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【発明の名称】 切削工具用硬質皮膜
【発明者】 【氏名】佐藤 彰

【氏名】大堀 鉄太郎

【要約】 【課題】鉄鋼材料に対する耐摩耗性が飛躍的に向上した極めて実用性に秀れた切削工具用硬質皮膜の提供。

【構成】切削工具用基材上に形成される切削工具用硬質皮膜であって、この硬質皮膜を、金属および半金属成分が原子%で、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具用基材上に形成される切削工具用硬質皮膜であって、この硬質皮膜は、金属および半金属成分が原子%で、
Al(100−X−Y−Z)Cr(X)(Y)(Z)
ただし、20≦X≦40,2≦Y≦15,5≦Z≦15
であり、非金属元素としてNを含み、不可避不純物を含むものであることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項2】
請求項1記載の切削工具用硬質皮膜において、この硬質皮膜は、NaCl型結晶構造を含み、CuのKα線を用いたθ−2θ法によるX線回折で測定される(111)面の回折強度をI(111)、(200)面の回折強度をI(200)としたとき、次式(1)を満足するものであることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
I(200)/I(111)≧0.8 (1)
【請求項3】
請求項1記載の切削工具用硬質皮膜において、この硬質皮膜は、NaCl型結晶構造と非晶質構造とを含み、CuのKα線を用いたθ−2θ法によるX線回折で測定される(111)面の回折強度をI(111)、(200)面の回折強度をI(200)とし、(200)面の回折線プロファイルの半値幅を2θの角度でW(200)としたとき、次式(1)及び(2)を満足するものであることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
I(200)/I(111)≧0.8 (1)
W(200)≧1.25° (2)
【請求項4】
請求項1記載の切削工具用硬質皮膜において、この硬質皮膜は、NaCl型結晶構造と非晶質構造とを含み、金属および半金属成分に占めるBの含有割合が相対的に高い部分と相対的に低い部分とを有し、前記非晶質構造部分はB含有割合が相対的に高く設定されていることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、この硬質皮膜は、Alの一部が、原子%で2%以内の範囲でCr,Vを除く周期律表4a,5a,6a族の金属の1種類以上の元素により置換されていることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項6】
切削工具用基材上に形成される切削工具用硬質皮膜であって、この硬質皮膜は、第一皮膜層と第二皮膜層とを含む多層皮膜であり、前記第一皮膜層は請求項1〜5のいずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜であり、前記第二皮膜層は金属成分が原子%で、
Cr(100−α)(α)
ただし、15≦α≦50
であり、非金属元素としてNを含み、不可避不純物を含むものであることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項7】
請求項6記載の切削工具用硬質皮膜において、この硬質皮膜は、前記第一皮膜層と前記第二皮膜層とを交互に20層以上積層して成る第三皮膜層を含み、該第三皮膜層は、この第三皮膜層以上の膜厚を有する第一皮膜層より表層側に配置され、該第三皮膜層の膜厚は全皮膜厚さの1/4以下に設定されていることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、この硬質皮膜には、前記基材直上にCrを主成分とする窒化物若しくは炭窒化物を0.1μm〜0.5μmの厚さで形成して成る下地膜層が含まれていることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記基材として、WCを主成分とする硬質粒子とCoを主成分とする結合材からなる超硬合金が採用され、該超硬合金は、WC粒子の平均粒径が0.1μm〜2μmに設定され、Co含有量が重量%で5〜15%に設定されていることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドミル,ドリル等の切削工具に被覆して耐摩耗性を向上させるための硬質皮膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属切削用工具に被覆する硬質皮膜としては主にTiN,TiCN若しくはTiAlNが採用されている。