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【発明の名称】 立ち壁切削加工方法および立ち壁加工用エンドミル
【発明者】 【氏名】齋藤 益生

【要約】 【課題】刃部の軸方向寸法Lよりも深い立ち壁を切削加工する場合に、優れた加工面粗さが得られるようにする。

【構成】刃部16の軸方向寸法Lよりも短い切込み量tずつエンドミル10を軸方向へずらして側面切削加工を繰り返すことにより、刃部16の軸方向寸法Lよりも深い立ち壁32を切削加工する際に、回転軌跡形状における軸心と平行な断面が凸湾曲形状を成す外周刃18を有する立ち壁加工用エンドミル10が用いられることにより、1回毎の側面切削加工では外周刃18の回転軌跡形状に対応して加工面が湾曲するものの、エンドミル10の撓み変形の相違で刃部16の傾斜角度がばらついても、刃部16の軸方向端部が被削材30に食い込むことが抑制される。これにより、複数の側面切削加工の境界部分に段差が生じたり、刃部16の食い込みに起因してびびり振動が発生したりすることが抑制され、優れた加工面粗さが得られるようになる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
首部の先端側に該首部よりも大径の刃部が連続して設けられているエンドミルを用いて、該刃部の軸方向寸法Lよりも深い立ち壁を切削加工する立ち壁切削加工方法であって、
前記刃部の外周刃が、該外周刃の回転軌跡形状における軸心と平行な断面が外側に凸となる凸湾曲形状を成すように設けられている立ち壁加工用エンドミルを用意する工程と、
該立ち壁加工用エンドミルを、軸心まわりに回転駆動しつつ該軸心と交差する方向へ相対的に送り移動することにより、前記刃部に設けられた外周刃によって被削材に側面切削加工を行うとともに、該刃部の軸方向寸法Lよりも短い所定の切込み量tずつ軸方向へずらして該側面切削加工を繰り返す立ち壁切削工程と、
を有することを特徴とする立ち壁切削加工方法。
【請求項2】
前記外周刃は、前記回転軌跡形状における軸心と平行な断面が一定の半径Rsで外側に凸となる凸湾曲形状を成すように設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の立ち壁切削加工方法。
【請求項3】
前記外周刃は、その回転軌跡形状が、軸方向の先端が最も大径で前記首部に向かうに従って徐々に小径となるように設けられている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の立ち壁切削加工方法。
【請求項4】
前記半径Rsの中心点Qは、軸方向において前記刃部の先端と同じかそれよりも先端側へ離間した位置に定められており、
該半径Rsは、前記外周刃の最大径寸法である工具径Dに対して1×D〜5×Dの範囲内で設定されている
ことを特徴とする請求項2に記載の立ち壁切削加工方法。
【請求項5】
首部の先端側に該首部よりも大径の刃部が連続して設けられており、軸心まわりに回転駆動されつつ該軸心と交差する方向へ相対的に送り移動されることにより、該刃部に設けられた外周刃によって被削材に側面切削加工を行うとともに、該刃部の軸方向寸法Lよりも短い所定の切込み量tずつ軸方向へずらして該側面切削加工が繰り返されることにより、該刃部の軸方向寸法Lよりも深い立ち壁を切削加工することができる立ち壁加工用エンドミルであって、
前記外周刃は、その回転軌跡形状における軸心と平行な断面が外側に凸となる凸湾曲形状を成すように設けられている
