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【発明の名称】 長い有効寿命を有するコーティング工具
【発明者】 【氏名】エリッヒ ベルグマン

【要約】 【課題】優れた操作性と高い経済性を備え、長い有効寿命の切削エッジを形成することができる多層コーティングの切削工具を提供する。

【構成】少なくとも磨耗に曝される箇所を減圧中での処理によってコーティングした工具であり、コーティングは工具に直接堆積した少なくとも1種の硬質層と、前記硬質層に重ねた外側の少なくとも1種の摩擦低下層からなり、個々の層のコーンサイズは1μm未満の平均線幅を有する工具である。好ましくは、摩擦低下層のコーンサイズが0.1μm未満であり、硬質層が0.2ギガパスカルより高い圧縮内部応力を有し、硬質層が金属炭化物、金属窒化物、金属炭窒化物、およびチタン、ハフニウム、ジルコニウム、および前記金属と他の金属の合金からなる群より選択する。好ましくは、摩擦低下層は炭化タングステンのような金属炭化物と炭素を含んでなり、摩擦低下層の炭素分は61%より多い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも磨耗に曝される箇所を減圧中でのPVD処理によってコーティングした工具であり、コーティングが、金属炭化物、金属窒化物および/又は炭窒化物から形成された、工具に堆積した少なくとも1種の硬質層と、無定形炭素を含有する、前記硬質層に重ねた外側の少なくとも1種の摩擦低下層とからなる形式のものであって;
摩擦低下層が硬質層に被さって配置されており、硬質層が1.1〜8μmの厚さ、および平均線幅1μm未満のコーンサイズを有し、摩擦低下層が、1μm未満のコーンサイズで0.12μm〜1.6μmの厚さを有し、摩擦低下層の全炭素分が61%より多く、摩擦低下層の金属炭化物が、クロム、ケイ素、チタン又はタングステンから成る金属の少なくとも1種から形成されていることを特徴とする工具。
【請求項2】
硬質層中の金属が、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、および/又は他の金属との合金であり、摩擦低下層が、金属炭化物と炭素との混合物を含有する請求項1に記載の工具。
【請求項3】
硬質層がTiN又は(TiAlV6)Nを含有し、摩擦低下層が、金属炭化物と炭素との混合物である請求項1又は2に記載の工具。
【請求項4】
摩擦低下層が、WC/C層又はCrC/C層として形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の工具。
【請求項5】
硬質層が0.2ギガパスカルより高い圧縮内部応力を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の工具。
【請求項6】
摩擦低下層の厚さが硬質層の厚さの1/3の範囲にある、請求項1〜5のいずれか1項に記載の工具。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆した工具に関する。
【背景技術】
【0002】
金属やプラスチックの切削や成形過程に使用する工具は、有効寿命と処理条件の向上のためにコーティングすることが多い。CVDやPVDのような公知の方法がコーティングのために使用される。用いる層は硬質の層であり、一般にチタン、ハフニウム、又はジルコニウム、又はそれらの合金の窒化物、炭化物、炭窒化物で形成される。このような被覆した工具の各種用途は、例えば次の文献:「Proceedings of the 13th Plansee-Seminar, Plansee, 1993年3月、Proceedings of the 20th International Conference on Metallurgical Coatings, サンジエゴ、1993年4月」に記載されている。いくつかの材料の処理において、これらの層は、特に材料が層成の切削エッジを生じる傾向がある場合、常には所望の結果にならない。このことは、一方では、アルミニウムやチタン合金のように強い磨損傾向を有する材料、又はオーステナイト系ステンレス鋼や黄銅のような強い歪み焼き入れになりやすい材料に関係する。生じる損傷は工具のタイプに依存する。切削工具を用い、層成の切削エッジが、一方で引き裂かれているときの粘着磨耗の増加になり、他方で工具の品質に負の影響を有することがある。
【0003】
