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【発明の名称】 サファイア基板の加工方法
【発明者】 【氏名】星野 仁志

【氏名】山口 浩司

【氏名】古田 健次

【氏名】森敷 洋司

【氏名】大庭 龍吾

【氏名】森重 幸雄

【要約】 【課題】サファイア基板にレーザ光線を照射して個々の発光素子に分割しても発光素子の輝度低下を抑制し得るサファイア基板の加工方法を提供する。

【構成】0.6(μJ)〜10(μJ)という小さいパルスエネルギーでフェムト秒領域の極めて短いパルス幅のパルスレーザ光線をサファイア基板11の分割予定ラインに対応する内部に集光点Pを位置付けて照射して変質領域51を形成することで、4×1013(W/cm2)〜5×1015(W/cm2)という高いピークパワー密度でもレーザ光線の照射が可能となり、サファイア基板11内部の所望の集光点Pのみに変質領域51を形成でき、窒化物半導体14やサファイア基板11に対するダメージを最小にして必要な加工を施すことができるようにした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエーハを保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持されたウエーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザ光線を照射するレーザ光線照射手段と、前記チャックテーブルと前記レーザ光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段と、前記チャックテーブルと前記レーザ光線照射手段とを相対的に割り出し送りする割り出し送り手段と、を備えるレーザ加工装置を用いて、サファイア基板上に窒化物半導体が積層されて形成された複数の発光素子の分割予定ラインの内部に変質領域を形成するサファイア基板の加工方法であって、
前記パルスレーザ光線の波長は、1(μm)〜2(μm)であり、
パルスエネルギーは、0.6(μJ)〜10(μJ)であり、
パルスエネルギー密度は、40(J/cm2)〜5(kJ/cm2)であり、
集光点におけるピークパワー密度は、4×1013(W/cm2)〜5×1015(W/cm2)である
ことを満たす加工条件で、前記サファイア基板の前記分割予定ラインに対する領域の内部に集光点を位置付けて前記パルスレーザ光線を照射して前記変質領域を形成することを特徴とするサファイア基板の加工方法。
【請求項2】
前記パルスレーザ光線の繰り返し周波数をX(Hz)とし、前記パルスレーザ光線の集光スポット径をD(mm)とし、前記加工送り手段による加工送り速度をV(mm/s)とした場合、
V/X=2D〜5D
であることを特徴とする請求項1に記載のサファイア基板の加工方法。
【請求項3】
繰り返し周波数X=10(Hz)〜1(MHz)であり、加工送り速度V=10(mm/s)〜1000(mm/s)であることを特徴とする請求項2に記載のサファイア基板の加工方法。
【請求項4】
前記サファイア基板の内部に変質領域を形成した後、前記サファイア基板に外力を付与して前記分割予定ラインを分割することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のサファイア基板の加工方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体が積層されて複数の発光素子が形成されたサファイア基板の加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サファイア基板上にGaN系等の窒化物半導体が積層されて複数の発光ダイオード(LED)等の発光素子が分割予定ラインによって区画されて形成されたウエーハは、分割予定ラインに対応する領域にレーザ光線が照射されて分割溝が形成され、個々の発光素子に分割されて携帯電話機、パソコン、音響装置等の電子機器に利用される。
【0003】
サファイア基板は、モース硬度が高いことから切削ブレードを分割手段として構成されたダイシング装置による分割が比較的困難であり、レーザ光線を用いて分割する技術が提案され実用に供されている(例えば、特許文献1,2,3参照)。
【0004】
