トップ :: B 処理操作 運輸 :: B23 工作機械;他に分類されない金属加工

【発明の名称】 歯切り加工装置
【発明者】 【氏名】松尾 剛

【氏名】渡辺 勝治

【氏名】清水 康夫

【要約】 【課題】歯車素材に充分な回転トルクを与えることができ、高精度な歯車素材を得ることができる歯切り加工装置を提供する。

【構成】棒状の歯車素材10Aの一端に嵌合する第1センタ20、他端に嵌合する第2センタ30がそれぞれ設けられ、第2センタ30とともに回転させる回転台座40Aが設けられている。歯車素材10Aの軸方向の中間部には、鍔部14Aが設けられ、この鍔部14Aに、回転台座40Aに設けられたナイフエッジ50が食い込むようになっている。鍔部14Aを設けることにより、回転半径r1を長くでき、座屈長さL1を短くできる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の歯車素材の両端面に形成されたセンタ穴と嵌合し、前記歯車素材を軸方向に変位可能に支持する第1センタおよび第2センタと、
前記第1センタおよび前記第2センタの少なくとも一方とともに回転し、前記歯車素材を軸方向に支持する回転台座と、を備える歯切り加工装置であって、
前記歯車素材の軸方向の中間部に鍔部を設けて、この鍔部を前記回転台座に支持させるように構成したことを特徴とする歯切り加工装置。
【請求項2】
棒状の歯車素材の両端面に形成されたセンタ穴と嵌合し、前記歯車素材を軸方向に変位可能に支持する第1センタおよび第2センタと、
前記第1センタおよび第2センタの少なくとも一方とともに回転し、前記歯車素材を軸方向に支持する回転台座と、を備える歯切り加工装置であって、
前記歯車素材の端部に径方向に均等幅のリング部を設けて、このリング部を前記回転台座に支持させるように構成したことを特徴とする歯切り加工装置。
【請求項3】
棒状の歯車素材の両端面に形成されたセンタ穴と嵌合し、前記歯車素材を軸方向に変位可能に支持する一対のセンタと、
前記センタの少なくとも一方とともに回転し、前記歯車素材を軸方向に支持する回転台座と、を備える歯切り加工装置であって、
前記回転台座は、前記センタを軸方向に変位可能に支持する付勢部材を備え、前記センタに対して前記回転台座の回転方向に向けて常時与圧が与えられた状態で、前記付勢部材の一端が前記センタに支持され、他端が前記回転台座に支持されるように構成したことを特徴とする歯切り加工装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、ホブによって歯車を製造する際に用いられる歯切り加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、棒状の歯車素材を回転駆動させながらホブを用いて歯を形成する歯切り加工装置が種々提案されている。例えば、歯車素材の両端面にセンタと軸体がそれぞれ嵌合するセンタ穴を設け、軸体をセンタ穴の内壁に食い込ませて、歯車素材をセンタとともに回転させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかし、前記した特許文献1に記載の技術では、軸体の回転中心と、軸体と歯車素材(センタ穴)との支持点と、の距離(半径)が短いため、回転トルクの伝達効率が悪く、センタおよび軸体を歯車素材に押付ける押付荷重を大きく設定する必要があった。このため、歯車素材に過大な押付荷重が作用することとなって、歯車素材が曲がってしまう(座屈する)という問題があった。
【0004】
そこで、図8ないし図10に示すように、回転トルクの伝達効率を向上させるようにした歯切り加工装置100,200が提案されるに至った。図8および図10に示す歯切り加工装置100,200は、それぞれ自動車のステアリングのラックアンドピニオン機構のピニオンギアとして用いられる棒状(シャフト状)の歯車素材を歯切り加工する装置である。歯切り加工装置100に用いられる歯車素材101は、トーションバー(図示せず)を圧入するための凹部103が設けられたタイプのものであり、歯切り加工装置200に用いられる歯車素材201は、トーションバーを圧入するための凹部が設けられていないタイプのものである。なお、図9(a)は図8に示す歯車素材の回転台座側の端面を示す平面図、(b)は回転台座の歯車素材側の端面を示す平面図である。
【0005】
