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【発明の名称】 銀微粒子の製造方法
【発明者】 【氏名】樋上 晃裕

【氏名】宇野 貴博

【要約】 【課題】電子デバイスの微細な配線材料や電極材料となる高分散性の銀微粒子を効率よく安定に製造する方法を提供する。

【構成】銀アンミン錯体を還元して銀微粒子を析出させる銀微粒子の製造方法において、還元剤溶液にアルカリを添加した後に、該還元剤溶液の酸化還元電位の安定域において、該還元剤溶液と銀アンミン錯体溶液とを混合して銀微粒子を析出させることを特徴とする銀微粒子の製造方法であり、例えば、銀濃度20〜180g/Lの銀アンミン錯体溶液と、還元剤濃度が銀濃度に対して約0.6〜約1.4反応当量倍の有機還元剤溶液を用い、一次粒子の平均粒径0.05〜1.0μm、結晶子径20nm〜150nmの銀微粒子を安定に製造する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀アンミン錯体を還元して銀微粒子を析出させる銀微粒子の製造方法において、還元剤溶液にアルカリを添加した後に、該還元剤溶液の酸化還元電位の安定域において、該還元剤溶液と銀アンミン錯体溶液とを混合して銀微粒子を析出させることを特徴とする銀微粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法において、還元剤溶液の酸化還元電位の安定域が該酸化還元電位の極小値に至る前の領域における極小値より0.02V(vs.Ag/AgCl)高い酸化還元電位から極小値を経て極小値以降の定常値の範囲を含む領域である銀微粒子の製造方法。
【請求項3】
銀濃度20〜180g/Lの銀アンミン錯体溶液と、還元剤濃度が銀濃度に対して約0.6〜約1.4反応当量倍の有機還元剤溶液を用いる請求項1または請求項2に記載する銀微粒子の製造方法。
【請求項4】
一次粒子の平均粒径0.05〜1.0μm、結晶子径20nm〜150nmの銀微粒子を析出させる請求項1〜3の何れかに記載する銀微粒子の製造方法。
【請求項5】
析出した銀微粒子を回収し、pH10〜15でアルカリ洗浄して不純物炭素量を0.8wt%以下にする請求項1〜4の何れかに記載する銀微粒子の製造方法。





