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【発明の名称】 歯車およびその研磨方法
【発明者】 【氏名】江渕 弘章

【氏名】黒柳 知也

【要約】 【課題】短時間でかつ高精度に化学研磨を行うことができる歯車およびその研磨方法を提供する。

【解決手段】歯面に砥石もしくは砥粒による機械研磨を施した後に化学研磨を施した歯車Gにおいて、噛み合い時に他の歯車と接触する歯末部3の歯面における前記化学研磨の研磨代2aよりも、噛み合い時に他の歯車と接触しない歯元部4の歯面における前記研磨代2bが少なくなるように設定する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯面に砥石もしくは砥粒による機械研磨を施した後に化学研磨を施した歯車において、 噛み合い時に他の歯車と接触する歯末部の歯面における前記化学研磨の研磨代よりも、噛み合い時に他の歯車と接触しない歯元部の歯面における前記研磨代が少ないことを特徴とする歯車。
【請求項2】
前記歯元部の歯面に対して、前記化学研磨を行わないマスキング処理が施されることを特徴とする請求項1に記載の歯車。
【請求項3】
前記マスキング処理は、前記化学研磨を行う際に使用する研磨溶液により前記歯元部の歯面が研磨されないように保護する保護部材を塗布する処理を含むことを特徴とする請求項2に記載の歯車。
【請求項4】
歯面に砥石もしくは砥粒による機械研磨を施した後に化学研磨を施す歯車の研磨方法において、
前記化学研磨を行う際に、噛み合い時に他の歯車と接触する歯末部の歯面における前記化学研磨の研磨代よりも、噛み合い時に他の歯車と接触しない歯元部の歯面における前記研磨代を少なく設定することを特徴とする歯車の研磨方法。
【請求項5】
前記化学研磨を施す前に、前記歯元部の歯面に対して前記化学研磨を行わないマスキング処理を施すことを特徴とする請求項4に記載の歯車の研磨方法。
【請求項6】
前記マスキング処理は、前記化学研磨を行う際に使用する研磨溶液により前記歯元部の歯面が研磨されないように保護する保護部材を塗布する処理を含むことを特徴とする請求項5に記載の歯車の研磨方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
この発明は、砥石もしくは砥粒を用いた研磨および化学研磨を施す歯車およびその研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種機械装置に用いられる歯車は、その動力伝達効率を向上させるため、あるいはギヤノイズを低減するために、歯形の形状・寸法の精度を向上させ、また歯面の摩擦係数を低下させて、歯面の面性状を向上させることが課題となっている。そのため、歯車を製作する際に、歯面部分の歯切り加工やシェービング、所定の熱処理等が行われた後、熱処理により生じた歪みや表面の異常層を除去して歯面の面精度を向上させるための仕上げ加工として、砥石や砥粒を用いた研磨あるいはラッピングなどの歯面の研磨加工が行われる。そして、砥石研磨やラッピングなどの研磨加工後の歯面の表面粗さを更に改善するために、例えばフッ化水素系や過酸化水素系の化学研磨溶液中に金属製の被研磨材である歯車を浸漬させ、歯車の表面を腐食させることで、歯車表面を平滑な光沢面に仕上げる化学研磨が行われる場合がある。そのような歯車の化学研磨に関する発明が、特許文献1に記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載されているディファレンシャルギヤのリングギヤ,ドライブピニオンの製造方法によれば、歯切りされてから焼き入れが行われ、焼き入れ歪みが取り除かれた後に、化学研磨が行われ、最後に表面処理(化成処理)によって仕上げられる。そのため、化学研磨を行うことにより、歯面研磨やラッピング工程で取り除けなかった、あるいは砥粒により生じた微小凹凸状表面の凸部が溶解し、歯面の表面粗さが小さくなり、その結果より滑らかな歯面を有するリングギヤ,ドライブピニオンを得ることができる、とされている。
