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【発明の名称】 鍛造装置および鍛造方法
【発明者】 【氏名】島本 昇

【氏名】石川 博

【要約】 【課題】成形荷重(成形圧力)を抑えつつ精度良く鍛造物を成形可能な鍛造装置および鍛造方法を提供する。

【解決手段】ギア3の下端の形状を規定する固定型10と、固定型10に対して接近および離間する方向に移動可能であり、ビレット2に成形荷重を付与するとともにギア3の上端の形状を規定する上パンチ20と、固定型10におけるギア3の下端の形状を規定する面に連続する位置と固定型10から離間した位置との間で固定型10に対して接近および離間する方向に移動可能であり、ギア3の側面の形状を規定するダイス30と、を具備する鍛造装置1を用いて、ダイス30を固定型10から離間した位置に保持した状態で上パンチ20が固定型10に接近してビレット2を塑性変形させ、次にダイス30を固定型10におけるギア3の下端の形状を規定する面に連続する位置に保持した状態で上パンチ20が固定型10に接近してビレット2を塑性変形させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造物の一端の形状を規定する固定型と、
前記固定型に対して接近および離間する方向に移動可能であり、素材に成形荷重を付与するとともに前記鍛造物の他端の形状を規定する可動型と、
前記固定型における前記鍛造物の一端の形状を規定する面に連続する位置と前記固定型から所定距離離間した位置との間で前記固定型に対して接近および離間する方向に移動可能であり、前記鍛造物の側面の形状を規定する側面型と、
を具備し、
前記側面型を前記固定型から所定距離離間した位置に保持した状態で前記可動型が前記固定型に接近して前記素材を塑性変形させる第一成形工程と、
前記第一成形工程の後に、前記側面型を前記固定型における前記鍛造物の一端の形状を規定する面に連続する位置に保持した状態で前記可動型が前記固定型に接近して前記素材を塑性変形させる第二成形工程と、
を行う鍛造装置。
【請求項2】
前記第一成形工程において、
前記固定型と前記側面型との隙間に気体を供給することにより前記側面型を前記固定型から所定距離離間した位置に保持する請求項1に記載の鍛造装置。
【請求項3】
前記側面型における前記可動型との対向面に前記素材が流入する凹部が設けられ、
前記第二成形工程において、
前記凹部に流入した素材を介して前記可動型が前記側面型を押すことにより前記可動型および前記側面型が一体となって前記固定型に接近する請求項1または請求項2に記載の鍛造装置。
【請求項4】
鍛造物の一端の形状を規定する固定型と、
前記固定型に対して接近および離間する方向に移動可能であり、素材に成形荷重を付与するとともに前記鍛造物の他端の形状を規定する可動型と、
前記固定型における前記鍛造物の一端の形状を規定する面に連続する位置と前記固定型から所定距離離間した位置との間で前記固定型に対して接近および離間する方向に移動可能であり、前記鍛造物の側面の形状を規定する側面型と、
を具備する鍛造装置を用いる鍛造方法であって、
前記側面型を前記固定型から所定距離離間した位置に保持した状態で前記可動型が前記固定型に接近して前記素材を塑性変形させる第一成形工程と、
前記第一成形工程の後に、前記側面型を前記固定型における前記鍛造物の一端の形状を規定する面に連続する位置に保持した状態で前記可動型が前記固定型に接近して前記素材を塑性変形させる第二成形工程と、
を具備する鍛造方法。
【請求項5】
前記第一成形工程において、
前記固定型と前記側面型との隙間に気体を供給することにより前記側面型を前記固定型から所定距離離間した位置に保持する請求項4に記載の鍛造方法。
【請求項6】
前記側面型における前記可動型との対向面に前記素材が流入する凹部が設けられ、
前記第二成形工程において、
前記凹部に流入した素材を介して前記可動型が前記側面型を押すことにより前記可動型および前記側面型が一体となって前記固定型に接近する請求項4または請求項5に記載の鍛造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造により素材を所定の形状の鍛造物に成形する鍛造装置および鍛造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鍛造により素材を所定の形状の鍛造物に成形する鍛造装置は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
