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【発明の名称】 加圧鋳造装置及び加圧鋳造方法
【発明者】 【氏名】古谷 幸児

【氏名】藤田 智浩

【氏名】上東 喜紀

【要約】 【課題】加圧鋳造において鋳造品の品質向上を図ること。

【構成】溶湯の高速射出により、金型キャビティに対する溶湯の充填率が93%乃至98%の範囲の中から選択される予め定めた充填率に達した場合に、プランジャの減速制御を行ない、溶湯の加圧力を段階的に増圧する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出スリーブ内の溶湯をプランジャにより金型キャビティ内に高速射出した後、前記金型キャビティ内に充填された溶湯を前記プランジャにより加圧する加圧鋳造装置において、
前記溶湯が前記金型キャビティ内に高速射出されるよう、前記プランジャの移動速度を制御する高速射出制御と、前記プランジャの移動速度を減速する減速制御と、を行なう移動速度制御手段と、
前記金型キャビティ内に充填された前記溶湯に対する前記プランジャによる加圧力を制御する加圧力制御手段と、を備え、
前記移動速度制御手段は、
前記高速射出制御により前記金型キャビティに対する前記溶湯の充填率が93%乃至98%の範囲の中から選択される予め定めた充填率に達した場合に、前記減速制御を行ない、
前記加圧力制御手段は、
前記加圧力を段階的に増圧することを特徴とする加圧鋳造装置。
【請求項2】
前記加圧力制御手段は前記加圧力を相対的に低圧な加圧力から高圧な加圧力へ2段階で増圧することを特徴とする請求項1に記載の加圧鋳造装置。
【請求項3】
前記プランジャの移動量を検出する検出手段を備え、
前記移動速度制御手段は、
前記検出手段により検出された前記移動量が、前記予め定めた充填率に対応する移動量に達した場合に、前記減速制御を行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載の加圧鋳造装置。
【請求項4】
前記予め定めた充填率と、前記低圧な加圧力から前記高圧な加圧力への切替えタイミングと、のユーザの指定を受け付ける設定手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載の加圧鋳造装置。
【請求項5】
射出スリーブ内の溶湯をプランジャにより金型キャビティ内に射出した後、前記金型キャビティ内に充填された前記溶湯を前記プランジャにより加圧する加圧鋳造方法において、
前記溶湯が前記金型キャビティ内に高速射出されるよう、前記プランジャの移動速度を制御する高速射出制御工程と、
前記高速射出制御工程後に、前記プランジャの移動速度を減速する減速制御工程と、
前記金型キャビティ内に充填された前記溶湯を前記プランジャにより、相対的に低圧な加圧力で加圧した後、相対的に高圧な加圧力で加圧する加圧工程と、
を備え、
前記加圧工程における、前記低圧な加圧力から前記高圧な加圧力への切替タイミングを前記高速射出制御工程の実行時間に応じて設定し、前記実行時間が相対的に長い場合は、前記切替タイミングを相対的に遅くすることを特徴とする加圧鋳造方法。
【請求項6】
射出スリーブ内の溶湯をプランジャにより金型キャビティ内に射出した後、前記金型キャビティ内に充填された前記溶湯を前記プランジャにより加圧する加圧鋳造方法において、
前記溶湯が前記金型キャビティ内に高速射出されるよう、前記プランジャの移動速度を制御する高速射出制御工程と、
前記高速射出制御工程後に、前記プランジャの移動速度を減速する減速制御工程と、
前記金型キャビティ内に充填された前記溶湯を前記プランジャにより、相対的に低圧な加圧力で加圧した後、相対的に高圧な加圧力で加圧する加圧工程と、
を備え、
前記低圧な加圧力を前記高速射出制御工程の実行時間に応じて設定し、前記実行時間が相対的に長い場合は、前記低圧な加圧力を相対的に低くすることを特徴とする加圧鋳造方法。
【請求項7】
