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【発明の名称】 摩擦撹拌点接合体
【発明者】 【氏名】田中 晃二

【氏名】熊谷 正樹

【氏名】吉田 英雄

【要約】 【課題】自動車部品の軽量化のために、自動車部品にアルミニウム合金板と鋼板からなる異種金属接合体を適用してなるものである。

【構成】アルミニウム合金板2と鋼板3を積層した積層体に対して、回転工具を回転させつつ、該アルミニウム合金板2側より鋼板3までは達しないようにアルミニウム合金板2の残層を残しつつ挿入して摩擦撹拌点接合を行うことで、上記アルミニウム合金板2と鋼板3との間にアモルファス層からなる接合界面4を有するものとすることで、該アモルファス層からなる接合界面4が、集中する応力を緩和し、両者を一体に強固に接合するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金板と鋼板を重ね合わせて、アルミニウム合金板側から鋼板近傍の位置までプローブを挿入することで、アルミニウム合金板と鋼板が接合された摩擦撹拌点接合体であって、0.1〜50nmの厚さのアモルファス層からなる接合界面を有してなることを特徴とする摩擦撹拌点接合体。
【請求項2】
前記アモルファス層には酸素が含まれていることを特徴とする請求項1記載の摩擦撹拌点接合体。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えば軽量化のために自動車用部品等において使用される異種金属接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護や省エネルギーという社会的要請が強まり、その結果自動車部品の分野では、該社会的要請が排気ガス規制の強化や燃費向上という形で影響を与えている。そのため、排気ガス規制の強化や燃費向上を実現すべく、最も大きな要因である車体の軽量化が注目されている。そこで、自動車部品に、アルミニウム合金と鋼を一体に接合してなる異種金属接合体を適用することが提案されている。
【0003】
ところで、上記アルミニウム合金と鋼からなる異種金属接合体は、両者を一体に接合する際に、アーク溶接、レーザ溶接、抵抗溶接のような融接法や、回転摩擦圧接、超音波圧接、爆発圧接及び電磁圧接のような固相接合法を用いるものである。
【0004】
しかしながら、融接法による異種金属接合体は、異種金属間の接合界面に脆い金属間化合物が形成されやすいので、接合強度が低下し、自動車部品として必要な強度が確保しにくいという欠点がある。
【0005】
また、固相接合法による異種金属の摩擦撹拌接合体は、設備及び該異種金属の摩擦撹拌接合体を製造するに当たって継手形状が著しく限定されるので、接合作業が非常に煩雑になるという欠点がある。
【0006】
更に、その他の圧接や爆着で作製したトランジッションピースを介した接合法による異種金属接合体は、製造にあたっての製造設備の規模や安全性の確保が困難であり、製造コストが高くなるという欠点がある。
【0007】
そして、近年、特に固相接合法の一つとして知られる摩擦撹拌接合法によってアルミニウム合金と鋼とを一体に接合することが試みられている。しかしながら、該摩擦撹拌接合法による異種金属の摩擦撹拌接合体は、自動車部品として必要とされる接合強度は十分に得られるものの、接合材同士を突き合わせや重ね継ぎ手とした線接合によるものに限られており、該異種金属の摩擦撹拌接合体の適用部品の範囲が狭い上、設備の規模拡大、接合作業性の困難さや回転工具の摩耗等による製造コストの上昇が問題となっている。
【特許文献1】特開2003−275876
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明は、上記問題点を解決するものであり、アルミニウム合金と鋼による異種金属の摩擦撹拌接合体の接合作業の効率化や製造コストの低減により、適用範囲を拡大することで、自動車部品における軽量化に貢献するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願発明は、例えばアルミニウム合金と鋼による異種金属を摩擦撹拌点接合によって一体に接合することで、たとえば自動車部品に使用する異種金属の摩擦撹拌点接合体とするものである。
【0010】
具体的には、第1の特徴として、アルミニウム合金板と鋼板を重ね合わせて、アルミニウム合金板側から鋼板近傍の位置までプローブを挿入することで、アルミニウム合金板と鋼板が接合された摩擦撹拌点接合体であって、0.1〜50nmの厚さのアモルファス層からなる接合界面を有してなることを特徴とするものである。