ここで、窒化物半導体として例えば窒化ガリウム(GaN)系化合物半導体を用いた発光素子(例えば、LED)は、後述するように、サファイア基板上にGaN系バッファ層、n型GaN系層、InGaN系活性層、p型GaN系層を順次積層し、表面を適宜エッチングした後、表面にn型電極とp型電極とを形成することで構成され、p型電極からn型電極に向けて電流を流すことで、InGaN系活性層から所定の波長の光が射出される構造とされている。この場合、該発光素子は、側面から7割程度、窒化物半導体(表面)側から1割程度、裏面(サファイア基板)側へ2割程度の割合で光を射出するようにInGaN系活性層が発光する。また、複数の発光素子が形成されたウエーハ表面(窒化物半導体層)側に粘着テープを貼り、裏面(サファイア基板)側からレーザ光線を照射することで分割溝を形成するようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開昭58−44738号公報
【特許文献2】特開平10−305420号公報
【特許文献3】特開2004−9139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2,3に示される如くサファイア基板の分割予定ラインに対応する領域にレーザ光線を照射し加熱溶融を進行させて分割溝を形成して個々の発光素子に分割すると、発光素子の外周がアブレーションされて輝度が低下し、品質の高い発光素子を提供できないという問題がある。すなわち、目標とする加工点に寄与しないレーザ光線がサファイア基板を透過して、窒化物半導体の一部に照射され、窒化物半導体も溶融する等のダメージを与えてしまい、活性層の発光量自体が低下することで、発光素子としての能力が低下してしまう。
【0007】
また、特許文献1,2,3に示される如くサファイア基板の裏面側からレーザ光線を照射し該裏面側を加熱溶融させるレーザ加工法の場合、レーザ加工後の断面には加熱溶融後に再凝固した物質が付着した加工痕が幅広く生じており、発光素子の活性層の発光面から出た光のうちで一旦サファイア基板内に入って外に出てくる光がサファイア基板の加工痕部分で減衰するため、光取り出し効率が低下し、発光素子全体としては輝度が低下してしまう。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、サファイア基板にレーザ光線を照射して個々の発光素子に分割しても発光素子の輝度低下を抑制し得るサファイア基板の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るサファイア基板の加工方法は、ウエーハを保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持されたウエーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザ光線を照射するレーザ光線照射手段と、前記チャックテーブルと前記レーザ光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段と、前記チャックテーブルと前記レーザ光線照射手段とを相対的に割り出し送りする割り出し送り手段と、を備えるレーザ加工装置を用いて、サファイア基板上に窒化物半導体が積層されて形成された複数の発光素子の分割予定ラインの内部に変質領域を形成するサファイア基板の加工方法であって、前記パルスレーザ光線の波長は、1(μm)〜2(μm)であり、パルスエネルギーは、0.6(μJ)〜10(μJ)であり、パルスエネルギー密度は、40(J/cm2)〜5(kJ/cm2)であり、集光点におけるピークパワー密度は、4×1013(W/cm2)〜5×1015(W/cm2)であることを満たす加工条件で、前記サファイア基板の前記分割予定ラインに対する領域の内部に集光点を位置付けて前記パルスレーザ光線を照射して前記変質領域を形成することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るサファイア基板の加工方法は、上記発明において、前記パルスレーザ光線の繰り返し周波数をX(Hz)とし、前記パルスレーザ光線の集光スポット径をD(mm)とし、前記加工送り手段による加工送り速度をV(mm/s)とした場合、V/X=2D〜5Dであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るサファイア基板の加工方法は、上記発明において、繰り返し周波数X=10(Hz)〜1(MHz)であり、加工送り速度V=10(mm/s)〜1000(mm/s)であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るサファイア基板の