前記高圧な加圧力を前記実行時間に応じて設定し、前記実行時間が相対的に短い場合は、前記高圧な加圧力を相対的に高くすることを特徴とする請求項6に記載の加圧鋳造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は溶湯充填後に溶湯を加圧する加圧鋳造技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金型キャビティ内に金属溶湯を射出充填する鋳造方法では、キャビティ内における溶湯の凝固収縮に伴って鋳造品に鋳巣が生じる場合がある。加圧鋳造方法では、溶湯充填後にキャビティ内の溶湯を加圧することでこのような鋳巣が生じることを防止することができる。鋳巣の発生を効果的に防止するためには溶湯の加圧力をより高圧にすることが効果的である。しかし、溶湯の加圧力を高圧にすると、金型の分離面等に溶湯が進入して鋳造品にバリが多くなるという問題がある。また、金型が高圧に曝されることにより金型にダメージを与え易く、その寿命が短くなるという問題もある。
【0003】
特許文献1には溶湯の加圧力を段階的に増圧する加圧鋳造方法が開示されている。この加圧鋳造方法では溶湯を加圧する初期の段階では相対的に加圧力を低くすることで、バリの発生が低減し、その後加圧力を増圧することにより溶湯の凝固が遅い、鋳造品の厚肉部や内部を安定的に加圧することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−122146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、単に加圧力を段階的に増圧するだけでは、低加圧状態において特に凝固の早い金型キャビティ表面付近や鋳造品の薄肉部におけるガス巻き込み等による鋳巣の発生が生じ、高品質な鋳造品を得られない場合があり、改善の余地がある。
【0006】
従って、本発明の目的は、鋳造品の品質向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、射出スリーブ内の溶湯をプランジャにより金型キャビティ内に高速射出した後、前記金型キャビティ内に充填された溶湯を前記プランジャにより加圧する加圧鋳造装置において、前記溶湯が前記金型キャビティ内に高速射出されるよう、前記プランジャの移動速度を制御する高速射出制御と、前記プランジャの移動速度を減速する減速制御と、を行なう移動速度制御手段と、前記金型キャビティ内に充填された前記溶湯に対する前記プランジャによる加圧力を制御する加圧力制御手段と、を備え、前記移動速度制御手段は、前記高速射出制御により前記金型キャビティに対する前記溶湯の充填率が93%乃至98%の範囲の中から選択される予め定めた充填率に達した場合に、前記減速制御を行ない、前記加圧力制御手段は、前記加圧力を段階的に増圧することを特徴とする加圧鋳造装置が提供される。
【0008】
この加圧鋳造装置では、前記溶湯の充填率が93%乃至98%の範囲の中から選択される予め定めた充填率に達した場合に、前記減速制御を行い、また、前記溶湯の加圧力を段階的に増圧する。前記溶湯の充填率が93%乃至98%の範囲まで前記高速射出制御を行なうことにより、前記金型キャビティ内全体に高温状態の溶湯が行き届き易くなり、溶湯の加圧力がその初期において相対的に低圧であっても、溶湯への加圧力が作用し、前記金型キャビティ表面付近や鋳造品の薄肉部における鋳巣の発生が防止される。そして溶湯の加圧力をその初期において相対的に低圧とすることで、バリの発生や金型へのダメージを減少することができる。そして、溶湯の加圧力を増圧することで溶湯の凝固が遅い、鋳造品の厚肉部や内部を安定的に加圧することができる。こうして本発明では鋳造品の品質向上を図ることができる。
【0009】
本発明においては、前記加圧力制御手段は前記加圧力を相対的に低圧な加圧力から高圧な加圧力へ2段階で増圧する構成を採用できる。この構成によれば、装置の複雑化を防止しつつ、鋳造品の品質向上を図ることができる。
【0010】
