トップ :: B 処理操作 運輸 :: B23 工作機械;他に分類されない金属加工

【発明の名称】 機械構造用鋼の切削方法
【発明者】 【氏名】家口 浩

【氏名】山本 兼司

【氏名】村上 昌吾

【氏名】尾崎 勝彦

【要約】 【課題】断続切削における被削性を向上させるとともに、工具面上に保護膜を生成することで、工具寿命に優れた機械構造用鋼の切削方法を提供する。

【構成】断続切削により切削を行う機械構造用鋼の切削方法において、C、Mn、Si、S、Alを所定量含有し、下式(1)を満足するとともに、Mg、Caのうち少なくとも1種以上を所定量含有し、かつ、残部がFeおよび不可避的不純物からなる機械構造用鋼を、工具との接触時間を下式(2)とし、T1が0.055sec以下、切削速度が50m/分以上で切削することを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断続切削により切削を行う機械構造用鋼の切削方法において、
C:0.05質量%以上1.0質量%以下、Mn:0.2質量%以上1.5質量%以下、Si:0.1質量%以上1.5質量%以下、S:0.01質量%以上0.15質量%以下、Al:0.01質量%以上0.15質量%以下を含有し、下式(1)を満足するとともに、Mg:0.0001質量%以上0.005質量%以下、Ca:0.0001質量%以上0.005質量%以下のうち少なくとも1種以上を含有し、かつ、残部がFeおよび不可避的不純物からなる機械構造用鋼を、前記機械構造用鋼を切削するための工具と前記機械構造用鋼の接触時間を下式(2)とし、かつ、下式(2)におけるT1が0.055sec以下、切削速度が50m/分以上で切削することを特徴とする機械構造用鋼の切削方法。
31.6[S質量%]+1740[Al質量%]≧20.0・・・(1)
T2/T1≧0.06・・・(2)
前記式(2)において、T1は、工具と機械構造用鋼の接触時間の1回あたりの平均時間、T2は、工具と機械構造用鋼の非接触時間の1回あたりの平均時間である。
【請求項2】
前記機械構造用鋼において、さらに、Cr:2.0質量%以下、Mo:1.0質量%以下、Ni:3.0質量%以下、Cu:3.0質量%以下、V:0.5質量%以下、Ti:0.5質量%以下、Nb:0.5質量%以下のうち少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の機械構造用鋼の切削方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、断続切削時の工具寿命に優れた機械構造用鋼の切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクシャフトやコネクティングロッド等の自動車用構造部品に主に使用される機械構造用鋼は、切削して使用する場合がほとんどであるため、機械構造用鋼としては、工具寿命や作業性等の観点から、被削性向上を図った快削鋼が使用されることが多い。
このような快削鋼において、被削性を向上させる方法としては、成分組成として、鉛や硫黄を添加する方法があるが、鉛には、毒性を有するという問題があり、硫黄においては、添加量が増大すると、機械的特性を劣化させるという問題がある。
また、Caを添加することにより、鋼中酸化物をアノルサイトやゲーレナイトのような軟質にして、切削中に、工具面上に付着させることで工具を摩耗から保護する、いわゆるベラーグも必要に応じて活用されている。しかし、ベラーグの活用は、切削条件と成分の制限が多く、一般的に使用されるものではない。
【0003】
このような背景の中、エンドミルで切削されることが多い金型用工具鋼として、高強度であっても、焼入焼戻し、焼き鈍し等の調質後において、優れた被削性が得られる低合金工具鋼や工具鋼の加工方法が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。また、高硬度であるにも拘わらず、切削加工が可能であり、金型製造コストを著しく低減することができる高硬度金型用快削鋼が開示されている(例えば、特許文献3参照)。さらに、靭性を低下させる元素および環境に有害な元素の添加を抑制し、同時に従来の快削鋼のように切削能率を落とすことなく、重切削条件でも高硬度材が加工できるとともに、耐摩耗性および耐焼き付き性が優れた自己潤滑性を有する工具鋼が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
