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【発明の名称】 放電加工用電極の作製法
【発明者】 【氏名】藤田 昌克

【要約】 【課題】残留応力による放電部の電極片部11の破損を防止できる放電加工用電極の作製法を提供すること。

【解決手段】電極材料から所定の機械加工を施して電極外形母体1を形成し、該電極外形母体1を機械加工して電極外形体9を形成する電極外形体形成工程と、前記電極外形母体1の放電部3にワイヤー放電加工によって前記放電部3の肉材3cを除去して所定の肉厚と形状を有する電極片部11を形成する電極片部形成工程とを備える放電加工用電極の作製法であって、前記電極片部形成工程の前に少なくと1回の前記電極外形体9の残留応力を除去するための焼鈍をする電極外形体焼鈍工程を施す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極材料から所定の機械加工を施して電極外形体を形成する電極外形体形成工程と、
前記電極外形体の放電部にワイヤー放電加工によって前記放電部の肉材を除去して所定の肉厚と形状を有する電極片部を形成する電極片部形成工程とを備える放電加工用電極の作製法であって、
前記電極片部形成工程の前に前記電極外形体の残留応力を除去するための焼鈍をする電極外形体焼鈍工程を備えたことを特徴とする放電加工用電極の作製法。
【請求項2】
前記電極外形体形成工程は、電極材料から所定の機械加工を施して電極外形母体を形成する電極外形母体形成工程と、前記電極外形母体の前記放電部に前記ワイヤー放電加工のためのスタートポイント穴を形成するスタートポイント穴形成工程とを備え、前記電極外形体焼鈍工程における焼鈍は、前記電極外形母体形成工程及び前記スタートポイント穴形成工程の後にそれぞれ行うことを特徴とする請求項1記載の放電加工用電極の作製法。
【請求項3】
前記電極外形体焼鈍工程は、真空中で450〜750℃、30〜120分で行うことを特徴とする請求項1又は2記載の放電加工用電極の作製法。
【請求項4】
前記電極材料は銅タングステンであり、前記電極外形体焼鈍工程は、真空中で700℃、60分で行うことを特徴とする請求項3記載の放電加工用電極の作製法。
【請求項5】
前記電極外形体焼鈍工程は、焼鈍後窒素ガス雰囲気中で急冷却する急冷却工程を備えていることを特徴とする請求項3又は4記載の放電加工用電極の作製法。
【請求項6】
前記窒素は液体窒素であり、当該液体窒素をガス化して窒素ガスを前記真空中に吹き込んで急冷却することを特徴とする請求項5記載の放電加工用電極の作製法。
【請求項7】
前記放電加工用電極の作製法は、ハニカム構造体成形用金型作製用電極に適用されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の放電加工用電極の作製法。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は放電加工用電極の作製法に関するもので、ハニカム構造体成形用金型の放電加工用電極の作製に好適である。
【背景技術】
【0002】
自動車等の排ガス浄化用コンバータにおける触媒担体として使用されるモノリス型ハニカム構造体があり、このハニカム構造体は成形用金型から押し出し成形される。近年、排ガス浄化用コンバータの浄化性能を向上させるため、自動車のエンジン始動開始時より確実に排ガス浄化機能が作用するようにハニカム構造体のセルの隔壁の厚みは一段と薄壁化の傾向にある。従って、成形用金型においてもハニカム構造体の素材を押し出し成形する金型のスリット溝の間隙も100ミクロン以下に小さくしなければならない。
【0003】
ハニカム構造体の成形用金型の製法については、下記特許文献1に記載されている。下記特許文献1では、スリット溝2は薄刃砥石7により研削加工で形成している。下記特許文献1に記載のスリット溝2の溝幅は、105〜110μm(ミクロン)であるため、スリット溝2の形成は薄刃砥石7による研削加工や放電加工で行うことができる。
ここで、上述した100ミクロン以下の小さいスリット溝を必要とする成形用金型の作製において微小間隙のスリット溝の加工は放電加工によっても行われる。放電加工に使用する電極の構造において、金型の微小間隙スリット溝を形成するために放電をさせる放電部の厚みの寸法は、金型の微小間隙スリット溝の幅より更に小さくする必要がある。上述のようにハニカム構造体のセルの隔壁の厚みの薄壁化により、金型のスリット溝の幅寸法は例えば90ミクロン程度となった場合、電極の放電部の厚み寸法は45ミクロン程度に要求される。すなわち、電極の放電部の厚みは極薄寸法である。