特に、特開昭62−56565号公報(特許文献1)及び特開平2−194159号公報(特許文献2)等に開示されるTiAlN系皮膜は、TiNにAlを添加することで硬度と耐熱性を改良したもので、耐摩耗性の良さから、焼入れ鋼を含む鉄鋼材料を加工するための切削工具用硬質皮膜として広く用いられている。
【0003】
ところで近年、工具には、鉄鋼材料に対する耐摩耗性をさらに向上させることが求められてきている。そこで、TiNの代わりにCrNをベースとすることで、TiAlN皮膜よりも耐熱性を向上させた、例えば特許3039381号公報(特許文献3)等に開示されるようなAlCrN皮膜が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭62−56565号公報
【特許文献2】特開平2−194159号公報
【特許文献3】特許第3039381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、AlCrN皮膜はTiAlN皮膜に比べて耐熱性は良いものの硬度がやや低く、そのため、鉄鋼材料に対する耐摩耗性が十分とは言えない。そこで、AlCrN膜よりも耐摩耗性をより向上させた切削工具用硬質皮膜の提供が課題となっている。
【0006】
本発明は、上述のような現状に鑑み、皮膜組成と皮膜の結晶性及び皮膜層構成について鋭意研究した結果、硬質皮膜の硬度及び潤滑性を向上させることにより上記課題を解決できるとの知見を得、この知見に基づき完成したもので、所定の皮膜組成と結晶性及び皮膜層構成を実現することにより、皮膜の硬度と潤滑性が改善され、鉄鋼材料に対する耐摩耗性が飛躍的に向上した極めて実用性に秀れた切削工具用硬質皮膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0008】
切削工具用基材上に形成される切削工具用硬質皮膜であって、この硬質皮膜は、金属および半金属成分が原子%で、
Al(100−X−Y−Z)Cr(X)(Y)(Z)
ただし、20≦X≦40,2≦Y≦15,5≦Z≦15
であり、非金属元素としてNを含み、不可避不純物を含むものであることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0009】
また、請求項1記載の切削工具用硬質皮膜において、この硬質皮膜は、NaCl型結晶構造を含み、CuのKα線を用いたθ−2θ法によるX線回折で測定される(111)面の回折強度をI(111)、(200)面の回折強度をI(200)としたとき、次式(1)を満足するものであることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
I(200)/I(111)≧0.8 (1)
【0010】
また、請求項1記載の切削工具用硬質皮膜において、この硬質皮膜は、NaCl型結晶構造と非晶質構造とを含み、CuのKα線を用いたθ−2θ法によるX線回折で測定される(111)面の回折強度をI(111)、(200)面の回折強度をI(200)とし、(200)面の回折線プロファイルの半値幅を2θの角度でW(200)としたとき、次式(1)及び(2)を満足するものであることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
I(200)/I(111)≧0.8 (1)
W(200)≧1.25° (2)
【0011】
また、請求項1記載の切削工具用硬質皮膜において、この硬質皮膜は、NaCl型結晶構造と非晶質構造とを含み、金属および半金属成分に占めるBの含有割合が相対的に高い部分と相対的に低い部分とを有し、前記非晶質構造部分はB含有割合が相対的に高く設定されていることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0012】
