トップ :: B 処理操作 運輸 :: B23 工作機械;他に分類されない金属加工

【発明の名称】 インサート着脱式球面カッタ
【発明者】 【氏名】滝口 正治

【氏名】田口 和孝

【要約】 【課題】取付座に着脱可能に装着されたインサートの切刃位置を簡単に調整して、切刃の位置を工具本体の軸線上の一点を中心とした球面上に精度良く配置することができ、球面状座ぐり部を寸法精度良く成形することができるインサート着脱式球面カッタを提供する。

【構成】軸線Oを中心として工具回転方向Tに向けて回転される工具本体11を有し、工具本体11の軸線O方向を向く端面15に形成された取付座24に、円弧状の切刃53を備えたインサート50が、切刃53がなす円弧を軸線O上に中心Pを有する球面上に位置するようにして着脱可能に装着されており、工具本体11には、切刃53の工具本体11径方向位置を調整する第1調整機構33と、工具回転方向Tの前方側から見て工具本体11径方向と交差する他の方向における切刃53の位置を調整する第2調整機構37とが設けられていることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心として工具回転方向に向けて回転される工具本体を有し、該工具本体の前記軸線方向を向く端面に形成された取付座に、円弧状の切刃を備えたインサートが、前記切刃がなす円弧を前記軸線上に中心を有する球面上に位置するようにして着脱可能に装着されており、
前記工具本体には、前記切刃の前記工具本体径方向位置を調整する第1調整機構と、前記工具回転方向前方側から見て前記工具本体径方向と交差する他の方向における前記切刃の位置を調整する第2調整機構とが設けられていることを特徴とするインサート着脱式球面カッタ。
【請求項2】
前記取付座の前記工具本体径方向内側には、前記軸線方向から見て前記工具本体径方向と交差する方向に延びる第1収容孔が穿設されており、
この第1収容孔には、前記第1調整機構として、先端に前記インサートの前記工具本体径方向内側を向く側面を押圧する押圧面が形成された第1押圧ピンと、該第1押圧ピンを押圧して移動させる第1調整ネジとが収容されていることを特徴とする請求項1に記載のインサート着脱式球面カッタ。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに球面状の座ぐり部を形成する際に使用されるインサート着脱式球面カッタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークに形成された空洞部の内面に球面状の座ぐり部を形成する球面カッタとしては、例えば図8及び図9に示すものが広く提供されている。
図8及び図9に示す球面カッタは、軸線Oに沿って延びる概略円柱状をなす工具本体1を有しており、工具本体1の軸線O方向中央部が径方向内側に凹んだ形状とされている。この工具本体1の両端面2,2は凸曲面状に形成されており、この両端面2,2にはそれぞれ3つずつの凹部3が周方向に間隔を開けて配置されている。これらの凹部3の工具回転方向T前方側を向く壁面には、円弧状の切刃5を備えた切刃チップ4が、その切刃5を端面2から突出させた状態でろう付けされている。
【0003】
ここで、これらの切刃5は、切刃チップ4をろう付けした状態で各端面2ごとに研磨することにより、それぞれの端面2において工具本体1の軸線O上に中心Pを有して前記端面2よりも僅かに半径の大きな球面R上に位置するように形成されている。
また、工具本体1には軸線Oに沿うように延びる取付孔6が、両端面2,2に開口するように形成されており、この取付孔6の軸線O方向内側部分は、その断面が軸線Oを中心とした正方形状に形成されている。したがって、切刃チップ4の工具本体1径方向内側には取付孔6が配置されることになる。
【0004】
このような球面カッタは、ワークに形成された空洞部に収容された状態で、この空洞部に連通するように前記ワークに同軸に形成された一対の挿入孔を通じて、外側から工作機械の一対のアーバをそれぞれ挿入し、これらアーバの先端を前記軸線O方向両側から取付孔6に取り付けることにより、このアーバを介して軸線O回りに回転させられる。そして、このように工具本体1を回転しつつアーバを軸線O方向両側に工具本体1と一体にして往復移動させるように送りを与えることにより、前記空洞部の内面の前記挿入孔の周りに、各挿入孔側を向く工具本体1の端面2にろう付けされた切刃チップ4の切刃5によって軸線O上に中心Pを有する凹球面状の座ぐり部を形成する。ここで、アーバによる送り量を調整することで空洞部内面に形成される座ぐり部がなす凹球面の中心を一致させることにより、1つの球面に沿うように凹曲する座ぐり部を空洞部内面の両端に形成することができるものである。
