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【発明の名称】 疲労低減型溶接継手構造形成方法と補強樹脂ブロック
【発明者】 【氏名】沢井 達明

【氏名】村岸 治

【氏名】道場 康二

【要約】 【課題】金属材料の継手構造において、隅肉溶接部の疲労強度を向上させることができる疲労低減型溶接継手構造を形成する方法およびそのために利用できる補強樹脂ブロックを提供する。

【構成】鋼床版と垂直補剛材を固定する溶接継手部を挟んだ面に当接する互いに垂直の2枚の平面を持ちこの平面の間を繋ぎこの平面に向かって厚みが漸減する形状の梁体を有する補強樹脂ブロック11,12,13を準備し、垂直補剛材の鋼床版と接する3面それぞれと鋼床版において溶接継手部から所定の幅までの領域を粗面化して接着剤を塗布し、これに補強樹脂ブロックを押し付け接着剤を硬化させることにより、鋼床版垂直補剛材溶接継手の補強構造を形成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主板とリブ板を固定する溶接継手部に対して、該主板とリブ板の該溶接継手部を挟んだ面に当接する互いに垂直の2枚の平面を持ち、該平面の間を繋ぎ該平面に向かって厚みが漸減する形状の梁体を有する補強樹脂ブロックを準備し、前記リブ板と前記主板の前記補強樹脂ブロックが当接する領域を粗面化して接着剤を塗布し、該接着剤を塗布した面のそれぞれに前記補強樹脂ブロックを押し付け固定し、前記接着剤を硬化させることにより、主板とリブ板の溶接継手の補強構造を形成することを特徴とする疲労低減型溶接継手構造形成方法。
【請求項2】
前記主板が鋼床版であり前記リブ板が垂直補剛材であることを特徴とする請求項1記載の疲労低減型溶接継手構造形成方法。
【請求項3】
隅肉溶接により主板にリブ材を接合する溶接継手構造に適用する補強樹脂ブロックであって、前記主板およびリブ板の面に対面する互いに垂直な2つの平面と、前記主板およびリブ板に対面する前記2つの平面に向かって厚みが漸減する形状を持つ面を有し、前記2つの平面の間が梁体を形成することを特徴とし、前記2つの平面のそれぞれを接着剤で前記主板とリブ板に固定して補強する補強樹脂ブロック。
【請求項4】
前記主板およびリブ板の面に対面する互いに垂直な2つの平面が形成する稜線部に前記隅肉溶接部を囲繞する凹みを形成することを請求項3に記載の補強樹脂ブロック。
【請求項5】
前記梁体がプラスチックパテで形成されることを特徴とする請求項3または4記載の補強樹脂ブロック。
【請求項6】
前記プラスチックパテがエポキシ系パテであることを特徴とする請求項5に記載の補強樹脂ブロック。
【請求項7】
前記梁体がプラスチックパテ材に金属粉を混合したプラスチックスチールパテで形成されることを特徴とする請求項5または6記載の補強樹脂ブロック。
【請求項8】
前記梁体を形成するパテ材に強化用繊維が混練されていることを特徴とする請求項3から7に記載の補強樹脂ブロック。
【請求項9】
前記強化用繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、鉄繊維のいずれかであることを特徴とした請求項8に記載の補強樹脂ブロック。
【請求項10】
前記主板および前記リブ板の交線に垂直に切った断面において前記梁体の断面形状が表面凹の円弧状であることを特徴とする請求項3から9に記載の補強樹脂ブロック。
【請求項11】
前記梁体の断面形状の曲率半径が前記主板の板厚の1倍〜20倍であることを特徴とする請求項10に記載の補強樹脂ブロック。
【請求項12】
前記梁体の内部に該梁体を形成するパテ材より剛性が高い補強部材が埋設されていることを特徴とする請求項3から11のいずれかに記載の補強樹脂ブロック。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の隅肉継手部の疲労強度を向上させる疲労低減型溶接継手構造形成方法とこれに使用する補強樹脂ブロックに関し、特に高速道路など重車両の交通量が大きい道路の鋼床版における垂直補剛材の溶接部における疲労低減を行う溶接継手構造形成方法と補強樹脂ブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼やアルミ合金等の金属材料を用いた構造物の製造に隅肉溶接を用いた継手構造が広く用いられている。しかし、隅肉溶接により接合した継手構造では、母材に引張応力や曲げ応力が掛かると隅肉溶接の止端部に応力が集中するため、繰り返し応力が掛かることにより溶接止端部に疲労亀裂が生じやすく、溶接部の疲労強度は母材に比べて著しく低くなっている。このため、構造物全体の疲労強度が溶接継手部に支配され、母材の特性を生かし切ることができなかった。