また、本発明においては、前記プランジャの移動量を検出する検出手段を備え、前記移動速度制御手段は、前記検出手段により検出された前記移動量が、前記予め定めた充填率に対応する移動量に達した場合に、前記減速制御を行なう構成を採用できる。この構成によれば、溶湯の充填率を前記プランジャの移動量で検出することができ、より簡易な制御を行なうことができる。
【0011】
また、本発明においては、前記予め定めた充填率と、前記低圧な加圧力から前記高圧な加圧力への切替えタイミングと、のユーザの指定を受け付ける設定手段を備えた構成を採用できる。この構成によれば、より簡易に前記予め定めた充填率と前記切替えタイミングとの最適化を図ることができる。
【0012】
また、本発明によれば、射出スリーブ内の溶湯をプランジャにより金型キャビティ内に射出した後、前記金型キャビティ内に充填された前記溶湯を前記プランジャにより加圧する加圧鋳造方法において、前記溶湯が前記金型キャビティ内に高速射出されるよう、前記プランジャの移動速度を制御する高速射出制御工程と、前記高速射出制御工程後に、前記プランジャの移動速度を減速する減速制御工程と、前記金型キャビティ内に充填された前記溶湯を前記プランジャにより、相対的に低圧な加圧力で加圧した後、相対的に高圧な加圧力で加圧する加圧工程と、を備え、前記加圧工程における、前記低圧な加圧力から前記高圧な加圧力への切替タイミングを前記高速射出制御工程の実行時間に応じて設定し、前記実行時間が相対的に長い場合は、前記切替タイミングを相対的に遅くすることを特徴とする加圧鋳造方法が提供される。
【0013】
この加圧鋳造方法では、前記低圧な加圧力から前記高圧な加圧力への切替タイミングを前記高速射出制御工程の実行時間に応じて設定し、前記実行時間が相対的に長い場合は、前記切替タイミングを相対的に遅くする。前記実行時間が相対的に長い場合は前記高速射出制御工程での溶湯の充填率が高くなる。溶湯の充填率が高いと前記金型キャビティ内全体に高温状態の溶湯が行き届き易くなり、溶湯の加圧力がその初期において相対的に低圧であっても、溶湯への加圧力が作用し、前記金型キャビティ表面付近や鋳造品の薄肉部における鋳巣の発生が防止される。そして溶湯の加圧力をその初期において相対的に低圧とすることで、バリの発生や金型へのダメージを減少することができる。ここで、溶湯の充填率が相対的に高い状態で溶湯を加圧することはバリの発生が相対的に多くなる。そこで、前記低圧な加圧力による溶湯加圧時間を相対的に長くすることでバリの発生を防止することができる。そして、溶湯の加圧力を増圧することで溶湯の凝固が遅い、鋳造品の厚肉部や内部を安定的に加圧することができる。こうして本発明では鋳造品の品質向上を図ることができる。
【0014】
また、本発明によれば、射出スリーブ内の溶湯をプランジャにより金型キャビティ内に射出した後、前記金型キャビティ内に充填された前記溶湯を前記プランジャにより加圧する加圧鋳造方法において、前記溶湯が前記金型キャビティ内に高速射出されるよう、前記プランジャの移動速度を制御する高速射出制御工程と、前記高速射出制御工程後に、前記プランジャの移動速度を減速する減速制御工程と、前記金型キャビティ内に充填された前記溶湯を前記プランジャにより、相対的に低圧な加圧力で加圧した後、相対的に高圧な加圧力で加圧する加圧工程と、を備え、前記低圧な加圧力を前記高速射出制御工程の実行時間に応じて設定し、前記実行時間が相対的に長い場合は、前記低圧な加圧力を相対的に低くすることを特徴とする加圧鋳造方法が提供される。
【0015】
この加圧鋳造方法では、前記低圧な加圧力を前記高速射出制御工程の実行時間に応じて設定し、前記実行時間が相対的に長い場合は、前記低圧な加圧力を相対的に低くする。前記実行時間が相対的に長い場合は前記高速射出制御工程での溶湯の充填率が高くなる。溶湯の充填率が高いと前記金型キャビティ内全体に高温状態の溶湯が行き届き易くなり、溶湯の加圧力がその初期において相対的に低圧であっても、溶湯への加圧力が作用し、前記金型キャビティ表面付近や鋳造品の薄肉部における鋳巣の発生が防止される。そして溶湯の加圧力をその初期において相対的に低圧とすることで、バリの発生や金型へのダメージを減少することができる。ここで、溶湯の充填率が相対的に高い状態で溶湯を加圧することはバリの発生が相対的に多くなる。そこで、前記低圧な加圧力を相対的に低くすることでバリの発生を防止することができる。そして、溶湯の加圧力を増圧することで溶湯の凝固が遅い、鋳造品の厚肉部や内部を安定的に加圧することができる。こうして本発明では鋳造品の品質向上を図ることができる。