即ち、アルミニウム合金板と鋼板が接合された摩擦撹拌点接合体において0.1〜50nmの厚さのアモルファス層からなる接合界面が、該接合界面において脆い金属間化合物が生成されることを防ぎつつ、異種金属間の接合界面における熱収縮の差による応力集中を緩和することによって、該アルミニウム合金板と鋼板とを強固、且つ一体に接合する。
【0011】
そして、アルミニウム合金板と鋼板が接合された摩擦撹拌点接合体における異種金属のアモルファス層からなる接合界面が0.1nm未満であると、異種金属の接合界面における熱収縮の差による応力集中が十分に緩和できず、その結果接合強度が十分に確保できなくなるものである。一方、該アモルファス層からなる接合界面が50nmよりも厚くなると、異種金属の接合界面における熱収縮の差による応力集中は十分に緩和できるものの、脆い金属間化合物が生じてくる恐れがある。
【0012】
このように、アルミニウム合金板と鋼板との接合において摩擦撹拌点接合を用いることで、異種金属接合体を構成するアルミニウム合金板と鋼板との接合に際して、突き合わせや重ね継ぎ手等の線接合に限定されることがなくなり、設備も簡略化できる上、自動車部品における適用範囲を拡大できる。
【0013】
次に、上記第1の特徴を踏まえた上で、前記アモルファス層には酸素が含まれていることを特徴とするものである。
即ち、前記アモルファス層に酸素が含まれることにより、上記アルミニウム合金板と鋼板の間の接合界面に形成され易い、脆い金属間化合物の生成を特に妨げる一方で、アモルファス層の形成が促進される。その結果、該アモルファス層による応力集中の緩和性能が向上することから、異種金属の接合界面の接合強度が向上するものである。
【発明の効果】
【0014】
本願発明は、簡易かつ安価に、アルミニウム合金板と鋼板を強固に接合するものであるので、たとえば自動車部品の軽量化を目的として使用するにあたってはその適用範囲を拡大できるので、十分に自動車の軽量化を実現し、環境保護又は省エネルギーという社会的要請に十分に応えることができるという優れた効果を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下において、本願発明の実施例であるアルミニウム合金板と鋼板による異種金属の摩擦撹拌点接合体について説明する。
なお、これらの実施例は、本願発明の好ましい一実施態様を説明するためのものであって、これらにより本願発明が制限されるものでない。
【0016】
まず、図1における1は、アルミニウム合金板2と鋼板3とからなる異種金属の摩擦撹拌点接合体であり、該摩擦撹拌点接合体1は、アルミニウム合金板2表面2’の各接合箇所5において、鋼板3との間で0.1〜50nmの厚さのアモルファス層からなる接合界面4を有している(図2参照)。そして、該アモルファス層からなる接合界面4は、接合強度の低下を招く脆い金属間化合物の形成を防ぐため、その中に酸素を含むことが望ましい。該接合界面4は、アルミニウム合金板2と鋼板3間における熱収縮の差によって生じる応力を緩和することができるので、異種金属の接合界面4における接合強度を向上させることができる。
【0017】
なお、本願発明の上記アルミニウム合金板2と鋼板3からなる摩擦撹拌点接合体1は、以下のようにしてなるものである。
まず、アルミニウム合金板2と鋼板3とを積層し、両者を一体に固定して積層体とする。
そして、径大な円柱状のショルダー部とその先端に径小且つ円柱状のプローブが一体に形成される段付きの回転工具を1000〜2000rpmで回転させながら、前記プローブを積層体のアルミニウム合金板2側より挿入する。このとき、該回転工具のプローブの先端は、鋼板3の表面3’まで達しないようにアルミニウム合金板2の残層を0.21〜0.36mm残して挿入するものである。このため、回転工具は、その先端のプローブ及びショルダー部により、アルミニウム合金板の残層と該アルミニウム合金板2の残層の挿入方向延長線上に存在する鋼板3の表面3’との間で摩擦撹拌点接合を行うこととなる。その後、同様の作業を一定の間隔で繰り返すことにより、アルミニウム合金板2と鋼板3よりなる積層体を強固且つ一体に接合することができる。
このように本願発明の摩擦撹拌点接合体1は、上記アルミニウム合金板2と鋼板3との間で、0.1〜50nmの厚さのアモルファス層からなる接合界面4を形成し、該アルミニウム合金板2と鋼板3とを強固且つ一体に接合するものである。
【0018】
