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【発明の名称】 オーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法
【発明者】 【氏名】岡島 琢磨

【氏名】吉田 広明

【氏名】益永 敦郎

【氏名】中原 誠

【要約】 【課題】巨大な鋳造組織を確実に破壊することができ、かつ、鍛造及びリヒートが繰り返されることに起因する結晶粒の粗大化を抑制することが可能なオーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法を提供すること。

【構成】オーステナイト系ステンレス鋼からなる鋳塊を1250℃以上Tmp(℃)以下(但し、Tmp(℃)は、前記オーステナイト系ステンレス鋼の融点)の温度に加熱する第1加熱工程と、前記オーステナイト系ステンレス鋼の温度が再結晶開始温度(Trex(℃))未満に低下するまでの間に、1パス当たりの最大ひずみ(ε)が0.2以上であり、かつ、鍛錬比が2S以上となるように、前記オーステナイト系ステンレス鋼を鍛伸する第1鍛伸工程とを備えたオーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーステナイト系ステンレス鋼からなる鋳塊を1250℃以上Tmp(℃)以下(但し、Tmp(℃)は、前記オーステナイト系ステンレス鋼の融点)の温度に加熱する第1加熱工程と、
前記オーステナイト系ステンレス鋼の温度が再結晶開始温度(Trex(℃))未満に低下するまでの間に、1パス当たりの最大ひずみ(ε)が0.2以上であり、かつ、鍛錬比が2S以上となるように、前記オーステナイト系ステンレス鋼を鍛伸する第1鍛伸工程とを備えたオーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法。
【請求項2】
前記第1加熱工程と前記第1鍛伸工程とを複数回繰り返す請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法。
【請求項3】
前記第1鍛伸工程における鍛錬比は、4S以上である請求項1又は2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法。
【請求項4】
前記オーステナイト系ステンレス鋼の温度が前記再結晶開始温度(Trex(℃))未満に低下した後、前記オーステナイト系ステンレス鋼を1050℃以上1150℃以下の温度に加熱する第2加熱工程と、
1パス当たりの最大ひずみ(ε)が0.2以上であり、かつ、鍛錬比が2S以上となるように、前記オーステナイト系ステンレス鋼を鍛伸する第2鍛伸工程と
をさらに備えた請求項1から3までのいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法。
【請求項5】
前記オーステナイト系ステンレス鋼は、その重量が7t以上である請求項1から4までのいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法に関し、さらに詳しくは、オーステナイト系ステンレス鋼からなる大型の鋼塊を鍛伸し、所定の断面積を有する棒材を製造するオーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鍛造とは、型と型の間で金属材料に圧縮成形を加え、目的の形状に仕上げる加工法をいう。鍛造には、密閉型を使用する型鍛造と、開放型を使用する自由鍛造に大別される。型鍛造は、主として小型でかつ大量生産される製品に用いられている。一方、自由鍛造は、重量数kgの小型のものから100ton以上の巨大なものにも適用されている。
