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【発明の名称】 脆性材料の割断方法およびそれに使用される脆性材料
【発明者】 【氏名】軽部 規夫

【氏名】三浦 宏

【要約】 【課題】脆性材料にレーザビーム照射による加熱によって熱応力を惹起し、脆性材料の全厚さにわたるスクライブを発生させ、このスクライブのみにより脆性材料を割断する。

【構成】脆性材料のレーザビームに対する吸収係数を制御し、同ビームが材料の全厚さを透過するか、あるいは裏面まで透過しなくとも十分な深さまで透過し、熱応力起因のスクライブ面を材料の全厚みで発生させる。吸収係数の制御は、脆性材料にレーザ光を吸収発熱し、かつ可視域の透過特性に影響せず、表示器用ガラスの表示特性を悪化させない照射レーザ光吸収用不純物を添加することによって実現する。また、蛍光発光防止のためには消光用不純物を添加する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料にレーザ光を照射しながら移動させて脆性材料に熱応力に起因する亀裂を発生させ、前記脆性材料を全厚さにわたって割断する脆性材料の割断方法であって、前記脆性材料の厚さをL(cm)、前記脆性材料の光吸収係数をα(cm−1)としたとき、不等式0.105/L<α<18.42/Lを満足するように前記脆性材料にレーザ光吸収不純物を添加し、前記レーザ光吸収不純物がレーザ光の吸収により熱に変換され、かつ可視域における吸収、蛍光特性を有さない不純物であることを特徴とする脆性材料の割断方法。
【請求項2】
レーザ光吸収不純物がNd、Yb、Ho、およびErから選択された希土類原子であり、レーザ光が前記レーザ光吸収不純物として添加した希土類原子と同種の希土類原子を添加したYAGレーザによるレーザ光であることを特徴とする請求項1に記載の脆性材料の割断方法。
【請求項3】
レーザ光吸収不純物としての希土類原子とともに、蛍光エネルギーレベル間よりギャップが小さいエネルギーレベルを有する蛍光消光用の希土類原子を添加したことを特徴とする請求項2に記載の脆性材料の割断方法。
【請求項4】
レーザ光吸収不純物がNdまたはYb、レーザ光がNd:YAGレーザまたはYb:YAGレーザによるレーザ光であり、蛍光消光用の希土類原子がPr、Sm,Dyから選択されたいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の脆性材料の割断方法。
【請求項5】
レーザ光吸収不純物がHoまたはTm、レーザ光がHo,Tm:YAGレーザによるレーザ光であり、蛍光消光用の希土類原子がPr、Nd,Euから選択されたいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の脆性材料の割断方法。
【請求項6】
蛍光消光用の希土類原子を添加せずに、レーザ光吸収不純物濃度を増大させた濃度消光によって、蛍光発光を防止することを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載の脆性材料の割断方法。
【請求項7】
レーザ光吸収不純物濃度、蛍光消光用の希土類原子濃度の少なくとも一方を、前記脆性材料の深さ方向に対して指数関数的に増大させたことを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載の脆性材料の割断方法。
【請求項8】
脆性材料にレーザ光を照射後冷却する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の脆性材料の割断方法。
【請求項9】
レーザ光がディスクレーザによるレーザ光であることを特徴とする請求項1に記載の脆性材料の割断方法。
【請求項10】
不純物を添加した脆性材料にレーザ光を照射して前記脆性材料に熱応力に起因する亀裂を発生させて割断する脆性材料であって、前記不純物は、レーザ光の吸収により熱に変換され、かつ可視域における吸収特性を有さない不純物であることを特徴とする脆性材料。
【請求項11】
レーザ光吸収不純物がNd、Yb、Ho、およびErから選択された希土類原子であることを特徴とする請求項10に記載の脆性材料。
【請求項12】
レーザ光吸収不純物としての希土類原子とともに、蛍光エネルギーレベル間よりギャップが小さいエネルギーレベルを有する蛍光消光用の希土類原子を添加したことを特徴とする請求項11に記載の脆性材料。
【請求項13】
