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硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - 特開2008−49470 | j-tokkyo
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【発明の名称】 硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具
【発明者】 【氏名】本間 哲彦

【氏名】中村 惠滋

【氏名】本間 尚志

【氏名】長田 晃

【要約】 【課題】硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具を提供する。

【構成】工具基体の表面に、硬質被覆層として、(a)1〜5μmの平均層厚の窒化チタン層と、(b)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、TiとCrの合量に対するCrの含有割合(Cr/(Ti+Cr))が、原子比で0.01〜0.1であるTi−Cr複合炭窒化物層、上記(a)、(b)を少なくとも3層以上交互に積層し、合計平均層厚が5〜15μmであるTi系化合物積層を設け、あるいは、該Ti系化合物積層表面に、必要によりTi化合物層を介して、0.5〜5μmの層厚の酸化アルミニウム層を設けた構成とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)1〜5μmの平均層厚を有する窒化チタン層、
(b)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、TiとCrの合量に対するCrの含有割合(Cr/(Ti+Cr))が、原子比で0.01〜0.1であるTiとCrの複合炭窒化物層、
上記(a)および(b)を少なくとも3層以上交互に積層し、合計平均層厚が5〜15μmとなるように化学蒸着で形成したTi系化合物積層からなる硬質被覆層を設けたことを特徴とする硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具。
【請求項2】
請求項1記載の表面被覆切削工具において、
上記Ti系化合物積層の表面に、さらに、化学蒸着で形成した0.5〜5μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を設けたことを特徴とする請求項1記載の表面被覆切削工具。
【請求項3】
請求項2記載の表面被覆切削工具において、
上記Ti系化合物積層と、上記酸化アルミニウム層との間に、炭酸化チタン層、窒酸化チタン層および炭窒酸化チタン層のうちの1種または2種以上からなる合計平均層厚0.2〜1μmの中間層を介在させたことを特徴とする請求項2記載の表面被覆切削工具。
【請求項4】
請求項1乃至3記載の表面被覆切削工具において、
上記(b)のTiとCrの複合炭窒化物層は、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTiとCrと炭素と窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、いずれもΣ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示すTiとCrの複合炭窒化物層であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
この発明は、特に鋼、ステンレス鋼および鋳鉄などのミーリング加工を、高速高送り切削条件で行った場合に、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的に、炭化タングステン基(以下、WC基で示す)超硬合金または炭窒化チタン基(以下、TiCN基で示す)サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、TiN層およびTiCN層などのTi化合物層を多層に積層した硬質被覆層を備えた被覆工具が知られており、また、Ti化合物層表面に、さらに、酸化アルミニウム(以下、Alで示す)層を設けた被覆工具も知られており、これらの被覆工具が、鋼、ステンレス鋼および鋳鉄のミーリング加工に用いられることも知られている。
また、上記の被覆工具の硬質被覆層を構成するAl層として、α型結晶構造をもつもの、κ型結晶構造をもつもの等が広く実用化されている、
さらに、上記TiCN層として、例えば、特開平6−8010号公報、特開平7−328808号公報等により知られているように、通常の化学蒸着装置にて、反応ガスとして有機炭窒化物を含む混合ガスを使用し、700〜950℃の中温温度領域で縦長成長結晶組織を有するTiCN層(以下、l−TiCN層で示す)も知られている。
【特許文献1】特開昭58−157965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工の省力化および省エネ化に対する要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速高送り化の傾向にあるが、上記の従来被覆工具においては、これを鋼、ステンレス鋼および鋳鉄などの通常の加工条件でのミーリング切削に用いた場合には問題はないが、これを高速高送り加工に用いた場合、硬質被覆層のTiCN層の高温強度が十分でないために、高速高送りミーリング加工下における機械的・熱的な負荷に耐えることができず、早期にチッピング(微小欠け)が発生し、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記の被覆工具の硬質被覆層の耐チッピング性向上をはかるべく、図1(a)に示される模式図のように、格子点にTi、炭素、および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造(なお、図1(b)は(011)面で切断した状態を示す)を有し、かつ所定の高温硬さを示すTiCN層に着目し、研究を行った結果、