また、請求項1〜4いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、この硬質皮膜は、Alの一部が、原子%で2%以内の範囲でCr,Vを除く周期律表4a,5a,6a族の金属の1種類以上の元素により置換されていることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0013】
また、切削工具用基材上に形成される切削工具用硬質皮膜であって、この硬質皮膜は、第一皮膜層と第二皮膜層とを含む多層皮膜であり、前記第一皮膜層は請求項1〜5のいずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜であり、前記第二皮膜層は金属成分が原子%で、
Cr(100−α)(α)
ただし、15≦α≦50
であり、非金属元素としてNを含み、不可避不純物を含むものであることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0014】
また、請求項6記載の切削工具用硬質皮膜において、この硬質皮膜は、前記第一皮膜層と前記第二皮膜層とを交互に20層以上積層して成る第三皮膜層を含み、該第三皮膜層は、この第三皮膜層以上の膜厚を有する第一皮膜層より表層側に配置され、該第三皮膜層の膜厚は全皮膜厚さの1/4以下に設定されていることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0015】
また、請求項1〜7いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、この硬質皮膜には、前記基材直上にCrを主成分とする窒化物若しくは炭窒化物を0.1μm〜0.5μmの厚さで形成して成る下地膜層が含まれていることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0016】
また、請求項1〜8いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記基材として、WCを主成分とする硬質粒子とCoを主成分とする結合材からなる超硬合金が採用され、該超硬合金は、WC粒子の平均粒径が0.1μm〜2μmに設定され、Co含有量が重量%で5〜15%に設定されていることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上述のように構成したから、皮膜の硬度と潤滑性が改善され、鉄鋼材料に対する耐摩耗性が飛躍的に向上した極めて実用性に秀れた切削工具用硬質皮膜となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0019】
AlCrN皮膜にVとBを含有させて結晶の配向性と粒径を制御することで皮膜の硬度と潤滑性を向上させることができ、鉄鋼材料に対しても十分な耐摩耗性を得ることが可能となる。更に、CrVN皮膜を混合することで潤滑性能を一層向上させることができ、一層鉄鋼材料に対する耐摩耗性を向上させることが可能となる。
【実施例】
【0020】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0021】
本実施例は、切削工具用基材上に形成された切削工具用硬質皮膜であって、この硬質皮膜は、金属および半金属成分が原子%で、
Al(100−X−Y−Z)Cr(X)(Y)(Z)
ただし、20≦X≦40,2≦Y≦15,5≦Z≦15
であり、非金属元素としてNを含み、不可避不純物を含む第一皮膜層と、
金属成分が原子%で、
Cr(100−α)(α)
ただし、15≦α≦50
であり、非金属元素としてNを含み、不可避不純物を含む第二皮膜層とを含む多層皮膜で構成されているものである。
【0022】
第一皮膜層((AlCrVB)N皮膜)の組成を上述の範囲に設定した理由は以下の通りである。
【0023】
本発明者等は、AlCrN皮膜に種々の第3元素を入れた皮膜について研究し、V及びBを所定量含有させることで鉄鋼材料に対する耐摩耗性を向上できることを発見した。これは、皮膜の硬度と潤滑性が改善されたためと考える。
【0024】
