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【発明の名称】 放電加工方法、放電加工回路及び放電加工装置
【発明者】 【氏名】楊 暁冬

【氏名】国枝 正典

【氏名】佐野 定男

【氏名】新家 一朗

【要約】 【課題】静電誘導給電を用いる微細放電加工の放電エネルギを簡単に小さくする技術を提供する。

【構成】工具電極を工作物と加工媒体液の介在する微小間隙を介して相対向させ、放電加工電源の一方の端子を工作物に接続するとともに、工具電極との間で放電を発生しない同軸状の間隔を置いて配置した筒状の給電電極に電源の他方の端子を接続し、電源から変動する放電加工電圧を出力させることにより給電電極と工具電極及び工具電極と工作物間に静電誘導を生ぜしめて給電し、工具電極と工作物との間隙に放電を生ぜしめて加工する放電加工において、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具電極を工作物と加工媒体液の介在する微小間隙を介して相対向させ、放電加工電源の一方の端子を前記工作物に接続するとともに、前記工具電極との間で放電を発生しない間隔を置いて配置した給電電極に前記電源の他方の端子を接続し、前記電源から変動する放電加工電圧を出力させることにより前記給電電極と工具電極及び工具電極と工作物間に静電誘導を生ぜしめて給電し、工具電極と工作物との間隙に放電を生ぜしめて加工する放電加工において、
前記工具電極と工作物間の間隙に、コンデンサを並列に接続して成ることを特徴とする放電加工装置。
【請求項2】
前記コンデンサの一端の工具電極に対する接続が工具電極との間で放電を発生しない間隔を置いて配置した第3の電極に対する接続から成る非接触の静電誘導結合であることを特徴とする請求項1に記載の放電加工装置。
【請求項3】
前記コンデンサに代えて導線を用い、該導線の一方の端子を工具電極との間で放電を発生しない間隔を置いて配置した電極に、他方の端子を工作物に直接接続した非接触の静電誘導結合としたことを特徴とする請求項1に記載の放電加工装置。
【請求項4】
工具電極を工作物と加工媒体液の介在する微小間隙を介して相対向させ、放電加工電源の一方の端子を前記工作物に接続するとともに、前記工具電極との間で放電を発生しない間隔を置いて配置した給電電極に前記電源の他方の端子を接続し、前記電源から変動する放電加工電圧を出力させることにより前記給電電極と工具電極及び工具電極と工作物間に静電誘導を生ぜしめて給電し、工具電極と工作物との間隙に放電を生ぜしめて加工する放電加工方法において、
前記工具電極と工作物間の間隙に、コンデンサを並列に接続し、前記電源から変動する放電加工電圧を出力させることにより前記間隙に順次に両極性の放電を生ぜしめて加工することを特徴とする放電加工方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、工具電極と被加工体とを加工媒体が介在する微細な間隙を介して相対向せしめ両者間に電圧を印加して間歇放電を生ぜしめることにより被加工体材を溶融、飛散させることにより被加工体を加工する放電加工の、特に、微細加工(マイクロ加工)の放電加工回路及び該加工回路を用いた放電加工方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放電加工に対する微細加工の要求は、例えば、寸法約500μm以下からさらに小さく厳しくなって来ており、その要求条件の具体的なものとして、(1)加工単位を小さくすること、(2)加工寸法の精度を高くすることに向けられているものである。そして、上記要求条件に応える対応としては、前者(1)については、(a)放電クレータを小さくすることであるのに対し、後者(2)については、(b)加工装置の精度を高くし、電極形状の被加工体上への転写性を高めることである。
【0003】