ことを特徴とする立ち壁加工用エンドミル。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、首部の先端側に大径の刃部が連続して設けられているエンドミルを用いて、その刃部の軸方向寸法よりも深い立ち壁を切削加工する立ち壁切削加工方法、およびその立ち壁切削加工方法に好適に用いられる立ち壁加工用エンドミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸心まわりに回転駆動されつつその軸心と直角な方向へ相対的に送り移動させられることにより、刃部に設けられた外周刃によって被削材に側面切削加工を行うエンドミルが知られている。特許文献1に記載のエンドミルはその一例で、切削抵抗による工具の倒れを考慮して、外周刃の径寸法が、軸方向の先端側へ向かうに従って直線的に大きくなるように定められており、その外周刃の回転軌跡形状は軸方向の先端側程大径のテーパ形状(截頭円錐形状)となり、これが撓み変形させられることにより平坦な加工面が得られるようにされている。
【特許文献1】実開昭62−198012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、深さ寸法が大きい立ち壁を1回で切削加工する場合、刃部の軸方向寸法を大きくする必要があるが、切削抵抗が大きくなって撓み変形が大きくなるため、特許文献1のように外周刃の径寸法を直線的に大きくするだけでは対応できない。これに対し、刃部の軸方向寸法よりも短い所定の切込み量ずつ軸方向へずらして側面切削加工を繰り返すことにより、刃部の軸方向寸法よりも深い立ち壁を切削加工することが行われているが、特許文献1のように外周刃の径寸法を直線的に変化させたエンドミルをそのまま用いた場合、1回毎の側面切削加工では平坦な加工面が得られるものの、撓み変形の僅かな相違で刃部が傾斜して軸方向の端部が被削材に食い込むことにより、複数の側面切削加工の境界部分に段差が生じるとともに、びびり振動が発生し易くなり、必ずしも十分に満足できる加工面粗さが得られないという問題があった。
【0004】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、刃部の軸方向寸法よりも短い所定の切込み量ずつ軸方向へずらして側面切削加工を繰り返すことにより、刃部の軸方向寸法よりも深い立ち壁を切削加工する場合に、優れた加工面粗さが得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を達成するために、第1発明は、首部の先端側にその首部よりも大径の刃部が連続して設けられているエンドミルを用いて、その刃部の軸方向寸法Lよりも深い立ち壁を切削加工する立ち壁切削加工方法であって、(a) 前記刃部の外周刃が、その外周刃の回転軌跡形状における軸心と平行な断面が外側に凸となる凸湾曲形状を成すように設けられている立ち壁加工用エンドミルを用意する工程と、(b) その立ち壁加工用エンドミルを、軸心まわりに回転駆動しつつその軸心と交差する方向へ相対的に送り移動することにより、前記刃部に設けられた外周刃によって被削材に側面切削加工を行うとともに、その刃部の軸方向寸法Lよりも短い所定の切込み量tずつ軸方向へずらしてその側面切削加工を繰り返す立ち壁切削工程と、を有することを特徴とする。
【0006】
第2発明は、第1発明の立ち壁切削加工方法において、前記外周刃は、前記回転軌跡形状における軸心と平行な断面が一定の半径Rsで外側に凸となる凸湾曲形状を成すように設けられていることを特徴とする。
【0007】
第3発明は、第1発明または第2発明の立ち壁切削加工方法において、前記外周刃は、その回転軌跡形状が、軸方向の先端が最も大径で前記首部に向かうに従って徐々に小径となるように設けられていることを特徴とする。
【0008】
第4発明は、第2発明の立ち壁切削加工方法において、(a) 前記半径Rsの中心点Qは、軸方向において前記刃部の先端と同じかそれよりも先端側へ離間した位置に定められており、(b) その半径Rsは、前記外周刃の最大径寸法である工具径Dに対して1×D〜5×Dの範囲内で設定されていることを特徴とする。
【0009】