蛍光消光用の希土類原子がPr、Sm、Dy、Nd、Euから選択されたいずれかであることを特徴とする請求項12に記載の脆性材料。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は脆性材料、なかんずくガラスなどの脆性材料の割断方法およびそれに使用される脆性材料に関する。本出願明細書では特にガラスを対象とした説明を行っているが、ガラスの他にも石英、セラミック、半導体などの脆性材料一般に適用が可能である。
【背景技術】
【0002】
脆性材料は、従来はダイアモンドチップなどの超硬バイトを使用した機械的方法で割断してきた。ガラスに対するこの方法の適用は、過去1世紀以上の長期間にわたって使用されてきた方法でもある。
【0003】
ところが、こうした機械的方法には次に述べるような欠点が存在する。第一は、割断時にカレットと呼ばれる小破片が発生し、ワーク表面を汚すことである。第二は、割断面付近にマイクロクラックが発生し、それを起点としてワークが割れる危険があることである。第三は、最小でも数百ミクロン程度の切り代が存在し、ワークサイズが際限なく微小化していく現在、この切り代の存在が無視できなくなることである。この他にも、加工速度の限界、消耗品である工具コストなど、産業上無視できない欠点がある。
【0004】
窓ガラスの割断などは従来技術の使用で問題ないが、液晶表示器やプラズマ表示器などに使用するファインガラス割断の場合、マイクロクラック対策のために割断面を研磨し、その後洗浄を行うなどの後工程が必要とされている。
【0005】
それに対して、最近将来性が期待されてきたレーザ割断方法には次に述べるような長所があり、ダイアモンドチップ法の欠点を消去する可能性がある。第一に、質量損失がゼロ(カレット発生なし)で、洗浄などの後工程が不要である。第二に、割断面付近にマイクロクラックなどの破壊欠陥が発生せず高強度断面が得られるので、研磨などの後工程が不要である。第三に、面粗さが1μ以下の鏡面が得られる。第四に、製品外形寸法精度が±25μ以下である。第五に、ガラス板厚0.2mmまでの薄さに使用でき、今後の液晶TV用ガラスに使用できる。
【0006】
次に、レーザ割断方法の原理を説明する。ガラスに高エネルギー密度のCOレーザビームを照射すると、一般的には照射スポットにおいてレーザビームの吸収が起こり、急激な加熱の結果放射状にクラックが発生してしまい、進行方向のみに割断を進行させることは出来ない。
しかしながら、レーザビームのエネルギー密度をこうしたクラックを発生させるものより
十分低いものに設定すると、ガラスは加熱されるだけで、溶融もクラック発生も起こらない。この時ガラスは熱膨張しようとするが、局所加熱なので膨張ができず、照射点を中心にその周辺には圧縮応力が発生する。この局所加熱源を割断したい方向に移動させるのである。加熱後に冷却液を噴射して冷却を行うと、今度は逆に引っ張り張力が発生する。この様子を図1に示す。
図1に示すようにレーザビーム1の断面形状を適当なものに成形すると、レーザビーム1の移動方向7と直交する方向のみに、引っ張り張力4が発生する。この引っ張り張力の作用で割断亀裂5が生じる。図1において、2はガラス内部の圧縮応力、3は冷却液、6はガラス板である。なお、レーザビーム1による加熱後に冷却液3を噴射せずに、ガラス板6を自然冷却させても引っ張り張力4は発生し、この引っ張り張力4の作用で割断亀裂5を生じさせることができる。
図2に示すガラス板6において、始点に機械的方法によるトリガークラック8をつけておくと、割断亀裂5はこのトリガークラック8から発生し、レーザビーム1の移動方向7に沿って進行させることができる。こうした現象が理想的に発生するためには、照射レーザビームのエネルギー分布が、引っ張り張力4を生じさせるために最適である必要がある。種々のガラスの割断において、こうした最適分布が研究されている。図1および図2に示す加熱レーザビーム1は、この最適化がなされたものである。
【0007】
こうした最適分布の実現方法については、発明者の一人によって特許文献1および特許文献2の特許出願がなされている。
【特許文献1】特願2003−363855号(特開2005−88078号公報)
【特許文献2】特願2004−156891号(特開2005−314198号公報)このガラス割断へのレーザ応用は、これから需要が急増するファインガラス全般の加工において、必要不可欠のものであるといえる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