図7および図8に示す如く、鍛造装置で歯車を成形する場合には特に成形の後期(図7中の(III)の領域)における成形荷重(成形圧力)が素材の閉じ込めおよび素材の加工硬化等の要因により飛躍的に増大し、素材の流動が不十分となることから、歯車の歯面部分のうち特に可動型から遠い部分において「欠肉」が発生する場合がある。
「欠肉」は成形時の素材の流動が不十分で、金型の内部において素材で充填されていない領域が生じることに起因する鍛造物の形状不良(成形不良)の一種である。
【0003】
欠肉を解消する最も簡便な方法としては、可動型(パンチ101)を固定型(ダイス102)に接近させる方向に移動する際の荷重、すなわち可動型と固定型との間に配置された素材(ビレット103)の成形荷重(成形圧力)を大きくすることが挙げられる(図8参照)が、この方法は可動型を動作させるための油圧シリンダ等のアクチュエータの大型化、ひいては設備コストの増大の要因となる。
また、大きな成形荷重(成形圧力)を発生させると鍛造装置の金型が破損する場合があることから金型の更なる高強度化を図る必要があり、金型の大型化、ひいては設備コストの増大の要因となる。
【0004】
特に、歯車等を鍛造により成形する場合、歯面に相当する部分への素材の流動は変形抵抗が大きく、素材が金型内でほぼ密閉された状態にならないと促進されないことから欠肉や金型の破損といった問題が起こりやすく、ひいては設備コストの増大の要因となる。
【0005】
成形荷重(成形圧力)を大きくする以外の方法で欠肉を解消する方法としては、素材が流入する凹み(逃がし)を金型の固定型側または可動型側に形成し、素材の金型内における閉じ込めを防止することにより成形時の荷重を軽減する捨軸成形、あるいは素材を可動型側からだけでなく固定型側からも荷重することにより成形時の荷重を軽減する背圧成形等が挙げられる。
【0006】
しかし、捨軸成形の場合、凹み(逃がし)に流入した素材を後工程で切削等により除去する必要があるため工数の増加や原料歩留まりの低下を招き、ひいては製造コストの増大の要因となるという問題がある。
また、背圧成形の場合、可動型とは別にアクチュエータ等の固定型側から荷重するための機構を設ける必要があり、設備コストの増大ひいては製造コストの増大の要因となるという問題がある。
【特許文献1】特開平4−52042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の如き状況に鑑み、成形荷重(成形圧力)を抑えつつ精度良く鍛造物を成形可能な鍛造装置および鍛造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、
鍛造物の一端の形状を規定する固定型と、
前記固定型に対して接近および離間する方向に移動可能であり、素材に成形荷重を付与するとともに前記鍛造物の他端の形状を規定する可動型と、
前記固定型における前記鍛造物の一端の形状を規定する面に連続する位置と前記固定型から所定距離離間した位置との間で前記固定型に対して接近および離間する方向に移動可能であり、前記鍛造物の側面の形状を規定する側面型と、
を具備し、
前記側面型を前記固定型から所定距離離間した位置に保持した状態で前記可動型が前記固定型に接近して前記素材を塑性変形させる第一成形工程と、
前記第一成形工程の後に、前記側面型を前記固定型における前記鍛造物の一端の形状を規定する面に連続する位置に保持した状態で前記可動型が前記固定型に接近して前記素材を塑性変形させる第二成形工程と、
を行うものである。
【0010】
請求項2においては、
前記第一成形工程において、
前記固定型と前記側面型との隙間に気体を供給することにより前記側面型を前記固定型から所定距離離間した位置に保持するものである。
【0011】
請求項3においては、
前記側面型における前記可動型との対向面に前記素材が流入する凹部が設けられ、
前記第二成形工程において、
前記凹部に流入した素材を介して前記可動型が前記側面型を押すことにより前記可動型および前記側面型が一体となって前記固定型に接近するものである。
【0012】
請求項4においては、
鍛造物の一端の形状を規定する固定型と、
前記固定型に対して接近および離間する方向に移動可能であり、素材に成形荷重を付与するとともに前記鍛造物の他端の形状を規定する可動型と、