(a)従来被覆工具の硬質被覆層を構成するTiCN層は、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、TiCl:2〜10%、CHCN:1〜5%、N2:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜930℃、
反応雰囲気圧力:15〜25kPa、
の条件(通常条件という)で蒸着形成されるが、
これらの通常条件において、上記の反応ガスに、CrClを0.02〜1容量%の割合で添加し、これ以外は同一の条件で層の蒸着形成を行うと、この結果形成されたTiとCrの複合炭窒化物層(以下、「Ti−Cr複合炭窒化物層」で示す)は、CrをTiとの合量に占める割合で1〜10原子%の割合で含有し、上記の従来TiCN層と同じNaCl型面心立方晶の結晶構造(上記図1参照)、すなわち、Ti原子の一部がCr原子で置換されたNaCl型面心立方晶の結晶構造をもつものになると共に、置換含有したCrの作用で、高温強度が一段と向上したものになるので、切刃部にきわめて高い機械的・熱的負荷がかかる高速高送りミーリング切削において、前記硬質被覆層の耐チッピング性向上に寄与すること。
【0005】
(b)上記の従来被覆工具の硬質被覆層を構成するTiCN層(以下、従来TiCN層という)と、上記(a)のTi−Cr複合炭窒化物層について、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図2(a),(b)に概略説明図で例示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角(図2(a)には前記結晶面のうち(001)面の傾斜角が0度、(011)面の傾斜角が45度の場合、同(b)には(001)面の傾斜角が45度、(011)面の傾斜角が0度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角)を測定し、この場合前記結晶粒は、上記の通り格子点に、従来TiCN層であればTi、炭素、および窒素からなる構成原子が、さらにTi−Cr複合炭窒化物層であれば、Ti、Cr、炭素および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表し、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係でNの上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフを作成した場合、前記従来TiCN層は、図4に例示される通り、Σ3の分布割合が30%以下の相対的に低い構成原子共有格子点分布グラフを示すのに対して、前記Ti−Cr複合炭窒化物層は、図3に例示される通り、Σ3に最高ピークが存在し、かつ、Σ3の分布割合が60%以上のきわめて高い構成原子共有格子点分布グラフを示し、しかも、前記Ti−Cr複合炭窒化物層のΣ3の分布割合は、層中のCr含有量によって変化し、さらに、層中のCr含有量は、反応ガス中のCrClの配合割合によって調整できること。
【0006】
(c)上記のTi−Cr複合窒化物層の形成に際して、層中のCr含有割合を、Tiとの合量に占める割合で1〜10原子%とすることによって、構成原子共有格子点分布グラフでのΣ3の分布割合が60%以上のきわめて高いものになり、この結果、Ti−Cr複合炭窒化物層は上記従来TiCN層と比べ、一段と高温強度が向上したものとなるのであり、したがって、層中のCr含有割合が前記の範囲から低い方に外れても、あるいは高い方に外れても、構成原子共有格子点分布グラフでのΣ3の分布割合が60%未満になってしまい、所望の高温強度向上効果が得られなくなること。
【0007】
(d)上記のTi−Cr複合炭窒化物層は、従来TiCN層が具備する高温硬さと高温強度に加えて、上記従来TiCN層に比べて一段と高い高温強度を有するので、前記Ti−Cr複合炭窒化物層とTiN層とを積層して蒸着形成してなる被覆工具は、極めて高い機械的・熱的負荷のかかる高速高送りミーリング加工においても、前記硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を示し、長期に亘ってすぐれた性能を発揮するようになること。
以上(a)〜(d)に示される研究結果を得たのである。
【0008】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
「(1)炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)1〜5μmの平均層厚を有する窒化チタン層、
(b)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、TiとCrの合量に対するCrの含有割合(Cr/(Ti+Cr))が、原子比で0.01〜0.1であるTiとCrの複合炭窒化物層、
上記(a)および(b)を少なくとも3層以上交互に積層し、合計層厚が5〜15μmとなるように化学蒸着で形成したTi系化合物積層からなる硬質被覆層を設けたことを特徴とする硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具。
(2)前記(1)記載の表面被覆切削工具において、
上記Ti系化合物積層の表面に、さらに、化学蒸着で形成した0.5〜5μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を設けたことを特徴とする前記(1)記載の表面被覆切削工具。
(3)前記(2)記載の表面被覆切削工具において、
上記Ti系化合物積層と、上記酸化アルミニウム層との間に、炭酸化チタン層、窒酸化チタン層および炭窒酸化チタン層のうちの1種または2種以上からなる合計平均層厚0.2〜1μmの中間層を介在させたことを特徴とする前記(2)記載の表面被覆切削工具。
(4)前記(1)乃至(3)記載の表面被覆切削工具において、
上記(b)のTiとCrの複合炭窒化物層は、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTiとCrと炭素と窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、いずれもΣ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示すTiとCrの複合炭窒化物層であることを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