ところで、上記アルミニウム合金板2と鋼板3との間で摩擦撹拌点接合を行う際に、回転工具の回転数は上述のように1000〜2000rpmとすることが好ましい。即ち、1000rpm未満であると回転工具とアルミニウム合金板2との間での摩擦発熱が小さくなり塑性流動が起こりにくく、また2000rpmより大であると、摩擦発熱が大きくなり過ぎることで撹拌抵抗が小さくなり過ぎ、十分に摩擦撹拌接合を行えず接合強度が低下してしまうからである。そのため、最も好ましくは1000rpmで回転工具を回転させるものである。
【0019】
また、積層体を構成するアルミニウム合金板2に対して挿入される回転工具のプローブの挿入時において、鋼板3の表面3’までのアルミニウム合金板2の残層の厚さは、0.21〜0.36mmとすることが好ましい。即ち、アルミニウム合金板2の残層の厚さが0.21mm未満であると、アルミニウム合金板2の強度が弱くなるので回転工具との間での撹拌抵抗が小さくなって摩擦発熱を十分に発生することができず、また0.36mmよりも大であると、回転工具との間での撹拌抵抗が過大となり、過剰な摩擦発熱と共に、該回転工具のプローブの摩耗が激しくなるものである。そのため、アルミニウム合金板2の残部の厚さは、最も好ましくは0.21〜0.31mmとするものである。
【実施例1】
【0020】
そこで、本願発明の実施例として、厚さ1.0mmのアルミニウム合金板2と厚さ0.7mmの鋼板3とを摩擦撹拌点接合により一体に接合し摩擦撹拌点接合体1とした。このとき、回転工具の回転数は1000rpmとし、またアルミニウム合金板2側より回転工具のプローブを挿入した場合のアルミニウム合金2の残層の厚さを、0.21、0.26、0.31及び0.36(mm)とした。
その結果、上記異種金属の摩擦撹拌点接合体1は、最大約3.6kN/点という引張剪断強度を示し、強固な接合強度を有する異種金属の摩擦撹拌点接合体1となった。
【0021】
また、上記アルミニウム合金板2と鋼板3から構成される異種金属の摩擦撹拌点接合体1において、回転工具の各回転数(1000rpm、1500及び2000rpmの場合)におけるアルミニウム合金板2の残層の厚さと引張剪断強度(kN)との関係を調べるために、以下の試験を行った。そして、この試験と同時に、異種金属の摩擦撹拌点接合体1の接合界面状況、接合界面の温度分布、及び断面組織について詳細な観察を行った。
【0022】
即ち、供試母材として、厚さ1mmの6000系アルミニウム合金板2(1.0重量%Si、0.5重量%Mg、残部Al)T4調質材と、厚さ0.7mmの軟鋼板3(SPCC、0.05重量%C、0.01重量%Si、0.14重量%Mn、0.02重量%P、0.01重量%S、残部Fe)を各々脱脂して用いた。更に、上記アルミニウム合金板2と軟鋼板3による継手は、幅40mm、長さ120mmの短冊形状のアルミニウム合金板2と軟鋼板3を長手方向に40mm重ねて固定して積層体とした。そして、該積層体のアルミニウム合金板2側より、回転工具のプローブを挿入して摩擦撹拌点接合を行った。なお、該回転工具は、ショルダー径φ13mm、プローブ先端径φ4.5mm、プローブ長さ0.8mmの段付き回転工具である。
このとき、摩擦撹拌点接合における接合条件として、プローブ先端がアルミニウム合金板2の表面2’に接触後、所定の差込み深さに到達し、その後プローブ先端がアルミニウム合金板2から離れるまでの時間、即ち接合時間は2.0秒、該回転工具のプローブの回転数は1000、1500及び2000rpm、更に上記アルミニウム合金板2の残層の厚さは0.21、0.26、0.31及び0.36mmとした。
【0023】
その結果、図3に示すように、1000rpmの場合、アルミニウム合金板2の残層の厚さには殆ど影響されることなく、引張剪断強度は最大3.6kN/点をという高い傾向を示すものであり、一方、1500及び2000rpmの場合、上記アルミニウム合金板2の残層の厚さが厚いほど、引張剪断強度は低くなるという傾向を示した。また、本願発明の摩擦撹拌点接合体1における引張剪断強度は、アルミニウム合金板同士の摩擦撹拌点接合における引張剪断強度(3.9kN)よりも僅かに低い値であったものの、アルミニウム合金板2同士の抵抗スポット溶接における引張剪断強度(2.15kN)よりも高い引張剪断強度、即ち継手強度を示すことが明確になった。
【0024】
そして、上記引張剪断試験後の破面を観察すると、アルミニウム合金板2側は、継ぎ手強度に関係なくプローブの先端に相当する部分で鋼板3側に突出する栓抜き破断形態となっており、他方鋼板3側は、アルミニウム合金板2凝着の痕跡があり、その領域(点線で囲まれる領域)は1000rpmの場合〔図2(イ)〕が2000rpmの場合〔図2(ロ)〕よりも広く明瞭であった。
【0025】
