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【発明の名称】 ベアリングレースのカップ状成形体の成形方法
【発明者】 【氏名】竹内 博

【要約】 【課題】鍛造欠陥不良が抑制されたベアリングレース用のカップ成形体の製造方法を提供する。

【解決手段】ベアリングレース用のカップ成形体の製造方法は、(1)鋼素材からなる円柱体4を軸方向に据込みにより圧縮して、円盤状の予備成形体7を成形し、(2)この予備成形体7をパンチ8およびダイ9を備えた鍛造型で鍛造し、円筒部2とこの円筒部2の下端の底部3からなるカップ状成形体1を成形する。この場合、(1)の据込みにおける、予備成形体7の端面のコーナー部の円の直径Dを、パンチ8の円柱体4からなる垂下体11の上端の円盤部10の内外径間の中央の円の直径Dmの0.99倍以上1.02倍以下となるように鍛造の条件を調整する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼素材からなる円柱体を据込みにより軸方向に圧縮して円盤状の予備成形体とし、該円盤状の予備成形体をカップ状のダイに収納し、このダイの内径に挿嵌可能な大きさの円盤体と該円盤体の下面中央部から該円盤体より小径の円柱の垂下部を突出して有する断面T型のパンチにより、ダイに収納した円盤状の予備成形体を型鍛造して底部を有するカップ状成形体に成形する際に、円盤状の予備成形体の円盤端部のコーナー円の直径Dの大きさを、パンチの円盤体の外径Doと小径の円柱の垂下部の直径Diとの中間の直径Dmの0.99倍〜1.02倍に調整して型鍛造することを特徴とするベアリングレースのカップ状成形体の成形方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明はベアリングレースの素形材の成形方法に関し、特にベアリングレースのカップ状成形体の熱間鍛造による成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主に自動車や産業機械部品などとして用いられるベアリングレースは、通常は鍛造によって製造される。この鍛造による製造方法では、まず円柱状鋼素材が据込工程により軸方向に圧縮されて円盤状の予備成形体に形成される。次に、この予備成形体を成形工程により成形パンチおよびダイからなる鍛造型のダイに投入し、パンチをダイの中に下降して予備成形体を圧縮し、圧縮によって材料を流動し、円筒部と、この円筒部の下端に底部を備えたカップ状の成形体とする。この成形体から打抜工程において底部を打ち抜いて除去するポンカス抜きにより、ベアリングレースの素形材に完成する。
【0003】
しかしながら、成形工程における圧縮時に、最後に材料が流動して充填される箇所であるパンチの円柱の上部と円盤体とのコーナー部分、とくに円盤体の外径とダイの内径とのコーナー部には材料が充填されにくいという問題点がある。このため、製品である素形材の円筒部の上端外周縁に欠肉を生じることがある。この欠肉防止のためには、鍛造の荷重を大きめに設定するか、成形工程における据込み形状の予備成形体の最外径部と成形ダイの内径壁のクリアランスの距離を調整する必要があった。
【0004】
従来の据込工程における予備成形、成形工程における本成形およびポンカス抜きの打抜工程から成るハブ内輪鍛造方法において、欠肉やバリなどの欠陥不良をなくした円筒部と底部とフランジ部を備えた成形体を得るために、予備成形体の最外径である直径を、CAE解析によって求めた金型形状とその金型に最適充填する予備成形体の直径との関係から導いた重回帰式から算出する値の0.95〜1.05倍の範囲内に収める方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
この方法では、フランジ部を有する点で対象とする形状の違いから、円筒部と底部を備える成形体には対応していない。また、円筒部における上端外径部の欠陥抑制には適しているものの、円筒部の上端内径部の欠陥抑制には対応していない。
【0006】