【0005】
この構成の球面カッタでは切刃チップ4が工具本体1にろう付けされているので、切刃5に摩耗が生じた場合に通常のろう付け工具のように切刃5を再研磨することになる。ここで切刃5がなす円弧の径を一定にしたままで切刃5を再研磨すると、円弧の中心P点が軸線O方向外側にずれることになるため、切刃5を再研磨した球面カッタにおいては、その軸線O方向の送り量を変更する必要がある。したがって、送り量の設定ミスや切刃位置の測定誤差等によって球面座ぐり部を精度良く形成できなくなるおそれがあった。
また、工具本体1と切刃5とがろう付けによって一体に形成されているので、被切削材によって切刃の材質を変更しようとする場合には、球面カッタ自体を交換することになり、被切削材に合わせて多くの球面カッタを準備する必要があり、球面カッタの使用コストが増大してしまう。
【0006】
そこで、例えば特許文献1、2に示すように、工具本体の端面に取付座を形成し、この取付座に、切刃を備えたインサートを着脱可能に装着したインサート着脱式球面カッタが提供されている。
このような球面カッタでは、切刃が摩耗してもインサートを交換して使用できるので、切刃がなす円弧の中心P点を一定にすることができ、球面カッタ毎に送り量を調整する必要がない。さらに、被切削材によって切刃の材質を変更しようとする場合には、インサートを交換するだけで対応でき、多くの工具本体を準備する必要がなく、球面カッタの使用コストを大幅に低減できる。
【特許文献1】特開2006−62003号公報
【特許文献2】特開2000−343316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載された球面カッタにおいては、インサートを工具本体の取付座に着座させてクランプ部材で押圧して固定しており、インサートの位置は、取付座の工具回転方向前方側を向く壁面(着座面)及び工具本体径方向外側を向く壁面や軸線方向外側を向く壁面(拘束面)によって決定される構成とされている。したがって、切刃の位置は、取付座の寸法誤差やインサートの形状によってばらつくことになり、工具本体の端面に配置されたインサートの切刃を、工具本体の軸線上の一点を中心とした球面上に精度良く位置させることは困難であった。このため、球面座ぐり部を寸法精度良く形成することができなかった。
【0008】
また、切刃の位置を安定させるためには、工具本体(取付座)の寸法精度及びインサートの形状を厳密に管理して、製造、管理する必要があり、これら工具本体及びインサートの製造コストや管理コストが大幅に上昇してしまい、せっかくインサート着脱式としたにもかかわらず、球面カッタの使用コストを低減することができなくなってしまうといった問題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載された球面カッタにおいては、工具本体に位置調整機構が備えられており、切刃が摩耗してインサートを交換した際に、切刃の位置調整を行うことができる。しかし、この球面カッタにおいては、インサートの調整方向が一方向のみであるために、端面に配置されたインサートの切刃の位置を、P点を中心とした球面上に配置するためには、多くの時間と労力が必要であった。
【0010】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、取付座に着脱可能に装着されたインサートの位置を簡単に調整して、切刃を工具本体の軸線上の一点を中心とした球面上に精度良く配置することができ、球面状座ぐり部を寸法精度良く成形することができるインサート着脱式球面カッタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するために、この発明に係るインサート着脱式球面カッタは、軸線を中心として工具回転方向に向けて回転される工具本体を有し、該工具本体の前記軸線方向を向く端面に形成された取付座に、円弧状の切刃を備えたインサートが、前記切刃がなす円弧を前記軸線上に中心を有する球面上に位置するようにして着脱可能に装着されており、 前記工具本体には、前記切刃の前記工具本体径方向位置を調整する第1調整機構と、前記工具回転方向前方側から見て前記工具本体径方向と交差する他の方向における前記切刃の位置を調整する第2調整機構とが設けられていることを特徴としている。