COレーザビーム照射によるガラスの熱応力割断においては、図3に示すようにCOレーザビームはガラス板6の表面層だけで吸収され、ガラス板6の全厚さにわたって透過しない。これは、CO2レーザ波長におけるガラスの吸収係数αが著しく大きいことによる。レーザによる割断(レーザスクライブと称する)深さは通常100μ程度である。図3において、9はレーザスクライブ面、10はレーザスクライブ後のブレーク面である。レーザスクライブ面9をこれより深くすることは、COレーザビームを使用する限り、たとえレーザ出力を増大させても不可能である。ただし、レーザ出力を増大させれば、熱伝導によって熱源がガラス内部に浸透し、多少スクライブ深さを増大させ得ることが実証されている。しかしながら、図4に示すように、機械的スクライブ面も通常は同程度の深さであり、ガラスは脆性が強くこのスクライブ線にあわせて応力を印加し、機械的に割断することが容易であるので、スクライブ深さの増大は従来あまり求められてこなかった。この機械的応力の印加によって割断するプロセスをブレークと称する。
【0009】
このように、従来は、機械スクライブとブレークの組み合わせでガラス割断を行っている。機械スクライブの場合、図4に示すようにスクライブ線付近にはマイクロクラックが多量存在するので、ブレークは比較的容易である。ただし、図4において機械スクライブ後のブレーク面12は必ずしもガラス表面に直交する一平面を構成しない。機械スクライブの場合には、ブレーク後に割断面を研磨洗浄するので、ブレーク自体には高品質は要求されなかった。
【0010】
レーザスクライブの場合も、従来方法同様ブレークの併用が必要であった。そのために、前記した折角の長所がありながら、生産現場への普及が制約されている。比較的その長所が評価される液晶テレビ用ファインガラスの場合でも、実際の製造ラインではまだ実用になっていない。実用化のためには、ブレーク面位置精度、角度精度、清浄さが要求される。当然、カレットが付着していることは許されない。これらの諸問題を解決したブレーク技術は、残念ながらまだ完成していない。特に、マイクロワーク、曲線、複層構造ガラス、厚板ガラス、強化ガラス割断などの場合、レーザ割断技術の適用が強く望まれているのに、解決策が提供されるには至っていない。本発明は、こうした全ての課題を解決するためになされたもので、レーザスクライブを全板厚にわたって実現(このようなスクライブを、以下フルカットと呼称する。)するために必要なレーザ加工の条件を、脆性材料の厚さおよび光吸収係数αと関連付けて提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、脆性材料へのレーザビーム透過を十分な深さまで、多くの場合表面から裏面に至るまでの全板厚において実現する。そのため、従来のレーザ割断熱源が表面のみに存在する線状熱源であり、材料深さ方向には熱伝導で浸透していったのに対して、本発明では最初から表面から裏面に達する面熱源を使用するのである。この差異を、図5に示す。図5(a)および(b)は、それぞれ従来熱源と本発明による熱源を示す。図5(a)の従来熱源においては、レーザビーム1による熱伝導13は材料深さ方向に浸透するが裏面にまで到達はしない。一方、本発明においては、照射レーザ光の波長選択および脆性材料へのレーザ光吸収不純物の添加の少なくとも一方を利用して、脆性材料の厚さLおよび光吸収係数αに対して0.105/L<α<18.42/Lを満足するように設定されているので、図5(b)に示すように、レーザビーム1が脆性材料の内部に吸収されて透過レーザビーム吸収による面熱源14により加熱される。このためスクライブ深さも全板厚に及ぶので、ブレーク工程が不必要になるのである。
【0012】
こうしたレーザビーム1の透過は、脆性材料のレーザビームに対する吸収係数αを最適化しておこなうことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、レーザスクライブとブレークの両工程からなる従来のレーザ・ガラス割断をスクライブだけの一工程にすることができる。レーザによるガラス割断は、多くのすばらしい技術上の利点がありながら、いまだに過去1世紀にわたって使用されてきたダイアモンドカッター方式を置換できないできた。本発明はそうした事態を変革する。その直接の効果として、液晶テレビの生産工程だけにおいても次に挙げるものがある。
(1)割断位置精度が高い。
(2)割断面が鏡面で、面粗さが良好である。
(3)割断面がガラス表面に対して、十分に垂直である。
(4)割断面にカレットの付着がなく、清浄である。