第5発明は、首部の先端側にその首部よりも大径の刃部が連続して設けられており、軸心まわりに回転駆動されつつその軸心と交差する方向へ相対的に送り移動されることにより、その刃部に設けられた外周刃によって被削材に側面切削加工を行うとともに、その刃部の軸方向寸法Lよりも短い所定の切込み量tずつ軸方向へずらしてその側面切削加工が繰り返されることにより、その刃部の軸方向寸法Lよりも深い立ち壁を切削加工することができる立ち壁加工用エンドミルであって、前記外周刃は、その回転軌跡形状における軸心と平行な断面が外側に凸となる凸湾曲形状を成すように設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明の立ち壁切削加工方法によれば、刃部の軸方向寸法よりも短い所定の切込み量tずつ軸方向へずらして側面切削加工を繰り返すことにより、刃部の軸方向寸法Lよりも深い立ち壁を切削加工する際に、外周刃の回転軌跡形状における軸心と平行な断面が外側に凸となる凸湾曲形状を成すように、その外周刃が刃部に設けられている立ち壁加工用エンドミルが用いられるため、1回毎の側面切削加工では外周刃の回転軌跡形状に対応して加工面が湾曲するものの、エンドミルの撓み変形の相違で刃部の傾斜角度がばらついても、刃部の軸方向端部が被削材に食い込むことが抑制される。これにより、複数の側面切削加工の境界部分に段差が生じたり、刃部の食い込みに起因してびびり振動が発生したりすることが抑制され、優れた加工面粗さが得られるようになる。第5発明の立ち壁加工用エンドミルにおいても、実質的に同様の効果が得られる。
【0011】
第2発明では、外周刃の回転軌跡形状における軸心と平行な断面が一定の半径Rsで外側に凸となる凸湾曲形状を成しているため、その外周刃の加工、具体的には外周刃の回転軌跡形状と略同一形状の工具素材を用意する際の加工や設計、加工プログラムの作成等が容易になり、製造コストを低減できる。
【0012】
第3発明では、外周刃の回転軌跡形状が、軸方向の先端が最も大径で首部に向かうに従って徐々に小径となるため、凸湾曲形状による加工面粗さの向上効果を損なうことなく、刃部の軸方向寸法Lをできるだけ短くすることができる。すなわち、凸湾曲形状の最大径寸法よりも先の部分は、切削抵抗による撓み変形で被削材から離間する方向へ変位するため、切削加工には殆ど寄与せず、元々必要ないのである。また、先端側の不要な小径部分が存在しないため、例えば立ち壁の下端に底面を有する場合、その底面部分まで高い寸法精度で立ち壁を切削加工することができる。
【0013】
第4発明は、外周刃の回転軌跡形状における軸心と平行な断面が一定の半径Rsで外側に凸となる凸湾曲形状を成す場合に、その半径Rsの中心点Qが、軸方向において刃部の先端と同じかそれよりも先端側へ離間した位置に定められているため、その外周刃の回転軌跡形状は、軸方向の先端が最も大径で首部に向かうに従って徐々に小径となり、実質的に第3発明と同様の作用効果が得られる。
【0014】
また、上記半径Rsは工具径Dに対して1×D〜5×Dの範囲内で設定されているため、凸湾曲形状による加工面粗さの向上効果を良好に享受できる。すなわち、半径Rsが工具径Dよりも小さいと、それに対応して個々の側面切削加工の加工面の湾曲半径が小さくなるため、加工面粗さが悪くなる一方、半径Rsが5×Dよりも大きくなると、外周刃の回転軌跡形状がストレートの円筒形状に近くなり、刃部の軸方向端部が被削材に食い込み易くなって、複数の側面切削加工の境界部分に段差が生じて面粗さが悪くなるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の立ち壁加工用エンドミルは、例えば軸心が略鉛直方向となる垂直姿勢で垂直な立ち壁を切削加工するように用いられるが、軸心が略水平状態となる姿勢で略水平な立ち壁を切削加工するようにしても良いなど、種々の切削態様で使用できる。立ち壁は、必ずしも垂直な壁面を意味するのではなく、エンドミルの軸心と平行な面であれば良く、平面でも湾曲面などでも良い。