【0003】
たとえば、高速道路の高架部ではトラフで補強したデッキプレートを主桁で支えたうえ垂直補剛材をデッキプレート底面と主桁に隅肉溶接で固定して補強する鋼床版構造が採用されている。このような鋼床版構造では、供用期間が長くなるにつれてデッキプレートと垂直補剛材の溶接部近傍に疲労亀裂が発生する場合があり、重大な損傷に至る可能性がある。
【0004】
溶接部の疲労強度を向上するためには、母材の板厚を増して応力に対する母材の歪みを軽減し、溶接止端部に掛かる応力を低下させればよいが、構造物全体の設計強度に対して遙かに強度の高い母材を用いなければならず、非常に不経済な材料設計となるので望ましくない。
【0005】
そこで、従来は、溶接止端部をグラインダー等により切削、研削処理したり、TIGやプラズマなどにより再溶融して止端部を滑らかに再加工して止端部への応力集中を軽減し、疲労強度の向上を図っていた。しかし、これらの方法は、構造物形成後の溶接金属の止端部近傍を注意して加工する必要があるため多大な労力と手間を要し、コスト負荷が高くなっている。
【0006】
特許文献1には、図16の断面図に示すような、溶接部疲労強度向上方法が開示されている。この開示発明は、主板100とリブ板101を隅肉溶接により接合した溶接継手において、母材100に対して、弾性率が5%〜150%、(弾性率)×(厚み)が1%〜50%となる繊維強化プラスチック(FRP)102を隅肉溶接104の溶接止端部103を被覆するように母材100と隅肉溶接部101に固着し、溶接止端部103に掛かる応力の一部をFRPの作用に分担させて、応力集中を低減するものである。
【0007】
この方法により溶接止端部における応力集中を緩和して、隅肉溶接継手の疲労強度を向上させることができる。しかし、開示発明は、溶接止端部の応力集中のみに着目して発明された技術であり、溶接部全体の応力状態を考慮したものでないため、効果が限定的であった。また、薄いFRPを貼るだけでは、応力分担効果が小さく、応力集中低減効果も小さい。
【0008】
本願発明者らは、既に特願2005−263129号明細書により、図17の斜視図に示すような、主板105とリブ板106を隅肉溶接したうえ溶接部107を被覆し主板105とリブ板106に固着するパテ層108を形成して応力集中を緩和する疲労低減型溶接継手構造を開示している。
開示の疲労低減型溶接継手構造によれば、隅肉溶接の止端部に集中する応力の方向をパテ層側に分散して応力集中を緩和すると共に、従来隅肉溶接部に掛っていた応力の一部をパテ層が分担し、隅肉溶接部に流れる応力を軽減することにより、溶接継手の疲労強度を向上させることができる。
【0009】
また、開示の溶接継手構造は、特に既設構造体に適用するときや現場施工が必要なときに、簡単な道具を使って容易に施工ができ、電源装置などを必要とせず、グラインダー処理や肉盛溶接など他の施工法と比較して、大きなメリットがある。
パテ層104を施工するときは、まず、溶接金属103の表面をアセトンで拭いて脱脂する。続いて、主剤と硬化剤を混練したパテ材を溶接金属103に盛りつける。その後、図18に示すように、目的の曲率半径を持つ円柱形の型材109をパテ材に押しつけ、24時間固定した後、型材を外して完成させる。型材109は木材部111の表面にフッ素樹脂シート110を貼付したものを用いて、接着剤が硬化した後に離型しやすくする。
【0010】
しかし、開示の溶接継手構造は、施工された溶接部にパテ層を盛りつけ型材を押しつけて硬化した後に型材を外して完成させるもので、現場における作業が主体になる。したがって、作業能率が現場の状況に大きく影響を受けるばかりか、施工のための作業が長時間に亘り現場の工事に対する影響も大きい。さらに、出来上がりの体裁も現場の状況や作業者の熟練に左右され、均質な出来栄えを得ることが難しい。