【0012】
この構成のインサート着脱式球面カッタにおいては、工具本体径方向の切刃位置を調整する第1調整機構と、工具回転方向前方側から見て前記工具本体径方向に交差する他の方向における切刃の位置を調整する第2調整機構とを備えているので、2方向に向けて切刃の位置調整が可能となり、切刃の位置調整を簡単に、かつ、精度良く行って切刃を工具本体の軸線上の一点を中心とした球面上に配置することができる。
【0013】
したがって、切刃に摩耗が生じた場合に、インサートのみを交換して使用することができるとともに、インサートを交換しても切刃の位置を簡単にかつ精度良く調整して工具本体の軸線上の一点を中心とした球面上に位置させることができ、ワークの空洞部の内面に所定の径の球面状座ぐり部を精度良く形成することができる。
【0014】
ここで、前記取付座の前記工具本体径方向内側に、前記軸線方向から見て前記工具本体径方向と交差する方向に延びる第1収容孔を穿設し、この第1収容孔に、前記第1調整機構として、先端に前記インサートの前記工具本体径方向内側を向く側面を押圧する押圧面が形成された第1押圧ピンと、該第1押圧ピンを押圧して移動させる第1調整ネジとを収容することにより、切刃の工具本体径方向の位置をこの第1調整ネジで調整することができる。
また、第1収容孔が前記軸線方向から見て前記工具本体径方向と交差する方向に延びる方向に穿設されているので、取付座の工具本体径方向内側部分の空間が少ない場合でも、径方向に向けてインサートを押圧する第1調整機構を備えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、取付座に着脱可能に装着されたインサートの切刃位置を簡単に調整して、切刃の位置を工具本体の軸線上の一点を中心とした球面上に精度良く配置することができ、球面状座ぐり部を寸法精度良く成形することができるインサート着脱式球面カッタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照にして説明する。図1から図6に、本発明の実施形態であるインサート着脱式球面カッタを示す。
このインサート着脱式球面カッタ10は、軸線Oに沿って延びる概略円柱状をなす工具本体11を有している。工具本体11の軸線O方向中央部には、径方向内側に一段凹んだ凹溝12が工具本体11の全周にわたって形成されており、この凹溝12には、軸線Oと平行に延びる一対の平坦面13、13が互いに平行に配置されている。ここで、本実施形態においては、工具本体11は軸線Oに直交するとともに軸線O方向中央に位置する仮想平面Qに対して対称形となるように形成されている。
【0017】
この凹溝12を挟んだ工具本体11の両端部14、14は、その端面15、15がそれぞれ前記軸線O上に中心P(P´)を有する凸曲面状に形成されるとともに、これら両端部14、14の外周面にも、それぞれ前記平坦面13と平行な一対ずつの平面部16、16が形成されている。
なお、一方側(図1において右側)を向く端面15がなす球面の中心Pは前記仮想平面Qよりも他方側(図1において左側)に位置するとともに、他方側を向く端面15がなす球面の中心P´は前記仮想平面Qよりも一方側に位置しており、この工具本体11の軸線O方向長さは、それぞれの端面15がなす球面の直径よりも小さく設定されている。
【0018】
そして、これら両端部14、14には、軸線Oに沿って延びる取付孔17がそれぞれの端面15、15に向けて開口するように形成されている。この取付孔17には、その端面15側の開口部分に、軸線O方向内側に向かうにしたがい軸線Oを中心に漸次縮径するテーパ孔部18が形成されるとともに、軸線O方向中央部に、前記仮想平面Qに沿って一段大径とされた大径孔19が形成され、さらにこの大径孔19の両側には断面正方形状の角孔部20が形成されている。また、端面15における取付孔17の開口縁、すなわち球面状をなす端面15と取付孔17の前記テーパ孔部18との交差稜線部には、軸線Oに垂直に面取りが施されることによって環状平面部21が形成されている。
【0019】
