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【発明の名称】 刃先交換型切削チップ
【発明者】 【氏名】大森 直也

【氏名】岡田 吉生

【氏名】伊藤 実

【氏名】今村 晋也

【氏名】奥野 晋

【氏名】森本 浩之

【要約】 【課題】本発明の目的は、被覆層としてアルミナを用いた刃先交換型切削チップであって、Ti合金の切削加工用に特に適する刃先交換型切削チップを提供することにある。

【構成】本発明の刃先交換型切削チップは、基材と、該基材上の少なくとも一部に形成された被覆層とを有するものであって、この基材は、刃先稜線と逃げ面とすくい面とを有し、この被覆層は、α型の結晶構造を有するアルミナを主体として含む第1層とα型の結晶構造を有するアルミナ以外のアルミナを主体として含む第2層とを含み、該第1層または該第2層のいずれか一方の層は、逃げ面から刃先稜線を挟んですくい面へと繋がる領域において連続した状態で形成されており、該第1層は、逃げ面の少なくとも一部において最上層となり、該第2層は、すくい面の少なくとも一部において最上層となることを特徴としている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上の少なくとも一部に形成された被覆層とを有する刃先交換型切削チップであって、
前記基材は、刃先稜線と逃げ面とすくい面とを有し、
前記被覆層は、α型の結晶構造を有するアルミナを主体として含む第1層とα型の結晶構造を有するアルミナ以外のアルミナを主体として含む第2層とを含み、
前記第1層または前記第2層のいずれか一方の層は、前記逃げ面から前記刃先稜線を挟んで前記すくい面へと繋がる領域において連続した状態で形成されており、
前記第1層は、前記逃げ面の少なくとも一部において最上層となり、
前記第2層は、前記すくい面の少なくとも一部において最上層となることを特徴とする刃先交換型切削チップ。
【請求項2】
前記第2層は、前記逃げ面から前記刃先稜線を挟んで前記すくい面へと繋がる領域において連続した状態で形成されており、
前記第1層は、前記逃げ面の少なくとも一部において前記第2層上に形成されていることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ。
【請求項3】
前記第1層は、前記逃げ面から前記刃先稜線を挟んで前記すくい面へと繋がる領域において前記第2層上に連続した状態で形成された後、前記すくい面の少なくとも一部を含む領域から除去されていることを特徴とする請求項2記載の刃先交換型切削チップ。
【請求項4】
前記第1層は、前記逃げ面から前記刃先稜線を挟んで前記すくい面へと繋がる領域において連続した状態で形成されており、
前記第2層は、前記すくい面の少なくとも一部において前記第1層上に形成されていることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ。
【請求項5】
前記第2層は、前記逃げ面から前記刃先稜線を挟んで前記すくい面へと繋がる領域において前記第1層上に連続した状態で形成された後、前記逃げ面の少なくとも一部を含む領域から除去されていることを特徴とする請求項4記載の刃先交換型切削チップ。
【請求項6】
前記被覆層は、前記第1層および前記第2層とは異なる第3層を1層以上含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の刃先交換型切削チップ。
【請求項7】
前記第3層は、前記逃げ面の少なくとも一部または前記すくい面の少なくとも一部において最上層となることを特徴とする請求項6記載の刃先交換型切削チップ。
【請求項8】
前記第3層は、前記第1層と前記第2層との間に形成されていることを特徴とする請求項6または7に記載の刃先交換型切削チップ。
【請求項9】
前記第3層は、前記基材上に形成されていることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の刃先交換型切削チップ。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、刃先交換型切削チップ(スローアウェイチップと呼ぶこともある)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、着脱自在に工具に取り付けて被削材を切削加工する刃先交換型切削チップが知られている。このような刃先交換型切削チップは、耐摩耗性や靭性を向上させることを目的として、超硬合金やサーメットからなる基材上にセラミックス等の硬質被膜を形成する構成のものが多数提案されている。中でもアルミナは、耐摩耗性に優れるとともに基材の表面酸化を防止する効果が期待されることから、基材上に形成される被膜として古くから用いられてきた。
【0003】
近年、このようなアルミナの結晶構造に着目して、種々の結晶構造のアルミナをこのような被膜に用いることにより、耐摩耗性や靭性を向上させる提案が種々なされている(特許文献1〜5)。
【0004】
しかしながら、難削材といわれる材料の中でも特に重要な位置を占めるチタン合金の切削加工は、以下の(1)〜(3)に示す通り困難を伴い、被膜(被覆層)に上記のようなアルミナを用いた刃先交換型切削チップにおいてこのチタン合金の切削加工に必要な性能を十分に満たすものは未だに知られていない。
【0005】
(1)チタン合金の熱伝導率は小さいため、切削熱が発熱部の切れ刃のエッジ部およびすくい面に集中して、局部的に切削温度が上昇する。
【0006】
(2)チタン合金は化学的に活性で、このため切削工具材料(特に超硬合金の結合相であるCo)と反応して、化学的な拡散摩耗を促進させる。
【0007】
(3)チタン合金の切りくずは鋸刃状になり、切削抵抗が経時的に変化するので、切れ刃のチッピングや欠損が生じやすい。
【0008】
そして近年、チタン合金の切削加工において切削工程の省力化および短縮化に対する要求が高まっており、さらに苛酷な条件下での切削が行なわれる傾向にある。このような苛酷な条件下で切削を行なうと、摩耗および欠損により比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【特許文献1】特開平09−125250号公報
【特許文献2】特開平10−237652号公報
【特許文献3】特開平11−335816号公報
【特許文献4】特開2000−024808号公報
【特許文献5】国際公開第99/052662号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであってその目的とするところは、被覆層としてアルミナを用いた刃先交換型切削チップであって、Ti合金の切削加工用に特に適する刃先交換型切削チップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行なったところ、基材上にアルミナを含む被覆層を形成した刃先交換型切削チップにおいて、すくい面にはα型の結晶構造を有するアルミナ以外のアルミナを含む被覆層を形成させ、逃げ面にはα型の結晶構造を有するアルミナを含む被覆層を形成させると、耐摩耗性および耐欠損性が共に優れるという知見が得られ、この知見に基づきさらに研究を重ねることにより、ついに本発明を完成させるに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明の刃先交換型切削チップは、基材と、該基材上の少なくとも一部に形成された被覆層とを有するものであって、この基材は、刃先稜線と逃げ面とすくい面とを有し、この被覆層は、α型の結晶構造を有するアルミナを主体として含む第1層とα型の結晶構造を有するアルミナ以外のアルミナを主体として含む第2層とを含み、該第1層または該第2層のいずれか一方の層は、逃げ面から刃先稜線を挟んですくい面へと繋がる領域において連続した状態で形成されており、該第1層は、逃げ面の少なくとも一部において最上層となり、該第2層は、すくい面の少なくとも一部において最上層となることを特徴としている。
【0012】
また、上記第2層は、逃げ面から刃先稜線を挟んですくい面へと繋がる領域において連続した状態で形成されており、上記第1層は、逃げ面の少なくとも一部において上記第2層上に形成されていることが好ましい。また、上記第1層は、逃げ面から刃先稜線を挟んですくい面へと繋がる領域において上記第2層上に連続した状態で形成された後、上記すくい面の少なくとも一部を含む領域から除去されていることが好ましい。
【0013】
また、上記第1層は、逃げ面から刃先稜線を挟んですくい面へと繋がる領域において連続した状態で形成されており、上記第2層は、すくい面の少なくとも一部において上記第1層上に形成されていることが好ましい。また、上記第2層は、逃げ面から刃先稜線を挟んですくい面へと繋がる領域において上記第1層上に連続した状態で形成された後、上記逃げ面の少なくとも一部を含む領域から除去されていることが好ましい。
【0014】
また、上記被覆層は、第1層および第2層とは異なる第3層を1層以上含むことができ、この第3層は、逃げ面の少なくとも一部またはすくい面の少なくとも一部において最上層となることができる。
【0015】
また、上記第3層は、第1層と第2層との間に形成することができ、また上記基材上に形成することもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の刃先交換型切削チップは、上記の通りの構成を有することにより、Ti合金の切削加工用に特に適する(すなわち、優れた耐摩耗性と優れた耐欠損性とを有する)ものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。また、各図面はあくまでも説明用の模式的なものであって、被覆層の膜厚と基材とのサイズ比やコーナーのアール(R)のサイズ比は実際のものとは異なっている。
【0018】
<刃先交換型切削チップ>
本発明の刃先交換型切削チップは、基材と、該基材上の少なくとも一部に形成された被覆層とを有するものである。このような本発明の刃先交換型切削チップは、ドリル加工用、エンドミル加工用、フライス加工用、旋削加工用、メタルソー加工用、歯切工具加工用、リーマ加工用、タップ加工用またはクランクシャフトのピンミーリング加工用のものとして特に有用である。
【0019】
なお、本発明は、ネガティブタイプまたはポジティブタイプのいずれの刃先交換型切削チップに対しても有効であり、またチップブレーカが形成されているものおよびそれが形成されていないものの両者いずれに対しても有効である。
【0020】
<基材>
本発明の基材を構成する材料としては、このような刃先交換型切削チップの基材として知られる従来公知のものを特に限定なく使用することができる。たとえば、超硬合金(たとえばWC基超硬合金を含み、WCの他、Coを含み、あるいはさらにTi、Ta、Nb等の炭化物、窒化物、炭窒化物等を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化硅素、窒化硅素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、およびこれらの混合体など)、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、または窒化硅素焼結体等を挙げることができる。
【0021】
また、これらの基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば、超硬合金の場合はその表面に脱β層、β相富化層またはCo相富化層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていても良く、このように表面が改質されていても本発明の効果は示される。また、超硬合金やサーメットの場合、合金組織中の遊離炭素およびε相の存在の有無に関わらず本発明の効果は示される。
【0022】
一方、基材の形状は、このような刃先交換型切削チップの基材の形状として知られる従来公知のものを特に限定なく採用することができる。たとえば、基材表面(上面)に平行な断面形状で表せば、菱形、正方形、三角形、円形、楕円形等の形状のものが含まれる。
【0023】
そして、このような基材8は、刃先稜線4と逃げ面3とすくい面2とを有するものである。たとえば図1に示したように、本発明のような刃先交換型切削チップ1は、その刃先稜線4の周辺部が被削材5に接し、逃げ面3が被削材5と対面するのに対してそのすくい面2が切り屑6側に位置するものとなり、この刃先稜線4が被削材5に対する切削作用の中心的作用点となる。
【0024】
なお、図2に示すように、この逃げ面3とすくい面2とは刃先稜線4を挟んで繋がるという関係を有している。また、2つの逃げ面3と1つのすくい面2とが交差する交点はコーナー9と呼ばれ、切削作用の最も中心的作用点となる場合が多い。
【0025】
また、上記刃先稜線4は図2では直線状に形成されているがこれのみに限られるものではなく、たとえば円周状のもの、波打ち状のもの、湾曲状のもの、または屈折状のもの等も含まれる。また、このような刃先稜線やコーナー、あるいはその他の稜に対しては、面取り加工および/またはコーナーのアール(R)付与加工等の刃先処理加工を施すことができる。しかし、このような刃先処理加工等により刃先稜線が明瞭な稜を構成しなくなったり、コーナーが明瞭な交点を形成しなくなった場合には、たとえば図3に示すようにそのような刃先処理加工等がされた刃先稜線に続くすくい面2および逃げ面3に対して刃先処理加工等がされない状態を想定してそれぞれの面を幾何学的に延長させることにより双方の面が交差する稜や交点を仮定的な稜や交点と定め、その仮定的に定められた稜を刃先稜線4とし、仮定的に定められた交点をコーナーとするものとする。
【0026】
なお、すくい面と逃げ面とが刃先稜線を挟んで繋がるという表現、あるいは逃げ面から刃先稜線を挟んですくい面へと繋がるという表現、およびこれらに類似する表現は、いずれも刃先稜線に対して上記のような刃先処理加工が施された場合をも含むものとする。すなわち、これらの表現は、すくい面と逃げ面とが面取り加工および/またはアール(R)付与加工等が施された刃先稜線部(このように面取り加工および/またはアール(R)付与加工等が施された刃先稜線を刃先稜線部と呼ぶ場合がある)を挟んで繋がる場合をも含むものである。また同様に、2つの逃げ面と1つのすくい面とが交差する交点という表現およびこれに類似する表現は、いずれもそのコーナーに対して上記のような刃先処理加工が施された場合をも含むものとする。
【0027】
なお、本発明で用いる逃げ面、すくい面、刃先稜線およびコーナー等という用語は、基材の表面部だけに限って用いられる用語ではなく、刃先交換型切削チップ1の最表面部に位置する部分や面とともに、後述する各被覆層の表面部や内部等に位置する相当部分に対しても用いられる。
【0028】
また、本発明の基材には、刃先交換型切削チップ1を工具に取り付ける固定孔として使用される貫通孔7が、上面と底面を貫通するように形成されていても良い。必要に応じ、この固定孔の他にまたはその代わりに、別の固定手段を設けることもできる。
【0029】
<被覆層>
本発明の被覆層14は、たとえば図3に示したように上記基材8上の少なくとも一部に形成されるものであって、α型の結晶構造を有するアルミナを主体として含む第1層11とα型の結晶構造を有するアルミナ以外のアルミナを主体として含む第2層12とを含むものである。なお、この被覆層14は、第1層および第2層とは異なる第3層を1層以上含むことができる。
【0030】
このような被覆層14は、基材8上の少なくとも一部に形成されるものである。すなわち、この被覆層14は、その基材8の全面を覆うようにして形成されていても良いし、あるいはその基材8の表面を部分的に覆うようにして形成されていても良い。このように被覆層14は、必ずしも基材8の全面を覆うようにして形成する必要はなく、被覆層14が形成されていない部分が含まれていても本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0031】
本発明の被覆層14の厚み(全体の厚み)は、0.05μm以上30μm以下であることが好ましい。その厚みが0.05μm未満の場合、耐摩耗性等の諸特性の向上作用が十分に示されないためであり、一方、30μmを超えてもそれ以上の諸特性の向上が認められないことから経済的に有利ではない。しかし、経済性を無視する限りその厚みは30μm以上としても何等差し支えなく、本発明の効果は示される。このような厚みの測定方法としては、たとえば刃先交換型切削チップを切断し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察することにより測定することができる。
【0032】
なお、本発明の被覆層14は、上記の通り第1層、第2層および第3層を含み得るものであり、これらの各層は後述のように各種の積層構成をとり得るものであるが、各層が互いに接する界面付近においては各層の組成が混在する混在層が存在する場合がある。しかし、このような混在層が含まれているとしても本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0033】
<第1層>
本発明の第1層は、α型の結晶構造を有するアルミナ(本発明では単にα−Al23と記すこともある)を主体として含むものである。ここで、α型の結晶構造を有するアルミナを主体として含むとは、X線回折法(XRD)の測定結果においてアルミナに関する回折角度と回折強度のデータを収集することにより、その強度が最大となるものから順にその大きさが5番目のものまでの5つの強度データ(すなわち5つのピーク)を確認し、その5つのデータのうち3つ以上のデータがα−Al23に関するものである場合をいうものとする。この場合、面間隔d(Å)が3.47、2.55、2.37、2.08、1.74、1.60、1.40および1.37である計8個のピーク位置(小数第3位以下は切り捨て)にあるピークをα−Al23に関するピークとする。
【0034】
なお、この面間隔dはJCPDS(Joint Comittee on Powder Diffraction Standards)のNo.46−1212およびNo.010−0173(Huang,T.,Parrish,W.,Masciocchi,N.,Wang,P.,Adv.X−Ray Anal.,33,295.(1990)、Acta Crystallogr.,Sec.B:Structural Science.49,973,(1993))を基準とするものである。
【0035】