具体的には、金属および半金属のみの原子%でB量が5%に満たない場合その効果は小さいが、5%以上で硬度の向上効果が現れる。そして、B含有量が15%を超えると硬度の値はあまり変化しなくなる。BはAlやCrに比べて高価な元素であるので、皮膜硬度と経済性を考慮して、切削工具用硬質皮膜の組成範囲として、金属および半金属のみの原子%でB量が5%以上、15%以下とした。
【0025】
また、Vの含有については、その含有量を多くすると皮膜の潤滑性が向上する。金属および半金属のみの原子%でV量が2%に満たない場合その効果は小さいが、2%以上で潤滑性の向上効果が現れ、その皮膜を被覆した工具の鉄鋼材料に対する耐摩耗性が向上する。一方、V含有量を多くしすぎると皮膜の硬度が低下し、鉄鋼材料に対する耐摩耗性が低下してくる。また、VはAlやCrに比べて極めて高価な元素であるので、皮膜の潤滑性および硬度と経済性とを考慮して、切削工具用硬質皮膜の組成範囲として、金属および半金属のみの原子%でV量が2%以上、15%以下とした。
【0026】
更に、Tiに代表される周期律表4a,5a,6a族の金属元素を微量添加させると、皮膜の硬度をさらに向上させる効果がある。そのため、これら元素のうち1種類以上を微少量含有させても良い。
【0027】
また、第一皮膜層は、NaCl型結晶構造と非晶質構造とを含み、CuのKα線を用いたθ−2θ法によるX線回折で測定される(111)面の回折強度をI(111)、(200)面の回折強度をI(200)とし、(200)面の回折線プロファイルの半値幅を2θの角度でW(200)としたとき、次式(1)及び(2)を満足するように構成されている。
【0028】
I(200)/I(111)≧0.8 (1)
W(200)≧1.25° (2)
上記式(1)及び(2)に設定した理由について説明するため、第一皮膜層((AlCrVB)N皮膜)の結晶構造について以下に述べる。
【0029】
AlCrN皮膜はNaCl型結晶構造をもつCrN皮膜にAlを固溶させて硬度と耐熱性を改良させた皮膜であるが、Al含有量を多くしすぎるとNaCl型結晶構造からウルツ鉱型結晶構造に変化して硬度が低下することが知られている。
【0030】
本実施例の硬質皮膜もNaCl型結晶構造をもつが、皮膜の成膜条件を種々に変えて研究を行った結果、結晶の配向性と皮膜硬度との間に密接な関係があることがわかった。図1に実験結果の一例を示す。
【0031】
図1の実験では、成膜装置としてアーク放電式イオンプレーティング装置を用い、金属および半金属成分の蒸発源としてAlCrVBのターゲットを成膜装置内に取り付け、また、反応ガスとしてNガスを成膜装置内に導入して、成膜基材としての超硬合金板に膜厚が1.5〜2.0μmになるように成膜した。
【0032】
図1から、同一組成のターゲットにもかかわらず、成膜条件により結晶の配向性が変動し、それに伴って皮膜硬度も変化することがわかる。このことは、皮膜の結晶配向性を制御することによって皮膜硬度がコントロールできることを意味している。そして、(200)面の回折強度を強くすることで皮膜硬度を向上させることができる。
【0033】
従って、切削工具用硬質皮膜としては、高い皮膜硬度を得るために、(200)面の回折強度と(111)面の回折強度との比を、I(200)/I(111)≧0.8とすることが望ましい。
【0034】
また、皮膜の成膜条件を種々に変えて行った研究の過程で、同一組成のターゲットを使って成膜した皮膜でも成膜条件により結晶粒径が大きく変動するということがわかった。図2〜図4に実験結果の一例を示す。図3,4にはX線回折パターンを示している。
【0035】
図2〜図4の実験では、成膜装置としてアーク放電式イオンプレーティング装置を用い、金属および半金属成分の蒸発源としてAlCrVBのターゲットを成膜装置内に取り付け、また、反応ガスとしてNガスを成膜装置内に導入して、成膜基材としての超硬合金板に膜厚が1.5〜2.0μmになるように成膜した。
【0036】
図2〜図4から、No.4の皮膜に比べてNo.5の皮膜は(200)面の半値幅が格段に広く、皮膜硬度も高くなっていることが認められる。X線回折パターンの半値幅が広いことは、結晶粒径が小さいことを意味している。No.5の皮膜は結晶粒径が小さいために硬度が高くなったものと考えられる。
【0037】
上記のことは、成膜条件を適正化することで皮膜の結晶粒径を制御することができ、その結果、皮膜硬度をコントロールできることを意味している。
【0038】