【0004】
また、特許文献2には、浸炭処理した歯車の浸炭異常層を除去する化学研磨を行う際に、歯車の疲労強度に関係する歯元部(歯底部)のみを化学研磨するために、少なくとも歯車の歯元部(歯底部)以外の部分にメッキ処理を施すようにした歯車化学研磨のマスキング方法に関する発明が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−7221号公報
【特許文献2】特開平3−253582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、化学研磨を行う際には、化学研磨溶液中に浸漬させる被研磨材の表面の研磨むらを回避して均一に仕上げるために、被研磨材の浸漬中に化学研磨溶液を循環させることが望ましい。しかしながら、上記の各特許文献に記載されている化学研磨のように、歯車のような凹凸のある比較的複雑な形状の部材を化学研磨の対象とする場合には、化学研磨溶液を循環させたとしても、歯車の各部に不可避的な研磨状態の差が生じてしまう。すなわち、化学研磨溶液が循環し易い歯車の歯先あるいは歯末部分と比較して、歯車の歯元あるいは歯底部分は化学研磨溶液が循環し難くなる。そのため、歯車の歯元あるいは歯底部分は、歯先あるいは歯末部分と比較して化学研磨され難くなり、歯先あるいは歯末部分と歯元あるいは歯底部分との間で研磨状態に差が生じてしまう。その結果、化学研磨による加工時間が増大し、また歯形の形状・寸法の精度を向上させることが困難になってしまうという問題があった。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、短時間でかつ高精度に化学研磨を行うことができる歯車およびその研磨方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、歯面に砥石もしくは砥粒による機械研磨を施した後に化学研磨を施した歯車において、噛み合い時に他の歯車と接触する歯末部の歯面における前記化学研磨の研磨代よりも、噛み合い時に他の歯車と接触しない歯元部の歯面における前記研磨代が少ないことを特徴とする歯車である。
【0009】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記歯元部の歯面に対して、前記化学研磨を行わないマスキング処理が施されることを特徴とする歯車である。
【0010】
そして、請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記マスキング処理が、前記化学研磨を行う際に使用する研磨溶液により前記歯元部の歯面が研磨されないように保護する保護部材を塗布する処理を含むことを特徴とする歯車である。
【0011】
一方、請求項4の発明は、歯面に砥石もしくは砥粒による機械研磨を施した後に化学研磨を施す歯車の研磨方法において、前記化学研磨を行う際に、噛み合い時に他の歯車と接触する歯末部の歯面における前記化学研磨の研磨代よりも、噛み合い時に他の歯車と接触しない歯元部の歯面における前記研磨代を少なく設定することを特徴とする歯車の研磨方法である。
【0012】
また、請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記化学研磨を施す前に、前記歯元部の歯面に対して前記化学研磨を行わないマスキング処理を施すことを特徴とする歯車の研磨方法である。
【0013】
そして、請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記マスキング処理が、前記化学研磨を行う際に使用する研磨溶液により前記歯元部の歯面が研磨されないように保護する保護部材を塗布する処理を含むことを特徴とする歯車の研磨方法である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、化学研磨と比較して形状・寸法を高精度に仕上げることが可能な砥石を用いた研磨あるいはラッピングなどの機械研磨により歯面の研磨が行われた後、更に表面粗さを向上させることが可能な化学研磨が行われて、歯面が所望する表面粗さに仕上げられることで歯車が構成される。そして、その化学研磨の際には、化学研磨され易い歯末部の研磨代に対して、化学研磨され難い歯元部の研磨代が少なく設定されるため、歯車を構成するための化学研磨に要する時間を短縮することができる。