しかして、上記二項中後者(b)に対する対応としては、例えば、温度変化などにも対応して位置決め機構の精度を高めることの実現に向けられている所、測定、移動等の長さの設定単位が、既にμmオーダ以下の数10nm前後乃至はそれ以下のオーダの領域の装置が実用化される状況にある故、ほぼ充足されて来ていると言えるものの、上記前者に対する対応は、エネルギの放電部分への注入にあたっての、放電の発生、維持のための電気的条件による制約や、供給回路や放電回路等の回路構成や回路条件等による制約もあり、十分対応が出来ていない状況にあるものである。
【0004】
放電加工において、1放電毎に放電部分に注入されるエネルギEは、放電中の極間電圧をV、放電電流をI、放電パルスの持続時間をTとすると、
[数式1]


と表わされる。
放電クレータを小さくするためには、このエネルギEを小さくすることが効果的であるが、極間電圧Vは、電極、被加工体の物理的な性質によって10Vから40Vの間のほぼ決まった値となるので自由に変えることが出来ず、また放電電流Iは、通常の放電加工の放電として電流密度の高い過渡アーク放電を利用しているところから、放電が不安定となってパルス波形の制御ができなくなる電流値(約500mA)以下に設定することができない状況から、持続時間Tの減少、微小化設定に技術の目が向けられることになる。
【0005】
仕上げ加工乃至は超仕上げ加工の加工条件が選定使用されるパルス発生の加工回路は、直流電圧源をFETによってオン・オフするスイッチング回路、及びRC回路などと呼ばれているところのコンデンサによって蓄えられた電荷の放出によって電流パルスを得るものとの二つである。
【0006】
上記スイッチング回路としては、持続時間Tを小さくするために、蓄積時間の影響が小さい高速スイッチング用のFETをスイッチング素子に用いたとしても、設定電流値Iが上述のように大きいところから、持続時間Tは0.1μs程度迄が実用的な条件であり、これでは極間電圧Vと放電電流Iについての上述の制約を考慮すると、1パルスのエネルギEは、約1μJ前後にしかならず、これでは、所謂微細加工の荒加工か、中仕上げ加工の加工条件としてしか使用できないものである。
【0007】
これに対し前述RC回路は、基本的にはコンデンサに蓄えられたエネルギが放電エネルギの上限となるため、コンデンサの容量Cさえ小さく出来れば、いくらでも小さいエネルギの放電を起せる可能性があり、直流電源の電圧をVdとすれば、コンデンサに蓄えられるエネルギは最大値で、
[式2] Ec=1/2CVd
であり、仮にC=2pF、Vd=60Vとすると、Ec≒3.6nJであるから、実際には配線による浮遊容量や浮遊インダクタンスだけでなく、また、電極と被加工体による浮遊容量などによる微細化限界があって簡単ではないが、理論的にはRC回路は、前述スイッチング回路に比べ何桁か小さいエネルギのパルス放電を得ることができるので、加工速度が遅いのを我慢して、微細加工に使用されて来ているのが実情である(例えば、非特許文献1参照。)。
【0008】
しかし、近時のさらなる微細部品に対する加工ニーズやMEMSの発展に伴い、浮遊容量やインダクタンスの影響により放電エネルギの微細化に限界を生じてしまっている従来型のマイクロ放電加工機では対応が出来ず、新たなマイクロ加工機の出現が望まれていた。しかるところ、本発明者等により、回路上の浮遊容量やインダクタンスの影響を低減し、より微細な放電加工が可能な方法として、静電誘導給電を用いた放電加工方法が提案、開発された(例えば、非特許文献2−4、及び特許文献1−2参照。)。
【0009】
【非特許文献1】増沢 隆久、「マイクロ放電加工技術の概要」電気加工学会誌、社団法人電気加工学会、平成13年11月30日、第35巻、第80号、p.5−20
【非特許文献2】花田 倫宏、外2名、「P52 静電誘導給電を用いた微細放電加工法の開発」、2005年度精密工学会春季大会学術講演会論文集、社団法人精密工学会、平成17年3月、p.1323−24