歯切り加工装置100は、歯車素材101の一端(上端)に形成されたセンタ穴102に嵌合するセンタ110と、他端(下端)の凹部103内に形成されたセンタ穴104に嵌合するセンタ120と、センタ120とともに回転して歯車素材101を支持する回転台座130と、を備えている。回転台座130には、センタ120を歯車素材101の方向に付勢するためのねじりコイルばね131が設けられ、回転台座130の端面には、歯車素材101の端面に食い込んで歯車素材101に回転トルクを伝達するフェースドライバのためのナイフエッジ132が設けられている。
【0006】
歯切り加工装置200は、歯車素材201の一端に形成されたセンタ穴202に嵌合するセンタ210と、他端に形成されたセンタ穴204に嵌合するセンタ220と、センタ220とともに回転して歯車素材201を支持する回転台座230と、を備えている。また、回転台座230には、センタ220を歯車素材201の方向に付勢するためのねじりコイルばね231が設けられ、回転台座230の端面には、歯車素材201の端面に食い込んで歯車素材201に回転トルクを伝達するためのナイフエッジ232が設けられている。
【0007】
このような歯切り加工装置100,200では、センタ120,220の周囲に歯車素材101,201との連結部を設けたことで、歯車素材101,201の回転中心から連結部までの距離(回転半径)r100,r200を従来よりも長くでき、歯車素材101,201への回転トルクの伝達効率を向上できるようになる。なお、r100,r200は、実際の半径の大きさを示すものではなく、単なる符号を示すものである。
【特許文献1】特開平10−193221号公報(段落0013、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図8および図10に示す従来の歯切り加工装置100,200では、回転トルクの伝達効率は向上できるが、歯車素材101,201が棒状(長尺状)のものであるため、センタ110,210(120,220)をセンタ穴102(202)に押付ける押付荷重F100(F200)を大きく設定する必要がある。このように押付荷重F100,F200を大きく設定すると、回転トルクの向上は図れるものの、歯車素材101,201に与えられる残留歪量が大きくなる。その結果、加工直後の歯車精度が良好でも、熱処理後の残留歪解放により歯車素材101,201の軸が曲がり、このため完成品の精度が悪化するという問題があった。また、大きな押付荷重により、歯車素材が座屈変形したり、センタ穴102,104が塑性変形を起こし、両センタ基準で行う歯車の精度検査の際、歯車素材101,201の軸がずれて測定精度が悪化するという問題もあった。
【0009】
また、図8に示す歯切り加工装置100では、図9(b)に示すように、3枚のナイフエッジ132が周方向に等間隔に設けられおり、また図9(a)に示すように、ナイフエッジ132を食い込ませる歯車素材101の端面105の形状が、歯車素材101を固定するための治具の関係で場所によって径方向の幅が不均一になっている。このため、幅t1の位置において食い込むナイフエッジ132と、幅t2,t3の位置において食い込むナイフエッジ132とでは、ナイフエッジ132による食い込み深さが異なり、つまり食い込み深さは幅に反比例するため、幅t2,t3の位置でのナイフエッジ132の食い込み深さが幅t1の位置でのナイフエッジ132よりも深くなり、その結果、矢印S方向に歯車素材101が傾いてしまい、歯車素材101の加工精度が悪化するという問題があった。
【0010】
また、従来の歯切り加工装置100,200では、センタ120,220が、回転台座130,230に対して移動可能に支持されている関係で、センタ120,220と回転台座130,230の凹部との間に隙間が存在し、ねじりコイルばね131,231で支えられているだけであるため、センタ120,220にガタツキが発生して、歯車素材101,201の加工精度が悪化するという問題もある。
【0011】