一方、機械構造用鋼への展開が可能な例として、Al、Oの含有量を所定範囲に規制することで、200m/min以上の断続高速切削域での工具寿命に優れた断続高速切削用鋼が開示されている(例えば、特許文献5参照)。また、広範な切削工具および切削条件において工具寿命を延長できるとともに、疲労強度、靱延性、塑性加工性の良好な快削鋼が開示されている(例えば、特許文献6参照)。
【特許文献1】特開2002−241893号公報(段落0007〜0041)
【特許文献2】特開2002−241894号公報(段落0017〜0045)
【特許文献3】特開2003−342691号公報(段落0015〜0033)
【特許文献4】特開2005−272899号公報(段落0032〜0071)
【特許文献5】特開2001−342539号公報(段落0016〜0025)
【特許文献6】特開平6−145889号公報(段落0013〜0025)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらのような従来の快削鋼では、以下に示す問題があった。
特許文献1〜4に記載の快削鋼は、すべて、金型用工具に用いるものである。金型用工具鋼と機械構造用鋼とでは、含有する成分やその組成、必要とされる強度等が異なるため、金型用工具鋼を機械構造用鋼として、単純に適用することはできない。
また、特許文献5に記載の快削鋼は、断続高速切削域での工具寿命に優れた断続高速切削用鋼であり、機械構造用鋼への適用も可能なものである。しかし、当該快削鋼は、200m/min以上の高速切削を対象としたものであり、また、AlとOの含有量の規定しかなく、一般的に快削鋼に用いられる元素を添加しないため、安定した被削性を得ることができない。
【0006】
特許文献6に記載の快削鋼も、機械構造用鋼への適用を想定したものであり、断続切削の例(フライス加工)も提示されているが、非金属介在物として、六方晶窒化ほう素(BN)の含有が不可欠であり、このBNの生成のための成分の制限が多い。また、比較的広範な切削工具および切削条件において適用できるものの、すべての条件に適用できるものではなく、未だ切削条件等の制限も多い。
したがって、機械構造用鋼においては、特に、エンドミルやホブ加工等の断続切削において、容易に被削性を向上させるとともに、工具寿命を延ばす手法が提案されていないのが実状である。
【0007】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、断続切削における被削性を向上させるとともに、工具面上に保護膜を生成することで、工具寿命に優れた機械構造用鋼の切削方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
連続切削においては、鋼材中の介在物が、切削中に工具表面に現出・付着して工具摩耗を抑制する効果が知られている。一方、断続切削においては、鋼材中の介在物が付着した工具面が大気にさらされるため、連続切削の場合に工具表面に付着する介在物(付着物)とは異なる付着物が生成する。この連続切削の場合に生成する付着物により、工具摩耗を抑制することがでれば、連続切削においても、工具寿命を延ばすことができる。
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究した結果、断続切削において、鋼材成分と切削条件を制御することで、工具摩耗の抑制に効果を有する付着物(保護性付着物)の生成が可能となり、この保護性付着物により、工具面上に保護膜を生成することができることを見出した。
【0009】
すなわち、請求項1に係る機械構造用鋼の切削方法は、断続切削により切削を行う機械構造用鋼の切削方法において、C:0.05質量%以上1.0質量%以下、Mn:0.2質量%以上1.5質量%以下、Si:0.1質量%以上1.5質量%以下、S:0.01質量%以上0.15質量%以下、Al:0.01質量%以上0.15質量%以下を含有し、下式(1)を満足するとともに、Mg:0.0001質量%以上0.005質量%以下、Ca:0.0001質量%以上0.005質量%以下のうち少なくとも1種以上を含有し、かつ、残部がFeおよび不可避的不純物からなる機械構造用鋼を、前記機械構造用鋼を切削するための工具と前記機械構造用鋼の接触時間を下式(2)とし、かつ、下式(2)におけるT1が0.055sec以下、切削速度が50m/分以上で切削することを特徴とする。
