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【発明の名称】 被加工物の表面改質加工方法及び装置
【発明者】 【氏名】片平 和俊

【氏名】小茂鳥 潤

【氏名】水谷 正義

【氏名】齋藤 智之

【氏名】大森 整

【要約】 【課題】研削加工と同時に被加工物の表面に、親和性の高い元素を注入して表面に改質層を形成することができる表面改質加工方法及び装置を提供する。

【解決手段】イオン化傾向の高い第1金属(例えば、Cr,Ti)を含む導電性砥石12とこれと間隔を隔てて対向する電解用電極14との間に導電性研削液2を流しながら、砥石を正に電極を負に電圧を印加し、その間で研削液の一部を電気分解すると共に第1金属のイオンを溶出させる第1金属イオン溶出ステップS1と、導電性の被加工物と砥石との間に研削液を循環して供給しながら、被加工物に微弱な電位を印加し、砥石で被加工物を研削し、同時に、被加工物の加工面を酸化させ、かつ第1金属イオンを加工面に浸透拡散させる金属イオン浸透拡散ステップS2とを有し、第1金属イオン溶出ステップと金属イオン浸透拡散ステップとを同時に行う。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン化傾向の高い第1金属を含む導電性砥石とこれと間隔を隔てて対向する電解用電極との間に導電性研削液を流しながら、前記導電性砥石を正に電解用電極を負に電圧を印加し、その間で導電性研削液の一部を電気分解すると共に前記第1金属のイオンを溶出させる第1金属イオン溶出ステップと、
導電性の被加工物と前記導電性砥石との間に前記導電性研削液を循環して供給しながら、前記被加工物に微弱な電位を印加し、前記砥石で被加工物を研削し、同時に、被加工物の加工面を酸化させ、かつ前記第1金属イオンを前記加工面に浸透拡散させる金属イオン浸透拡散ステップとを有し、
前記第1金属イオン溶出ステップと金属イオン浸透拡散ステップとを同時に行う、ことを特徴とする被加工物の表面改質加工方法。
【請求項2】
イオン化傾向の高い第2金属を含む導電性部材とこれと間隔を隔てて対向する溶出用電極との間に導電性研削液を流しながら、前記導電性部材を正に溶出用電極を負に電圧を印加し、その間で導電性研削液の一部を電気分解すると共に前記第2金属のイオンを溶出させる第2金属イオン溶出ステップを、さらに有し、
これを前記第1金属イオン溶出ステップおよび金属イオン浸透拡散ステップと同時に行う、ことを特徴とする請求項1に記載の被加工物の表面改質加工方法。
【請求項3】
前記第1金属及び/又は第2金属は、クロム又はチタンである、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の被加工物の表面改質加工方法。
【請求項4】
前記導電性砥石は、砥粒とこれを保持する導電性ボンド部を有し、該導電性ボンド部は第1金属の粉体のみを焼結した金属ボンド材、あるいは第1金属の粉体をレジン中に分散させ焼結した金属レジンボンド材である、ことを特徴とする請求項1に記載の被加工物の表面改質加工方法。
【請求項5】
イオン化傾向の高い第1金属を含みかつ被加工物を加工可能な導電性砥石と、
該導電性砥石と間隔を隔てて対向する導電性の電解用電極と、
前記導電性砥石を正に電解用電極を負に電圧を印加する砥石印加装置と、
前記被加工物に微弱な電位を印加するワーク印加装置と、
前記導電性砥石と電解用電極との間および前記砥石と被加工物との間に導電性研削液を循環して供給する研削液供給手段と、を備え、
前記導電性砥石と電解用電極の間で導電性研削液の一部を電気分解すると共に前記第1金属のイオンを溶出させ、
前記砥石で被加工物を研削しながら、同時に、被加工物の加工面を酸化させ、かつ前記第1金属イオンを前記加工面に浸透拡散させる、ことを特徴とする被加工物の表面改質加工装置。
【請求項6】
前記研削液供給手段は、イオン化傾向の高い第2金属を含む導電性部材と、該導電性部材と間隔を隔てて対向する溶出用電極とを有し、
前記導電性部材と溶出用電極の間に導電性研削液を流しながら、前記導電性部材を正に溶出用電極を負に電圧を印加し、その間で導電性研削液の一部を電気分解すると共に前記第2金属のイオンを溶出させる、ことを特徴とする請求項5に記載の被加工物の表面改質加工装置。
【請求項7】