本発明は、前記従来の課題を解決するものであり、歯車素材に充分な回転トルクを与えることができ、高精度な歯車素材を得ることができる歯切り加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、棒状の歯車素材の両端面に形成されたセンタ穴と嵌合し、前記歯車素材を軸方向に変位可能に支持する第1センタおよび第2センタと、前記第1センタおよび前記第2センタの少なくとも一方とともに回転し、前記歯車素材を軸方向に支持する回転台座と、を備える歯切り加工装置であって、前記歯車素材の軸方向の中間部に鍔部を設けて、この鍔部を前記回転台座に支持させるように構成したことを特徴とする。
【0013】
これによれば、鍔部を設けたことにより、歯車素材の回転中心部から、歯車素材と回転台座との支持点までの距離を長くすることができるので、歯車素材への回転トルクの伝達効率を向上させることができる。さらに、鍔部を軸方向の中間部に設けたことにより、歯車素材の支持長さを短くすることができるので、歯車素材の座屈を防止することが可能になる。さらに、歯車素材の支持点を、第1センタ、第2センタおよび中間部の鍔部の3点支持にすることができ、従来のような一対のセンタの2点支持(両端支持)と比較して、歯車素材を安定して支持することが可能になる。
【0014】
また本発明は、棒状の歯車素材の両端面に形成されたセンタ穴と嵌合し、前記歯車素材を軸方向に変位可能に支持する第1センタおよび第2センタと、前記第1センタおよび第2センタの少なくとも一方とともに回転し、前記歯車素材を軸方向に支持する回転台座と、を備える歯切り加工装置であって、前記歯車素材の端部に径方向に均等幅のリング部を設けて、このリング部を前記回転台座に支持させるように構成したことを特徴とする。
【0015】
これによれば、均等幅のリング部を設けることで、回転台座に対する歯車素材の押圧荷重が均等になり、歯切り時の歯車素材の傾きを抑制することができる。その結果、センタ穴の塑性変形や歯車素材の座屈を防止することが可能になる。
【0016】
また本発明は、棒状の歯車素材の両端面に形成されたセンタ穴と嵌合し、前記歯車素材を軸方向に変位可能に支持する一対のセンタと、前記センタの少なくとも一方とともに回転し、前記歯車素材を軸方向に支持する回転台座と、を備える歯切り加工装置であって、前記回転台座は、前記センタを軸方向に変位可能に支持する付勢部材を備え、前記センタに対して前記回転台座の回転方向に向けて常時与圧が与えられた状態で、前記付勢部材の一端が前記センタに支持され、他端が前記回転台座に支持されるように構成したことを特徴とする。
【0017】
これによれば、センタと回転台座との間においてガタツキが生じなくなるので、センタの回転軸と歯車素材の回転軸のずれがなくなり、加工精度を向上できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、歯車素材に充分な回転トルクを与えることができ、しかも高精度な歯車素材を得ることができる歯切り加工装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る歯切り加工装置について説明する。なお、各実施形態において用いられる歯切り加工装置1A〜1Cは、自動車のステアリングのラックアンドピニオン機構のピニオンギアの素材として用いられるものであり、歯切り加工装置1A,1Cにおける歯車素材10A,10Cは、トーションバー(図示せず)を圧入するための凹部12A,12Cが設けられたタイプのものであり、歯切り加工装置1Bに用いられる歯車素材10Bは、トーションバーを圧入するための凹部が設けられていないタイプのものである。
【0020】
(第1実施形態)
図1は第1実施形態の歯切り加工装置を示す一部切欠断面図である。
この歯切り加工装置1Aにおいて使用される歯車素材10Aは、棒状、つまり直線状の回転軸10mを有するように略円柱状に細長く形成され、軸方向の略中央部寄りに歯G1が形成される外径部10a1を有している。なお、この外径部10a1の歯G1は、後記する回転機構によって歯車素材10Aを回転させながら、図示しないホブ(カッター)を用いて切削することによって形成される。なお、第2実施形態の歯G2についても同様である。
【0021】
また、歯車素材10Aには、外径部10a1の上下に、それぞれベアリングを嵌めこむための外径部10b1,10c1が形成されているとともに、外径部10a1と外径部10c1との間にストリングによるカシメが可能な溝部10d1が形成されている。
【0022】