31.6[S質量%]+1740[Al質量%]≧20.0・・・(1)
T2/T1≧0.06・・・(2)
前記式(2)において、T1は、工具と機械構造用鋼の接触時間の1回あたりの平均時間、T2は、工具と機械構造用鋼の非接触時間の1回あたりの平均時間である。
【0010】
このような切削方法によれば、所定の元素の含有量を所定範囲に限定することによって、機械構造用鋼の強度や被削性が向上するとともに、工具面上に保護膜が生成される。また、工具と機械構造用鋼の接触時間の1回あたりの平均時間(T1)、工具と機械構造用鋼の非接触時間の1回あたりの平均時間(T2)の関係を規定し、また、T1を0.055sec以下とすることで、工具摩耗が抑制される。さらに、切削速度を50m/分以上とすることで、工具面上における発熱が促進される。
【0011】
請求項2に係る機械構造用鋼の切削方法は、前記機械構造用鋼において、さらに、Cr:2.0質量%以下、Mo:1.0質量%以下、Ni:3.0質量%以下、Cu:3.0質量%以下、V:0.5質量%以下、Ti:0.5質量%以下、Nb:0.5質量%以下のうち少なくとも1種以上を含有することを特徴とする。
このような切削方法によれば、所定の元素の含有量を所定範囲に限定することによって、機械構造用鋼の強度や靭性が向上する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に係る機械構造用鋼の切削方法によれば、機械構造用鋼の強度や被削性が向上するとともに、機械構造用鋼の切削中に、工具面上に保護膜が生成されることにより、工具摩耗が抑制されるため、工具寿命を延ばすことができる。
請求項2に係る機械構造用鋼の切削方法によれば、切削に使用する機械構造用鋼の強度や靭性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、機械構造用鋼(以下、適宜「鋼材」という)の成分を所定範囲に規定するとともに、この機械構造用鋼と工具との接触時間、および接触速度の条件を所定範囲に規定したことを特徴とする機械構造用鋼の切削方法である。
以下に、機械構造用鋼の各成分の含有量を数値限定した理由およびこの機械構造用鋼と工具との接触時間、および接触速度の条件を規定した理由について説明する。
【0014】
[C:0.05質量%以上1.0質量%以下]
Cは、鋼材の強度確保のために必要な元素である。しかし、Cの含有量が0.05質量%未満では、強度向上の効果が得られない。一方、Cの含有量が1.0質量%を超えると、被削性や靭性が低下する。よって、Cの含有量は、0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲とし、より好ましくは、0.15質量%以上0.5質量%以下の範囲とする。
【0015】
[Mn:0.2質量%以上1.5質量%以下]
Mnは、鋼材の強度向上のために必要であると同時に、鋼材中のSと結合して、MnS系硫化物を生成し、熱間加工性を改善させることで被削性を改善させる効果がある。また、特に、工具寿命改善のための工具面上の保護膜生成に不可欠な元素である。しかし、Mnの含有量が0.2質量%未満では、鋼材の強度向上や被削性改善の効果が得られず、また、工具面上の保護膜の生成が促進されない。一方、Mnの含有量が1.5質量%を超えると、焼入れ性が増大して過冷組織が発生し、被削性が低下する。よって、Mnの含有量は、0.2質量%以上1.5質量%以下の範囲とし、より好ましくは、0.5質量%以上1.0質量%以下の範囲とする。
【0016】
[Si:0.1質量%以上1.5質量%以下]
Siは、脱酸元素として鋼材の内部品質を向上させると同時に、工具寿命改善のための工具面上の保護膜生成に不可欠な元素である。しかし、Siの含有量が0.1質量%未満では、鋼材の内部品質が向上せず、また、工具面上の保護膜の生成が促進されない。一方、Siの含有量が1.5質量%を超えると、延靭性が低下する。よって、Siの含有量は、0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲とし、より好ましくは、0.15質量%以上1.0質量%以下の範囲とする。
【0017】
[S:0.01質量%以上0.15質量%以下]