【特許文献1】特開平8−243778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、金属材料の継手構造において、隅肉溶接部の疲労強度を向上させることができる疲労低減型溶接継手構造を形成する方法およびそのために利用できる補強樹脂ブロックを提供することであり、特に高速道路などの鋼床版における垂直補剛材補強に用いる補強樹脂ブロックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の鋼床版垂直補剛材補強方法は、鋼床版と垂直補剛材を固定する溶接継手部を挟んだ面に当接する互いに垂直の2枚の平面を持ちこの平面の間を繋ぎこの平面に向かって厚みが漸減する形状の梁体を有する補強樹脂ブロックを準備し、垂直補剛材の鋼床版と接する3面それぞれと鋼床版において溶接継手部から所定の幅までの領域を粗面化して接着剤を塗布し、これに補強樹脂ブロックを押し付けて接着剤を硬化させることにより、鋼床版垂直補剛材溶接継手の補強構造を形成することを特徴とする。
【0013】
本発明の方法を用いて補強構造を形成する場合は、既製の補強樹脂ブロックを利用することにより現場における作業が簡略化して、熟練工の省力や労務費の節減が図れ、また他の現場作業への差し障りも減少して工事能率が向上する。
また、本発明の方法で形成された補強構造では、鋼板を突き合わせ溶接した溶接部に生じる高度な応力集中を補強樹脂ブロックに分散して緩和させるので、構造の寿命が延び、保全や改築、改装の費用が節約できる。
【0014】
また、上記課題を解決するため、本発明の補強樹脂ブロックは、鋼床版と垂直補剛材の溶接継手など、隅肉溶接により主板にリブ材を接合する溶接継手構造に適用するもので、主板およびリブ板に接する平面と、隅肉溶接部を囲繞する凹みとを有し、凹みの反対側の面が主板及びリブ板に接する平面に向かって厚みが漸減する形状になっていることを特徴とする樹脂製のブロックである。
【0015】
本発明の補強樹脂ブロックは、接着剤をブロックと主板、リブ板および隅肉溶接部との間に充填してブロックを主板とリブ板に押しつけた状態で接着剤を硬化させることにより固着させて使用する。補強樹脂ブロックを使用することにより、隅肉溶接部の溶接止端部への応力集中を緩和する効果に加えて、隅肉溶接部に掛かる応力を樹脂ブロックが分担して負担するので、隅肉溶接部の疲労強度を向上させて疲労亀裂を防止し構造の寿命を延長させることができる。
【0016】
接着剤はプラスチックパテなど、主板およびリブ板に対して接着性がよく剛性の高い材料のものが使用される。補強樹脂ブロックは補強樹脂ブロックを主板などに接着する接着剤を使って形成することが好ましい。
特に、補強樹脂ブロックを接着剤と同じ樹脂で形成した場合は、補強樹脂ブロックを当てて接着剤が硬化し固定された後には、補強部分においてブロック部と接着剤硬化部が均質に一体化するので、溶接部における疲労強度が向上し、構造の寿命が延伸する効果が大きい。
【0017】
補強樹脂ブロックのヤング率が主板およびリブ板に対して著しく低いと、ブロックが隅肉溶接部に掛かる応力を十分に負担することができなくなるため、例えば比較的剛性が高いエポキシ系パテを用いたり、強化用繊維が混練されたパテ材を用いるのが好ましい。なお、強化用繊維として、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、鉄繊維などを利用することができる。
また、高分子パテ材に金属粉を混合した、例えば鉄パテなどのプラスチックメタルパテを用いると、パテ層の表面の質感が主板やリブ板の質感に近くなり仕上がりが良好である。例えばエポキシ系パテに鉄粉を混練したパテ材(商品名デブコンA(ITWインダストリー株式会社)など)が好適である。
【0018】
なお、補強樹脂ブロックの表面は平面や曲面など任意の形状にすることができるが、主板とリブ板の間に懸架される表面を主板あるいはリブ板に接する面に向かって厚みが漸減するようにすることにより、効果的に補強樹脂ブロックの端部での応力集中を緩和できる。特に主板とリブ板の間に懸架される表面を隅肉溶接部に向かって凹の円筒面にすると、円筒体ジグを用いて容易に形成できまた容易にブロックを主板やリブ板に固定することができると共に、溶接部での水の溜まりを防止でき、仕上がりが美しくなる等の利点があり好ましい。また、例えば双曲面にしても同様の効果が得られる。
【0019】
隅肉溶接部に対応する補強樹脂ブロックの厚さは任意である。しかし、隅肉溶接部に掛かる応力を軽減するには補強樹脂ブロックで応力を負担する必要があるため、一定程度以上の厚さが必要になる。例えば表面を円筒面とした場合は、表面の曲率半径が主板の板厚の1倍以上でなくてはならない。また、補強樹脂ブロックの厚みに対して疲労低減効果が飽和すること、構造物が無用に大型化することなどから、面の曲率半径を主板の板厚の20倍程度以下にするのが好ましい。
【0020】
本発明の補強樹脂ブロックは、ブロックの内部にパテ材より剛性が高い補強部材を埋設すると、より高い疲労低減効果が得られる。