【0016】
刃部および首部は一体に構成することが望ましいが、別体に構成して一体的に接合しても良い。首部は、例えば刃部の首部側の端部の径寸法と同じ径寸法とされるが、被削材との干渉を防止するためにそれより小さな径寸法とすることも可能である。
【0017】
外周刃は、例えば刃部に一体に設けられるが、スローアウェイチップ等を採用することも可能である。外周刃は、軸心と平行なストレート刃でも良いが、軸心に対して所定のねじれ角でねじれたねじれ刃を採用することが望ましい。また、外周刃の刃数は例えば2枚が適当であるが、1枚でも3枚以上でも良く、径寸法等に応じて適宜定められる。
【0018】
立ち壁加工用エンドミルは、外周刃と底刃とが接続される外周コーナーが角張ったスクエアエンドミルにも、外周コーナーが丸められたラジアスエンドミルにも適用され得る。ラジアスエンドミルの場合、先端部の食い込みが軽減されるため、びびり振動が抑制されて加工面粗さが一層向上する。
【0019】
立ち壁切削工程で、立ち壁加工用エンドミルを軸心と交差する方向へ相対的に送り移動して側面切削加工を行う際には、軸心と直角な方向へ送り移動することが望ましいが、直角な方向から軸方向へ傾斜した方向へ送り移動して側面切削加工を行うことも可能である。この送り移動は、立ち壁加工用エンドミルを移動しても良いが、被削材の方を移動することも可能である。
【0020】
また、立ち壁切削工程で、立ち壁加工用エンドミルを所定の切込み量tだけ軸方向へずらす場合、エンドミルの先端側へずらすようにしても良いし、その反対方向へずらすようにしても良い。すなわち、立ち壁の上端から下方へ加工部位をずらしながら側面切削加工を繰り返すようにしても良いし、立ち壁の下端から上方へ加工部位をずらしながら側面切削加工を繰り返すようにしても良いのである。この場合も、立ち壁加工用エンドミルを移動するか被削材の方を移動するかは適宜定めることができる。
【0021】
上記切込み量tは、加工面粗さの点ではできるだけ小さい方が望ましいが、例えば刃部の軸方向寸法Lに対して0.1×Lよりも小さいと加工能率が悪くなり、切込み量tが大きくなると切削抵抗が大きくなってびびり振動が発生したり加工面粗さが悪くなったりするため、被削材の材質や外周刃形状(前記半径Rsの大きさなど)、刃部の軸方向寸法Lの大きさ等によっても異なるが、例えば0.1×L〜0.5×L程度の範囲内が適当で、0.1×L〜0.3×Lの範囲内が望ましい。
【0022】
第2発明では、外周刃の回転軌跡形状における軸心と平行な断面が一定の半径Rsの凸湾曲形状を成しているが、第1発明や第3発明の実施に際しては、必ずしも一定の半径Rsの凸湾曲形状である必要はなく、長円形状や楕円形状の一部で構成される凸湾曲形状でも良いなど、種々の凸湾曲形状を成すように外周刃を設けることが可能である。
【0023】
第3発明や第4発明では、外周刃の回転軌跡形状の軸方向の先端が最も大径で首部に向かうに従って徐々に小径となるように、すなわち釣り鐘形状となるように、外周刃が設けられているが、第1発明や第2発明の実施に際しては、例えば外周刃の回転軌跡形状における軸心と平行な断面が一定の半径Rsの凸湾曲形状を成す場合に、その半径Rsの中心点Qを刃部の先端よりも首部側、例えば刃部の軸方向の中間位置に設定し、外周刃の回転軌跡形状が軸方向の中間部分で径寸法が最も大きくなる太鼓形状となるようにしても良い。但し、外周刃の回転軌跡形状における最大径位置は、刃部の軸方向の中央か、それよりも先端側になるようにすることが望ましい。
【0024】