【特許文献1】特開2003−311365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、大きな鍛造荷重は、生産設備への負荷を高めるうえ、成形時にパンチとダイとの微小な隙間から材料が流出しやすく、大きなバリを生じさせることがある。バリは後工程にて除去される必要があり、鍛造荷重の増大はベアリングレースの製造コストおよび生産性を低下させる要因でもある。また、成形工程における据込形状の最外径部と成形用のダイの内径壁とのクリアランスの距離を調整する方法では、実際に試作してみないと内外径の上端部の充填状況を確認することができない。従って、現状では、ベアリングレース製品の内外径の上端部の未充填の問題に関しては、有効かつ明確な鍛造工程の設計指針が存在していない。
【0008】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、製品の内径および外径の上端部の成形不良を抑制して熱間鍛造によりベアリングレースの素形材を成形する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、以下の(1)および(2)の工程の方法におけるものである。すなわち(1)鋼素材からなる円柱体を軸方向に据込みにより圧縮して、円盤状の予備成形体を形成する据込工程からなる予備成形方法と、(2)この予備成形された円盤状の予備成形体を成形用のパンチおよびダイを備えた鍛造型で型鍛造し、円筒部とこの円筒部の下端部に底部を備えたカップ状成形体を形成する成形工程からなる本成形方法からなる。本発明の手段で成形されたベアリングレースのカップ状成形体は、さらに、ベアリングレースのリング素形材とするために、カップ状成形体の円筒部の底部を円筒部から打ち抜き除去するポンカス抜きを実施してリング素形材とされる。
【0010】
本発明の手段の方法の上記の(1)および(2)の手段について、さらに説明すると、(1)の据込工程により円盤状の予備成形体に据込みし、次いで、この円盤状の予備成形体をカップ状のダイに装入し、円盤状の予備成形体の円盤の上下面である平面部の周辺の円であるコーナー円の直径Dの大きさを、円盤体と小径の円柱の垂下部からなる成形用のパンチの円盤体の外径Doと小径の円柱の垂下部の直径Diとの中間の直径Dmの0.99倍〜1.02倍に、調整して型鍛造する方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上記の手段としたことで、ベアリングレースの素形材の内外径の上端コーナー部に同時にかつ良好に鋼材を流動させて充填させることができ、これまで問題となっていた製品の内外径の上端部の未充填となることを抑制でき、この鍛造方法で形成のベアリングレースは欠肉による欠陥が抑制され、さらに過大な鍛造圧を加えることがないのでバリ発生の懸念もなく品質に優れる素形材が成形でき、試作の繰り返しを軽減することができ、製造コストの低減、生産性の向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の手段により成形されたカップ状成形体1であり、(a)はカップ状成形体1の斜視図であり、図1(b)はその縦断面図である。このカップ状成形体1は、円筒部2と底部3とを備えており、円筒部2の内径面には若干の抜き勾配が付いている。また底部3は、この円筒部2の下端を塞いでいる。図1(b)および図3においてHで示している部分は、円筒部2の高さである。図1(b)および図3において両矢印Diで示されている部分は、円筒部2の上端部の内径のパンチ8の小径円柱の垂下部11の外径であり、両矢印Doで示されているのは円筒部2の上端部の外径でパンチ8の円盤部10の外径である。また、図1の(b)および図3において両矢印Dmで示されているのは、上端部内外径の間のちょうど中央に相当する直径すなわちパンチ8の円盤部10において垂下部11の外径よりも外周側の円環部分の中間の円の直径である。すなわち上記の両矢印Doは本発明に使用する成形用のパンチ8を構成する円盤体の外径Doに、上記の両矢印Diは同じく成形用のパンチ8を構成する小径の円柱垂下部11の外径である直径Diに相当する。
【0013】