特に主板やリブ板のヤング率が高い場合は、パテ材のみで補強樹脂ブロックを形成したときにブロックの剛性が不足し、隅肉溶接部に掛かる応力を補強樹脂ブロックが十分に分担できなくなることから、所定の疲労低減効果が得られない場合がある。このような場合は、補強樹脂ブロックの内部に剛性の高い補強部材を埋設し、補強部材が補佐的に応力を負担するようにすると良い。
【0021】
例えば補強部材を鋼板などの板材とし、隅肉溶接部の表面に平行に設置することができる。また、補強部材を線材とし、主板とリブ板の間に掛かる圧縮応力や引張応力に抗する方向に配置しても良い。補強部材を線材とした場合、主板とリブ板の対向する面を掛け渡す方向に線材を配するのが効果的である。必要に応じて多数の線材を並べて配しても良い。しかし、施工上困難である場合は、複数の線材を、主板とリブ板の交線に平行に、線材と線材が接するよう密に埋設し、線材の直径方向への圧力に対する抗力を発生させて圧縮応力に抵抗できるようにしても良い。
補強部材の材質や配置姿勢は主板とリブ板に掛かる応力の方向や強度等に応じて適宜選択すればよい。
【0022】
本発明の補強樹脂ブロックは、特に高速道路などの鋼床版における垂直補剛材の部分に取り付けて補強することができる。
本発明の補強樹脂ブロックを適用するときは、対象とする垂直補剛材の状況を調べて、形状が適合する補強樹脂ブロックを選択する。適当なものがなければ、型材を使って樹脂ブロックを成型し、必要に応じて切削して形を整えて適合する補強樹脂ブロックを形成することができる。
【0023】
選択した補強樹脂ブロックは、さらに現場の実情に合わせて他の事物と干渉しないように形状調整する。次に、樹脂ブロックを接着する鋼床版と垂直補剛材の接着面をグラインダーで削って塗膜を除去し、接着面にプラスチックメタルパテなどの接着剤を盛って補強樹脂ブロックを押し付け固着させる。
接着面と樹脂ブロックの間にできていた空隙は接着剤で充填され、この部分の接着剤は固化して補強樹脂ブロックと一体化して、応力を分担して隅肉溶接部の溶接止端部への応力集中を緩和する効果を発揮する。
【0024】
本発明を利用することにより、現場における施工時間が短縮され、また施工が簡単になり、かつ熟練工によらなくても高い補強性能を発揮することができる。
本発明の補強樹脂ブロックを適用した鋼床版垂直補剛材は、隅肉溶接部にかかる応力集中を緩和し、溶接止端部の応力疲労を軽減して継手構造の疲労強度を向上することにより、数倍の構造体寿命延長効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を用いて本発明の補強樹脂ブロックの最良の形態について詳細に説明する。
図1から図15は、本発明の1実施例にかかる疲労低減型溶接継手構造と補強樹脂ブロックを説明する図面、図16から18は従来の溶接継手構造の例を示す図面である。
【0026】
図1は本実施例の補強樹脂ブロックの形状を例示する斜視図、図2は補強樹脂ブロックを鋼床版垂直補剛材に適用した疲労低減型溶接継手構造を示す斜視図、図3は本実施例の疲労低減型溶接継手構造を垂直に切断した断面図、図4は図3のIV−IV線で水平に切断したときの断面図、図5は補強樹脂ブロックの適用状態をデッキプレートを除いて上面から観察した平面図である。
【0027】
本実施例の補強樹脂ブロックは、隅肉溶接の溶接線に平行な軸を持つ断面がほぼ直角三角形をした柱体であって、部材の突合せ部を巡るように形成された隅肉溶接部に当てて、溶接部を挟む部材の平面部に接着剤で固定して用いることにより、溶接部近傍で発生する応力集中を緩和させるものである。
【0028】
高速道路など交通量が大きな道路では、高架部の鋼床版に、デッキプレートを主桁で支持する構造を有するが、主桁には適当な間隔で床面とデッキプレートの天井面を突っ張って支える垂直補剛材が設けられている。デッキプレートと垂直補剛材は隅肉溶接で接合されるが、道路を走行する車両負荷により溶接部近傍に疲労亀裂が発生する場合がある。疲労亀裂は、溶接部近傍で急激に大きくなる応力集中が大きな要因になる。
【0029】
これに対し、本実施例の補強樹脂ブロックを適用することにより、溶接部近傍の応力集中を緩和し、疲労強度を増大して構造の寿命を延長させる効果をもたせることができる。
図1に示した補強樹脂ブロックセット1は、図2に示すように主板のデッキプレート2とリブ板の垂直補剛材3を隅肉溶接した部分に適用するもので、垂直補剛材3が主桁ウェッブ4に隅肉溶接32で固定されており、垂直補剛材3を三方から囲んで補強するため、面対称形をした1対の補強樹脂ブロック11,12と、これらに挟まれるように配置されるくさび形の補強樹脂ブロック13の3個のブロックで構成される。