なお、上記において明瞭なピークが4つ以下しか確認されない場合は、以下の基準に従うものとする。すなわち、ピークが3つまたは4つの場合、そのうち2つ以上のピークがα−Al23に関するものであればα型の結晶構造を有するアルミナを主体として含むものとする。また、ピークが2つの場合は、ピーク強度の高い方のピークがα−Al23に関するものであればα型の結晶構造を有するアルミナを主体として含むものとし、ピークが1つの場合は、そのピークがα−Al23に関するものであればα型の結晶構造を有するアルミナを主体として含むものとする。なお、上記の判断が困難となる場合は透過型電子顕微鏡観察による同定を併用するものとする。
【0036】
なお、この第1層はアルミナ(α型以外のものも含む)を50質量%以上含有するものとする。また、この第1層にα−Al23以外のものが含まれる場合は、通常それらはα型以外の結晶構造を有するアルミナやアモルファス状態のアルミナとなるが、これらのみに限られるものではない。たとえば、このようなアルミナ以外の成分としては、ZrO2、Y23(アルミナにZrやYが添加されたとみることもできる)等を挙げることができ、また塩素、炭素、ホウ素、窒素等を含んでいても良い。
【0037】
また、この第1層の厚みは、0.05μm以上15μm以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.1μm以上10μm以下である。0.05μm未満では、本発明の効果が示されない場合があるとともに所定部位に均一に被覆することが工業的に困難となる。また、15μmを超えても機能に大差なく、却って経済的に不利となる。この厚みの測定方法としては、上記と同様の測定方法を採用することができる。
【0038】
<第2層>
本発明の第2層は、α型の結晶構造を有するアルミナ以外のアルミナを主体として含むものである。ここで、α型の結晶構造を有するアルミナ以外のアルミナとしては、α型以外の結晶構造(たとえばγ型、δ型、η型、θ型、κ型、ρ型、χ型等)を有するアルミナをはじめアモルファス状態のアルミナ等を挙げることができる。また、α型の結晶構造を有するアルミナ以外のアルミナを主体として含むとは、XRDの測定結果が上記の第1層についての測定結果以外の結果を示すアルミナを含み、アルミナの合計量が50質量%以上となるものをいう。
【0039】
この第2層は、より好ましくはκ型の結晶構造を有するアルミナ(本発明では単にκ−Al23と記すこともある)を主体として含む層であり、あるいはまたγ型の結晶構造を有するアルミナ(本発明では単にγ−Al23と記すこともある)を主体として含む層である。
【0040】
この場合、κ型の結晶構造を有するアルミナを主体として含むとは、XRDの測定結果においてアルミナに関する回折角度と回折強度のデータを収集することにより、その強度が最大となるものから順にその大きさが5番目のものまでの5つの強度データ(すなわち5つのピーク)を確認し、その5つのデータのうち3つ以上のデータがκ−Al23に関するものである場合をいうものとする。この場合、面間隔d(Å)が3.04、2.80、2.57、2.32、2.11、1.64、1.43および1.39である計8個のピーク位置(小数第3位以下は切り捨て)にあるピークをκ−Al23に関するピークとする。
【0041】
なお、この面間隔dはJCPDSのNo.052−0803およびNo.004−0878(Halvarsson,M.,Langer,V.,Vuorinen,S.,Powder Diffraction,14,61,(1999)、Yourdshahyan,Y.,Ruberto,C.,Halvarsson,M.,Bengtsson,L.,Langer,V.,Lundqvist,B.,J.Am.Ceram.Soc.,82,1365.(1999)、Stumpf et al.,Ind.Eng.Chem.,42,1398,(1950))を基準とするものである。
【0042】
なお、上記において明瞭なピークが4つ以下しか確認されない場合は、以下の基準に従うものとする。すなわち、ピークが3つまたは4つの場合、そのうち2つ以上のピークがκ−Al23に関するものであればκ型の結晶構造を有するアルミナを主体として含むものとする。また、ピークが2つの場合は、ピーク強度の高い方のピークがκ−Al23に関するものであればκ型の結晶構造を有するアルミナを主体として含むものとし、ピークが1つの場合は、そのピークがκ−Al23に関するものであればκ型の結晶構造を有するアルミナを主体として含むものとする。なお、上記の判断が困難となる場合は透過型電子顕微鏡観察による同定を併用するものとする。
【0043】
また、上記の面間隔dにおいて1.39Åは、後述のγ−Al23と重複する。このため、面間隔dとして1.39Åを含む場合はそのピークを除外して上記の判断を行なうものとする。ただし、面間隔dとして1.39Åのピークのみが確認される場合は、透過型電子顕微鏡により観察して同定するものとする。
【0044】
なお、この第2層がκ型の結晶構造を有するアルミナを主体として含む層である場合において、この第2層にκ−Al23以外のものが含まれる場合は、通常それらはκ型以外の結晶構造を有するアルミナやアモルファス状態のアルミナとなるが、これらのみに限られるものではない。たとえば、このようなアルミナ以外の成分としては、ZrO2、Y23(アルミナにZrやYが添加されたとみることもできる)等を挙げることができ、また塩素、炭素、ホウ素、窒素等を含んでいても良い。
【0045】
一方、同様にしてγ型の結晶構造を有するアルミナを主体として含むとは、XRDの測定結果においてアルミナに関する回折角度と回折強度のデータを収集することにより、その強度が最大となるものから順にその大きさが5番目のものまでの5つの強度データ(すなわち5つのピーク)を確認し、その5つのデータのうち3つ以上のデータがγ−Al23に関するものである場合をいうものとする。この場合、面間隔d(Å)が4.56、2.39、2.28、1.97および1.39である計5個のピーク位置(小数第3位以下は切り捨て)にあるピークをγ−Al23に関するピークとする。
【0046】
なお、この面間隔dはJCPDSのNo.010−0425(Similar powder data given in second edition,page 384(1961).Synthetic form. Slow transition to corundum at 1000 C.)を基準とするものである。
【0047】
なお、上記において明瞭なピークが4つ以下しか確認されない場合は、以下の基準に従うものとする。すなわち、ピークが3つまたは4つの場合、そのうち2つ以上のピークがγ−Al23に関するものであればγ型の結晶構造を有するアルミナを主体として含むものとする。また、ピークが2つの場合は、ピーク強度の高い方のピークがγ−Al23に関するものであればγ型の結晶構造を有するアルミナを主体として含むものとし、ピークが1つの場合は、そのピークがγ−Al23に関するものであればγ型の結晶構造を有するアルミナを主体として含むものとする。なお、上記の判断が困難となる場合は透過型電子顕微鏡観察による同定を併用するものとする。
【0048】
また、上記の通り、面間隔dにおいて1.39Åは、上記κ−Al23と重複する。このため、面間隔dとして1.39Åを含む場合はそのピークを除外して上記の判断を行なうものとする。ただし、面間隔dとして1.39Åのピークのみが確認される場合は、上記同様透過型電子顕微鏡により観察して同定するものとする。
【0049】
なお、この第2層がγ型の結晶構造を有するアルミナを主体として含む層である場合において、この第2層にγ−Al23以外のものが含まれる場合は、通常それらはγ型以外の結晶構造を有するアルミナやアモルファス状態のアルミナとなるが、これらのみに限られるものではない。たとえば、このようなアルミナ以外の成分としては、ZrO2、Y23(アルミナにZrやYが添加されたとみることもできる)等を挙げることができ、また塩素、炭素、ホウ素、窒素等を含んでいても良い。
【0050】
また、この第2層の厚みは、0.05μm以上15μm以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.1μm以上10μm以下である。0.05μm未満では、本発明の効果が示されない場合があるとともに所定部位に均一に被覆することが工業的に困難となる。また、15μmを超えても機能に大差なく、却って経済的に不利となる。この厚みの測定方法としては、上記と同様の測定方法を採用することができる。
【0051】
<第3層>
本発明の被覆層は、上記第1層および上記第2層とは異なる第3層を1層以上含むことができる。このような第3層としては、周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hf等)、Va族元素(V、Nb、Ta等)、VIa族元素(Cr、Mo、W等)、Al、およびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属によって構成される層、または該金属の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成される層とすることができる。
【0052】
このような第3層を構成する上記金属または化合物としては、たとえばCr、Ti、Al、Si、V、Zr、Hf、TiC、TiN、TiCN、TiNO、TiCNO、TiB2、TiBN、TiBNO、TiCBN、ZrC、ZrO2、HfC、HfN、TiAlN、AlCrN、CrN、VN、TiSiN、TiSiCN、AlTiCrN、TiAlCN、ZrCN、ZrCNO、AlN、AlCN、ZrN、TiAlC等を挙げることができる。なお、上記化合物の組成比(原子比)は、従来公知のように金属と金属以外の元素(炭素、窒素、酸素、硼素)との原子比が必ずしも1:1に限定されるわけではなく、金属1に対して、後者の元素を0.5〜1程度とすることができる(たとえばTiabとした場合であってa+b=100原子%とする場合、bは35〜50原子%程度となる)。また、後者の元素が複数の元素で構成される場合は、各元素の原子比は必ずしも等比に限定されるわけではなく、従来公知の原子比を任意に選択することができる。したがって、以下の実施例等において当該化合物を表す場合において特に断りのない場合は、その化合物を構成する原子比は従来公知の原子比を任意に選択することができるものとする。
【0053】
そして、このような第3層を形成する各層のうち、上記第1層または上記第2層と接する層(特に上記第1層または上記第2層の下層として形成されることが好ましく、第3層が基材と上記第1層または上記第2層との間に複数形成される場合において第3層の最上層として形成することが好ましい)は、Tiと、炭素、窒素、酸素またはホウ素の1種以上の元素と、を少なくとも含む化合物によって形成されることが好ましい。これにより、第1層または第2層が剥離することを極めて有効に防止することができるという極めて有利な効果が示される。これは、恐らく上記Tiと、炭素、窒素、酸素またはホウ素の1種以上の元素と、を少なくとも含む化合物からなる層と、上記第1層または上記第2層との間で極めて高い密着性が得られるためであると考えられる。
【0054】
このようなTiと、炭素、窒素、酸素またはホウ素の1種以上の元素と、を少なくとも含む化合物としては、TiN、TiCN、TiBN、TiCBN、TiBNO、TiNO、TiCNO等を挙げることができる。なお、これらの化合物は、非化学量論域の組成を有することができる。
【0055】
そして特に、この化合物としては、TiBXY(ただし式中、X、Yはそれぞれ原子%であって、0.001<X/(X+Y)<0.04である)で表される硼窒化チタン、またはTiBXYZ(ただし式中、X、Y、Zはそれぞれ原子%であって、0.0005<X/(X+Y+Z)<0.04であり、かつ0<Z/(X+Y+Z)<0.5である)で表される硼窒酸化チタンであることが好ましい。これらの化合物を使用すれば、上記第1層または上記第2層との間で特に優れた密着性が得られるからである。
【0056】
上記TiBXYにおいて、X/(X+Y)が0.001以下になると、上記第1層または上記第2層に対して優れた密着性を示さない場合があり、逆に0.04以上になると、被削材との反応性が高くなりこの層が表面に露出した場合に被削材と反応して、その溶着物が刃先に強固に付着し被削材の外観を害する場合がある。X/(X+Y)は、より好ましくは0.003<X/(X+Y)<0.02である。なお、上記式においてTiとBNの合計との原子比は、既に説明したように1:1である必要はない。
【0057】
また、上記TiBXYZにおいて、X/(X+Y+Z)が0.0005以下になると、上記第1層または上記第2層に対して優れた密着性を示さない場合があり、逆に0.04以上になると、被削材との反応性が高くなりこの層が表面に露出した場合に被削材と反応して、その溶着物が刃先に強固に付着し被削材の外観を害する場合がある。X/(X+Y+Z)は、より好ましくは0.003<X/(X+Y+Z)<0.02である。また、Z/(X+Y+Z)が0.5以上になると、膜の硬度は高くなるものの靭性が低下し耐欠損性が低くなってしまう場合がある。Z/(X+Y+Z)は、より好ましくは0.0005<Z/(X+Y+Z)<0.3である。なお、上記式においてTiとBNOの合計との原子比は1:1である必要はない。
【0058】
このような第3層の厚み(2以上の層として形成される場合は全体の厚み)は、0.05μm以上30μm以下であることが好ましい。厚みが0.05μm未満では耐摩耗性等の諸特性の向上作用が十分に示されず、逆に30μmを超えてもそれ以上の諸特性の向上が認められないことから経済的に有利ではない。しかし、経済性を無視する限りその厚みは30μm以上としても何等差し支えなく、本発明の効果は示される。このような厚みの測定方法としては、上記と同様の測定方法を採用することができる。
【0059】
<被覆層の積層状態>
本発明の被覆層14は、たとえば図3または図9に示したように、上記第1層11または上記第2層12のいずれか一方の層が逃げ面3から刃先稜線4を挟んですくい面2へと繋がる領域において連続した状態で形成されており、かつ該第1層11は逃げ面3の少なくとも一部において最上層となり、該第2層12はすくい面2の少なくとも一部において最上層となることを特徴としている。このような構成としたことにより、本発明の刃先交換型切削チップは、従来の刃先交換型切削チップに比べて耐摩耗性および耐欠損性が飛躍的に向上し、Ti合金の切削加工において特に好適に用いることができるようになったものである。
【0060】
なお、該第1層11が逃げ面3の少なくとも一部において最上層となり、該第2層12がすくい面2の少なくとも一部において最上層となっていることは、次のようにして確認することができる。すなわち、刃先交換型切削チップの製造技術上この刃先稜線4上において逃げ面およびすくい面の第1層と第2層の境界(刃先交換型切削チップの上方向または下方向から見た2次元的な境界)を正確に一致させることは困難であるため、この刃先稜線4に対して各々少なくとも0.05mm離れた領域における少なくとも一部において逃げ面3およびすくい面2の各々の最上層のアルミナの結晶構造をXRDで測定し、その測定結果が上記で説明した定義を満たす限り上記の条件は満たされるものとする。
【0061】
ここで、逃げ面から刃先稜線を挟んですくい面へと繋がる領域とは、その領域の最大範囲は基材の全表面と一致するものであるが、そのような最大範囲のみを意味するものではなく、刃先稜線を挟んで少なくとも1つの逃げ面と少なくとも1つのすくい面とにまたがるような領域をも含むものである。また、当該領域は、その逃げ面およびすくい面の全面を覆うものであっても良いし、その一部分のみを覆うものであっても良い。
【0062】
当該領域を上記のように規定したのは、当該領域は好ましくは基材の全表面を示すものであるが、切削工具に取り付けられる部位である座面や切削に全く関与しない領域に対してまで当該層が形成されている必要のないことを明確にしたものである。
【0063】
一方、上記領域において連続した状態で形成されているとは、連続状の単一層として形成されていることをいう。
【0064】
このような被覆層の積層態様は、さらに上記第2層12が逃げ面3から刃先稜線4を挟んですくい面2へと繋がる領域において連続した状態で形成されており、かつ上記第1層11が逃げ面3の少なくとも一部において上記第2層12上に形成されていることにより、該第1層11は逃げ面3の少なくとも一部において最上層となり、該第2層12はすくい面2の少なくとも一部において最上層となることが好ましい(たとえば図3、図4、図6)。
【0065】
また、上記の積層態様を構成する場合、上記第1層11は、逃げ面3から刃先稜線4を挟んですくい面2へと繋がる領域において上記第2層12上に連続した状態で形成された後、上記すくい面2の少なくとも一部を含む領域から除去されていることが好ましい。このような構成とすることにより、極めて生産性高く刃先交換型切削チップを製造することができるからである。
【0066】
一方、上記第1層11は、逃げ面3から刃先稜線4を挟んですくい面2へと繋がる領域において連続した状態で形成されており、上記第2層12は、すくい面2の少なくとも一部において上記第1層11上に形成されていることにより、該第1層11は逃げ面3の少なくとも一部において最上層となり、該第2層12はすくい面2の少なくとも一部において最上層となることが好ましい(たとえば図9、図10、図12)。
【0067】
上記のような積層態様を構成する場合、上記第2層12は、逃げ面3から刃先稜線4を挟んですくい面2へと繋がる領域において上記第1層11上に連続した状態で形成された後、上記逃げ面3の少なくとも一部を含む領域から除去されていることが好ましい。このような構成とすることにより、極めて生産性高く刃先交換型切削チップを製造することができるからである。
【0068】
なお、本発明において第1層が逃げ面の少なくとも一部において最上層となるとは、本来的に第1層は逃げ面の全面において最上層となることが好ましいが、切削に全く関与しない領域においてまで第1層が最上層になっているか否かはあまり問題とならないため、必ずしも逃げ面の全面において第1層が最上層となることが必要とされないことを明確にしたものである。また、同様にして第2層がすくい面の少なくとも一部において最上層となるとは、必ずしもすくい面の全面において第2層が最上層となることが必要とされないことを明確にしたものである。
【0069】