加工方法は、上記発明において、前記サファイア基板の内部に変質領域を形成した後、前記サファイア基板に外力を付与して前記分割予定ラインを分割することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るサファイア基板の加工方法によれば、0.6(μJ)〜10(μJ)という小さいパルスエネルギーでフェムト秒領域の極めて短いパルス幅のパルスレーザ光線をサファイア基板の分割予定ラインに対応する内部に集光点を位置付けて照射して変質領域を形成するようにしたので、4×1013(W/cm2)〜5×1015(W/cm2)という高いピークパワー密度でもレーザ光線の照射が可能となり、サファイア基板内部の所望の集光点のみに外力付加による分割のきっかけとなるように強度が低下した変質領域を形成することができ、窒化物半導体やサファイア基板に対するダメージを最小にして必要な加工を施すことができ、よって、分割形成される発光素子の輝度低下を極めて小さく抑えることができ、品質の高い発光素子を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態であるサファイア基板の加工方法について図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態のサファイア基板の加工方法が適用されるウエーハの構成例を示す斜視図である。このウエーハ1は、サファイア基板11をベースとして円盤状に形成されたもので、サファイア基板11上に窒化物半導体が積層されて複数の発光ダイオード(LED)等の発光素子12が格子状の分割予定ライン13によって区画されて形成されている。
【0016】
図2は、各発光素子12の原理的な構成例を示す斜視図であり、図3は、その一部の断面図である。発光素子12は、サファイア基板11上に例えば窒化ガリウム(GaN)系化合物半導体であるGaNやInGaNなどの窒化物半導体14を積層させることにより形成されている。例えば、サファイア基板11上にGaN系バッファ層14aをエピタキシャル層として形成し、さらに、n型GaN系層14b、InGaN系活性層14c、p型GaN系層14dを順次積層してPN接合を構成する。そして、表面側の一部を適宜エッチングしてn型GaN系層14bの表面を露出させ、n型GaN系層14bの表面にn型電極14eを形成し、また、p型GaN系層14dの表面に透明電極14fを介してp型電極14gを形成することで構成される。ここで、サファイア基板11の厚さが80μm〜90μm程度であるのに対して窒化物半導体14の層厚は10μm程度である。
【0017】
このような発光素子12は、p型電極14gからn型電極14eに向けて電流を流すことで、InGaN系活性層14cから所定の波長の光が射出される。また、発光素子12は、側面から7割程度、窒化物半導体14(表面)側から1割程度、裏面(サファイア基板12)側へ2割程度の割合で光を射出するようにInGaN系活性層14cが発光するものであり、後述するようにレーザ光線照射により各発光素子12に分割加工する上で、輝度低下を抑制するためには、照射したレーザ光線で窒化物半導体14やサファイア基板11の分割面にダメージを与えないことが重要となる。
【0018】
以下、このようなウエーハ1に関して、各発光素子12に分割するためのサファイア基板11の加工方法について説明する。ウエーハ1を個々の発光素子12に分割するには、サファイア基板11に対して透過性を有する波長のパルスレーザ光線を分割予定ライン13に沿って照射し、サファイア基板11の内部に分割予定ライン13に沿って変質領域を形成する変質領域形成工程を実行する。この変質領域形成工程は、図4〜図6に示すレーザ加工装置を用いて実行する。
【0019】
図4は、レーザ加工装置の一部の構成を示す斜視図であり、図5は、レーザ光線照射手段の構成例を示すブロック図である。本実施の形態で用いるレーザ加工装置20は、ウエーハ1を保持するチャックテーブル21と、チャックテーブル21上に保持されたウエーハ1に透過性を有する波長のパルスレーザ光線を照射するレーザ光線照射手段22と、チャックテーブル21上に保持されたウエーハ1を撮像する撮像手段23とを備えている。また、チャックテーブル21は、ウエーハ1を吸引保持するとともに、モータ24に連結されて回転可能に設けられている。また、チャックテーブル21は、ボールネジ25、ナット(図示せず)、パルスモータ26等により構成された加工送り手段27によって水平方向となるX軸方向に移動可能に設けられ、搭載されたウエーハ1をレーザ光照射手段22に対して相対的に加工送りさせる。