前記固定型における前記鍛造物の一端の形状を規定する面に連続する位置と前記固定型から所定距離離間した位置との間で前記固定型に対して接近および離間する方向に移動可能であり、前記鍛造物の側面の形状を規定する側面型と、
を具備する鍛造装置を用いる鍛造方法であって、
前記側面型を前記固定型から所定距離離間した位置に保持した状態で前記可動型が前記固定型に接近して前記素材を塑性変形させる第一成形工程と、
前記第一成形工程の後に、前記側面型を前記固定型における前記鍛造物の一端の形状を規定する面に連続する位置に保持した状態で前記可動型が前記固定型に接近して前記素材を塑性変形させる第二成形工程と、
を具備するものである。
【0013】
請求項5においては、
前記第一成形工程において、
前記固定型と前記側面型との隙間に気体を供給することにより前記側面型を前記固定型から所定距離離間した位置に保持するものである。
【0014】
請求項6においては、
前記側面型における前記可動型との対向面に前記素材が流入する凹部が設けられ、
前記第二成形工程において、
前記凹部に流入した素材を介して前記可動型が前記側面型を押すことにより前記可動型および前記側面型が一体となって前記固定型に接近するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果は、成形荷重(成形圧力)を抑えつつ精度良く鍛造物を成形することが可能であることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下では、図1乃至図5を用いて本発明に係る鍛造装置の実施の一形態である鍛造装置1について説明する。
なお、本実施例の鍛造装置1における金型の形状は上下方向の中心線(図1乃至図3中の一点鎖線)を中心とする回転体であるため、当該中心線を挟んで右側の部分については図示を省略する。
また、以下に説明する鍛造装置1を用いて行う鍛造方法の一例は、本発明に係る鍛造方法の実施の一形態に相当する。
【0017】
図1に示す如く、鍛造装置1はビレット2を鍛造により成形して所定形状のヘリカルギア3(図3参照)を製造する装置である。
ビレット2は本発明に係る素材の実施の一形態であり、ヘリカルギア3の原材料となるものである。ビレット2は機械構造用炭素鋼からなる棒を所定の長さで切断することにより得られる略円柱形状の部材である。
「素材」は鍛造装置・鍛造方法により成形される原材料(出発材)を指す。
「鍛造物」は素材を鍛造装置・鍛造方法により所定の形状に成形したものを指す。
本発明に係る素材はビレット2の如き機械構造用炭素鋼に限定されず、鉄元素の単体および種々の鉄鋼材料(鉄元素を主成分とする合金)を含む。また、本発明に係る素材は鉄元素以外の他の金属元素の単体、あるいは鉄元素以外の他の金属元素を主成分とする合金(例えば、アルミニウム合金や銅合金)等、種々の金属材料を含む。
本発明に係る素材の形状は本実施例のビレット2の如き略円柱形状に限定されず、略円筒形状や略直方体形状等、鍛造物の形状や大きさ、あるいは材質等に応じて適宜選択することが可能である。
本発明に係る鍛造物は本実施例のヘリカルギア3の如き歯車に限定されず、鍛造により成形し得る種々の部品等を含む。
本発明に係る鍛造装置および鍛造方法は冷間鍛造および熱間鍛造の両方に適用可能であり、素材および金型の温度は特に限定されない。
【0018】
図1に示す如く、鍛造装置1は、固定型10、上パンチ20およびダイス30からなる金型と、当該金型の動作を行うための油圧シリンダ等のアクチュエータ(不図示)と、当該アクチュエータの動作を制御する制御装置(不図示)と、を具備する。
上記アクチュエータは専用品でも良いが、市販の油圧シリンダ等を用いて達成することも可能である。
また、上記制御装置は専用品でも良いが、市販のパーソナルコンピュータやワークステーション等を用いて達成することも可能である。
【0019】
固定型10は本発明に係る固定型の実施の一形態であり、ヘリカルギア3の一端(本実施例の場合、下端)の形状を規定するものである。
固定型10は、主として下パンチ11、胴体部材12、下面規定部材13、ダイスクランプ14、係止部材15等を具備する。
【0020】
下パンチ11は固定型10のうち、ヘリカルギア3の一端(本実施例の場合、下端)の形状を規定する部材の一つである。
本実施例の下パンチ11は、ヘリカルギア3の一端面の中央部、すなわちヘリカルギア3の一端面(下端面)のうち、ヘリカルギア3の歯面の端部と連なる部分(周縁部)を除く部分の形状を規定する。
