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【発明の名称】 鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローの鋳造方法及び鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スロー
【発明者】 【氏名】石田 斉

【氏名】坂本 浩一

【氏名】吉川 克之

【氏名】森 啓之

【氏名】井嶋 清幸

【要約】 【課題】ピン部に逆V偏析や空隙が発生するという鋳造欠陥の発生を低減した鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローの鋳造方法及び鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローを提供する。

【解決手段】一対のアーム2,2片と、その対設するアーム片2,2の一端側を連接するピン部3より構成され、各アーム片2,2のピン部3とは逆の端部側に、ジャーナル孔4,4が形成される鋳鋼スロ−1を、鋳型5内に充填した溶解金属6にて鋳造する鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローの鋳造方法であって、ピン部3の軸方向が水平になるよう鋳型5を配置し、ピン部3の上方に連結した押湯7をピン部3よりジャーナル孔4側にずらせ、押湯7とピン部3をつないで形成される余肉部8のジャーナル孔4側表面が下向きに傾斜するよう鋳型内壁面9を上向き傾斜させた鋳型5内に、溶解金属6を充填させて鋳鋼スロー1を鋳造する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のアーム片と、その対設するアーム片の一端側を連接するピン部より構成され、各アーム片のピン部とは逆の端部側に、ジャーナル孔が形成される鋳鋼スロ−を、鋳型内に充填した溶解金属にて鋳造する鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローの鋳造方法であって、
ピン部の軸方向が水平になるよう鋳型を配置し、
ピン部の上方に連結した押湯をピン部よりジャーナル孔側にずらせ、押湯とピン部をつないで形成される余肉部のジャーナル孔側表面が下向きに傾斜するよう鋳型内壁面を上向き傾斜させた鋳型内に、溶解金属を充填させて鋳鋼スローを鋳造することを特徴とする鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローの鋳造方法。
【請求項2】
余肉部のジャーナル孔側表面は、垂線から5°〜60°傾いていることを特徴とする請求項1記載の鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローの鋳造方法。
【請求項3】
鋳型は、ピン部中心とジャーナル孔中心を結ぶ線が水平になるように配置されることを特徴とする請求項1又は2記載の鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローの鋳造方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法で製造されてなり、
一対のアーム片と、その対設するアーム片の一端側を連接するピン部より構成され、各アーム片のピン部と逆の端部側に、ジャーナル孔が形成される鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スロ−であって、
ピン部は、余肉部のジャーナル孔側表面からその表面に直交する深さ方向に成長した凝固組織で形成されていることを特徴とする鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スロー。