更に、異種金属の摩擦撹拌点接合体1の断面組織をエッチング法により観察したところ、実際に摩擦撹拌点接合に関与する塑性流動境界部すなわち接合領域(例えば、図2の点線部)は、上記アルミニウム合金板2凝着の痕跡とほぼ一致していることが確認され、具体的には1000rpmの場合はφ11.4mm、2000rpmの場合はφ8.2mmとなっていた。そのため、継手強度を単位接合面積あたりに換算すると、たとえばアルミニウム合金板2の残層の厚さが0.26mmの時には、いずれも35〜36MPaとなって、差異は認められないこととなる。すなわち、継手強度は接合面積に関係することが明確となった。
【0026】
そこで、改めて回転工具の回転数が2000rpmの場合よりも1000rpmの場合の方が全体としての継手強度が高くなることについて、接合界面4における温度分布と照らし合わせて検討したところ、次のようなことが明らかとなった。
即ち、2000rpmの方が1000rpmの場合よりも摩擦発熱が全体的に50〜80度高くなっていることから、該摩擦撹拌点接合において、アルミニウム合金板2の塑性流動は、回転工具近傍ではショルダー部とアルミニウム合金板2との摩擦力により撹拌されて生じるのに対して、回転工具から離れた部分ではアルミニウム合金板2に対して働く剪断摩擦力により撹拌されて生じる。そのため、回転工具の回転数が高くなり発生する摩擦発熱が大きくなると、アルミニウム合金板2の変形抵抗が小さくなることから該剪断摩擦力が十分に働かず、回転工具から離れた領域までは撹拌することが困難となって、塑性流動域(例えば、図2の点線部分内)が小さくなるためである。
【0027】
また、継手強度として高い数値を示す接合条件(回転工具の回転数を1000rpmとする。)の下での摩擦撹拌点接合体1の継手断面の接合界面4について、SEM観察及びエッチングなしでEPMA分析を行ったところ、接合界面4全域にわたって平均0.2μmの薄い合金層が形成されていることが確認された。また、その接合界面4には僅かではあるものの酸素が確認された。このときアルミニウム合金板2の表面から1μm程度アルミニウム合金板2側に移動した位置にMgOの強度ピークが現れていることから、摩擦撹拌点接合中の塑性流動により、アルミニウム合金板2表層部のMgOは撹拌されて巻き上げられていることが明確になった。即ち、接合界面4は摩擦撹拌点接合によって強く撹拌されることから、互いに当接するアルミニウム合金板2と鋼板3の各表面2’、3’の酸化膜が排除されて新生面が創出された上で、新たな接合界面4を形成してなるものである。
【0028】
そして、上記接合界面4について、電子回折パターン観察及び高分解能TEM観察を行ったところ、該接合界面4はアモルファス層からなることが確認され、該アモルファス層からなる接合界面4の厚さも一部で15〜25nmの塊状のものも散見されるが、接合界面4全域にわたり少なくとも2〜4nmのものが確認された。なお、EDSマッピング結果より、該アモルファス層からなる接合界面4は主として酸化物により形成されていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本願発明の異種金属の摩擦撹拌点接合体は軽量化を実現するものであるから、自動車部品のみならず、あらゆる工業製品に対して適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本願発明の実施例である異種金属接合体の全体斜視図である。
【図2】本願発明の実施例である異種金属接合体のA−A縦断面図であり、(イ)は1000rpmの場合、(ロ)は2000rpmの場合である。
【図3】本願発明の実施例である異種金属接合体における接合条件と引張剪断強度の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 異種金属接合体
2 アルミニウム合金板
2’ (アルミニウム合金板の)表面
3 鋼板
3’ (鋼板の)表面
4 接合界面
5 接合箇所
【出願人】 【識別番号】000002277
【氏名又は名称】住友軽金属工業株式会社
【出願日】 平成18年6月27日(2006.6.27)
【代理人】 【識別番号】100100767
【弁理士】
【氏名又は名称】湯浅 正彦

【識別番号】100141210
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 良幸


【公開番号】 特開2008−6451(P2008−6451A)
【公開日】 平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願番号】 特願2006−177394(P2006−177394)