【非特許文献3】花田 倫宏、外2名、「静電誘導給電を用いた微細放電加工法の開発」、社団法人精密工学会、平成18年5月、精密工学会誌、第72巻、第5号、p.636−40
【非特許文献4】早坂 暁彦、外3名、「I37 静電誘導給電を用いた微細放電加工の加工特性」、2006年度精密工学会春季大会学術講演会論文集、社団法人精密工学会、平成18年3月、p.679−80
【特許文献1】特開2000−218438号公報、[0025]−[0028]及び図2
【特許文献2】特開2004−122316号公報
【0010】
上述の静電誘導給電を用いた微細放電加工方法の原理を図7(a)−(d)及び図8の極間電圧波形を用いて説明すると次の通りである。図7に示すように、微細棒状の工具電極1を工作物2と相対向する先端側に取り付けた導電体スピンドル3に対し筒状の給電電極4を同軸に挿通して配置し、給電電極4と工作物2間に放電加工電源Vのパルス的電圧または両極性パルスなどの高周波交流電圧の如き極間で放電を生ぜしめ得る変動する電圧が印加される。ただし、前記給電電極4とスピンドル3の隙間は、両者間で放電が発生しない程度の大きさの、例えば、恒温恒湿室内等の何等かの気中またはガス中ギャップ、または構成上等で必要ならば、絶縁体や誘電体を介設させてあってもよく、給電電極4と工具電極1との間で微細な電荷の移動が生じても、極間での放電の生成を阻害するような伝導電流が生じないようにしてあるものとする。
【0011】
給電電極4と工具電極1間に放電加工電源から、例えば、一定周期でパルス電圧Vを印加すると、該印加電圧Vにより、電極4、1、スピンドル3及び工作物2内の電子が移動して図7(a)に示すような電子の偏りが生じる。このとき、工具電極1と工作物2間のギャップ間隙において、工具電極1先端面が正、工作物2表面が負に帯電することにより極間に電位差が生じ放電が発生する。
【0012】
この放電により、工作物2から工具電極1(スピンドル3)に、図7(b)に示すように電子が移動し、そこで印加電圧Vが低下または零になると、工具電極1(スピンドル3)は前述の放電で、工作物2から電子を受けていることにより負に帯電し、これに対し工作物2と給電電極4とは前記放電によりともに電子を放出したことで、図7(c)に示すように工作物2が逆の正に帯電することにより極間に電位差が生じ、今度は工作物2を正極として放電が発生し、工具電極1から工作物2に、図7(d)に示すように電子が移動する。
【0013】
このようなサイクルを繰り返す工具電極1と工作物2の極間に対する順次の両極性放電により加工が行われる。そして、この場合給電電極4と工具電極1(スピンドル3)間には、変位電流は流れているが、伝導電流は流れておらず、このため、前記の発生2放電については、回路に生じる浮遊容量と浮遊インダクタンスの影響を無視乃至は著しく低減することができるのである。
【0014】
つまり、この方式の放電加工回路によれば、給電電極4と工具電極1(スピンドル3)、並びに工具電極1と工作物2間で形成される静電容量C、Cのみで放電エネルギを決定することができるので、前述のように回路に生じる浮遊容量などにより最小限界放電エネルギが決定される従来形のマイクロ放電加工機に比べ、微細な加工を行うことが可能となるものである。そして、後述するように、この回路構成では、給電電極4と工具電極1とで形成される静電容量Cを小さくすることで、放電エネルギを減少させ、表面粗さの向上や、より小さな放電を得ることができるが、上記静電容量を小さくすることは、他方の容量Cと対比しても限度があり、さらなる開発が必要とされていた。
【0015】
即ち、この方式の放電加工回路によれば、工具電極1と工作物2間に形成される静電容量分の極間への放電を利用するもので、使用の対象となる微細加工の極間放電エネルギーが小さいことを利用することで合目的的であり、さらに、この方式によれば、浮遊インダクタンスが極めて小さく放電電流の立ち上がりが良く有効な微細高ピークパルスが実現できるものである。
【0016】