また一方、被覆層14が上記第1層11および上記第2層12以外にこれらと異なる上記第3層13を含む場合、このような第3層13は逃げ面3の少なくとも一部またはすくい面2の少なくとも一部において最上層となることができる(たとえば図5、図7、図8、図11、図13、図14)。
【0070】
本発明においては、上記の通り、逃げ面3の少なくとも一部において第1層11が最上層となり、またすくい面2の少なくとも一部において第2層12が最上層となることにより、優れた耐摩耗性と優れた耐欠損性を有した構成となる。しかし、逃げ面3の最上層である第1層11上にさらに第3層13を形成しこの第3層13を逃げ面3上の最上層としたり、あるいはすくい面2の最上層である第2層12上にさらに第3層13を形成しこの第3層13をすくい面2の最上層としても、本発明の上記のような優れた効果は発揮される。このような第3層は、切削初期において摩滅してしまうため切削性能にあまり影響することはなく、逆に第1層または第2層とは異なった色彩を有する第3層を用いることによりその第3層の残存状態によって使用された刃先を認識することができるというメリットを有するからである。なお、この積層態様で第3層を形成する場合、該第3層は第1層および第2層よりも摩耗し易い素材により形成することが好ましく、またその厚みを3μm以下、より好ましくは2μm以下とすることが好適である。
【0071】
さらに、上記第3層は、第1層と第2層との間に形成させることができるとともに(たとえば図5、図6、図7、図8、図11、図12、図13)、上記基材上に形成させることもできる(たとえば図4〜8、図10〜14)。このような積層態様とすることにより、耐摩耗性および耐欠損性の更なる向上が図られるとともに、とりわけ基材と第1層または第2層との密着性および第1層と第2層との密着性を向上させることができる。
【0072】
また、特に第1層と第2層との間に第3層を形成する場合には、上記のような効果に加えてさらに下記のような効果を奏することができる。たとえば、図5、図6のように第2層12上に第3層13を形成し、さらにその上に第1層11を形成する場合において、後述のようにこれらの3層全てを逃げ面から刃先稜線を挟んですくい面へと繋がる領域において連続した状態で形成し、その後第1層11をすくい面2の少なくとも一部を含む領域から除去する場合、この第3層は次のような有利な効果を示すことができる。すなわち、この第3層をたとえばTiN(金色)で形成すると、アルミナは結晶構造に関係なく通常黒色を呈するためこの第1層および第2層に対して明瞭な色のコントラストを形成することができ、以って第1層をすくい面から除去する際、この第1層が除去されているか否かをこの色のコントラストにより明確に認識することができる。しかも、すくい面の表面を構成する層がいずれの層であるかを同時にこの色のコントラストにより認識することができるため、所望の積層構成の刃先交換型切削チップを製造するに際し直接目視によりその製造工程を制御することが可能となる。この目視による制御は、工業上極めて有利となる。
【0073】
なお、上記において図3〜図14を用いて本発明の積層態様を説明したが、本発明の積層態様はこれらの図3〜14に限られるものではない。
【0074】
<製造方法>
本発明の上記第1層、第2層および第3層は、公知の化学的蒸着法(CVD法)、または物理的蒸着法(PVD法、なおスパッタリング法等も含む)により形成することができ、その形成方法は何等限定されるものではない。
【0075】
たとえば、第1層を化学的蒸着法により形成する場合は、その形成初期においてα型の結晶構造を有するアルミナの核形成を促進するためCOガスを供給することが好ましい。なお、核形成後に引き続きCOガスを供給する必要はなく、核成長後においてはCOガスの提供を停止することが好適であるがこのような方法のみに限定されるものではない。
【0076】
また、第1層と第2層とを物理的蒸着法により形成する場合は、α型の結晶構造を有するアルミナの形成温度とα型の結晶構造を有するアルミナ以外のアルミナの形成温度との差を利用して形成することができる。
【0077】
また、第3層を公知のCVD法を用いて形成する場合には、MT−CVD(medium temperature CVD)法により形成された層を第3層の少なくとも1層として含むことが好ましい。特にその方法により形成した耐摩耗性に優れる炭窒化チタン(TiCN)層を含むことが最適である。従来のCVD法は、約1020〜1030℃で成膜を行なうのに対して、MT−CVD法は約850〜950℃という比較的低温で行なうことができるため、成膜の際加熱による基材のダメージを低減することができる。したがって、MT−CVD法により形成した層は、基材に近接させて備えることがより好ましい。また、成膜の際に使用するガスは、ニトリル系のガス、特にアセトニトリル(CH3CN)を用いると量産性に優れて好ましい。なお、上記のようなMT−CVD法により形成される層と、HT−CVD(high temperature CVD、上記でいう従来のCVD)法により形成される層とを積層させた複層構造のものとすることにより、これらの被覆層の層間の密着力が向上する場合があり、好ましい場合がある。
【0078】
本発明においては、上記のような方法を採用して上記第1層と上記第2層の両者を逃げ面から刃先稜線を挟んですくい面へと繋がる領域において連続した状態で形成し、その後いずれか一方の層を特定の領域から除去することにより製造することが特に好ましい。本発明の構成の刃先交換型切削チップを効率良く製造することができるからである。
【0079】
具体的には、第2層上に第1層を連続状態で形成した場合には、この第1層をすくい面の少なくとも一部を含む領域から除去することになる。これにより、逃げ面の最上層を第1層とするとともにすくい面の最上層を第2層とすることができる。したがって、本発明においてこの第1層をすくい面の少なくとも一部を含む領域から除去するとは、すくい面の少なくとも一部において上記第2層が最上層となるように所望される領域から第1層を除去することを意味するものである。
【0080】
一方、第1層上に第2層を連続状態で形成した場合には、この第2層を逃げ面の少なくとも一部を含む領域から除去することになる。これにより、逃げ面の最上層を第1層とするとともにすくい面の最上層を第2層とすることができる。したがって、本発明においてこの第2層を逃げ面の少なくとも一部を含む領域から除去するとは、逃げ面の少なくとも一部において上記第1層が最上層となるように所望される領域から第2層を除去することを意味するものである。
【0081】
なお、上記のように第1層と第2層の両者を逃げ面から刃先稜線を挟んですくい面へと繋がる領域において連続した状態で形成する場合であって、これら両者を互いに接するようにして形成する場合は、上記した各製造方法においてその製造条件を傾斜的に変更することによりその組成を傾斜的に連続して変化させたものとすることができる。この場合、第1層と第2層との間で明確な界面が存在しないこととなるが、このような場合であっても本発明の範囲を逸脱するものではない。すなわち、このような層の上面と下面とにおいてそれぞれ上記のようにして特定される組成を有する限り、この層は第1層と第2層とを含むものとみなす。
【0082】
また一方、第3層を上記のような方法を採用して第1層と第2層との間に形成したり、第1層または第2層上に形成する場合は、上記と同様にしてこの第3層を逃げ面から刃先稜線を挟んですくい面へと繋がる領域において連続した状態で形成し、その後特定の領域からこの第3層を除去することにより製造することが好ましい。本発明の構成の刃先交換型切削チップを効率良く製造することができるからである。
【0083】
なお、本発明において上記のように第1層、第2層または第3層を所望の領域から除去する方法としては、従来公知の種々の方法を採用することができ、その方法は何等限定されるものではない。たとえば、従来公知のブラスト処理、ブラシ処理またはバレル処理等を施すことによって所望の領域から所望の層を除去することができる。しかし、このような方法のみに限られるものではない。
【0084】
<圧縮応力>
被覆層14は、少なくともその一部において圧縮応力を有していることが好ましい。ここにおける一部という表現は、被覆層のうちのいずれか1以上の層という態様と、面積的に被覆層全体のうちのいずれか一部分という態様と、いずれか1以上の層の面積的に一部分という態様のいずれをも含み得る概念である。
【0085】
特に、本発明の第1層または第2層のいずれか1以上の層は、少なくともその一部において圧縮応力を有していることが好ましく、これによりその用途によっては刃先交換型切削チップの刃先強度を効果的に向上させることができる。
【0086】
そして、特に好ましくは、この第1層または第2層のいずれか1以上の層は、切削に関与する部位において圧縮応力を有していることが好適である。最も直接的に靭性の向上に寄与することができるからである。ここで、切削に関与する部位とは、刃先交換型切削チップの形状、被削材の種類や大きさ、切削加工の態様等により異なるものであるが、通常被削材が接触する(または最接近する)刃先稜線から逃げ面側およびすくい面側にそれぞれ3mmの幅を有して広がった領域を意味するものとする。
【0087】
なお、圧縮応力を付与する方法は、圧縮応力を付与しようとする被覆層をまず形成した後に、ブラスト処理、ブラシ処理またはバレル処理等を該層(あるいは該層の所望される部位)に対して施すことにより行なうことが好ましい。なお、ブラスト処理を行なう場合は、逃げ面および/またはすくい面に対してほぼ垂直方向からスラリーを照射しても良いし、逃げ面またはすくい面のいずれか一方の面に対して所定の角度を有する方向からスラリーを照射することにより複数の面を同時に処理しても良い。
【0088】
ここで、圧縮応力とは、このような被覆層に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、「−」(マイナス)の数値(単位:本発明では「GPa」を使う)で表される応力をいう。このため、圧縮応力が大きいという概念は、上記数値の絶対値が大きくなることを示し、また、圧縮応力が小さいという概念は、上記数値の絶対値が小さくなることを示す。因みに、引張応力とは、被覆層に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、「+」(プラス)の数値で表される応力をいう。なお、単に残留応力という場合は、圧縮応力と引張応力との両者を含むものとする。
【0089】
そして、このような圧縮応力は、その絶対値が0.1GPa以上の応力であることが好ましく、より好ましくは0.2GPa以上、さらに好ましくは0.5GPa以上の応力である。その絶対値が0.1GPa未満では、十分な靭性を得ることができない場合があり、一方、その絶対値は大きくなればなる程靭性の付与という観点からは好ましいが、その絶対値が8GPaを越えると被覆層自体が剥離することがあり好ましくない。
【0090】
なお、上記残留応力は、X線応力測定装置を用いたsin2ψ法により測定することができる。そしてこのような残留応力は被覆層中の圧縮応力が付与される領域に含まれる任意の点(1点、好ましくは2点、より好ましくは3〜5点、さらに好ましくは10点(複数点で測定する場合の各点は当該層の該領域の応力を代表できるように互いに0.1mm以上の距離を離して選択することが好ましい))の応力を該sin2ψ法により測定し、その平均値を求めることにより測定することができる。
【0091】
このようなX線を用いたsin2ψ法は、多結晶材料の残留応力の測定方法として広く用いられているものであり、たとえば「X線応力測定法」(日本材料学会、1981年株式会社養賢堂発行)の54〜67頁に詳細に説明されている方法を用いれば良い。
【0092】
また、上記残留応力は、ラマン分光法を用いた方法を利用することにより測定することも可能である。このようなラマン分光法は、狭い範囲、たとえばスポット径1μmといった局所的な測定ができるというメリットを有している。このようなラマン分光法を用いた残留応力の測定は、一般的なものであるがたとえば「薄膜の力学的特性評価技術」(サイぺック(現在リアライズ理工センターに社名変更)、1992年発行)の264〜271頁に記載の方法を採用することができる。
【0093】
さらに、上記残留応力は、放射光を用いて測定することもできる。この場合、被覆層の厚み方向で残留応力の分布を求めることができるというメリットがある。
【0094】
<その他>
本発明の第1層11または第2層12(以下、この項においてアルミナを主体とする層と記す)は、図15〜図17に表したように切削に関与する刃先稜線領域の一部または全部において形成されていないことが好ましい。このようにアルミナを主体とする層を上記のような特定の部位で設けないことにより、さらに良好な被削材に対する耐溶着性(および切削初期における被覆層の良好な耐剥離性)が得られ、これによりさらに優れた耐摩耗性と耐欠損性が得られるという優れた効果が奏される。
【0095】
ここで、切削に関与する刃先稜線領域とは、実際に被削材が接触する(または最接近する)刃先稜線(または刃先稜線部)を含むとともに、刃先稜線近傍に被削材が接触し、該刃先稜線もその切削に実質的に関与するような場合(たとえば温度が上昇するような場合)を含むものである。しかし、単に切削加工時の被削材の切り屑が飛散して接触するような刃先稜線は含まれない。
【0096】
また、刃先稜線領域とは、図16や図17における領域aによって示されるような領域であり、より具体的には刃先稜線(刃先処理加工がなされている場合には前述の通り仮定的な稜をいう)から逃げ面側およびすくい面側にそれぞれ2000μm以下の幅を有して広がった領域をいう。当然この領域は、コーナーを含み得るものであるとともに、切削に関与する部位の一部となり得るものである。
【0097】
なお、アルミナを主体とする層が形成されていないとする判断は、切削に関与する刃先稜線領域における切れ刃長さの10%以上の領域で形成されていなければ、アルミナを主体とする層が形成されていないとみなすものとし、上記のような優れた効果が示される。そして、その形成されていない領域は好ましくは50%以上、より好ましくは100%(すなわちその領域の全部)であり、その領域が広がるにつれ効果はより優れたものとなる。ここで、上記切れ刃長さとは、切削に関与する刃先稜線領域の刃先稜線に平行な方向の長さをいう。
【0098】
そして、アルミナを主体とする層が形成されていないとする判断のより具体的な方法は、走査電子顕微鏡で刃先交換型切削チップを観察して刃先稜線領域のアルミナを主体とする層の存在状態を確認できる写真撮影を行なうことにより実行され、その写真上で切れ刃長さに相当する刃先稜線に平行な任意の線を引き、その線上でアルミナを主体とする層が存在しない領域をパーセンテージで表わしたものとする。
【0099】
図15〜17は、上記の方法をより具体的に図示したもの(走査電子顕微鏡写真を模式化した図)である。すなわち、図15におけるαの範囲が切れ刃長さを表わしている。図16および図17は、αの範囲の拡大図であり、図16が切削に関与する刃先稜線領域の全部においてアルミナを主体とする層(便宜的に第1層11として図示されている。図17において同じ)が形成されていない場合であり、図17が切削に関与する刃先稜線領域の一部においてアルミナを主体とする層が形成されていない場合である。
【0100】
そして、図16および図17において、刃先稜線と平行な線bを引き、この線b上でアルミナを主体とする層が形成されていない部分15の長さを測定する。図16では、線b上にアルミナを主体とする層が全く存在せず、したがってアルミナを主体とする層が形成されていない範囲が100%(全部)となる。一方、図17の場合、線b上にアルミナを主体とする層が形成されていない部分(b1、b3、b5)が存在し、(b1+b3+b5)/(b1+b2+b3+b4+b5)で計算されるパーセンテージがアルミナを主体とする層が形成されていない範囲の比率となる。なお、上記線bは、刃先稜線領域の中央を通る線を選択するものとする。
【0101】
なお、アルミナを主体とする層が形成されていない部分15は、第3層または基材が表面に露出することとなるが、第3層が露出する場合、その露出部は第3層の最上層によって構成されていても良いし、あるいはさらにその下層の第3層が略同心状に現れるような構成であってもよい。
【0102】
また、このようにアルミナを主体とする層が形成されていない部分15を形成する方法は、従来公知の種々の方法を採用することができ、その方法は何等限定されるものではない。たとえば、第3層上にアルミナを主体とする層を形成した後に、アルミナを主体とする層を形成しない所定領域のアルミナを主体とする層に対してブラスト処理、ブラシ処理またはバレル処理等を施すことによって該アルミナを主体とする層を除去することにより形成させることができる。しかし、このような方法のみに限られるものではない。
【実施例】
【0103】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0104】
<実施例1>
0.4質量%のCr32、0.2質量%のNi、5.0質量%のCoおよび残部WCからなる組成(ただし不可避不純物を含む)の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で1450℃、1時間焼結し、その後平面研削処理および刃先稜線に対してSiCブラシによる刃先処理(すくい面側から見て0.03mm幅のホーニングを施す)を行なうことにより、JIS B4120(1998改)規定の切削チップCNMA120408と同形状の超硬合金製チップを作製し、これを基材とした。この基材は、表面に脱β層が形成されておらず、2つの面がすくい面となり、4つの面が逃げ面となるとともに、その逃げ面は刃先稜線(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な稜となっている)を挟んですくい面と繋がるものであった。刃先稜線は、計8つ存在した。
【0105】
この基材の全面に対して、下層から順に下記の層を被覆層として公知の熱CVD法により形成した。すなわち、基材の表面側から順に、0.2μmのTiN、3.5μmのTiCN(MT−CVD法により形成)、および0.3μmのTiN、をそれぞれ第3層として形成し、その上に第2層である1.6μmのκ−Al23を形成し、さらにその上に第1層である2.1μmのα−Al23を形成した(この被覆層を被覆層No.1とする)。
【0106】
以下同様にして、この被覆層No.1に代えて下記の表1に記載した被覆層No.2〜8を別途それぞれ基材の全面に対して被覆した。
【0107】
【表1】