【0030】
面対称形の1対のブロック11,12は、垂直補剛材3に当接する垂直面a,a’、デッキプレート2の下面に当接する水平面b,b’、水平面と垂直面の縁線の間に張られる凹曲面d,d’、垂直補剛材3の自由端側に向いた先端面e,e’、主桁ウェッブ4に当接する奥端面f,f’を有する。
通常、デッキプレート2と垂直補剛材3と主桁ウェッブ4は互いに垂直であるから、垂直面a,a’と水平面b,b’と奥端面f,f’は互いに垂直になっている。
【0031】
凹曲面d,d’は、ブロックがデッキプレート2と垂直補剛材3の接合部に取り付けられたときに、ブロックの厚みがデッキプレート2と垂直補剛材3に近づくほど薄くなるような形状を有する。たとえば、円柱や楕円柱、双曲面柱など、曲面を持った柱体を型に使って容易に形成することができる。
【0032】
使用時には、垂直面a,a’と水平面b,b’が合わさる稜線部を削り落として、デッキプレート2と垂直補剛材3の隅肉溶接部31と干渉しないための凹み面c,c’を形成してから使用する。図1に1点鎖線で示した凹み面c,c’は、実際の隅肉溶接部31に合わせて現場で加工することができる。また、凹み面c,c’は、隅肉溶接部を囲繞するような大きさの凹みになるように、ブロック成型時に予め形成しても良い。
【0033】
先端面e,e’は、垂直の傾斜面であって、図4の水平面断面図から分かるように、くさび形のブロック13が、これらの傾斜面に挟まれるように配置される。
【0034】
くさび形のブロック13は、垂直補剛材3の端面に当接する幅の狭い垂直面g、デッキプレート2の下面に当接する水平面h、水平面hと垂直面gの縁線の間に張られる凹曲面j、面対称形のブロック11,12の先端面e,e’に当接するくさび面k,k’を有する。垂直補剛材3先端部の隅肉溶接部31と干渉しないための凹み面iは、ブロック11,12の凹み面c,c’と同様に、現場で加工するほかに、成型時に一緒に形成することができる。
【0035】
図3に示したように、面対称形の1対のブロック11,12は、垂直面で垂直補剛材3を挟むように配設され接着剤5により接合し、水平面はそれぞれデッキプレート2の底面に当てて接着剤5により接合して、使用する。
凹み面が設けられているため、デッキプレート2と垂直補剛材3を接合する隅肉溶接部31との干渉を避けて、デッキプレートと垂直補剛材に対して密着させることができる。
【0036】
また、くさび形ブロック13は、図4と図5に示した通り、面対称形の1対のブロック11,12の間に挟持され接着剤により一体化して、垂直補剛材3の上端部においてその三方を囲むように形成されるデッキプレート2との隅肉溶接部31を囲繞し、疲労亀裂が発生しやすい垂直補剛材3の端縁部近傍を保護することができる。
【0037】
3個のブロックと構造材の間にできる隙間は接着剤で充填され、接着剤が硬化した後は、補強樹脂ブロック11,12は接着剤5と一体となってデッキプレート2および垂直補剛材3と共に疲労低減型溶接継手構造を形成し、デッキプレート2や垂直補剛材3に発生する応力を分担して応力集中を緩和させ、構造の寿命を延長させる。
なお、デッキプレート2と主桁ウェッブ4との隅肉溶接部41についても同様に、補強樹脂ブロック11,12の当接する稜線部に干渉を避けるための溝部を形成して、接着剤5を充填して一体化する。
【0038】
補強樹脂ブロックセットは、色々な組み合わせが可能である。
図6は本実施例の別の形状を持つ補強樹脂ブロックを例示する斜視図、図7はその適用状態をデッキプレートを除いて上面から観察した平面図である。
本態様の補強樹脂ブロックセット1’は、1対の互いに面対称をした擬似的に三角台形状をした三角台ブロック11’,12’と1個の擬似的な四角錐の形状をした四角錐ブロック13’からなる。
【0039】
三角台ブロック11’,12’は、垂直補剛材3に当接する垂直面、デッキプレート2の下面に当接する水平面’、水平面と垂直面の縁線の間に張られる凹曲面、主桁ウェッブ4に当接する奥端面、垂直補剛材3の自由端側の奥端面に平行な先端面を有する。凹曲面以外の4面は互いに直交する。
凹曲面によって、ブロックの厚みはデッキプレート2と垂直補剛材3に近づくほど薄くなっている。
【0040】
四角錐ブロック13’は、垂直補剛材3の端面と三角台ブロックの先端面に当接する垂直面、デッキプレート2の下面に当接する水平面、水平面の3稜と垂直面の縁線の間に張られる3面の凹曲面を有する。