【0015】
また、請求項2の発明によれば、歯元部の歯面に、その部分を化学研磨溶液に浸漬させないようにするマスキング処理が施される。すなわち、歯車を化学研磨する場合、化学研磨され難く、また歯車として応力が集中する歯元部の歯面は化学研磨されない。そのため、歯車全体の化学研磨に要する時間を短縮できるとともに、歯元部の形状・寸法および表面状態を機械研磨により精度良く仕上げておくことで、歯元部の強度および表面硬度を確保することができる。
【0016】
そして、請求項3の発明によれば、化学研磨溶液に浸食されない保護部材を歯元部の歯面に塗布することで、マスキング処理が行われる。そのため、容易にマスキング処理を行い、歯元部の歯面を化学研磨溶液から保護することができる。
【0017】
一方、請求項4の発明によれば、化学研磨と比較して形状・寸法を高精度に仕上げることが可能な砥石を用いた研磨あるいはラッピングなどの機械研磨により歯面の研磨が行われた後、更に表面粗さを向上させることが可能な化学研磨により歯面の研磨が行われる。そして、その化学研磨の際には、化学研磨され易い歯末部の研磨代に対して、化学研磨され難い歯元部の研磨代が少なく設定されるため、歯車全体の化学研磨に要する時間を短縮することができる。
【0018】
また、請求項5の発明によれば、歯元部の歯面に、その部分を化学研磨溶液に浸漬させないようにするマスキング処理が施され、その後、化学研磨が行われる。したがって、歯車を化学研磨する場合、化学研磨され難く、また歯車として応力が集中する歯元部の歯面は化学研磨されない。そのため、歯車全体の化学研磨に要する時間を短縮できるとともに、歯元部の形状・寸法および表面状態を機械研磨により精度良く仕上げておくことで、歯元部の強度および表面硬度を確保することができる。
【0019】
そして、請求項6の発明によれば、化学研磨溶液に浸食されない保護部材を歯元部の歯面に塗布することで、マスキング処理が行われる。そのため、容易にマスキング処理を行い、歯元部の歯面を化学研磨溶液から保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。前述したように、歯車の動力伝達効率を向上させるため、あるいはギヤノイズを低減するためには、歯面の面性状を向上させること、すなわち歯形の形状・寸法を高精度に仕上げること、および、歯面の表面粗さを小さく(細かく)して歯面の摩擦係数を低下させることが必要となる。歯形の形状・寸法を精度良く仕上げるために、砥石による研磨やラッピングあるいはホーニングなど(以下、これらの研磨を化学研磨に対して機械的な研磨という意味から“機械研磨”と記す)が行われる。そして、更に歯面の表面粗さを向上させるために、例えばフッ素溶液や過酸化水素溶液などの化学研磨溶液中に歯車を浸漬させ、歯面を腐食させることにより歯面を平滑な光沢面に仕上げる化学研磨が行われる。
【0021】
この化学研磨は、比較的容易に(低コストで)被研磨材の表面粗さを小さくして表面の摩擦係数を低下させることが可能である反面、機械研磨と比較すると、研磨の際の形状・寸法の精度を管理することが難しい面がある。特に歯車のような凹凸があり複雑な表面形状のものを研磨の対象とする場合は、研磨むらをなくし表面を均一に仕上げるためには化学研磨に費やす時間を長くする必要がある。例えば、化学研磨溶液が循環し易く、そのため化学研磨され易い歯車の歯先あるいは歯末部分に対して、歯車の歯元あるいは歯底部分は、化学研磨溶液が循環し難く、そのため化学研磨され難くなる。このように、歯車の歯面を化学研磨する場合は、歯先あるいは歯末部分と歯元あるいは歯底部分とで研磨速度に違いが生じることから、歯車の歯面全体を一律に化学研磨しようとすると、全体として化学研磨に要する研磨時間が長くなってしまう。