また、歯車素材10Aには、軸方向の一端(上端面)10f1に、歯切り加工装置1Aの第1センタ20が嵌合するセンタ穴11Aが形成されている。このセンタ穴11Aは、略円錐形状(規格化されたもの)であり、歯車素材10A(センタ穴11A)の回転軸10mと、第1センタ20の中心軸20mとが一致するように形成されている。
【0023】
また、歯車素材10Aには、軸方向の他端(下端)に位置する外径部10e1の端面10g1に、中空形状にくり貫かれた凹部12Aが形成され、この凹部12Aの底部(図示天井部)に、歯切り加工装置1Aの第2センタ30が嵌合するセンタ穴13Aが形成されている。このセンタ穴13Aは、略円錐形状(規格化されたもの)であり、歯車素材10A(センタ穴13A)の回転軸10mと、第2センタ30の中心軸30mとが一致するように設定されている。
【0024】
また、歯車素材10Aには、軸方向の中間部に、外径部10c1と外径部10e1とを区切るように、外周面の全体に周方向に沿って鍔部14Aが水平方向に突出して形成されている。なお、この鍔部14Aの径方向への突出幅は、いずれの位置においても均等に形成されている。また、鍔部14Aの厚みは、適宜変更することができる。
【0025】
前記した歯車素材10Aを歯切りする歯切り加工装置1Aは、第1センタ20、第2センタ30および回転台座40Aを備えて構成されている。
【0026】
前記第1センタ20は、先端(下端)が円錐状に形成され、その先端が歯車素材10Aの一端側(上端側)に向けて配置され、図示しない駆動機構によって軸方向に駆動して、センタ穴11Aに嵌合するようになっている。
【0027】
前記第2センタ30は、先端(上端)が円錐状に形成され、その先端を歯車素材10Aの他端側(下端側)に向けて配置され、センタ穴13Aに嵌合するとともに、後記する回転台座40Aとともに中心軸30mを中心として回転駆動するようになっている。
【0028】
前記回転台座40Aは、第2センタ30が収容される凹状の収容空間41を有している。この収容空間41は、上下に大径および小径2つの円柱状にくり貫かれた収容部41a,41bが形成されている。上側の収容部41aの径は、歯車素材10Aの外径部10e1が若干のクリアランスをもって挿入可能な径で形成されている。また、収容部41aの深さは、歯車素材10Aが回転台座40Aに支持されたときに、外径部10e1の端面10g1が、収容部41aの底部41a1に当らない深さで形成されている。また、下側の収容部41bの径は、第2センタ30が若干のクリアランスをもって上下方向に動作可能な径で形成されている。また、収容部41b内には、第2センタ30の下部にねじりコイルばね42が収容され、ねじりコイルばね42の一端(下端)42aが収容部41bの底部41b1に支持され、他端(上端)42bが第2センタ30の下面に支持されて、回転台座40Aが回転駆動したときに、第2センタ30が回転台座40Aと一緒に回転するようになっている。なお、回転台座40Aは、図示しない駆動機構によって中心軸30mを中心として回転するように構成されている。
【0029】
また、回転台座40Aには、収容部41aの開口部の周囲の上端面40aに、歯車素材10Aに回転台座40Aからの回転トルクを伝達するための複数のナイフエッジ50が固定されている。このナイフエッジ50は、フェースドライバといい、例えば、図5に示すように、楔状に形成され、かつ、周方向に3箇所に等間隔で配置されている。なお、ナイフエッジ50の設定個数については、3個に限定されるものではなく、4個以上であってもよい。
【0030】
次に、歯車素材10Aを歯切り加工装置1Aで歯切り加工する手順について説明する。まず、歯車素材10Aのセンタ穴11Aに第1センタ20を嵌合させて、第1センタ20の中心軸20mとセンタ穴11Aの回転軸10mとを一致させる。そして、第1センタ20を歯車素材10Aとともに回転台座40A側へ移動させ、第2センタ30をセンタ穴13Aに嵌合させて、第2センタ30の中心軸30mとセンタ穴13Aの回転軸10mとを一致させる。それと同時に、歯車素材10Aの外径部10e1が回転台座40Aの収容部41aに若干のクリアランスをもって挿入される。歯車素材10Aがさらに挿入されると、鍔部14Aの下面14aが、回転台座40Aの上端面40aに設けられた複数のナイフエッジ50に接触する。そして、第1センタ20からの押付荷重F1により、各ナイフエッジ50が鍔部14Aの下面14aにそれぞれ食い込んで歯車素材10Aと回転台座40Aとが連結される。