前記第1金属及び/又は第2金属は、クロム又はチタンである、ことを特徴とする請求項5又は6に記載の被加工物の表面改質加工装置。
【請求項8】
前記導電性砥石は、砥粒とこれを保持する導電性ボンド部を有し、該導電性ボンド部は第1金属の粉体のみを焼結した金属ボンド材、あるいは第1金属の粉体をレジン中に分散させ焼結した金属レジンボンド材である、ことを特徴とする請求項5に記載の被加工物の表面改質加工装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、研削加工と同時に被加工物の表面に改質層を形成する表面改質加工方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鏡面仕上げを必要とする部位への加工手段として最も一般的なものは、ラッピング、ポリッシング等、遊離砥粒を用いた研磨加工である。しかし研磨加工は、(1)通常手作業のため効率が悪い、(2)被加工物へ砥粒が食い込む場合がある、などの問題点がある。そのため、近年では研削に代表される固定砥粒を用いた加工手段が注目を集めている。
一方、ますます細密化する半導体回路の加工などを背景として、位置決めの精度の高い加工機と固定砥粒加工とを組み合わせた超精密研削技術の開発と実用化が求められている。超精密研削では、加工面粗さや形状精度、表面品位などで厳しい仕様を満たさなければならない。
【0003】
上述した問題点を解決する加工手段として固定砥粒を用いた砥石の表面を電解ドレッシングしながら、砥石でワークを研削加工する電解インプロセスドレッシング研削(Electrolytic In−process Dressing Grinding)が注目されている。以下、この研削手段をELID研削と呼ぶ。
【0004】
ELID研削は、一般的な金属材料の他、超硬金属、脆性材料、セラミックス、ガラス、半導体等の多くの材料を高精度、高品質、高能率で加工することができる。しかし、この加工により得られた加工物を、エンジンのシリンダー、軸受部品、電子部品、光学部品、等に適用するためには、従来、メッキ、蒸着、塗装等の耐食処理を施し、その酸化(腐食)を防止する必要があった。
【0005】
しかし、かかる耐食処理により、ELID研削で得られた高精度及び高品質が損なわれる場合があった。
また、生体内で使用するいわゆる生体材料(例えば人工歯根)の場合には、耐食処理自体が生体に影響を及ぼすおそれがあるため、研削加工した加工物を耐食処理せずにそのまま使用する必要がある。この場合、人体に影響のない材料は限られるため、これを耐食処理することなく耐食性、トライボロジー特性、疲労強度等の表面機能を改善することが望まれる。
【0006】
上述した問題点を解決するために、本発明の発明者らは、先に特許文献1の発明を創案し出願した。
特許文献1の発明は、導電性砥石と電極との間に導電性研削液を流しながら、砥石と電極との間に電圧を印加し、砥石を電解ドレッシングしながら被加工物を研削する電解インプロセスドレッシング研削において、アルカリ性研削液を導電性研削液として用い、かつ被加工物に微弱な電位を印加するものである。
この発明により、被加工物の表面は、ELID研削で表面を研削すると同時に、研削加工により露出した素材表面をOHイオンと溶存酸素で酸化して強い酸化皮膜が形成され、その表面機能(耐食性、トライボロジー特性、疲労強度等)を改善することができることが確認された。
【0007】
【特許文献1】特開2003−19623号公報、「被加工物の表面機能改善方法及び装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
レンズ成形精密金型などの精密金型では表面硬度を高めるために、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)の被膜のような硬質被膜を被覆する。しかし硬質被膜をそのまま被覆すると剥離するおそれがあるので、従来は、精密金型の表面をスパッタリング処理し、C,Si,Cr,Tiなどの親和性の高い元素を表面に注入して、硬質被膜との密着性を高めている。
【0009】
しかし、スパッタリング処理は、時間と費用がかかる上に、精密金型が変形するおそれもあった。
【0010】