【0022】
そこでこの発明では、以下に示すように歯車を構成すること、また歯車の研磨方法を用いることによって、短時間でかつ高精度に歯車の歯面を研磨して仕上げることができるように改良されている。図1は、この発明を適用した実施例における歯車の例を示す図であって、歯車Gの歯1の一部を、歯車Gの軸に直角な断面で示している。図1において、実線L1,L2,L3,L4は歯1の歯形を表す外形線であり、それぞれ、歯1の歯面1a,歯先1b,すみ肉部1c,歯底1dを表している。また、この図1に示す歯車Gはインボリュート歯車であり、したがって歯面1aの歯形を示している実線L1はインボリュート曲線となっている。
【0023】
図1に示す歯車Gは、例えば車両用の変速機あるいは減速機構などの動力伝達機構に用いられる歯車であって、強度・耐久性および動力伝達効率の向上を目的として、熱処理(焼き入れ、具体的には浸炭処理)が施され、その後、砥石による研磨もしくはラッピングなどの機械研磨が施され、さらにその後、化学研磨が施されることによって構成されている。
【0024】
また、歯車Gは、化学研磨の際の歯面1aに対する研磨代が、歯先1b側よりも歯底1d側の方が少なくなるように設定されている。具体的には、図1において、破線L5で示される外形線が、歯1の化学研磨が行われる前の歯形を表す外形線となっている。したがって、その破線L5と、歯面1aを表している実線L1とで囲まれた部分が、歯車Gを化学研磨する際の歯面1aの研磨代2の断面を表している。
【0025】
ここで、歯車Gが他の歯車と噛み合わされる噛み合い時に、該他の歯車の歯面と接触する歯車Gの歯面部分を歯末部3とし、該他の歯車の歯面と接触しない歯車Gの歯面部分を歯元部4とすると、歯車Gは、歯末部3における化学研磨を行う際の研磨代2aよりも、歯元部4における化学研磨を行う際の研磨代2bが少なくなるように構成されている。そして、この実施例では、化学研磨前の歯形の外形線、すなわち研磨代2の外形線を示している破線L5は、上記の歯面1aの歯形を示している実線L1と同様、インボリュート曲線となっていて、そのインボリュート曲線である破線L5により歯末部3の研磨代2aの部分と歯元部4の研磨代2bの部分とが繋がれている。言い換えると、研磨代2の断面の外形線は、研磨代が多い歯末部3から研磨代が少ない歯元部4へかけて、徐々に研磨代が少なくなるようにして、インボリュート曲線である破線L5によりなだらかに繋がれている。
【0026】
また、化学研磨を行う際の歯車Gには、部分的に、歯車Gの表面を化学研磨溶液から保護するため、すなわち化学研磨されないようにするためのマスキング処理が施されている。すなわち、図1において、歯面1aの歯元部4に、歯車Gの表面を化学研磨溶液から保護する保護部材5が塗布されている。
【0027】
歯車Gの歯元部4、すなわち噛み合い時に他の歯車の歯面と接触しない歯車Gの歯面部分であって、歯面1aの歯元側からすみ肉部1cおよび歯底1dに跨った部分は、歯車Gが歯車として負荷を受けた際に応力が集中する部分である。したがって、歯元部4には、強度および表面硬度を確保するために、形状・寸法を高精度に管理することが要求される。また、歯元部4は、噛み合い時に他の歯車の歯面と接触しないので、噛み合い時に他の歯車の歯面と接触する歯末部3と同程度に摩擦係数を低下させることは要求されない。したがって、歯車Gの歯元部4は、機械研磨によりその部分の寸法・形状および表面粗さが仕上げられ、化学研磨は行われない。すなわち、歯元部4には化学研磨が施されないように、上記のようにマスキング処理が施されるのである。
【0028】
