トップ :: B 処理操作 運輸 :: B23 工作機械;他に分類されない金属加工

【発明の名称】 刃先交換式切削工具
【発明者】 【氏名】木内 康博

【要約】 【課題】工具本体のインサートの取付け剛性を改善し、工具本体に装着するインサートを高精度に加工することなく強固に取付けを行うことができ、更にインサートの飛び出し防止を改善した刃先交換式切削工具を提供する。

【構成】インサート3をクサビ部材によって着脱自在に装着する刃先交換式切削工具において、刃先交換式切削工具は、第1のクサビ部材4によってインサートの上面を固定する第1の固定と、第2のクサビ部材5によってインサートの上面と外周面との2面を同時に拘束する第2の固定、を有し、第2の固定における第2のクサビ部材がインサート上面を押圧する部分は、正面切れ刃部から回転軸方向に距離Pだけ離れており、インサート内接円の長さをLとしたとき、P/Lは、0.25≦P/L≦0.50、である刃先交換式切削工具である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサートをクサビ部材によって着脱自在に装着する刃先交換式切削工具において、該刃先交換式切削工具は、第1のクサビ部材によって該インサートの上面を固定する第1の固定と、第2のクサビ部材によって該インサートの上面と外周面との2面を同時に拘束する第2の固定、を有し、該第2の固定における第2のクサビ部材がインサート上面を押圧する部分は、正面切れ刃部から回転軸方向に距離Pだけ離れており、該インサート内接円の長さをLとしたとき、P/Lは、0.25≦P/L≦0.50、であることを特徴とする刃先交換式切削工具。
【請求項2】
請求項1に記載の刃先交換式切削工具において、該インサートの逃げ角をα度、該第2のクサビ部材の挿入角をβ度としたとき、α<β、0<β≦45、であることを特徴とする刃先交換式切削工具。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本願発明は、インサートの取付け剛性を改善した刃先交換式切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
刃先交換式切削工具において、インサートをねじ止めする機構や、クサビ部材で押し圧して固定する方法が、特許文献1に開示されている。また、インサートの飛び出しを防止する技術が特許文献2、3に開示されている。
【0003】
【特許文献1】特許第3317490号公報
【特許文献2】特許第3303184号公報
【特許文献3】特開平8−118130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、インサートをより強固に固定する方法として、インサートへ取付け穴を設け、ねじによりインサートを固定した後、クランプ駒でインサートの上面を固定するダブルクランプ機構が開示されている。しかし、インサートを固定する工具本体の固定面が磨滅した場合、雌ねじ偏芯量が少なくなり、ねじによる押し圧力が低下して、インサートの外周面が工具本体の固定面に全く作用しない状態となる。すると、インサートの固定は不安定となり、安定した加工を行うことが出来ないという欠点がある。特許文献2は、インサートの飛び出しを防止する為に、インサートの着座面がインサートの底面よりも工具本体の外周方側へ延びた形状とし、この伸びたインサートの着座面の先端に、インサートに働く遠心力の方向と対抗する方向にインサートと係合可能な凸部を設けた転削工具が開示されている。しかし、遠心力に対するインサートの飛び出しを防止することはできるが、切削抵抗に対するインサートの確実なる固定に対しては問題がある。特許文献3は、インサートをチップ座の径方向の外周面を拘束したものであり、インサートはチップ座の径方向の内周面へは接触していないため、切削抵抗に対するインサートの確実なる固定に対しては問題がある。
そこで本願発明は、工具本体のインサートの取付け剛性を改善し、工具本体に装着するインサートを高精度に加工することなく強固に取付けを行うことができ、更にインサートの飛び出し防止を改善した刃先交換式切削工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明は、インサートをクサビ部材によって着脱自在に装着する刃先交換式切削工具において、該刃先交換式切削工具は、第1のクサビ部材によって該インサートの上面を固定する第1の固定と、第2のクサビ部材によって該インサートの上面と外周面との2面を同時に拘束する第2の固定、を有し、該第2の固定における第2のクサビ部材がインサート上面を押圧する部分は、正面切れ刃部から回転軸方向に距離Pだけ離れており、該インサート内接円の長さをLとしたとき、P/Lは、0.25≦P/L≦0.50、であることを特徴とする刃先交換式切削工具である。上記の構成を採用することによって、工具本体のインサートの取付け剛性を改善し、工具本体に装着するインサートを高精度に加工することなく強固に取付けを行うことができ、更にインサートの飛び出し防止を改善した刃先交換式切削工具を提供することができる。
