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【発明の名称】 内面加工用バリレスブローチ
【発明者】 【氏名】深田 良一

【要約】 【課題】プレス加工品のような薄肉な加工物のブローチ加工の出口側のバリの発生を抑制した内面加工用バリレスブローチを提供する。

【構成】内面加工用ブローチの仕上刃群の各歯のすくい面と側面がなす側面稜線域に、歯形領域と緩衝領域とを設け、該歯形領域は、該切れ刃から0.1mm〜0.5mm、該緩衝領域は、側面稜線域の残部で、且つ、該歯形領域の仮想延長稜線よりも内側に設けたことを特徴とする内面加工用バリレスブローチである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面加工用ブローチの仕上刃群の各歯のすくい面と側面がなす側面稜線域に、歯形領域と緩衝領域とを設け、該歯形領域は、該切れ刃から0.1mm〜0.5mm、該緩衝領域は、側面稜線域の残部で、且つ、該歯形領域の仮想延長稜線よりも内側に設けたことを特徴とする内面加工用バリレスブローチ。
【請求項2】
請求項1記載の内面加工用バリレスブローチにおいて、該緩衝領域は、歯の略1/2高さ位置で0.1mm〜0.6mmの範囲、縦溝の底側で0.3〜0.8mmの範囲で、該歯形領域の仮想延長稜線よりも内側に設けたことを特徴とする内面加工用バリレスブローチ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の内面加工用バリレスブローチにおいて、該側面にCrを含有する潤滑被膜を被覆したことを特徴とする内面加工用バリレスブローチ。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本願発明は、展延性に優れた低炭素鋼や圧延鋼板をプレス加工して得られた薄肉成形部品を加工する内面加工用ブローチに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリカルブローチをはじめとした内面加工用ブローチは、主に被加工物の内面や表面を高精度、高能率に加工する精密工具であり、自動車関連では、変速機やエンジン、等速ジョイント、パワーステアリングなど重要部位の加工において、ブローチ加工の採用が拡大している。特許文献1には、バリの発生を抑制するために、切れ刃間に切削抵抗による被削材の変形を回復させるための間隔を設けた表面ブローチが記載されている。
【特許文献1】特開2001−113411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1は、プレス加工品等の薄肉の内面ブローチ加工におけるバリに対して何ら考慮されていない。例えば、加工物が自動車のミッション部品であれば、バリが部品を使用中に脱落した場合、大きな性能の低下につながり、安全性にも重大な影響がある。このため、部品へのバリ残りは品質的に許容できないものである。
本願発明は、内面加工用ブローチを用いて薄肉で展延性に富んだ材料のプレス加工品等をブローチ加工した場合にバリが発生する原因が、1)切削時の切削荷重の変化により生じる材料のスプリングバックが影響していること、2)スプリングバックにより、歯の側面で擦りを生じるために溶着物が付着し、仕上面の品質が著しく低下すること、3)バリは加工品のブローチ加工する穴の内周側に多く発生すること、を知見することにより、プレス加工品のような薄肉な加工物のブローチ加工の出口側のバリの発生を抑制した内面加工用バリレスブローチを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本願発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、内面加工用ブローチの仕上刃群の各歯のすくい面と側面がなす側面稜線域に、歯形領域と緩衝領域とを設け、該歯形領域は、該切れ刃から0.1mm〜0.5mm、該緩衝領域は、側面稜線域の残部で、且つ、該歯形領域の仮想延長稜線よりも内側に設けたことを特徴とする内面加工用バリレスブローチである。上記構成により、バリ取り作業を要しない程度のバリに軽減できる。更に、該緩衝領域は、歯の略1/2高さ位置で0.1mm〜0.6mmの範囲、縦溝の底側で0.3〜0.8mmの範囲で、該歯形領域の仮想延長稜線よりも内側に設け、該側面にCr又はSiを含有する潤滑被膜を被覆すると好ましい。