(5)割断の自動化ができる。
(6)割断が高速度で行える。
(7)研磨、洗浄などの後工程が大幅に省略できる。
【0014】
上記のメリット以外にも、次に上げる一般的なメリットがある。
(1)曲線割断が可能である。これはレーザによる金属加工にも匹敵する。
(2)複層構造板の割断が可能である。液晶ディスプレイやプラズマディスプレィガラスに適用できる。
(3)マイクロワークの割断が可能である。ICタッグに適用できる。
(4)強化ガラスの割断が可能である。建築用ガラスに適用できる。
(5)曲面ガラスの割断が可能である。自動車用ガラスに適用できる。
このように、レーザによるガラス割断が産業界の各分野に普及すれば、加工速度、加工品質、経済性、難易度の克服などにおいて、その効果にははかり知れないものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
一般的に光が材料中をどの程度透過していくかは材料による吸収に依存する。材料の級数係数をα(cm−1)、伝播距離をx(cm)、距離xを伝播する前後の光強度をそれぞれI,Iとすると、次の関係式が成立する。
I= I・e―αx (1)
(1)式から、透過距離の所要値が分かれば必要な吸収係数αを求めることができる。次に、吸収係数αの上限値、最適値、下限値を求めることにする。
【0016】
下限値としては、ガラス板厚Lをレーザビーム1が90%透過してしまう場合を考える。この時、エネルギーの一部は無駄に消費されるが、十分にフルカットが実現できる。(1)式においてI/I=0.9とおくと、α=0.105/Lとなる。これが吸収係数αの下限値である。
上限値としては、発明者達の経験によれば、ガラス板厚の1/4までスクライブするとフルカットになってしまうことがよくあるので、ガラス板厚の1/4までスクライブする条件を上限値と設定する。(1)式に、I/I=0.99、x=L/4を代入すると、α=18.42/Lとなる。これが吸収係数αの上限値である。最適値としてはガラス板6によってレーザビーム1の50%が吸収される場合であって(1)式から同様にα=0.693/Lとなる。この結果、ガラス板6における光吸収係数αが0.105/L<α<18.42/Lを満足するような光を照射すればガラス板6はフルカットされることがわかる。
【0017】
3種類の代表的なガラス板厚0.02cm(将来の液晶TV)、0.07cm(現在の液晶TV)、0.28cm(現在のプラズマTV)に対して、この吸収係数αの上限値、下限値ならびに最適値を表示すると下表のようになる。 α下限値(cm−1)最適値(cm−1)α上限値(cm−1
板厚 0.02cm 5.25 34.65 921
板厚 0.07cm 1.50 9.90 263
板厚 0.28cm 0.38 2.48 65.8
周知のように、光吸収係数αは光の波長の関数である。したがって、ガラス板6における光吸収係数αを0.105/L<α<18.42/Lを満足するように制御するには、照射レーザ光1の波長を制御すればよい。あるいは、ガラス板6自体の光吸収係数αを制御すればよい。
以下の実施例に、これらの数値を実現するためのαの制御技術について説明する。
【実施例】
【0018】
図6に、石英ガラスの吸収特性を波長の関数として示す。縦軸は減衰定数κであって、吸収係数αとはλを波長として、α=4πκ/λの関係にある。図6から、波長10.6μのCOレーザビームに対する石英ガラスの吸収係数αは12600cm−1程度である。この場合(1)式によると、ガラス板の表面から3.7μの深さまで伝播すると、レーザビーム強度の99%が吸収されてしまう。これでは表面層にしか透過しない。それでも実際には約100μのスクライブ深さが可能であり、それには熱伝導が役立っていることが分かる。ガラスは組成と構造が決まっている結晶と異なって、メーカによって組成が異なる。しかしながら、おおよその吸収特性は図6のものを参考にすることができる。図6では、波長λの関数として吸収係数αが決まってしまっている。それによれば、前記したようにCOレーザ波長10.6μでは吸収係数αが過大であった。吸収係数αを変えるためには、波長λを変える必要がある。しかしながら、全波長を連続的に選択することは出来ない。高出力レーザ発振が得られる代表的なレーザ波長は、下記の通りである。
10.6μ (COレーザ)
5μ帯 (COレーザ)
2.94μ (E:YAGレーザ)
2.09μ (H:YAGレーザ)
1.06μ (N:YAGレーザ)
1.03μ (Y:YAGレーザ)
0.515μ (Y:YAGレーザの2倍波)