本発明はかかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、研削加工と同時に被加工物の表面に、親和性の高い元素を注入して表面に改質層を形成することができる表面改質加工方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、イオン化傾向の高い第1金属を含む導電性砥石とこれと間隔を隔てて対向する電解用電極との間に導電性研削液を流しながら、前記導電性砥石を正に電解用電極を負に電圧を印加し、その間で導電性研削液の一部を電気分解すると共に前記第1金属のイオンを溶出させる第1金属イオン溶出ステップと、
導電性の被加工物と前記導電性砥石との間に前記導電性研削液を循環して供給しながら、前記被加工物に微弱な電位を印加し、前記砥石で被加工物を研削し、同時に、被加工物の加工面を酸化させ、かつ前記第1金属イオンを前記加工面に浸透拡散させる金属イオン浸透拡散ステップとを有し、
前記第1金属イオン溶出ステップと金属イオン浸透拡散ステップとを同時に行う、ことを特徴とする被加工物の表面改質加工方法が提供される。
【0012】
本発明の好ましい実施形態によれば、イオン化傾向の高い第2金属を含む導電性部材とこれと間隔を隔てて対向する溶出用電極との間に導電性研削液を流しながら、前記導電性部材を正に溶出用電極を負に電圧を印加し、その間で導電性研削液の一部を電気分解すると共に前記第2金属のイオンを溶出させる第2金属イオン溶出ステップを、さらに有し、
これを前記第1金属イオン溶出ステップおよび金属イオン浸透拡散ステップと同時に行う。
【0013】
また、本発明によれば、イオン化傾向の高い第1金属を含みかつ被加工物を加工可能な導電性砥石と、
該導電性砥石と間隔を隔てて対向する導電性の電解用電極と、
前記導電性砥石を正に電解用電極を負に電圧を印加する砥石印加装置と、
前記被加工物に微弱な電位を印加するワーク印加装置と、
前記導電性砥石と電解用電極との間および前記砥石と被加工物との間に導電性研削液を循環して供給する研削液供給手段と、を備え、
前記導電性砥石と電解用電極の間で導電性研削液の一部を電気分解すると共に前記第1金属のイオンを溶出させ、
前記砥石で被加工物を研削しながら、同時に、被加工物の加工面を酸化させ、かつ前記第1金属イオンを前記加工面に浸透拡散させる、ことを特徴とする被加工物の表面改質加工装置が提供される。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記研削液供給手段は、イオン化傾向の高い第2金属を含む導電性部材と、該導電性部材と間隔を隔てて対向する溶出用電極とを有し、
前記導電性部材と溶出用電極の間に導電性研削液を流しながら、前記導電性部材を正に溶出用電極を負に電圧を印加し、その間で導電性研削液の一部を電気分解すると共に前記第2金属のイオンを溶出させる。
【0015】
前記第1金属及び/又は第2金属は、クロム又はチタンである。
【0016】
また、前記導電性砥石は、砥粒とこれを保持する導電性ボンド部を有し、該導電性ボンド部は第1金属の粉体のみを焼結した金属ボンド材、あるいは第1金属の粉体をレジン中に分散させ焼結した金属レジンボンド材である、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上記本発明の方法及び装置によれば、イオン化傾向の高い第1金属を含む導電性砥石と電解用電極との間に導電性研削液を流しながら、導電性砥石を正に電解用電極を負に電圧を印加することにより、導電性砥石と電解用電極の間で導電性研削液の一部を電気分解して研削液中にOHイオンを大量に遊離させると共にイオン化傾向の高い第1金属のイオンを溶出させることができる。溶出した第1金属イオンは研削液中でOHイオンや水分子と結合して錯体を形成する。
【0018】
一方、導電性の被加工物と導電性砥石との間に前記導電性研削液を循環して供給しながら、前記被加工物に微弱な電位を印加し、砥石で被加工物を研削することにより、錯体の触媒作用により、被加工物の酸化が促進される。
また、研削液中のOHイオンと共に第1金属イオンを被加工物の表面に引きつけて、表面をOHイオンと溶存酸素によりこれを酸化すると共に、イオン化傾向の高い第1金属イオンを加工面に浸透拡散させることができる。
【0019】