Sは、被削性改善、特に、工具寿命改善のための工具面上の保護膜生成に不可欠な元素である。しかし、Sの含有量が0.01質量%未満では、被削性改善、特に、工具寿命改善のための工具面上の保護膜の生成が促進されない。一方、Sの含有量が0.15質量%を超えると、鋼材の延靭性が低下する。よって、Sの含有量は、0.01質量%以上0.15質量%以下の範囲とし、より好ましくは、0.03質量%以上0.10質量%以下の範囲とする。
【0018】
[Al:0.01質量%以上0.15質量%以下]
Alは、脱酸元素として鋼材の内部品質を向上させると同時に、工具寿命改善のための工具面上の保護膜生成に不可欠な元素である。しかし、Alの含有量が0.01質量%未満では、鋼材の内部品質が向上せず、また、工具面上の保護膜の生成が促進されない。一方、Alの含有量が0.15質量%を超えると、延靭性が低下する。よって、Alの含有量は、0.01質量%以上0.15質量%以下の範囲とし、より好ましくは、0.015質量%以上0.10質量%以下の範囲とする。
【0019】
[31.6[S質量%]+1740[Al質量%]≧20.0]
上述のとおり、Sは、被削性改善、特に、工具寿命改善のための工具面上の保護膜生成に不可欠な元素であり、Alは、脱酸元素として鋼材の内部品質を向上させると同時に、工具寿命改善のための工具面上の保護膜生成に不可欠な元素である。
ここで、本発明においては、SおよびAlの各元素個々の含有量を規定する他、Sの含有量と、Alの含有量の関係が、「31.6[S質量%]+1740[Al質量%]≧20.0」の式を満足することを必要とする。
「31.6[S質量%]+1740[Al質量%]<20.0」であると、被削性改善、特に、工具寿命改善のための工具面上の保護膜生成が促進されず、工具の摩耗が増大する。よって、「31.6[S質量%]+1740[Al質量%]≧20.0」の式を満足することを必須とする。
【0020】
機械構造用鋼は、前記のC、Mn、Si、S、Alを必須成分として含有し、さらに、以下のMg、Caのうち少なくとも1種以上を含有する。
[Mg:0.0001質量%以上0.005質量%以下、Ca:0.0001質量%以上0.005質量%以下]
Mg、Caは、切削中に生成される保護膜の保護膜生成に貢献している。しかし、Mg、Caそれぞれの含有量が0.0001質量%未満では、保護膜生成の効果が得られない。一方、Mg、Caそれぞれの含有量が0.005質量%を超えると、大形介在物が生成し、被削性が低下する。よって、Mg、Caそれぞれの含有量は、0.0001質量%以上0.005質量%以下の範囲とし、より好ましくは、0.0005質量%以上0.003質量%以下の範囲とする。
【0021】
機械構造用鋼は、前記の各成分に加え、更に、Cr、Mo、Ni、Cu、V、Ti、Nbのうち少なくとも1種以上を含有してもよい。
[Cr:2.0質量%以下、Mo:1.0質量%以下、Ni:3.0質量%以下、Cu:3.0質量%以下、V:0.5質量%以下、Ti:0.5質量%以下、Nb:0.5質量%以下]
これらの元素を含有することにより、機械構造用鋼の強度や靭性が向上する。しかし、各成分の含有量が前記数値を超えると、靭性が逆に低下すると同時に、経済性も低下する。
【0022】
[残部がFeおよび不可避的不純物]
機械構造用鋼は、前記した元素の他、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鉄系材料である。
不可避的不純物として、例えば、P、B、Zr等を含有することが考えられるが、本発明の効果を妨げない範囲においてこれらを含有することは許容され、これらの含有量は0.05質量%以下が好ましい。
【0023】
[切削速度:50m/分以上]
工具面上における酸化反応を促進するため、切削速度を50m/分以上として、工具面上における発熱を促進する。
切削速度が50m/分未満であると、工具面上における発熱が促進されず、酸化反応が促進されないため、保護性付着物が生成されにくい。その結果、保護膜の生成が促進されない。なお、工具面上の発熱をより促進し、酸化反応をさらに促進するため、より好ましくは、100m/分以上とする。また、切削速度は、安全性、経済性等の観点から、300m/分以下とするのが好ましい。
また、切削は、切削油等の潤滑油を用いないドライ切削により行うか、または、潤滑油を用いる場合には、ミスト潤滑等の最小限の潤滑により行うことが好ましい。
【0024】
[T2/T1≧0.06]