0.343μ (Y:YAGレーザの3倍波)
0.258μ (Y:YAGレーザの4倍波)
0.206μ (Y:YAGレーザの5倍波)
波長としては、これらの中からしか選択できない。
【0019】
吸収係数αの制御方法としては、図6の吸収特性そのものを変化させることである。それには、ガラス内に不純物を添加すればよい。ただし、この不純物は可視域の透過特性に影響せず、フラットパネルディスプレイ用ガラスの表示特性を悪化させないものを選ぶ必要がある。この場合、波長選択が自由になるので、使用レーザは既存の高出力レーザの中から選択することができる。
【0020】
つぎに、不純物添加による波長選択の有効性について説明する。不純物添加の例を考える。ガラスに、Er:YAGレーザあるいはHo,Tm:YAGレーザ光に対して吸収特性を有する水(HO)を適当量添加して、しかる後にこれらのレーザ光を照射してフルカットを実現することができる。これは、水の赤外線吸収のうち、波長約2μmと約3μmの吸収帯を利用して、波長2.091μmで発振するHo,Tm:YAGレーザ光、あるいは波長2.94μmで発振するEr:YAGレーザ光を吸収させるものである。
【0021】
ガラスを高温、高圧中で水蒸気にさらすと、安定な水を一定量含んだ状態になる。またその状況下で長時間放置すると、水を取り入れてコロイド溶液になったゲルを形成するか、水様セラミック(hydroceramic)と呼ばれる状態を形成する。Roger F. Bartholomew はJournal of Non-Crystalline Solids の56巻(1983年)、331ページから342ページにおいて「High-water containing
glasses」と題する論文を発表し、高濃度で水を含有したガラスの性質を論じた。彼は同論文中でScholzeの結果を引用し、波長6.2μmにH-O-Hの屈曲振動による吸収が、4.2−3.6μmの波長領域に水素結合による吸収が、2.8−2.7μmの波長領域にSi-OHと H-OHの伸縮振動による吸収があり、2.22μmにSi-OHの伸縮と屈曲の結合振動によるオーバトーンの吸収が、1.9μmにH-O-Hの伸縮と屈曲の結合振動のオーバトーンの吸収が、1.4μmにSi-OHと H-OHの伸縮振動のオーバトーンによる吸収があることを示した。これらの吸収は結合した原子間の伸縮と屈曲振動によるものであるから、それぞれの波長域で吸収された赤外線はすべて熱となってガラスの温度を上昇させる。
【0022】
さらに、これらの吸収係数はガラスに混入した水の濃度に比例する。レーザ光でフルカットすべきガラス板の板厚にあわせて、厚さ方向に一様な吸収と熱発生を実現する水分の濃度分布を実現させることによって、温度一定の熱源を実現することが出来る。こうした水による光吸収でガラスのフルカットが行える照射用レーザとして、波長2.091μmで発振するHo,Tm:YAGレーザがあり、このレーザ光は主としてH-O-Hの伸縮と屈曲の結合振動のオーバトーンによって吸収させることができる。
【0023】
他の候補として、波長2.94μmで発振するEr:YAGレーザがある。このレーザの場合は、主としてSi-OHと H-OHの伸縮振動によって吸収させることが出来る。なお、前述したようにガラスに水を混入させると赤外線領域での吸収が生じるが、可視光領域の透過特性には影響がないため、液晶やPDP用ディスプレイ用ガラスの表示特性を悪化させることはない。また、水の含有率の増加とともにガラスの硬度は減少し、クラックの発生はしにくくなるので都合がいい。
【0024】
希土類レーザ(Nd,Yb,Ho,Erレーザ)の発振波長において、適当量の希土類イオン(前記各レーザに対してそれぞれNd,Yb,Ho,Erイオン)をガラス中に添加して、それぞれ相当する前記レーザ光を照射してフルカットをすることができる。この場合も前記したように、深さ方向に一様吸収が発生するように、添加イオンに濃度勾配を持たせると良い。
【0025】
希土類原子はN殻中のf電子が外殻であるO殻の電子群に囲まれているために、ガラスやYAG結晶にドープしても結晶場の影響を受けにくく、鋭い吸収線と蛍光線が得られ、レーザ発振を行うのに適したエネルギー準位を持っている。こうしたレーザに、Nd:YAGレーザ、Yb:YAGレーザ、Ho,Tm:YAGレーザ、Er:YAGレーザなどがある。
【0026】
フルカット実現のためのレーザ光吸収では、これらのレーザ発振に用いている希土類原子の一つ、例えばYbをガラスに添加し、同じ希土類原子を用いたレーザ光、この例の場合はYb:YAGレーザ光をこのガラスに照射し、吸収をさせるものである。