鍛造は、鋳造後に塑性加工が施された材料(例えば、圧延材、鍛造鋼片など)に対して行われる場合もあるが、大型品の場合は、一般に鋼塊から直接、鍛造が行われる。鋼塊は、巨大な鋳造組織が発達していることに加えて、これらの組織の間に亀裂や空隙、成分偏析などが存在している場合がある。従って、大型品の鍛造は、単に所望の形状を得るだけでなく、鋳造組織の破壊と微細化、亀裂や空隙の圧着、偏析成分の拡散など、加工性の良い微細組織に変化させることも目的として行われる。
【0003】
また、鍛造は、鍛造温度に応じて、
(1)材料を再結晶温度以上の温度に加熱して鍛造を行う熱間鍛造、
(2)室温近傍の温度で鍛造を行う冷間鍛造、
(3)熱間と冷間の中間の温度域で鍛造を行う温間鍛造、
に分類される。大型品の鍛造は、変形抵抗を小さくし、かつ微細組織を得るために、専ら熱間で行われる。
熱間鍛造を行う場合、材料の加熱温度、鍛造温度、及び加工率は、材料の組成に応じて最適な条件が選択される。一般に、加熱温度が低くなるほど、鍛造温度が低くなるほど、及び/又は加工率が高くなるほど、結晶粒を微細化することができる。例えば、オーステナイト系ステンレス鋼を熱間鍛造する場合、一般に、加熱温度は1150〜1250℃、鍛造温度は、1250〜950℃が適正温度といわれている(非特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】「ステンレス鋼便覧(第3版)」、ステンレス協会編、第899頁、表9.4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性、耐酸化性、耐熱性に優れ、しかもフェライト系ステンレス鋼に比べて600℃以上の高温強度が高いので、原子力プラントなどの各種大型プラント用の大型部品に使用されている。この種の大型部品は、一般に、開放型を用いて、鋼塊を熱間鍛造することにより製造されている。また、工業的に使用される加熱炉やプレス機械の制約等から、従来、大型鍛造品を工業的に製造する場合には、鍛造温度は最高1200℃であり、複数回の鍛造及びリヒートを繰り返し、所定の製品寸法に仕上げるのが一般的である。
【0006】
一方、オーステナイト系ステンレス鋼は、熱間変形抵抗が高い。そのため、1200℃前後の鍛造温度では、鍛造1回当たりの圧下量を大きくするのが難しい。また、鍛造開始後に相対的に短時間で材料の温度が再結晶温度を下回るので、1ヒート当たりの鍛造回数も相対的に少ない。そのため、大型鍛造品を製造する場合においては、軽圧下とリヒートを繰り返す必要があった。
【0007】
しかしながら、大型鍛造品において、1回当たりの圧下量が少なくなると、鋼塊内部まで歪を与えるのが難しくなる。また、鋼塊内部までひずみが与えられた場合であっても、軽圧下では材料内部に加えられるひずみ量が少ないので、リヒートの際に歪が除去される。そのため、大型鍛造品においては、材料内部に再結晶開始の駆動力となるひずみが十分に加えられることなく鍛造が終了し、中心部に巨大な鋳造組織が残る場合があった。また、繰り返し行われるリヒートは、鍛造により細粒化された結晶粒を粗大化させる原因となる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、巨大な鋳造組織を確実に破壊することが可能なオーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる大型鍛造品を製造する場合において、鍛造及びリヒートが繰り返されることに起因する結晶粒の粗大化を抑制することが可能なオーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる鋳塊を1250℃以上Tmp(℃)以下(但し、Tmp(℃)は、前記オーステナイト系ステンレス鋼の融点)の温度に加熱する第1加熱工程と、前記オーステナイト系ステンレス鋼の温度が再結晶開始温度(Trex(℃))未満に低下するまでの間に、1パス当たりの最大歪(ε)が0.2以上であり、かつ、鍛錬比が2S以上となるように、前記オーステナイト系ステンレス鋼を鍛伸する第1鍛伸工程とを備えていることを要旨とする。この場合、前記第1鍛伸工程における鍛錬比は、4S以上が好ましい。
