トップ :: B 処理操作 運輸 :: B22 鋳造;粉末冶金

【発明の名称】 量産成形用アルミニウム合金と同じ材質の切削加工用アルミニウム合金のインゴットの鋳造方法及びその鋳造装置
【発明者】 【氏名】薄井 直人
【課題】切削加工による試作品や少量部品の製作に使用できる鋳巣の発生を極限に抑えた切削加工用材料を簡易に製造できる切削加工用材料精錬装置、切削加工用材料精錬方法及びその方法を用いた切削加工用材料の鋳造方法を提供する。

【解決手段】切削加工用材料精錬装置10は、量産成形用アルミニウム材料12を溶融する電気溶解炉16と、電気溶解炉16内のアルミニウム材料12の溶融金属にアルゴンガス24を継続して吹き込むアルゴンガス挿入装置18とを備えるものである。このアルゴンガス24の吹き込みによりアルミニウム材料12の溶融金属中の水素ガス14を除去できる。アルゴンガス24を所定時間吹き込んだ後、アルミニウム材料12の溶融金属を鉄枠に流し込み、重力鋳造によって、鋳巣の発生を極限に抑えた試作品製作用の切削加工用材料を得ることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量産成形用アルミニウム材料を溶融する電気溶解炉と、その材料の溶融金属中にアルゴンガスを所定時間継続して吹き込むアルゴンガス挿入装置とを備えることを特徴とする切削加工用材料精錬装置。
【請求項2】
量産成形用アルミニウム材料を溶融し、その材料の溶融金属中にアルゴンガスを所定時間継続して吹き込むことを特徴とする切削加工用材料精錬方法。
【請求項3】
量産成形用アルミニウム材料を溶融し、その材料の溶融金属中にアルゴンガスを所定時間継続して吹き込み、その溶融金属を鉄枠に流し込み、重力鋳造により切削加工用材料を製造することを特徴とする切削加工用材料の鋳造方法。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、部品の試作品等の製作に用いる切断加工用材料を製造するための切削加工用材料精錬装置、切削加工用材料精錬方法及びその方法を用いた切削加工用材料の鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電機・自動車メーカー等では、アルミニウム製部品の汎用合金としてアルミニウム合金ADC12が使用されていた。部品が開発された場合、ADC12を材料(又は材質)とする部品を量産する前に、その部品が開発者・設計者の要求を満足するものかどうかを評価するため、その試作品を製作し、その試作品に基づいて評価する必要があった。また、その評価は、強度試験・熱伝導試験・防爆試験・環境試験など多種の適応試験等により行われていた。
【0003】
上記適応試験を行うには、精度が高く、量産に使用される材料ADC12と同じ材料で製作された試作品で行うことが望ましい。精度の高い試作品を製作する工法として、マシニングセンターを用いた切削加工が知られている。
しかし、ADC12の量産成形用アルミニウム材料(ダイカスト用アルミニウム合金のインゴット)を精錬して、上記切削加工用材料(切削加工用アルミニウム合金のインゴット)を鋳造しても、精錬中にその材料に含まれる水素ガスが活発に活動し、鋳巣が発生するため、その切削加工用材料は試作品製作に使用できる品質ではなかった。
【0004】
そのため、従来、試作品製作に使用される切削加工用材料には、ADC12を材質とする切削加工用材料に代えて、鋳巣がない切削加工用材料、例えば一般に市販されているAL5052やAL6063などを材質とする圧延材料が使用されていた。
しかし、AL5052やAL6063を材質とする試作品はADC12を材質とする量産品と様々な性質が異なるため、上記適応試験はその部品の金型品(ADC12を材質とするもの)が完成するまで待たざるを得ず、開発期間が延びてしまうという問題があった。また、場合によっては、上記適応試験について十分な評価ができないまま量産に着手せざるを得ないという問題があった。
【0005】
ADC12を材質とする試作品製作の工法としては、アルミニウム合金を含むすべての材質に適用できるロストワックス法がある。しかし、ロストワックス法は、金属金型を製作する必要があるため、製作期間がかかり、極少量製作する場合コスト高となり、試作品製作に適した工法とはいえなかった。
【0006】
現在、上記ロストワックス法の問題を解決する金属部品の製作方法が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−219245号