【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶ディーゼルエンジンなどを構成する鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローの鋳造方法及び鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の船舶の大型化傾向にともなって、その主機関である低速2サイクルディーゼル機関も高出力化してきている。また、カーゴスペースの確保による輸送の効率化のため、エンジンのコンパクト化要求も強くなっている。このため、低速2サイクルディーゼル機関の主要部品である組立型クランク軸には高強度化、高品質化が求められている。従って、このクランク軸を構成するスローには、ますます欠陥の低減が求められている。
【0003】
クランク軸には鋳鋼製と鍛鋼製があるが、生産性の高い鋳鋼製とした場合のスローの鋳造方法としては種々の鋳造方案が知られている。例えば、非特許文献1には複数の鋳造方案が開示されている。そのBild9(図9)には、ピン部の軸方向が垂直になるように鋳造スローを配置し、上側に位置するアーム片に押湯をつけた鋳造方案が開示されている。この鋳造方案では、一方のアーム片に押湯をつけるため、出来上がった鋳造スローの左右品質が均一でない。また、下側に位置するアーム片には押湯が効きにくく鋳造欠陥が発生しやすいという問題がある。
【0004】
またBild10、11(図10、11)には、ピン部の軸方向が水平になるように鋳造スローを配置した鋳造方案が開示されている。しかしながら、いずれも押湯がジャーナル孔とは反対側に寄せて設けられており、押湯自体が効きにくく鋳造欠陥が発生しやすいという問題がある。
【0005】
更にBild12(図12)には、ピン部中心とジャーナル孔中心を結ぶ線が垂直方向になるように鋳造スローを配置するもの、すなわち鋳造スローを立てた状態で鋳造する鋳造方案が開示されている。しかしこの方案では、押湯を含めた鋳物高さが高くなり、造型、鋳造作業性が悪いという問題がある。
【0006】
非特許文献2のFig3(図3)、非特許文献3の第4図にも別の鋳造方案が示されている。そのいずれもが3箇所に押湯を設けたものである。
【0007】
また、単に押湯を設ける従来の方法で鋳鋼スローを鋳造すると特に強度が要求されるピン部に逆V偏析や空隙などの鋳造欠陥が発生する。以下、その生成機構を図8に基づいて説明する。
【0008】
鋳型5は鋳造される鋳造スロー1の形状に合わせ内面に空間が形成されており、鋳造される鋳造スロー1のピン部3の上方には押湯7が連結されている。押湯7とピン部3をつなぐ部位は空洞であり、その空洞のジャーナル孔4側の鋳型内壁面9は直立した垂直面となっている。ピン部3はその空洞で周囲が囲まれるため、充填された溶解金属6が凝固すればその周囲は余肉部8となる。
【0009】
鋳型5の空間内に充填された溶解金属6は、鋳型内壁面9に接触する表面側から内部に向かって順次冷えて凝固組織10となってゆくが、その凝固組織10の形状は主にデンドライト状(樹枝状)となる。
【0010】
一般に、凝固時の固液共存領域において、固相率fs=0.0〜0.7の間は凝固組織10,10間の溶解金属6は移動可能である。デンドライト状の凝固組織10,10間の溶解金属6は、偏析による密度差により浮力や重力が発生するため移動しようとするが、その駆動力は凝固組織10の成長方向に応じて変化する。また、溶解金属6が移動することで、凝固組織10,10間の溶解金属6の凝縮合体がおこり大きな偏析帯となるため、この部分が逆V偏析となり、凝固する際の空隙系の引け巣を発生させる原因となっている。
【0011】
特に、両側のアーム片2,2に囲まれたピン部3のジャーナル孔4側は、コ字形に凹んだ熱がこもりやすい部位となるため、冷却速度は一番遅くなり局所的な逆V偏析や空隙が発生しやすかった。
【0012】
ここでデンドライト状の凝固組織10の成長について説明する。凝固組織10は、ジャーナル孔4側の直立した鋳型内壁面9に接触する余肉部8の表面側から内部に向け成長する。その成長方向は、余肉部8のジャーナル孔4側の表面から直交する深さ方向、即ち水平方向である。この成長の際、凝固を始めた溶解金属6は、凝固時に成分(特にFeより軽いCやSi)が濃化することによって比重が軽くなり、未凝固の溶解金属6中を浮上しようとする。ところが既に水平方向に成長した凝固組織10が、凝固を始めた溶解金属6の浮上を妨げるため、濃化した溶解金属6が凝固組織10,10間にトラップされて、この部分が逆V偏析となる。
【0013】
また、逆V偏析は合金成分の濃化した部分であるため融点が低く、他の部分より凝固が遅れるため、凝固収縮による鋳造欠陥が発生しやすく、これが鋳鋼品の機械的強度などの品質を低下させる原因となっていた。
【非特許文献1】アルブレヒト・ロス(Albrecht Roth)著,「ディ・アンヴェンドゥング・フォン・アウセンクーラング・バイ・デア・フェルティガング・フォン・シュタールガス(Die Anwendung von Aussenkulung bei der Fertigung von Stahlguss)」,ギーセリー(GIESSEREI),(独国),1958年5月22日,第45号,p.289―295
【非特許文献2】西原,福井(M.Nishihara and Y.Fukui)著,「ファティーグ・プロパティズ・オブ・フル・スケール・フォージド・アンド・キャスト・スティール・クランクシャフト(Fatigue properties of full scale forged and cast steel crankshafts),」トランザクションズ・インスティトゥート・オブ・マリン・エンジニア・シリ−ズ・ビー(Transactions.Institute of Marine Engineers.Series B),(英国),1978年11月26日,第78号,p.21―42
【非特許文献3】森啓之、外5名、「鋳鋼製組立型クランク軸の進歩」、神戸製鋼技報、株式会社神戸製鋼所、2000年12月、第50巻、第3号、p.41―45
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記従来の問題点に鑑みて発明したものであって、船舶用エンジンとして稼動する際に最も応力がかかる重要部位であるピン部の品質に着目し、鋳造時の方案を工夫することで、ピン部に逆V偏析や空隙が発生するという鋳造欠陥の発生を低減した鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローの鋳造方法及び鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1記載の発明は、一対のアーム片と、その対設するアーム片の一端側を連接するピン部より構成され、各アーム片のピン部とは逆の端部側に、ジャーナル孔が形成される鋳鋼スロ−を、鋳型内に充填した溶解金属にて鋳造する鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローの鋳造方法であって、ピン部の軸方向が水平になるよう鋳型を配置し、ピン部の上方に連結した押湯をピン部よりジャーナル孔側にずらせ、押湯とピン部をつないで形成される余肉部のジャーナル孔側表面が下向きに傾斜するよう鋳型内壁面を上向き傾斜させた鋳型内に、溶解金属を充填させて鋳鋼スローを鋳造することを特徴とする鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローの鋳造方法である。