また、本願発明の刃先交換式切削工具において、インサートの逃げ角をα度、第2のクサビ部材の挿入角をβ度としたとき、α<β、0<β≦45、であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本願発明は、工具本体のインサートの取付け剛性を改善し、工具本体に装着するインサートを高精度に加工することなく強固に取付けを行うことができ、更にインサートの飛び出し防止を改善した刃先交換式切削工具を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は本願発明の実施例に係わる刃先交換式切削工具1の正面図を示す。正面視で略台形の形状をした上部は、仕上げ加工面となる端面2を有する。下部には、インサート3が第1、第2のクサビ部材4、5によって固定されている。図2は底面図を示している。工作機械との接続部となるインロー部9は仕上げ加工面である。インサート3はラジアルレーキ角θを有して装着されている。
図3に示す様に、刃先交換式切削工具1におけるインサート3の固定方法は、工具本体に装着されたインサートの上面7を第1のクサビ部材4によって押圧する第1の固定と、第2のクサビ部材5によって、上面7とインサート外周面8を同時に押圧する第2の固定とを併用している。特に第2の固定に使用している第2のクサビ部材は、インサート外周面を押圧しているので、インサートが切削工具回転時における遠心力によって工具本体から飛び出すのを防ぐ効果がある。即ち、工具本体が回転した際に発生する遠心力の方向と対抗する方向へ第2のクサビ部材を配置しているので、高速回転時また、切屑の排出を良好にするためにラジアルレーキ角θ(度)を過大なネガとした場合に起きるインサートの飛び出しを防止することができる。即ち、第2のクサビ部材は、フライス加工における高速回転時や切屑排出性向上と切刃がワークへ食い付く時の衝撃緩和を目的にθ値を過大なネガ状態、例えばθ値が−20度を超える様な場合に、インサートの飛び出しを防止し、加工能率の高い刃先交換式切削工具を提供することができる。この理由は、第2のクサビ部材が、工具本体の回転した際に発生する遠心力の方向と対抗する方向へ作用するからである。
インサートと第1のクサビ部材及び第2のクサビ部材との立体的な位置関係は、インサートの拘束力の確保とクサビ部材の磨滅回避の両立を達成させるために重要な事項である。特に、第2のクサビ部材は工具回転の外周側に配置されることから、切り屑排出時の流れに沿った擦過による磨滅を避けなければならない。クサビ部材は磨滅によって、インサートの拘束力低下を招くからである。一方、工具回転の内周側に装着する第1のクサビ部材は、切り屑排出時における擦過等の影響を受けることが少ないため、インサートの拘束力強化を主な目的として、正面切れ刃9の近傍まで近づけて配置することができる。第2の固定に用いる第2のクサビ部材のインサートとの立体的な位置関係は、インサート上面の押圧を開始する位置が、重要である。正面切れ刃9から回転軸方向に距離Pだけ離れていることが必要である。距離Pが、切削加工時に被削材から生成される切り屑のカール径に対して充分な空間を確保できる値を有する場合、切り屑が第2のクサビ部材へ接触することが無く、スムーズな切り屑排出と良好な加工を行う事が出来る。スムーズな切り屑排出によって、被削材の加工面への再接触を回避することができるから、良好な加工面を確保できる。一方、P値が小さく、第2のクサビ部材が正面切れ刃に接近しすぎる場合は、クサビ部材の磨滅が著しくなり、不都合である。また、P値を必要以上に大きく設定した場合は、クサビ部材の磨滅を回避する点については好都合であるが、インサートの刃先を拘束する作用が小さくなり不都合である。そこで、本願発明では、インサート内接円の長さをLとしたとき、P/Lは、0.25≦P/L≦0.50、の範囲に規定する。この規定範囲内とすることで、磨滅の回避と拘束作用が両立し、バランスの良い配置となる。更に、第2のクサビ部材がインサート上面10を押圧する部分の長さは、回転軸方向に0.3L以上の長さとなることが好ましい。これにより、インサートを確実に拘束することができる。
また本願発明のインサート固定方法によれば、インサートの上面と外周面を同時に押し圧できる第2のクサビ部材は、例えば、螺子により可動なので、インサートの上面と外周面を同時に押圧してインサートの固定が出来ると共に、工具本体のインサート固定部の磨滅による固定力低下を極力抑えることが出来る。