【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性に優れた適度な粒子径を有する銀微粒子を効率よく製造することができる製造方法に関し、より詳しくは、電子デバイスの配線材料や電極材料となるペースト成分として好適な粒子径と高分散性の銀微粒子を効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化を図るために、電子デバイスの小型化と高密度化が要請されており、配線および電極のファイン化を達成するために、これらを形成するペースト材料に用いられる銀微粒子についても、より微細で高分散性の微粒子が求められている。
【0003】
従来、電子機器材料に用いられる銀微粒子の製造方法として、銀塩のアンミン錯体を還元して銀微粒子を沈澱させ、これを洗浄乾燥して平均粒径が数μm程度の銀微粒子を得る方法が知られている(特許文献1、2)。しかし、この製造方法では平均粒径1μm以下の微粒子を安定に得るのが難しく、また粒度分布が広く、しかも粒子が凝集し易いため、粒径が均一で1μm以下の微細な銀微粒子を製造するのが難しいと云う問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平8−134513号公報
【特許文献2】特開平8−176620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、銀微粒子について従来の製造方法における上記問題を解決した銀微粒子の製造方法を提供する。本発明の製造方法によれば、高濃度の銀アンミン錯体溶液を用いて適度な粒子径を有する分散性の良い微細な銀微粒子を効率よく製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の構成によって上記課題を解決した銀微粒子の製造方法が提供される。
(1)銀アンミン錯体を還元して銀微粒子を析出させる銀微粒子の製造方法において、還元剤溶液にアルカリを添加した後に、該還元剤溶液の酸化還元電位の安定域において、該還元剤溶液と銀アンミン錯体溶液とを混合して銀微粒子を析出させることを特徴とする銀微粒子の製造方法。
(2)上記(1)の製造方法において、還元剤溶液の酸化還元電位の安定域が該酸化還元電位の極小値に至る前の領域における極小値より0.02V(vs.Ag/AgCl)高い酸化還元電位から極小値を経て極小値以降の定常値の範囲を含む領域である銀微粒子の製造方法。
(3)銀濃度20〜180g/Lの銀アンミン錯体溶液と、還元剤濃度が銀濃度に対して約0.6〜約1.4反応当量倍の有機還元剤溶液を用いる上記(1)または上記(2)に記載する銀微粒子の製造方法。
(4)一次粒子の平均粒径0.05〜1.0μm、結晶子径20nm〜150nmの銀微粒子を析出させる上記(1)〜上記(3)の何れかに記載する銀微粒子の製造方法。
(5)析出した銀微粒子を回収し、pH10〜15でアルカリ洗浄して不純物炭素量を0.8wt%以下にする上記(1)〜上記(4)の何れかに記載する銀微粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法は、還元剤溶液にアルカリを添加して調製した還元剤溶液の酸化還元電位(ORPと云う)を監視し、該還元剤溶液の酸化還元電位の安定域において、該還元剤溶液と銀アンミン錯体溶液とを混合するので、目的の粒子径を有する銀微粒子を効率よく得ることができる。具体的には、一次粒子の平均粒径0.05〜1.0μm、結晶子径20nm〜150nmの銀微粒子を効率よく得ることができる。
【0008】
還元析出する銀微粒子の粒子径は上記ORP値に大きく影響される。従来の銀微粒子の合成方法は、専ら合成溶液のpH管理に基づいて銀微粒子の合成を行っているが、還元剤溶液の調製後しばらくの間は、pH値が安定しても、ORP値が急激に低下する変動域が存在し、この時期に還元剤溶液と銀イオン溶液とを混合して銀の還元を行うと、析出する銀微粒子の粒径が変動し、目的の粒子径を有する銀微粒子を効率よく得ることが難しい。
【0009】
また、本発明の製造方法は、従来の合成方法より高濃度の銀イオン溶液を用いても微細な粒径の銀微粒子を得ることができる。従来の合成方法によって粒径0.5μm前後〜0.5μm以下の銀微粒子を析出させるには、銀濃度が数g/L〜50g/L前後の銀アンミン錯体溶液などが用いられているが、本発明の製造方法によれば、銀濃度50g/L前後以上の銀アンミン錯体溶液などを用いても上記粒径の銀微粒子を得ることができ、得られる銀微粒子の収量が多い。従って、本発明の製造方法によれば、従来の合成方法よりも生産性良く微小粒径の銀微粒子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の製造方法は、銀アンミン錯体を還元して銀微粒子を析出させる銀微粒子の製造方法において、還元剤溶液にアルカリを添加した後に、該還元剤溶液の酸化還元電位の安定域において、該還元剤溶液と銀アンミン錯体溶液とを混合して銀微粒子を析出させることを特徴とする銀微粒子の製造方法である。
【0011】
銀微粒子を製造する湿式合成法として、硝酸銀溶液にアンモニア水を添加して銀アンミン錯体水溶液を調製し、これに還元剤を加えて銀アンミン錯体を還元して銀微粒子を析出させる方法が知られている。この還元剤として、例えばヒドロキノンなどの有機還元剤が用いられており、通常、還元時のpHを調整するため、還元剤溶液に水酸化ナトリウム等のアルカリを添加し、還元剤溶液のpHを11〜12に調整している。
【0012】
このような、水酸化ナトリウム等のアルカリを添加した還元剤溶液では、溶液のpHは11〜12に保たれていても、アルカリ添加直後から該溶液の酸化還元電位(ORP)が急激に低下し、アルカリ添加から約60分〜約90分後にORP値が極小になり、その後、ORP値は僅かに高くなって、その値を数時間保つ定常域になる現象がみられる。還元剤溶液のORP変化の具体例を図1に示す。
【0013】
