トップ :: B 処理操作 運輸 :: B23 工作機械;他に分類されない金属加工

【発明の名称】 ねじ成形工具及び該ねじ成形工具により成形されるねじ部が成形された金属部材
【発明者】 【氏名】高橋 直樹

【氏名】藤内 啓輝

【要約】 【課題】ねじ部の口元に生じるバリを低減することができるねじ成形工具と、口元でのバリが低減されることにより締結部材の締結や位置決めを容易に行うことができるねじ部が成形された金属部材を提供する。

【解決手段】ねじ成形工具10は、回転と加圧により被加工材である金属板Wに孔をあける下穴成形部12と、下穴成形部12であけられた孔22にねじ加工を施すねじ成形部16とを有する。下穴成形部12には、先端に突出した円錐形先端部24と、円錐形先端部24の基端側周縁部に連続して設けられ、後端側に向かって湾曲して凹んだバリ返し部26とが備えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転と加圧により被加工材に孔をあける下穴成形部と、
前記下穴成形部であけた孔にねじ加工を施すねじ成形部と、
を有し、
前記下穴成形部は、先端に突出した円錐形先端部と、
前記円錐形先端部の基端側周縁部に連続して設けられ、後端側に向かって湾曲して凹んだバリ返し部とを備えることを特徴とするねじ成形工具。
【請求項2】
請求項1記載のねじ成形工具において、
前記下穴成形部の前記バリ返し部の外周側縁部から連続した部分には、後端側に向かって拡径したテーパ部が形成されていることを特徴とするねじ成形工具。
【請求項3】
請求項1又は2記載のねじ成形工具において、
前記下穴成形部の外表面の少なくとも一部には螺旋溝が形成されていることを特徴とするねじ成形工具。
【請求項4】
下穴成形後にねじ加工が施されたねじ部が成形された金属部材であって、
前記ねじ部は、周縁部から外側に突出したバリの先端が、該バリに内包されるようにカールしていることを特徴とする金属部材。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板等の被加工材に対してねじ部を成形するねじ成形工具及び該ねじ成形工具により成形されるねじ部が成形された金属部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両等に用いられる金属板等の被加工材にねじ部(雌ねじ部)を成形するために、下穴成形部及びねじ成形部を有するねじ成形工具を用い、前記金属板に孔あけ加工(バーリング加工)及びねじ加工(タップ加工)を行う方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、金属板を打抜きして孔をあける打抜き部と、打ち抜かれた孔を拡径しバーリング部を成形するテーパ状のバーリング成形部と、前記バーリング部の内周面にねじ加工を行なう逃がしねじ部及び成形刃部とを備えるねじ成形工具が開示されている。
【0004】
特許文献2には、上記のようなねじ部成形用のねじ成形工具であって、テーパ状の先端で加圧と回転による摩擦熱で薄板を塑性変形させながら破断してバーリング加工により孔を形成する穿孔部と、該穿孔部により形成された孔に雌ねじを形成させるタップ加工部とを備え、前記穿孔部にダル加工面を形成する技術的思想が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特許第2857943号公報
【特許文献2】特開平5−253747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図12は、このような従来のねじ成形工具の一例であるねじ成形工具100の正面図である。図13A〜図14は、図12に示すねじ成形工具100により、金属板Wにねじ部を成形する工程を説明するための一部省略側面断面図である。
【0007】
図12に示すように、ねじ成形工具100は、先端に設けられたテーパ部101を有する下穴成形部102と、該下穴成形部102の後端側に設けられたねじ成形部104と、該ねじ成形部104の後端側に設けられたシャンク(柄)106とから構成されている。シャンク106の後端側には、図示しないねじ成形装置のチャックに保持される断面多角形状の係合部108が形成されている。
【0008】
このようなねじ成形工具100により被加工材である金属板Wにねじ部を成形する場合、先ず、ねじ成形工具100を高速で回転させながら、図13Aに示すように、下穴成形部102の先端を金属板W内へと挿入する。この際、ねじ成形工具100の挿入側(進行方向と反対側)の金属板W上面では、孔110の周縁部(口元)に、外側に突出するバリ112が発生する。