さらに、イオン化傾向の高い第2金属を含む導電性部材と溶出用電極との間に導電性研削液を流しながら、前記導電性部材を正に溶出用電極を負に電圧を印加することにより、導電性部材と溶出用電極の間で導電性研削液の一部を電気分解すると共にイオン化傾向の高い第2金属のイオンを溶出させることができる。
この第2金属イオンも研削液中でOHイオンや水分子と結合して錯体を形成し、第1金属と共に加工面に浸透拡散させることができる。従って、第1金属と第2金属の両方を同時に加工面に浸透拡散させることができる。
【0020】
また、第1金属イオン溶出ステップ、第2金属イオン溶出ステップ、及び金属イオン浸透拡散ステップを同時に行うことにより、活性の高い第1金属イオン、第2金属イオン、OHイオン、およびその錯体を、加工により露出した素材表面に接触させることができ、金属イオンを含む強い酸化皮膜が形成され、その表面機能(耐食性、トライボロジー特性、疲労強度等)を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本発明の表面改質加工装置の第1実施形態を示す構成図である。
【0022】
この図において、本発明の表面改質加工装置10は、導電性砥石12、電解用電極14、砥石印加装置16、ワーク印加装置18、および研削液供給手段20を備える。
【0023】
導電性砥石12は、イオン化傾向の高い第1金属を含みかつ被加工物を加工可能に構成されている。この例において、導電性砥石12は円筒形のメタルボンド砥石である。
第1金属は、例えば、イオン化傾向の高い順にチタン、クロム、鉄、コバルト、銅であり、好ましく、鉄よりもイオン化傾向が高いもの金属を用いる。第1金属は微細な粉末であり、他の金属又はレジン(樹脂)と均一に混合され分散しているのがよい。
導電性砥石12は、砥粒とこれを保持する導電性ボンド部を有する。砥粒は、ダイヤモンドやCBNであり、鏡面仕上げに適した微細粒度(例えば#4000〜#20000)であるのが好ましい。
また導電性ボンド部は、第1金属の粉体のみを焼結した金属ボンド材、あるいは第1金属の粉体をレジン中に分散させ焼結した金属レジンボンド材である。
【0024】
電解用電極14は、導電性部材12と好ましくは一定の間隔を隔てて対向する。電解用電極14は、導電性金属、例えば銅又は銅合金からなるのがよい。
【0025】
砥石印加装置16は、電源装置16a、接点16b,16c、及び接続コード16d,16eからなり、導電性砥石12を正に、電解用電極14を負に電圧を印加する。電源装置16aは好ましくはELID電源である。またこの電圧印加は、導電性研削液の一部を電気分解すると共に導電性砥石12から第1金属イオンを溶出させることができる限りで、一定電圧でもパルス電圧でもよい。
また、この電圧印加により、導電性砥石12の表面を同時に電解ドレッシングするのが好ましい。
【0026】
ワーク印加装置18は、電源装置18a、接点18b,18c、及び接続コード18d,18eからなり、被加工物1(ワーク)を電解用電極14より高い電位に印加する。
【0027】
被加工物1(ワーク)は、この例では上面に加工面を有し、水平軸を中心に回転する導電性砥石12の下面が加工面に接触して被加工物を研削加工可能に構成されている。被加工物1の材質は、超硬合金(例えばWC−TiC)が適しているが、本発明はこれに限定されず、導電性を有する限りで、種々の金属材料、例えば鋼材、ステンレス鋼、チタン合金、ジルコニウム、アルミニウム、金属質を含む金属ガラス、金属間化合物、導電性セラミックスなどにも適用することができる。
【0028】
研削液供給手段20は、導電性砥石12と電解用電極14との間、および砥石12と被加工物1との間に導電性研削液2を循環して供給する。
導電性研削液2は、アルカリ性研削液であるのが好ましい。アルカリ性研削液を導電性研削液として用いることにより、導電性砥石12の表面を電解ドレッシングすることができると共に、研削液中にOHイオンを大量に遊離させることができる。
【0029】
図2は、本発明の表面改質加工方法を示す模式図である。この図に示すように、上述した装置を用いて、本発明の表面改質加工方法は、第1金属イオン溶出ステップS1と金属イオン浸透拡散ステップS2とを同時に行う。
【0030】
第1金属イオン溶出ステップS1では、イオン化傾向の高い第1金属を含む導電性砥石12と電解用電極14との間に導電性研削液2を流しながら、導電性砥石12を正に電解用電極14を負に電圧を印加する。