【0108】
上記表1において、各層は左側のものから順に基材の表面上に積層させた。また、第3層について、MT−CVD(成膜温度900℃)の表記のないものは全てHT−CVD法(成膜温度1000℃)により形成し、第1層および第2層は次のようにして成膜した。
【0109】
すなわち、第1層および第2層は、反応ガスとして下記組成Iのものを用いて成膜した(成膜時間は5時間、温度は1000℃、反応圧力は7.0kPa)。ただし、第1層については成膜開始後1時間は、下記組成IIの反応ガスのみが供給されるようにして成膜し、その後組成Iの反応ガスを供給した。
組成I:AlCl3(4体積%)、CO2(4体積%)およびH2(残部)
組成II:AlCl3(4体積%)、CO2(4体積%)、CO(3体積%)およびH2(残部)
そしてこれらの被覆層を形成した基材の逃げ面またはすくい面に対して、以下の処理方法A〜Cのいずれかを施すことにより、逃げ面およびすくい面の最上層(除去後最上層)が以下の表2に記載した構成のものとなるように被覆層の一部を除去した。
【0110】
(処理方法A)
ブラスト法(研磨材粒子:水懸濁液中のアルミナ粒子(平均粒径50μm)、吐出圧:0.01〜0.5MPa、投射距離:0.5〜200mm)
(処理方法B)
ブラシ法(#800ダイヤモンドブラシ使用)
(処理方法C)
ラッピング法(#800のダイヤモンドペーストをベンコットに担持して研磨)
【0111】
【表2】


