トップ :: B 処理操作 運輸 :: B21 本質的には材料の除去が行なわれない機械的金属加工;金属の打抜き

【発明の名称】 圧縮鍛造方法
【発明者】 【氏名】佐 藤 俊 彦

【氏名】竹 内 勇 吾

【氏名】吉 田 靖 男

【氏名】柿 澤 昇

【氏名】大 杉 武 宏

【氏名】吉 川 隆 憲

【要約】 【課題】圧縮鍛造で鋼塊を素材として用いる場合に、ポロシティーを除去して、鋼製品の引張り強さ、延性、耐衝撃性、靭性を一定以上の水準に保持することが可能な圧縮鍛造方法を提供する。

【解決手段】素材として円筒状の鋼塊(いわゆる「丸ビレット」1)を型(下型22)に設置し、鍛造時に座屈しないように鍛造をおこない、かつ、圧下比および鍛造比が基準値以上となるように鍛造をおこなう。たとえば、鍛造比が1.2以上で横方向圧縮鍛造をおこない、その後、圧下比が1.7以上で軸方向圧縮鍛造がおこなわれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材として円筒状の鋼塊を型に設置し、鍛造時に座屈しないように鍛造をおこない、かつ、圧下比および鍛造比が基準値以上となるように鍛造をおこなうことを特徴とする圧縮鍛造方法。
【請求項2】
鍛造素材の直径に対する全長の比が3以下で、かつ、圧下比が2.3以上で鍛造が行われる請求項1の圧縮鍛造方法。
【請求項3】
鍛造比が1.2以上で横方向圧縮鍛造をおこない、その後、圧下比が1.7以上で軸方向圧縮鍛造がおこなわれる請求項1の圧縮鍛造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は鍛造技術に関し、特に、丸ビレットを素材として用いる圧縮鍛造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鍛造では、素材として、圧延鋼材を使用している。言い換えれば、従来の鍛造は、その前処理として圧延加工が必要とされている。
圧延鋼材であれば、圧延工程においてポロシティー(気泡や巣など)が除去されているからである。
【0003】
ここで、製造ラインは、多種多様である。たとえば、丸ビレットのような鋼塊を使用するのに適した設備が揃っており、圧延ラインを経由した圧延鋼材ではなく、鋼塊をそのまま素材として、圧縮鍛造をおこなうことが要請されるような製造ラインも存在する。
【0004】
しかし、鋼塊を素材とした場合には、ポロシティーの除去を考慮する必要がある。ポロシティーが存在すると、成形された鋼製品における延性、靭性が悪化するからである。
【0005】
従来技術において、鋼塊を素材として使用する場合には、鋼塊の使用条件や鍛錬成形比があらかじめ定められており、そのような条件(あらかじめ定められた条件)を充足させる必要がある。
また、従来技術において、鋼塊を素材として使用する場合には、キルド鋼を使用し、ポロシティーや偏析が存在する部分を切除していた。
そのように処置する場合には、ポロシティーや偏析が存在する部分の切除工程が必要となり、かつ、鋼塊を切除することにより、鋼製品を成形した場合の歩留まりが悪化してしまう。
【0006】
このように、従来技術においては、鋼塊を素材として使用できる範囲が限定され、安価な鋼塊を素材として用いても、材料歩留まりが悪く、「安価な鋼塊を使用」というコスト面のメリットを十分に享受することができなかった。
【0007】
ポロシティーあるいは偏析と圧下比などの関係について、従来より種々の研究が為されている(たとえば、非特許文献1〜3参照)。
しかし、従来からの研究の内容を示す文献においては、圧縮鍛造で鋼塊を素材として用いる場合に、ポロシティーを除去して、鋼製品の延性、靭性を一定以上の水準に保持することについては、開示していない。
【0008】
また、鋳型内で凝固した後、直ちに型抜きを行い、厚み方向に軽圧下を加えて熱間圧延することにより、内部性状の優れた厚鋼板を製造する技術が知られている(特許文献1参照)。
しかし、そのような従来技術(特許文献1)も、上述した問題点を解消するものではない。
【特許文献1】特開昭62−134101号公報
【非特許文献1】「製鉄研究」第309号、「厚板材質に対する連鋳片の熱間圧延の冶金的意義」(執筆者:南雲道彦、奥村直樹、井上泰)