下パンチ11は略円柱形状の部材であり、下パンチ11の一端(上端)は鍛造装置1にセットされたビレット2の一端(下端)に当接する。下パンチ11の一端(上端)の形状はヘリカルギア3の一端(下端)の形状に対応する。下パンチ11の他端(下端)にはピストン11aが形成される。
【0021】
胴体部材12は固定型10の主たる構造体である。
胴体部材12は略円柱形状の部材であり、胴体部材12には摺動孔12aおよびシリンダ室12bが形成される。摺動孔12aの一端は胴体部材12の上面に開口し、摺動孔12aの他端はシリンダ室12bに連通している。下パンチ11の外周面は摺動孔12aの内周面に摺動可能に当接し、下パンチ11のピストン11aの外周面はシリンダ室12bの内周面に液密的かつ摺動可能に当接する。
【0022】
また、シリンダ室12bにおけるピストン11aよりも下側の空間(以下「下側空間」という。)と胴体部材12の外部とを連通する経路(不図示)が形成され、当該経路は油圧ポンプ(不図示)に接続される。当該油圧ポンプは前記制御装置によりその動作が制御され、当該油圧ポンプが動作する(すなわち、シリンダ室12bの下側空間に作動油を供給し、あるいはシリンダ室12bの下側空間から作動油を排出する)ことにより、下パンチ11を上方あるいは下方に移動させることが可能であるとともに、ビレット2(ヘリカルギア3)に下方から上方に向かって所定の大きさの成形荷重(成形圧力)を付与することが可能である。
【0023】
下面規定部材13は固定型10のうち、ヘリカルギア3の一端(本実施例の場合、下端)の形状を規定する部材の一つである。
本実施例の下面規定部材13は、ヘリカルギア3の一端面の周縁部、すなわちヘリカルギア3の一端面(下端面)のうち、ヘリカルギア3の歯面の端部と連なる部分の形状を規定する。
下面規定部材13は略円筒形状の部材であり、下面規定部材13には上面から下面に貫通する孔である摺動孔13aが形成される。下パンチ11の外周面は摺動孔13aの内周面に摺動可能に当接する。下面規定部材13は、その下面が胴体部材12の上面に当接し、かつ摺動孔13aが摺動孔12aに連なる位置に配置される。また、下面規定部材13の外周面の下部には側方に向かって突出した鍔部13bが形成される。
【0024】
ダイスクランプ14は下面規定部材13を前記所定の位置に配置された状態で固定するとともに、ダイス30を上パンチ20の移動方向(本実施例では上下方向)に移動可能かつ上パンチ20の移動方向に略垂直な方向(側方)に移動不能に支持する部材である。
ダイスクランプ14は略円筒形状の部材であり、ダイスクランプ14には上面から下面に貫通する孔である貫通孔14aが形成される。
ダイスクランプ14の貫通孔14aの上端部には貫通孔14aの中心に向かって突出した鍔部14bが形成される。ダイスクランプ14の外周面の下端部には側方に向かって突出した鍔部14cが形成される。また、ダイスクランプ14の貫通孔14aの下端部には貫通孔14aの周方向に沿って溝14dが形成される。
下面規定部材13の外周面はダイスクランプ14の貫通孔14aの内周面に当接し、下面規定部材13の鍔部13bはダイスクランプ14の溝14dに係合する。従って、下面規定部材13はダイスクランプ14に対して、上下方向および側方に移動不能である。
また、ダイスクランプ14の外周面とダイスクランプ14の内周面において下面規定部材13の上面と略同じ高さとなる位置とを連通するエア供給経路14eが形成される。
【0025】
係止部材15はダイスクランプ14を胴体部材12に固定する部材である。
係止部材15は略円筒形状の部材であり、その内周面の上端部には鍔部15aが形成される。
係止部材15の内周面は胴体部材12の外周面に当接し、係止部材15は胴体部材12に固定される。また、係止部材15の鍔部15aはダイスクランプ14の鍔部14cに係合する。従って、ダイスクランプ14は胴体部材12に固定され、上下方向および側方に移動不能である。
【0026】
なお、本実施例では固定型10が具備する部材のうち、下パンチ11を可動型たる上パンチ20に向かって突出可能(移動可能)とし、ビレット2に上下両側から荷重を付与可能な構成としたが、本発明に係る鍛造装置はこれに限定されず、鍛造物の形状や材質等によっては固定型側にパンチ等の可動する部材を具備しない構成としても良い。
また、本実施例の鍛造装置1はビレット2への荷重方向(可動型の移動方向)が下向きとなる構成であるが、本発明に係る鍛造装置はこれに限定されず、素材への荷重方向が上下方向・左右方向あるいは斜め方向となる構成であっても良い。