この電圧印加により、導電性砥石12と電解用電極14の間で導電性研削液2の一部を電気分解すると共に第1金属のイオンを溶出させる。溶出した第1金属イオンは研削液2中でOHイオンや水分子と結合して錯体を形成する。また、この電圧印加により、導電性砥石12の表面を同時に電解ドレッシングする
【0031】
金属イオン浸透拡散ステップS2では、導電性の被加工物1と導電性砥石12との間に第1金属イオンおよびその錯体を含んだ導電性研削液2を流しながら、被加工物1を電解用電極14より高い電位に印加し、砥石12で被加工物1を研削する。
この研削と同時に、錯体の触媒作用により、被加工物の酸化が促進される。また、研削液中のOHイオンと共に第1金属イオンを被加工物1の表面に引きつけて、表面をOHイオンと溶存酸素によりこれを酸化すると共に、イオン化傾向の高い第1金属イオンを加工面に浸透拡散させることができる。
第1金属イオンが浸透拡散した改質層は、後述する実施例によれば、厚さは数10nmに達する。また、表面粗さに優れると共に、大量の酸素と第1金属イオンを加工面近傍に有しており、硬質被膜との密着性を高めることができることが確認された。
【0032】
図3は、本発明の表面改質加工装置の第2実施形態を示す構成図である。この図は、図1における研削液供給手段20の代わりに、別の研削液供給手段22を備える点で相違する。
【0033】
この図において、研削液供給手段22は、イオン化傾向の高い第2金属を含む導電性部材23と、導電性部材23と間隔を隔てて対向する溶出用電極24とを有する。
第2金属は、例えば、イオン化傾向の高い順にチタン、クロム、鉄、コバルト、銅であり、好ましく、鉄よりもイオン化傾向が高いものが好ましい。第2金属は、ソリッドでも微細な粉末でもよく、微細な粉末の場合には、他の金属又はレジン(樹脂)と均一に混合され分散しているのがよい。
【0034】
この構成により、導電性部材23と溶出用電極24の間に導電性研削液2を流しながら、導電性部材23を正に溶出用電極24を負に電圧を印加し、その間で導電性研削液2の一部を電気分解すると共に第2金属のイオンを溶出させるようになっている。
【0035】
この構成及び方法により、第2金属イオンも研削液中でOHイオンや水分子と結合して錯体を形成し、第1金属と共に加工面に浸透拡散させることができる。従って、第1金属と第2金属の両方を同時に加工面に浸透拡散させることができる。
【0036】
図4は、本発明の表面改質加工装置の第3実施形態を示す構成図である。
【0037】
この図において、本発明の表面改質加工装置10は、導電性砥石12、電解用電極14、砥石印加装置16、ワーク印加装置18、および研削液供給手段20を備える。
【0038】
この例において、導電性砥石12は平板状のメタルボンド砥石である。また、被加工物1(ワーク)は、この例では下面に加工面を有し、ワーク把持回転装置3により、ワークを回転させながら、導電性砥石12の上面に接触させて被加工物を研削加工可能に構成されている。
その他の構成は、図1と同様である。
【0039】
上述した装置を用いて、本発明の表面改質加工方法は、上述した第1金属イオン溶出ステップS1と金属イオン浸透拡散ステップS2とを同時に行うことができ、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0040】
図5は、本発明の表面改質加工装置の第4実施形態を示す構成図である。この図は、図4における研削液供給手段20の代わりに、別の研削液供給手段22を備える点で相違する。
【0041】
研削液供給手段22は、イオン化傾向の高い第2金属を含む導電性部材23と、導電性砥石23と間隔を隔てて対向する溶出用電極24とを有する。この構成は、上述した図3と同様である。
【0042】
この構成により、導電性部材23と溶出用電極24の間に導電性研削液2を流しながら、導電性部材23を正に溶出用電極24を負に電圧を印加し、その間で導電性研削液2の一部を電気分解すると共に第2金属のイオンを溶出させることにより、第2金属イオンも研削液中でOHイオンと結合して錯体を形成し、第1金属と共に加工面に浸透拡散させることができる。従って、第1金属と第2金属の両方を同時に加工面に浸透拡散させることができる。
【0043】