【0112】
上記表2中、除去量とは上記の各処理方法により除去した被覆層の厚み(最表面からの厚み)を示しており、「−」の表示はその面について処理が施されず被覆層が除去されなかったことを示す。また、除去後最上層とは上記の処理方法を施した後の各面の最上層を示している。
【0113】
このようにして、上記の表2に記載した本発明の実施例の刃先交換型切削チップNo.1〜13を得た。また、比較用として上記の処理方法A〜Cを施さなかった比較例の刃先交換型切削チップNo.14〜21を得た。
【0114】
なお、第1層および第2層のアルミナの結晶構造は、これらの刃先交換型切削チップについて刃先稜線(刃先処理されているため仮定的な稜)から逃げ面およびすくい面の方向にそれぞれ0.5mm離れた地点をXRDにより測定することにより確認し、表1記載のものであることを確認した。因みに、刃先交換型切削チップNo.1について、逃げ面の最上層のXRDのピークには、その強度が最大となるものから5番目のものまでに面間隔d(Å)が3.47、2.37、1.74である3つのピークが含まれていたことにより、その最上層がα−Al23を主体として含む第1層であることを確認し、また、すくい面の最上層のXRDのピークには、その強度が最大となるものから5番目のものまでに面間隔d(Å)が2.80、2.57、1.43である3つのピークが含まれていたことにより、その最上層がκ−Al23を主体として含む第2層であることを確認した。
【0115】
なお、上記の面間隔の測定結果は、たとえアルミナ層の成膜条件として同一の条件を採用する場合であっても基材の特性(組成、焼結条件、表面状態など)によりXRDの回折角度および/または回折強度は変化する場合があるため、その影響を受けて異なる場合がある点に留意する必要がある(以下の各実施例において同じ)。
【0116】
このようにして得られた本発明の実施例の刃先交換型切削チップNo.1〜13は、基材と、該基材上の少なくとも一部に形成された被覆層とを有するものであって、この基材は、刃先稜線と逃げ面とすくい面とを有し、この被覆層は、α型の結晶構造を有するアルミナを主体として含む第1層とα型の結晶構造を有するアルミナ以外のアルミナを主体として含む第2層とを含み、該第1層または該第2層のいずれか一方の層は、逃げ面から刃先稜線を挟んですくい面へと繋がる領域において連続した状態で形成されており、該第1層は、逃げ面の少なくとも一部において最上層となり、該第2層は、すくい面の少なくとも一部において最上層となるものであった(一部第3層が最上層となるものも含む)。
【0117】
そして、これらの本発明の刃先交換型切削チップNo.1〜13および比較例の刃先交換型切削チップNo.14〜21について、下記条件で耐摩耗性試験を行なうことにより刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量(Vb)を測定するとともに、耐欠損性試験を行なうことにより破損率を求めた。その結果を上記の表2に示す。なお、逃げ面摩耗量(Vb)は、小さい数値のもの程、耐摩耗性に優れていることを示し、破損率が小さくなる程、耐欠損性に優れていることを示している。
【0118】
<耐摩耗性試験の条件>
被削材:Ti−6Al−4V丸棒
切削速度:70m/min.
送り:0.25mm/rev.
切込み:1.0mm
湿式/乾式:湿式(水溶性油)
切削時間:20分
<耐欠損性試験の条件>
被削材:Ti−5Al−2.5Sn4本溝入り丸棒
切削速度:60m/min.
送り:0.35mm/rev.
切込み:1.0mm
湿式/乾式:湿式(水溶性油)
切削時間:30秒
評価:20コーナーを30秒間切削した場合の破損数(破損したコーナーの数)から破損率を求める(すなわち、破損率(%)=破損数/20×100)。
【0119】
なお、上記の各試験を行なった後の刃先交換型切削チップについて刃先稜線の使用識別の容易性(その刃先稜線を用いて切削試験が行なわれたか否かを容易に識別できるか否か)を観察した(表2の最右欄)。
【0120】
また、刃先交換型切削チップの残留応力についても測定した。この残留応力の測定は、刃先交換型切削チップNo.14〜18については第2層(それに含まれるκ−Al23について測定)、それ以外の刃先交換型切削チップについては第1層(それに含まれるα−Al23について測定)について各々次の測定箇所で行なった。すなわち、それぞれの逃げ面について図19(本実施例の刃先交換型切削チップの逃げ面のコーナー部を模式化した拡大側面図である)における領域Sに対してそれぞれスポット径0.3mmで任意の3点(各スポット間の距離は各スポットの中心が0.3mm以上離れるようにして設定した)を上述のX線応力測定装置を用いたsin2ψ法により測定し、その平均値を残留応力とした。その結果を同じく表2に示す。
【0121】
表2より明らかなように、本発明の刃先交換型切削チップは比較例の刃先交換型切削チップに比し優れた耐欠損性が示されるとともに、同等程度の耐摩耗性が示された。したがって、刃先交換型切削チップにおいて本発明の構成を採用すると耐摩耗性と耐欠損性とが高度に両立され、特にTi合金用の切削加工に好適であることが確認された。
【0122】
なお、本発明の刃先交換型切削チップNo.1およびNo.6は、刃先稜線の使用識別はやや困難であったが、被削材の溶着量は非常に少なく被削材加工面の光沢が非常に優れていた。
【0123】
また、本発明の刃先交換型切削チップNo.11の耐摩耗性が、同No.9および10に比し優れているのは、逃げ面に対してもブラスト処理がされており表面面粗度が向上したために切削時の刃先温度が低下したためではないかと推測される。また、No.12およびNo.13の耐摩耗性が、同No.11に比し優れているのは、すくい面の表面面粗度が向上したために切削時の刃先温度が低下したためではないかと推測される。
【0124】
また、各刃先交換型切削チップについて上記の試験が実施された刃先稜線を詳細に観察すると、被覆層に圧縮応力が付与されたものについてはチッピングがほとんど認められなかったのに対して、圧縮応力が付与されていないものについてはチッピングが認められたことから、被覆層に圧縮応力が付与されると靭性(耐欠損性)がさらに向上することが確認された。
【0125】
なお、本実施例の刃先交換型切削チップは、チップブレーカを有するものではないが、チップブレーカを有するものについても本発明の効果は発揮される。また、本実施例の基材は、脱β層が形成されていないが、脱β層が形成されていても本発明の効果は発揮される。
【0126】
<実施例2>
実施例1における本発明の刃先交換型切削チップNo.1を用いて、その切削に関与する刃先稜線領域(少なくとも刃先処理部を含む)に対してSiCブラシ(#120)による処理を施すことによりその部分に存する第1層または第2層(以下単にアルミナを主体とする層という)の一部または全部を除去し、各々除去率の異なる3種類の刃先交換型切削チップ(刃先交換型切削チップNo.1−2、No.1−3、およびNo.1−4)を得た。
【0127】
そして、これらの刃先交換型切削チップについてその除去率を求めた。その結果を以下の表3に示す。なお、除去率とは、切削に関与する刃先稜線領域において、前述の方法(図17のように領域aの中央部に線bを引くものとし、切れ刃長さを0.8mmとした)により求めたアルミナを主体とする層が形成されていない領域のパーセンテージを示している。
【0128】
また、同様にして実施例1における本発明の刃先交換型切削チップNo.5およびNo.9についても、アルミナを主体とする層の異なった除去率を有するそれぞれ2種類の刃先交換型切削チップ(刃先交換型切削チップNo.5−2、No.5−3およびNo.9−2、No.9−3)を得、同様にして除去率を求めた。その結果を以下の表3に示す。
【0129】
なお、上記の各刃先交換型切削チップにおいては、SiCブラシによる処理により残留応力の数値が変化していないことを確認した。
【0130】
そして、これらの刃先交換型切削チップについて、実施例1と同様にして逃げ面摩耗量(Vb)および破損率を測定した。これらの結果を同じく表3に示す。
【0131】
【表3】