【非特許文献2】「鉄と鋼」第66年(1980)第2号、「連鋳スラブ中のポロシティーの消滅に及ぼす圧延条件の影響」(執筆者:奥村直樹、久保田猛、丸山忠克、南雲道彦)
【非特許文献3】日本規格協会「JISハンドブック 2006、鉄鋼I」、第548頁「鍛鋼品の製造、試験および検査の通則」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述した従来技術の問題点を考慮して提案されたものであり、圧縮鍛造で鋼塊を素材として用いる場合に、ポロシティーを除去できて、鋼製品の延性、靭性を一定以上の水準に保持することが可能な圧縮鍛造方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の圧縮鍛造方法は、素材として円筒状の鋼塊(いわゆる「丸ビレット」1)を型(下型22)に設置し、鍛造時に座屈しないように鍛造をおこない、かつ、圧下比および鍛造比が基準値以上となるように鍛造をおこなうことを特徴としている(請求項1)。
ここで、本明細書における「圧縮鍛造」という文言は、軸方向圧縮鍛造(据え込み鍛造)、横方向圧縮鍛造(伸ばし鍛造)、軸方向圧縮鍛造と横方向圧縮鍛造の組み合せ鍛造を包含するものとして用いられている。
さらに、本明細書における「圧下比」および「鍛造比」の定義は、下記の通りである。すなわち、
圧下比=鍛造前の素材の長さ/鍛造後の(鍛造によって圧縮された)素材の長さ
鍛造比=鍛造前の素材の断面積/鍛造後の(鍛造によって鍛伸された)素材の断面積
である。なお、係る定義に基き、「圧下比」および「鍛造比」は、何れも、1.0よりも大きな数値となる。
【0011】
また本発明において、鍛造素材の直径に対する全長の比(L/D)が3以下で、かつ、圧下比が2.3以上で鍛造が行われるのが好ましい(請求項2)。
この場合、「鍛造素材の直径に対する全長の比(L/D)が3以下で」ある旨が、上述した発明(請求項1の圧縮鍛造方法)における「鍛造時に座屈しないように鍛造をおこなう」ことに相当し、「圧下比が2.3以上で鍛造が行われる」旨が、上述した発明(請求項1の圧縮鍛造方法)における「圧下比および鍛造比が基準値以上となるように鍛造をおこなう」ことに相当する。
【0012】
あるいは本発明において、鍛造比が1.2以上で横方向圧縮鍛造をおこない、その後、圧下比が1.7以上で軸方向圧縮鍛造(請求項1の鍛造)がおこなわれるのが好ましい(請求項3)。
この場合においても、上述した圧縮鍛造をおこなう(請求項1の圧縮鍛造方法を実施する)のに適切ではない形状、サイズの素材(丸ビレット1)であっても、上述した圧縮鍛造(請求項1の圧縮鍛造方法)をおこなうのに適した形状、サイズに変形できる。
【発明の効果】
【0013】
発明者は種々の研究の結果、素材として円筒状の鋼塊(いわゆる「丸ビレット」)を使用する場合であっても、圧下比ならびに鍛造比が基準値以上で鍛造を行えば、鍛造品におけるポロシティーが、圧延鋼材と同レベルまで減少することを見出した。
上述する構成を具備する本発明は、そのような知見に基づいて創造されたものである。
【0014】
図7は、圧下比と鍛造品に含まれる全水素量との関係を示したグラフである。
図7で示すように、圧下比が2.3以上では、ポロシティーと対応するパラメータである全水素量は一定である。すなわち、圧下比が2.3において全水素量すなわちポロシティーが最小となり、圧下比をそれ以上に大きくしても、全水素量すなわちポロシティーは減少しない。
したがって、圧下比が基準値以上(具体的には2.3以上)で鍛造を行えば、鋼塊を素材として圧縮鍛造をおこなっても、ポロシティーが最小レベルまで除去される。そのため、成形された鋼製品における延性、靭性が、圧延鋼材を素材として圧縮鍛造を行った製品と同程度の水準に保持される。
【0015】
また、圧延加工をおこなわなくてもポロシティーが圧延鋼材を用いた場合と同レベルまで除去されるので、圧延加工をおこなうことなく、鍛造による成形が可能となる。その結果、圧延加工に必要なコストを節約することが可能となる。