【0009】
次いで、図13Bに示すように、下穴成形部102が、回転と加圧による摩擦熱により金属板Wを破断しながら次第に進行すると、下穴成形部102のテーパ部101に沿ってバリ112が大きく成長する。図13Cに示すように、テーパ部101が金属板W内に完全に挿入され、バリ112がテーパ部101を外れると、大きく成長したバリ112は、外側に多少湾曲した形状となる。そして、図13D及び図13Eに示すように、下穴成形部102の先端が金属板Wを貫通すると孔あけ加工が終了し、金属板Wを貫通した孔110が形成される。
【0010】
続いて、図14に示すように、孔110に対し、ねじ成形部104によるねじ加工が施されることで、金属板Wへのねじ部114の成形が完了する。
【0011】
ねじ成形工具100では、以上のようにしてねじ部114の成形が行われるが、この場合、図14に示すように、成形後のねじ部114の口元から外側に突出したバリ112は、非常に大きく成長し突出した状態で残留している。
【0012】
このため、図15Aに示すように、ねじ部114に図示しないボルト等を締結させて、締結部材116を金属板Wに締結する際、該締結部材116のボルト挿通孔118にバリ112が干渉したり、図15Bに示すように、締結部材116の位置決め後、バリ112がボルト挿通孔118から大きく飛び出す可能性がある。ねじ部114を成形した後の金属板Wに大きなバリ112が残留していると、締結時、バリ112によって締結部材116を損傷してしまう可能性もある。また、締結部材116を位置決めする際には、ボルト挿通孔118がバリ112を避けるようにして位置決めする必要があり、締結に係る工程数や時間が増加することになる。
【0013】
そこで、ねじ部114の成形後にバリ112を除去するバリ取り加工を行うことも考えられるが、結局、工程数が増加してしまう。
【0014】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、被加工材に対して孔あけ加工とねじ加工を行うねじ成形工具において、ねじ部の口元に生じるバリを低減することができ、成形後のバリ取り加工を省略することができるねじ成形工具と、ねじ部の口元でのバリが低減されることにより、締結部材の締結や位置決めを容易に行うことができる金属部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るねじ成形工具は、回転と加圧により被加工材に孔をあける下穴成形部と、前記下穴成形部であけた孔にねじ加工を施すねじ成形部とを有し、前記下穴成形部は、先端に突出した円錐形先端部と、前記円錐形先端部の基端側周縁部に連続して設けられ、後端側に向かって湾曲して凹んだバリ返し部とを備えることを特徴とする。
【0016】
このような構成によれば、被加工材への挿入時、円錐形先端部のテーパ面により発生するバリを、バリ返し部により母材内へと戻し入れることができ、その発生量を低減することができる。
【0017】
また、前記下穴成形部の前記バリ返し部の外周側縁部から連続した部分には、後端側に向かって拡径したテーパ部が形成されていると、バリを小さなカール形状に形成させることができ、該バリを、締結部材を位置決めする際の位置決め部として利用することが可能となる。
【0018】
さらに、前記下穴成形部の外表面の少なくとも一部には螺旋溝が形成されていると、被加工材を下方に押しながら拡径することが可能となり、成形後の孔の肉厚や形状を均一化することができると共に、バリの発生を螺旋溝により有効に低減することができる。
【0019】
本発明に係る金属部材は、下穴成形後にねじ加工が施されたねじ部が成形された金属部材であって、前記ねじ部は、周縁部から外側に突出したバリの先端が、該バリに内包されるようにカールしていることを特徴とする。
【0020】
このような構成によれば、ねじ部に形成されたカール状のバリを、締結部材を位置決めする際の位置決め部として利用することが可能となる。しかも、前記締結部材の締結時や位置決め時において、該締結部材の損傷を有効に防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のねじ成形工具によれば、被加工材への挿入時、円錐形先端部のテーパ面により発生するバリを、バリ返し部により母材内へと戻し入れることができるため、バリの発生量を低減することができる。
【0022】