【0016】
請求項2記載の発明は、余肉部のジャーナル孔側表面は、垂線から5°〜60°傾いていることを特徴とする請求項1記載の鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローの鋳造方法である。
【0017】
請求項3記載の発明は、鋳型は、ピン部中心とジャーナル孔中心を結ぶ線が水平になるように配置されることを特徴とする請求項1又は2記載の鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローの鋳造方法である。
【0018】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の方法で製造されてなり、一対のアーム片と、その対設するアーム片の一端側を連接するピン部より構成され、各アーム片のピン部と逆の端部側に、ジャーナル孔が形成される鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スロ−であって、ピン部は、余肉部のジャーナル孔側表面からその表面に直交する深さ方向に成長した凝固組織で形成されていることを特徴とする鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローの鋳造方法によると、鋳造時におけるピン部の逆V偏析や空隙の発生という鋳造欠陥を低減することができ、船舶用エンジンとして稼動する際に最も応力がかかる重要部位であるピン部の品質を向上させることができる。
【0020】
また、本発明の鋳鋼製クランク軸用鋳鋼スローによると、ピン部の逆V偏析や空隙という鋳造欠陥が少なく、船舶用エンジンとして稼動する際に最も応力がかかる重要部位であるピン部の品質が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいてさらに詳細に説明する。
【0022】
図4に示すように、船舶ディーゼルエンジン用などに用いられる組立型の鋳鋼製クランク軸は、一対のスラスト軸11,11間に、複数個の鋳鋼スロー1とジャーナル軸12を順に並べ、焼きばめで組み合わせて一本の軸状にして構成されている。鋳鋼スロー1はエンジンの気筒数に合わせた数だけ必要であり、例えば、10気筒なら10個の鋳鋼スロー1が必要である。
【0023】
図3に示すように、鋳鋼スロー1は、一対のアーム片2,2と、その対設するアーム片2,2の一端側を連接する円柱状のピン部3より構成される平面略コ字形の形状のものである。各アーム片2にはピン部3と逆の端部側にジャーナル孔4が形成されている。このジャーナル孔4にジャーナル軸12の一端部が挿入され鋳鋼製クランク軸は組み立てられる。
【0024】
アーム片2は楕円形の肉厚のものであり、ピン部3は円柱の軸状のものである。アーム片2の厚み寸法はピン部3の長さ寸法より大きく、アーム片2に形成されたジャーナル孔4の径はピン部3の径と同一である。
【0025】
図3に示す実施形態では、アーム片2は外周縁がすべて曲線状(図1を参照)で、ピン部3の径とジャーナル孔4の径が同一で、ピン部3がアーム片2の端縁よりジャーナル孔4側に寄ったものを示すが、鋳造される鋳鋼スロー1は、必ずしもこのような形状のものではなくても良い。
【0026】
例えば、アーム片2の外周形状は、図5に示すような上下縁が直線状のもの、あるいは図6に示すような左右非対称のものでも良い。また、ピン部3の径とジャーナル孔4の径が異なるもの、図6に示すようなピン部3がアーム片2の端縁に寄ったものでも良い。
【0027】
次に、図1及び図2に基づいて、鋳鋼スロー1の鋳造方法を説明する。
【0028】
まず、鋳造される鋳造スロー1の形状に合わせて内面に空間が形成された鋳型5を準備する。鋳型5は、鋳造される鋳造スロー1のピン部3の軸方向が水平になるように配置される。また、ピン部3の中心とジャーナル孔4の中心を結ぶ線も水平になるように配置される。
【0029】
鋳型5は砂型鋳型で以下のような構造である。鋳造される鋳造スロー1のピン部3の上方は、押湯7が挿入できるよう開口している。その開口から挿入される押湯7とピン部3をつなぐ部位が空洞となっている。開口の径はピン部3の径より大きく、開口の中心はピン部3の中心よりジャーナル孔4側に寄った位置に形成されている。その開口に挿入される押湯7は、ピン部3よりジャーナル孔4側にずらせた状態でピン部3の上方に連結される。この押湯7とピン部3をつなぐ部位は上記したように空洞であり、そのジャーナル孔4側の鋳型内壁面9は上向きの傾斜面となっている。その傾斜面は垂線から5°〜60°傾いていることが好ましい。
【0030】
鋳型5の空間内には溶解金属6が充填されるが、充填された溶解金属6は、鋳型内壁面9に接触する表面側から内部に向かって順次冷えて凝固組織10となってゆく。その凝固組織10の形状は主にデンドライト状(樹枝状)となる。
【0031】
ここで、従来から熱がこもりやすく凝固が遅れ、局所的な逆V偏析や空隙が発生しやすかった両側のアーム片2,2に囲まれたピン部3のジャーナル孔4側の部位の凝固組織10の成長について説明する。
【0032】
凝固組織10は、ジャーナル孔4側の上向き傾斜した鋳型内壁面9に接触する余肉部8の表面側から内部に向け成長する。その成長方向は、余肉部8のジャーナル孔4側の表面から直交する深さ方向、即ち斜め上向きの方向である。この成長の際、凝固組織10,10間の凝固を始めた溶解金属6は、凝固時に成分(特にFeより軽いCやSi)が濃化することによって比重が軽くなり、未凝固の溶解金属6中を浮上しようとする。凝固組織10は斜め上方に向け成長しているため、凝固を始めた溶解金属6は凝固組織10に邪魔されず、未凝固の溶解金属6中を浮上する。従って、熱がこもりやすく凝固が遅れる部位であっても逆V偏析や空隙の発生を低減することができる。
【0033】
余肉部8はあとで全て除去されるが、デンドライト状の凝固組織10はピン部3まで達しており、逆V偏析や空隙の発生を低減することが出来るという作用効果はピン部3でも奏している。
【0034】
なお、前記の説明では、鋳型5のジャーナル孔4側の鋳型内壁面9は上向きの傾斜面となっており、その傾斜面は垂線から5°〜60°傾いていることが好ましいと説明したが、その角度の限定理由を次に説明する。
【0035】
傾斜した鋳型内壁面9には、余肉部8のジャーナル孔4側表面が接触するが、そのジャーナル孔4側表面の傾斜角度は、鋳塊内部の逆V偏析生成に影響し、角度が大きいほど逆V偏析を防止しやすく、5°未満では逆V偏析が発生することが考えられる。従って、余肉部8のジャーナル孔4側の角度は5°以上が好ましいと考えられる。
【0036】
また、角度を大きくとると逆V偏析の発生を防止できるが、押湯7をジャーナル孔4側にずらせることになりピントップ側(ピン部3のジャーナル孔4とは逆側)に押湯7が効かず品質に問題が出る可能性がある。そこで、ピントップ側にも押湯7を効かせるとなると押湯7自体が大きくなってしまい製品歩留りが低下してしまう。従って、余肉部8のジャーナル孔4側の角度は60°以下が好ましいと考えられる。
【0037】
即ち、余肉部8のジャーナル孔4側の傾斜角度、並びに鋳型5のジャーナル孔4側の鋳型内壁面9の傾斜角度は、5°〜60°が好ましい。
【0038】
また、溶解金属6の成分(質量%)は表1に示す範囲のものであれば良い。残部のうち大部分はFeであり、不純物を含んでいても良い。
【0039】
【表1】