【0020】
また、レーザ光照射手段22は、実質上水平に配置された円筒形状のケーシング28を含んでおり、このケーシング28を介してボールネジ(図示せず)、ナット(図示せず)、パルスモータ29等により構成されたZ軸移動手段30によってZ軸方向に移動可能に設けられている。さらに、レーザ光照射手段22は、ケーシング28、Z軸移動手段30を搭載した基台31、ボールネジ32、ナット(図示せず)、パルスモータ33等により構成された割り出し送り手段34によって水平方向となるY軸方向に移動可能に設けられ、レーザ光照射手段22をチャックテーブル21上のウエーハ1に対して相対的に割り出し送りさせる。
【0021】
ここで、ケーシング28内には、図5に示すように、パルスレーザ光線発振手段41と伝送光学系42とが配設されている。パルスレーザ光線発振手段41は、Ybレーザ(イッテリビウムドープドファイバレーザ)発振器或いはErレーザ(エルビウムドープドファイバレーザ)発振器等のパルスレーザ光線発振器41aと、パルスレーザ光線発振器41aに付設された繰り返し周波数設定手段41bとからなる。伝送光学系42は、ビームスプリッタ等の光学要素を含む他、アッテネータ等の出力調整手段を含んでいる。また、ケーシング28の先端部には、組レンズ等の周知構成からなる集光レンズ(図示せず)を収容した集光器43が装着されている。
【0022】
また、ケーシング28の先端部に装着された撮像手段23は、チャックテーブル21上に保持されたウエーハ1の表面を撮像し、レーザ光線照射手段22の集光器43から照射されるパルスレーザ光線によって加工すべき領域を検出するためのものであり、撮像素子(CCD)を備え、撮像した画像信号を図示しない制御手段に送る。
【0023】
このようなレーザ加工装置20を用いる変質領域形成工程について、図4並びに図6〜図8を参照して説明する。まず、図6に示すように、チャックテーブル21上にウエーハ1を裏面1b(サファイア基板11)側を上にして載置し、チャックテーブル21上にウエーハ1を吸引保持する。なお、チャックテーブル21に接触するウエーハ1の表面1aに対して予め保護テープを貼付することが好ましい。ウエーハ1を吸引保持したチャックテーブル21は、加工送り手段27や割り出し送り手段34によって撮像手段23の直下に位置付けられる。
【0024】
チャックテーブル21が撮像手段23の直下に位置付けられると、撮像手段23および図示しない制御手段によってウエーハ1のレーザ加工すべき加工領域を検出するアライメント作業を実行する。すなわち、撮像手段23および制御手段は、ウエーハ1の所定方向に形成されている分割予定ライン13と、分割予定ライン13に沿ってパルスレーザ光線を照射するレーザ光線照射手段22の集光器43との位置合わせを行うためのパターンマッチング等の画像処理を実行し、レーザ光線照射位置のアライメントを遂行する。この際、ウエーハ1に形成されている所定方向に対して直交する方向に延びる分割予定ライン13に対しても、同様にレーザ光線照射位置のアライメントが遂行される。
【0025】
レーザ光線照射位置のアライメントが遂行されると、図7−1に示すように、チャックテーブル21を、パルスレーザ光線を照射する集光器43が位置するレーザ光線照射領域に移動し、所定の分割予定ライン13の一端(図7−1では、左端)を集光器43の直下に位置付ける。そして、集光器43から透過性を有する波長のパルスレーザ光線を照射しつつチャックテーブル21、すなわちウエーハ1を図7−1において矢印X1で示す方向に所定の加工送り速度で移動させる。そして、図7−2に示すように、集光器43の照射位置が分割予定ライン13の他端の位置に達したら、レーザ光線照射手段22によるパルスレーザ光線の照射を停止するとともに、チャックテーブル21、すなわちウエーハ1の移動を停止する。このような変質領域形成工程においては、図8に示すように、サファイア基板11の分割予定ライン13に対する領域の内部にパルスレーザ光線の集光点Pを位置付けて照射することにより、変質領域51が形成される。このような変質領域51が連続的に形成されることによって強度が低下した分割予定ライン13に沿ってサファイア基板11に対して外力を加えることで、サファイア基板11を分割予定ライン13に沿って分割し、個々の発光素子12に分断することができる。
【0026】
ここで、本実施の形態の変質領域形成工程に使用する加工条件について、実施例1,2を例示する。
【0027】
(実施例1)