【0027】
H.L.Smith とA.J.Cohen らは「Absorption spectra of
cations in alkali-silicate glasses of high ultra-violet transmission」と題した論文をPhysics and
Chemistry of Glasses の第4巻5号(1963年)173ページから187ページまでに投稿し、ガラス中にPr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Yb,U原子をドープした場合の吸収係数を測定した。例として図7に、3.7%のYbをドープした厚さ4.92mmのNaO・3SiOガラスの吸収係数を示す。図7において、曲線15はYbを3.7%添加した厚さ4.92mmのNaO・3SiOガラスの光吸収スペクトル、16はLuを9.0%添加した厚さ2043mmのNaO・3SiOガラスの光吸収スペクトルである。Tb(あるいはNd)をドープしたNaO・3SiOガラスは1μm付近に吸収があり、これはYb:YAGレーザの発振波長である1.03μmあるいはNd:YAGレーザの発振波長である1.06μmと一致している。同様に、HoあるいはTmをドープしたNaO・3SiOガラスは2μm付近に吸収があり、これはHo,Tm:YAGレーザの発振波長である2.091μmと一致している。
【0028】
これらの希土類原子の吸収波長と発振波長は、100nm程度のずれがある懸念がある。これはガラスは小さな結晶体の集合であり、これらの結晶ごとに結晶場の大きさが異なることによる吸収波長のずれであり、いわゆる不均一な吸収波長の広がりであって参考図としてG.Fuxiの著書である「Optical and spectroscopic properties of glass」(Springer-Verlag)の158ページのFig.7.6を引用して図8に示す。この図でinhomogeneously
broadened lineで示しているのが希土類原子の光吸収スペクトル18で不均一拡がりを有している。レーザ発振波長は、ガラス中のこれらの不均一拡がりの吸収の光吸収スペクトル18のなかに存在する希土類原子の発振スペクトル17で表される。
【0029】
したがって加工用希土類レーザを使用し、ガラス中にレーザと同じ希土類原子を適当量添加し、ガラスの吸収係数を制御することが可能となる。この原理によって本発明の目的が実現できることになる。しかし光吸収で励起された希土類原子は、蛍光を発して基底状態に戻る確率が大きく、この場合は吸収されたレーザエネルギーが熱とならず本発明の目的を達成することが出来ない。そのため、蛍光を消光(quenching)する必要がある。消光の方法としては、蛍光を発しているエネルギーレベル間より小さいエネルギーレベルを多く持つ希土類原子を消光剤(quencher)として添加することが考えられる。
【0030】
G.E.PetersonとP.M.Bridenbaughは「Study of relaxation
process in Nd using pulsed excitation」(Journal of the optical society of America, 54巻(1964)、644ページから650ページ)と題する論文で、励起されたNdを消光するためにはPr,Sm,Dyなどの希土類原子をドープすることが有効であることを示した。したがってNd:YAGレーザ光を吸収したNd添加のガラスは、これらの希土類原子を同じガラスに添加することによって消光され、吸収されたレーザ光のエネルギーはフォノンによる無放射遷移によって熱となって放出され、本発明の目的を達成することができる。これらの消光用希土類原子はNdとYbのレーザ発振線が近いことから、YbレーザとYbを吸収体として添加したガラスに対しても有効であると考えられる。Ho,Tm:YAGレーザとHoあるいはTmを添加したガラスの組み合わせの場合は、発振波長が20.91μmであって、このエネルギーギャップより小さなエネルギー準位を多く持つPr,Nd,Euなどの希土類原子が有効であると考えられる。さらにこの場合は、発光に寄与するエネルギーギャップそのものがNdやYbの場合より小さいために、G.Fuxiがその著書である「Optical and spectroscopic properties of glass」(Springer-Verlag)の192ページで述べているように、 無放射の確率が増える。