また、ポロシティーが圧延鋼材を素材とした場合と同程度のレベルまで除去されるので、従来技術において鋼塊を素材として用いる場合のように、ポロシティーの存在範囲を特定する必要はなく、使用範囲を限定する必要もなくなる。すなわち、材料歩留まりを大幅に向上させることができる。
【0016】
さらに、本発明の圧縮鍛造方法では、圧下比2.3および鍛造比1.2後に圧下比1.7(鍛造比1.2および圧下比1.7)を維持できればよい。従来技術のような大きな圧下比(たとえば4.0)は要求されない。そのため、鍛造に費やされるコストを低く抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
ここで、図示の実施形態は、丸ビレットと呼ばれる円筒形状の鋼塊を材料として、ローラを製造する場合について、示している。
【0018】
図1は、本発明の実施形態において製造しようとするローラの形状を示している。
図1において、ローラ10は、外周側と内周側が共に複数段に形成されている段付の円筒形状である。
図1において、ローラ10の左端部は、鈍角のテーパ面11を有している。そのテーパ面11の外周部11aが、ローラ10の最大径の部分となっている。最大径の部分11aから、ローラ10の右端に移動するにしたがって、符号12で示す部分(外周部12)の直径と、符号13で示す部分(外周部13)の直径が、2段階で減少している。
外周部12、13には、抜き勾配が設けられている。
ここで、圧下比や鍛造比を大きくする場合、鍛造素材の直径に対する全長の比(L/D)が3を超えてしまうと、鍛造時に座屈が発生してしまう。そのため、L/Dは3以下に設定する必要がある。
【0019】
ローラ10は中空となっており、その内周側は、異なった直径を有する内径部14、15、16、17が形成されている。長手方向中央の内径部16の直径が最小である。
内径部14、15、16、17は、抜き勾配がつけられている。
図1において、2点鎖線で示す部分は、圧縮鍛造を行った後に、機械加工によって切削される。その後、熱処理をして、製品としてのローラ10が完成する。言い換えると、ローラ10は、鍛造され、部分的に穴抜きされたワーク3(図5参照)を(図1の)2点鎖線の位置まで切削加工して、熱処理をして、製造される。
【0020】
図2〜図5は、第1実施形態における加工工程を説明している。換言すれば、図2〜図5は図1で示すローラ10の加工工程であって、圧縮鍛造をおこなう工程と、穴抜き工程を示している。
図2は、下型22に原材料である丸ビレット1を載せた状態を示している。丸ビレット1の上方には、上型21が配置されている。上型21と下型22とによって、鍛造型2が構成されている。
【0021】
図3は、上型21を下型22に向って押し込み、圧縮鍛造をおこなっている状態を示す。円柱状の丸ビレット1は、上型21および下型22の内面に沿って、塑性変形している(1C)。
【0022】
図4は、上型21が下型22と一体となり、当初、円柱状だった丸ビレット1が圧縮鍛造により、所定の形状に成形された状態を示している。所定の形状に形成されたワークに符号3をつけている。
ここで、図3、図4で示す圧縮鍛造は、第1実施形態では、圧下比2.3以上となるように実行される。
【0023】
図4で示す状態では、成形されたワーク3における符号Xで示す個所が残存しているので、図1で示すような中空形状とはなっていない。そのため、図5で示すように、いわゆる「穴抜き」加工を行い、符号Xで示す部分を除去する。
図5において、符号4は打ち抜き工具を示し、符号5はダイを示し、符号6は打ち抜き工具4が摺動するガイドを示す。
【0024】
図5で示す穴抜きを行ったならば、ワーク3に対して、図1において2点鎖線で示すように、機械加工による切削あるいは除去がおこなわれる。
【0025】
ここで、図1で示すローラ10のように、複雑な形状の製品を鍛造する場合、鍛造後の製品の形状のみから圧下比を求めることは困難である。これに対して、第1実施形態では、図3、図4で示す圧縮鍛造においては、あらかじめ寸法あるいは質量が調節された丸ビレット1が調節あるいは選択されている。
【0026】
すなわち、次の(1)、(2)の何れか1つの条件を充足するように、あらかじめ寸法あるいは質量が調節された丸ビレット1が調節、選択されるのである。