第5発明の立ち壁加工用エンドミルは、第1発明〜第4発明の立ち壁切削加工方法に好適に用いられるが、他の加工方法で使用することも可能で、例えば刃部の軸方向寸法Lよりも浅い立ち壁の切削加工等に用いることもできる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である立ち壁加工用エンドミル10(以下、単にエンドミル10という)、およびそのエンドミル10を用いて行う立ち壁切削加工方法の一例を説明する図で、(a) はエンドミル10の正面図、(b) はエンドミル10の刃部16の拡大図、(c) は被削材30に設けられたコの字形状の立ち壁32に対して仕上げ切削加工を行う際の切削加工方法を説明する斜視図である。エンドミル10は、シャンク12と首部14と刃部16とを同軸上に一体に備えており、シャンク12側から見て右まわりに回転駆動されることにより刃部16で切削加工を行う。首部14は、刃部16よりも小径で且つ刃部16の軸方向寸法Lの5倍以上の長さ寸法を有し、刃部16の軸方向寸法Lよりも深い立ち壁32を被削材30と干渉することなく切削加工することができる。
【0026】
刃部16には、軸心に対して対称的に一対の外周刃18が設けられている。これ等の外周刃18は、軸心に対して所定のねじれ角でねじれたねじれ刃で、図示しない底刃に接続される外周コーナーが角張っているスクエア型である。また、この外周刃18は、その回転軌跡形状における軸心と平行な断面が一定の半径Rsで外側に凸となる凸湾曲形状を成すように設けられているとともに、その半径Rsの中心点Qは、軸方向において刃部16の先端と同じ位置に定められている。これにより、外周刃18の回転軌跡形状は、軸方向の先端が最も大径で首部14に向かうに従って徐々に小径となる釣り鐘形状となる。図1に示す刃部16は、何れも外周刃18の回転軌跡形状を示したもので、釣り鐘形状を成している。また、上記半径Rsは、軸方向の先端における外周刃18の径寸法、すなわち外周刃18の最大径寸法である工具径Dに対して、1×D〜5×Dの範囲内で設定されている。
【0027】
そして、このようなエンドミル10を用いて立ち壁32に仕上げ切削加工を行う場合、そのエンドミル10を軸心まわりに回転駆動しつつ、図1の(c) に一点鎖線の矢印で示すように、立ち壁32に沿ってコの字形状にエンドミル10を軸心と直角方向すなわち水平方向へ送り移動することにより、刃部16に設けられた外周刃18によって立ち壁32に側面切削加工を行う。この側面切削加工は、立ち壁32の上下方向の一方の端部から行われ、本実施例では上端部から行う。そして、立ち壁32の上端部の側面切削加工が終了したら、刃部16の軸方向寸法Lよりも短い所定の切込み量tだけエンドミル10を軸方向の先端側へずらして、上記と同様に一点鎖線の矢印で示すように立ち壁32に沿ってコの字形状にエンドミル10を送り移動して側面切削加工を行う。このような側面切削加工を、切込み量tずつずらしながら繰り返すことにより、刃部16の軸方向寸法Lよりも十分に深い立ち壁32の全面に仕上げ切削加工を行うことができる。切込み量tは、例えば軸方向寸法Lに対して0.1×L〜0.3×L程度の範囲内で設定される。
【0028】
このような立ち壁切削加工方法によれば、刃部16の軸方向寸法Lよりも短い所定の切込み量tずつエンドミル10を軸方向へずらして側面切削加工を繰り返すことにより、刃部16の軸方向寸法Lよりも深い立ち壁32を切削加工する際に、回転軌跡形状における軸心と平行な断面が外側に凸となる凸湾曲形状を成す外周刃18を有するエンドミル10が用いられるため、1回毎の側面切削加工では外周刃18の回転軌跡形状に対応して加工面が湾曲するものの、エンドミル10の撓み変形の相違で刃部16の傾斜角度がばらついても、刃部16の軸方向端部が被削材30に食い込むことが抑制される。これにより、複数の側面切削加工の境界部分に段差が生じたり、刃部16の食い込みに起因してびびり振動が発生したりすることが抑制され、優れた加工面粗さが得られるようになる。
【0029】