また、両端部14、14には、それぞれに前記端面15に向けて開口する一対の凹部22、22が軸線Oを中心として180°回転対称となるように形成されている。凹部22は、工具回転方向T前方側から見て図1に示すように、軸線O方向外側を向く壁面22aと工具本体11径方向外側を向く壁面22bとによって概略L字状をなすとともに、軸線O方向から見て図2及び図3に示すように、工具本体11径方向外側を向く壁面22bと工具回転方向T前方側を向く壁面22cとによって概略L字状をなしている。
【0020】
凹部22の軸線O方向外側を向く壁面22aは軸線Oに対して直交する方向に延びるように形成され、凹部22の工具本体11径方向外側を向く壁面22bは軸線Oに平行に延びるように形成されており、これら壁面22aと22bとは凹曲面を介して連結されている。また、凹部22の軸線O方向外側を向く壁面22aには、図2及び図3に示すように、取付孔17の大径孔19に連通したクーラント供給孔23が開口されている。
【0021】
この凹部22の工具回転方向T前方側を向く壁面22cには、後述するインサート50を装着するための取付座24が形成されている。この取付座24は、凹部22の工具回転方向T前方側を向く壁面22cから工具回転方向T後方側に向けて一段凹んで工具本体11径方向外側及び軸線O方向外側に向けて開口させられている。なお、本実施形態では、図2及び図3に示すように、取付座24の工具本体11径方向外側を向く壁面24b及び凹部22の工具本体11径方向外側を向く壁面22bは、取付孔17の開口縁に形成された環状平面部21に交差するように形成されている。
【0022】
ここで、取付座24の工具回転方向T前方側を向く壁面24cには、図4に示すように、この壁面24cに直交するように延びるクランプネジ孔25が穿設されている。また、取付座24の軸線O方向外側を向く壁面24aは、図1に示すように、凹部22の軸線O方向外側を向く壁面22aよりも軸線O方向外側に位置させられるとともに、工具本体11径方向外側に向かうにしたがい漸次軸線O方向内側に向けて後退するように傾斜させられている。また、取付座24の工具本体11径方向外側を向く壁面24bは、軸線Oと平行に延びるように形成されている。
【0023】
そして、この取付座24の工具本体11径方向内側には、図1及び図3に示すように、取付座24の工具回転方向T前方側を向く壁面24cに対して交差する方向に延びる第1収容孔30が穿設されている。本実施形態では、この第1収容孔30は、取付座24の工具回転方向T前方側を向く壁面24cに対して直交する方向に延びて、取付座24の工具回転方向T前方側を向く壁面24cから工具本体11の外周面にまで貫通するように穿設されており、軸線O方向にはクランプネジ孔25の中心よりも外側に配置されている。
【0024】
この第1収容孔30には、その取付座24側に第1押圧ピン31が配置されるとともに、第1押圧ピン31の後端側に第1調整ネジ32が螺着されていて、レンチ等の作業用工具が係合される係合孔が形成された第1調整ネジ32の後端面15が工具本体11外周側に向けて露呈されている。第1押圧ピン31の先端には、第1押圧ピン31の軸線に対して傾斜した傾斜平面が形成されており、この傾斜平面が後述するインサート50に当接される第1押圧面31aとされている。この第1押圧ピン31及び第1調整ネジ32が、本実施形態における第1調整機構33とされている。
【0025】
また、取付座24の軸線O方向内側には、図1及び図2に示すように、取付座24の工具回転方向T前方側を向く壁面24cに対して交差する方向に延びる2つの第2収容孔34、34が並列するように穿設されている。本実施形態では、これらの第2収容孔34、34は取付座24の工具回転方向T前方側を向く壁面24cに対して直交する方向に延びて、取付座24の工具回転方向T前方側を向く壁面24cから工具本体11の外周面にまで貫通するように穿設されている。
【0026】
これら2つの第2収容孔34、34は、一つが取付座24の工具本体11径方向外側を向く壁面24bの近傍に配置され、もう一つが取付座24の工具本体11径方向外側部分に配置されていて、工具本体11径方向において2つの第2収容孔34、34の間に前記クランプネジ孔25が位置するように構成されている。これら2つの第2収容孔34、34とクランプネジ孔25とは、工具回転方向T前方側から見て2つの第2収容孔34、34の間の距離が最も大きく、径方向内側に位置する第2収容孔34とクランプネジ孔25との距離が最も小さな不等辺三角形をなすように配置されている。
【0027】