また、本発明の金属部材によれば、ねじ部の周縁部からカール状に形成されたバリを、締結部材を位置決めする際の位置決め部として利用することが可能となると共に、締結部材の締結や位置決め時における該締結部材への損傷を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係るねじ成形工具について、このねじ成形工具により成形されるねじ部が成形された金属部材との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係るねじ成形工具(ねじ成形ツール)10の正面図である。ねじ成形工具10は、図示しない産業用ロボット等に搭載されたねじ成形装置やボール盤等のチャックに保持されることで、被加工材である金属板(金属部材)等に孔あけ加工及びねじ加工を行う際に用いられる。
【0025】
図1に示すように、ねじ成形工具10は、先端に設けられた下穴成形部(穿孔部)12と、該下穴成形部12の後端側に連続して設けられた円柱部14と、該円柱部14の後端側に連続して設けられたねじ成形部(タップ部)16と、該ねじ成形部16の後端側に連続して設けられたシャンク(柄)18とから構成されている。シャンク18の後端側には、図示しないねじ成形装置のチャックに保持される断面多角形状の係合部20が形成されている。
【0026】
下穴成形部12は、前記ねじ成形装置等によって付与される回転と加圧により生じる摩擦熱によって被加工材である金属板(金属部材)Wを塑性変形させ、ねじ加工前の下穴である孔22(図6参照)をあける部分である。該下穴成形部12は、先端面の中央から突出した小径の円錐形先端部24と、該円錐形先端部24の基端側周縁部から径方向に連続して形成され、ねじ成形工具10の後端側に向かって湾曲して浅く凹んだバリ返し部26とを備える。さらに、下穴成形部12には、バリ返し部26の外周側周縁部から後端側に向かって拡径したテーパ部28が形成され、該テーパ部28から後端側には、ねじ成形工具10の軸線方向と平行なストレート部30が形成されている。
【0027】
図2は、図1に示すねじ成形工具10の下穴成形部12における軸線方向での一部省略側面断面図であり、図3は、図1に示すねじ成形工具10の下穴成形部12を拡大した一部省略斜視図である。
【0028】
図2及び図3に示すように、本実施形態の場合、前記円錐形先端部24は、先端が平面で構成された円錐台形状から構成される。なお、円錐形先端部24の先端形状は前記平面以外にも、曲面や先鋭なものであってもよい
前記バリ返し部26は、円錐形先端部24の基端側に周設された略半球状の溝部であって、円錐形先端部24の穿孔により該円錐形先端部24の外周テーパ面に沿って発生するバリ32(図4A等参照)を母材である金属板W内へと戻し入れる機能を果たす。
【0029】
図1に示すように、テーパ部28がねじ成形工具10の軸線方向に対して傾斜する角度θは、本実施形態の場合、15°と設定されている。また、テーパ部28の前記軸線方向における長さLは、ストレート部30の長さに比べて十分に短く構成されると共に、該長さLは金属板Wの板厚と同等以下に設定される。
【0030】
ねじ成形部16は、下穴成形部12により形成された孔22にねじ加工を施し、ねじ部(雌ねじ部)34(図8参照)を成形するための部分であり、前記円柱部14よりも大径のねじ切り刃部であるねじ加工用螺旋溝36が形成されている。このようなねじ成形部16によるねじ加工は、例えば、金属板Wが薄板の場合等では該金属板Wの材料をねじ部34として有効に活用する必要があるため、切削加工ではなく転造加工により行われるのが好ましい。転造加工では切削加工と比べて切削くずが発生しないため、切削くず除去のための工程や装置を省略できる利点がある。
【0031】
なお、本実施形態において、下穴成形部12とねじ成形部16とは一体に構成しているが、これらは着脱自在に構成してもよい。この場合、摩耗の程度や所望のねじ径等によりいずれか一方を個別に交換することができる。
【0032】
次に、以上のように構成されるねじ成形工具10を用い、被加工材である金属板Wの所定位置にねじ部34を成形するねじ部成形工程について、図4A〜図8を参照して説明する。
【0033】
図4A〜図4Eは、ねじ成形工具10の下穴成形部12により孔22を形成するための孔あけ加工に係る工程を説明するための一部省略側面断面図である。
【0034】
先ず、ねじ成形工具10を図示しないねじ成形装置のチャックに保持させた状態で、該ねじ成形装置で高速に回転させながら、図4Aに示すように、先端の円錐形先端部24を金属板W内へと挿入する。すなわち、ねじ成形工具10の回転と加圧による摩擦熱により金属板Wを溶融させ、塑性変形を起こし、円錐形先端部24の金属板W内への挿入(穿孔)を開始する。この際、ねじ成形工具10の挿入側(進行方向と反対側)の金属板W上面では、孔22の周縁部(口元)に、外側に突出するバリ32が発生する。