【0004】
放電加工用電極の作製は、電極材から所定の機械加工を経て電極外形体を作製し、その後電極外形体の電極部をワイヤー放電加工によって所定の形状、厚みに仕上げ加工を施し電極を完成させている。一方、電極外形体内には機械加工による残留応力が生じるがこの残留応力の発生は避けられない。
【0005】
そのため、ワイヤー放電加工によって放電部を仕上げ加工する過程において、上述したように電極の放電部の厚みが極めて薄いために電極外形体内の残留応力によって、放電部が変形したりや破断するという破損が生じる。
【特許文献1】特許第3750348号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたもので、電極部のワイヤー放電加工前に電極外形体の機械加工による残留応力を除去する工程を付加することにより、残留応力による放電部の破損を防止できる放電加工用電極の作製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明では、電極材料から所定の機械加工を施して電極外形体を形成する電極外形体形成工程と、前記電極外形体の放電部にワイヤー放電加工によって前記放電部の肉材を除去して所定の肉厚と形状を有する電極片部を形成する電極片部形成工程とを備える放電加工用電極の作製法であって、
前記電極片部形成工程の前に前記電極外形体の残留応力を除去するための焼鈍をする電極外形体焼鈍工程を備える。
【0008】
上記構成によれば、電極外形体焼鈍工程を備えているから、電極外形体の機械加工による残留応力を除去でき、従来のような前記電極片部の破損を防止できる。従って、前記電極片部が微小肉厚であっても精度の高い良好な放電加工用電極を得ることができる。
【0009】
請求項2に係る発明では、前記電極外形体形成工程は、電極材料から所定の機械加工を施して電極外形母体を形成する電極外形母体工程と、前記電極外形母体の前記放電部に前記ワイヤー放電加工のためのスタートポイント穴を形成するスタートポイント穴形成工程とを備え、前記電極外形体焼鈍工程における焼鈍は、前記電極外形母体工程及び前記スタートポイント孔形成工程の後に行う。
【0010】
上記構成によれば、前記電極外形体焼鈍工程における焼鈍を前記電極外形母体工程及び前記スタートポイント穴形成工程の後にそれぞれ行っているから、各工程で生じる残留応力を確実に除去できる。
【0011】
請求項3に係る発明では、前記電極外形体焼鈍工程は、真空中で450〜750℃、30〜120分で行う。
【0012】
上記構成によれば、前記電極外形体の焼鈍処理が確実且つ充分に施され、残留応力を確実に除去できる。
【0013】
請求項4に係る発明では、前記電極材料は銅タングステンであり、前記電極外形体焼鈍工程は、真空中で700℃、60分で行う。
【0014】
上記構成によれば、電極材料を銅タングステンとすることで電極の消耗を低く抑制できると共に、銅タングステン材に適した焼鈍処理条件を設定しているから、銅タングステン材での残留応力の除去を確実に行うことができる。
【0015】
請求項5に係る発明では、前記電極外形体焼鈍工程は、焼鈍後窒素ガス雰囲気中で急冷却する急冷却工程を備える。
【0016】
上記構成によれば、前記電極外形体を酸化させることなく常温まで短時間で冷却でき、焼鈍処理時間の短縮を図ることができる。
【0017】
請求項6に係る発明では、前記窒素を液体窒素とし、当該液体窒素をガス化して窒素ガスを前記真空中に吹き込んで急冷却する。
【0018】
上記構成によれば、液体窒素からガス化して低温の窒素ガスを吹き込むことにより、常温まで短時間で冷却できると共に、焼鈍の環境を変えることなく焼鈍処理を効率よく行うことができる。
【0019】
請求項7に係る発明では、前記放電加工用電極の作製法をハニカム構造体成形用金型作製用電極に適用している。
【0020】
上記構成によれば、ハニカム構造体成形用金型の微小間隙を必要とするスリット溝の加工ができ、高品質な成形金型を作製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下本発明になる放電加工用電極の作製法を図面に基づき説明する。本発明作製法における放電加工電極は、自動車の排気浄化装置に使用されるハニカム構造体の成形用金型の放電加工用電極を例にして説明する。本発明における放電加工電極は上記のものに制限されるものではない。
【0022】