また、この方式の放電加工回路によれば、工具電極1(スピンドル3)への放電エネルギを、工具電極1に対し非接触で給電できることから、高速に回転するスピンドル3や静圧軸受け、磁気軸受けを用いたスピンドルへの給電が容易になり、軸振れを生じさせることなく、高精度のマイクロ加工を可能にするなどの利点も有するものと思惟されるものである。
【0017】
そこで、以上の理屈が正しいことの確認のために、以下の条件で加工実験を行った。
印加電圧[V] 150
パルス幅[μs] 50
休止時間[μs] 60
加工液 放電加工油
工具電極(先端部)[mm] タングステンφ0.31
工具電極(給電部=スピンドル部)[mm] 鋼棒φ3.8
給電電極[mm] 銅パイプ:外径φ6.35、内径φ4.5、長さL150
工作物 SK5
また、Rは電源の内部抵抗である。
給電電極と工作物を従来形の放電加工機のテーブル上に適宜絶縁して固定し、工具電極のみを主軸に取り付け加工機の送り機構を利用して加工を行った。但し、加工機の従来形の加工電源からは切り離し、工具電極の送りは加工間隙の平均極間電圧を目途に行った。放電維持電圧約20Vの両極性放電の繰り返しによる放電加工が行なわれ、深さ6.5μmの穴を、表面粗さRz0.272μmで加工でき静電誘導給電を用いる前述の放電加工回路が有用なことが判った。
【0018】
そして、この放電加工回路による極間放電エネルギは、両極性放電パルスの間で可成りの程度生じる放電痕の径の大小に差があるものの、面粗さ等の微細加工上の性能条件的には、エネルギの大きい放電によって支配されることは当然ながら、前記の放電エネルギの大きさは、給電電極と工具電極(スピンドル)、ならびに工具電極と工作物との間で形成される静電容量C、Cのみで決定される。
【0019】
以下説明するに、上述の非接触静電誘導給電の回路において、印加電圧Vは、次式のように分圧される。
[式3] 印加電圧V=VC1+VC2=Q/C+Q/C
但し、VC1、VC2は各容量C、Cの充電電圧、
、Qは各C、Cに充電された電荷である。
【0020】
従って、給電電極4の軸方向の長さLを短くすることにより、給電電極4と工具電極1(スピンドル3)の対向面積を小さくし、給電電極4と工具電極1間で形成される容量Cが小さくなれば、加工間隙の極間電圧VC2が小さくなり、放電エネルギを減少させることが出来る。そこで、給電電極4の長さLを100mm、80mm、60mm、40mm、20mmと変化させて、単発放電痕の直径μmと加工穴の底面の表面粗さRzを測定した所、単発放電痕の直径はφ2.9μmからφ1.2μmに、加工穴の底面の表面粗さは、従来の一般的な放電加工機で得られる最小の表面粗さRz約0.4μm程度に対し、前記L=40mmのとき、表面粗さRz0.24μmを得ることができるものである。なお、前記L=20mmでは、精密な極間維持などの制御なしでは、安定した放電状態とすることができず、良好な結果を得ることが出来なかった。しかし、制御次第ではさらに表面粗さを向上できるものと考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
以上のような静電誘導給電を用いた放電加工回路によるさらなる加工の微細化が要請されているが、工具電極1と工作物2間で形成される浮遊静電容量Cは、給電電極4と工具電極1間に形成される容量に比べて、例えば、前述の機械構造、寸法の場合、給電電極4と工具電極1(スピンドル3)間に形成される容量Cの約1/10前後と既に相当に小さく、かつその容量値はほぼ一定であって変化、変更の可能性は少なく、之に対して他方の給電電極4と工具電極1間に形成される容量は、前述のように変更可能ではあるが、その変更は大掛かりで複雑かつ面倒きわまりないものであり、形成される容量のさらなる小容量化には前述の構成で既に限度に達しているか、または小容量化をしたとしても、加工間隙での円滑な放電の発生、加工作用を生じせしめ得ない状況にあるのではないかと思惟されるものである。
【0022】