【0009】
つぎに、この発明の被覆工具の硬質被覆層の構成層について、上記の通りに限定した理由を説明する。
(a)窒化チタン(TiN)層
TiN層は、高い化学安定性を示すため、被削材との化学反応に基づく摩耗に対してすぐれた耐摩耗性を発揮するが、その平均層厚が1μm未満では、十分な耐摩耗性を発揮することができず、また、その平均層厚が5μm以上の場合は、隣接するTi−Cr複合炭窒化物層との十分な付着強度を確保することができずチッピング発生の原因となるため、その平均層厚を1〜5μmとした。
【0010】
(b)Ti−Cr複合炭窒化物層
Ti−Cr複合炭窒化物層は、すぐれた高温硬さおよびすぐれた高温強度を有するが、この特性は、反応ガスにCrClを0.02〜1容量%の割合で添加して化学蒸着し、蒸着形成された層中のCr含有割合をTiとの合量に占める割合で1〜10原子%とした結果として、構成原子共有格子点分布グラフにおけるΣ3の分布割合が60%以上となることにより得られるものであって、一方、Σ3の分布割合が60%未満では、高温強度の向上効果が少なく、高速高送りミーリング加工において、硬質被覆層にチッピングが発生することは避けられず、すぐれた耐摩耗性を発揮することはできないことから、TiとCrの合量に対するCrの含有割合(Cr/(Ti+Cr))を0.01〜0.1(但し,原子比)と定め、また、Σ3の分布割合を60%以上と定めた。
また、Ti−Cr複合炭窒化物層の平均層厚は、1μm未満ではすぐれた高温特性を発揮することができず、一方、平均層厚が5μmを超えると、隣接するTiN層との十分な付着強度を確保することができなくなることから、その平均層厚を1〜5μmと定めた。
【0011】
(c)Ti系化合物積層
上記TiN層と上記Ti−Cr複合炭窒化物層を、少なくとも3層以上交互に積層し、合計平均層厚が5〜15μmとなるように化学蒸着でTi系化合物積層を形成するが、Ti系化合物積層の合計平均層厚が5μm未満では、高速高送りミーリング加工において十分な耐摩耗性を発揮することができず、一方、合計平均層厚が15μmを超えると、チッピングや異常摩耗が発生し易くなるため、Ti系化合物積層の合計平均層厚を5〜15μmと定めた。
【0012】
(d)酸化アルミニウム(Al)層
Al層は、耐熱的、耐化学的な安定性にすぐれ、高温硬さも大であり、またすぐれた耐酸化性を示すため、高い耐摩耗性を発揮するが、その層厚が0.5μm未満では所望の特性を発揮することができず、また、層厚が5μmを超えると、高速高送りミーリング切削ではチッピング等の異常損傷が生じやすくなることから、その平均層厚を0.5〜5μmとした。
なお、Alとしては、α型結晶構造およびκ型結晶構造などがあるが、本発明においては、どちらの結晶構造のAl層であっても、所望の性能を得ることができる。
【0013】
(e)中間層
炭酸化チタン(TiCO)層、窒酸化チタン(TiNO)層および炭窒酸化チタン(TiCNO)層のうちの1種または2種以上からなる合計平均層厚0.2〜1μmの中間層を、TiN層およびTi−Cr複合炭窒化物層からなる上記Ti系化合物積層と、上記Al層との間に介在形成する。上記中間層は、上記Ti系化合物積層と上記Al層のいずれに対しても密着性にすぐれ付着強度も大きいため、Ti系化合物積層とAl層間の接合強度を高め、その結果、硬質被覆層全体としての高温強度を高め耐チッピング性を向上させる効果があるが、その合計平均層厚が0.2μm未満では接合強度の向上がみられず、また、合計平均層厚が1μmを超えると、チッピングなどの異常損傷が生じやすくなることから、中間層の合計平均層厚を0.2〜1μmと定めた。
【0014】
なお、被覆工具の切削後の使用コーナーの識別を容易にする目的で、硬質被覆層のAl層の上層に、金色を有するTiN層を被覆することが一般的に知られているが、本発明被覆工具においても、使用コーナー識別の目的で、Al層の上層に、TiN層を被覆してもよい。その際のTiN層の被覆層厚は0.2〜1μmとする。
また、近年、硬質被覆層を形成後、物理的な手法、具体的には砥石、ナイロン製等のブラシ、SiC、AlおよびZrO粒子等をメディアとして使用する乾式あるいは湿式ブラスト処理等により、硬質被覆層の表面を平滑化し、耐溶着性を向上させることが知られているが、本発明被覆工具に対してこれを適用することも勿論可能である。
【発明の効果】
【0015】
この発明の被覆工具は、硬質被覆層が、Ti−Cr複合炭窒化物層と窒化チタン層の交互積層構造からなるTi系化合物積層で構成され(請求項1)、あるいは、該Ti系化合物積層の表面にさらに酸化アルミニウム層を設けたものとして構成され(請求項2)、あるいは、Ti系化合物積層と酸化アルミニウム層との間に中間層を介在させたものとして構成され(請求項3)、さらに、前記Ti−Cr複合炭窒化物層が、Tiとの合量に占める割合で1〜10原子%のCrを含有し、構成原子共有格子点分布グラフでのΣ3の分布割合が60%以上のきわめて高いものとして構成されている(請求項4)ので、各種の鋼、ステンレス鋼および鋳鉄などの通常条件でのミーリング加工は勿論のこと、特に、機械的・熱的負荷が大きく、かつ高い発熱を伴う高速高送り切削でも、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0017】
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を準備し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアルコール中で10時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部に幅0.15mm、角度20度のチャンフォーホーニング加工することによりISO・SEEN1203AFTN1に規定するスローアウェイチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Fをそれぞれ製造した。
【0018】
ついで、これらの工具基体A〜F表面に、通常の化学蒸着装置を用いて、