また、前記オーステナイト系ステンレス鋼の温度が前記再結晶開始温度(Trex(℃))未満に低下した後、前記オーステナイト系ステンレス鋼を1050℃以上1150℃以下の温度に加熱する第2加熱工程と、1パス当たりの最大歪(ε)が0.2以上であり、かつ、鍛錬比が2S以上となるように、前記オーステナイト系ステンレス鋼を鍛伸する第2鍛伸工程とをさらに備えていても良い。
【発明の効果】
【0010】
オーステナイト系ステンレス鋼からなる大型鍛造品を鍛伸により製造する場合において、加熱温度を1250℃以上Tmp(℃)以下にすると、材料の熱間変形抵抗を小さくすることができる。そのため、相対的にプレス能力の小さなプレスを用いた場合であっても、1パス当たりの最大歪(ε)を0.2以上とすることができる。また、加熱温度を上昇させることによって、1ヒート当たりのパス数を増大させることができる。さらに、最大歪(ε)を0.2以上とすることに加えて、鍛錬比が2S以上となるように鍛伸すると、巨大な鋳造組織を確実に破壊することができる。
また、相対的に高温で鍛造を行うことによって、所定の製品寸法を得るまでに行われるヒート回数を低減することができる。そのため、再加熱に起因する結晶粒の粗大化を防止することができ、鍛造能率も大幅に向上する。
さらに、鍛造工程を第1鍛伸工程と第2鍛伸工程の2段階に分け、第2鍛伸工程を行う際の加熱温度を相対的に低温にすると、粒成長が抑制され、細粒組織が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
本発明の第1の実施の形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法は、第1加熱工程と、第1鍛伸工程とを備えている。
【0012】
第1加熱工程は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる鋳塊を1250℃以上Tmp(℃)以下(但し、Tmp(℃)は、オーステナイト系ステンレス鋼の融点)の温度に加熱する工程である。
本発明に係る方法は、あらゆるオーステナイト系ステンレス鋼に対して適用できる。本発明が適用可能なオーステナイト系ステンレス鋼としては、具体的には、SUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS303Se、SUS303Cu、SUS304、SUS304L、SUS304N1、SUS304N2、SUS304LN、SUS304J3、SUS305、SUS309S、SUS310S、SUS316、SUS316L、SUS316N、SUS316LN、SUS316Ti、SUS316J1、SUS316J1L、SUS316F、SUS317、SUS317L、SUS317LN、SUS317J1、SUS836L、SU890L、SUS321、SUS347、SUSXM7、SUSXM15J1などがある。
また、本発明に係る方法は、予め塑性加工が加えられた材料(例えば、圧延材料、鍛造鋼片など)、あるいは小型品に対しても当然に適用できるが、鋳塊を直接、鍛造することにより製造される大型品に対して適用すると、高い効果が得られる。鍛造品の大きさは、重量に換算して、7t以上が好ましい。
【0013】
第1加熱工程において、鋳塊の加熱温度は、1250℃以上が好ましい。加熱温度が1250℃未満であると、熱間変形抵抗が増大するので、1パス当たりの最大歪み(ε)を大きくすることが困難となる。また、相対的に短時間で材料の温度が再結晶温度を下回るので、1ヒート当たりのパス数を多くすることができない。加熱温度は、さらに好ましくは、1270℃以上である。
一方、加熱温度が高くなりすぎると、材料が溶融する場合がある。また、再結晶後に結晶粒が粗大化し、微細な組織が得られない。従って、加熱温度は、Tmp(℃)以下が好ましい。加熱温度は、さらに好ましくは、1300℃以下である。なお、「融点」とは、液相が出始める温度(固相線温度)をいう。