【0007】
特許文献1の金属部品の製作方法は、金属部品の型を光造形により形成し、この型を原型としてロストワックス法によって鋳型を製作するものである。光造形によって形成された樹脂を鋳型の原型に用いる、金属金型を必要としない製作方法である。これにより、試作品の製作期間の短縮及びコストの軽減を図ることができる。
【0008】
しかし、ADC12の溶融金属は、他の溶融金属に比べ、硬化時間が短い。そのため、鋳型に溶融したADC12の溶融金属を注湯しても、鋳型に流れ切る前に固まってしまい、ロストワックス法によっては、ADC12からなる試作品は鋳造できないおそれがあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の問題を解決するために、切削加工による試作品や少量部品の製作に使用できる鋳巣の発生を極限に抑えた切削加工用材料を簡易に製造できる切削加工用材料精錬装置、切削加工用材料精錬方法及びその方法を用いた切削加工用材料の鋳造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の切削加工用材料精錬装置は、量産成形用アルミニウム材料を溶融する電気溶解炉と、その材料の溶融金属中にアルゴンガスを所定時間継続して吹き込むアルゴンガス挿入装置とを備えるようにしたものである。
【0011】
本発明の切削加工用材料精錬方法は、量産成形用アルミニウム材料を溶融し、その材料の溶融金属中にアルゴンガスを所定時間継続して吹き込むようにしたものである。
【0012】
本発明の切削加工用材料の鋳造方法は、量産成形用アルミニウム材料を溶融し、その材料の溶融金属中にアルゴンガスを所定時間継続して吹き込み、その溶融金属を鉄枠に流し込み、重力鋳造により切削加工用材料を製造するようにしたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、鋳巣発生の原因となる精錬時に活発に活動する水素ガスを除去するものである。これにより、鋳巣の発生を極限に抑えた切削加工用材料を製造することができるため、精度の高い切削加工を用いて、量産成形用材料と同じ材料で試作品を製作できる。従来金型品が完成するまでできなかった適応試験も試作品完成時に行うことができることから、その部品の開発期間を短縮することが可能となる。
特許文献1には、本発明と同様、量産品と同じ材料で精度の高い試作品を製作する金属部品の製作方法が開示されているが、ロストワックス法による鋳造を用いて試作品を製作する工法であり、切削加工を用いて試作品を製作することを目的とする本発明とは異なるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、鋳巣の発生を極限に抑えた切削加工用材料を製造することにより、量産成形用材料と同じ材料で試作品を製作できることを実現するものである。
【実施例1】
【0015】
本発明の切削加工用材料精錬装置、切削加工用材料精錬方法及びその方法を用いた切削加工用材料の鋳造方法を図に基づいて説明する。図1は、本発明の切削加工用材料精錬装置の構成図である。
本発明の切削加工用材料精錬装置10は、厚材精錬時に鋳巣が発生する一般に市販されている量産成形用アルミニウム材料(アルミニウムインゴット)、例えばADC12のアルミニウム材料(以下、単に「ADC12材料」という。)12の溶融金属中から鋳巣発生の原因となる水素ガス14を除去するADC12材料12の精錬装置である。
【0016】
切削加工用材料精錬装置10は、ADC12材料12を溶融する電気溶解炉16と、アルゴンガス挿入装置18とを備えるものである。電気溶解炉16は、ADC12材料12を溶融するための坩堝16aを有するものである。なお、図1の電気溶解炉16は従来既知の直流アーク炉であるが、量産成形用アルミニウム材料の溶融が可能な他の溶解炉を用いてもよい。
【0017】
アルゴンガス挿入装置18は、坩堝16aのADC12材料12の溶融金属内にアルゴンガス24を挿入(又は供給)するためのアルゴンガス導入路18cを有する筒部材で構成されるもので、坩堝16aのADC12材料12の溶融金属内にその一端のアルゴンガス挿入口18aを挿入した状態で使用されるものである。なお、ADC12材料12の溶融金属中へアルゴンガス24を挿入(又は供給)する際は、電気溶解炉16の蓋16bを取り除いて行う。また、他端のアルゴンガス注入口18bは、アルゴンガス供給管20を介して電気溶解炉16の外部に設けられるアルゴンガス供給調整装置22に接続されている。