【0035】
ここで、図5A及び図5Bは、円錐形先端部24により金属板Wに孔22をあけている状態を説明するため一部省略拡大側面断面図を示している。図5Aに示すように、円錐形先端部24が金属板W内へと挿入されると、該円錐形先端部24のテーパ面に沿ってバリ32が突出しようとする。しかしながら、図5Bに示すように、このようなバリ32の大部分は、円錐形先端部24の周縁部に設けられたバリ返し部26により母材である金属板W内に戻し入れられつつ低減され、残部は外側に湾曲した形状となる。
【0036】
ねじ成形工具10が次第に進行すると、円錐形先端部24が金属板W内へと完全に挿入されてテーパ部28及びストレート部30が挿入され始める。図4Bに示すように、テーパ部28に沿って発生するバリ32は、ストレート部30に達するとテーパ部28から外れて外側に湾曲した形状となる。
【0037】
この場合、上記のように、テーパ部28を金属板Wの板厚と同等以下の所望の長さLに設定しているため、テーパ部28の挿入と略同時にバリ32の湾曲が引き起こされる。特に、ねじ成形工具10では、先端の円錐形先端部24により発生するバリ32の大部分はバリ返し部26にて母材中に戻し込まれる。これにより、孔22の口元から外側に突出するバリ32の量が一層低減されて小さくなり、しかも、テーパ部28が短く形成されていることから、先端側がバリ32自身に内包されるようにカールした小さなバリ32が形成される。
【0038】
続いて、図4C及び図4Dに示すように、下穴成形部12がさらに進行し、ストレート部30に沿って金属板Wが進行方向(下方)に引き伸ばされつつ、孔22の成形が進行すると、図4Eに示すように、下穴成形部12が金属板Wを貫通する。従って、所望の形状、すなわち、均一で十分な肉厚と深さを有する孔22が形成される(図6参照)。
【0039】
そして、孔22に対して、ねじ成形部16を構成するねじ加工用螺旋溝36によるねじ加工が行われることにより(図7A及び図7B参照)、金属板Wの所望の位置にねじ部34が形成される(図8参照)。
【0040】
以上のように、ねじ成形工具10によれば、金属板Wへの挿入直後に円錐形先端部24のテーパ面により発生するバリ32は、バリ返し部26により母材である金属板W内に戻し入れられつつ低減される。
【0041】
さらに、テーパ部28の長さLを金属板Wの板厚に対して所望の割合(本実施形態では、板厚と同等以下)として、十分に短い長さとしているため、バリ32の湾曲が早期に引き起こされる。従って、バリ返し部26による戻し込み作用との関連で、孔22やねじ部34の口元から外側に突出するバリ32の量が一層低減されて小さくなり、先端側がバリ32自身に内包されるようにカールした小さなバリ32が形成される。
【0042】
図9は、金属板Wに成形したねじ部34に、図示しないボルト等により締結される締結部材38を位置決めした状態を示す一部省略側面断面図である。
【0043】
上記のように、ねじ部34に残留しているバリ32は、口元から外側に突出した先端が、該バリ32自身に内包されるようにカールした小さな形状である(図8及び図9参照)。
【0044】
従って、図9に示すように、締結部材38のボルト挿通孔40にバリ32が干渉することを有効に防止でき、位置決め後に、ボルト挿通孔40からバリ32が飛び出してしまうこともない。また、バリ32は上記のようにカールした形状であるため、締結時や位置決め時、締結部材38を損傷することも防止でき、バリ32を除去する必要がなく、バリ取り工程を削減することができる。
【0045】
しかも、バリ32は、小さなカール形状からなるため、該バリ32を締結部材38を位置決めする際の位置決め部(予備的、簡易的な位置決め部)として利用することもでき、締結部材38の締結に係る時間を短縮することができる。
【0046】
なお、本実施形態に係るねじ成形工具10は、図10に示すように、下穴成形部12を下穴成形部12aに変更したねじ成形工具10aとすることもできる。図10において、図1に示される参照符号と同一の参照符号は、同一又は同様な構成を示し、このため同一又は同様な機能及び効果を奏するものとして、その詳細な説明を省略する。
【0047】
図10に示すように、ねじ成形工具(ねじ成形ツール)10aにおいて、下穴成形部(穿孔部)12aの外表面には螺旋溝42が周設されている。本実施形態において、該螺旋溝42は、ねじ成形部16を構成するねじ加工用螺旋溝36と同ピッチとされる。このような螺旋溝42は、必ずしも下穴成形部12aの全体に設ける必要はなく、該下穴成形部12aの一部のみ、例えば、テーパ部28のみ又はストレート部30のみに設けるようにしてもよい。