(1) 圧下比が2.3以上となる。
(2) 鍛造比が1.2以上で、かつ、圧下比が1.7以上となる。
【0027】
図6で示す丸ビレットの寸法あるいは質量を調節する工程においては、図2〜図5で示す上型21と下型22とを用いる。
以下、図6のフローチャートに基づいて、丸ビレットの寸法あるいは質量を調節する工程を説明する。
【0028】
図6において、寸法あるいは質量が異なる丸ビレットを複数準備する(ステップS1)。
図2で説明したのと同様に、下型22に丸ビレット1を載せて、図3〜図5で示すように、図1で示すローラ10の形状に圧縮鍛造をおこなう(ステップS2)。この場合、丸ビレット1の寸法あるいは質量は、図1で示すローラー10の質量にバリの質量を加えた適当と思われる値に設定する。
【0029】
そして、一つの丸ビレット1の圧縮鍛造終了後、当該丸ビレット1とは寸法(質量)が異なる丸ビレット1を下型22に載せて、圧縮鍛造をおこなう。
同様に、準備した寸法あるいは質量が異なる複数の丸ビレット1を、全て、圧縮鍛造する。その場合に、圧縮鍛造したワーク(図1で示すようなローラ10の切削加工前の状態)3に対応させて、材料となった丸ビレット1の寸法あるいは質量を記録しておく。
【0030】
ステップS3では、準備した丸ビレット1の全てを圧縮鍛造し終えたか否かを判断する。準備した丸ビレット1の内、未だ鍛造を終えてないものがあれば(ステップS3がNO)、ステップS2、ステップS3を繰り返す。
準備した丸ビレット1の全ての圧縮鍛造が完了したなら(ステップS3がYES)、ステップS4に進む。
そして、前述のステップS2で圧縮鍛造した全サンプルについて、全水素量を測定する(ステップS4)。
ここで、全水素量の測定については、図7を参照して後述する。
【0031】
ステップS5では、全てのワーク3について、全水素量を測定し終えたか否かを判断する。全てのワーク3について全水素量を測定し終えていれば(ステップS5がYES)、ステップS6に進む。未だ全水素量を測定してないワーク(1A)があれば(ステップS5がNO)、ステップS4、ステップS5を繰り返す。
【0032】
ステップS6では、全てのワーク3の各々における全水素量を、基準値と比較する。そして、全水素量が基準値以下であるワーク3における(当初の)丸ビレット1の寸法あるいは質量が、圧下比2.3以上とするための丸ビレット1の寸法あるいは質量とする。すなわち、上型21および下型22を用いて据えこみ鍛造した後、全水素量が基準値以下となるような丸ビレット1を、「圧下比が2.3以上となるように、あらかじめ寸法あるいは質量が調節された丸ビレット1」であるとして、選択する。
【0033】
ここで、圧下比が2.3以上であれば、全水素量あるいはポロシティーは殆ど同一となることが判明している。そのため、全水素量が基準値以下のワーク3における丸ビレット1の寸法あるいは質量であって、最小の値を、「圧下比2.3以上とするための丸ビレットの寸法あるいは質量」として決定する(ステップS7)。
【0034】
図7は、圧下比(横軸の数値)と全水素量(縦軸の数値:単位はppm)との関係を示している。
図7は、圧下比が異なるように鍛造された複数のワーク3を用意し、各ワークについて全水素量を計測した結果をプロットで示している。
【0035】
ここで、全水素量の計測は、図8で模式的に表現された計測装置7を用いておこなわれる。
図8において、計測装置7の内部における密閉した空間8に、ワーク3を設置する。このワーク3に、図示しない電極を介して所定値の電流(E)を流す。その状態で、空間8の気温を上昇せしめる。
電流Eを流し、空間8内の気温(雰囲気温度)が昇温するにつれて、ワーク3から水素が放出される。水素の放出量を水素計測装置9で計測し、水素計測装置9で計測された水素放出量の累積値が、ワーク3内の全水素量となる。
【0036】
図6のステップS5、ステップS4における「全水素量の測定」は、図8を参照して説明したのと同様な要領でおこなわれる。
【0037】
図7を参照すれば、圧下比が2.3以上の領域では、圧下比が大きくなっても全水素量は減少せず、その数値は、ほとんど同一となることがわかる。