【発明の効果】
【0005】
本願発明により、プレス加工品のような薄肉な加工物のブローチ加工の出口側のバリの発生を抑制した内面加工用バリレスブローチを提供できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1、2に示すように、ブローチ本体1には、前案内部2側からブローチ後部側へと順次に粗刃群3と中仕上刃群4と仕上刃群5が設けられている。粗刃群3の刃径はブローチ後部へ向かうに従って漸増するように構成されており、中仕上刃群4は切削量が粗刃群よりも少ない量で漸減するように構成し、仕上刃群5は刃の高さが略同一であるように構成する。特に、中仕上刃群4の切削量はブローチ直径分で0.01〜0.05mmの範囲の僅かな増分にして、1刃当たりの切削抵抗を低減することが、バリ抑制の観点から好ましい。図2に示す歯形において、切れ刃6に続く、歯の側面稜線域7には、歯形領域8に続いて、緩衝領域9とを設ける。歯形領域8は、歯の高さに応じて0.1mm〜0.5mmの範囲に設け、歯形領域8と緩衝領域9は滑らかに接続している。仮想歯形延長稜線10は、歯形領域8の仮想歯形延長稜線を示す。歯形領域8は、加工物の加工形状とほぼ同一のフォームを有するものであり、仮想歯形延長稜線10も同様である。歯形領域8が0.1mm未満の範囲であると、ブローチ加工の際に、切れ刃6がブローチの引き抜き方向に対して振れ、歯筋精度が得られず、加工精度が悪化する。一方、歯形領域8が0.5mmを超えると、歯形領域8が長くなり、加工面と擦られて抵抗が上がり、バリが発生しやすく、加工物の品質を良好に保てない。
【0007】
緩衝領域9は、仮想歯形延長稜線10に対してブローチ内側に位置するように設けることで、加工物がスプリングバックを起こして収縮しても、ブローチの歯の側面と加工物の加工面との擦りを緩和することができる。これにより、加工面がブローチの歯の側面稜線域7と側面で押しつけられて塑性変形するのを抑制でき、加工物の加工穴のブローチ出口側でバリが発生するのを抑制できる。側面稜線域7と加工物の加工面との擦りを抑制できるので、ブローチの歯の側面に軟らかい加工物が付着するのを抑制でき、加工面のムシレやカジリを防止でき、加工精度が向上する。
緩衝領域9の仮想歯形延長稜線10に対して内側に位置する量である緩衝領域の深さ11は、歯の略1/2高さ位置で0.1mm〜0.6mmの範囲に設けることが好ましい。ここで、歯の略1/2高さとは、側面稜線域7の切れ刃6から縦溝の底12までのブローチ半径方向の距離の略半分の位置である。緩衝領域を設けないと、スプリングバックによる加工面の擦過の力を緩和することができず、加工面が緩衝領域9で押しつけられ、塑性変形し、バリが発生する可能性が高い。緩衝領域の深さ11が0.6mmを超えると、ブローチ加工の際に、切れ刃6がブローチの引き抜き方向に対して振れ、歯筋精度が得られず、加工精度が得られない。さらに歯形領域8に負荷が集中して加工面と擦れ、バリが発生する可能性が高い。特にバリは側面の縦溝の底12側に出やすいので、図2に示すように、緩衝領域9を切れ刃側から縦溝の底側へ向かうに従ってより内側に設けることが好ましく、さらに、緩衝領域9の縦溝の底側において、緩衝領域9は仮想歯形延長稜線10に対して0.3〜0.8mmの範囲で内側に位置することが好ましい。
【0008】
本願発明のブローチの歯の側面と逃げ面に、Crを含有する潤滑被膜を被覆することが好ましく、摩擦係数を小さくし、加工面とブローチとの擦過による抵抗を低減し、バリを抑制できる。また、Siを含有する硬質被膜を被覆すると、切れ刃の耐摩耗性を向上し、切れ刃の寿命を大幅に改善することでバリの抑制と、溶着防止を抑制することができる。CrとSiの両方を含有する被膜でも良く、例えば、AlCrSiN系や、CrSiN系の被膜が好ましい。
【0009】