摩擦を下げる目的で硬質コーティングを備えた工具を形成することに関心が持たれているが、このようなコーティングを有していても、何らかの冷間溶接や汚れが工具の上で生じると、摩擦低下の効果が減少することがある。このような操作に適さない工具であってコーティングしていない場合、例えば殆どは破壊又はその他による損傷につながり、有効寿命の低下、洗浄又は保守作業の強化、又は工具品質の低下につながる。これらの問題を低減又は解決するために、未被覆の工具の潤滑を改良することによる対策が多く採用される。オイルやエマルジョンは、例えば親窒化チタン系切削用液の開発によって改良される。機器の装置的改良や工具の新しい設計が潤滑剤の供給を改良するために用いられる。特に、押抜き、深い圧押しにおいて材料の前処理が考えられる。しかしながら、これらの実現性は少なく、この他の実現性も製造に適する環境に関する努力を要するため、さらに制限されている。また、硬質材料を用いた改良の実現性も制約がある。炭窒化チタンコーティングの改良が市場に提供されて以来、この分野における次の大きな進歩は見られていない。
【0004】
機械工学の分野で一般に使用される例えば二硫化モリブデンとグラファイトの潤滑剤は、切削工具には良好でないことが分かっている。この種のコーティングは充分な耐磨耗性がなく、また剪断に対する充分な抵抗がないことが再三示されてきた。コーティングした工具は早期に磨耗し、有効寿命を向上させる有意な効果は見られていない。
【0005】
この問題を解決するために提案された別な対策として多層の使用があり、例えば欧州特許第0170359 号とフランス特許第2596775 号がある。フランス特許2596775 号において、窒化チタン層を有する工具をI−炭素からなる最終層でその上をコーティングすることが提案されている。切削工具のコーティングについて、その提案の解決策は、層の分離が低温の典型的に220℃以下でのみ可能であるため使用することができない。また、そのような低温で分離した切削工具の層の接着が充分でない。欧州特許第0170359 号明細書において、工具を非常に薄い多層系でコーティングし、これらの層が部分的に磨耗すると、別な領域が別な層で補われる工具表面に結びつけることが提案されている。実際の適用においては種々の問題がある。その発明が意図する表面は、磨耗が生じることにより平滑化した平面の表面にのみ生じることができる。工具において、このことは通常ではない。磨耗は主として切削エッジから或る傾きにおいて起きる。したがって、層は平坦ではなく、工具又は切削機により部分的に偏って研磨される。これらの条件下において多層は剥脱しやすく、即ち、潤滑剤として機能すべき層内部の破壊又は層間の密着した破壊の結果となる。この理由は材料が充分な引張強度を持たないためである。結果は殆ど全て硬質材料で形成された表面又は階段状面となる。提案の解決策は所望の結果となっていない。
【0006】
EP 0394661号において、炭素系の摩擦低下層の使用が開示されている。特定の工具用途についての特に良好な特性を有する層の系は、この明細書には開示されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、このような従来技術の欠点をなくすことである。主な目的はコーティング方法の高い操作性と高い経済性を備え、長い有効寿命に結びつく切削エッジを形成しやすい切削工具の層系を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題の解決は、請求項1の工具の設計、すなわち以下の工具によって達成される:
少なくとも磨耗に曝される箇所を減圧中でのPVD処理によってコーティングした工具であり、コーティングが、金属炭化物、金属窒化物および/又は炭窒化物から形成された、工具に堆積した少なくとも1種の硬質層と、無定形炭素を含有する、前記硬質層に重ねた外側の少なくとも1種の摩擦低下層とからなる形式のものであって;
摩擦低下層が硬質層に被さって配置されており、硬質層が1.1〜8μmの厚さ、および平均線幅1μm未満のコーンサイズを有し、摩擦低下層が、1μm未満のコーンサイズで0.12μm〜1.6μmの厚さを有し、摩擦低下層の全炭素分が61%より多く、摩擦低下層の金属炭化物が、クロム、ケイ素、チタン又はタングステンから成る金属の少なくとも1種から形成されていることを特徴とする工具。
【0009】