【0016】
本発明においては、前記高圧な加圧力を前記実行時間に応じて設定し、前記実行時間が相対的に短い場合は、前記高圧な加圧力を相対的に高くする構成を採用できる。前記実行時間が相対的に短い場合は前記高速射出制御工程での溶湯の充填率が低くなる。溶湯の充填率が低いと前記金型キャビティ内全体に高温状態の溶湯が行き届き難くなり、凝固の早い鋳造品の表面付近や薄肉部で鋳巣が発生し易くなる。そこで、前記高圧な加圧力を相対的に高くすることで鋳巣の発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上述べた通り、本発明によれば、鋳造品の品質向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<装置の構成>
図1は本発明の一実施形態に係る加圧鋳造装置Aのブロック図である。金型10は固定型11と移動型12とから構成されており、その内部にはキャビティ13が形成されている。キャビティ13への溶湯充填中、固定型11と移動型12とは不図示の型締め装置により型締めされる。
【0019】
キャビティ13の端部にはガス抜きバルブ14が配設され、キャビティ13への溶湯充填中、キャビティ13内の空気がガス抜きバルブ14から排出される。移動型12にはエジェクタピン15が挿入されている。エジェクタピン15はエジェクタプレート16により支持されており、移動型12を移動してキャビティ13内に生成された鋳造品を取り出す際、鋳造品を移動型12から分離するために用いられる。
【0020】
エジェクタプレート16内にはセンサユニット17が配設されている。センサユニット17はエジェクタピン15を介してキャビティ13内に充填された溶湯の溶湯圧力や溶湯温度を検出する。
【0021】
固定型11には溶湯の導入部11aが形成され、ここには射出スリーブ20の端部が取り付けられている。射出スリーブ20は溶湯の給湯口21が形成されており、不図示の給湯装置から給湯口21を介して射出スリーブ20内に溶湯が供給される。射出スリーブ20にはプランジャ30のプランジャチップ31が挿入されている。プランジャ30のプランジャロッド32は射出シリンダ40に挿入され、その後端部にはピストン41が接続されている。
【0022】
アキュームレータ51、52には不図示のポンプ、レギュレータ等を介して油圧が所定圧に維持された作動油が蓄積されている。アキュームレータ51には相対的に低圧な作動油が蓄積され、アキュームレータ52には相対的に高圧な作動油が蓄積される。アキュームレータ51及び52には配管を介して電磁方向弁60が接続されている。電磁方向弁60はアキュームレータ51とアキュームレータ52とのいずれか一方を切り替えて電磁方向弁61に接続する。
【0023】
電磁方向弁61は配管61aを介して電磁方向弁60に接続されるポートと、オイルドレン53に接続されるポートと、配管61bを介して射出シリンダ40の後室42に接続されるポートと、配管61cを介して流量制御弁70及び逆流防止弁71に接続されるポートと、を有する。しかして、溶湯の射出時には、アキュームレータ51又は52と後室42とを接続し、また、流量制御弁70を介して射出シリンダ40の前室43とドレン53とを接続する。また、射出シリンダ40を初期状態へ復帰する場合には、アキュームレータ51と逆流防止弁71を介して前室43とを接続し、また、後室42とドレン53とを接続する。
【0024】
流量制御弁70は射出シリンダ40の前室43に接続されており、前室43から排出される作動油の流量を調整する。これによりプランジャ30の移動速度が調整される。逆流防止弁は流量制御弁70と並列に前室43に接続され、溶湯射出後にピストン41を初期位置へ戻す場合に、前室43内に作動油が供給されるよう、開くことになる。