加熱時間は、特に限定されるものではなく、材料全体が均一な温度になる時間であればよい。但し、必要以上の加熱は、組織を粗大化させる原因となる。最適な加熱時間は、鋳塊の大きさにもよるが、通常、10〜15時間程度である。
【0014】
第1鍛伸工程は、オーステナイト系ステンレス鋼の温度が再結晶開始温度(Trex(℃))未満に低下するでの間に、1パス当たりの最大ひずみ(ε)が0.2以上であり、かつ、鍛錬比が2S以上となるように、オーステナイト系ステンレス鋼を鍛伸する工程である。
「鍛伸」とは、上下の金敷の間で素材の断面積を減少させ、軸方向に長さを増加させる自由鍛造の一種であり、実体鍛造とも呼ばれている。金敷には、平型、丸型、薬研型などがある。第1鍛伸工程においては、使用する金敷の種類は、特に限定されるものではなく、作製しようとする鍛造品の断面形状に応じて、これらの金敷を使い分ける。
【0015】
例えば、角柱状の鋳塊から円形断面の鍛造品を製造する場合、一般に、以下のような方法が用いられる。
まず、加熱された鋳塊を長手方向にステップ送りしながら、平型を用いて軸に対して垂直な一方向(0°方向)から圧縮する(1パス目)。長手方向に沿って1パス目の鍛伸が終了した後、鍛造品を軸の回りに90°回転させ、同様に鍛造品を長手方向にステップ送りしながら、平型を用いて1パス目の方向とは90°異なる方向(90°方向)から圧縮する(2パス目)。以下、0°方向からの鍛伸及び90°方向からの鍛伸を必要に応じて複数パス繰り返し、ほぼ正方形の断面形状を維持しながら断面積を減少させる。
【0016】
次に、圧縮方向を1パス目の圧縮方向とは45°異なる方向(45°方向)及び135°異なる方向(135°方向)に切り替え、45°方向からの鍛伸及び135°方向からの鍛伸を行う(面角入れ替え)。面角入れ替えを行うと、鍛造品内部に均一に歪みを導入することができる。以下、45°方向からの鍛伸及び135°方向からの鍛伸を、それぞれ、必要に応じて複数パス繰り返し、ほぼ正方形の断面形状を維持しながら断面積をさらに減少させる。
断面形状が製品寸法に近づいたところで、鍛造品を長手方向にステップ送りしながら、平型を用いて鍛造品の断面を八角断面とする。この場合、0°方向、90°方向、45°方向、及び135°方向からの鍛伸を、それぞれ、必要に応じて複数パス繰り返し、ほぼ八角形の断面形状を維持しながら断面積をさらに減少させる。最後に、鍛造品を軸の回りに回転させながら、丸型を用いて圧縮を行い、鍛造品を円形断面に仕上げる。
なお、以下の説明においては、鋳造組織の破壊及び鋳塊の断面減少を主目的として行われる鍛伸を「粗鍛伸」といい、製品形状に仕上げることを主目的として行われる鍛伸(上述の例では、正方形断面の鋳塊を八角断面から最終製品形状に仕上げるまで)を「仕上げ鍛伸」という。
【0017】
本発明において、「ひずみ(ε)」とは、真ひずみ(=ln(h/h)、h=変形後の高さ、h=変形前の高さ)をいう。また、「1パス当たりの最大ひずみ(ε)」とは、1回の圧縮で材料内部に導入されるひずみ量であって、材料内に導入された最大の値をいう。一般に、材料を圧縮変形させる場合、摩擦によって端面が拘束されるために、
(1)上下の端面には、変形が拘束された不変形帯、
(2)対角方向(圧縮方向に対してほぼ45°傾いた方向)には、せん断変形を大きく受ける主変形帯、
(3)主変形帯の周囲には、圧縮方向にわたってほぼ一様な圧縮を受ける均一変形帯、
が形成される。その結果、ひずみは、材料内で不均一となり、主変形帯のほぼ中心において最大となる。
【0018】
大型品を鍛造する場合において、1パス当たりの最大ひずみ(ε)が大きくなるほど、巨大な鋳造組織の破壊が容易化する。巨大な鋳造組織を確実に破壊するためには、1パス当たりの最大ひずみ(ε)は、0.2以上が好ましい。1パス当たりの最大ひずみ(ε)は、さらに好ましくは、0.35以上、さらに好ましくは、0.5以上である。