本願発明の発明では、取付け穴付きインサートを用いる場合、取付け穴を用いてねじ固定する手段と第1、第2のクサビ部材による固定手段との併用によって、インサートの拘束力は更に強固なものとなり、好ましい。また、取付け穴を用いてねじ固定する手段と第2のクサビ部材による固定手段との組み合わせを採用することによっても、本願発明の強固な固定を実現することができて好ましい。
【0008】
図4に示す様に、第2のクサビ部材挿入溝10における第2のクサビ部材挿入角β(度)は、インサート逃げ角α(度)に対してα<βとし、0<β≦45の範囲に設定することが好ましい。その理由は、α≧βの場合、インサート外周面に第2のクサビ部材におけるインサート外周押圧面11を接触させて押圧させることが出来ない。例えば、α=βに設定すると、第2のクサビ部材とインサート外周面との間に隙間は無いものの、インサートの固定状態が不安定となる。これによって刃先の振量が大きくなり、加工面粗さが大きくなることがある。この現象を回避するには、α<βであることが好ましい。更に、α>βに設定すると、第2のクサビ部材がインサート外周面を効果的に押圧することが出来ず、隙間ゲージが通ることもある。従って、拘束を確実なものとするためには、α<βであることが好ましい。また、β値が45度を超える、インサート外周押圧面11による押圧力がインサート上面10を押圧する力よりも上回ってしまいインサートをインサート着座面より引き離す傾向が強まるため、0<β≦45の範囲に設定することが好ましい。
更に、インサート上面に注目したとき、第1のクサビ部材の内周側押圧面12と、第2のクサビ部材の外周側押圧面13との2面から押圧するので、たとえ工具本体のインサート固定部の磨滅が発生するような場合であっても、固定力低下を極力抑えることが出来る。従って、加工能率の高い刃先交換式切削工具を提供することができる。
【0009】
図5に示す様に、工具本体には、第1のクサビ部材挿入溝14とインサート固定部15と第2のクサビ部材挿入溝10が形成されている。インサート固定部は、着座面16を有し、またインサート外周面を当接させる工具本体の径方向固定面17と軸方向固定面18を有している。更に、インサート固定部には、刃先調整ねじ挿入孔19を形成した。刃先調整ねじ20によって刃先位置を調整する機構を設け、正面切れ刃の振れ精度をより高精度に管理できることを可能にした。本願発明の刃先交換式切削工具は、仕上げ用途のカッタなので、刃先位置特に正面切れ刃の振れ精度は高精度に管理する必要がある。刃先調整を行う場合のインサートの固定方法は、インサートを工具本体のインサート固定部へ取付けて第1のクサビ部材を仮締めする。第2のクサビ部材を仮締めした後、刃先調整ねじを回転させて刃先調整ねじ端面21をインサートの外周面へ当接させて刃先調整を行い最後に第1、第2のクサビ部材を本締めする。第1のクサビ部材挿入溝14には、第1のクサビ部材締付け用ねじ挿入孔22を有する。第1のクサビ部材は、インサート上面を押圧して、インサートを着座面16へ固定する。第2のクサビ部材挿入溝10には、第2のクサビ部材締付け用ねじ挿入孔23を有する。第2のクサビ部材は、インサート上面と外周面を同時に押圧して、インサート着座面16と径方向固定面17に強固に固定される。
【実施例】
【0010】
刃先交換式切削工具の工具本体はSCM材を用い、刃先径315mm、8枚刃を有している。作製には、旋盤加工により外観形状を整えて表面硬度HRC40〜43に調質した後、図1に示す端面2と、図2に示すインロー部6の仕上げ加工を行った。その後フライス加工を施してインサート固定部と第1、第2のクサビ部材挿入溝を形成した。特に、第2のクサビ部材挿入溝は、インサートの飛び出しを防止するために径方向に対向する形に形成した。切屑の排出と切れ刃が被削材に食い付く際の衝撃を緩和するためにθ値を45度とした。インサートを押圧する第1、第2のクサビ部材は、SKD61材を用いてHRC45〜53に調質して製作した。第1、第2のクサビ部材は締付け用ねじを介して工具本体に取付けた。β値は、α値よりも大きく、且つ45度以下に形成した。これにより、第2のクサビ部材は、インサート上面およびインサート外周面を同時に押し圧できる構造となった。本発明例1において、第2のクサビ部材によるインサートの固定位置は、正面切れ刃より回転軸方向に4.7mmだけ離れた位置から上側部の面を拘束した。従って、本発明例1のP/L値は0.37に設定した。使用したインサートは日立ツール(株)製CH550とし、寸法は、内接円12.7mm、厚さ4.76mmの略四角形状で、取付け穴は無し、であった。α値は3種類あり、0度、11度、20度とした。インサートの切れ刃稜線には円錐状ホーニングを形成している。
本発明例1から5は、α値が11度のインサートを使用し、本発明例6から7はα値が0度、本発明例8から9はα値が20度のものを使用した。また、P/L値、β値の項目も検討した。本発明例3から5、比較例9は刃先調整を実施した。比較例9の刃先調整は、インサートを第1のクサビ部材によって仮締めした後、インサート外周面を指で押さえながら刃先調整ねじを回転させて刃先調整ねじ端面をインサートの外周面へ当接させて刃先調整を行い、最後に第1のクサビ部材を本締めした。工具形態を表1に示す。