また、歯元部4においてマスキング処理を施す範囲の境界部分、すなわち保護部材5の塗布を開始する部分は、機械研磨工程において、化学研磨の際の研磨代2の歯元側の始点部分が、図2に示すように、その断面が角度αを持つ盛り上がり形状となるように形成されている。この場合の角度αは、90度以下で、かつ歯切り加工時に他の歯と干渉しない範囲の最大の角度に設定される。こうすることで、マスキング処理を行う際に、保護部材6を塗布する部分の目印とすることができるとともに、化学研磨工程後に歯元部4のマスキング境界部分に段差が生じてしまうことを防止することができる。
【0029】
つぎに、この発明による歯車Gの研磨方法について説明する。前述したように、歯車Gは、動力伝達機構に用いられる歯車であって、強度・耐久性および動力伝達効率を向上させるため、歯切り加工後に、熱処理(浸炭処理)が施され、その後、機械研磨が施され、さらにその後、化学研磨が施される。すなわち、歯車Gは、先ず、歯切り加工された後、歯車Gの表面に浸炭処理が施され、その後、歯車Gの表面の浸炭異常層を除去し、表面粗さを小さくして摩擦係数を低下させるため、機械研磨が施される。
【0030】
この機械研磨工程は、前述したように、砥石による研磨やラッピングあるいはホーニングなどの従来より実施されている歯車の研磨加工である。この実施例では、この機械研磨工程において、歯車Gの歯面1aの歯元側からすみ肉部1cおよび歯底1dに跨った部分の表面、および歯先1bの表面、すなわち後述するマスキング処理工程において保護部材5が塗布される部分の表面の形状・寸法および表面粗さが仕上げられる。
【0031】
そして、上記の保護部材5が塗布される部分以外の部分、すなわち、後述する化学研磨工程における研磨代2となる部分の外形寸法・形状が、この機械研磨工程において形成される。具体的には、歯末部3の研磨代2aよりも、歯元部4の研磨代2bが少なく設定されるように、研磨代2の外形寸法・形状が形成される。前述したように、化学研磨の際に、歯末部3は、化学研磨溶液が循環し易いことから化学研磨され易く、歯元部4は、化学研磨溶液が循環し難いことから化学研磨され難くなる。そこで、上記のように、化学研磨され易い歯末部3の研磨代2aよりも、化学研磨され難い歯元部4の研磨代2bが少なくなるように、この機械研磨工程において研磨代2の外形寸法・形状を形成しておくことによって、化学研磨により歯車Gの歯面の各部を所望する状態に仕上げるまでの時間が平準化され、その結果、歯車Gを化学研磨するのに要する時間を短縮することができる。
【0032】
機械研磨工程が完了すると、化学研磨工程の前に、歯車Gの歯元部4に対して、保護部材5を塗布するマスキング処理が施される。このマスキング処理は、保護部材5として、例えば化学研磨溶液に冒されないテープ状の部材を接着してマスキングする処理であってもよいが、ここでは、保護部材5として、例えばポリエチレン系あるいはポリプロピレン系などの熱可塑性樹脂が用いられ、その熱可塑性樹脂による保護部材5が加熱されて液状にされた状態で歯元部4に塗布されることでマスキングされる。このように、液状の保護部材5を歯元部4に塗布してマスキングすることで、マスキングする部分の形状、また作業の自由度が高くなり、容易にマスキング処理を行うことができる。
【0033】
なお、歯車Gの歯先1bにも、保護部材5が塗布される。歯車Gの歯先1bは、噛み合い時に他の歯車と接触せず、また応力の集中も生じない部分であるため、歯先1b部分の形状・寸法および表面粗さを、化学研磨の以前に行われる機械研磨において仕上げることで十分である。そのため、このマスキング処理工程において、歯車Gの歯先1bにもマスキング処理が施される。
【0034】
このように、化学研磨を必要としない部分にマスキング処理を施すことで、化学研磨の際に、化学研磨溶液により溶解される歯車Gの金属成分の量を低減することができ、その分、化学研磨溶液の寿命を、言い換えると化学研磨溶液が研磨工程として十分な反応(研磨)速度を維持できる期間を延長することができる。
【0035】
また、上記のように、機械研磨により歯元部4の表面を仕上げた後に、化学研磨の際に歯元部4にマスキング処理を施しておくこと、すなわち化学研磨よりも研磨面の寸法・形状の管理が容易な機械研磨により歯元部4の表面を仕上げることによって、研磨前の浸炭処理において、浸炭層の深さを可及的に浅くすることができる。そのため、浸炭処理における工程(処理時間)を短縮することができる。