【0027】
上パンチ20は本発明に係る可動型の実施の一形態である。上パンチ20は固定型10に対して接近および離間する方向(本実施例の場合、下方向および上方向)に移動可能であり、ビレット2に成形荷重を付与するとともにヘリカルギア3の他端(本実施例の場合、上端)の形状を規定するものである。
【0028】
上パンチ20は略円柱形状の部材であり、固定型10の上方に配置される。上パンチ20は図示せぬアクチュエータ(油圧シリンダ等)の動作により、固定型10に対して接近する方向(下方向)および離間する方向(上方向)に移動する。
上パンチ20の下端は成形時にビレット2の上端に当接する面である。上パンチ20の下端をビレット2の上端に当接させ、さらに上パンチ20を下方に移動させるとビレット2に成形荷重が付与され、ビレット2は最終的に所定の形状(ヘリカルギア3の形状)に塑性変形する。
上パンチ20の下端の形状はヘリカルギア3の他端(本実施例の場合、上端)の形状に対応する。
【0029】
ダイス30は本発明に係る側面型の実施の一形態である。ダイス30は固定型10におけるヘリカルギア3の一端(下端)の形状を規定する面(本実施例の場合、下面規定部材13の上面)に連続する位置(図1および図3参照)と固定型10から所定距離離間した位置(図2参照)との間で固定型10に対して接近および離間する方向に移動可能であり、ヘリカルギア3の側面の形状(本実施例の場合、側面の歯面形状)を規定するものである。
【0030】
ダイス30は略円筒形状の部材であり、その内周面にはヘリカルギア3の側面の形状(本実施例の場合、側面の歯面形状)に対応する溝30a・30a・・・が形成される。
ダイス30の上面(上パンチ20の下面に対向する面)にはダイス30の内周面の上端部に連なる窪みである凹部30bが形成される。
ダイス30の外周面は上下方向の途中で段差面30cが設けられており、段差面30cにより上半部の外周面である上部外周面30dおよび下半部の外周面である下部外周面30eに分けられる。ダイス30の平面視の直径は下半部の方が上半部よりも大きく、上部外周面30dよりも下部外周面30eの方が側方に突出している。
【0031】
ダイス30の上部外周面30dはダイスクランプ14の鍔部14bの内周面に上下方向に摺動可能に当接する。ダイス30の下部外周面30eはダイスクランプ14の貫通孔14aの内周面に上下方向に摺動可能に当接する。
また、ダイス30が固定型10におけるヘリカルギア3の一端(下端)の形状を規定する面に連続する位置(図1および図3参照)にあるとき、ダイス30の段差面30cとダイスクランプ14の鍔部14cの下面との間には所定の高さの隙間が形成される。
従って、ダイス30は、当該隙間の高さの分だけダイスクランプ14に沿って上下方向に摺動(固定型10に対して接近または離間する方向に移動)することが可能である(図2参照)。
【0032】
以下では、図1乃至図6を用いて、本発明に係る鍛造方法の実施の一形態について説明する。
本発明に係る鍛造方法の実施の一形態は鍛造装置1を用いてビレット2を鍛造により成形して所定形状のヘリカルギア3を製造する方法である。
鍛造装置1によるビレット2の成形は成形初期、成形中期、成形後期の三つの段階に分けられ、成形中期は本発明に係る鍛造方法の実施の一形態における第一成形工程(図6中のS1100)、成形後期は本発明に係る鍛造方法の実施の一形態における第二成形工程(図6中のS1200)にそれぞれ相当する。
【0033】
図1に示す如く、鍛造装置1によるビレット2の成形を開始する前には、ビレット2は下パンチ11の上面に載置され、上パンチ20は上パンチ20の下面がビレット2の上面と当接する位置よりも上方に配置される。
下パンチ11の上面は下面規定部材13の上面と略同じ高さとなる位置(下パンチ11の上面と下面規定部材13の上面とが略面一となる位置)に配置される。
ダイス30は固定型10におけるヘリカルギア3の他端の形状を規定する面に連続する位置、すなわちダイス30の下面が下面規定部材13の上面に当接する位置に配置される。
鍛造装置1によるビレット2の成形を開始する前には、ビレット2の外周面(側面)はダイス30の内周面に当接していない。
【0034】
上パンチ20を下方(固定型10に接近する方向)に移動し、上パンチ20の下面がビレット2の上面と当接する位置よりも更に下方に移動させると「成形初期」の段階に移行し、ビレット2が上下方向において短くなり、側方に膨出する形で塑性変形する。