ここで、全水素量とポロシティー(気泡や巣など)とは正の相関関係があり、全水素量が圧下比2.3以上では、それ以上水素量は減少せず、ほとんど一定の数値となるということは、圧下比2.3以上であれば、ポロシティーは(圧下比2.3の場合に比較して)少なくはならず、圧下比2.3のポロシティーがほとんど最小値となることを意味している。
【0038】
ここで、発明者の研究によれば、圧下比を2.3よりも大きくした場合には、その圧下比は、鋼の結晶の微細化に寄与するものと考えられる。
【0039】
図7から、圧下比2.3となるように圧縮鍛造を行えば、ポロシティーは最小値まで減少することが明らかとなる。言い換えれば、圧下比2.3となるように圧縮鍛造を行えば、ポロシティーは圧延鋼材と同レベルまで減少し、必要とする品質が保持できるのである。
具体的には、成形された鋼製品における延性、靭性が、圧延鋼材を素材として圧縮鍛造を行った製品と同程度の水準に保持される。
【0040】
また、圧延加工をおこなわなくても、ポロシティーが圧延鋼材を用いた場合と同レベルまで除去されるので、圧延加工を省略した鍛造のみによる成形が可能となる。
その結果、圧延加工に必要なコストを節約することが可能となる。
【0041】
また、ポロシティーが圧延鋼材を素材とした場合と同程度のレベルまで除去されるので、鋼塊を素材として用いる場合のように、ポロシティーの存在範囲を特定する必要はなく、使用範囲を限定する必要もなくなる。そのため、材料歩留まりを大幅に向上させることができる。
【0042】
図9は、図7とは異なる実験の結果を示している。図9も、図7と同様に、圧下比(横軸の数値)と全水素量(縦軸の数値:単位はppm)との関係を示している。
図9の実験は、図7、図8を参照して上述したのと同様におこなわれる。
図9で示す実験では、軸方向圧縮鍛造だけがおこなわれた試験片における全水素量を計測することに加えて、横方向圧縮鍛造(鍛造比1.2)を行った後に軸方向圧縮鍛造(圧下比1.7および2.0)をおこなった(図9および本明細書では「複合圧縮鍛造」と記載されている)試験片における全水素量の計測もおこなわれている。
【0043】
図9と図7とを比較すれば明らかなように、鍛造比1.2で横方向圧縮鍛造を行った後に、圧下比1.7で軸方向圧縮鍛造を行えば、全水素量は、圧延鋼材と概略等しくなる。
言い換えれば、鍛造比1.2で横方向圧縮鍛造を行った後に、圧下比1.7で軸方向圧縮鍛造を行えば、圧延加工を省略した鍛造のみによる成形が可能となる。そして、圧延加工に必要なコストを節約することが可能となる。
また、ポロシティーが圧延鋼材を素材とした場合と同程度のレベルまで除去されるので、ポロシティーの存在範囲を特定し、使用範囲を限定する必要がなくなる。これにより、材料歩留まりを向上させることができる。
【0044】
鍛造比1.2で横方向圧縮鍛造を行った後に、圧下比1.7で軸方向圧縮鍛造をおこなう複合圧縮鍛造により加工されたローラの外周付近から採取した試験片のシャルピー衝撃値と、圧下比2.3の軸方向圧縮鍛造を行って加工されたローラの外周付近から採取した試験片のシャルピー衝撃値とが、下表1に示されている。
【表1】


【0045】
シャルピー衝撃値を計測するにあたって、鍛造ローラの外周近傍から採取された試験片を、完全焼入れ完全焼もどしして、シャルピー衝撃試験機で計測した。
表1の結果から、複合圧縮鍛造(鍛造比1.2で横方向圧縮鍛造を行った後に、圧下比1.7で軸方向圧縮鍛造をおこなう)により加工されたローラの外周付近から採取した試験片のシャルピー衝撃値と、圧下比2.3の軸方向圧縮鍛造を行って加工されたローラの外周付近から採取した試験片のシャルピー衝撃値とは、同等である。言い換えれば、複合圧縮鍛造(鍛造比1.2で横方向圧縮鍛造を行った後に、圧下比1.7で軸方向圧縮鍛造をおこなう)による鍛造品と、圧下比2.3の軸方向圧縮鍛造による鍛造品との耐衝撃性は同等である。
【0046】
上述した実施形態の圧縮鍛造方法では、圧下比は2.3を維持できればよい。従来技術のような大きな圧下比(たとえば4.0)は要求されない。そのため、鍛造に費やされるコストを低く抑える事ができる。
【0047】
図10〜図12を参照して、第2実施形態について説明する。