【0011】
【表1】


【0012】
刃先交換式切削工具をフライス盤に装着し、切削テストを実施した。切削条件を以下に示す。
(切削条件)
加工方法:フライス加工
被削材:S50C
切削速度:218m/min
テーブル送り:3520mm/min
主軸の回転数:220min−1
1刃の送り:2.0mm/刃
軸方向切り込み深さ:0.1mm
径方向切り込み幅:200mm
切削油:無し、
評価基準は、被削材の面粗さとした。面粗さの測定は、8mmの長さを接触式面粗さ測定器にて測定して、その最大高さRmax値を評価値とした。Rmax値が1〜10μmを最良とし◎印、11〜20μmを良好とし○印、20μmを超えるものを不可とし△印、更にインサートが飛散したもの、切屑のトラブルがあったものについては×印とした。また、第2のクサビ部材が確実にインサートを拘束していないものやインサートが確実に固定されていないものは安全を重視して切削テストを中止して×印とした。表1に結果を併記した。切屑の排出状況は高速度カメラを使用して観察した。
【0013】
表1に示す様に、本発明例1から9は設定した切削条件であっても、インサートの飛び出しが無く、安全に使用することが確認できた。特に正面切れ刃の振れを3μmに抑えた本発明例3、4は、仕上げ面粗さが6.2μm、8.5μmとなり良好な結果が得られた。今回、刃先調整機構による刃先の調整が容易となるメリットも確かめることが出来た。しかし、第2のクサビ部材を用いない比較例14、15は、切削テストを開始するとインサートが外周方向へ飛び出してしまい、切削テストを中止した。
本発明例1から5、比較例10から13は、第2のクサビ部材のP/L値を変化させた。P/L値が本願発明の規定範囲内であった本発明例1から5は、切屑排出の安定した加工となり、第2のクサビ部材がインサートを効果的に押圧し、拘束することができた。一方、P/L値の小さかった比較例10、11は、第2のクサビ部材がインサートを押圧する力は向上するものの、切屑の排出が阻害されてしまい安定加工が出来ないか、或は加工は出来ても生成された切屑が第2のクサビ部材へ接触した後、加工面へ擦過しつつ排出されるために加工面に傷が付き、結果的に加工面粗さが悪い結果となった。P/L値の大きかった比較例12、13は、切屑の排出は良好であるが、インサートの固定が不安定になり、加工中にインサートが振動したため、加工面粗さが悪い結果となった。比較例13は、正面切れ刃が欠損する不具合が発生した。
本発明例6から9は、インサートのα値が、0度、20度の場合を示したものであるが、加工後の被削材面粗さは満足の行く結果が得られ、インサートの拘束が十分であったことを確認できた。以上の様に、本願発明のインサート固定方法を用いることで、インサートを強固に固定出来、インサートの飛び出し防止を改善した加工能率の高い刃先交換式切削工具であることを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本願発明の刃先交換式切削工具の正面図。
【図2】図2は、本願発明の刃先交換式切削工具の底面図。
【図3】図3は、本願発明の刃先交換式切削工具の固定状態を示す。
【図4】図4は、図3におけるA方向矢視図。
【図5】図5は、本願発明の刃先交換式切削工具の固定部形状を示す。
【符号の説明】
【0015】
1:刃先交換式切削工具
2:端面
3:インサート
4:第1のクサビ部材
5:第2のクサビ部材
6:インロー部
7:インサート上面
8:インサート外周面
9:正面切れ刃
10:第2のクサビ部材挿入溝
11:第2のクサビ部材のインサート外周押圧面
12:第1のクサビ部材のインサート押圧面
13:第2のクサビ部材のインサート上面押圧面
14:第1のクサビ部材挿入溝
15:インサート固定部
16:インサート着座面
17:径方向固定面
18:軸方向固定面
19:刃先調整ねじ挿入孔
20:刃先調整ねじ
21:刃先調整ねじ端面
22:第1のクサビ部材締付け用ねじ挿入孔
23:第2のクサビ部材締付け用ねじ挿入孔
α:インサート逃げ角
β:第2のクサビ部材の挿入角
P:正面切れ刃から第2のクサビ部材までの距離
θ:ラジアルレーキ角
【出願人】 【識別番号】000233066
【氏名又は名称】日立ツール株式会社
【出願日】 平成18年8月23日(2006.8.23)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−49415(P2008−49415A)
【公開日】 平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願番号】 特願2006−225960(P2006−225960)