なお、本発明は上述した研削方式に限定されず、ELID研削を適用できる周知の装置、例えば、ロータリー平面研削装置、曲面加工装置に適用することができる。また、上述したワークの形状にも限定されず、ミラーやレンズ金型、人工骨頭などの複雑形状を有するワークの保護膜形成にも適している。
【実施例1】
【0044】
横型ロータリー研削加工機を用いて図1に示した本発明の装置を構成し、研削加工を実施した。基礎実験条件を表1に示す。
【0045】
【表1】


【0046】
導電性砥石12として、Cuレジンボンド砥石、Crレジンボンド砥石、Coレジンボンド砥石の3種を用い、比較材としてアルミナ研磨を行った。Cuレジンボンド砥石、Crレジンボンド砥石、Coレジンボンド砥石をそれぞれ以下、Cuレジン、Crレジン、Coレジンと略称する。
Cuレジン、Crレジン、Coレジンの砥粒は、粒度#8000(dv−50値:1.2±0.3μm)のダイヤモンドであり、金属とレジンの比率は7:3であった。
【0047】
図6は超硬合金(WC−TiC)を研削(又は研磨)した後の表面粗さの比較図である。この図でRaは算術平均粗さ、Ryは最大粗さであり、それぞれ触針式粗さ測定機による測定結果である。
この結果から、Cuレジン、Crレジン、Coレジンのいずれの場合でも、アルミナ研磨よりも優れた表面粗さ(Ra:2〜3nm、Ry:16〜22nm)が得られることが確認された。
【実施例2】
【0048】
図7は、研磨とCuレジン研削によるワーク表面近傍の元素分析結果である。この分析は、GDOES(グロー放電発光分光装置)を用いて行った。GDOESは、グロー放電プラズマを発生させ、このとき生じたアルゴンイオンが陰極である試料に衝突してスパッタリング現象を起こし、陽極方向に飛び出した試料表面の原子が電子と衝突して元素固有のスペクトルを放出し、この光を分光器で選別して計測することによって、試料の構成元素の種類と量に関する情報を得るものである。放電時間の経過とともに試料が削られていくため、表面から深さ方向の分析ができる。
【0049】
図7において、横軸はスパッタ時間(すなわち深さ)であり、縦軸はスペクトル強度(すなわち構成元素の量)である。
図7(A)から、研磨によるワーク表面近傍は、超硬合金(WC−TiC)の構成元素である、C,Ti,Wが主に含まれ、その他の元素(Cr,O)は、非常に少ないことがわかる。
また、図7(B)から、Cuレジン研削によるワーク表面近傍には、超硬合金の構成元素C,Ti,Wの他に、表面から30〜50nmの範囲にCuが浸透拡散していることがわかる。
【0050】
図8は、Crレジン研削とCoレジン研削によるワーク表面近傍の元素分析結果である。Cuレジン、Crレジン、Coレジンによる研削はこの順で行い、分析は、上述したGDOES(グロー放電発光分光装置)を用いて行った。
この図において、横軸はスパッタ時間(すなわち深さ)であり、縦軸はスペクトル強度(すなわち構成元素の量)である。
【0051】
図8(A)から、Crレジン研削によるワーク表面近傍には、超硬合金の構成元素C,Ti,Wの他に、特にCrが大量に浸透拡散していることがわかる。なお、Crよりは少ないがCuも浸透拡散しているが、これはCuレジン、Crレジンの順で研削液を交換せずに行ったためと考えられる。
また、図8(B)から、Coレジン研削によるワーク表面近傍には、超硬合金の構成元素C,Ti,Wの他に、特にCrとCoが大量に浸透拡散していることがわかる。なお、Coレジンの場合もCrが大量に浸透拡散しているのは、Crレジン、Coレジンの順で研削液を交換せずに行ったためと考えられる。
【実施例3】
【0052】
図9は、Crレジン研削とCuレジン研削によるワーク表面近傍の元素濃度の分析結果である。この分析は、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて行った。XPSとは、試料表面にX線を照射し、試料表面から原子固有のエネルギーを持った光電子が飛び出すので、光電子のエネルギーとその数を測定することによって表面近傍に存在する元素の量やその元素の化学結合状態を特定するものである。
【0053】
図9において、横軸はエッチング時間(すなわち深さ)であり、縦軸は原子数濃度である。
図9(A)(B)の比較から、酸素の原子数濃度が、Crレジン研削ではCuレジン研削に比べて非常に高いことがわかる。