波長 :1045nm(Ybレーザ使用)
平均出力 :0.23W
繰り返し周波数 :100kHz
加工送り速度 :300mm/s
パルス幅 :467fs
集光スポット径 :約0.9μm
パルスエネルギー:2.3μJ
パルスエネルギー密度:360J/cm2
集光点Pにおけるピークパワー密度:720TW/cm2
【0028】
(実施例2)
波長 :1560nm(Erレーザ使用)
平均出力 :0.2W
繰り返し周波数 :100kHz
加工送り速度 :300mm/s
パルス幅 :1000fs
集光スポット径 :約1.4μm
パルスエネルギー:2.0μJ
パルスエネルギー密度:130J/cm2
集光点Pにおけるピークパワー密度:130TW/cm2
【0029】
実施例1,2に例示するような加工条件に従い、2.3(μJ)や2.0(μJ)といった小さいパルスエネルギーで、467(fs)や1000(fs)といったフェムト秒領域の極めて短いパルス幅で強度の高いパルスレーザ光線をサファイア基板11の分割予定ライン13に対応する内部に集光点Pを位置付けて照射して変質領域51を形成することで、720(TW/cm2)や130(TW/cm2)という極めて高いピークパワー密度でもレーザ光線の照射が可能となり、サファイア基板11内部の所望の集光点Pのみに変質領域51を形成することができたものである。これにより、レーザ光線がサファイア基板11を透過して表面1a側に存在するGaN系バッファ層14aやn型GaN系層14bによるエピタキシャル層に照射されることで窒化物半導体14(発光素子12)に素子能力を低下させるダメージを与えることや、発光素子12の光射出領域の一部となるレーザ加工後のサファイア基板11の分割断面にレーザ光線を減衰させてしまう加工痕が生ずることを軽減できる。このようにレーザ光線照射に伴う窒化物半導体14やサファイア基板11の分割面に対するダメージが最小となるようにして必要なレーザ加工を施すことができ、よって、分割形成される発光素子12の輝度低下を極めて小さく抑えることができることとなる。
【0030】
ここで、本発明者らの知見によれば、実施例1,2に限らず、より一般的に、
パルスレーザ光線の波長は、1(μm)〜2(μm)であり、
パルスエネルギーは、0.6(μJ)〜10(μJ)であり、
パルスエネルギー密度は、40(J/cm2)〜5(kJ/cm2)であり、
集光点におけるピークパワー密度は、4×1013(W/cm2)〜5×1015(W/cm2)である
ことを満たすことが重要である。このような加工条件によれば、0.6(μJ)〜10(μJ)という小さいパルスエネルギーでフェムト秒領域の極めて短いパルス幅のパルスレーザ光線をサファイア基板11の分割予定ライン13に対応する内部に集光点Pを位置付けて照射して変質領域51を形成することで、4×1013(W/cm2)〜5×1015(W/cm2)という高いピークパワー密度でもレーザ光線の照射が可能となり、サファイア基板11内部の所望の集光点Pのみに変質領域51を形成することができ、レーザ光線照射に伴う窒化物半導体14やサファイア基板11に対するダメージを最小にして必要なレーザ加工を施すことができる。
【0031】
このような加工条件においては、パルスレーザ光線の繰り返し周波数をX(Hz)とし、パルスレーザ光線の集光スポット径をD(mm)とし、加工送り手段27による加工送り速度をV(mm/s)とした場合、V/X=2D〜5Dとなるように設定することが望ましい。また、繰り返し周波数X=10(Hz)〜1(MHz)であり、加工送り速度V=10(mm/s)〜1000(mm/s)となるように設定することが望ましい。
【0032】
レーザ光線照射手段22の集光器43から繰り返し周波数Xのパルスレーザ光線を集光スポット径Dでサファイア基板11に照射し、チャックテーブル21すなわちウエーハ1を加工送り速度Vで加工送りする場合、V/Xの値が1D以下であれば、パルスレーザ光線のスポットのピッチは集光スポット径D以下となり、スポットが相互に接しまたは重なり合って分割予定ライン13に沿って連続して照射されることになり、サファイア基板11にダメージを与える恐れがあり輝度の低下を招くことになる。これに対して、V/Xの値が2D〜5Dであれば、パルスレーザ光線のスポットSのピッチpは集光スポット径Dより大きくなり、図9に示すように、隣接するスポットS間に隙間が生ずることとなり、隙間が生ずる状態で分割予定ライン13に沿って間欠的に照射されることとなる。V/X=2Dの場合には、隣接するスポットSの間隔sが集光スポット径Dと同じとなり、V/X=5Dの場合には、隣接するスポットSの間隔sが集光スポット径Dの4倍となる。また、V/X>5Dの場合は、サファイア基板11の分割が困難になり、分割予定ライン13に沿って分割されない恐れがある。したがって、V/Xの値が2D〜5Dであることが望ましい。