上記説明では、仕上刃5の歯の側面稜線域7に緩衝領域9を設けたが、本願発明において緩衝領域9は中仕上刃4から仕上刃5に亘って設けることが好ましい。本願発明のブローチは軟質材で肉厚が1mmから5mm、特に3mm以下の薄肉形状材を加工する場合にバリ抑制効果が顕著である。歯の側面稜線域7で擦りを生じやすいもの、特にスプラインブローチとセレーションブローチで効果がある。加工物の加工形状や肉厚によっては、切れ刃と加工面との擦れによってもバリを発生する場合がある。この場合は仕上刃群の切れ刃の最終仕上刃を除く一部を非切削部とすることで、加工物のスプリングバックを非切削部で緩和し、非切削部の後部の仕上刃でバリをさらえ取ることができる。本願発明のブローチ母材には、溶解ハイス、粉末ハイス、超硬合金を用いることができる。特に粉末ハイスは切れ刃を鋭利に設けることができ、バリを低減することができる。以下、実施例に基づき、具体的に説明する。
【実施例】
【0010】
(実施例1)
本発明例1として、ブローチ軸方向に、1刃の切削量が0.06mmである粗刃3を53刃設け、1刃の切削量が0.04mm、0.02mm、0.01mmと漸減する中仕上刃4を3刃設け、1刃の切削量がゼロである仕上刃5を5刃設けた切れ刃外径のみが増加して切削を行う切削方式のスプラインブローチを粉末ハイスで作成した。ここで、切削量とは切れ刃毎のブローチ直径の増分である。
本発明例1の粗刃3、中仕上刃4、仕上刃5のすくい角を12°に設定し、各切れ刃間のピッチは4mmである。本発明例1の仕上刃の切れ刃の外径を23mm、ブローチ全長を650mmとした。図2より、仕上刃5の切れ刃6のすくい面と側面とがなす側面稜線域7に、切れ刃6からブローチ半径方向に0.1mmの歯形領域8を設け、歯の1/2高さで0.05mmの深さを持った緩衝領域9を設けた。
比較例2として、側面稜線域7が全て歯形領域からなり、歯の側面に0.02°の逃げ角を付与したものも用意した。
【0011】
本発明例1、比較例2を、切削テストとして、図3に示すように、加工物13のブローチ加工部14に下穴を設け、下穴に挿入されたブローチ本体1を下方向に引き抜いて、ブローチ下方の粗刃3から上方の仕上げ刃5へと加工物13を各々の切れ刃が有する切削量にて切削しながら所定の加工形状に仕上げることにより、内歯車を一回のブローチ加工で仕上げた。
この際に加工時間当たりの切削抵抗を測定すると、図4に示すように、粗刃群3で切削する時が一番切削抵抗が大きく、この時、薄肉である加工物13はブローチ半径方向、円周方向に広がり、その後、中仕上刃群4、仕上刃群5と1刃の切削量が小さくなるに従って切削抵抗が激減し、それに伴ってブローチ半径方向、円周方向に広がっていた加工物13がスプリングバックを起こしていると考えられる。これにより歯の側面、特に側面の縦溝側が加工面と擦過しやすくなる。加工物13にプレス加工された自動車構造用熱間圧延鋼材SAPH440を用い、加工物13のブローチ加工部14の肉厚はブローチ半径方向に3mmであり、切削長は11mmである。
【0012】
切削諸元は、切削速度は4m/min、油性の切削液を使用した。
評価として、ブローチ加工部14のブローチ出口側で非接触式レーザー測定装置にてバリ高さを測定した。バリの測定は側面稜線域において最大のバリ高さを測定し、バリ高さ0.1mmを越えた場合には、バリ取り作業を行いバリを除去する必要がある。歯筋精度(加工形状の歯形のブローチ引き抜き方向の歪み)と歯形精度(歯形自体の歪み)について、ブローチ加工部14の加工形状の歯形を有する1級の通り総形プラグゲージをブローチ加工部14に通して合否を判定し、加工面性状も目視にて観察した。
その結果、本発明例1は、図5に示すように、ブローチ加工部14をブローチ出口側から観察すると、バリがほとんど発生しておらず、バリ高さは0.07mmと問題にならない程度であった。ゲージもブローチ加工部14に通すことができ、歯筋精度、歯形精度が良好であった。比較例2は、図6に示すように、加工物のブローチ出口側にバリが発生しており、バリ高さは1.8mmと大きく、加工物の品質が低下し、加工面にムシレやカジリが若干認められ、加工面性状が悪化した。ゲージが通らず、所望の歯形精度、歯形精度に仕上がっていなかった。これは、歯の側面稜線域全体が歯形を有するため、側面が加工面と擦過し、歯がブローチの引き抜き方向に対して安定しなかったものと考えられる。