しかるところ、本発明者等は、前述の静電誘導給電を用いた微細放電加工のより微細加工領域に於ける加工の円滑化を計るため、前述の極間の微細維持制御のため極間信号を得るために、極間電圧を検出、測定、解析等していた所、この極間電圧の測定が当該微細放電加工の加工性能に影響を及ぼし、特にコンデンサ等の回路素子の付加、接続等の簡単な処置、手法で、前述の如き静電誘導給電を用いた回路による放電エネルギの変更操作、微小化、及び放電痕の直径の微小化の可能性があることを発見したことにより本発明が提案されるものである。
【0023】
そこで、本発明は、静電誘導給電を用いた微細放電加工の放電エネルギのさらなる微小化を簡単な改良、手法で達成し、高度で、より微細なマイクロ放電加工の分野に適用可能な放電加工装置及び放電加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前述の本発明の目的は、(1)工具電極を工作物と加工媒体液の介在する微小間隙を介して相対向させ、放電加工電源の一方の端子を前記工作物に接続するとともに、前記工具電極との間で放電を発生しない間隔を置いて配置した給電電極に前記電源の他方の端子を接続し、前記電源から変動する放電加工電圧を出力させることにより前記給電電極と工具電極及び工具電極と工作物間に静電誘導を生ぜしめて給電し、工具電極と工作物との間隙に放電を生ぜしめて加工する放電加工において、
前記工具電極と工作物間の間隙に、コンデンサを並列に接続して成る放電加工装置とすることにより、
そして、さらに、前記コンデンサを工具電極と工作物間の間隙によって形成される浮遊静電容量よりも大きい静電容量を有するものとすることにより、より良く達成される。
【0025】
また、前述の本発明の目的は、(2)前記コンデンサの一端の工具電極に対する接続が、工具電極との間で放電を発生しない間隔を置いて配置した第3の電極に対する接続から成る非接触の静電誘導結合である前記(1)に記載の放電加工装置とすることにより達成される。
【0026】
また、前述の本発明の目的は、(3)前記コンデンサに代えて導線を用い、該導線の一方の端子を工具電極との間で放電の発生しない間隔を置いて配置した電極に、他方の端子を工作物に直接接続した非接触の静電誘導結合とした前記(1)に記載の放電加工装置とすることにより達成される。
【0027】
また、前述の本発明の目的は、(3)工具電極を工作物と加工媒体液の介在する微小間隙を介して相対向させ、放電加工電源の一方の端子を前記工作物に接続するとともに、前記工具電極との間で放電を発生しない間隔を置いて配置した給電電極に前記電源の他方の端子を接続し、前記電源から変動する放電加工電圧を出力させることにより前記給電電極と工具電極及び工具電極と工作物間に静電誘導を生ぜしめて給電し、工具電極と工作物との間隙に放電を生ぜしめて加工する放電加工方法において、
前記工具電極と工作物間の間隙にコンデンサを並列に接続し、前記電源から変動する放電加工電圧を繰り返し供給し前記間隙に順次に両極性の放電を生ぜしめて加工する放電加工方法とすることにより、
そして、さらに、前記コンデンサを工具電極と工作物間の間隙によって形成される浮遊容量よりも大きい静電容量を有すると共に、電源から出力する変動する放電加工電圧を所定の休止時間を置く単極性の電圧パルスとし工作物側を負極に接続して繰り返し供給する放電加工方法とすることにより、より良く達成される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、静電誘導給電を用いた微細放電加工の放電エネルギの微小化を、工具電極と工作物間の極間にコンデンサを並列に付加接続すると言う簡単な手法で達することができ、微細放電加工の加工性能を向上させることができる。
【0029】