【0054】
図10は、XPSによるWの組成分析結果であり、横軸は結合エネルギー、縦軸はピーク強度である。また、各図において、30〜34evのピークは酸化されていない基材(W)のピークであり、34〜38evのピークは酸化されているWのピークを示している。
【0055】
図9、図10から、Crレジン研削とCuレジン研削を比較すると、Crレジン研削によるワーク表面近傍は、Cuレジン研削よりも酸素の原子数濃度が高く、かつ基材の酸化が進んでいることがわかる。
【実施例4】
【0056】
図11は、図1の装置における導電性砥石12と電解用電極14の間の電流変化を示す図である。この図において、横軸は経過時間(ドレッシング時間)、縦軸は電流値である。なお、導電性砥石12と電解用電極14の間の電圧は、一定(70V)である。
この図において、CoレジンとCuレジンでは、時間の経過により電流値が初期値より低下している。これは、砥石の表面に不導体皮膜(酸化被膜)が生成していると考えられる。
これに対し、Crレジンでは、電流値が初期値からほとんど低下せず、長時間高い値を保っている。
この結果から、Crレジンでは、砥石の表面に不導体被膜が生成されないためと考えられる。
【0057】
図12は、初期ドレッシング後の砥石表面のSEM観察結果であり、(A)はCrレジンの表面、(B)はCuレジンの表面である。
Cuレジンの表面(図12B)は、砥粒が覆われるほどの厚い不導体被膜が生成されている。これに対し、Crレジンの表面(図12A)では、電解後も砥石表面で砥粒が観察でき、不導体被膜が生成していないことが確認された。
【0058】
上述した試験結果から、イオン化傾向の高い順にチタン、クロム、鉄、コバルト、銅であり、イオン化傾向が高いCrはイオンの溶出速度が速い(高い電圧をかけられているために、不導体被膜が生成しない)と考えられる。
またそれによって研削液中の金属イオン濃度が上昇し、高い電流が流れ続けるため、ワーク表面の化学反応が促進され、研削液中の金属イオンがワーク表面に取り込まれるものと考えられる。
従って、イオン化傾向がCrよりも高いTi(チタン)を用いたTiレジン(Tiレジンボンド砥石)の場合も、Crレジンと同様の現象が起こると考えられる。
【実施例5】
【0059】
図13は、上述したアルミナ研磨、Cuレジン研削、Crレジン研削による超硬合金の表面にDLCをコーティングし、それぞれのDLCコーティング膜の密着強度を計測した結果である。
DLCコーティングは、DLC成膜装置を用い、Arボンバード処理の後、Cプラズマにより膜厚800nmのDLCを成膜(コーティング)した。コーティング条件は同一である。
また、密着強度は、薄膜評価試験機を用い、ダイヤモンド圧子を表面に垂直に押し付け、その垂直荷重を一定に保持したままで、表面に沿って摺動させ、スクラッチ痕に亀裂が入り始める荷重値を密着強度として計測した。
【0060】
図13から、Crレジン研削による超硬合金を用いたDLCコーティング膜の密着強度は、アルミナ研磨及びCuレジン研削と比較して2倍以上高いことが確認された。
【実施例6】
【0061】
試作したTiボンド砥石(#8000)を用いて,ステンレス鋼(SUS316)を加工し、GDOESを用いて表面元素分析を行った。
なお、砥石および被加工物以外の加工条件は、実施例1と同様である。
【0062】
図14は、得られた分析結果である。この図において、横軸はスパッタ時間(すなわち深さ)であり、縦軸はスペクトル強度(すなわち構成元素の量)である。
この図から、スパッタ時間を経るにしたがって,Ti元素が被加工物の深いところまで拡散していることが確認された。
【0063】
上述した本発明の方法及び装置によれば、イオン化傾向の高い第1金属(例えば、Cr,Ti)を含む導電性砥石12と電解用電極14との間に導電性研削液2を流しながら、導電性砥石12を正に電解用電極14を負に電圧を印加することにより、導電性砥石12と電解用電極14の間で導電性研削液2の一部を電気分解して研削液中にOHイオンを大量に遊離させると共にイオン化傾向の高い第1金属のイオン(例えば、Cr,Ti)を溶出させることができる。溶出した第1金属イオンは研削液中でOHイオンや水分子と結合して錯体を形成する。
【0064】