従って、切削工具用硬質皮膜としては、高い皮膜硬度を得るために、(200)面の回折線プロファイルの半値幅を2θの角度でW(200)としたとき、W(200)≧1.25°とすることが望ましい。
【0039】
また、PVD法で成膜したBN皮膜は比較的非晶質化しやすいことが知られているが、No.5の皮膜にはBNを主成分とする非晶質部が生じ、それがNaCl型結晶構造のAlCrVBN結晶の結晶間に存在して結晶成長を抑え、その結果、AlCrVBN結晶の粒径が小さくなったものと考える。非晶質部の主成分がBNであるから、No.5の皮膜では、金属および半金属成分に占めるBの含有割合、すなわち、B含有濃度が相対的に高い部分と相対的に低い部分があり、非晶質部のB含有濃度が相対的に高くなっている。
【0040】
次に第二皮膜層の組成を上述の範囲に設定した理由は以下の通りである。
【0041】
第一皮膜層の鉄鋼材料に対する耐摩耗性をさらに改良するため、鉄鋼材料に対する潤滑性能に富む成分を多く含有する皮膜として第二皮膜層を設けた。第一皮膜層の(AlCrVB)N皮膜はCrNを出発点として発明した皮膜である。そこで、第一皮膜層との界面に生ずる歪をできるだけ抑えるために、第二皮膜層もCrNベースの皮膜とした。そして、格子定数がCrNに近く、しかも、鉄鋼材料に対する潤滑性能に富むVをCrNに固溶させて第二皮膜層とした。上述のように、第一皮膜層のV含有量は金属および半金属のみの原子%で2〜15%であるので、第一皮膜層以上の潤滑性能を持たせるため、第二皮膜層のV含有量は金属および半金属のみの原子%で15%以上とした。しかし、V含有量を多くしすぎると皮膜硬度がやや低下するので、V含有量の上限を金属および半金属のみの原子%で50%以下とした。
【0042】
第二皮膜層は鉄鋼材料に対する潤滑性能を改良する狙いで設けているので、第二皮膜層が被削材により近い位置となるように、第二皮膜層が第一皮膜層の上(第一皮膜層より表層側)に配置されることが望ましい。
【0043】
また、第一皮膜層との密着性を良くするために、第一皮膜層と第二皮膜層とを交互に20層以上積層して成る第三皮膜層を、この第三皮膜層以上の膜厚を有する第一皮膜層より表層側、例えば最表層部となるように配置しても良い。第三皮膜層も潤滑性能を改良する狙いで設けたものであるが、皮膜硬度が第一皮膜層に比べて低いので、第三皮膜層の膜厚は全皮膜厚さの1/4以下とすることが望ましい。その場合、高価なV元素を多く含むCrVターゲットの使用量を少なくできるので、経済的にも有利である。
【0044】
水溶性切削油あるいは不水溶性切削油を使用した鉄鋼材料の切削加工では工具に激しい熱サイクル(ヒートショック)が作用するが、基材と皮膜層との密着性が十分でない場合、その熱サイクルに伴う熱応力によって基材と皮膜層とが部分的に剥離を起こして工具の耐摩耗性を劣化させる問題がある。そこで、基材と皮膜層との密着性を向上させるために、超硬合金や高速度鋼などとの密着性に優れるCrを主成分とする窒化物もしくは炭窒化物を下地膜層として基材直上に形成することが望ましい。下地膜層の膜厚は、薄すぎると密着性向上の効果が小さくなり、逆に厚すぎると皮膜全体の硬度を低下させてしまう。従って、切削工具用硬質皮膜としては、基材直上に下地膜層、即ち、Crを主成分とする窒化物もしくは炭窒化物を0.1μm〜0.5μmの厚さで形成することが望ましい。
【0045】
本実施例の硬質皮膜は鉄鋼材料用切削工具向けに発明されたものであるが、その基材としては、WCを主成分とする硬質粒子とCoを主成分とする結合材からなる超硬合金が、鉄鋼材料用切削工具として硬度と靭性のバランスが取れた材料であることから望ましい。
【0046】
WC粒子の平均粒径を小さくしすぎると、結合材中にWC粒子を均一に分散させることが難しくなり、超硬合金の抗折力低下を引き起こしやすい。一方、WC粒子を大きくしすぎると超硬合金の硬度が低下する。また、Co含有量を少なくしすぎると超硬合金の抗折力が低下し、逆にCo含有量を多くしすぎると超硬合金の硬度が低下する。そのため、WC粒子の平均粒径が0.1μm〜2μmであり、Co含有量が重量%で5〜15%の超硬合金を基材とすることが望ましい。
【0047】
本実施例は上述のように構成したから、AlCrN皮膜にVとBを含有させて結晶の配向性と粒径を制御することで皮膜の硬度と潤滑性を向上させることができ、鉄鋼材料に対しても十分な耐摩耗性を得ることが可能となる。更に、CrVN皮膜を混合することで潤滑性能を一層向上させることができ、一層鉄鋼材料に対する耐摩耗性を向上させることが可能となる。