反応ガス組成(容量%):TiCl:4.2%、N:30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件で、表5に示される目標平均層厚のTiN層を蒸着形成し、ついで表2に示される条件でTi−Cr複合炭窒化物層を、表5に示される目標平均層厚で蒸着形成することにより、TiN層とTi−Cr複合炭窒化物層からなるTi系化合物積層を蒸着形成した本発明被覆工具1〜6(請求項1に対応)を製造した。
なお、表2でいう「目標Cr含有割合」は、原子比で表したCr/(Ti+Cr)の値である。
また、Ti系化合物積層を形成した本発明被覆工具1〜6に対して、さらに、表4に示される条件にてAl層を、あるいは、中間層とAl層を、表7示される目標層厚で蒸着形成することにより、本発明被覆工具11〜16(請求項2、3に対応)を製造した。
【0019】
また、比較の目的で、Ti−Cr複合炭窒化物層の代わりにTiCN層を、表3に示される条件で、表6に示される目標平均層厚で形成した従来被覆工具1〜6を製造した(TiN層については上記本発明被覆工具1〜6のTiN層と同一の条件かつ同一の目標平均層厚で形成した)。
さらに、TiCN層を形成した従来被覆工具1〜6に対して、さらに、表4に示される条件にてAl層を、あるいは、中間層とAl層を、表8に示される目標層厚で蒸着形成することにより、従来被覆工具11〜16を製造した(Al層、中間層については上記本発明被覆工具11〜16と同一の条件かつ同一の目標平均層厚で形成した)。
【0020】
ついで、上記の本発明被覆工具と従来被覆工具の硬質被覆層を構成するTi−Cr複合炭窒化物層、および、従来TiCN層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、構成原子共有格子点分布グラフを作成した。
すなわち、上記構成原子共有格子点分布グラフは、上記本発明Ti−Cr複合炭窒化物層、および、従来TiCN層の表面をそれぞれ研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を求めることにより作成した。
【0021】
この結果得られた本発明Ti−Cr複合炭窒化物層および従来TiCN層の構成原子共有格子点分布グラフにおいて、ΣN+1全体(Nは2〜28の範囲内のすべての偶数)に占めるΣ3の分布割合をそれぞれ表5〜8に示した。
【0022】
上記の各種の構成原子共有格子点分布グラフにおいて、表5〜8にそれぞれ示される通り、本発明被覆工具1〜6,11〜16のTi−Cr複合炭窒化物層は、いずれもΣ3の占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示すのに対して、従来被覆工具1〜6,11〜16の従来TiCN層は、いずれもΣ3の分布割合が30%未満の構成原子共有格子点分布グラフを示すものであった。
なお、図3は、本発明被覆工具4のうち、A−4の条件にて形成したTi−Cr複合炭窒化物層の構成原子共有格子点分布グラフ、図4は、従来被覆工具6のうち、a−5の条件にて形成した従来TiCN層の構成原子共有格子点分布グラフをそれぞれ示すものである。
【0023】
さらに、上記の本発明被覆工具1〜6,11〜16および従来被覆工具1〜6,11〜16について、これらの硬質被覆層の構成層をオージェ分光分析装置を用いて観察(層の縦断面を観察)したところ、目標組成と実質的に同じ組成を有することが確認され、また、これらの被覆工具の硬質被覆層の構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(同じく縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
【0024】
まず、上記の本発明被覆工具1〜6および従来被覆工具1〜6については、次の切削条件A〜Cにより、単刃での正面フライス加工を実施した。
[切削条件A]
被削材: JIS・SCM440ブロック材、
切削速度: 400 m/min、
切り込み: 1.5 mm、
一刃送り量: 0.4 mm/rev、
切削時間: 5 分、
の条件での合金鋼の湿式高速高送り切削試験(通常の切削速度は200m/min、一刃送り量は0.2mm/rev)。
[切削条件B]
被削材: JIS・SUS304ブロック材、
切削速度: 300 m/min、
切り込み: 2 mm、
一刃送り量:0.35 mm/rev、
切削時間: 5 分、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速高送り切削試験(通常の切削速度は150m/min、一刃送り量は0.2mm/rev)。
[切削条件C]
被削材: JIS・FC250ブロック、
切削速度: 450 m/min、
切り込み: 2.5 mm、
送り: 0.4 mm/rev、
切削時間: 5 分、
の条件での鋳鉄の乾式高速高送り切削試験(通常の切削速度は250m/min、一刃送り量は0.2mm/rev)。
上記の各切削試験における切刃の逃げ面摩耗幅を測定し、この測定結果を表9に示した。
【0025】
また、本発明被覆工具11〜16および従来被覆工具11〜16については、次の切削条件a〜cにより、単刃での正面フライス加工を実施した。
[切削条件a]
被削材: JIS・SCM440ブロック材、
切削速度: 380 m/min、
切り込み: 2 mm、
一刃送り量: 0.45 mm/rev、
切削時間: 5 分、
の条件での合金鋼湿式高速高送り切削試験(通常の切削速度は200m/min、一刃送り量は0.2mm/rev)。
[切削条件b]
被削材: JIS・SUS304ブロック材、
切削速度: 280 m/min、
切り込み: 2 mm、
一刃送り量:0.40 mm/rev、
切削時間: 5 分、
の条件でのステンレス鋼湿式高速高送り切削試験(通常の切削速度は150m/min、一刃送り量は0.2mm/rev)。
[切削条件c]
被削材: JIS・FC250ブロック、
切削速度: 430 m/min、
切り込み: 2 mm、
送り: 0.45 mm/rev、
切削時間: 5 分、
の条件での鋳鉄乾式高速高送り切削試験(通常の切削速度は250m/min、一刃送り量は0.2mm/rev)。
上記の各切削試験における切刃の逃げ面摩耗幅を測定し、この測定結果を同じく表9に示した。
【0026】
【表1】