このような最大ひずみ(ε)を得るために必要な圧下量は、鋳塊の大きさによって異なる。一般に、鋳塊が大きくなるほど、大きな圧下量を必要とする。また、圧下量が大きくなるほど、最大ひずみ(ε)は大きくなる。例えば、900mm角〜1300mm角程度の鋳塊を鍛造する場合、圧下量を100mm以上とすると、最大ひずみ(ε)を0.2以上にすることができる。
第1鍛伸工程では、通常、複数パスの鍛伸が行われる。また、後述するように、加熱及び鍛伸を複数回繰り返す場合もある。この場合、最低1回のパスにおいて、1パス当たりの最大ひずみ(ε)が上述の条件を満たしていればよい。上述の条件を満たすパス数は、多いほど良い。また、鍛造品の断面形状が最終製品形状に近づき、上述の条件を確保することが物理的に困難である場合を除き、すべてのパスにおいて上述の条件を満たしているのが好ましい。
【0019】
第1鍛伸工程における「鍛錬比」とは、第1鍛伸工程(第1加熱工程及び第1鍛伸工程が複数回繰り返される場合には、複数回の第1鍛伸工程)において材料に加えられる変形の総量であって、第1鍛伸工程におけるすべての鍛伸が終了した後の断面積(a)に対する第1鍛伸工程前の断面積(A)の比(A/a)をいう。
大型品を鍛造する場合において、第1鍛伸工程における鍛錬比が大きくなるほど、巨大な鋳造組織の破壊が容易化する。巨大な鋳造組織を確実に破壊するためには、第1鍛伸工程における鍛錬比は、2.0S以上が好ましい。鍛錬比は、さらに好ましくは、3S以上、さらに好ましくは、4S以上である。
なお、鋳塊の断面形状及び最終製品寸法によっては、最大ひずみ(ε)及び/又は鍛錬比が上述の条件を満たさない場合がある。このような場合には、鍛伸を行う前に据え込み鍛造を行い、鋳塊の断面積を増大させるのが好ましい。
【0020】
「再結晶開始温度(Trex(℃))」とは、材料の変形中又は変形後に材料が高温にある間に、再結晶や回復による軟化が起こる最低温度をいう。鍛伸は、材料の加熱温度から再結晶開始温度(Trex(℃))までの温度区間で行う。材料の温度が再結晶開始温度未満になると、再結晶が生じないために、熱間変形抵抗が増大する。従って、1回の加熱で目的とする寸法まで鍛伸できないときは、加熱及び鍛伸を必要な回数だけ繰り返す。但し、必要以上に加熱を繰り返すと、粒成長が進行し、結晶粒が粗大化する。従って、1加熱当たりの加工量をできるだけ大きくし、最小の加熱回数で鍛伸するのが好ましい。
なお、加熱及び鍛伸が複数回繰り返される場合、各第1加熱工程及び各第1鍛伸工程は、それぞれ、同一条件下で加熱又は鍛伸を行っても良く、あるいは、繰り返しごとに条件が異なっていても良い。
【0021】
再結晶開始温度(Trex(℃))は、材料中に加えられる最大ひずみ(ε)に依存する。一般に、1パス当たりの最大ひずみ(ε)が大きくなるほど、及び/又は、鍛造前の初期結晶粒径が小さくなるほど、再結晶開始温度(Trex(℃))は低下する。
【0022】
次に、本発明の第2の実施の形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法について説明する。本実施の形態に係る製造方法は、第1加熱工程と、第1鍛伸工程と、第2加熱工程と、第2鍛伸工程とを備えている。これらの内、第1加熱工程及び第1鍛伸工程については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0023】
第2加熱工程は、オーステナイト系ステンレス鋼の温度が再結晶開始温度(Trex(℃))未満に低下した後、オーステナイト系ステンレス鋼を1050℃以上1150℃以下の温度に加熱する工程である。
第2加熱工程及び後述する第2鍛伸工程は、主として材料内の結晶粒を微細化させるために行われる。従って、巨大な鋳造組織の破壊のみを目的として鍛伸が行われる場合には、これらの工程を省略することができる。