また、本発明によれば、前述放電エネルギの微小化を、前記コンデンサの一端の工具電極に対する接続が、工具電極との間で放電を発生しない同軸状の間隔を置いて配置した筒状の第3電極に対する接続から成る非接触の静電誘導結合であるから、高速に回転する工具電極(工具電極+スピンドル=以下工具電極又はスピンドルと言う。)や、静圧軸受け、磁気軸受けを用いたスピンドル等への電気的接続が軸振れ等を生じさせることなく行なえ、高精度のマイクロ放電加工を容易に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は、本発明の原理的な一実施例の説明図で、微細棒状の工具電極1を平面方向の精密変位テーブル6上の工作物2と微小間隙を介して相対向するように下方尖端に取り付けた導電体の回転スピンドル3が設けられ、該スピンドル3に筒状の静電誘導給電電極4が同軸に挿通した状態に配置して、前記工作物2と給電電極4との間に放電加工電源5からパルス的電圧または両極性パルスなどの高周波交流を含む変動する放電加工電圧が印加されて静電誘導給電が行なわれ、前記間隙で両極性の放電を繰り返し放電加工が進行する。但し、前記給電電極4とスピンドル3との隙間は、両者間に伝導電流が流れる放電が発生しない程度の大きさの例えば、恒温恒湿室内等の気中やガス中または液中ギャップ、または構成上等で必要ならば、液体または固体の絶縁体や誘電体を介設させてもよく、給電電極4と工具電極1との間で電荷の移動が生じないようにしてある。
【0031】
図示実施例では、工作物2と工具電極1間の極間の電圧を測定するためのオシロスコープ7の測定プローブが、一端は工作物2に、他端は回転スピンドル3に軸方向と直角方向に接触検出負荷を与えないように、前記スピンドル3と給電電極4との結合関係と同様に、工具電極1との間で放電を発生しない同軸状の間隙を置いた筒状乃至はリング状の第3の電極8に接続され、該第3の電極8はスピンドル3と電気的に非接触で静電誘導結合している。なお、上記の各静電誘導結合の構成としては、例えば、給電電極4をスピンドル3の上端面または上端面に取り付けた円板との間で放電を発生しない間隔を置いて配置した円板電極としたり、またスピンドル3の頂部に図示されている円板をスピンドルの軸に沿って間隔を置いてフランジ状に1つ以上設け、このフランジの外周に櫛歯状に間隔を置いて形成した給電電極と遊嵌配置する構成としたり、また、この給電電極4及び/又は第3の電極8を、スピンドル3の寸法形状にもよるが、スピンドル3の側面に一部分以上平面又は円弧状面として間隔を置いて配置した電極4、8とする構成とすることもできる。
【0032】
そして、図中のCはスピンドル3(工具電極1)と給電電極4間の、Cは工具電極1と工作物2間加工対向面間に形成される、そして、Cはスピンドル3と前記第3の電極8間の各静電容量であり、さらに前記オシロスコープ7とそのプローブが持つ負荷とを、放電電圧が高周波信号なので、解析の簡単化のために、1つの容量Cで近似させると、図1の静電誘導給電放電加工の等価回路は図2の(A)開放時、同(B)放電時のように表わすことができる。但し、図示する放電時の回路は、工具電極1が正、工作物2が負の放電が生じた場合を仮定しており、工具電極1が負、工作物2が正の放電が生じた場合はVdの符号が反転する。また、図中のA点での電圧をV(t)とし、A点より各回路へ流れ出す電流をそれぞれI(t)、I(t)、I(t)、I(t)としている。
【0033】
印加電圧Vは周期T=200μs、振幅230V、デューティ50%の単極性の矩形波とし、電源の内部抵抗をR(=1Ω)、放電により生じる極間の電圧降下をツェナーダイオードに置き換え、抵抗R(=100Ω)と放電電圧Vd(=20V)、放電遅れ時間はT/4と仮定し、回路解析に用いた。その他の回路定数は、C=7.5pF、C=0.06pF、C=0.75pF、C=20pFとした。
【0034】
非接触測定を行った場合の極間電圧波形VC2(実線)、非接触測定プローブ8と工具電極1間の電圧波形VC3(破線)、オシロスコープ7の電圧波形VC0(一点破線)を図3に示す。オシロスコープ測定電圧VC0は、容量Cに作用する電圧である。
解析の結果として、開放の場合は、