一方、導電性の被加工物1と導電性砥石12との間に前記導電性研削液2を流しながら、被加工物1に微弱な電位を印加し、砥石12で被加工物を研削することにより、錯体の触媒作用により、被加工物1の酸化が促進される。
また、研削液中のOHイオンと共に第1金属イオン(例えば、Cr,Ti)を被加工物1の表面に引きつけて、表面をOHイオンと溶存酸素によりこれを酸化すると共に、イオン化傾向の高い第1金属イオンを加工面に浸透拡散させることができる。
【0065】
さらに、イオン化傾向の高い第2金属(例えば、Cr,Ti)を含む導電性部材と電極との間に導電性研削液2を流しながら、前記導電性部材23を正に溶出用電極24を負に電圧を印加することにより、導電性部材23と溶出用電極24の間で導電性研削液の一部を電気分解すると共にイオン化傾向の高い第2金属のイオンを溶出させることができる。
この第2金属イオンも研削液中でOHイオンと結合して錯体を形成し、第1金属と共に加工面に浸透拡散させることができる。従って、第1金属と第2金属の両方を同時に加工面に浸透拡散させることができる。
【0066】
また、第1金属イオン溶出ステップ、第2金属イオン溶出ステップ、及び金属イオン浸透拡散ステップを同時に行うことにより、活性の高い第1金属イオン、第2金属イオン、OHイオン、およびその錯体を、加工により露出した素材表面に接触させることができ、金属イオンを含む強い酸化皮膜が形成され、その表面機能(耐食性、トライボロジー特性、疲労強度等)を改善することができる。
【0067】
なお、本発明の表面改質加工装置を構成するELID研削装置は、(A)ロータリー平面研削盤、(B)円筒研削盤、(C)曲面加工装置、等であってもよい。
(B)円筒研削盤では、シリンダーや軸受部品のトライボロジー特性の改善に特に適している。また、(C)曲面加工装置では、ミラー、レンズ等の保護膜形成に適している
【0068】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない限りで主種に変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の表面改質加工装置の第1実施形態を示す構成図である。
【図2】本発明の表面改質加工方法を示す模式図である。
【図3】本発明の表面改質加工装置の第2実施形態を示す構成図である。
【図4】本発明の表面改質加工装置の第3実施形態を示す構成図である。
【図5】本発明の表面改質加工装置の第4実施形態を示す構成図である。
【図6】超硬合金(WC−TiC)を研削(又は研磨)した後の表面粗さの比較図である。
【図7】研磨とCuレジン研削によるワーク表面近傍の元素分析結果である。
【図8】Crレジン研削とCoレジン研削によるワーク表面近傍の元素分析結果である。
【図9】Crレジン研削とCuレジン研削によるワーク表面近傍の元素濃度の分析結果である。
【図10】XPSによるWの組成分析結果である。
【図11】導電性砥石と導電性電極の間の電流変化を示す図である。
【図12】初期ドレッシング後の砥石表面のSEM観察結果である。
【図13】超硬合金表面のDLCコーティング膜の密着強度の計測結果である。
【図14】試作したTiボンド砥石を用いた研削によるワーク表面近傍の元素分析結果である。
【符号の説明】
【0070】
1 被加工物(ワーク)、2 導電性研削液、3 ワーク把持回転装置、
10 表面改質加工装置、12 導電性砥石、14 電解用電極、
16 砥石印加装置、16a 電源装置、
16b,16c 接点、16d,16e 接続コード、
18 ワーク印加装置、18a 電源装置、
18b,18c 接点、18d,18e 接続コード、
20,22 研削液供給手段、23 導電性部材、24 溶出用電極
【出願人】 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
【出願日】 平成18年10月25日(2006.10.25)
【代理人】 【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実


【公開番号】 特開2008−105124(P2008−105124A)
【公開日】 平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願番号】 特願2006−289329(P2006−289329)