第2加熱工程における加熱温度は、第2鍛伸工程における鍛伸条件下において、加工領域が再結晶する温度以上であればよい。加熱温度は、具体的には、1050℃以上が好ましい。
一方、加熱温度が高すぎると、加熱時に粒成長が進行し、鍛造前初期粒径が粗くなる。また、再結晶により生じた微細な結晶粒が、鍛造後に材料が高温にある間に粒成長を起こす。従って、加熱温度は、1150℃以下が好ましく、さらに好ましくは、1100℃以下である。
【0024】
第2鍛伸工程は、1パス当たりの最大ひずみ(ε)が0.2以上であり、かつ、鍛錬比が2S以上となるように、オーステナイト系ステンレス鋼を鍛伸する工程である。
第2鍛伸工程において、細粒組織を得るためには、加工量を多くし、材料全域にひずみを与えて再結晶を促進させることが重要である。そのためには、1パス当たりの最大ひずみ(ε)は、0.2以上が好ましい。最大ひずみ(ε)は、さらに好ましくは、0.35以上、さらに好ましくは、0.5以上である。
また、第2鍛伸工程における鍛錬比は、2.0S以上が好ましい。鍛錬比は、さらに好ましくは、3.0S以上、さらに好ましくは、4.0S以上である。
なお、第2鍛伸工程における「鍛錬比」とは、第2鍛伸工程(第2加熱工程及び第2鍛伸工程が複数回繰り返される場合には、複数回の第2鍛伸工程)において材料に加えられる変形の総量であって、第2鍛伸工程におけるすべての鍛伸が終了した後の断面積(b)に対する第2鍛伸工程前の断面積(B)の比(B/b)をいう。
【0025】
なお、第2鍛伸工程においても、通常、複数パスの鍛伸が行われるが、最低1回のパスにおいて、1パス当たりの最大ひずみ(ε)が上述の条件を満たしていればよい。上述の条件を満たすパス数は、多いほど良い。また、鍛造品の断面形状が最終製品形状に近づき、上述の条件を確保することが物理的に困難である場合を除き、すべてのパスにおいて上述の条件を満たしているのが好ましい。
また、第1加熱工程及び第1鍛伸工程から第2加熱工程及び第2鍛伸工程への移行は、特に限定されるものではなく、最終製品形状や鍛伸の進行の程度に応じて最適な時期に行う。また、第2加熱工程及び第2鍛伸工程は、複数回繰り返してもよい。但し、整細粒組織を得るためには、1回の加熱で最終製品形状まで鍛伸することができ、1回の加熱で上述の鍛錬比が得られ、かつ、最低1回のパスにおいて、1パス当たりの最大ひずみ(ε)が上述の条件を満たすように、第1鍛伸工程から第2鍛伸工程に移行するのが好ましい。具体的には、粗鍛伸を第1鍛伸工程で行い、仕上げ鍛伸を第2鍛伸工程で行うのが好ましい。
【0026】
次に、本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法の作用について説明する。
自由鍛造は、開放型を用いて材料に塑性変形を加える鍛造方法であるが、端面が摩擦により拘束されるために、ひずみは、主として対角方向に発生する。この場合、圧下量が多くなるほど、材料内に発生するひずみは大きくなる。
図1に、700mm角の角材を圧縮変形したときのひずみの数値解析結果を示す。圧下量が50mmである場合、図1(a)に示すように、材料内発生する最大ひずみは、0.19である。一方、圧下量が100mmである場合、図1(b)に示すように、材料内に発生する最大ひずみは、0.5に達する。
【0027】
オーステナイト系ステンレス鋼からなる大型鍛造品を鍛伸により製造する場合において、加熱温度が相対的に低いと、熱間変形抵抗が大きくなるので、1パス当たりの最大ひずみを大きくすることができない。また、相対的に短時間で材料の温度が再結晶開始温度を下回り、1ヒート当たりのパス数も少なくなるので、リヒート回数を増やす必要がある。リヒート回数の増加は、再結晶の駆動力となる累積ひずみを減少させる。そのため、低温・軽圧下の条件下では、中心部に再結晶に必要なひずみを導入することができず、中心部では再結晶が進行しにくい。その結果、中心部に初期組織(すなわち、巨大な鋳造組織)がそのまま残る。