【0025】
制御部80は加圧鋳造装置Aの制御を行なうCPU81と、可変データ、プログラムが格納されるRAM82と、固定データ、プログラムが格納されるROM83と、CPU81が実行するプログラム等が格納されるHDD(ハードディスクドライブ)と、I/F(インターフェース)85と、を備える。I/F85にはセンサユニット17、流量制御弁70、電磁方向弁60、61、プランジャ30の移動量を検出する移動量センサ33が接続されている。CPU81はI/F85を介して、センサユニット17、移動量センサ33の検出結果を取得する。また、CPU81はI/F85を介して流量制御弁70の開度、電磁方向弁60、61の切替制御を行なう。
【0026】
I/F85にはまた、入力装置86、ディスプレイ87が接続されている。入力装置86はユーザが鋳造条件等の設定を入力するために用いられる。ディスプレイ87は各種の情報を表示するために用いられる。
【0027】
<装置の動作>
次に、係る構成からなる加圧鋳造装置Aの動作について説明する。加圧鋳造装置Aでは射出スリーブ20内に給湯口21から溶湯が供給される。アキュームレータ51から作動油が射出シリンダ40の後室42に供給され、プランジャ30が射出スリーブ20側へ移動する。これにより射出スリーブ20内の溶湯がプランジャ30のプランジャチップ31によりキャビティ13内に射出される。
【0028】
キャビティ13への溶湯の充填後、アキュームレータ51の作動油の圧力によりプランジャチップ31が溶湯を加圧する。その後、射出スリーブ20の後室42への作動油の供給がアキュームレータ52に切り替えられ、より高圧な加圧力でプランジャチップ31が溶湯を加圧する。所定時間の加圧後、1単位の鋳造が終了する。
【0029】
図2(a)は加圧鋳造装置Aによる鋳造時の射出速度、鋳造圧力の経時的な変化を示す鋳造例を示す図である。まず、射出速度の制御(プランジャ30の移動速度制御)について説明する。プランジャ30の移動速度制御は、プランジャ30の移動速度が低速な初期制御と、高速な高速射出制御と、低速な減速制御に大別される。本実施形態の場合、射出シリンダ40の後室42にはアキュームレータ51から一定圧の作動油が供給される。従って、プランジャ30の移動速度は前室43から排出される単位時間あたりの作動油の排出量に依存する。
【0030】
前室43から排出される作動油の排出量は流量制御弁70の開度により調整される。初期制御及び減速制御の場合、流量制御弁70の開度が相対的に絞られ、作動油の排出量は相対的に減少する。これにより前室43と後室42との作動油の圧力差が小さくなり、プランジャ30の移動速度は低速となる。一方、高速射出制御の場合、流量制御弁70の開度が相対的に開かれ、作動油の排出量は相対的に増加する。これにより前室43と後室42との作動油の圧力差が大きくなり、プランジャ30の移動速度は高速となる。
【0031】
流量制御弁70の開度はCPU81により制御される。従って、CPU81及び流量制御弁70は溶湯がキャビティ13内に高速射出されるよう、プランジャ30の移動速度を制御する高速射出制御と、プランジャ30の移動速度を減速する減速制御と、を行なう移動速度制御手段として機能する。
【0032】
本実施形態の場合、高速射出制御から減速制御への切替タイミングはキャビティ13内への溶湯充填率により定められる。溶湯充填率は図2(b)に示すようにプランジャ30の移動量に比例する。従って、プランジャ30の移動量を参照することにより、溶湯充填率に応じた切替タイミングを設定できる。プランジャ30の移動量を移動量センサ33で検出して溶湯充填率を検出することにより、溶湯充填率を実測することなく検出することができ、より簡易な制御を行なうことができる。
【0033】
なお、溶湯充填率は、センサユニット17により検出される溶湯圧力、溶湯温度からも導き出すこともできる。従って、高速射出制御から減速制御への切替タイミングをセンサユニット17により検出される溶湯圧力、溶湯温度を参照して設定することも可能である。
【0034】