【0013】
(実施例2)
本発明例3〜6、比較例7、8として、本発明例1と同仕様で、歯形領域を設ける範囲を0.05mm〜0.6mmに変化させたものを作成し、実施例1と同様の切削テストと評価を行った。本発明例3〜6、比較例7、8の仕様と結果を表1に示す。
【0014】
【表1】


【0015】
表1より、本発明例3〜6はバリの高さは0.1mm以下と小さく、加工物の品質を向上でき、ゲージもブローチ加工部に通すことができ、歯筋精度、歯形精度共に良好であり、面性状、加工精度が良好であった。比較例7は、バリは小さかったものの、ゲージが通らず、歯筋精度、歯形精度が悪化した。これは、歯形領域が少ないために切れ刃のブローチ引き抜き方向に対する振れを抑制できなかったため、切れ刃が蛇行したものと思われる。比較例8は、加工物のブローチ出口側にバリの高さが0.12mmの大きいバリが発生し、バリ抑制ができなかった。これは、歯形領域を多く設けたため、歯形領域の軸心側とスプリングバックにより収縮した加工面が擦過し、加工面の表面が塑性変形してバリが発生したものと思われる。これにより、歯形領域の長さは0.1mm〜0.5mmの範囲で良好な結果が得られることがわかった。
【0016】
(実施例3)
本発明例9〜13として、本発明例4と同仕様で、緩衝領域の深さを0.1mm〜0.5mmの範囲に設けたものを用意し、実施例1と同様の切削テストと評価を行った。本発明例9〜13の結果を表2に示す。
【0017】
【表2】


【0018】
表2より、本発明例9〜13はバリの高さは0.05mm以下と非常に小さく、バリを除去する必要がない程であり、良い状態であった。また、ゲージをブローチ加工部に通すことができ、歯形及び歯筋精度が良好であり、加工面性状、加工精度を向上できた。これにより、緩衝領域の深さは0.1mm〜0.5mmの範囲が良好な結果が得られることがわかった。
【0019】
(実施例4)
本発明例14として、本発明例1と同仕様で、セレーション穴加工用、1刃の切削量が0.055mmである60刃の粗刃と、1刃の切削量が0.02mmである4刃の中仕上刃と、1刃の切削量がゼロである5刃の仕上刃を持ち、粗刃のすくい角が18°、仕上刃の切れ刃径が28mm、各切れ刃のピッチは11mmで、全長1250mmであるものを作成した。ここで、切削量は、切れ刃毎のブローチ直径の増分である。切削テストとして、加工物に炭素鋼S20C、両側が段付きの中空部材であり、ブローチ加工部は、切削長49mm、肉厚4mmであるものを用意し、ブローチ加工を行った。切削速度は4m/min、油性の切削液を使用した。評価として、加工物のブローチ出口側でバリの大きさを測定し、加工形状である歯形を有する1級の通り総形プラグゲージをブローチ加工部に通して歯形精度を調べた。
本発明例14は、加工物のブローチ出口側に0.05mmとバリは除去の必要はなく、ゲージも通すことができた。加工面性状も良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、内面加工用ブローチの概略図を示す。
【図2】図2は、図1のW−W線の断面図を示す。
【図3】図3は、加工状態を説明するための概略図を示す。
【図4】図4は、本発明例1の切削抵抗を測定したチャートである。
【図5】図5は、本発明例1で加工後のバリの状況を示す。
【図6】図6は、比較例2で加工後のバリの状況を示す。
【符号の説明】
【0021】
1 ブローチ本体
2 前案内部
3 粗刃群
4 中仕上刃群
5 仕上刃群
6 切れ刃
7 側面稜線域
8 歯形領域
9 仮想歯形延長線
10 緩衝領域
11 緩衝領域の深さ
12 縦溝の底
13 加工物
14 ブローチ加工部
【出願人】 【識別番号】000233066
【氏名又は名称】日立ツール株式会社
【出願日】 平成18年6月23日(2006.6.23)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−856(P2008−856A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−173996(P2006−173996)