【0132】
表3より明らかなように、アルミナを主体とする層が切削に関与する刃先稜線領域の一部または全部において形成されていない場合において、耐摩耗性および耐欠損性がさらに向上することが確認できた。
【0133】
また、上記刃先交換型切削チップについて上記の試験が実施された刃先稜線領域を詳細に観察すると、アルミナを主体とする層が切削に関与する刃先稜線領域から少なくとも一部において除去されているものはそれが除去されていないものに比し刃先稜線領域の摩耗の乱れはほとんどなかった。
【0134】
<実施例3>
0.4質量%のTaC、0.5質量%のCr32、8.0質量%のCoおよび残部WCからなる組成(ただし不可避不純物を含む)の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で1430℃、1時間焼結し、その後研削処理および刃先稜線に対してダイヤモンドブラシによる刃先処理(すくい面側から見て0.06mm幅のホーニングを施す)を行なうことにより、切削チップRGEN2004SN−T(住友電工ハードメタル(株)製)と同形状の超硬合金製チップを作製し、これを基材とした。この基材は、表面に脱β層が形成されておらず、1つの面がすくい面となり、1つの面が逃げ面となるとともに、その逃げ面は刃先稜線(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な稜となっている)を挟んですくい面と繋がるものであった。刃先稜線は、1つ存在した。
【0135】
この基材の全面に対して、下層から順に下記の層を被覆層として公知の熱CVD法により形成した。すなわち、基材の表面側から順に、0.3μmのTiN、2.1μmのTiCN(MT−CVD法により形成)、および0.2μmのTiN、をそれぞれ第3層として形成し、その上に第2層である1.4μmのκ−Al23を形成し、さらにその上に第1層である2.1μmのα−Al23を形成した(この被覆層を被覆層No.101とする)。
【0136】
以下同様にして、この被覆層No.101に代えて下記の表4に記載した被覆層No.102〜105を別途それぞれ基材の全面に対して被覆した。
【0137】
【表4】