【0018】
本発明の切削加工用材料精錬方法は、一般に市販される量産成形用アルミニウム材料の溶融金属中にアルゴンガスを所定時間継続して吹き込むものである。以下、上記切削加工用材料精錬方法及びその方法を用いた切削加工用材料の鋳造方法を図1に基づいて説明する。
電気溶解炉16にADC12材料12を所定量投入し、所定の温度で溶融する。次に、上記ADC12材料12が溶融した後、アルゴンガス挿入装置18の挿入口18aを坩堝16a内のADC12材料12の溶融金属中に設け、所定量のアルゴンガス24をADC12材料12の溶融金属中に所定時間継続して吹き込む。このとき、ADC12材料12の溶融金属中に存在する水素ガス14の水素と吹き込まれたアルゴンガス24のアルゴンとが結合し、その結合物(気体)26はADC12材料12の溶融金属中からその溶湯面上に移動し、大気中で消滅する。これにより、ADC12材料12の溶融金属中の水素ガス14を除去できる。また、アルゴンガス24を所定の時間継続して吹き込むことによって、水素ガス14の含有量を微量にすることができる。
アルゴンガス24の挿入量(供給量)及び挿入時間(供給時間)は、アルゴンガス供給調整装置22を用いて、電気溶解炉16内の溶融金属の溶湯量に応じて調整する。
【0019】
ADC12材料12の溶融金属中にアルゴンガス24を所定時間吹き込んだ後、坩堝16a内のADC12材料12の溶融金属を図示しない鉄枠(切削加工用材料のインゴットを鋳造するための鋳型)に柄杓で流し込み、重力鋳造によって、ADC12からなる鋳巣を極限に抑えた切削加工用材料を鋳造することができる。
なお、上記重力鋳造によって製造された切削加工用材料は、その中心付近に「ひけ」と言われるくぼみが発生するが、鉄枠中の切削加工用材料をバーナーなどの燃焼装置によって暖めながら数回くぼみに流すことにより無くすことができる。また、上記工程で鋳造された切削加工用材料は、図示しない面削機(フライス・マシニングセンター等)で面削加工され、試作品製作のための所定の形状又は大きさに形成される。
【0020】
(実験例)
電気溶解炉16にADC12材料12(ADC12のインゴット)50Kgを投入し、約700℃で溶融した。ADC12材料12が溶融された後、ADC12材料12の溶融金属中にアルゴンガス供給調整装置22からアルゴンガス供給管20を通じて5Kg/cmのアルゴンガス24を30分間継続して供給した。
【0021】
アルゴンガス24の供給終了後、鉄枠にADC12材料12の溶融金属を鉄枠に流し込み、重力鋳造によって厚さ300mmの厚材の切削加工用材料を得た。その切削加工用材料を面削機で切断したところ、当該切削加工用材料のどこを面削しても、鋳巣の発生はミクロポリシィ程度の極微量のものであった。
【0022】
また、本発明により精錬・鋳造された切削加工用材料の圧力実験を行った。図2は、上記圧力実験の概略図である。
本圧力実験では、上記実験例で鋳造された切削加工用材料で製作した密閉された箱26を水28で満たされた容器30の中に入れ、その箱26にエア(酸素ガス)32を挿入するエアホース34を取り付け、箱26の内部にコンプレッサー36を用いて5Kg/cmのエア28を供給して、箱26の外に出る気泡の発生の有無を確認した(図2)。本圧力試験において、気泡の発生は認められなかった。
切削加工用材料に鋳巣が発生している場合は、圧力のある気体の漏れを抑えることはできない。しかし、上記圧力試験により気体の漏れは認められないため、本発明により精錬・鋳造される切削加工用材料は、試作品製作に使用できる品質であることが明らかになった。また、含浸処理を必要としないものであることが分かった。
これにより、開発を急ぐ研究者に早期に試作品(研究部品)を提供でき、その開発期間の遅延を防止することができる。
【0023】
(他の工法との比較)
試作品製作に使用される本発明により鋳造された切削加工用材料に関し、試作品製作コスト、製作日程(製作期間)、精度、多種の適応試験への適用度の面から、従来の切削用材料による試作品製作、各種鋳造による試作品製作との対比により、説明する。表1は、通常の切削用材料による試作品製作、各種鋳造による試作品製作との対比を表わすものである。
【0024】
【表1】


(評価) 最優:5、優:4、良:3、可:2、不可:1
【0025】
a.通常の切削用材料を使用する試作品製作の工法
上記工法は、市販されているAL5052やAL6063の圧延切削用材料(通常の切削用材料)をマシニングセンター加工により試作品を製作するものである。精度及び製作期間については、後述の既知のbないしdの工法より優れ(いずれも評価5)、少量(10個程度)を生産するのであればコスト的に有利な工法である(評価5)。