【0035】
「成形初期」の段階では、側方に膨出するビレット2の外周面がダイス30の内周面に当接していない(規制されない)ため、比較的小さい荷重でビレット2を塑性変形させることが可能である。
【0036】
側方に膨出するビレット2の外周面がダイス30の内周面に当接した時点から更に下方に上パンチ20を移動させると図2に示す「成形中期」の段階に移行する。
本実施例の場合、成形初期の段階から成形中期の段階に移行する際(成形中期の開始時)にダイス30を固定型10(本実施例の場合、厳密には下面規定部材13の上面)から所定距離離間した位置に保持した状態、すなわちダイス30の段差面30cとダイスクランプ14の鍔部14cの下面との間の所定の高さの隙間の分だけダイス30を上方に持ち上げた状態とし、その状態を保持しつつ上パンチ20を下方に移動し、ビレット2を塑性変形させる。
【0037】
本実施例では、エア供給経路14eを介して外部からエアポンプ等を用いてダイス30と固定型10との隙間(より厳密には、ダイス30の下面と下面規定部材13の上面との隙間)にエア(圧縮空気)を供給することにより、ダイス30を上方に浮き上がらせ、ダイス30を固定型10から所定距離離間した位置に保持した状態とする。
【0038】
図4に示す如く、「成形中期」の段階においてダイス30を固定型10から所定距離離間した位置に保持した状態で上パンチ20を下方に移動させてビレット2を塑性変形させると、ダイス30と固定型10との隙間(ダイス30の下面と下面規定部材13の上面との隙間)により金型内へのビレット2の閉じ込め/が緩和される。
従って、ダイス30を固定型10に当接した状態(ダイス30が下面規定部材13の上面に連続する位置にある状態)と比較して、成形荷重を相対的に小さい値に保持しつつビレット2を成形することが可能である。
また、ビレット2の下端部の周縁部(図4中の二点鎖線の楕円で囲まれた部分に対応する部分)についてのダイス30と固定型10との隙間への流動が促進される。
さらに、ビレット2におけるダイス30の内周面との接触面積は従来の鍛造装置および鍛造方法の素材における金型側面との接触面積に比べて相対的に小さくなることから、より小さい成形荷重でダイス30の内周面に形成された溝30a・30a・・・に沿ってビレット2を流動させる(塑性変形させる)ことが可能である。すなわち、鍛造装置1の転写性(金型の形状に沿った素材の流動性)が向上し、ひいては鍛造物たるヘリカルギア3の形状精度の向上に寄与する。
【0039】
なお、側面型を固定型から離間した位置に保持する際の「所定距離」は、鍛造物の形状や素材の性状(機械的性質)等に応じて適宜選択することが望ましい。
【0040】
ダイス30と固定型10との隙間にエアを供給すると、当該エアはダイス30の内周面とビレット2の外周面との隙間を通過し、ダイス30の上面から外部に放出されることとなるが、このとき当該エアの流れによりビレット2の外周面に形成されたスケール(酸化膜)が吹き飛ばされて除去される。
従って、スケールがヘリカルギア3の歯面へ巻き込まれることに起因する歯面の形状精度の低下を防止することが可能である。
なお、本実施例ではダイス30と固定型10との隙間に供給する気体としてエア(空気)を用いたが、本発明に係る「気体」はエアに限定されず、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガス等他の気体を用いても良い。
【0041】
ビレット2の上端部が塑性変形してダイス30の上面に形成された凹部30bに流入し、ビレット2の上端部にフランジ部2aが形成されると、図3に示す「成形後期」の段階に移行する。
【0042】
「成形後期」の段階では、上パンチ20を下方に押す力がフランジ部2aを介してダイス30に伝わり、上パンチ20とダイス30とが一体的に下方に移動して固定型10に接近する。そして、ダイス30が固定型10におけるヘリカルギア3の一端(下端)の形状を規定する面に連続する位置(本実施例の場合、ダイス30の下面が下面規定部材13の上面に当接する位置)に移動し、その位置で保持される。
上パンチ20とダイス30とが一体的に下方に移動するときは、まだダイス30と固定型10との隙間(ダイス30の下面と下面規定部材13の上面との隙間)により金型内へのビレット2の閉じ込めが緩和されているため、成形荷重は比較的小さい。
【0043】