図2は、図1のカップ状成形体1を成形する据込工程の様子を示す正面図である。図2の(a)に示す鋼素材からなる円柱体4を素材とし、据込上金5および据込下金6からなるプレス機により据え込み加工する。まず、円柱体4を据込下金6に載置し、次に、プレス機によって据込上金5を据込下金6に対して相対的に下降することで、円柱体4を徐々に圧縮し、最終的に図2の(b)に示すような据込形状の円盤状の予備成形体7を得る。図2の(b)において両矢印Dで示されているのは、予備成形体7の上下の平面部の直径である。
【0014】
図3は、図2の据込工程の後工程である本成形の工程の様子を示す縦断面図である。本成形の工程では、断面T型のパンチ8とカップ状のダイ9とを備えた鍛造型が用いられ、このパンチ8は、ダイ9に対して相対的に昇降可能である。断面T型のパンチ8は、円盤部10と小径円柱の垂下部11とからなり、垂下部11は円柱状で円盤部10の中心から下方に向けて垂下している。垂下部11の外径は、円盤部10の外径よりも小径である。また、カップ状のダイ9は円筒部12と底部13からなり、円筒部12の内周面は、パンチ8における円盤部10の外周面との間にクリアランスが形成される程度に円盤部10の外径よりも若干大きくされている。
【0015】
成形工程では、先ずカップ状のダイ9に据込み形状の予備成形体7が投入され、図3(a)に示されるように、カップ状のダイ9の底部13に載置される。次に断面T型のパンチ8の下降により、予備成形体7の材料が流動し、底部13の側から円筒部12が徐々に充填されていく。図3(b)は、パンチ8が最も下降した状態が示されている。この状態では、パンチ8とダイ9とによって形成されるキャビティの全体に、材料が充填されている。次にパンチ8が上昇し、鍛造型のカップ状のダイ9からカップ状成形体1が取り出される。この取り出したカップ状成形体1の形状は図1に示すとおりである。
【0016】
以上の本発明の手段で成形されたカップ状成形体1は、次いで、図4に示すように、打抜工程により、カップ状成形体1の底部3であるポンカス15(カップ状成形体1の内径部の底部3の部分を「ポンカス」と称する。)が、ポンカス抜き用のパンチ14aによりダイ14bとの間で打ち抜かれて除去され、ベアリングレースのリング素形材2aに形成される。カップ状成形体1の各部の寸法である円筒部2の外径Do、円筒部2の内径Di、および、カップ状成形体1の内底面から円筒部2の上端までの円筒部2の高さHは、例えばハブ内輪を形成するとき、そのままハブ内輪に引き継がれる。本発明に係る製造方法は、円筒部2の内径Diが20mm以上35mm以下、円筒部2の外径Doが25mm以上45mm以下、円筒部2の高さHが10mm以上20mm以下とし、この大きさを好適とするカップ状成形体1から形成するベアリングレースに形成される。
【0017】
カップ状成形体1の円筒部2の、図5および図6に示す、外径上端周縁16および内径上端周縁17は、材料の流動による充填が最も遅れる箇所である。両者への充填がほぼ同時に達成されることにより、欠肉などの鍛造欠陥の不良の発生が抑制される。材料の流動履歴は、据込形状の予備成形体7の端部径である直径Dの影響を受ける。すなわち、カップ状成形体1の寸法に適した直径Dが設定されることにより、円筒部2の上端周縁部である外径上端周縁16および内径上端周縁17の同時充填が達成され、鍛造欠陥不良が抑制される。
【実施例1】
【0018】
種々の寸法を備えた鍛造型と種々の端部径である直径Dを備えた据込形状の予備成形体7とを想定し、図5の(c)および図6の(c)からさらに成形が進んだ状態である成形ストローク率99%時における、円筒部2の外径上端周縁16および内径上端周縁17の材料の流動による充填状況、すなわち外径上端周縁16および内径上端周縁17のそれぞれの成形用のパンチ8と材料間の空隙体積をCAE解析によって求めた。そして、各空隙体積(V)を成形体の体積(Vs)で割った空隙体積率(V/Vs)を算出した。
【0019】