【0041】
本態様の補強樹脂ブロックセットを組み立てるときは、三角台ブロック11’、12’の先端面に四角錐ブロック13’の平面を合わせて接着剤で固定すれば足りるので、構成が容易である。
なお、構造形成時には、垂直面と水平面が合わさる稜線部を削り落として図6に1点鎖線で示した凹み面を形成し、隅肉溶接部31と干渉しないようにする。凹み面は、実際の隅肉溶接部31に合わせて現場で加工してもよく、また、ブロック成型時に予め形成しても良い。
【0042】
補強樹脂ブロックは、型材を使用して製造することができる。
平面部に対応する面を有し内面にフッ素樹脂シートを貼付した型箱と、目的の曲率半径を持ちフッ素樹脂シートで覆った円柱形の押し型を作り、型箱の中に主剤と硬化剤を混練したパテ材を充填して、押し型を押し付けて固定し、24時間経過するとかなりの高度まで硬化するので、押し型を外し硬化したブロックを型箱から取り出す。
【0043】
なお、補強樹脂ブロックの内部にガラス繊維強化プラスチックシート(GFRPシート)や鋼板、鋼線などを埋設しておくことによって、ブロックの疲労強度を高めることができる。
例えば補強部材として、鋼板などの板材を隅肉溶接部の表面に平行に設置したり、線材を主板とリブ板の間に掛かる圧縮応力や引張応力に抗する方向に配置しても良い。補強部材を線材とした場合、主板とリブ板の対向する面を掛け渡す方向に線材を配するのが効果的である。必要に応じて多数の線材を並べて配しても良い。
補強部材の材質や配置姿勢は主板とリブ板に掛かる応力の方向や強度等に応じて適宜選択すればよい。
【0044】
パテ材として、たとえば、エポキシ系パテに鉄粉を混練した鉄パテ(商品名:デブコンA)を使うことができる。このパテは、補強樹脂ブロック11,12,13をデッキプレート2と垂直補剛材3と接合する接着剤としても使える。ブロックと接着剤が同じ材料で形成されるときは、疲労低減型溶接継手構造を形成したときに、応力を引き受ける梁体が特性が変化する境界面を持たないので、スムーズに応力分散することができる。
【0045】
図8は、補強樹脂ブロックの施工手順を説明するフロー図である。
適用対象について施工条件を検討して、施工することに決定すると(S1)、次に、対象とする構造に適合するブロックの形状を選定する(S2)。このとき、構造的な解析を行い、凹曲面の曲率や平面の大きさなどが決められる。
適合ブロックを製作する(S3)。ブロックはパテ材の成型で基本形状が形成され、細部の形状調整は切削で行う。
【0046】
次に現地作業として、補強樹脂ブロックを適用する個々の位置に応じて、干渉などが生じないように形状調整をする(S4)。
次いで、補強樹脂ブロックを適用する接着面の適用準備を行う。垂直補剛材とデッキプレートの接着面を粒度40〜400のグラインダを使って研磨して接着面における塗膜を除去し、アセトンなどの溶剤を使って脱脂する(S5)。
【0047】
接着面に接着剤を塗布し、補強樹脂ブロックを接着する(S6)。このとき、補強樹脂ブロックの表面との間が離れて空間ができるときは接着剤を十分盛って、ブロックを押し付けたときに接着剤が空間を埋めて隙間が生じないようにする。
【0048】
型枠で接着面を加圧した後、支持機構を構成してブロックと型枠を動かないように支持する(S7)。特に凹曲面を抑えて支持する型枠として、凹曲面の曲率と同じ半径を有するパイプを短くカットしたものを利用することができる。デッキプレート等は鋼材で構成されるので、簡易な支持機構として、磁力により着脱ができるマグネットベースを利用することができる。
なお、硬質の接着剤を使用するときは、この工程(S7)を省略することができる。
【0049】
接着剤が十分硬化するまで養生して(S8)、型枠などの支持材を取り外すと(S9)、鋼床版を供用に付することができる(S10)。
なお、上記鉄パテでは、使用に耐える程度の状態になるまでならば30分程度置いておけばよい。接着層が極めて厚い場合でも、24時間養生すれば予定した強度が出るようになる。
本発明の補強樹脂ブロックを使うことにより、現場においてパテ材を構造体に直接堆積させる代わりに、接着剤でブロックを鋼板に接着するだけのより簡単な作業で済み、しかもより短い養生時間で本願発明者らが先に開示した疲労低減型溶接継手構造と同じ効果を得ることができる。
【0050】