また、このとき、第2センタ30がセンタ穴13Aに嵌合しながら、ねじりコイルばね42の付勢力を受けながら沈み込む。なお、ねじりコイルばね42は、歯車素材10Aが押付荷重F1を受けてナイフエッジ50が鍔部14Aに食い込んだときに、歯車素材10Aが、第1センタ20と第2センタ30の双方から荷重を受けた状態で保持されるように設定されている。つまり、ねじりコイルばね42は、ナイフエッジ50が鍔部14Aに食い込んだときに、ばねが完全につぶれない程度のばね性を備えたものが使用されている。なお、歯車素材10Aを加工装置に設置する手順については、上記したものに限定されず、先に歯車素材10Aのセンタ穴13Aに第2センタ30を嵌合させるようにしてもよい。
【0031】
これにより、歯車素材10Aが、回転台座40Aに相対回転不能に連結され、回転台座40Aを回転させることにより、歯車素材10Aが一緒に回転する。そして、歯車素材10Aを回転させるとともに、ホブ(カッター)を回転させながら押し当てて外径部10a1を歯切り加工する。ホブによる歯切りが完了したら、第1センタ20を図示しない駆動機構によって上方へ後退移動させ歯車素材10Aを歯切り加工して得られたピニオンギアを回転台座40Aから取り外す。
【0032】
このように、第1実施形態の歯切り加工装置1Aによれば、歯車素材10Aの軸方向の中間部に鍔部14Aを設け、この鍔部14Aを回転台座40Aに相対回転不能に連結させて歯車素材10Aに回転トルクを与えることにより、従来よりも、回転軸10mから、歯車素材10Aと回転台座40Aとの連結点までの距離、つまり、歯車素材10Aの回転駆動時の回転半径r1が大きくなるので、回転台座40Aから歯車素材10Aへの回転トルクの伝達効率を向上させることが可能になる。これにより、歯車素材10Aに与える押付荷重F1を小さくすることができるので、歯車素材10Aの座屈やセンタ穴11A,13Aの塑性変形を防止することが可能になる。
【0033】
さらに、この点について詳述すると、図1のものは、押付荷重をF1(N)、回転台座40Aが歯車素材10Aを回転させるトルクをT(Nm)、ナイフエッジ50が歯車素材10Aの端面10g1に食い込む際の食い込み部と回転台座40Aとの距離(回転半径)をr1(m)、ナイフエッジ50と歯車素材10Aとの端面間の摩擦係数をμとした場合、T=μ・F1・r1という関係式が成り立つ。この関係式より、歯切りに必要なトルクTが一定であるとすると、摩擦係数μも一定であるので、回転半径r1が長くなることによって押付荷重F1を小さくできる。
【0034】
したがって、鍔部14Aを設けたことにより、図1に示す第1実施形態での回転半径r1は、図8に示す回転半径r100より長くできるので、第1実施形態での押付荷重F1は、図8に示す押付荷重F100よりも小さくできるようになる。よって、前記したように、歯車素材10Aの座屈やセンタ穴11A,13Aの塑性変形を防止することができる。
【0035】
また、前記したように押付荷重F1を従来(押付荷重F100)よりも小さくできるので、加工機側のナイフエッジ50やセンタ穴11Aの摩耗や疲労による耐久性を向上できる。また、図8に示す従来例では、歯車素材101の端面105がナイフエッジ132との連結部であったため、端面105の平坦度の精度を高める必要性があったが、第1実施形態では、歯車素材10Aの端面10g1が、ナイフエッジ50との連結部である必要性がなくなったので、端面10g1の平坦度の精度を向上させる必要がなくなる。その結果、端面10g1の加工であれば、第2センタ30との干渉があるため平坦加工しずらくなるが、鍔部14Aであれば平坦加工し易くなる。
【0036】
また、歯車素材10Aが許容できる座屈荷重(許容座屈荷重)をPcr(N)とした場合、Pcr=(πEI)/4Lという関係式が成り立つ。なお、Eは弾性係数(N/mm)、Iは断面二次モーメント(mm)、Lは押付け長さ(m)である。この関係式より、許容座屈荷重Pcrは、弾性係数Eおよび断面二次モーメントIは一定であるので、押付け長さLが短くなることによって許容座屈荷重Pcrを大きくできる。
【0037】
したがって、鍔部14Aを設けたことにより、図1に示す第1実施形態での押付け長さL1は、図8に示す押付け長さL100より短くできるので、第1実施形態での許容座屈荷重は、図8に示す許容座屈荷重よりも大きくできる。よって、歯車素材10Aの座屈を防止する方向に機能させることが可能になり、また、歯切り時の軸振れを抑えることが可能になる。