この第2収容孔34には、図2及び図5に示すように、その取付座24側に第2押圧ピン35が配置されるとともに、第2押圧ピン35の後端に第2調整ネジ36が螺着されていて、レンチ等の作業用工具が係合される係合孔が形成された第2調整ネジ36の後端面が工具本体11外周側に向けて露呈されている。第2押圧ピン35の先端には、第2押圧ピン35の軸線に対して傾斜した傾斜平面が形成されており、この傾斜平面が後述するインサート50に当接される第2押圧面35aとされている。これら第2押圧ピン35及び第2調整ネジ36が、本実施形態における第2調整機構37とされている。
したがって、この工具本体11には、工具回転方向T前方側から見て互いに交差する一の方向(工具本体11径方向)と他の方向におけるインサート50の位置を調整する第1調整機構33と第2調整機構37とが備えられているのである。
【0028】
また、工具本体11の両端面15、15には、図6に示すように、軸線Oに平行に延びて前記環状平面部21の外周端部分に開口させられた嵌入孔40が穿設されている。この嵌入孔40の軸線O方向中央部には、嵌入孔40に連通して直交する方向に延びる固定ネジ孔41が穿設されている。また、嵌入孔40の軸線O方向内側部分には、嵌入孔40に連通して直交する方向に延びる位置決めネジ孔42が穿設されている。本実施形態では、これら固定ネジ孔41及び位置決めネジ孔42は、互いに平行に、かつ、前記第1収容孔34と平行となるように配置されている。固定ネジ孔41には、概略円柱状をなす固定ネジ43が螺着されており、この固定ネジ43の先端面は、固定ネジ43がなす円柱の軸線に対して直交するように延びる平面状に形成されている。一方、位置決めネジ孔42には、先端がテーパ状に形成された位置決めネジ44が螺着されている。
【0029】
この嵌入孔40には、超硬合金等の硬質材料で構成されて外形が概略円柱状をなす面取りチップ45が挿入される。この面取りチップ45の先端は、面取りチップ45がなす円柱の中心軸に直交する断面が半円状に切り欠かれてその切欠面46がすくい面とされるとともに、この切欠面46に対向する側から見て先端縁が前記中心軸に略45°で交差するように切り欠かれ、この先端縁に面取り切刃47が形成されている。
【0030】
また、この面取りチップ45の後端部には、前記切欠面46に直交する方向に延び、かつ該切欠面46に対向する方向から見て前記面取り切刃47とは反対向きに中心軸に対して傾交する傾斜面部48が形成されるとともに、この面取りチップ45の外周面には、やはり前記切欠面46に対して直交する方向に延び、かつ前記中心軸に平行とされた平坦面部49が、面取り切刃47と傾斜面部48とが互いに接近する側に形成されている。
【0031】
このような面取りチップ45が、前記面取り切刃47を軸線O方向外側に向けて嵌入孔40に挿入され、平坦面部49が、前記固定ネジ孔41が開口した側を向くように配置される。ここで、前記位置決めネジ44の先端のテーパ角と前記面取りチップ45の後端部に形成された傾斜面部48の傾斜角とが同一とされており、この位置決めネジ44をねじ込むことで面取りチップ45を軸線O方向外側に向けて移動させることができるように構成されている。面取りチップ45は、軸線O方向の位置を調整した後に固定ネジ43をねじ込むことによって、固定ネジ43の先端が平坦面部49を工具本体11径方向内側に向けて押圧することにより固定される。
【0032】
次に、前記取付座24に着脱可能に装着されるインサート50について説明する。このインサート50は、超硬合金等の硬質材料で構成されて外形が概略四角形平板状をなし、本実施形態においては、図1から図5に示すように、互いに略平行に配置された2つの短辺及び2つの長辺を備えた概略平方四辺形平板状をなしており、2つの平行四辺形面51と4つの側面52とを有し、一の平行四辺形面51が取付座24の工具回転方向T前方側を向く壁面24cに載置される載置面51aとされ、他の平行四辺形面51が工具回転方向T前方側に向けられてすくい面51bとされている。
【0033】
すくい面51bとされた平行四辺形面51の一の長辺は、外側に向けて凸となる凸円弧状をなしており、この長辺部分が円弧状切刃53とされている。この円弧状切刃53に連なる側面52は逃げ面52aとされ、外側に向けて凸となる凸曲面状をなすとともに、載置面51aに近づくにしたがいインサート50の内側に後退するように傾斜させられている。
【0034】