本発明にしたがうと、工具を硬質層でコーティングし、次いで摩擦低下層でコーティングする。コーティングは公知の減圧下での堆積法で行うことができ、例えば蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングのようなPVDである。公知のように、所望の層の組成はプロセスに供給する反応性ガスによって調節する。上記のプロセスの混合形態も可能なことは言うまでもない。特に好ましくは、金属炭化物、金属窒化物、金属炭窒化物、又はこれらの組み合わせからなる硬質コーティングである。適切な金属には例えばチタン、ハフニウム、ジルコニウム、又は主としてこれらの元素と他の元素からなる合金、およびこれらの組み合わせがある。プロセス条件は、硬質コーティングが好ましくは0.2ギガパスカル以上の内部圧縮応力を有するように選択すべきである。PVD法によって堆積する層は1μm未満の平均線幅のコーンサイズ(corn size) を有する。層のパラメーターの正確な調節は個々の場合に依存し、らせん状ドリルについては例えば厚さ約4μm、シャンク状のカッターについては約3μm、パンチについては約6μmの硬質層においてそれぞれ良好な結果が得られる。ここで、特定な場合においては、経済的理由や方法上の理由によって層の厚みを減らすことも可能であるが、1.1μm以下とすべきでない。硬質コーティングの化合物と合金の選択は既知の考察を基礎にすることができ、例えば温度調和性を向上するためのアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム等の合金、硬度を高めるための炭窒化物等の使用がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
摩擦低下層について、薄い厚さの層が極めて重要である。通常は硬質コーティングの厚さの約1/3が適切である。実用的な範囲は0.12〜1.6μmである。摩擦低下層の特に適切な材料は炭素を基礎にした層である。炭化物化合物と炭素、例えば炭化タングステンと炭素(WC/C)であって、合計炭素分が61%以上が特に適切である。ここで、他の炭化物、例えばクロム、ケイ素、チタンの炭化物、およびこれらの混合物も適切である。このような層をそれぞれ別個に形成する方法は例えば欧州特許第0394661 号に記載があり、この特許は本願でも参考にして含まれる。対応するPVD法と一緒に作成したこの種の摩擦低下材料は0.1μm未満の平均線幅(average linear width)を有する典型的なコーンサイズとなる。硬質層だけでなく、摩擦低下層もまたPVD法によって形成されるため、両者を同一機器の中で逐次容易かつ経済的に堆積させることができる。また、用途によって多層を予見し、層を変えることも可能である。
【0011】
次に例によって本発明を説明する。
【実施例】
【0012】
例1
16mmの直径とISO 1641/1タイプN.0110形状寸法を有する高速鋼S6-5-2仕上切削機の間で比較を行った。処理は充分に経時したアルミニウム合金Avional 100(AlCuMg1)の表面仕上とした。切削条件として、切削速度:240m/分、送り:0.3mm/歯、スリット深さ:16mmとした。3つのサンプルを試験した。
【0013】
a)被覆せず RA=4.1μm
b)3μmのTiNで被覆 RA=9.1μm
c)2.3μmのWC/Cで被覆 RA=2.1μm
d)3μmのTiNと1.0μmの RA=2.1μm
WC/C(炭素72%)で被覆
(RAは平均粗さ値を表す)
WC/Cで被覆したサンプルc)は、10分後のオープンスペース上のコーティングの磨耗によって被覆していないフライス切削機に比較した長所がなくなり、即ちコーティングが消失し、4.1μmの平均粗さとなった。窒化チタンのみで被覆したサンプルb)は、未被覆のサンプルa)よりもなお高い粗さ値を示す。比較は、平均粗さで表した加工物の表面品質に関係する。
【0014】
4番目の試験d)において、1番目と同じフライス切削機を1.0μmのWC/Cの下層の次に3μmのTiNで被覆した。下層は72%の合計炭素持分を有した。このようにして被覆したフライス切削機もまた、WC/C層で1度被覆したサンプルc)と同様に2.1μmの表面品質に達した。ここで、この改良された表面品質によって達することができる有効寿命は100分であり、劇的な増加を示した。
【0015】
例2
もう1つの試験において、ステンレス鋼の穿孔を試験した。使用したドリルは直径6mmの高速鋼42螺旋ドリルとした。選択した加工は、AISI316ステンレス鋼の深さ30mmの盲穴の穿孔とした。切削速度は6m/分とし、送りは旋回ごとに0.05mmとした。
【0016】
表1.