【0033】
このように隣接するスポットS間に隙間が生ずるようにパルスレーザ光線を間欠的に照射して、分割予定ライン13に沿って変質領域51を間欠的に形成すると、変質領域51が形成され強度が低下したサファイア基板11を分割予定ライン13に沿って破断するために要する応力は小さくて済み、輝度の低下を招くことなく発光素子12に分割することができる。すなわち、パルスレーザ光線が照射される部分が極力減るためサファイア基板11の分割断面のダメージを必要最小限に抑えて分割予定ライン13に沿って強度が低下するようにレーザ加工を施すことができ、発光素子12の輝度特性を低下させない点で有利となる。
【0034】
上述したように、変質領域形成工程によってサファイア基板11の内部に分割予定ライン13に沿って変質領域51を形成し、強度を低下させた後、図10に示すように、ウエーハ1の裏面1b側に拡張可能な保護テープ61を貼付する。すなわち、環状のフレーム62の内側開口部を覆うように外周部が装着された伸長可能な保護テープ61の表面をウエーハ1の裏面1bに貼付する。このような保護テープ61としては、例えば厚さが70μmのポリ塩化ビニル(PVC)からなるシート基材の表面にアクリル樹脂系の糊が厚さ5μm程度塗布されたものを用い得る。なお、変質領域形成工程で表面1aに保護テープを貼付していた場合には、裏面1b側に保護テープ61を貼付した後に表面1a側に貼付されていた保護テープを剥がす。
【0035】
次いで、ウエーハ1が貼付された保護テープ61を強制的に伸長させることでサファイア基板11に外力を付与して分割予定ライン13に沿って分割する分割工程を実行する。この分割工程は、図11に示すテープ拡張装置71を用いて実行する。テープ拡張装置71は、環状のフレーム62を保持するフレーム保持手段72と、フレーム保持手段72に保持されたフレーム62に装着されている保護テープ61を拡張するテープ拡張手段73とを備える。フレーム保持手段72は、環状のフレーム保持部材74と、その外周部に配設された複数のクランプ機構75とからなる。フレーム保持部材74は、フレーム62を載置するための載置面74aを有し、クランプ機構75は載置面74aに載置されたフレーム62をフレーム保持部材74に固定する。このようなフレーム保持手段72は、テープ拡張手段73によって上下方向に進退可能に支持されている。
【0036】
また、テープ拡張手段73は、フレーム保持部材74の内側に配設される拡張ドラム76を備える。拡張ドラム76は、フレーム62の内径より小さく、かつ、ウエーハ1の外径より大きい内径および外径を有する。また、拡張ドラム76は、下端に支持フランジ77を備える。そして、フレーム保持部材74を上下方向に進退可能に支持する支持手段78を備える。支持手段78は、支持フランジ77上に配設された複数のエアシリンダ79からなり、ピストンロッド80がフレーム保持部材74の下面に連結される。支持手段78は、フレーム保持部材74を載置面74aが拡張ドラム76の上端と略同一高さとなる基準位置と、拡張ドラム76の上端より所定量下方の拡張位置との間を上下方向に移動させる。
【0037】
そこで、変質領域51を形成済みのウエーハ1を保護テープ61を介して支持したフレーム62を、フレーム保持部材74の載置面74a上に載置し、クランプ機構75によってフレーム保持部材74に固定する。この時、フレーム保持部材74は基準位置に位置付けられている(図12中の実線状態参照)。次に、複数のエアシリンダ79を作動してフレーム保持部材74を拡張位置に下降させる。これにより、載置面74a上に固定されているフレーム62も下降するため、フレーム62に装着された保護テープ61は、図12中に仮想線で示すように、拡張ドラム76の上端縁に当接して拡張する外力を受ける。この際、保護テープ61に貼付されているウエーハ1のサファイア基板11は、分割予定ライン13に沿って多数の変質領域51が形成されて強度が低下しているので、変質領域51が形成されている分割予定ライン13に沿ってサファイア基板11には引張力が外力として作用し、変質領域51部分をきっかけとしてへき開するように破断され、個々の発光素子12に分割される(サファイア基板11上に残っているGaN系バッファ層14aやn型GaN系層14bによるエピタキシャル層も、サファイア基板11に比して極めて薄いので、同時に破断される)。個々に分割された発光素子12は、保護テープ61上に貼付されたままであるので、個々に飛散してしまうことはなく、後で保護テープ61上から発光素子12毎にピックアップすればよい。