C2=±188.26V
C3=±181.46V
C0=±6.80V
となる。
放電の場合は、
C2=±20V
C3=±19.28V
C0=±0.72V
となる。極間電圧VC2は、CとCとで分圧され、VC0は極間電圧VC2より小さいが、極間電圧波形VC2と相似であって、検出して、サーボ制御の信号などとしての利用が可能である。
【0035】
非接触電圧測定プローブ8と工具電極1の間の容量Cが、極間容量Cの充電電圧に及ぼす影響について解析した所、図4の(A)充電電圧VC2:静電容量C(pF)特性図及び図4の(B)数値データ表に示すように、前記非接触接続の容量Cが大きければ、極間充電電圧VC2は小さくなり、放電エネルギが小さくなっていることが判った。そしてこのことは、容量Cの大きさによって、極間の放電エネルギを変更、操作設定できることを意味している。
【0036】
図5の(A)、(B)、及び(C)は、前述静電誘導給電を用いた微細放電加工回路における接触(接続)測定の場合(A)、非接触(接続)測定の場合(B)、及び測定なしの場合(C)の各等価回路を示すもので、前記(B)及び(C)、は既に自明ながら、前記(A)は、既に詳述した従来形の静電誘導給電を用いた微細放電加工回路の極間(工具電極1と工作物2間)に、静電容量がCのコンデンサを、工具電極1(スピンドル3)に回転が付与されていなく、流体軸受けや磁気軸受けでもない場合には工具電極1(スピンドル3)に半田付けするか端子等を設けて前記コンデンサの一端をナット等により固定するか、または、工具電極1(スピンドル3)が回転している場合にはブラシ等を直接押し付けての接触接続をしたものなどの場合を言うものである。
【0037】
そして、等価回路(C)は、従来形の静電誘導給電を用いた微細放電加工回路そのもの、また等価回路(B)は、一端を工作物2に接続した静電容量Cのコンデンサの他端を工具電極1(スピンドル3)に接続するのを、該工具電極1(スピンドル3)が回転軸などであるため静電誘導による非接触接続による結合とするため、前記コンデンサの他端の工具電極1(スピンドル3)に対する接続を、工具電極1(スピンドル3)との間で放電が発生しない同軸状の間隔を置いて配置した筒状の第3電極に対する接続構成として、この非接触接続部に静電容量Cのコンデンサを形成させたものと言うことができる。そして、この接続の場合、極間に対する並列コンデンサとして容量Cのコンデンサが形成されるので、前記容量Cのコンデンサは必要に応じて設ければ良く、この場合の回路構成は、前記第3電極に一端を接続した導線の他端を工作物へ直接接続した構成となる。
【0038】
この等価回路(B)のコンデンサCとCは直列であるからその合成容量は、接触接続のコンデンサCに比べて小さい。そして、接触、非接触接続各回路は、容量Cの極間隙と並列なので、各回路と極間隙の合成容量は、接続、非接触にかかわらず、極間隙にコンデンサを接続しない等価回路(C)の場合より大きくなっている。従って、全体の合成容量は、C(測定なし)<C(非接触接続)<C(接触接続)となり、印加電圧Vが非接触給電のCと分圧されるので、合成容量が大きい方が極間電圧は小さくなる。従って、各等価回路における放電エネルギEは、E(測定なし)>E(非接触接続)>E(接触接続)となる。
【0039】
以上につき、確認の加工実験を行なって放電痕の測定を行った所、図6の(A)のグラフ及び(B)の表に測定結果を示すように、放電エネルギの解析結果と合致した。前述の実験条件において、電源から出力させる放電加工電圧としては、短形波等のパルス電圧である必要も、単極性である必要もなく、時間的に電圧変動のある波形であれば、例えば正弦波でも使用することができる。また、パルス電圧は、必ずしも周期的である必要はなく、デューティも50%である必要がないこと当然である。そして、変動する波形のP−V値は、極間隙で放電が生じるために必要な電圧以上であれば十分で、逆に、P−V値は絶縁破壊が生じ得る電圧以下では加工ができないのである。