なお、先に開示した疲労低減型溶接継手構造では、凹曲面の曲率半径を20mmとすると継手構造の寿命が補強する前の1.6倍、25mmにすると2.4倍になっている。また、凹曲面の曲率半径が25mmの樹脂形状に鋼板を埋設することでパテ材のみの場合と比較して寿命が1.2倍になっている。
また、隅肉溶接の止端部に係る応力集中を緩和する効果についてシミュレーションにより算出した結果、凹曲面の曲率半径を18mm(主板の板厚tの3倍)としたときに引張り負荷について約0.9倍、板曲げ負荷について約0.75倍の応力集中緩和効果があった。凹曲面の曲率半径を4t、5tに増加すると、板曲げ負荷について応力集中の緩和効果が劇的に増加しており、曲率半径5tとした場合は止端部での応力集中が施工前の半分以下になる。
【0051】
また、パテ材のヤング率を増すことで引張り負荷、板曲げ負荷の双方について応力集中の緩和効果が増加する。したがって、例えばガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、鉄繊維などを混練した強化用繊維混練パテを用いたり、鋼板や鋼線等の補強部材を埋設するなどしてパテ層のヤング率を増加させると効果的である。
【0052】
本実施例の補強樹脂ブロックは、形状や埋設物を先に開示された事項と同じくすることにより、ブロックを接着接合した溶接継手構造は先に開示された疲労低減型溶接継手構造と同じ延命効果をもたらす。
したがって、本発明による作業合理化効果が大きい。
【0053】
本実施例における補強樹脂ブロックを隅肉溶接部に接合することによる効果を、FEM解析を使って確認した。
図9はFEM解析に使った従来の継手構造のモデルを表す斜視図、図10は本実施例のモデルを表す斜視図、図11から図14は所定の力を印加したときの主板側とリブ板側の応力を溶接止端距離に対してプロットしたグラフ、図15はデッキプレートと垂直補剛材における補強樹脂ブロックの効果を説明するグラフである。
【0054】
図9に示すように、解析モデルは、比較のための従来構造をデッキプレートと垂直補剛材を隅肉溶接により接合したもので代表した。鋼板のヤング率は200GPa、補強樹脂ブロックのヤング率は6GPaとする。
また、本願発明における疲労低減型溶接継手構造は、図9の構造に対して、図10に示すように溶接ビードを補強樹脂ブロックで囲繞したものとした。凹曲面の曲率半径ρは50mmとした。
いずれも、端面Bを完全拘束するものとし、他端側の稜の中央点Pにおいて垂直下方に向いた剪断力とモーメント力を印加する。
【0055】
このとき、デッキプレートにおける水平方向応力と溶接止端Oxからの水平距離xの関係、および垂直補剛材における垂直方向応力と溶接止端Ozからの垂直距離zの関係を、補強樹脂ブロックが接合された場合と接合されていない場合について比較した。
図11は、デッキプレートに関し、剪断力を印加したときの関係図であり、図12はモーメント力を印加したときの関係図である。また、図13は垂直補剛材に関し、剪断力を印加したときの関係図であり、図14はモーメント力を印加したときの関係図である。図において、横軸及び縦軸はそれぞれ単位を特定しない適宜なリニアスケールである。
【0056】
図中点線で表わした、溶接部の止端から板厚tの0.3倍の距離におけるホットスポットストレスが、溶接部近傍の部材の疲労強度と対応するとされる。
図11と図12からは、溶接継手構造において補強樹脂ブロックを接合したときに、デッキプレートのホットスポットストレスが、剪断力印加の場合にほぼ26%に減少し、モーメント力印加の場合に約38%に減少したことが分かる。
また、図13と図14からは、溶接継手構造において補強樹脂ブロックを接合したときに、垂直補剛材のホットスポットストレスが、剪断力印加の場合に約37%に減少し、モーメント力印加の場合に約36%に減少した。
寿命は、ホットスポットストレスの3乗に反比例するとされるから、これらの数値を用いれば、約18倍の寿命延長効果が期待できることになる。
【0057】
なお、実際の鋼床版は種々の構造が使われており、作用する負荷もせん断力とモーメント力が複合化している。
図15は、鋼床版試験体の垂直補剛材とデッキプレートの隅肉溶接部に補強樹脂ブロックを施工して、載荷試験をして補強効果を確認した結果を示すグラフである。
補強樹脂ブロックを施工した垂直補剛材と施工していない垂直補剛材について、デッキプレートの主桁に対して垂直方向に載荷ステージ上それぞれ同じ距離離れた位置に10トン載荷したトラックの車輪を位置させて、垂直補剛材とデッキプレートの溶接部近傍に設置したストレンゲージで測定した応力から、ホットスポットストレスを推定して比較した。