ダイス30が固定型10におけるヘリカルギア3の一端(下端)の形状を規定する面に連続する位置で保持された状態で上パンチ20を更に下方に移動させると、ビレット2がさらに塑性変形し、ダイス30の内周面と下面規定部材13の上面との境界部、すなわち従来の鍛造装置および鍛造方法において可動型から最も遠く、欠肉が起こりやすい部分にビレット2の下端部の周縁部が流動し、ビレット2がヘリカルギア3の形状に成形される。
【0044】
ダイス30が固定型10におけるヘリカルギア3の一端(下端)の形状を規定する面に連続する位置に移動するとビレット2の閉じ込めが起こるため、その後更に上パンチ20を下方に移動させると成形荷重(成形圧力)が上昇する。
しかし、ダイス30が固定型10におけるヘリカルギア3の一端(下端)の形状を規定する面に連続する位置に移動した時点で、既にビレット2の下端部の周縁部がダイス30の内周面と下面規定部材13の上面との境界部に多く流動しているため、さほど成形荷重(成形圧力)を上昇させなくても欠肉は起こらず、ビレット2がヘリカルギア3の形状に精度良く成形される。
【0045】
なお、本実施例では成形中期に移行した時点でダイス30を固定型10から所定距離離間した位置に保持した状態とする構成としたが、本発明はこれに限定されず、成形開始前または成形初期の時点で側面型を固定型から所定距離離間した位置に保持した状態とする構成としても良い。
また、本実施例ではビレット2の上端部にフランジ部2aを形成することにより上パンチ20を下方に押し下げる力をフランジ部2aを介してダイス30に伝達し、一つのアクチュエータで上パンチ20およびダイス30を固定型10に接近可能とする構成としたが、本発明はこれに限定されず、例えば可動型および側面型にそれぞれ別のアクチュエータを設けることにより、可動型および側面型がそれぞれ独立して固定型に対して接近または離間する方向に移動可能とする構成としても良い。
【0046】
以上の如く、本発明に係る鍛造装置の実施の一形態である鍛造装置1は、
ヘリカルギア3の下端の形状を規定する固定型10と、
固定型10に対して接近および離間する方向に移動可能であり、ビレット2に成形荷重を付与するとともにヘリカルギア3の上端の形状を規定する上パンチ20と、
固定型10におけるヘリカルギア3の下端の形状を規定する面に連続する位置と固定型10から所定距離離間した位置との間で固定型10に対して接近および離間する方向に移動可能であり、ヘリカルギア3の側面の形状を規定するダイス30と、
を具備し、
ダイス30を固定型10から所定距離離間した位置に保持した状態で上パンチ20が固定型10に接近してビレット2を塑性変形させる第一成形工程S1100と、
第一成形工程S1100の後に、ダイス30を固定型10におけるヘリカルギア3の下端の形状を規定する面に連続する位置に保持した状態で上パンチ20が固定型10に接近してビレット2を塑性変形させる第二成形工程S1200と、
を行うものである。
【0047】
このように構成することにより、成形荷重(成形圧力)を抑えつつ欠肉を防止することが可能であり、ひいては精度良くヘリカルギア3を成形することが可能である。
また、成形荷重(成形圧力)を抑えることにより、鍛造装置1の金型の強度を従来の鍛造装置に比べて相対的に下げることが可能であるとともに可動型等の移動に用いるアクチュエータを小型化することが可能であり、設備コストの削減、ひいては製品(鍛造物)の製造コストの削減に寄与する。
【0048】
また、鍛造装置1は、
第一成形工程S1100において、
固定型10とダイス30との隙間にエアを供給することによりダイス30を固定型10から所定距離離間した位置に保持するものである。
【0049】
このように構成することにより、簡便な構成でダイス30を固定型10から所定距離離間した位置に保持することが可能であり、設備コストの削減に寄与する。
また、エアの流れによりビレット2の外周面に形成されたスケール(酸化膜)が吹き飛ばされて除去されるので、スケールがヘリカルギア3の歯面へ巻き込まれることに起因する歯面の形状精度の低下を防止することが可能である。
【0050】
また、鍛造装置1は、
ダイス30における上パンチ20との対向面(本実施例の場合、ダイス30の上面)にビレット2が流入する凹部30bが設けられ、
第二成形工程S1200において、
凹部30bに流入したビレット2(フランジ部2a)を介して上パンチ20がダイス30を押すことにより上パンチ20およびダイス30が一体となって固定型10に接近するものである。
【0051】