【0048】
図11Aは、ねじ成形工具10aでの孔あけ加工時における下穴成形部12aの押圧方向を模式的に示す説明図であり、図11Bは、螺旋溝42を持たないねじ成形工具10での孔あけ加工時における下穴成形部12の押圧方向を模式的に示す説明図である。
【0049】
図11Aに示すように、下穴成形部12aでは、螺旋溝42を有することにより、孔22の形成時、テーパ部28やストレート部30から金属板Wへの押圧力の方向が、図11A中に矢印で示す方向(下方及び斜め下方)となる。これにより、金属板Wを下方に押しながら拡径することが可能となり、成形後、金属板Wの下面から垂下する孔22の肉厚や形状が均一化され、ねじ部34の強度も向上する。しかも、孔あけ加工時におけるテーパ部28やストレート部30の表面を介した金属板Wの逆流、すなわち、バリ32の発生を螺旋溝42により有効に低減することができる。
【0050】
一方、図11Bに示すように、螺旋溝42を持たない下穴成形部12では、孔あけ加工時、テーパ部28やストレート部30から金属板Wへの押圧力の大部分が、図11B中に矢印で示す方向(斜め下方)に作用する。このため、孔22やねじ部34を構成する金属板Wから垂下した部分での肉厚がやや減少する傾向となる。しかしながら、このようなねじ成形工具10の場合には、螺旋溝42の加工が不要なことから、ねじ成形工具10aよりも低コストでの製造が可能であり、成形後のねじ部34の用途等によっては有効に用いることができる。
【0051】
以上のように、本発明の実施形態に係るねじ成形工具10、10aを用いることにより金属板Wでのバリの発生量を有効に低減することができるが、このようなねじ成形工具10、10aは、アルミニウムや鉄、銅等の各種金属板Wに対して有効に用いることができる。
【0052】
金属板Wに用いられるアルミニウム板としては、例えば、JIS(AA)5000系やJIS(AA)6000系のアルミニウム合金等が挙げられ、もちろんJIS(AA)1000〜4000系やJIS(AA)7000系のものであってもよい。このようなアルミニウム板の加工に適したねじ成形工具10、10aの材質としては、超硬WC(タングステンカーバイド)やハイス鋼等を特に有効に用いることができる。
【0053】
そして、アルミニウム板(金属板W)にねじ成形工具10(10a)による加工を施す場合には、先ず、ねじ成形工具10(10a)の回転と加圧による摩擦熱により該アルミニウム板を200〜300℃程度に加熱すると同時に、下穴成形部12(12a)によって下穴である孔22の塑性加工を行う。この際、孔22を単発であける場合にはアルミニウム板は220℃程度に加熱され、孔22を複数連続して近くにあける場合にはアルミニウム板は290℃程度まで加熱される。次いで、孔22に対してねじ成形部16によるねじ加工を行う。この際のアルミニウム板の温度は特に問題にはならないが、通常、単発加工時には120℃程度、連続して近くに加工する場合には220℃程度となる。すなわち、アルミニウムの融点は660℃程度であるため、半溶融状態で下穴成形部12(12a)による下穴加工が行われるため、該下穴加工を一層容易に且つ確実に行うことができる。
【0054】
また、金属板Wに用いられる鉄板としては、例えば、自動車用鋼板(270kg級〜980kg級、亜鉛メッキの有無は問わない)が挙げられ、もちろん他の鋼板であってもよい。このような自動車用鋼板(鉄板)の加工に適したねじ成形工具10、10aの材質としては、超硬WC(タングステンカーバイド)を特に有効に用いることができる。
【0055】
そして、自動車用鋼板(金属板W)にねじ成形工具10(10a)による加工を施す場合には、先ず、ねじ成形工具10(10a)の回転と加圧による摩擦熱により該自動車用鋼板を600℃程度に加熱すると同時に、下穴成形部12(12a)によって下穴である孔22の塑性加工を行う。次いで、孔22に対してねじ成形部16によるねじ加工を行う。
【0056】
このように、本発明の実施形態に係るねじ成形工具10、10aは各種材質からなる金属板Wに有効に用いることができ、しかも、ねじ成形工具10、10aの材質と金属板Wの材質とを有効に組み合わせ、下穴加工時等における加工温度を金属板Wの材質に応じた適切な温度とすることで、一層好適に下穴加工及びねじ加工を行うことが可能となる。
【0057】
以上、各実施形態により本発明を説明したが、これに限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは当然可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態に係るねじ成形工具の正面図である。