【0031】
図9は同著の156ページのFig.7.4を引用して示している。図9において、19は放射遷移、20は無放射遷移を示す。エネルギーギャップが小さいと無放射遷移20の確率Wnrが大きくなる。消光の他の方法として吸収のための添加量を多くした場合に生じる濃度消光(self quenching あるいはconcentration quenching )があり、この方法はここで述べたすべての組み合わせで有効である。しかし本発明の場合には、吸収用不純物の添加量は、与えられたガラス厚みに対して所要の熱発生を生じるように最適化する必要があるため、濃度消光はこの条件下でしか採用できない。
【0032】
以上を要約すれば、Nd:YAGレーザとYb:YAGレーザの場合はガラスの吸収用不純物としてそれぞれNdとYbを添加し、消光用にはPr,Sm,Dyを添加するかNd,Ybの添加量を増大させて濃度消光をする。 Ho,Tm:YAGレーザを用いた場合は吸収用不純物としてHoあるいはTm
を添加し、消光のためにはPr,Nd,Euを消光剤として添加するか、HoあるいはTmを最適吸収の範囲内で添加し濃度消光をする。
【0033】
フルカットするガラスを構成する酸素イオンの状態によって、該ガラス中の束縛電子の充満帯から伝導帯への遷移による紫外線波長領域における光吸収を実現すべく、希土類レーザの第3高調波、第4高調波、第5高調波の中から選択照射し、フルカットを行うことができる。
【0034】
本実施例は、ガラス中の束縛電子の充満帯から伝導帯への紫外線波長領域で生じる吸収を利用するもので、この吸収を生じさせるレーザを希土類レーザの第3高調波、第4高調波、第5高調波の中から選択して照射し、フルカットするものである。ガラスの紫外線による吸収はガラス中の酸素イオンによるもので、この酸素イオンが強く束縛されていると、より短波長までガラスは透明となる。
【0035】
図10はHost Scholze 著「Glass Nature,structure,and properties 」(Springer-Verlag)の233ページのFigure 108を引用したもので、厚さ10mmのガラスにおいて、曲線21は高度に純粋なSiOガラスの、曲線22は通常状態のSiOガラスの、曲線23は高度に純粋なNaO・3SiOガラスの、曲線24は通常のNaO・3SiOガラスの厚さ10mmの透過波長特性を示す。図10から厚さ10mmのガラスの場合には、透過率が50パーセントになる波長は160nmから320nmまでに亘っていることがわかる。したがって、使用するレーザもこの波長域のものが必要になるが、本発明の場合は希土類原子を固体中にドープしたレーザの第3、第4、第5高調波の中から最適吸収が得られる波長を選択して照射する。これらの波長は、Nd:YAGレーザの第3、第4、第5高調波である353nm、265nm,212nm、Yb:YAGレーザの第3、第4、第5高調波である343nm、258nm、206nm、Nd:YLFレーザの第3高調波である349nm、440nm、第4高調波である262nm、330nm、第5高調波である209nm、264nmなどである。これらの中から、与えられたガラスの厚さと組成から最適吸収が得られる波長を選べば、フルカットを行うことができる。
【0036】
レーザビームがガラス内部を吸収されつつ透過して行く時、(1)式から明らかな通り、発熱量はガラスの深さ方向に逆指数関数的に減少する。このままでもフルカットは可能であろうが、高品位加工のためには、発熱量が深さに関係なく一定値であることが望ましい。そのためには、不純物濃度を表面から裏面にかけて逆指数関数的に分布させ、発熱を深さ方向に一様にするとよい。
【0037】
本発明の場合のように、レーザビームが材料内の十分な深さまで浸透する場合には、熱源は薄い面熱源であり更なる熱伝導は不要である。できるだけ低レーザ出力であることが望ましいので、照射ビームの断面構造は幅が狭い線状のものが望ましい。この場合、レーザ発振器としてはビーム特性に優れたディスクレーザの使用が望ましい。
【0038】
表面吸収が強いCOレーザビームでも、或る程度高出力にすれば熱伝導によって熱源が材料の深さ方向に浸透していく。特に、材料厚さが薄い場合にはこの方法でもスクライブは深くなるであろう。この場合には、熱伝導は深さ方向と同時に、材料の表面方向にも伝達してしまう。望むらくは、熱伝導は材料深さ方向に集中して欲しい。極端な例として照射レーザビームの断面が材料全表面に等しい場合には、深さ方向のみに熱伝導が発生する。勿論、これではスクライブ位置の特定ができないから、このようなことは選択できない。それにしてもなるべく深さ方向の比率が増すように、照射レーザビームは幅広の断面形状を持つことが望ましい。