【0038】
なお、図11および図12に示す例では、テープ拡張装置71を用いて、ウエーハ1のサファイア基板11の全ての分割予定ライン13を一度に分割するようにしたが、分割方法はこのような方法に限らない。例えば、図13に示すように、変質領域51が形成されたウエーハ1の裏面1b(サファイア基板11)側について、分割予定ライン13から両側に少し離れた部位を支持台81で支持し、ウエーハ1の表面1a(窒化物半導体14)側に超硬金属82のような治具を配置し、分割予定ライン13に対して1ラインずつ超硬金属82によって外力を付与することで分割予定ライン13に沿って分割するようにしてもよい。
【0039】
なお、本実施の形態では、変質領域形成工程の対象となるウエーハ1は、サファイア基板11の分割予定ライン13に対応する表面領域(発光素子12の外周領域)上にGaN系バッファ層14aやn型GaN系層14bによるエピタキシャル層が存在する例で説明したが、分割予定ライン13に対応する表面領域から該エピタキシャル層が予めエッチング等によって除去されたウエーハを対象としてもよい。これによれば、サファイア基板11側から(ウエーハ1の裏面1b側から)分割予定ライン13に沿ってパルスレーザ光線を照射してもサファイア基板11を透過したレーザ光線がエピタキシャル層に当らないので、窒化物半導体14にダメージを与えることがなく、発光素子12の品質を向上させることができる。また、分割予定ライン13に対応する表面領域にエピタキシャル層が存在せず、サファイア基板11が露出することとなるので、窒化物半導体14が積層された表面1a側から(ウエーハ1の表面1a側から)サファイア基板11の内部に対してパルスレーザ光線を照射することも可能となる。
【0040】
また、本実施の形態で用いるレーザ加工装置20では、チャックテーブル21をX軸方向に移動させる加工送り手段27を用い、レーザ光線照射手段22をY軸方向に移動させる割り出し送り手段34を用いるようにしたが、チャックテーブル21(ウエーハ1)とレーザ光線照射手段22との移動は相対的なものであり、レーザ光線照射手段22をX軸方向に移動させる加工送り手段であってもよく、また、チャックテーブル21をY軸方向に移動させる割り出し送り手段であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施の形態のサファイア基板の加工方法が適用されるウエーハの構成例を示す斜視図である。
【図2】各発光素子の原理的な構成例を示す斜視図である。
【図3】図2の一部の断面図である。
【図4】レーザ加工装置の一部の構成を示す斜視図である。
【図5】レーザ光線照射手段の構成例を示すブロック図である。
【図6】変質領域形成工程を説明するためにチャックテーブル付近を示す斜視図である。
【図7−1】レーザ光線照射工程開始時を示す説明図である。
【図7−2】レーザ光線照射工程終了時を示す説明図である。
【図8】変質領域の形成状況を拡大して示す説明図である。
【図9】スポット間隔を示す説明図である。
【図10】テープ拡張装置を用いる分割工程を示す斜視図である。
【図11】テープ拡張動作を示す概略断面図である。
【図12】変形例として分割予定ライン毎の分割例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 ウエーハ
11 サファイア基板
12 発光素子
13 分割予定ライン
14 窒化物半導体
20 レーザ加工装置
21 チャックテーブル
22 レーザ光線照射手段
27 加工送り手段
34 割り出し送り手段
51 変質領域
P 集光点
【出願人】 【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
【出願日】 平成18年6月30日(2006.6.30)
【代理人】 【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明


【公開番号】 特開2008−6492(P2008−6492A)
【公開日】 平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願番号】 特願2006−181973(P2006−181973)