【0040】
以下、表1の成分範囲の限定理由を元素ごとに説明する。
【0041】
Cは、強度及び焼き入れ性を向上させる元素であり、含有量が0.10%より少ないと所定の強度が得難くなる。また、0.25%より多くなると溶接割れの危険性が高くなるので、0.10〜0.25%が好ましい。
【0042】
Siは、脱酸剤としての使用及び焼き入れ性を向上させる元素であるが、含有量が高くなると偏析が大きくなるので、0.6%以下が好ましい。
【0043】
Mnは、強度及び焼き入れ性を向上させる元素であり、含有量が0.7%より少ないと所定の強度が得難くなる。また、1.4%より大きいと焼き戻し脆化が著しくなるので、0.7〜1.4%が好ましい。
【0044】
Niは、強度及び焼き入れ性を向上させる元素であり、溶接性の低下が比較的少ない元素であるので、できるだけ添加することが望ましいが、含有量が0.3%より少ないと靱性が低下し、優れた靱性を確保できず、所定の強度が得難くなる。また、高価な元素であるため、大量の添加はコスト上昇を招くという点から、Ni量の上限は2.5%が好ましい。
【0045】
Crは、強度及び焼き入れ性を向上させる元素であり、炭化物生成元素であるため、0.1%より少ないと硬度が出にくくなり、所定の硬度が得難くなる。また、溶接性の低下を引き起こす元素であるため、0.1〜1.1%が好ましい。
【0046】
Moは、焼き戻し軟化抵抗を高める元素であるため、0.1%以上の添加が好ましいが、溶接性を阻害する元素でもあるため、0.1〜0.7%が好ましい。
【0047】
Vは、焼き戻し軟化抵抗を高める元素であるが、溶接性を阻害する元素であると共に、一定量以上添加しても軟化抵抗向上の大きな効果が望めない元素であるため、0.3%以下が好ましい。
【0048】
以上の説明では、鋳型5は、鋳造される鋳造スロー1のピン部3の軸方向と、ピン部3の中心とジャーナル孔4の中心を結ぶ線が両方とも水平になるように配置されるものについて説明した。このように配置すれば鋳造される鋳造スロー1は水平に配置されることとなる。鋳型5は上下が別個に形成され組み立てられるものであり、鋳造スロー1が斜めに配置されるものに比べ鋳型の造型が簡単となる。
【0049】
しかしながら、少なくとも鋳造される鋳造スロー1のピン部3の軸方向が、水平になっておれば良く、余肉部8のジャーナル孔4側が下向きに傾斜してさえおれば、ピン部3での逆V偏析や空隙の発生を低減できるという効果は達成することができる。
【実施例】
【0050】
図5に示す鋳造スロー1の余肉部8の、ジャーナル孔4側表面の傾斜角度θを0°〜30°まで順次変え、鋳造スロー1の品質を調査し、本発明の効果を確認した。実験で鋳造した鋳造スロー1は図5に示す形状のものであり、押湯比
(押湯重量/本体と押湯の総重量)は0.4である。また、使用した溶解金属6の成分を表2に示す。
【0051】
【表2】