この円弧状切刃53が設けられた長辺と鋭角に交差する短辺に連なる側面52には、図3に示すように、載置面51aに近づくにしたがい漸次インサート50の内側に後退するような傾斜平面が形成されており、この傾斜平面が第1被押圧面54とされている。
さらに、逃げ面52aとされた側面52と対向配置される側面52、つまり、平行四辺形面51の他の長辺に連なる側面52には、図4及び図5に示すように、載置面51aに近づくにしたがい漸次インサート50の内側に後退するような傾斜平面が形成されており、この傾斜平面が第2被押圧面55とされている。
また、平行四辺形面51の中央部には、このインサート50の厚さ方向に貫通した挿通孔56が穿設されている。この挿通孔56のすくい面51b側部分は、該すくい面51b側に向けて漸次拡径するテーパ面状に形成されている。
【0035】
このようなインサート50が取付座24に次のようにして装着される。インサート50は、取付座24の工具回転方向T前方側を向く壁面24cにインサート50の載置面51aが当接するように載置される。ここで、インサート50の第1被押圧面54は、取付座24の工具本体11径方向外側を向く壁面24bに対向配置されるとともに、第2被押圧面55は、取付座24の軸線O方向外側を向く壁面24aに対向配置される。すると、前記円弧状切刃53が軸線O方向外側を向くように配置されることになる。
また、このようにインサート50を載置した状態においては、工具回転方向T前方側から見て、前記クランプネジ孔25の中心は前記挿通孔56の中心よりも軸線O方向内側及び工具本体11径方向内側に向けて僅かに偏心させられている。
【0036】
そして、インサート50の第1被押圧面54には、図3に示すように、前記第1収容孔30に配置された第1押圧ピン31の第1押圧面31aが当接されており、インサート50の第2被押圧面55には、図5に示すように、前記第2収容孔34に配置された第2押圧ピン35の第2押圧面35aが当接されている。
ここで、頭部を有するクランプネジ57を挿通孔56に挿通させてクランプネジ孔25に螺着することにより、インサート50が取付座24に固定される。ここで、前述のようにクランプネジ孔25の中心は前記挿通孔56の中心よりも軸線O方向内側及び工具本体11径方向内側に向けて僅かに偏心させられているので、インサート50は、工具本体11径方向内側及び軸線O方向内側に向けて引き込まれるように、つまり、取付座24の軸線O方向外側を向く壁面24a及び工具本体11径方向外側を向く壁面24bに押し付けられるようにして固定されることになる。
【0037】
また、同じ側を向く端面15に形成された2つの取付座24、24に装着されたそれぞれのインサート50、50は、互いのインサート50のすくい面51bが軸線Oを通る仮想平面S上に位置するように配置されるとともに、これらインサート50に形成された円弧状切刃53の軸線Oを中心とした回転軌跡が、前記中心P(P´)を中心として前記端面15よりも一段半径の大きな一の球面R(R´)をなすように配置されることになる。
【0038】
このような構成とされたインサート着脱式球面カッタ10では、第1調整ネジ32をねじ込むと第1押圧ピン31が取付座24側に向けて移動して第1押圧面31aがインサート50の第1面被押圧54を軸線Oに直交する工具本体11径方向外側に向けて押圧し、インサート50が工具本体11径方向外側に向けて移動し、円弧状切刃53の工具本体11径方向位置が調整される。また、第2調整ネジ36をねじ込むと第2押圧ピン35が取付座24側に向けて移動して第2押圧面35aがインサート50の第2被押圧面55を押圧して、インサート50が軸線O方向外側及び工具本体11径方向外側に向けて移動して円弧状切刃53の位置が調整される。
【0039】
なお、本実施形態においては、第1調整ネジ32及び第1押圧ピン31によって構成される第1調整機構33は円弧状切刃53の工具本体11径方向位置を調整するものであり、前記第1調整ネジ32及び第1押圧ピン31が収容される第1収容孔30は、軸線O方向から見て円弧状切刃53の調整方向(工具本体11径方向)に対して直交するように穿設されている。
【0040】
このインサート着脱式球面カッタ10では、前述のようにして円弧状切刃53の位置を調整して、同じ端面15側の取付座24に装着された2つのインサート50、50の円弧状切刃53、53の位置が、軸線Oを中心とした回転軌跡において一致するように、つまり、前記中心P(P´)を中心とした球面R(R´)上に位置するように調整された状態で、図7に示す切削加工に供される。