先ず、図1、図2に示すように、銅タングステン材よりなる電極材料から所定の形状に機械加工を施して電極外形母体1を形成する。この電極外形母体1は電極取付け(シャンク)部2と放電部3により構成されている。電極取付け部2の内部をくり貫いてくり貫き孔2d加工をし、後述するワイヤー放電加工による電極片部の形成(ハニカム形状)のくり貫き加工を容易にする。このくり貫き加工は本実施例では図示するように放電部2の横断面積より円形であるが、四角形であってもよい。そして、電極外形母体1は電極取付け部2の4つの側面2a、底面2b、上面2c及び放電部3の4つの側面、上面3bをそれぞれミーリング等の機械加工を行って形成される。
【0023】
次に図3に図示するように、電極外形母体1の電極取付け部2に後工程の各加工時の基準となる基準穴4、5を機械加工により形成すると共に、放電加工機(図示せず)への取付け用ねじ穴6、7を機械加工(タップ加工)により形成する。それぞれの基準穴4、5及びねじ穴6、7は電極外形母体1の中心を基にして所定の位置に形成される。なお、基準穴4、5は仮仕上げ加工であり後工程で仕上げ加工がされる。以上までの機械加工工程を本発明作製法においては、電極外形母体形成工程と称する。
【0024】
次に上記のように機械加工により形成された電極外形母体1の1回目の焼鈍処理を行う。これは機械加工によって電極外形母体1の内部に生じた残留応力を除去するために行う。後述するように、本実施例のハニカム構造体成形用金型の放電加工用電極の放電部の電極片部は極薄片であるため、その加工にあたって残留応力を排除することが非常に重要であり、本発明作製法の特徴である。
【0025】
電極外形母体1の焼鈍処理は真空炉中で行われる。電極外形母体1の焼鈍処理条件は温度が450〜750℃、時間が30〜120分の条件で行う。電極材料として銅タングステン材を使用した場合、最も好ましい処理条件は処理温度が700℃、処理時間は60分がよい。焼鈍処理を温度700℃、時間60分で行えば、銅タングステン材としての焼鈍処理が最適に行え電極外形母体1は確実に焼鈍処理され電極外形母体1の内部に生じた残留応力が確実に除去される。また、電極材料を銅タングステンとすることで純銅等の電極に比べ電極の消耗を低く抑制することができる。
【0026】
次に焼鈍処理を行った後、真空炉内に液体窒素をガス化して低温の窒素ガスを吹き込む。冷却に液体窒素をガス化して低温の窒素ガスを用いることは、常温まで短時間で冷却できると共に、冷却炉に電極外形母体1を移し変えることなく、すなわち焼鈍の環境を変えることなく焼鈍処理を効率よく行うことができる。そして低温の窒素ガスを吹き込み炉内の温度を急冷却し電極外形母体1を常温に戻す。また、電極外形母体1の急冷却は液体窒素をガス化して窒素ガスを加熱炉内へ吹き込み窒素ガス雰囲気中で行っているので、電極外形母体1を酸化させることもない。また、窒素ガス雰囲気を形成するにあたって液体窒素からガス化すれば窒素の貯蔵容量はガス状で貯蔵するのに比べ小容量で済む。
【0027】
次に図3に示すように放電部3の上面3bに、スタートポイント穴8を穿孔する。図3のB部の拡大を図4に示す。このスタートポイント穴8は基準穴4、5を基準にして図4に示すように所定の位置に所定の数だけ形成される。本実施例ではスタートポイント穴8は縦、横に等間隔に形成される。これは後述するワイヤー放電加工によって加工された電極片部によって囲まれた空間(ハニカム成形体のセル空間に相当する)を形成するための下穴である。また、このスタートポイント穴8は機械加工のドリル加工で行われ、ドリルのドリル角(130°)の深さまで加工し、更に所定の深さまで所定の穴径の穴を形成する。この工程は上面3bの反対側であるくり貫き孔2dの天井面(図2に表示)2eからも同位置に施され、スタートポイント穴8は貫通穴となる。本実施例ではドリル径は0.9mmでありスタートポイント穴8はほぼ0.9mmに穿孔される。上述の1回目の焼鈍処理以後の上記スタートポイント穴8の穿孔機械加工工程を本実施例ではスタートポイント穴形成工程と称する。そして電極材料から後述するワイヤー放電加工工程前までの上記電極外形母体形成工程とスタートポイント穴形成工程の機械加工工程を本実施例では電極外形体9を形成する電極外形体形成工程と称する。
【0028】
次にスタートポイント穴8の機械加工を施した後にスタートポイント穴8の機械加工により電極外形体9の内部に生じた残留応力を除去するための2回目の焼鈍処理を行う。この2回目の焼鈍処理は上記1回目の焼鈍処理条件及び急冷却方法と全く同じである。焼鈍処理条件及び急冷却方法は省略する。
【0029】