【0040】
以上の結果、静電誘導給電を用いた微細放電加工回路に於いては、工具電極(スピンドル)と工作物間の極間隙に付加接続するコンデンサの容量が大きい程、極間隙で発生する放電の放電エネルギが小さくなるので、本発明としては、極間隙に接触接続または非接触接続方式の如何にかかわらずコンデンサを並列に付加接続すること、そして接続するコンデンサとしては、工具電極と工作物とによって加工のために形成される極間浮遊容量より大きい容量のコンデンサを設置接続することにより、加工極間隙での放電エネルギを微小化して、より微細なマイクロ放電加工を実現させ得るものである。また、極間隙静電容量に制限されず、より小さい放電エネルギでの加工を実現させる。
【0041】
以上のように、本発明者等は、静電誘導給電を用いる微細放電加工に於いては、極間隙に並列にコンデンサを接続すると従来の放電加工回路とは逆に放電エネルギを減少させ得ることを見出し、より高度な微細加工への道を拓いたものである。
【0042】
また、以上のように本発明によれば、1放電当りの放電エネルギは、印加する変動する電圧P−V値や非接触の静電誘導給電部の静電容量Cの値だけでなく、工具電極と工作物との間隙によって形成される間隙静電容量Cの値及び間隙に並列に付加接続するコンデンサの静電容量Cと該コンデンサの工具電極側への接続を非接触の静電誘導接続としたときの接続部分の静電容量Cを変更することにより、1放電当りの放電エネルギを多様で大幅に変更制御することができ、微細放電加工に多様な道を拓く可能性を有するものである。
【0043】
例えば、加工の目的上等可能であれば、加工面積を大きくしたり、工具電極の本数を多くして間隙静電容量Cを大きくしても、放電エネルギを小さくできると言う従来の放電加工とは逆の傾向を持った面積効果を発揮させる可能性があるものである。また、従来の斯種の微細放電加工では、浮遊容量はネガティブな影響しかないものであったが、コンデンサCと直列に接続された態様で極間に並列に接続される静電容量Cは、放電エネルギを小さくする働きがある。そして、さらに、本発明によれば、静電誘導給電の静電容量Cよりも電源側に存在する浮遊容量が放電加工の各放電の放電エネルギにほとんど影響を与えないと言う機能も果たしているものと思惟される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、静電誘導給電を用いる微細放電加工の分野において、加工のより微細化のために有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の原理的な一実施例の説明図。
【図2】図1の回路の等価回路で、(A)開放時、(B)は放電時のもの。
【図3】各部の電圧波形図。
【図4】容量と充電電圧の特性図(A)と数値データ表(B)。
【図5】(A)、(B)、及び(C)は異なる放電加工回路の各等価回路図。
【図6】測定放電痕の寸法の分布図(A)と測定結果のデータ表(B)。
【図7】図7の(a)、(b)、(c)、及び(d)は、静電誘導給電を用いた従来例の放電加工回路の動作説明図。
【図8】同図7の極間電圧波形図。
【符号の説明】
【0046】
1、工具電極
2、工作物
3、スピンドル
4、給電電極
5、放電加工電源
6、精密変位テーブル
7、オシロスコープ
8、非接触測定プローブ
【出願人】 【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
【識別番号】591057223
【氏名又は名称】国枝 正典
【出願日】 平成18年8月31日(2006.8.31)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−55551(P2008−55551A)
【公開日】 平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願番号】 特願2006−235772(P2006−235772)