【0038】
また、第1実施形態では、従来型の歯車素材101の軸方向両端のセンタ穴102,104の位置での2点に、鍔部14Aの位置での点を加えた3点で支持することができるので、従来のような2点支持(両端支持)と比較して、歯車素材10Aが歯切り時にホブから受ける切削振動に対する振動幅を小さくすることができる。これにより、歯車素材10Aと加工機側との両中心軸20m,30mの軸ずれや傾きを抑制することができ、歯切りによる歯車の加工精度を向上できるようになる。
【0039】
図2は第1実施形態の歯切り加工装置の変形例を示す一部切欠断面図である。この歯切り加工装置1Bは、トーションバーを圧入するための凹部が設けられていないタイプの歯車素材10Bを歯切り加工するものであり、図10に示す歯車素材201に鍔部14Bを設け、それに合わせて加工機側の第2センタ30Bおよび回転台座40Bを変更したものであり、基本的な構成は第1実施形態と同様である。なお、歯車素材10Bにおける外径部10a2,10b2,10c2,10d2,10e2、および端面10f2,10g2は、図1に示す第1実施形態の外径部10a1,10b1,10c1,10d1,10e1、および端面10f1,10g1にそれぞれ対応する部分であり、第1実施形態での歯車素材10Aと形状が若干異なるだけであるのでその説明を省略する。
【0040】
前記鍔部14Bは、歯車素材10Bの軸方向の中間部に、外径部10c2と外径部10e2とを区切るように、外周面に沿って円盤状に突出して形成されている。
【0041】
前記回転台座40Bは、歯車素材10Bとナイフエッジ50との連結部が軸方向の中間部に位置するとともにセンタ穴13Bが端面10g2に形成されているので、収容部41cの内径が図10に示す従来のものよりも大きく、さらに収容部41cの軸方向の長さが従来よりも長くなるように形成されている。
【0042】
なお、第2センタ30Bは、収容部41cの径の拡大に伴って、形状が大きく形成され、若干のクリアランスをもって軸方向に移動可能となっている。また、ねじりコイルばね42Bも、第2センタ30Bの形状拡大に基づいて径が大きく形成されている。
【0043】
なお、この歯切り加工装置1Bの場合も、前記した歯切り加工装置1Aと同様にして、歯車素材10Bのセンタ穴11B,13Bに第1センタ20、第2センタ30を、回転軸10mと中心軸20m,30mとが軸方向に一致するように嵌合させ、歯車素材10Bの外径部10e2が回転台座40Bの収容部41cに若干のクリアランスをもって挿入される。歯車素材10Bがさらに挿入されると、鍔部14Bの下面14bが、回転台座40Bの上端面40bに設けられた複数のナイフエッジ50に接触する。そして、第1センタ20からの押付荷重F2により、各ナイフエッジ50が鍔部14Bの下面14bにそれぞれ食い込む。なお、ホブによる歯切りは、前記と同様である。また、第2実施形態でのねじりコイルばね42も、歯車素材10Cが押付荷重F3を受けてナイフエッジ50がリング部15の端面15aに食い込んだときに、歯車素材10Cが、第1センタ20と第2センタ30の双方から荷重を受けた状態で保持されるように設定されている。
【0044】
また、この第1実施形態の変形例の場合も、鍔部14Bを設けたことにより、関係式T=μ・F2・r2によって、図2に示す回転半径r2は、図10に示す従来における回転半径r200と比較して、長くできるので、押付荷重F2は、従来での押付荷重F200よりも小さくできるようになる。よって、前記したように、歯車素材10Aの座屈やセンタ穴11A,13Aの塑性変形を防止することが可能になる。
【0045】
また、鍔部14Bを設けたことにより、関係式Pcr=(πEI)/4Lによって、図2に示す実施形態での押付け長さL2は、図10に示す押付け長さL200と比較して、短くできるので、第1実施形態の変形例での許容座屈荷重は、図10に示す許容座屈荷重よりも大きくできる。よって、歯車素材10Bの座屈を防止する方向に機能させることができ、また、歯切り時の軸振れを抑えることが可能になる。
【0046】
また、鍔部14Bを設けたことにより、第2センタ30Bの径(寸法d2)を、図10に示す従来のセンタ220の径(寸法d200)よりも太くすることができるので、歯切り時の第2センタ30Bの撓みや座屈を抑制することもできる。