【0058】
図15において、左の図はデッキプレートに発生するホットスポットストレスを表す図面、右の図は垂直補剛材に発生するホットスポットストレスを表す図面である。図は、溶接部からの距離が異なる3点の載荷位置についてのデータを示し、実線は補強樹脂ブロック施工済み垂直補剛材、点線は施工していない垂直補剛材におけるホットスポットストレスを表す。
【0059】
図15を見ると、補強されていない垂直補剛材と比較して、補強樹脂ブロックを施工した垂直補剛材は約30〜50%の応力緩和効果を示しており、特に垂直補剛材に近い位置に載荷したときに50%近くの緩和を示した。
この結果を日本鋼構造協会(JSSC)推奨の応力と寿命の関係式
σ3N=1.024×1012
(ただし、σ:応力範囲(MPa)、N:寿命(回))
に当てはめれば、2.8倍から7.6倍の寿命延長効果が期待できることになる。
【0060】
以上のように、本実施例の疲労低減型溶接継手構造によれば、隅肉溶接部に積層したパテ層が隅肉溶接部に掛かる応力を軽減し、かつ溶接止端部に掛かる応力集中を緩和するため、繰り返し応力が掛かることによる隅肉溶接部の疲労亀裂を阻止することができ、溶接継手の疲労寿命を向上することができる。
しかも、予め成型した補強樹脂ブロックを利用することにより、現場における作業を著しく簡便化すると共に、パテ材や接着剤の養生なども短期間で済むため、工期が短縮化し、既存の鋼床版構造などについて補強工事をするときにも供用再開までの時間が短縮化できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の1実施例にかかる補強樹脂ブロックの形状を例示する斜視図である。
【図2】本実施例にかかる補強樹脂ブロックを鋼床版垂直補剛材に適用した疲労低減型溶接継手構造を示す斜視図である。
【図3】本実施例の疲労低減型溶接継手構造を垂直に切断した断面である。
【図4】図3のIV−IV線で水平に切断したときの断面図である。
【図5】本実施例の補強樹脂ブロックの適用状態をデッキプレートを除いて上面から観察した平面図である。
【図6】本実施例の別の形状を持つ補強樹脂ブロックを例示する斜視図である。
【図7】図6の補強樹脂ブロックの適用状態をデッキプレートを除いて上面から観察した平面図である。
【図8】本実施例の補強樹脂ブロックの施工手順を説明するフロー図である。
【図9】FEM解析に使った従来の継手構造のモデルを表す斜視図である。
【図10】FEM解析に使った本実施例の継手構造のモデルを表す斜視図である。
【図11】FEM解析で求めた、剪断力を印加したときのデッキプレートに発生する応力の関係図である。
【図12】FEM解析で求めた、モーメント力を印加したときのデッキプレートに発生する応力の関係図である。
【図13】FEM解析で求めた、剪断力を印加したときの垂直補剛材に発生する応力の関係図である。
【図14】FEM解析で求めた、モーメント力を印加したときの垂直補剛材に発生する応力の関係図である。
【図15】鋼床版載荷試験により補強樹脂ブロックの補強効果を確認した結果を示すグラフである。
【図16】特許文献1における溶接部疲労強度向上方法を説明する断面図である。
【図17】先に開示した疲労低減型溶接継手構造を示す斜視図である。
【図18】先に開示した疲労低減型溶接継手構造の製法を説明する斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
1,1’ 補強樹脂ブロックセット
2 デッキプレート
3 垂直補剛材
4 主桁ウェッブ
5 接着剤
11,12 補強樹脂ブロック
13 くさび形補強樹脂ブロック
11’,12’ 三角台ブロック
13’ 四角錐ブロック
31,32,41 隅肉溶接部
100 主板
101 リブ板
102 繊維強化プラスチック(FRP)
103 溶接止端部
104 隅肉溶接
105 主板
106 リブ板
107 溶接部
108 パテ層
109 円柱形型材
110 フッ素樹脂シート
111 木材部

【出願人】 【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
【出願日】 平成18年6月20日(2006.6.20)
【代理人】 【識別番号】100104341
【弁理士】
【氏名又は名称】関 正治


【公開番号】 特開2008−760(P2008−760A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−169984(P2006−169984)