【0048】
従って、本実施例は、皮膜の硬度と潤滑性が改善され、鉄鋼材料に対する耐摩耗性が飛躍的に向上した極めて実用性に秀れた切削工具用硬質皮膜となる。
【0049】
本実施例の効果を裏付ける実験例について説明する。
【0050】
成膜装置としてアーク放電式イオンプレーティング装置を用い、金属および半金属成分の蒸発源として各種組成のターゲットを成膜装置内に取り付け、また、反応ガスとしてNガスを成膜装置内に導入して、成膜基材としての超硬合金製2枚刃ボールエンドミル(外径3mm)に所定の皮膜を成膜した。基材の超硬合金はWCを主成分とする硬質粒子とCoを主成分とする結合材からなり、WC粒子の平均粒径が1μm、Co含有量が8重量%のものを使用した。成膜に当たっては、全皮膜の膜厚が1.5〜2.0μmになるように基材エンドミルに成膜した。
【0051】
所定の皮膜を被覆したエンドミルを用いて、次の2つの切削条件で切削試験を行い。エンドミル逃げ面の摩耗幅を測定した。
【0052】
第1の切削試験では、被削材をS50Cとし、乾式条件下で切削を行った。外径3mmのエンドミルを20000min−1の回転速度で回転させ、送り速度2040mm/min、切り込み量Ad=0.3mm、Pf=0.9mmとし、エアーブローをクーラントとして試験を行った。切削試験の結果を表1に示す。表1では本実施例と共に、従来の硬質皮膜や本発明の範囲外の硬質皮膜を実施例と同様な手段で被覆したエンドミルで切削試験を行った結果を比較例として記載している。
【0053】
【表1】


※多層皮膜は、基材直上から第一皮膜層,第二皮膜層若しくは第一皮膜層,第三皮膜層の順に成膜した。
※表内の「混合」皮膜は、(Al57Cr3010)N膜と(Cr8020)N膜とを交互に各層を約0.01μm厚で20層以上積層した皮膜である。
【0054】
表1から、少しばらつきはあるものの、本実施例は比較例に比べてエンドミル逃げ面摩耗幅の低減、すなわち、耐摩耗性の向上が認められる。
【0055】
第2の切削試験として、被削材をSKD61焼入材(50HRC)とし、湿式条件下で切削を行った。外径3mmのエンドミルを20000min−1の回転速度で回転させ、送り速度1680mm/min、切り込み量Ad=0.24mm、Pf=0.72mmとし、水溶性切削油をクーラントとして試験を行った。切削試験の結果を表2に示す。
【0056】
【表2】


※多層皮膜は基材直上から下地膜層、第一皮膜層若しくは下地膜層、第一皮膜層、第三皮膜層の順に成膜した。
※表内の「混合」皮膜は、(Al57Cr3010)N膜と(Cr8020)N膜とを交互に各層を約0.01μm厚で20層以上成膜した皮膜である。
【0057】
表2から、本実施例は比較例に比べてエンドミル逃げ面摩耗幅の低減、すなわち、耐摩耗性の向上が認められる。
【0058】
以上より、本実施例は、乾式条件下・湿式条件下のいずれにおいても、鉄鋼材料に対する耐摩耗性が従来に比し20〜50%程度向上することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】皮膜の成膜条件と結晶の配向性及び皮膜硬度との関係を調べるための実験条件及び実験結果を示す表である。
【図2】皮膜の成膜条件と結晶粒径及び皮膜硬度との関係を調べるための実験条件及び実験結果を示す表である。
【図3】図2のサンプルのX線回折パターンである。
【図4】図2のサンプルのX線回折パターンである。
【出願人】 【識別番号】000115120
【氏名又は名称】ユニオンツール株式会社
【出願日】 平成18年8月31日(2006.8.31)
【代理人】 【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛

【識別番号】100097065
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 雅栄


【公開番号】 特開2008−55558(P2008−55558A)
【公開日】 平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願番号】 特願2006−236023(P2006−236023)