次に、加圧力の切替制御について説明する。本実施形態では溶湯への加圧力の切替は電磁方向弁60により行なわれ、射出シリンダ40の後室42へ作動油を供給する供給源がアキュームレータ51からアキュームレータ52へ切り替えられることにより溶湯への加圧力が段階的に増圧される。電磁方向弁60の切替はCPU81により制御される。従って、CPU81及び電磁方向弁60はキャビティ13内に充填された溶湯に対するプランジャ30による加圧力を制御する加圧力制御手段として機能する。
【0035】
本実施形態では溶湯の加圧力を相対的に低圧な加圧力から高圧な加圧力へ2段階で増圧するが、3段階以上としてもよい。尤も、3段階以上とするとアキュームレータの増設等が必要とされる。従って、2段階とすることは装置の複雑化を防止することができる。
【0036】
<射出条件と加圧力の増圧の関係>
溶湯の加圧力を段階的に増圧することは、鋳造品のバリの発生の防止、及び、金型10へのダメージの低減に効果がある。つまり、溶湯の加圧力をその初期において相対的に低圧にすることはバリの発生の防止、及び金型10へのダメージの低減に効果がある。また、溶湯の加圧力を増圧することで溶湯の凝固が遅い、鋳造品の厚肉部や内部を安定的に加圧することができる。
【0037】
しかし、溶湯を加圧する初期の段階で加圧力が低いことは、凝固の早いキャビティ13表面付近や鋳造品の薄肉部において鋳巣が発生する場合がある。そこで、減速制御の開始タイミングを遅らせ、高速射出制御による溶湯の充填率が高ければ高い程、キャビティ13内全体に高温状態の溶湯が行き届き易くなり、溶湯の加圧力がその初期において相対的に低圧であっても、溶湯に加圧力が作用し、前記金型キャビティ表面付近や鋳造品の薄肉部における鋳巣の発生が防止される。高速射出制御により溶湯の充填率が93%乃至98%の範囲の中から選択される充填率に達した場合に、減速制御を開始することで、後述するように鋳巣の発生が低減する。
【0038】
このように、射出条件(高速射出制御から減速制御への切り替えタイミング)と、加圧力の段階的な増圧とにより、バリの発生低減及び鋳巣の発生低減による鋳造品の品質向上を図ることができ、また、金型10へのダメージを低減することができ、加圧鋳造の最適化を図ることができる。
【0039】
また、本実施形態のように溶湯加圧力を2段階で切り替える場合、その切替タイミングや加圧力は高速射出制御の実行時間に応じて以下のように設定することが望ましい。まず、高速射出制御の実行時間が相対的に長い場合は、高速射出制御による溶湯充填率が相対的に高くなる。従って、加圧力の切替タイミングを相対的に遅くする。上記の通り、溶湯の充填率が高いとキャビティ13内全体に高温状態の溶湯が行き届き易くなり、加圧力が低圧であっても鋳巣の発生が防止される。逆に、溶湯の充填率が相対的に高い状態で溶湯を高加圧力で加圧することはバリの発生が相対的に多くなる。そこで、バリの発生や金型10へのダメージを考慮すると、高速射出制御の実行時間が相対的に長い場合には加圧力の切替タイミングを遅くすることが望ましいと言える。
【0040】
また、高速射出制御の実行時間が相対的に長い場合は、1段目の低圧な加圧力を相対的に低くする。上記の通り、高速射出制御による溶湯充填率が高い場合は鋳巣の発生が低減するため、バリの発生や金型10のダメージ低減のため、1段目の低圧な加圧力を相対的に低くすることが望ましいと言える。
【0041】
また、高速射出制御の実行時間が相対的に短い場合は、2段目の高圧な加圧力を相対的に高くする。高速射出制御の実行時間が相対的に短い場合は高速射出制御での溶湯の充填率が低くなる。溶湯の充填率が低いとキャビティ13内全体に高温状態の溶湯が行き届き難くなり鋳巣が発生し易くなる。そこで、2段目の高圧な加圧力を相対的に高くすることで鋳巣の発生を防止することができる。
【0042】
<制御部80の処理>
次に、CPU81が実行する処理について説明する。図3(a)は鋳造条件の設定処理時のフローチャートを示し、図3(b)は鋳造実行時のフローチャートを示す。これらのプログラムはHDD84に格納されCPU81が実行する。
【0043】