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ロット コーティング 方法 層の厚さ 有効寿命
材料 μm (穴の数)
───────────────────────────────────
A なし 50
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B Ti(C,N) Hイオンプレーティング 5 90
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C TiN+ Hイオンプレーティング 3 80
WC/C(55%C) スパッターCVD 2
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D Ti(Al,N) カソードスパッタリング 5 70
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E (TiAlV6)N カソードスパッタリング 3.5 140
+CrC/C(70%C) スパッターCVD 1.5
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F TiN+ Hイオンプレーティング 5 100
WC/C(65%C) スパッターCVD 0.1
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Hイオンプレーティング:高電流プラズマビームイオンプレーティング
【0017】
ロットAは被覆しておらず、50穴の有効寿命であった。ロットBは層の厚さ5μmのTiC又はTiNを高電流プラズマビームイオンプレーティングによって被覆し、到達の有効寿命は90穴であった。ロットCは硬質窒化チタン層を高電流プラズマビームイオンプレーティングによって被覆し、その上に炭素55%のWC/CをスパッターCVDによって堆積させた。硬質層は厚さ3μmであり、WC/C層は厚さ2μmであり、到達の有効寿命は80穴であった。ロットDは(Ti,Al)Nをカソードスパッタリングによって被覆し、到達の有効寿命は70穴であった。本発明による系EとFの層のみが、良好な切削品質を備えて重要な有効寿命の増加を示した。ロットEにおいて、厚さ3.5μmの(TiAlV6)Nの硬い層をカソードスパッタリングによって堆積させ、スパッターCVDによって炭素分70%のCrC/Cの厚さ1.5μmの摩擦低下層を上に重ね、140穴の有効寿命に達した。本発明の2番目の系Fの層は、高電流プラズマビームイオンプレーティングによって堆積させた厚さ5μmの硬い層と、その上にスパッターCVDによって重ねた炭素分65%の厚さ0.1μmのWC/C層からなった。
【0018】
例3
3番目の実験シリーズにおいて、黄銅の機械加工を試験した。使用したドリルは、硬質金属K40冷却チャンネルの直径3mmのドリルであった。穿孔した穴は黄銅CuZn37の中の連続穴とした。切削条件として、140m/分の切削速度、旋回ごとの0.1mmの送りとした。結果は次の通りであった。
【0019】
表2.
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ロット コーティング 方法 層の厚さ 有効寿命
材料 μm (穴の数)
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A TiN Hイオンプレーティング 2 360000
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B TiN+ Hイオンプレーティング 2 520000
WC/C(63%C) スパッターCVD 0.1
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C TiN+ Hイオンプレーティング 4 510000
WC/C(72%C) スパッターCVD 1
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【0020】
厚さ2μmのTiN硬質層で被覆したロットAのドリルは360000穴の有効寿命に達した。厚さ2μmのTiNと炭素分63%の厚さ0.1μmのWC/Cを有する本発明によるロットBは520000穴の有効寿命に達した。別の厚さ4μmのTiNと炭素分72%の1μmのWC/Cを有するロットCのコーティングは510000穴の有効寿命に達した。
【0021】
上記の例は、本発明による層の系は工具の有効寿命の重要な増加に結びつくことを示している。
【0022】
なお、本明細書中、炭素およびカーバイドの量比に関する「%」は、「at%」の意味である。
【出願人】 【識別番号】590000031
【氏名又は名称】オーツェー エルリコン バルツェルス アクチェンゲゼルシャフト
【出願日】 平成19年9月26日(2007.9.26)
【代理人】 【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤

【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬

【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次

【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫


【公開番号】 特開2008−12669(P2008−12669A)
【公開日】 平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願番号】 特願2007−249299(P2007−249299)