D/Dmが1.00のとき、空隙体積率は外径上端周縁16で0.06%、内径上端周縁17で0.04%と算出された。D/Dmが0.99のときは、空隙体積率は外径上端周縁16で0.26%、内径上端周縁17で0.08%となり、外径上端周縁16の空隙が大きく増大し、外径上端の充填度合いは悪化した。一方、D/Dmが1.02のときは、空隙体積率は外径上端周縁16で0.07%、内径上端周縁17で0.20%となり、内径上端周縁17の空隙が増大し、内径上端の充填度合いが悪化することが分かった。これらの解析結果をもとに、横軸にD/Dm、縦軸に空隙体積率V/Vsをプロットしたものを図7にグラフとして示す。
【0020】
図5に見られるようにDよりもDmが大きく、さらにD/Dm<0.99となると、外径上端周縁16の空隙体積率は0.15%を超えて急激に増大した。すなわち、成形工程の初期に据込み形状の端部径であるコーナー部は、図5の(b)に示すように成形用のパンチ8の目打部コーナー18に巻きつくようにしながら矢印方向に流動し、次いで、図5の(c)に見られるように、パンチ8の径寄りに位置したまま矢印方向の上向きに流動した。このため、成形工程の終了時には円筒部2の内径上端周縁17は充填されるが、円筒部2の外径上端周縁16は充填されにくかった。
【0021】
逆に、図6に見られるようにDよりもDmが小さく、さらにD/Dm>1.02となると、内径上端周縁17の空隙体積率は0.15%を超えて増大した。しかし、外径上端周縁16は低位で安定した。すなわち図6の(b)に示すように成形工程の初期において、据込み形状の予備成形体7の最外径部がカップ状のダイ9の内径壁19に到達するため、上端部のコーナー部の外径の部分は、図6の(c)に見られるように、パンチ8の外径よりに位置したままダイ9の内径壁19から拘束を受けながら矢印の上向きに流動した。このため、成形工程の終了時にはパンチ8により円筒部2の外径上端周縁16は充填されるが、円筒部2の内径上端周縁17は充填されにくかった。
【0022】
これらの観点から、円筒部2の外径上端周縁16と内径上端周縁17の充填状況は、予備成形体7の端部の直径Dがパンチ8の円盤部10の中間の円の直径Dmの0.99倍以上1.02倍以下が好ましく、また、1.00倍に近いほどより好ましいといえる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】カップ状成形体を示し、(a)は斜視図、(b)は縦断面図である。
【図2】予備成形の据込工程を示し、(a)は据込前を、(b)は据込後示す縦断面図である。
【図3】本成形の鍛造工程示し、(a)は鍛造前を、(b)は鍛造後の縦断面図である。
【図4】本発明の工程の後に続く打抜工程を示す縦断面図である。
【図5】本成形の鍛造工程の充填挙動を示し、(a)はD<Dmの予備成形体を、(b)は鍛造初期を、(c)は鍛造後期を示す縦断面図である。
【図6】本成形の鍛造工程の充填挙動を示し、(a)はD>Dmの予備成形体を、(b)は鍛造初期を、(c)は鍛造後期を示す縦断面図である。
【図7】CAE解析によるD/Dmと空隙体積率V/Vsの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 カップ状成形体
2 円筒部
2a リング素形材
3 底部
4 円柱体
5 据込上金
6 据込下金
7 予備成形体(据込形状)
8 パンチ
9 ダイ
10 円盤部
11 垂下部
12 円筒部
13 底部
14a パンチ(ポンカス抜き用)
14b ダイ(ポンカス抜き用)
15 ポンカス
16 外径上端周縁
17 内径上端周縁
18 目打部コーナー
19 内径壁
D 予備成形体の端面の直径
Dm パンチの円盤部の中間の円の直径
Do パンチの円盤部の外径
【出願人】 【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
【出願日】 平成19年2月2日(2007.2.2)
【代理人】 【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至

【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理


【公開番号】 特開2008−188610(P2008−188610A)
【公開日】 平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願番号】 特願2007−23835(P2007−23835)