まず、図3(a)を参照してS1では条件設定処理が実行され、その後、1単位の処理が終了する。条件設定処理では高速射出制御から減速制御への切替タイミングとなる充填率、及び、加圧力の切替タイミング等の鋳造条件のユーザの指定を受け付ける設定処理を行う。
【0044】
ユーザが充填率を指定すると、これが対応するプランジャ30の移動量に換算されてRAM82又はHDD84に保存される。また、ユーザが加圧力の切替タイミングを時間(待ち時間)で指定すると、これがRAM82又はHDD84に保存される。加圧力の切替タイミング規定する待ち時間は、本実施形態の場合、溶湯の充填率が所定値(例えば90%)の場合に計測が開始される。待ち時間が経過すると加圧力が低圧から高圧へ切り替えられる。なお、計測の開始となる溶湯充填率はプランジャ30の移動量に換算されて管理される。
【0045】
高速射出制御から減速制御への切替タイミングとなる充填率、及び、加圧力の切替タイミングを、それぞれ独立してユーザが設定できることにより、鋳造品の試作段階において様々な条件で鋳造品を試作し、評価することでその最適化を図ることができる。
【0046】
次に、図3(b)を参照して鋳造実行時のCPU81の処理について説明する。金型10のセットアップ、溶湯の供給準備ができた後、S11では射出開始処理を行なう。ここではアキュームレータ51と電磁方向弁61とが接続されるように電磁方向弁60をセットする。また、流量制御弁70の開度を絞り初期制御用にセットする。溶湯の射出スリーブ20内への充填が完了すると、電磁方向弁61を制御して、アキュームレータ51から射出シリンダ40の後室42作動油を供給する。これによりプランジャ30が射出スリーブ20側へ移動し、キャビティ13への溶湯の射出が開始する。
【0047】
S12では移動量センサ33の検出結果を取得して、プランジャ30の移動量が初期制御から高速射出制御への切り替えタイミングに対応する移動量であるか否かを判定する。なお、初期制御から高速射出制御への切り替えタイミングに対応する移動量は予め設定される。該当する場合はS13へ進み、該当しない場合はS12の処理を再び実行する。
【0048】
S13では高速射出制御を開始する。ここでは流量制御弁70の開度を予め定めた開度まで開く。これによりプランジャ30の移動速度が加速する。S14ではプランジャ30の移動量が待ち時間の計測開始タイミングに対応する移動量であるか否かを判定する。該当する場合はS15へ進み、該当しない場合はS16へ進む。S15では待ち時間の計測を開始する。
【0049】
S16ではプランジャ30の移動量が高速射出制御から減速制御への切替タイミングとなる充填率に対応する移動量であるか否かを判定する。該当する場合はS17へ進み、該当しない場合はS18へ進む。S17では減速制御を開始する。ここでは流量制御弁70の開度を予め定めた開度まで絞る。これによりプランジャ30の移動速度が減速する。
【0050】
S18ではS15で計測を開始した待ち時間を経過したか否かを判定する。該当する場合はS19へ進み、該当しない場合はS14へ戻る。S19では加圧力の切替を行なう。ここでは電磁方向弁61を制御して、アキュームレータ51に代えてアキュームレータ52を射出シリンダ40の後室42に接続する。これにより、キャビティ13内の溶湯加圧力がアキュームレータ51内の作動油による低圧の加圧力からアキュームレータ52の作動油による高圧の加圧力へ切り替えられる。
【0051】
S20では所定時間が経過かしたか否かを判定する。この時間はアキュームレータ52の作動油による高圧の加圧力での溶湯加圧時間である。該当する場合はS21へ進み、該当しない場合は時間の経過待ちとなる。S21では終了処理を行なう。ここでは、鋳造品の取り出し、プランジャ30の初期位置への復帰処理等、次回の鋳造処理への準備処理が行なわれる。以上により1単位の処理が終了する。
【0052】
<実験例>