【0036】
マスキング処理工程が完了すると、化学研磨が施される。前述したように、マスキング処理工程において保護部材5が塗布されている歯元部4および歯先1bの表面は、機械研磨工程において仕上げられていて、それら以外の部分、すなわちこの化学研磨工程における研磨代2の部分が、この化学研磨工程において研磨され、その表面が仕上げられる。すなわち、歯車Gに対する研磨加工が完了する。
【0037】
以上のように、この発明に係る歯車およびその研磨方法によれば、化学研磨と比較して、形状・寸法を高精度に仕上げることが可能な機械研磨により歯車Gの歯面1aの研磨が行われ、その後、機械研磨と比較して、より細かな(平滑な)表面に仕上げることが可能な化学研磨により歯面1aの研磨が行われる。化学研磨により歯面1a、特に、噛み合い時に他の歯車と接触する部分である歯末部3の表面が平滑に仕上げられることで、摩擦係数を低下させて、歯車Gとしての摩擦損失、あるいはギヤノイズを低減することができる。
【0038】
また、歯車Gを化学研磨する際には、その前の機械研磨により化学研磨する際の研磨代2が設定されて形成されるが、このとき、化学研磨され易い歯末部3の研磨代2aに対して、化学研磨され難い歯元部4の研磨代2bが少なくなるように、また歯末部3と歯元部4との間の研磨代も化学研磨の研磨条件に即して最適化されて、研磨代2が設定される。そのため、研磨代2全てを化学研磨により研磨し、歯車Gの歯面の各部を所望する状態に仕上げるのに必要な時間が平準化され、その結果、歯車Gを化学研磨するのに要する時間を短縮することができる。
【0039】
さらに、歯車Gを化学研磨する際には、化学研磨を行う前に、歯元部4に、その部分を化学研磨溶液に浸漬させないように、化学研磨溶液に浸食されない保護部材5が塗布され、その後、化学研磨が行われる。したがって、化学研磨され難く、また歯車Gとして応力が集中する歯元部4の歯面は化学研磨されない。そのため、歯車G全体の化学研磨に要する時間を短縮できるとともに、歯元部4の形状・寸法および表面状態を機械研磨により精度良く仕上げておくことで、歯元部4の強度および表面硬度を確保することができ、高強度かつ低ノイズかつ摩擦損失が少ない高効率歯車を容易に提供することができる。
【0040】
なお、上記のような作用・効果を奏するこの発明に係る歯車およびその研磨方法を、例えば車両用のトランスミッションなどの動力伝達装置における歯車機構に適用すれば、その歯車機構における各歯車の歯面の面性状を向上させること、すなわち歯面を高精度に研磨して摩擦係数を低下させることができる。その結果、歯車機構における動力伝達効率を向上させることができ、ひいては、車両の動力伝達効率を向上させて、燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明に係る歯車およびその研磨方法の例を概略的に説明するための模式図である。
【図2】この発明に係る歯車およびその研磨方法の例を詳細に説明するための模式図であって、図1の部分的拡大図である。
【符号の説明】
【0042】
1…歯、 1a…歯面、 1b…歯先、 1c…すみ肉部、 1d…歯底、 2…研磨代、 3…歯末部、 4…歯元部、 5…保護部材、 G…歯車。
【出願人】 【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
【出願日】 平成18年10月3日(2006.10.3)
【代理人】 【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 丈夫


【公開番号】 特開2008−87124(P2008−87124A)
【公開日】 平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願番号】 特願2006−272029(P2006−272029)