【0138】
上記表4において、各層は左側のものから順に基材の表面上に積層させた。また、第3層について、MT−CVD(成膜温度900℃)の表記のないものは全てHT−CVD法(成膜温度1000℃)により形成したことを示す。また、第1層および第2層は、実施例1と同様の条件で成膜した。
【0139】
そしてこれらの被覆層を形成した基材の逃げ面またはすくい面に対して、実施例1と同様の処理方法A〜Cのいずれかを施すことにより、逃げ面およびすくい面の最上層が以下の表5に記載した構成のものとなるように被覆層の一部を除去した。
【0140】
【表5】


【0141】
上記表5における表記であって上記表2と同様のものは、上記表2と同内容を示す。
このようにして、上記の表5に記載した本発明の実施例の刃先交換型切削チップNo.101〜110を得た。また、比較用として上記の処理方法A〜Cを施さなかった比較例の刃先交換型切削チップNo.111〜115を得た。
【0142】
なお、第1層および第2層のアルミナの結晶構造は、これらの刃先交換型切削チップについて刃先稜線(刃先処理されているため仮定的な稜)から逃げ面およびすくい面の方向にそれぞれ0.5mmはなれた地点をXRDにより測定することにより確認し、表4記載のものであることを確認した。因みに、刃先交換型切削チップNo.101について、逃げ面の最上層のXRDのピークには、その強度が最大となるものから5番目のものまでに面間隔d(Å)が2.55、2.08、1.60である3つのピークが含まれていたことにより、その最上層がα−Al23を主体として含む第1層であることを確認し、また、すくい面の最上層のXRDのピークには、その強度が最大となるものから5番目のものまでに面間隔d(Å)が2.80、2.11、1.43である3つのピークが含まれていたことにより、その最上層がκ−Al23を主体として含む第2層であることを確認した。
【0143】
このようにして得られた本発明の実施例の刃先交換型切削チップNo.101〜110は、基材と、該基材上の少なくとも一部に形成された被覆層とを有するものであって、この基材は、刃先稜線と逃げ面とすくい面とを有し、この被覆層は、α型の結晶構造を有するアルミナを主体として含む第1層とα型の結晶構造を有するアルミナ以外のアルミナを主体として含む第2層とを含み、該第1層または該第2層のいずれか一方の層は、逃げ面から刃先稜線を挟んですくい面へと繋がる領域において連続した状態で形成されており、該第1層は、逃げ面の少なくとも一部において最上層となり、該第2層は、すくい面の少なくとも一部において最上層となるものであった(一部第3層が最上層となるものも含む)。
【0144】
そして、これらの本発明の刃先交換型切削チップNo.101〜110および比較例の刃先交換型切削チップNo.111〜115について、下記条件で耐摩耗性試験を行なうことにより刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量(Vb)を測定するとともに、耐欠損性試験を行なうことにより破損率を求めた。その結果を上記の表5に示す。なお、逃げ面摩耗量(Vb)は、小さい数値のもの程、耐摩耗性に優れていることを示し、破損率が小さくなる程、耐欠損性に優れていることを示している。
【0145】
なお、以下の試験ではいずれも、カッターとしてGRC6100R(住友電工ハードメタル(株)製)を用い、このカッターに刃先交換型切削チップを1枚だけ取り付けて行なった。
【0146】
<耐摩耗性試験の条件>
被削材:Ti−15V−3Cr−3Sn−3Al
切削速度:40m/min.
送り:0.2mm/刃
切込み:0.5mm
湿式/乾式:湿式(水溶性油)
切削長:4m
<耐欠損性試験の条件>
被削材:Ti−3Al−2.5Vブロック材(スリット有)
切削速度:50m/min.
送り:0.2mm/刃
切込み:2.0mm
湿式/乾式:乾式
切削長:0.3m
評価:20コーナーを0.3m切削した場合の破損数(破損したコーナーの数)から破損率を求める(すなわち、破損率(%)=破損数/20×100)。
【0147】
なお、上記の各試験を行なった後の刃先交換型切削チップについて刃先稜線の使用識別の容易性を観察した(表5の最右欄)。
【0148】
また、刃先交換型切削チップの残留応力についても測定した。この残留応力の測定は、刃先交換型切削チップNo.114〜115については第2層(それに含まれるκ−Al23について測定)、それ以外の刃先交換型切削チップについては第1層(それに含まれるα−Al23について測定)について各々次の測定箇所で行なった。すなわち、それぞれの逃げ面について図20(本実施例の刃先交換型切削チップの逃げ面のコーナー部を模式化した拡大側面図である)における領域Tに対してそれぞれスポット径0.3mmで任意の3点(各スポット間の距離は各スポットの中心が0.3mm以上離れるようにして設定した)を上述のX線応力測定装置を用いたsin2ψ法により測定し、その平均値を残留応力とした。その結果を同じく表5に示す。
【0149】
表5より明らかなように、本発明の刃先交換型切削チップは比較例の刃先交換型切削チップに比し優れた耐欠損性が示されるとともに、同等程度の耐摩耗性が示された。したがって、刃先交換型切削チップにおいて本発明の構成を採用すると耐摩耗性と耐欠損性とが高度に両立され、特にTi合金用の切削加工に好適であることが確認された。
【0150】
なお、本発明の刃先交換型切削チップNo.101、104およびNo.108は、刃先稜線の使用識別はやや困難であったが、被削材の溶着量は非常に少なく被削材加工面の光沢が非常に優れていた。
【0151】
また、各刃先交換型切削チップについて上記の試験が実施された刃先稜線を詳細に観察すると、被覆層に圧縮応力が付与されたものについてはチッピングがほとんど認められなかったのに対して、圧縮応力が付与されていないものについてはチッピングが認められたことから、被覆層に圧縮応力が付与されると靭性(耐欠損性)がさらに向上することが確認された。
【0152】
なお、本実施例の刃先交換型切削チップは、チップブレーカを有するものではないが、チップブレーカを有するものについても本発明の効果は発揮される。また、本実施例の基材は、脱β層が形成されていないが、脱β層が形成されていても本発明の効果は発揮される。
【0153】
<実施例4>
実施例3における本発明の刃先交換型切削チップNo.101を用いて、その切削に関与する刃先稜線領域(少なくとも刃先処理部を含む)に対してSiCブラシ(#320)による処理を施すことによりその部分に存する第1層または第2層(以下単にアルミナを主体とする層という)の一部または全部を除去し、各々除去率の異なる2種類の刃先交換型切削チップ(刃先交換型切削チップNo.101−2およびNo.101−3)を得た。
【0154】
そして、これらの刃先交換型切削チップについてその除去率を実施例2と同様にして求めた。その結果を以下の表6に示す。
【0155】
また、同様にして実施例3における本発明の刃先交換型切削チップNo.105およびNo.106についても、アルミナを主体とする層の異なった除去率を有するそれぞれ2種類の刃先交換型切削チップ(刃先交換型切削チップNo.105−2、No.105−3およびNo.106−2、No.106−3)を得、同様にして除去率を求めた。その結果を以下の表6に示す。
【0156】
なお、上記の各刃先交換型切削チップにおいては、SiCブラシによる処理により残留応力の数値が変化していないことを確認した。
【0157】
そして、これらの刃先交換型切削チップについて、実施例3と同様にして逃げ面摩耗量(Vb)および破損率を測定した。これらの結果を同じく表6に示す。
【0158】
【表6】


【0159】
表6より明らかなように、アルミナを主体とする層が切削に関与する刃先稜線領域の一部または全部において形成されていない場合において、耐摩耗性および耐欠損性がさらに向上することが確認できた。
【0160】
また、上記刃先交換型切削チップについて上記の試験が実施された刃先稜線領域を詳細に観察すると、アルミナを主体とする層が切削に関与する刃先稜線領域から少なくとも一部において除去されているものはそれが除去されていないものに比し刃先稜線領域の摩耗の乱れはほとんどなかった。
【0161】
<実施例5>
基材として実施例3の基材と同じものを用い、この基材を成膜装置(物理的蒸着装置)であるカソードにパルスDC電源を用いたアンバランストマグネトロンスパッタリング装置(冷陰極アーク式のイオンプレーティング/アンバランストマグネトロンスパッタリング複合機)に装着した。
【0162】
図18は、この成膜装置20の概略構成を示す模式図である。図18に示す成膜装置20内に複数のアーク蒸発源21、22およびアンバランストマグネトロンスパッタ蒸発源(以下、UBMスパッタ源と呼ぶ)23、24を配置し、各蒸発源間の中心点Cを中心とし蒸発源21〜24に各対向するようにして回転する保持具27に基材8を装着した。なお、必要なガスは、ガス導入口25から成膜装置20内へ導入される。また、成膜装置20内にはヒーター26が備えられている。
【0163】
まず、アーク蒸発源21に所定のTiAl合金ターゲットをセットするとともにアーク蒸発源22に所定のTiターゲットをセットし、UBMスパッタ源23、24にAlをセットした。すなわち、UBMスパッタ源により第1層および第2層を形成し、アーク蒸発源により第3層を形成するものである。
【0164】
まず、真空ポンプにより該装置のチャンバー内を1×10-3Pa以下に減圧するとともに、該装置内に設置されたヒーター26により上記基材8の温度を510℃に加熱した。
【0165】
次に、ガス導入口25からアルゴンガスを導入してチャンバー内の圧力を3Paに保持しながら、基板バイアス電源の電圧を徐々に上げ基材8に−950Vの電圧をかけることにより、アルゴンガス中でグロー放電を発生させてアルゴンイオンによる基材の表面のクリーニングを15分間行なった。その後、アルゴンガスを排気した。
【0166】
次いで、基材8に−50Vのバイアス電圧をかけながらガス導入口25からN2(窒素ガス)を導入した状態で、100Aのアーク電流によりアーク蒸発源21を真空アーク放電させて、上記TiAl合金ターゲットをイオン化させることにより、基材8上に第3層として1.7μmのTiAlN層を形成した。
【0167】
続いて、基材8の温度が620℃になるようにヒーター26を調節し、この基材8に対して基板バイアス電圧が−100VのパルスDC(パルス周波数250kHz、ON時間およびOFF時間とも2μsec.)を印加した状態で、40sccm(標準状態における1分間に40ccの流量)の酸素ガスおよび360sccmのアルゴンガスをガス導入口25から装置内に導入し装置内の圧力を1.1Paとした条件下、UBMスパッタ源23、24を放電させることにより基材8の上記第3層上に第2層として1.5μmのγ−Al23層を形成した。なお、この場合、UBMスパッタ源に対してはパルスDC(パルス周波数100kHz、ON時間を8μsec.とし、OFF時間を2μsec.)を用い、スパッタ電力は2.8kWとした。
【0168】
次いで、第2層を形成した基材8に−50Vのバイアス電圧をかけながらガス導入口25からN2(窒素ガス)を導入した状態で、100Aのアーク電流によりアーク蒸発源21を真空アーク放電させて、上記TiAl合金ターゲットをイオン化させることにより、上記第2層上に第3層として0.7μmのTiAlN層を形成した。
【0169】
続いて、上記のように複数の被覆層を形成した基材8の温度が720℃になるようにヒーター26を調節し、この基材8に対して基板バイアス電圧が−100VのパルスDC(パルス周波数250kHz、ON時間およびOFF時間とも2μsec.)を印加した状態で、40sccmの酸素ガスおよび360sccmのアルゴンガスをガス導入口25から装置内に導入し装置内の圧力を1.1Paとした条件下、UBMスパッタ源23、24を放電させることにより基材8の上記第3層上に第1層として1.8μmのα−Al23層を形成した。なお、この場合、UBMスパッタ源に対してはパルスDC(パルス周波数100kHz、ON時間を8μsec.とし、OFF時間を2μsec.)を用い、スパッタ電力は2.8kWとした。
【0170】
次いで、上記のように第1層を形成した基材8に−50Vのバイアス電圧をかけながらガス導入口25からN2(窒素ガス)を導入した状態で、100Aのアーク電流によりアーク蒸発源22を真空アーク放電させて、上記Tiターゲットをイオン化させることにより、上記第1層上に第3層として0.2μmのTiN層を形成した(この被覆層を被覆層No.201とする)。
【0171】
以下上記と同様にして物理的蒸着法により、この被覆層No.201に代えて下記の表7に記載した被覆層No.202〜204を別途それぞれ基材の全面に対して被覆した。
【0172】
【表7】