このように構成することにより、上パンチ20を移動するアクチュエータを用いてダイス30も移動させることが可能であり、設備コストの削減に寄与する。
【0052】
また、本発明に係る鍛造方法の実施の一形態は、
ヘリカルギア3の下端の形状を規定する固定型10と、
固定型10に対して接近および離間する方向に移動可能であり、ビレット2に成形荷重を付与するとともにヘリカルギア3の上端の形状を規定する上パンチ20と、
固定型10におけるヘリカルギア3の下端の形状を規定する面に連続する位置と固定型10から所定距離離間した位置との間で固定型10に対して接近および離間する方向に移動可能であり、ヘリカルギア3の側面の形状を規定するダイス30と、
を具備する鍛造装置1を用いる鍛造方法であって、
ダイス30を固定型10から所定距離離間した位置に保持した状態で上パンチ20が固定型10に接近してビレット2を塑性変形させる第一成形工程S1100と、
第一成形工程S1100の後に、ダイス30を固定型10におけるヘリカルギア3の下端の形状を規定する面に連続する位置に保持した状態で上パンチ20が固定型10に接近してビレット2を塑性変形させる第二成形工程S1200と、
を具備するものである。
【0053】
このように構成することにより、成形荷重(成形圧力)を抑えつつ欠肉を防止することが可能であり、ひいては精度良くヘリカルギア3を成形することが可能である。
また、成形荷重(成形圧力)を抑えることにより、鍛造装置1の金型の強度を従来の鍛造装置に比べて相対的に下げることが可能であるとともに可動型等の移動に用いるアクチュエータを小型化することが可能であり、設備コストの削減、ひいては製品(鍛造物)の製造コストの削減に寄与する。
【0054】
また、本発明に係る鍛造方法の実施の一形態は、
第一成形工程S1100において、
固定型10とダイス30との隙間にエアを供給することによりダイス30を固定型10から所定距離離間した位置に保持するものである。
【0055】
このように構成することにより、簡便な構成でダイス30を固定型10から所定距離離間した位置に保持することが可能であり、設備コストの削減に寄与する。
また、エアの流れによりビレット2の外周面に形成されたスケール(酸化膜)が吹き飛ばされて除去されるので、スケールがヘリカルギア3の歯面へ巻き込まれることに起因する歯面の形状精度の低下を防止することが可能である。
【0056】
また、本発明に係る鍛造方法の実施の一形態は、
ダイス30における上パンチ20との対向面(本実施例の場合、ダイス30の上面)にビレット2が流入する凹部30bが設けられ、
第二成形工程S1200において、
凹部30bに流入したビレット2(フランジ部2a)を介して上パンチ20がダイス30を押すことにより上パンチ20およびダイス30が一体となって固定型10に接近するものである。
【0057】
このように構成することにより、上パンチ20を移動するアクチュエータを用いてダイス30も移動させることが可能であり、設備コストの削減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る鍛造装置の成形開始前の状態を示す側面断面図。
【図2】本発明に係る鍛造装置の成形中期の状態を示す側面断面図。
【図3】本発明に係る鍛造装置の成形後期の状態を示す側面断面図。
【図4】本発明に係る鍛造装置の成形中期の要部側面断面図。
【図5】本発明に係る鍛造装置の成形後期の要部側面断面図。
【図6】本発明に係る鍛造方法の実施の一形態を示すフロー図。
【図7】従来の鍛造装置における成形段階と成形荷重との関係を示す図。
【図8】従来の鍛造装置の側面断面図。
【符号の説明】
【0059】
1 鍛造装置
2 ビレット(素材)
3 ヘリカルギア(鍛造物)
10 固定型
20 上パンチ(可動型)
30 ダイス(側面型)
【出願人】 【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
【出願日】 平成18年12月13日(2006.12.13)
【代理人】 【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎


【公開番号】 特開2008−142767(P2008−142767A)
【公開日】 平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願番号】 特願2006−336212(P2006−336212)