【0041】
インサート着脱式球面カッタ10は、ワークWに形成された空洞部C内に収容され、この空洞部Cに挿通するようにワークWに同軸状に形成された一対の挿入孔H、Hを通じて、工作機械(図示なし)の一対のアーバA、Aをそれぞれ挿入して、これらのアーバA、Aの先端を前記軸線O方向外側から前記取付孔17に取り付けることにより支持される。ここで、このアーバAの先端には取付孔17の角孔部20に嵌合する断面正方形状のドライブ部Dが形成されるとともに、これよりも後端側には前記テーパ孔部18と等しいテーパ角で先端側に向けて縮径するテーパ部Eが形成されており、これらテーパ部Eとテーパ孔部18とを密着させることによって工具本体11の軸線OがアーバA、Aによる回転軸線に一致させられるとともに、角孔部20とドライブ部Dとの嵌合によって工具本体11がアーバA、Aと一体に前記工具回転方向Tに向けて回転される。
【0042】
工具本体11を軸線O回りに回転しつつ、前記アーバA、Aによってこれらと一体に軸線O方向両側に往復運動するように送りを与えることにより、ワークWの空洞部Cの内周の前記挿入孔H、Hの周辺に各挿入孔H側を向く端面15の取付座24に装着されたインサート50の円弧状切刃53によって、それぞれ軸線O上に中心P(P´)を有する球面R(R´)と同径の凹球面状の座ぐり部F、Fが形成されるとともに、これと同時に前記面取りチップ45の切刃によって、この座ぐり部Fと挿入孔Hとの交差稜線部に面取りを施す。
【0043】
さらに、アーバA、Aによる工具本体11の往復運動の送り量を、個々の座ぐり部Fを形成する各端面15の取付座24に装着されたインサート50の円弧状切刃53の回転軌跡がなす球面R(R´)の中心P(P´)同士の位置が互いに一致するように設定することにより、空洞部Cの両端に形成されるこれら座ぐり部F、Fがなす凹球面を、1つの球面Rに沿った凹球面とすることができるものである。
【0044】
この構成のインサート着脱式球面カッタ10によれば、工具本体11に、工具本体11径方向外側に向けてインサート50を押圧して円弧状切刃53の前記径方向位置を調整する第1押圧ピン31及び第1調整ネジ32(第1調整機構33)と、工具回転方向T前方側から見て前記径方向と交差する方向に向けてインサート50を押圧する第2押圧ピン35及び第2調整ネジ36(第2調整機構37)とが設けられているので、円弧状切刃53の位置を2方向に向けて移動させて調整することができ、この円弧状切刃53の位置調整を簡単に、かつ、精度良く行うことができる。
【0045】
したがって、円弧状切刃53が使用によって摩耗してインサート50を交換した場合でも、円弧状切刃53の位置を簡単にかつ精度良く調整して工具本体11の軸線上の一点を中心とした球面上に位置させることができ、ワークWの空洞部Cの内面に所定の径の球面状座ぐり部Fを精度良く形成することができる。
【0046】
また、取付座24に穿設されたクランプネジ孔25の中心が、取付座24に載置されたインサート50の挿通孔56よりも工具本体11径方向内側及び軸線O方向内側にわずかに偏心するように構成されているので、クランプネジ57によってインサート50が工具本体11径方向内側及び軸線O方向内側に向けて引き込まれるように固定されており、第1押圧ピン31や第2押圧ピン35によってインサート50を押圧していない状態では円弧状切刃53が工具本体11径方向内側及び軸線O方向内側に位置することになる。よって、第1調整ネジ32、第2調整ネジ36のねじ込み量を調整することで円弧状切刃53の位置を調整方向に進退可能に調整することができ、円弧状切刃53の位置調整がさらに簡単になる。
【0047】
また、本実施形態では、第1収容孔30が、軸線O方向から見て工具本体11径方向と直交するように、かつ、取付座24の工具回転方向T前方側を向く壁面24cに直交する方向に延びるように形成され、この第1収容孔30に第1押圧ピン31及び第1調整ネジ32が収容されているので、本実施形態のように取付座24の工具本体11径方向内側部分に前記取付孔17が形成されていて空間が少ない場合でも、円弧状切刃53の工具本体11径方向位置を調整することができる。
【0048】