【0027】
【表2】


【0028】
【表3】


【0029】
【表4】


【0030】
【表5】


【0031】
【表6】


【0032】
【表7】


【0033】
【表8】


【0034】
【表9】


【0035】
表9に示される結果から、本発明被覆工具1〜6、11〜16は、硬質被覆層が、Ti−Cr複合炭窒化物層と窒化チタン層の交互積層構造からなるTi系化合物積層で形成され、かつ、前記Ti−Cr複合炭窒化物層が、Tiとの合量に占める割合で1〜10原子%のCrを含有し、構成原子共有格子点分布グラフでのΣ3の分布割合が60%以上のきわめて高いものとして構成されているので、機械的・熱的負荷が大きく、しかも、高い発熱を伴う各種の鋼、ステンレス鋼および鋳鉄などの高速高送りミーリング切削において、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性とすぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、硬質被覆層が従来TiCN層と窒化チタン層の交互積層構造として形成された従来被覆工具1〜6、11〜16においては、高速高送りミーリング切削の激しい機械的・熱的負荷に耐えられず、硬質被覆層にはチッピングが発生し、これが原因となり比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
【0036】
上述のように、この発明の被覆工具は、各種の鋼、ステンレス鋼および鋳鉄などの通常の条件でのミーリング加工は勿論のこと、特に、機械的・熱的負荷が大きく、かつ高い発熱を伴う高速高送り切削でも、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削装置の高性能化ならびに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】硬質被覆層の従来TiCN層が有するNaCl型面心立方晶の結晶構造を示す模式図である。
【図2】NaCl型面心立方晶の結晶構造を有する結晶粒の(001)面および(011)面の傾斜角の測定態様を示す概略説明図である。
【図3】本発明被覆工具4の形成条件A−4で形成したTi−Cr複合炭窒化物層の構成原子共有格子点分布グラフである。
【図4】従来被覆工具6の形成条件a−5で形成した従来TiCN層の構成原子共有格子点分布グラフである。
【出願人】 【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
【出願日】 平成18年9月22日(2006.9.22)
【代理人】 【識別番号】100076679
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 和夫

【識別番号】100094824
【弁理士】
【氏名又は名称】鴨井 久太郎

【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一


【公開番号】 特開2008−49470(P2008−49470A)
【公開日】 平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願番号】 特願2006−258092(P2006−258092)