【0047】
(第2実施形態)
ところで、図8に示す従来の歯切り加工装置100では、歯車素材101の第2センタ30側(下側)の端面105が、歯車素材101を固定するための治具の関係で、図9(a)に示すように、径方向に幅t1,t2,t3が不均一(t1>t2=t3)となっている。このため、幅t1の位置において食い込むナイフエッジ132と、幅t2,t3の位置において食い込むナイフエッジ132とでは、ナイフエッジ132による食い込み深さに差が生じ、幅t2,t3の位置でのナイフエッジ132の食い込み深さが幅t1の位置でのナイフエッジ132よりも深くなり、矢印S方向に歯車素材101が傾いてしまうという問題があった。その結果、歯車素材101の加工精度が悪化する。
【0048】
この問題を解決するための実施形態として、図3および図4に示す第2実施形態を参照しながら説明する。図3は第2実施形態の歯切り加工装置を示す一部切欠断面図、図4は第2実施形態の歯切り加工装置に使用される歯車素材の回転台座側の端面を示す平面図である。なお、ここで用いられる歯車素材10Cは、図1に示す歯車素材10Aの鍔部14Aを設けずに、リング部15を新たに追加した以外は、歯車素材10Aと同様であるので、同一の符号を付してその説明を省略する。また、回転台座40Cは、一段にくり貫かれた収容部41dを備え、第2センタ30が収容部41d内に若干のクリアランスをもって軸方向に移動可能に収容されている。
【0049】
図4に示すように、第2実施形態でのリング部15は、所定の高さで、径方向に均等幅t4の端面15aを備えたものであり、この端面15aにナイフエッジ50が食い込むことで、歯車素材10Cと回転台座40Cとが連結されて、歯車素材10Cに回転トルクが伝達されるように構成されている。
【0050】
このように均等な幅t4のリング部15を設けたことにより、図8に示す従来と同様に、3箇所においてナイフエッジ50を歯車素材10Cに食い込ませると、各ナイフエッジ50が歯車素材10Cの端面15aに食い込む食い込み深さを均等にできるので、歯車素材10C加工時の傾きを抑えることができ、歯車素材10Cの加工精度を向上できるようになる。
【0051】
また、第2実施形態において、第2センタ30は、回転台座40Cに対して移動可能に支持されている関係で、第2センタ30と回転台座40Cの収容空間41との間に隙間e3が存在し、ねじりコイルばね42で支えられているだけであるため、ガタツキが発生して、歯車素材10Cの歯車精度が悪化するという問題がある。そこで、以下において、ガタツキの問題を解決するための手段(一方向の回転のみを許容する構成)を、第2実施形態に適用した場合について、図5ないし図7を参照しながら説明する。図5は第2センタと回転台座との支持機構を示す分解斜視図、図6は図5のA−A断面図、図7は図6のB−B断面図である。
【0052】
図5に示すように、第2センタ30は、歯車素材10Cの下端に形成されたセンタ穴13Aに嵌合する円錐部31と、この円錐部31の下方に延びる円柱部32とが一体に形成されて構成されている。第2センタ30の円柱部32の外周面には、球体60の一部が納まる程度の凹状の球面穴32aが、周方向に3等分する位置(120度間隔の位置)に3箇所に形成され、さらに軸方向に2列分、計6箇所に形成されている。なお、球面穴32aの曲率は、図7に示すように、球体60の曲率よりも若干大きく形成されている。また、図5に示す第2センタ30が、請求項3に記載の一方のセンタに相当する。
【0053】
一方、回転台座40Cの収容空間41の側壁面には、球体60がスライドできる程度の凹面状の溝41sが、前記球面穴32aと対応する位置に、軸方向に沿って延びて形成されている。また、溝41sの曲率は、図7に示すように、球体60の曲率よりも若干大きく形成されている。
【0054】
また、円柱部32の下面には、ねじりコイルばね42の一端42aが挿入される支持穴32bが形成され、他端42bが挿入される支持穴41tが形成されて、第2センタ30が、回転台座40Cに対して回転しないように支持されている。
【0055】