【0039】
以上は、加熱方法について説明を行った。フルカット実現のためには、冷却も板厚方向に効率的に行う必要がある。そのためには冷却をガラス表面のみで行うのでなく、同裏面においても行うほうが効果的である。
【0040】
以上説明したのは本発明の機能を実現する若干の実施例であって、本発明の精神はその他の多くの方法で実現可能であることは言を俟たない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ、モバイルやカーナビ用表示器、光学装置用IRフィルターなどに用いる平面ガラスの切断が、現在はダイアモンドカッターで行われており、切断後の洗浄工程の必要性や、マイクロクラックの存在などの問題を呈している。本発明によるレーザ割断で、こうした問題を解決することができる。ICチップカバーガラスやICダグなど微小チップの加工にも、本発明は応用できる。大型ワークの場合よりも切断長が大きいので、本発明の効果は大きい。
【0042】
自動車用のガラス部品は曲線加工が多いので、現在は機械的に直線切断の後、研磨を施している。このために、ガラス割断だけですませられるレーザ加工への期待は大きい。
【0043】
さらに、建築資材としての強化ガラスの加工で、犯罪防止という現代社会に求められている課題解決に貢献できる。強化ガラスの切断は機械的方法では困難であり、レーザの使用が期待されているのである。
【0044】
このように、ガラス割断を改善するレーザ技術の出現は、現代社会に要求されている種々の課題への解決である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に使用されるレーザ光加熱および冷却によるガラス内の圧縮応力および引っ張り張力の発生原理を説明する概念図
【図2】本発明に使用されるレーザによるガラス割断原理を説明する概念的斜視図
【図3】従来のガラスのレーザスクライブを説明する概念的斜視図
【図4】従来のガラスの機械スクライブを説明する概念的斜視図
【図5】ガラス内部の熱発生の状態を説明する概念的斜視図で、(a)は従来方法、(b)は本発明による図
【図6】本発明による脆性材料のフルカット割断方法を説明するための、石英ガラスの光吸収スペクトル図
【図7】本発明による脆性材料のフルカット割断方法を説明するための、YbとLuを添加したNaO・3SiOガラスの光吸収スペクトル図
【図8】本発明による脆性材料のフルカット割断方法を説明するための、希土類原子の光吸収スペクトルと発振スペクトル図
【図9】本発明による脆性材料のフルカット割断方法を説明するための、放射遷移と無放射遷移の関係を説明する波長スペクトル図
【図10】本発明による脆性材料のフルカット割断方法を説明するための、各種ガラスのUV光吸収スペクトル図
【符号の説明】
【0046】
1 加熱レーザビーム
2 ガラス内部の圧縮応力
3 冷却液
4 ガラス内部の引っ張り張力
5 ガラスに生じる割断亀裂
6 ガラス板
7 レーザビームの移動方向
8 トリガークラック
9 レーザスクライブ面
10 レーザスクライブ後のブレーク面
11 機械スクライブ面
12 機械スクライブ後のブレーク面
13 熱伝導による熱源
14 透過レーザビーム吸収による熱源
15 Ybを3.7%添加した厚さ4.92nmのNaO・3SiOガラスの光吸収スペクトル
16 Ybを9.0%添加した厚さ4.92mmのNaO・3SiOガラスの光吸収スペクトル
17 希土類原子の発振スペクトル
18 希土類原子の光吸収スペクトル
19 放射遷移
20 無放射遷移
21 高度に純粋な厚さ10mmのSiOガラスの透過波長特性
22 通常状態の厚さ10mmのSiOガラスの透過波長特性
23 高度に純粋な厚さ10mmのNaO・3SiOガラスの透過波長特性
24 通常状態の厚さ10mm のNaO・3SiOガラスの透過波長特性

【出願人】 【識別番号】503390651
【氏名又は名称】株式会社レミ
【出願日】 平成19年7月26日(2007.7.26)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−818(P2008−818A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2007−194194(P2007−194194)