図2は、上記のような立ち壁切削加工方法に従って立ち壁32を切削加工する場合の断面図で、(a) は本実施例のエンドミル10を使用した場合、(b) は径寸法が一定の円柱形状(ストレート)の刃部100を有する従来のエンドミルを使用した場合である。これ等の比較から、図2の(a) に示す本実施例では、外周刃18の回転軌跡形状に対応する滑らかな湾曲面が連続した滑らかな加工面が得られるのに対し、図2の(b) に示す従来例では、刃部100の首部側端部が被削材30に食い込むため、複数の側面切削加工の境界部分に段差が生じて加工面粗さが悪くなる。
【0030】
一方、本実施例では、外周刃18の回転軌跡形状における軸心と平行な断面が一定の半径Rsの凸湾曲形状を成しているため、その外周刃18の加工、具体的には外周刃18の回転軌跡形状と略同一形状の工具素材を用意する際の加工や設計、加工プログラムの作成等が容易になり、製造コストを低減できる。
【0031】
また、上記半径Rsの中心点Qが、軸方向において刃部16の先端と同じ位置に定められているため、外周刃18の回転軌跡形状が、軸方向の先端が最も大径で首部14に向かうに従って徐々に小径となる釣り鐘形状となるため、凸湾曲形状による加工面粗さの向上効果を損なうことなく、刃部16の軸方向寸法Lをできるだけ短くすることができる。すなわち、凸湾曲形状の最大径寸法よりも先の部分は、切削抵抗による撓み変形で被削材30から離間する方向へ変位するため、切削加工には殆ど寄与せず、元々必要ないのである。また、先端側の不要な小径部分が存在しないため、例えば立ち壁32の下端に底面を有する場合、その底面部分まで高い寸法精度で立ち壁32を切削加工することができる。
【0032】
また、上記半径Rsは工具径Dに対して1×D〜5×Dの範囲内で設定されているため、凸湾曲形状による加工面粗さの向上効果を良好に享受できる。すなわち、半径Rsが工具径Dよりも小さいと、それに対応して個々の側面切削加工の加工面の湾曲半径が小さくなるため、加工面粗さが悪くなる一方、半径Rsが5×Dよりも大きくなると、外周刃18の回転軌跡形状がストレートの円筒形状に近くなり、図2(b) の従来例と同様に刃部16の軸方向端部が被削材30に食い込み易くなって、複数の側面切削加工の境界部分に段差が生じて面粗さが悪くなるのである。
【0033】
また、本実施例では切込み量tが軸方向寸法Lに対して0.1×L〜0.3×L程度の範囲内で設定されるため、所定の加工能率を維持しながらびびり振動が抑制されて優れた加工面粗さが得られる。
【0034】
次に、図3の(a) に示すように工具径D=2mm、刃部16の軸方向寸法L=2mm、刃部16と首部14とを合わせた軸方向寸法が16mmで、前記半径Rs=1mm(0.5×D)、3mm(1.5×D)、5mm(2.5×D)、10mm(5×D)、15mm(7.5×D)、20mm(10×D)の6種類のエンドミル10、および図2(b) に示すように刃部100が円柱形状(ストレート)の従来のエンドミルを用いて、図3の(b) に示す寸法の立ち壁32を切削加工し、びびり振動や切削異常音の有無、加工面粗さについて調べた結果を説明する。図3(b) の切込み量tは0.2mm(=0.1×L)および0.4mm(=0.2×L)の2種類で、その他の加工条件は以下の通りであり、結果を図4に示す。図4の「切込/P」は、1回の側面切削加工(PASS)当りの軸方向の切込み量で、上記切込み量tのことである。
《加工条件》
・被削材:C1100(純銅)
・周速:200m/min
・1刃当りの送り速度:0.008mm/t、0.02mm/t
・使用機械:縦型マシニングセンタ
・切削油剤:水溶性切削油剤
【0035】