第2実施形態は、横方向圧縮鍛造と軸方向圧縮鍛造を連続しておこなっている。すなわち、複合圧縮鍛造をおこなっている。
図10〜図12の第2実施形態では、鍛造比1.2で横方向圧縮鍛造をおこなった後に、圧下比1.7で軸方向圧縮鍛造をおこなっている。
【0048】
第2実施形態においては、先ず図10で示すように、断面が円形で所定の長さの丸ビレット1を、加熱炉Hにより、所定の温度まで加熱する。図10において、符号1Hは、加熱炉Hで所定の温度まで加熱された丸ビレット(鍛造加工前の丸ビレット:ワーク)を示している。
【0049】
次に、図11で示す工程では、加熱直後の丸ビレット1Hを横向き(水平軸が水平状態)にして圧縮鍛造機Mに据付け、圧縮鍛造機Mにより丸ビレット1Hを鍛造(横方向圧縮鍛造)する。この時の鍛造比は、たとえば1.2である。
図11における符号1Fは、横方向圧縮鍛造が終了した状態の丸ビレットを示している。
【0050】
図12の工程では、横方向圧縮鍛造が終了した状態の丸ビレット1Fを、ワーク1Fの軸方向が鉛直になるように圧縮鍛造機Mに据付け、圧縮鍛造機Mにより軸方向圧縮鍛造加工を行う。この時の圧下比は、たとえば1.7としている。
図12で示す工程におけるその他の点については、前述した図2〜図5の工程と同様である。
図12における符号1Gは、軸方向圧縮鍛造が終了した状態のワーク(鍛造品)を示している。
【0051】
図13は、第2実施形態による鍛造品において、組織検証試験および各種強度試験に用いるために用意されたカット断面である。すなわち図13は、複合圧縮鍛造を行った鍛造品(ローラ)1Gの断面の組織を示している。
【0052】
図13において、符号Aで示した領域は、チル晶の鍛造組織を示している。チル晶は不純物元素が少ない純度が高い組織であり、このチル晶の鍛造組織Aは、圧延鋼材と同等の延性、靭性を保持している。
図13における符号Bで示した領域は、デンドライト組織である。デンドライト組織は鋳造時の組織であり、鍛造加工では破壊されずに残存する。なお、デンドライト組織が残存しても、ローラの機能を損なうことはない。
図13における符号Cで示す線は、鍛流線である。この鍛流線Cが生じている領域では、鍛造時の圧縮作用によってポロシティー(空隙)が潰されている。換言すれば、鍛流線Cが生じているということは、ポロシティーによる機械強度の劣化が防止されていることを意味している。
【0053】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態で鍛造加工されるローラの断面図。
【図2】第1実施形態によって圧縮鍛造をおこなう場合の初期工程図。
【図3】図2のような工程図であって、鍛造が進んだ状態を示す図。
【図4】図2、図3のような工程図であって、鍛造が完了した状態を示す図。
【図5】第1実施形態における穴抜き加工を示す図。
【図6】丸ビレットの寸法あるいは質量を調節する工程を示すフローチャート。
【図7】圧下比と全水素量との関係を示す特性図。
【図8】全水素量を計測する装置の模式図。
【図9】圧下比と全水素量との関係を示す図7とは異なる特性図。
【図10】本発明の第2実施形態における加熱工程を示す図。
【図11】第2実施形態における横方向圧縮鍛造工程を示す図。
【図12】第2実施形態における軸方向圧縮鍛造工程を示す図。
【図13】第2実施形態で得られる鍛造品の組織を説明する断面図。
【符号の説明】
【0055】
1・・・丸ビレット
2・・・鍛造型
3・・・ワーク
4・・・打ち抜き工具
5・・・ダイ
6・・・ガイド
7・・・計測装置
8・・・空間
9・・・水素計測装置
10・・・ローラ
21・・・上型
22・・・下型
【出願人】 【識別番号】000110251
【氏名又は名称】トピー工業株式会社
【出願日】 平成19年8月23日(2007.8.23)
【代理人】 【識別番号】110000431
【氏名又は名称】特許業務法人高橋特許事務所


【公開番号】 特開2008−213038(P2008−213038A)
【公開日】 平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願番号】 特願2007−216655(P2007−216655)