また、本実施形態では、2つの第2収容孔34、34の1つが取付座24の径方向外側を向く壁面24bの近傍に配置され、もう1つが取付座24の径方向外側部分に配置されていて、工具本体11径方向において2つの第2収容孔34の間に前記クランプネジ57が位置するように構成されているので、これら2つの第2収容孔34、34に収容された第2調整ネジ36のねじ込み量をそれぞれ独立して調整することで第2押圧ピン35による押圧力を調整してインサート50をクランプネジ57を中心として僅かに回転させるようにしても円弧状切刃53の位置調整を行うことが可能となる。
【0049】
さらに、本実施形態においては、インサート50を押圧して円弧状切刃53の位置を精度良く調整することができるので、取付座24の寸法精度及びインサート50の形状を厳密に管理して、製造する必要がなく、これら取付座24及びインサート50の製造コスト及び管理コストの上昇を防止でき、この球面カッタ10の使用コストを大幅に低減することができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態であるインサート着脱式球面カッタについて説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、端面に2つの取付座を形成したものとして説明したが、取付座が1つ形成されたものであっても良いし、3つ以上形成されたものであっても良く、取付座の数についてはワークの材質や切削条件等を考慮して適宜設定することが好ましい。
また、インサートの形状を平行四辺形平板状のものとして説明したが、インサートの形状に限定はなく、円弧状切刃が軸線O方向外側に向けて配置できるものであれば良い。
【0051】
さらに、第1、第2調整ネジの係合孔を取付座の工具回転方向後方側に向けて露呈させたものとして説明したが、これに限定されることはなく、取付座の工具回転方向前方側に向けて露呈させたものであってもよい。
また、第1、第2調整機構として、第1、第2押圧ピン及び第1、第2調整ネジを備えたものとして説明したが、これに限定されることはなく、インサートをクサビ部材で押圧して円弧状切刃の位置を調整するものなどであっても良い。
また、工具本体の取付孔に角孔部を形成したもので説明したがこれに限定されることはなく、工具本体とアーバとを係合させて工具本体を回転させるトルク伝達部が形成されていれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態であるインサート着脱式球面カッタの側面図である。
【図2】図1におけるA方向矢視図である。
【図3】図1におけるB方向矢視図である。
【図4】図1におけるX−X断面図である。
【図5】図1におけるY−Y断面図である。
【図6】図1におけるZ−Z断面図である。
【図7】図1に示すインサート着脱式球面カッタによってワークを切削加工する状態を示す説明図である。
【図8】従来の球面カッタの側面図である。
【図9】図8に示す従来の球面カッタの正面図である。
【符号の説明】
【0053】
10 インサート着脱式球面カッタ
11 工具本体
15 端面
24 取付座
30 第1収容孔
31 第1押圧ピン
31a 第1押圧面
32 第1調整ネジ
33 第1調整機構
34 第2収容孔
35 第2押圧ピン
35a 第2押圧面
36 第2調整ネジ
37 第2調整機構
50 インサート
53 円弧状切刃(切刃)
【出願人】 【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
【出願日】 平成18年6月20日(2006.6.20)
【代理人】 【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武

【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男

【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和

【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦

【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子


【公開番号】 特開2008−829(P2008−829A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−169836(P2006−169836)