図4の(a) は切削異常音およびびびり振動の判定結果で、切込み量t(切込/P)=0.2mmの場合には、半径Rs=1mm(0.5×D)〜15mm(7.5×D)の範囲でびびり振動や切削異常音が殆ど無い良好な結果が得られ、切込み量t(切込/P)=0.4mmの場合には、半径Rs=1mm(0.5×D)〜10mm(5×D)の範囲でびびり振動や切削異常音が殆ど無い良好な結果が得られた。また、図4の(b) は、切込み量t(切込/P)=0.2mm、1刃当りの送り速度=0.02mm/tの場合の加工面粗さの測定結果で、3.2μm以下を合格の判定基準とすると、半径Rs=3mm(1.5×D)〜10mm(5×D)の場合に合格となる。これ等の結果から総合的に判断すると、半径Rsは3mm(1.5×D)〜10mm(5×D)程度の範囲内が適当である。
【0036】
また、図5は、上記の切削加工試験において、切込み量t(切込/P)=0.2mm、1刃当りの送り速度=0.02mm/tの場合に、半径Rs=10mm(5×D)、15mm(7.5×D)、およびストレートの3種類のエンドミルによる加工面を示す写真で、それぞれ同じ加工条件で加工した4つの加工面を写した4枚の写真を並べて示したものである。これ等の写真から明らかなように、(a) の半径Rs=10mm(5×D)の場合には、きめ細かな優れた加工面が得られるのに対し、(b) の半径Rs=15mm(7.5×D)の場合には表面がざらざらした感じになり、(c) のストレートの場合にはびびり振動で表面に多数の疵(白い斜めの線)が見られるようになる。
【0037】
なお、上記実施例のエンドミル10は、外周刃18と底刃とが接続される外周コーナーが角張っているスクエアエンドミルであるが、図6の立ち壁加工用エンドミル40のように、外周刃18と底刃とが接続される外周コーナー42に丸みが設けられたラジアスエンドミルとすることも可能で、この場合には、刃部16の先端部の食い込みが一層軽減されるため、びびり振動が抑制されて加工面粗さが一層向上する。
【0038】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例である立ち壁加工用エンドミル、およびそのエンドミルを用いて行う立ち壁切削加工方法を説明する図で、(a) はエンドミルの正面図、(b) は(a) のエンドミルの刃部の拡大図、(c) は被削材に形成されたコの字形状の立ち壁に対して仕上げ切削加工を行う際の切削加工方法を説明する斜視図である。
【図2】図1の(c) の立ち壁切削加工方法に従って立ち壁に切削加工を行う場合の加工面を説明する断面図で、(a) は本発明の立ち壁加工用エンドミルを用いた場合で、(b) は従来のエンドミルを用いた場合である。
【図3】立ち壁の切削加工試験を説明する図で、(a) は使用エンドミルの具体的寸法を示す図、(b) は切削加工すべき立ち壁の具体的寸法を示す図である。
【図4】図3の切削加工試験の試験結果を説明する図で、(a) は切削異常音およびびびり振動の判定結果を示す図、(b) は加工面粗さの測定結果を示す図である。
【図5】図3の切削加工試験において、所定の加工条件で切削加工が行われた時の3種類のエンドミルによる加工面を示す写真である。
【図6】本発明の他の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
10、40:立ち壁加工用エンドミル 14:首部 16:刃部 18:外周刃 30:被削材 32:立ち壁 L:刃部の軸方向寸法 D:工具径 Rs:半径 t:切込み量
【出願人】 【識別番号】000103367
【氏名又は名称】オーエスジー株式会社
【出願日】 平成18年8月25日(2006.8.25)
【代理人】 【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸


【公開番号】 特開2008−49450(P2008−49450A)
【公開日】 平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願番号】 特願2006−229512(P2006−229512)