図1は、濃度0.48モル/Lのヒドロキノン溶液20Lに、濃度14.3モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.6Lを添加した還元剤溶液について、アルカリ添加後のORP値の経時変化を示すグラフであり、該溶液のpH変化および温度変化と共に示している。図1の例では、アルカリ添加直後からORP値が急激に低下し、添加後約60分にはORP値が約−0.6V(vs,Ag/AgCl、以下同様)になり、添加後約90分にはORP値がさらに低下して極小値(約−0.62V)に達し、その後はORP値が次第に僅かづつ高くなる安定域になり、アルカリ添加から約6時間後にORP値が約−0.6Vまで回復する。なお、還元剤溶液においては、概ね、ORP値の変動範囲は還元剤の濃度に基づき、その変動状態は還元剤の濃度およびアルカリの濃度による。
【0014】
このように、概ね還元剤溶液にアルカリを添加した直後から約90分の間はORPが急激に低下する変動域の時期であり、この時期の還元剤溶液を銀アンミン錯体溶液に混合すると、銀アンミン錯体の還元反応がORP変動の影響を受けるため、析出する銀微粒子の粒径が不均一になりやすい傾向がある。
【0015】
そこで、本発明の製造方法では、アルカリを添加した還元剤溶液について、ORP値の変動域を避け、ORP値の安定域において、該還元剤溶液と銀アンミン錯体溶液とを混合することによって、微小な銀微粒子を安定に析出させるようにした。
【0016】
上記ORP値の安定域としては、その極小値の直前からその後の定常域の範囲であり、例えば、上記極小値より0.02V(vs.Ag/AgCl)高い範囲から始まり、極小値を経てORPが徐々に回復する定常値の範囲を含む領域である。なお、極小値を経てORPが徐々に回復する領域を定常値の範囲と云う。図1に示す例では、アルカリ添加から約60分経過後以降の範囲である。
【0017】
上記ORP値の安定域において銀の還元を行うことによって、銀アンミン錯体溶液の銀濃度が比較的高くても、微小な銀微粒子を安定に析出させることができる。具体的には、例えば、銀濃度20〜180g/Lの銀アンミン錯体溶液を用いて、一次粒子の平均粒径0.05〜1.0μm、結晶子径20nm〜150nmの銀微粒子を安定に析出させることができる。なお、銀濃度が20g/Lより低いと従来の方法と同様に生産効率が低下する。銀濃度が180g/Lより高いと銀微粒子の粒径が大きくなり、粒子どうしの凝集が多くなるので好ましくない。
【0018】
上記還元反応において、還元剤の濃度は銀濃度に対して約0.6〜約1.4反応当量倍(約6〜約107g/L)が適当である。還元剤としてはヒドロキノン、ピロガロール、3,4−ジヒドロキシトルエンなどを用いると良い。
【0019】
析出した銀微粒子を回収してpH10〜15でアルカリ洗浄する。アルカリとしてはアンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などを用いれば良い。アルカリ洗浄によって銀微粒子の表面に付着しているベンゾキノンなどが除去され、炭素不純物量の少ない銀微粒子を得ることができる。具体的には、例えば、炭素不純物量0.8wt%以下の銀微粒子を得ることができる。
【0020】
本発明の製造方法によれば、一次粒子の平均粒径0.05〜1.0μm、結晶子径20nm〜150nmの銀微粒子を安定に得ることができ、この銀微粒子は電子デバイスの高密度化とファイン化を図るための配線形成材料や電極材料として好適である。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。
〔実施例〕
濃度38wt%の硝酸銀溶液に、濃度28wt%のアンモニア水、および水をおのおの適量加えて、銀濃度176g/Lの銀アンミン錯体水溶液(イ)、銀濃度88g/Lの銀アンミン錯体水溶液(ロ)、銀濃度22g/Lの銀アンミン錯体水溶液(ハ)を調製した。一方、濃度5.4wt%のヒドロキノン溶液に適量の水酸化ナトリウム溶液を加えてORP値を監視し、安定域のORP値がおのおの表1に示すように還元剤溶液を調製した。次いで、上記銀アンミン錯体水溶液(イ)(ロ)(ハ)に、ORP値が安定域にある上記還元剤溶液を混合して銀微粒子を析出させた。この銀微粒子を回収して濃度28%のアンモニア水で洗浄した後に乾燥した。この銀微粒子について一次粒子の平均粒径と粒度分布、および結晶子径、炭素不純物量を測定した。この結果を表1に示した。
【0022】
上記銀微粒子について、一次粒子の平均粒径はレーザー散乱法、結晶子径はX線回折法、炭素不純物量は化学分析によって測定した。
【0023】
〔比較例〕
ヒドロキノン溶液に適量の水酸化ナトリウム溶液を加えた直後の還元剤溶液を用いた以外は上記実施例と同様にして銀微粒子を析出させ、アルカリ洗浄した。この結果を表1に示す。
【0024】
表1に示すように、本発明の実施例では、ORP値の各範囲において、特定範囲の粒径を有する銀微粒子が高い収量で得られる。具体的には、No.1〜No.11では、合成された銀微粒子の平均粒子径は0.05〜0.7μmであり、各試料において平均粒子径に対する累積20%粒径の粒径差、および累積80%粒径の粒径差は概ね0.02〜0.15程度と小さい。一方、比較例では水酸化ナトリウム溶液を加えた直後のORP値の各値において、銀微粒子の粒径が不均一であり、平均粒子径が0.6〜1.6μmである。すなわち、比較例の方法は水酸化ナトリウム溶液を加えた直後から極小値に至る前の領域における極小値より0.02V(vs.Ag/AgCl)高い酸化還元電位までの時間内では非常に短時間(ORP値が一定値を保つ数分内)で合成を終了させなければ均一粒径の合成粒子を得ることが出来ず、長時間の合成に適さない。
【0025】
【表1】


【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】還元剤溶液の酸化還元電位の変化を示すグラフ。
【出願人】 【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
【出願日】 平成18年7月28日(2006.7.28)
【代理人】 【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史


【公開番号】 特開2008−31526(P2008−31526A)
【公開日】 平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願番号】 特願2006−206743(P2006−206743)