【0052】
図5に示す鋳造方案にて、8.7tonの溶解金属6を鋳込温度1,550℃で鋳造し、凝固後の鋼塊を表面から30mm機械加工除去後、ピン部3と、ジャーナル孔4周囲のUT検査と、ピン部3の水平断面の逆V偏析発生状況を確認した。その結果を表3に示す。
【0053】
(UT検査方法)
JIS−Z2352に規定する超音波探傷装置の性能測定方法に基づいて、垂直探傷及び斜角探傷法により試験周波数が2MHz〜5MHzの範囲で検出したきずエコー高さをdB単位で測定し、等価欠陥直径(平底穴欠陥FBH相当)に換算した。図7(a)(b)に示すように、ピン部3は、上部領域aと下部領域bに分け、その表面全周を軸直径の1/4の深さまで全面検査した。上部領域aは、0mm<深さ≦50mm(以下、条件Aという)と、50mm<深さ(以下、条件Bという)に分け検査、下部領域bは、0mm<深さ≦10mm(以下、条件Cという)と、10mm<深さ(以下、条件Dという)に分け検査した。合格判定基準(Spec)は、条件Aで欠陥直径φ3mm未満、条件Bで欠陥直径φ5mm未満、条件Cで欠陥直径φ2mm未満、条件Dで欠陥直径φ3mm未満である。ジャーナル孔4部は、その周囲全周を孔直径の1/10の深さまで全面検査した。検査範囲は、0mm<深さ≦50mm(以下、条件Eという)と、50mm<深さ(以下、条件Fという)である。合格判定基準(Spec)は、条件Eで欠陥直径φ3mm未満、条件Fで欠陥直径φ5mm未満である。
【0054】
(逆V偏析調査方法)
ピン部3中心軸とジャーナル孔4中心軸を結ぶ面で、ピン部3を切断し、その切断面を研磨、硝酸でエッチングすると、逆V偏析は黒い点状組織として確認できる。そこでピン部3の表面から50mm深さ以内の面内に存在する逆V偏析の有無を確認する。
【0055】
【表3】