このように構成された機構では、歯車素材10Cを加工機側に設置する際には、歯車素材10Cのセンタ穴13Aが第2センタ30の先端を押圧し、ねじりコイルばね42の付勢力を受けながら下方に移動していく。移動中、各球体60は、第2センタ30の球面穴32aと、回転台座40Cの溝41sの双方に接し(図6参照)、かつ、転がりながら進むため、第2センタ30は、滑らかに上下動できる。
【0056】
ただし、第2センタ30が、回転台座40Cに対して容易に相対回転できてしまうと、回転台座40Cの溝41sと、球体60と、第2センタ30の球面穴32aと、のスライド機構上、径方向にガタツキが生じてしまう。そこで、本実施形態では、第2センタ30に、図7において矢印Wで示す回転方向(図では半時計回り方向)に常時与圧を与えるようにした。すなわち、ねじりコイルばね42の軸方向に相反する方向に突出する一端42aおよび他端42bを、支持穴32bおよび支持穴41tに挿入して固定することにより、第2センタ30は、ねじりコイルばね42から回転反力(半時計回り方向)を受け、球面穴32aと球体60と溝41sとの間での径方向のガタツキを抑えることが可能になる。例えば、第2センタ30および回転台座40Cは、常に、図7に示す状態を保持しながら上下する。この場合も、球体60は、溝41sに沿って転がることができるので、第2センタ30の軸方向の滑らかな動きを損なうことがない。
【0057】
また、ねじりコイルばね42は、軸方向に縮めば縮むほど径方向に広がる性質を持ち、回転反力が増加していく。この性質を利用すれば、第2センタ30が回転台座40Cの内部(下部)に挿入されていくにしたがって、与圧の与えられている方向(図7の矢印W方向、反時計回り方向)にさらに力がかかり、一層ガタツキの発生の抑止力を増す。つまり、歯車素材10Cを第2センタ30の先端に設置し、歯車素材10Cの端面15aがナイフエッジ50に連結されるまでの一連の動作において、ガタツキ発生の機会が与えられることはない。
【0058】
なお、一方向の回転のみを許容する構成を第2実施形態に適用する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、第1実施形態(図1)およびその変形例(図2)に適用してもよい。
【0059】
また、回転台座40A〜40Cは、第2センタ30,30Bとともに回転する実施形態を例に挙げて説明したが、第1センタ20とともに回転するものであってもよく、第1センタ20と第2センタ30,30Bの双方と回転するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】第1実施形態の歯切り加工装置を示す一部切欠断面図である。
【図2】第1実施形態の歯切り加工装置の変形例を示す一部切欠断面図である。
【図3】第2実施形態の歯切り加工装置を示す一部切欠断面図である。
【図4】第2実施形態の歯切り加工装置に使用される歯車素材の回転台座側の端面を示す平面図である。
【図5】第2センタと回転台座との支持機構を示す分解斜視図である。
【図6】図5のA−A断面図である。
【図7】図6のB−B断面図である。
【図8】従来の歯切り加工装置を示す一部切欠断面図である。
【図9】図9(a)は歯車素材の回転台座側の端面を示す平面図、(b)は回転台座の歯車素材側の端面を示す平面図である。
【図10】従来の別の歯切り加工装置を示す一部切欠断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 歯切り加工装置
10A〜10C 歯車素材
11A,11B センタ穴
13A,13B センタ穴
14A,14B 鍔部
15 リング部
20 第1センタ
30,30B 第2センタ
40A,40C 回転台座
42 ねじりコイルばね(付勢部材)
【出願人】 【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
【出願日】 平成18年8月8日(2006.8.8)
【代理人】 【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造

【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫


【公開番号】 特開2008−36791(P2008−36791A)
【公開日】 平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願番号】 特願2006−215601(P2006−215601)