しかし、通常の切削加工用材料は、量産に使用するADC12材料と熱伝導・強度・靭性などの点で全く異質のものであるため、当該試作品では部品の形状確認しかできず、強度試験・熱伝導試験・防爆試験・環境試験など多種の適応試験について確認することはできない(適用度評価1)。
【0026】
b.砂型・精密砂型による試作品製作の工法
上記工法では、熱伝導率がADC12材料に近いAC4B材料を使用する。しかし、上記aと同様、ADC12材料と異質の材料であるため、当該試作品では部品の形状確認及び熱伝導試験しかできない(適用度評価2)。
また、ADC12材料を使用する場合、一般に砂型で使用する材料と比較すると、ADC12材料は硬化時間が短く、型に流れ切る前に固まってしまうため、形状を再現することは困難である。さらに、鋳肌が汚いため、外装部品の試作には適さない。
コスト面では、極少量の試作品を製作する場合、初期イニシャルが発生するためコスト高となる(評価3)。
精度については上記aの工法より劣る(評価3)。
【0027】
c.石膏鋳造による試作品製作の工法
上記工法は、鋳肌が綺麗なため外装部品に使用する工法として利用されるものである。上記bの工法と同様、熱伝導がADC12材料に近いAC4BやAC2Aのアルミニウム材料を使用するが、当該試作品では部品の形状確認及び熱伝導試験しかできない(適用度評価2)。
また、ADC12材料を使用する場合、ADC12材料が流れ難いこと及び極少量製作する場合の初期イニシャルの発生によるコスト高の問題がある(評価2)。
【0028】
d.ロストワックスによる試作品製作の工法
上記工法では、金型を製作するため、製作期間がかかり、極少量製作する場合コスト高となるため試作品製作に適した工法とはいえない(いずれも評価1)。
特許文献1には、ロストワックス法の製作期間を短縮し、試作品製作のコスト軽減ができる金属部品の製作方法が開示されており、当該製作方法によれば本発明と同様に短期間・低コストで量産成形用材料と同じ材料で試作品を製作できる。しかし、ADC12材料は鋳型に流れ切るまでに固まってしまうおそれがあり、本工法によっては、ADC12材料からなる試作品を製造できない場合がある(適用度評価2)。また、含浸処理が要求される場合は、研究部品の開発期間に遅れが生じるおそれがある。
【0029】
e.本発明により鋳造された切削加工用材料を使用する試作品製作の工法
本発明により、試作品製作に適した品質を有するADC12の切削加工用材料を製造することができる。これにより、切削加工により精度の優れた試作品を確実に製造できる。
本工法では、試作品を大量に製作する場合、金属くず(切りくず)が大量に出るためコスト高となるが(評価3)、極少量製作する場合は低コストとなる(評価5)。また、マシニングセンター加工により試作品を製作するため、精度は優れており(評価5)、量産品に非常に近い試作品を製作できるため、強度・熱伝導・防爆・環境等の多種の適応試験すべてについて確認が可能となる(適用度評価5)。
以上のように、本発明により鋳造された切削加工用材料を使用する試作品製作の工法によると、他の工法より優れた効果を得ることができる(総合評価23)。
【0030】
なお、上記実施例では、ADC12材料を例示したが、他のアルミニウム材料、例えばADC3材料の精錬・鋳造にも適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の切削加工用材料精錬装置の構成図である。
【図2】本発明により精錬・鋳造された切削加工用材料の圧力実験の概略図である。
【符号の説明】
【0032】
10 切削加工用材料精錬装置
12 切削加工用材料
14 水素
16 電気溶解炉
18 アルゴンガス挿入装置
24 アルゴンガス


特許の図
【出願人】 【識別番号】506429592
【氏名又は名称】株式会社アルト精工
【出願日】 平成19年9月18日(2007.9.18)
【代理人】 【識別番号】100130823
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 誠一
【公開番号】 特開2008−178907(P2008−178907A)
【公開日】 平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願番号】 特願2007−241032(P2007−241032)