した金型を表2に示すような、それぞれ焼入れ、焼戻しの熱処理を行い残留オーステナイトを残存させるように熱処理を行い、仕上加工して試験金型を得た。その後、エアノズルを用い、かつ圧縮エアの圧力を種々変えて、かつ加工開始時点の金型の温度を変化させ、それぞれの金型に投射材粒径および投射材硬さの相違する各種投射材によってそれぞれショットピーニングを行った。投射材は全てほぼ球形状で、比重7〜9、投射圧力は0.4〜0.8MPaの条件下で行った。
【0017】
【表1】


その時の母材硬さを表2に、初期残留オーステナイト量、ショット後の金型表面の残留オーステナイト量および最大表面粗さ、表面硬さおよび圧縮残留応力を表3に示した。なお、残留オーステナイト量、残留応力はX線回折法により測定した。表面粗さは粗さ計にて測定した。また、使用外径は80mm、内径は40mmのダイスの割れ発生までの寿命を測定した金型寿命を表3に示す。なお、表1に示すSKD61ダイスは、被加工材S45C、1200℃熱間加工を行った。また、SKD11ダイスは、被加工材S45Cであり、SKH51ダイスは、被加工材SUJ2、冷間加工を行った。
【0018】
【表2】


【0019】
【表3】


表2および表3に示すように、鋼種を3つに区分し、それぞれの区分による本発明例と比較例との特性を示す。No.1〜8は鋼種SKD61の場合であって、No.1〜3、No.5、8は比較例であり、No.4、No.6〜7は本発明例である。比較例No.1は、母材硬さが低いために、金型の表面硬さ、圧縮残留応力が低く、金型寿命が劣る。比較例No.2は、初期残留オーステナイト量およびショット後金型表面の残留オーステナイト量がないために、金型の表面硬さ、圧縮残留応力が低く、金型寿命が劣る。
【0020】
比較例No.3は、ショット投射材の投射材硬さが低いために、金型の表面硬さ、圧縮残留応力が低く、金型寿命が劣る。比較例No.5は、ショット投射材の投射材粒径が大きいために、金型の最大表面粗さが大きく、かつ圧縮残留応力が低く、金型寿命が劣る。比較例No.8は、ショット投射材の投射材硬さが大きいために、金型の最大表面粗さが大きく、かつ金型寿命が劣る。これに対し、本発明例であるNo.4、No.6〜7は、いずれも、本発明の条件を満足していることから、いずれの特性も上記比較例に比較して優れていることが分かる。
【0021】
また、No.9〜14は鋼種SKD11の場合であって、No.9、12〜14は本発明例であり、No.10〜11は本発明例である。比較例No.10は、ショット投射材の投射材硬さが低いために、金型の圧縮残留応力が低い。比較例No.11は、ショット投射材の投射材粒径が小さいために、金型の圧縮残留応力が低い。これに対し、本発明例であるNo.9、No.12〜14は、いずれも、本発明の条件を満足していることから、いずれの特性も上記比較例に比較して優れていることが分かる。
【0022】
さらに、No.15〜20は鋼種SKH51の場合であって、No.15〜16、18は本発明例であり、No.17、19〜20は比較例である。比較例No.17は、初期残留オーステナイト量が多いために、金型の圧縮残留応力がやや低く、金型寿命が劣る。比較例No.19は、母材硬さが高いために、金型の圧縮残留応力が低く、金型寿命が劣る。比較例No.20は、ショットの投射温度が高いために、金型の最大表面粗さが大きく、かつ圧縮残留応力が低く、金型寿命が劣る。これに対し、本発明例である、No.15〜16、18のいずれも、本発明の条件を満足していることから、いずれの特性も上記比較例に比較して優れていることが分かる。
【0023】
上述したように、金型材中に残留オーステナイトを残存させた状態でショットピーニングすることにより、表面粗さを低下させることなく、金型表面に硬度、圧縮残留応力を付与することができ、金型の内部に靱性の高い残留オーステナイトが残存し、耐割れ性が向上し、金型寿命の延長を図ることができ、その結果、トータルコストの低減を図ることができる極めて工業的に優れている金型を提供することにある。


特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊
【出願人】 【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
【出願日】 平成19年2月27日(2007.2.27)
【代理人】 【識別番号】100074790
【弁理士】
【氏名又は名称】椎名 彊


【公開番号】 特開2008−207279(P2008−207279A)
【公開日】 平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願番号】 特願2007−46359(P2007−46359)