ここで、T1は、工具と機械構造用鋼の接触時間の1回あたりの平均時間、T2は、工具と機械構造用鋼の非接触時間の1回あたりの平均時間である。
本発明で生成される保護性付着物は、酸化物を主体としているため、工具に機械構造用鋼(被削材)および切屑(切り粉)が連続的に接触し、酸素が工具と被削材との接触面へと拡散しにくい連続切削の様式では、保護性付着物が生成されにくく、その効果は得られない。断続切削の場合には、工具面が大気にさらされるため、酸素が工具と被削材との接触面へと拡散し、工具面上に酸化物を主体とした保護性付着物が生成される。
【0025】
ここで、工具の摺動部分(接触面)への酸素供給を十分にするために、工具が被削材と接触している時間の平均をT1、接触していない時間をT2とすると、T2/T1の値は、少なくとも0.06以上とする必要がある。「T2/T1<0.06」であると、工具の摺動部分(接触面)へ酸素が十分に供給されず、酸化物を主体とした保護性付着物が生成されにくいため、保護膜の生成が促進されない。なお、工具の摺動部分への酸素供給をさらに促進し、保護性付着物を増大させるため、T2/T1の値は、より好ましくは、0.1以上とする。
ここで、T1は、0.055sec以下とする。T1が0.055secを超えると、断続切削の特徴が失われて、工具の摺動部分(接触面)へ十分な酸素が供給されないため、工具面上での保護膜の生成が促進されない。
【0026】
なお、前記した鋼材を切削するための工具は、Tiを含有すること、またはTiを含有する皮膜を有することが好ましい。
切削中に、工具面上に保護膜を形成し、保護膜を厚くするためには、保護膜と工具は、切削中の被削材や切り粉との摺動によっても脱離せずに強固に付着していることが必要である。工具がTiを含有している場合、またはTiを含有する皮膜が工具上に形成されている場合には、工具と保護膜の付着強度が増大する。この原因に関しては、必ずしも明らかではないが、Tiは、元来、活性な元素であることから、切削中の高温により、一部が酸化され、本発明の対象となる酸化物(保護性付着物)が付着しやすい状況になっていると思われる。
【0027】
Tiの形態は、単体でも良いが、一般的には、超硬合金製工具の場合には、TiCの形で工具中に存在し、コーティング(皮膜)の場合には、TiN、TiAlN、または、TiCN等の化合物の形で皮膜中に存在するが、その効果は変わらない。
【0028】
以上説明したように、本発明に係る機械構造用鋼の切削方法によれば、械構造用鋼の強度、靭性、被削性等が向上する。また、断続切削において、機械構造用鋼の切削中に、工具面上に酸化物を主体とした保護性付着物が生成されることで、工具面上の保護膜の生成が促進される。これらの被削性向上や保護膜により、工具摩耗が抑制され、工具寿命を延ばすことができる。
なお、機械構造用鋼を切削する工具がTiを含有するか、またはTiを含有する皮膜を有することにより、工具と保護膜の付着強度が増大し、工具摩耗の抑制効果を維持することができる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明の特許請求の範囲を満たす実施例の効果について、本発明の特許請求の範囲から外れる比較例と比較して具体的に説明する。
[実施例1]
まず、表1に示す化学組成を有する機械構造用鋼(被削材)を表2の条件にて断続切削を行い、保護膜生成の有無の確認および生成された保護膜の厚みを測定するとともに、工具のすくい面の摩耗量を評価した。
なお、図1は、断続切削試験の概略を示す模式図である。
図1において、符号1は、被削材、符号2は、工具であり、θ1は、被削材と工具が接触する部分の角度、θ2は、被削材と工具が接触しない部分の角度である。
また、使用工具(JIS−P10)は、Tiを含有するものである。
【0030】
<保護膜>
切削中に工具面上に形成される保護膜の有無、および生成された保護膜の厚みを、工具のすくい面において測定した。
【0031】
<耐摩耗性>
切削後の工具のすくい面の摩耗量を測定した。
摩耗量が1.0μm未満のものを耐摩耗性が優良、1.0μm以上5.0μm未満のものを耐摩耗性が良好、5.0μm以上のものを耐摩耗性が不良とした。
この評価結果を表1に示す。
なお、表1において、本発明の構成を満たさないものについては、数値に下線を引いて示す。また、表中「−」は、成分を含有していないことを示す。
【0032】
【表1】