【0056】
表3から明らかなように、余肉部8のジャーナル孔4側の角度を0°とした従来方案の場合(No.1)は、UT検査ではピン部3側では条件Dで、ジャーナル孔4側では条件Fで、夫々鋳造欠陥が認められた。また、逆V偏析も確認することができた。
【0057】
これに対し、余肉部8のジャーナル孔4側の角度を5°〜30°とした本発明の各実施例の場合(No.2〜5)は、UT検査ではピン部3側、ジャーナル孔4側ともに合格判定基準以内のデータを得ることができ、逆V偏析も確認することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態を示すもので、鋳型内に鋳鋼スローを鋳込んだ状態を示す縦断面図である。
【図2】図1のA-A線断面図である。
【図3】鋳鋼スローを示す横断面図である。
【図4】組立型の鋳鋼製クランク軸を分解した平面図である。
【図5】本発明の異なる実施形態を示す鋳鋼スローと押湯の縦断面図である。
【図6】本発明の更に異なる実施形態を示す鋳鋼スローの縦断面図である。
【図7】鋳鋼スローのUT検査の検査領域を示すもので、(a)は側面図、(b)は(a)のA-A線縦断面図である。
【図8】従来例を示すもので、鋳型内に鋳鋼スローを鋳込んだ状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1…鋳鋼スロー
2…アーム片
3…ピン部
4…ジャーナル孔
5…鋳型
6…溶解金属
7…押湯
8…余肉部
9…鋳型内壁面
10…凝固組織
11…スラスト軸
12…ジャーナル軸
【出願人】 【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
【出願日】 平成18年9月28日(2006.9.28)
【代理人】 【識別番号】100089196
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 良之

【識別番号】100104226
【弁理士】
【氏名又は名称】須原 誠

【識別番号】100131750
【弁理士】
【氏名又は名称】竹中 芳通


【公開番号】 特開2008−80382(P2008−80382A)
【公開日】 平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願番号】 特願2006−265010(P2006−265010)