高速射出制御から減速制御への切替タイミングとなる充填率を変え、更に、溶湯充填後の加圧力を1段階にした場合と、2段階で増圧した場合について鋳バリの発生量と鋳巣の発生率とを調べた。鋳造の対象はエンジンのシリンダブロックであり、溶湯はアルミ合金である。溶湯充填後の加圧力は1段階の場合は約70MPaであり、2段階に増圧した場合は1段階目を約30MPaとし、2段階目を約70MPaとした。溶湯充填後の加圧力を2段階に増圧する場合、加圧力の切替タイミングは溶湯充填率が92%の時点から計測して0.45秒後とした。
【0053】
図4は実験結果を示す図であり、図4(a)は鋳バリの発生量と高速射出制御から減速制御への切替タイミングとなる充填率との関係を、図4(b)は鋳巣の発生量と高速射出制御から減速制御への切替タイミングとなる充填率との関係を示す。鋳バリの発生量は各充填率について複数の鋳造品を試作し、各鋳造品で発生した鋳バリの平均発生量である。鋳巣の発生率はシリンダブロックの特定の部位(加工面)の鋳巣の発生率であり、各充填率について複数の鋳造品を試作し、鋳巣が加工面に発生した鋳造品の割合である。
【0054】
図4(a)の結果を見ると、溶湯充填後の加圧力を2段階で増圧した場合の方が、切替タイミングとなる充填率に関わり無く鋳バリの発生量が格段に少なくなっている。これは溶湯充填後の加圧力を2段階で増圧した場合、初期の加圧力が1段階の場合に比べて約40MPa低いことに起因しているものと考えられる。
【0055】
一方、図4(b)の結果を見ると、溶湯充填後の加圧力を2段階で増圧した場合、切替タイミングとなる充填率により鋳巣の発生率に大きな変化が見られ、充填率が93%を下回る場合、溶湯充填後の加圧力を1段階とした場合よりも大きく劣っている。しかし、93%以上、特に94%以上となると溶湯充填後の加圧力を2段階で増圧した場合の方が鋳巣の発生率が加圧力を1段階とした場合と同等か、或いは、低くなっている。
【0056】
これは加圧力を2段階で増圧する場合、1段目が低圧となり、鋳巣が発生し易いが、高速射出時の溶湯充填率を高めることで高温状態の溶湯に加圧力(1段目の低圧力)が作用し、鋳巣の発生を減少することができたと考えられる。従って、高速射出制御から減速制御への切替タイミングとなる充填率は93%以上、特に94%以上であることが望ましい。なお、充填率が98%を超えると、射出シリンダ40の減速制御の応答限界により溶湯に大きな衝撃圧力が生じて鋳バリが急増するため、98%以下とすることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態に係る加圧鋳造装置Aのブロック図である。
【図2】(a)は加圧鋳造装置Aによる鋳造時の射出速度、鋳造圧力の経時的な変化を示す鋳造例を示す図、(b)はプランジャ移動量と溶湯充填率との関係とを示す図である。
【図3】(a)及び(b)はCPUが実行する処理を示すフローチャートである。
【図4】(a)及び(b)は実験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
A 加圧鋳造装置
10 金型
13 キャビティ
20 射出スリーブ
30 プランジャ
40 射出シリンダ
51、52 アキュームレータ
80 制御部
【出願人】 【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
【出願日】 平成18年7月13日(2006.7.13)
【代理人】 【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳

【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎

【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘

【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二


【公開番号】 特開2008−18461(P2008−18461A)
【公開日】 平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願番号】 特願2006−193208(P2006−193208)