【図2】図1に示すねじ成形工具の下穴成形部における軸線方向での一部省略側面断面図である。
【図3】図1に示すねじ成形工具の下穴成形部を拡大した一部省略斜視図である。
【図4】図4Aは、図1に示すねじ成形工具の下穴成形部による孔あけ加工を開始した状態を示す一部省略側面断面図であり、図4Bは、図4Aに示す状態から下穴成形部を進行させた状態を示す一部省略側面断面図であり、図4Cは、図4Bに示す状態から下穴成形部をさらに進行させた状態を示す一部省略側面断面図であり、図4Dは、図4Cに示す状態から下穴成形部をさらに進行させた状態を示す一部省略側面断面図であり、図4Eは、図4Dに示す状態から下穴成形部をさらに進行させ、金属板を貫通させた状態を示す一部省略側面断面図である。
【図5】図5Aは、図1に示すねじ成形工具の円錐形先端部により金属板Wに孔をあけ始めた状態を示す一部省略拡大側面断面図であり、図5Bは、図5Aに示す状態から円錐形先端部をさらに進行させた状態を示す一部省略拡大側面断面図である。
【図6】図1に示すねじ成形工具により形成された孔を示す一部省略拡大側面断面図である。
【図7】図7Aは、図1に示すねじ成形工具のねじ成形部により、図4〜図4Eに示す孔あけ加工により形成された孔へのねじ加工を開始した状態を示す一部省略側面断面図であり、図7Bは、図7Aに示す状態からねじ成形部を進行させ、金属板にねじ部を成形した状態を示す一部省略側面断面図である。
【図8】図1に示すねじ成形工具により成形されたねじ部を示す一部省略斜視図である。
【図9】金属板に成形したねじ部に、締結部材を位置決めした状態を示す一部省略側面断面図である。
【図10】図1に示すねじ成形工具の変形例を示す正面図である。
【図11】図11Aは、図10に示すねじ成形工具での孔あけ加工時における下穴成形部の押圧方向を模式的に示す説明図であり、図11Bは、螺旋溝を持たないねじ成形工具での孔あけ加工時における下穴成形部の押圧方向を模式的に示す説明図である。
【図12】従来のねじ成形工具の一例を示す正面図である。
【図13】図13Aは、図12に示す従来のねじ成形工具の下穴成形部による孔あけ加工を開始した状態を示す一部省略側面断面図であり、図13Bは、図13Aに示す状態から下穴成形部を進行させた状態を示す一部省略側面断面図であり、図13Cは、図13Bに示す状態から下穴成形部をさらに進行させた状態を示す一部省略側面断面図であり、図13Dは、図13Cに示す状態から下穴成形部をさらに進行させた状態を示す一部省略側面断面図であり、図13Eは、図13Dに示す状態から下穴成形部をさらに進行させ、金属板を貫通させた状態を示す一部省略側面断面図である。
【図14】図12に示す従来のねじ成形工具のねじ成形部により、金属板にねじ部を成形した状態を示す一部省略側面断面図である。
【図15】図15Aは、図12に示す従来のねじ成形工具により金属板に成形したねじ部に、締結部材を位置決めする前の状態を示す一部省略側面断面図であり、図15Bは、図15Aに示す状態から締結部材を位置決めした状態を示す一部省略側面断面図である。
【符号の説明】
【0059】
10、10a、100…ねじ成形工具 12、12a、102…下穴成形部
16、104…ねじ成形部 22、110…孔
24…円錐形先端部 26…バリ返し部
28、101…テーパ部 30…ストレート部
32、112…バリ 34、114…ねじ部
36…ねじ加工用螺旋溝 42…螺旋溝
W…金属板
【出願人】 【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
【出願日】 平成19年1月29日(2007.1.29)
【代理人】 【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏

【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸

【識別番号】100142066
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿島 直樹

【識別番号】100126468
【弁理士】
【氏名又は名称】田久保 泰夫


【公開番号】 特開2008−183642(P2008−183642A)
【公開日】 平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願番号】 特願2007−17405(P2007−17405)