次に電極外形体9(外形形状は図1、図2に示す電極母体1と同じ)上面(図2の放電部3の上面3bに相当)を研削加工し、この上面を基準にして底面(図2の取付け部2の底面2bに相当)を研削加工すると共に、直交する2つ側面(図1の2つの側面2aに相当)を研削加工し、この2つの側面を基準として反対側の2つの側面を研削加工する。これらの上記研削加工は取り代も少ないので電極外形体9に残留応力は生じない。そして上記基準穴(図3に表示)4、5の仕上げを放電加工により精度良く行う。
【0030】
次に図5に示すようにスタートポイント穴8内に放電電極用ワイヤー10(線径0.2mm)を通しワイヤー放電加工により放電部3の肉材3c(斜線の部分)を順次くり貫き(除去)、所定形状の空間(セル)を形成することにより図6に示すような電極片部11を形成する。本実施例ではくり貫き空間(電極片部11で囲まれた空間でハニカム構造体のセルに相当するものでセルより広い)は四角形であるが六角形あるいは他の形状であってもよい。また、本実施例では電極片部11の厚みは45ミクロン程度の極薄厚さである。このようなワイヤー放電加工を施すことにより、必要な数の空間(セル)と電極片部11が形成される。なお、上記ワイヤー放電加工は通常の加工方法であり油中で行われる。
【0031】
ワイヤー放電加工によって電極片部11は45ミクロン程度の厚みに加工されるが、従来の電極作製においては、当該電極片部を加工刷る際に焼鈍処理がされていないため、残留応力によって当該電極片部が変形し破断したが、本発明作製法では電極片部11の加工前に機械加工によって生じた残留応力を焼鈍処理によって除去しているため、残留応力による変形破断はなく良好に電極片部11を形成することができる。以上の工程を経て図7、図8に示すように放電加工用電極Yを完成する。
【0032】
作製された電極Yは放電加工機(図示せず)に取り付けられ、被加工体であるハニカム構造体成形用金型のスリット溝(図示せず)を所定の放電加工工程により形成し金型が完成される。電極Yによってハニカム構造体成形用金型を放電加工する工程は通常行われている工程である。そして近年ハニカム構造体のセル隔壁が極薄化が要求され、これに対応して成形金型のスリット溝の微小間隙加工が必要とされるが、本発明電極の作製法によって作製された電極Yによって必要とされる高品位な成形金型を作製することができる。すなわち、本発明電極の作製法は微小間隙を必要とするスリット溝を高精度に加工できるハニカム構造体成形用金型作製の放電用加工用電極に好適である。
【0033】
なお、上述の電極の材質は銅タングステンであったが、純銅でもよく、また他の材料でもよいが銅タングステンが電極としての消耗性の点で最もよい。また、焼鈍処理の条件は電極の材質に応じて適宜設定すればよい。また、電極外形体9(電極外形母体1も含む)に施す機械加工は上述の加工に制限されず、他の必要な機械加工を施してもよい。また、電極外形体9の焼鈍処理は電極外形母体形成工程の後、及びスタートポイント穴形成工程の後にそれぞれ1回行っているが、機械加工工程によってはそれぞれの形成工程内で複数回行ってもよく、電極外形体9に施すワイヤー放電加工の前に当該電極外形体9から機械加工による残留応力が除去されていることが必須である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明電極作製法における電極外形母体1の平面図である。
【図2】図1のA−A線矢視断面図である。
【図3】図1の電極外形母体に機械加工を施した状態を示す電極外形母体1の平面図である。
【図4】図3のB部の拡大平面図である。
【図5】図4に示す電極外形体9のスタートポイント穴8にワイヤー放電加工を施す状態を示す拡大平面部である。
【図6】本発明電極作製法における放電部3の電極片部11の拡大平面図である。
【図7】本発明電極作製法によって作製された放電加工用電極Yの平面図である。
【図8】図7のC−C線矢視断面図である。
【符号の説明】
【0035】
Y 放電加工用電極
1 電極外形母体
2 電極外形母体1の取付け部
3 電極外形母体1の放電部
8 スタートポイント穴
9 電極外形体
10 放電加工用ワイヤー
11 放電部3の電極片部
【出願人】 【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
【出願日】 平成18年12月11日(2006.12.11)
【代理人】 【識別番号】100067596
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 求馬


【公開番号】 特開2008−142831(P2008−142831A)
【公開日】 平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願番号】 特願2006−333013(P2006−333013)