【0033】
【表2】


【0034】
表1に示すように、実施例であるNo.1〜10は、本発明の範囲であり、保護膜の生成も促進され、耐摩耗性が優良または良好であった。
比較例であるNo.11、12は、MgおよびCaのいずれも含有していないため、保護膜の生成が促進されず、耐摩耗性に劣った。No.13、14は、Siの含有量が下限未満であるため、保護膜の生成が促進されず、耐摩耗性に劣った。No.15は、Sの含有量が下限未満であるため、保護膜の生成が促進されず、また、被削性が改善されないことから、耐摩耗性に劣った。
【0035】
No.16、17は、SとAlの含有量が下限未満であり、かつ、SとAlの含有量の関係が「31.6[S質量%]+1740[Al質量%]≧20.0」を満たさないため、保護膜の生成が促進されず、また、被削性が改善されないことから、耐摩耗性に劣った。No.18は、Alの含有量が下限未満であり、かつ、SとAlの含有量の関係が「31.6[S質量%]+1740[Al質量%]≧20.0」を満たさないため、保護膜の生成が促進されず、耐摩耗性に劣った。No.19、20は、Sの含有量が下限未満であり、かつ、SとAlの含有量の関係が「31.6[S質量%]+1740[Al質量%]≧20.0」を満たさないため、保護膜の生成が促進されず、また、被削性が改善されないことから、耐摩耗性に劣った。
【0036】
[実施例2]
表3に示す成分組成の機械構造用鋼を使用し、各々条件が異なる切削試験を実施して、工具面上への保護膜形成状況および工具のすくい面の摩耗を観察した。
具体的には、被削材形状のうち、図1に示すθ1とθ2を変化させ、工具の断続切削の割合(T2/T1)を変化させて切削を実施した。なお、被削材の形状(θ1、θ2)以外の切削試験条件は、実施例1と同様である。また、保護膜の有無および厚みの測定、耐摩耗性の評価については、実施例1と同様である。
この評価結果を表4に示す。
なお、表4において、本発明の構成を満たさないものについては、数値に下線を引いて示す。
【0037】
【表3】


【0038】
【表4】


【0039】
表4に示すように、実施例であるNo.1〜11は、本発明の範囲であり、保護膜の生成も促進され、耐摩耗性が優良または良好であった。
比較例であるNo.12は、T1が0.055secを超え、かつ、「T2/T1≧0.06」を満たさないため、断続切削の特徴が失われて、工具の摺動部分(接触面)へ十分な酸素が供給されないことから保護膜の生成が促進されず、耐摩耗性に劣った。No.13は、T1が0.055secを超え、かつ、「T2/T1≧0.06」を満たさないため、断続切削の特徴が失われて、工具の摺動部分(接触面)へ十分な酸素が供給されないことから保護膜の生成が促進されず、耐摩耗性に劣った。
【0040】
[実施例3]
表3に示す成分組成の機械構造用鋼を使用し、各々条件が異なる切削試験を実施して、工具面上への保護膜形成状況および工具のすくい面の摩耗を観察した。
具体的には、図1に示すθ1とθ2を固定(θ1=150、θ2=30)、つまり、工具の断続切削の割合(T2/T1)を固定したが、被削材の径を変化させてT1の時間を変化させた。
この評価結果を表5に示す。なお、θ1、θ2および被削材の径以外の切削試験条件は、実施例1と同様である。また、保護膜の有無および厚みの測定、耐摩耗性の評価については、実施例1と同様である。
この評価結果を表5に示す。
なお、表5において、本発明の構成を満たさないものについては、数値に下線を引いて示す。
【0041】
【表5】


【0042】
表5に示すように、実施例であるNo.1、2は、本発明の範囲であり、保護膜の生成も促進され、耐摩耗性が優良であった。
比較例であるNo.3は、T1が0.055secを超えるため、断続切削の特徴が失われて、工具の摺動部分(接触面)へ十分な酸素が供給されないことから保護膜の生成が促進されず、耐摩耗性に劣った。No.4も、T1が0.055secを超えるため、断続切削の特徴が失われて、工具の摺動部分(接触面)へ十分な酸素が供給されないことから保護膜の生成が促進されず、耐摩耗性に劣った。
【0043】
以上、本発明に係る機械構造用鋼の切削方法について説明してきたが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。また、本発明の技術的範囲は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において広く変更、改変することができることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】断続切削試験の概略を示す模式図である。
【符号の説明】
【0045】
1 被削材(機械構造用鋼)
2 工具
【出願人】 【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
【出願日】 平成18年8月7日(2006.8.7)
【代理人】 【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造

【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫

【識別番号】100123249
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 哲雄


【公開番号】 特開2008−36769(P2008−36769A)
【公開日】 平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願番号】 特願2006−214298(P2006−214298)