【0173】
上記表7において、各層は左側のものから順に基材の表面上に積層させた。
そしてこれらの被覆層を形成した基材の逃げ面またはすくい面に対して、実施例1と同様の処理方法A〜Cのいずれかを施すことにより、逃げ面およびすくい面の最上層が以下の表8に記載した構成のものとなるように被覆層の一部を除去した。
【0174】
【表8】


【0175】
上記表8における表記であって上記表2と同様のものは、上記表2と同内容を示す。
このようにして、上記の表8に記載した本発明の実施例の刃先交換型切削チップNo.201〜206を得た。また、比較用として上記の処理方法A〜Cを施さなかった比較例の刃先交換型切削チップNo.207〜210を得た。
【0176】
なお、第1層および第2層のアルミナの結晶構造は、これらの刃先交換型切削チップについて刃先稜線(刃先処理されているため仮定的な稜)から逃げ面およびすくい面の方向にそれぞれ0.5mmはなれた地点をXRDにより測定することにより確認し、表7記載のものであることを確認した。因みに、刃先交換型切削チップNo.203について、逃げ面の最上層のXRDのピークは、アルミナに関しては明瞭なピークは4つ確認され、その強度が最大となるものから2番目のものまでの面間隔d(Å)が2.37および1.37であったことにより、その最上層がα−Al23を主体として含む第1層であることを確認し、また、すくい面の最上層のXRDのピークには、その強度が最大となるものから5番目のものまでに面間隔d(Å)が2.28、1.97、1.39である3つのピークが含まれていたため、そのうち1.39を除外すると4つのピークのうち2つのピークがγ−Al23のピークとなることから、その最上層がγ−Al23を主体として含む第2層であることを確認した。
【0177】
このようにして得られた本発明の実施例の刃先交換型切削チップNo.201〜206は、基材と、該基材上の少なくとも一部に形成された被覆層とを有するものであって、この基材は、刃先稜線と逃げ面とすくい面とを有し、この被覆層は、α型の結晶構造を有するアルミナを主体として含む第1層とα型の結晶構造を有するアルミナ以外のアルミナを主体として含む第2層とを含み、該第1層または該第2層のいずれか一方の層は、逃げ面から刃先稜線を挟んですくい面へと繋がる領域において連続した状態で形成されており、該第1層は、逃げ面の少なくとも一部において最上層となり、該第2層は、すくい面の少なくとも一部において最上層となるものであった(一部第3層が最上層となるものも含む)。
【0178】
そして、これらの本発明の刃先交換型切削チップNo.201〜206および比較例の刃先交換型切削チップNo.207〜210について、下記条件で耐摩耗性試験を行なうことにより刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量(Vb)を測定するとともに、耐欠損性試験を行なうことにより破損率を求めた。その結果を上記の表8に示す。なお、逃げ面摩耗量(Vb)は、小さい数値のもの程、耐摩耗性に優れていることを示し、破損率が小さくなる程、耐欠損性に優れていることを示している。
【0179】
なお、以下の試験ではカッターとして実施例3と同じGRC6100R(住友電工ハードメタル(株)製)を用い、このカッターに刃先交換型切削チップを1枚だけ取り付けて行なった。
【0180】
<耐摩耗性試験の条件>
被削材:Ti−6Al−4Vブロック材
切削速度:50m/min.
送り:0.2mm/刃
切込み:1.0mm
湿式/乾式:湿式(水溶性油)
切削長:3m
<耐欠損性試験の条件>
被削材:Ti−6Al−4Vブロック材(スリット有)
切削速度:40m/min.
送り:0.45mm/刃
切込み:1.0mm
湿式/乾式:乾式
切削長:0.3m
評価:20コーナーを0.3m切削した場合の破損数(破損したコーナーの数)から破損率を求める(すなわち、破損率(%)=破損数/20×100)。
【0181】
なお、上記の各試験を行なった後の刃先交換型切削チップについて刃先稜線の使用識別の容易性を観察した(表8の最右欄)。
【0182】
また、刃先交換型切削チップの残留応力についても測定した。この残留応力の測定は、刃先交換型切削チップNo.208〜209については第2層(それに含まれるγ−Al23について測定)、それ以外の刃先交換型切削チップについては第1層(それに含まれるα−Al23について測定)について実施例3と同じ測定箇所および測定方法で行なった。その結果を同じく表8に示す。
【0183】
表8より明らかなように、本発明の刃先交換型切削チップは比較例の刃先交換型切削チップに比し優れた耐欠損性が示されるとともに、同等程度の耐摩耗性が示された。したがって、刃先交換型切削チップにおいて本発明の構成を採用すると耐摩耗性と耐欠損性とが高度に両立され、特にTi合金用の切削加工に好適であることが確認された。
【0184】
なお、本発明の刃先交換型切削チップNo.203は、刃先稜線の使用識別はやや困難であったが、被削材の溶着量は非常に少なく被削材加工面の光沢が非常に優れていた。
【0185】
また、各刃先交換型切削チップについて上記の試験が実施された刃先稜線を詳細に観察すると、チッピングがほとんど認められなかった。これは、物理的蒸着法により被覆層を形成すると被覆層に圧縮応力が付与されることとなるので、そのために靭性(耐欠損性)が向上したものと考えられる。
【0186】
なお、本実施例の刃先交換型切削チップは、チップブレーカを有するものではないが、チップブレーカを有するものについても本発明の効果は発揮される。また、本実施例の基材は、脱β層が形成されていないが、脱β層が形成されていても本発明の効果は発揮される。
【0187】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0188】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0189】
【図1】切削加工時における刃先交換型切削チップと被削材との接触状態を模式的に示した概略図である。
【図2】本発明の刃先交換型切削チップの一例を示す概略斜視図である。
【図3】被覆層として第1層と第2層とを含む刃先交換型切削チップの部分概略断面図である。
【図4】被覆層として第1層と第2層と第3層とを含む刃先交換型切削チップの部分概略断面図である。
【図5】被覆層として第3層を2層含む刃先交換型切削チップの部分概略断面図である。
【図6】被覆層として第3層を2層含む図5とは別態様の刃先交換型切削チップの部分概略断面図である。
【図7】被覆層として第3層を3層含む刃先交換型切削チップの部分概略断面図である。
【図8】被覆層として第3層を3層含む図7とは別態様の刃先交換型切削チップの部分概略断面図である。
【図9】被覆層として第1層と第2層とを含む図3とは別態様の刃先交換型切削チップの部分概略断面図である。
【図10】被覆層として第1層と第2層と第3層とを含む図4とは別態様の刃先交換型切削チップの部分概略断面図である。
【図11】被覆層として第3層を2層含む図5とは別態様の刃先交換型切削チップの部分概略断面図である。
【図12】被覆層として第3層を2層含む図11とは別態様の刃先交換型切削チップの部分概略断面図である。
【図13】被覆層として第3層を3層含む図7とは別態様の刃先交換型切削チップの部分概略断面図である。
【図14】被覆層として第3層を2層含む図12とは別態様の刃先交換型切削チップの部分概略断面図である。
【図15】切れ刃長さを表わした刃先交換型切削チップの模式図である。
【図16】図15におけるαの範囲を拡大した走査電子顕微鏡写真の模式図である。
【図17】図15におけるαの範囲を拡大した走査電子顕微鏡写真の別の模式図である。
【図18】成膜装置の概略構成を示す模式図である。
【図19】刃先交換型切削チップの逃げ面のコーナー部を模式化した拡大側面図である。
【図20】刃先交換型切削チップの逃げ面のコーナー部を模式化した図19とは別態様の拡大側面図である。
【符号の説明】
【0190】
1 刃先交換型切削チップ、2 すくい面、3 逃げ面、4 刃先稜線、5 被削材、6 切り屑、7 貫通孔、8 基材、9 コーナー、11 第1層、12 第2層、13 第3層、14 被覆層、15 アルミナを主体とする層が形成されていない部分、20 成膜装置、21,22 アーク蒸発源、23,24 アンバランスドマグネトロンスパッタ蒸発源、25 ガス導入口、26 ヒーター、27 保持具。
【出願人】 【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
【出願日】 平成18年6月29日(2006.6.29)
【代理人】 【識別番号】100064746
【弁理士】
【氏名又は名称】深見 久郎

【識別番号】100085132
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 俊雄

【識別番号】100083703
【弁理士】
【氏名又は名称】仲村 義平

【識別番号】100096781
【弁理士】
【氏名又は名称】堀井 豊

【識別番号】100098316
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 久登

【識別番号】100109162
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 將行


【公開番号】 特開2008−6546(P2008−6546A)
【公開日】 平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願番号】 特願2006−180132(P2006−180132)