【0028】
これに対し、加熱温度を1250℃以上にすると、材料の熱間変形抵抗を小さくすることができる。また、加熱温度を上昇させることによって、1ヒート当たりのパス数を増大させることができる。そのため、相対的にプレス能力の小さなプレスを用いた場合であっても、1パス当たりの最大ひずみ(ε)を0.2以上とすることができる。また、最大ひずみ(ε)が0.2以上であり、かつ、鍛錬比が2S以上となるように、高温・強圧下の条件下で鍛造を行うと、大型鍛造品を製造する場合であっても、巨大な鋳造組織を確実に破壊することができる。
また、相対的に高温で鍛造を行うことによって、所定の製品寸法を得るまでに行われるヒート回数を低減することができる。そのため、再加熱に起因する結晶粒の粗大化を防止することができ、鍛造能率も大幅に向上する。
【0029】
図2に、鍛造による再結晶及び粒成長の過程の概念図を示す。図2(a)に示すように、結晶粒が発達した初期状態にある材料を再結晶可能な温度に加熱し、再結晶に必要な臨界ひずみ以上のひずみを材料に与えると、図2(b)に示すように、主として旧粒界から再結晶の核が生成する。生成した核は、図2(c)に示すように、除々に成長し、やがて全体が微細な再結晶粒となる。この状態からさらに高温で保持を続けると、図2(d)に示すように、再結晶で得られた整細粒の粒成長が進行する。この場合、再結晶粒の大きさは、初期状態の結晶粒の粒径に依存し、初期粒径が小さくなるほど、再結晶粒の粒径は小さくなる。また、初期粒径が小さくなるほど、短時間で再結晶が完了する。繰り返し行われる鍛伸工程では、この繰り返しで細粒化が進む。
【0030】
上述したように、高温・高圧下での鍛造は、巨大な鋳造組織を破壊するには有効である。しかしながら、加熱温度が高くなるほど、鍛伸前の初期粒径が大きくなり、かつ、鍛伸後に得られる微細な再結晶粒の粒成長が進行するので、組織が粗大化する。
これに対し、鍛伸工程を高温・高圧下で鍛伸を行う第1鍛伸工程と、低温・高圧下で鍛伸を行うと第2鍛伸工程の2段階に分けると、初期粒径が小さくなり、かつ、鍛伸により生成した再結晶粒の粒成長も抑制される。そのため、従来の方法に比べて、微細な組織を有する大型鍛造品を得ることができる。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
以下の条件下でオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304N2)からなる鋼塊(1250mm角)の鍛伸を行い、丸棒(直径550mm)を作製した。
加熱条件: 1270℃×2ヒート(図3(a)参照)
圧下量: 100mm(最大ひずみ(ε)=0.5)
鍛錬比: 2.4S(粗鍛伸)、2.4S(仕上げ鍛伸)
得られた丸棒の断面を観察したところ、巨大な鋳造組織は、ほぼ完全に破壊されていた。
【0032】
(比較例1)
以下の条件下でオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304N2)からなる鋳塊(1250mm角)の鍛伸を行い、丸棒(直径550mm)を作製した。
加熱条件: 1220℃×2ヒート、1180℃×2ヒート、1100℃×2ヒートの合計6ヒート(図3(b)参照)
圧下量: 30〜50mm(最大ひずみ(ε)=0.1〜0.19)
鍛錬比: 4.4S(粗鍛伸)、1.6S(仕上げ鍛伸)
得られた丸棒の断面を観察したところ、丸棒の中心に巨大な鋳造組織が十文字型に残存しているのが確認された。
【0033】
(実施例2)
オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304N2)からなる鋳塊から、φ15×22.5(均一圧縮試験片:上下面にわずかな凹みを設けた円柱状試験片)を切り出した。試験片を1200℃で1分保持した後、種々の鍛造温度(900〜1200℃)に加熱し、圧下率55%(最大ひずみ(ε)=0.8相当)で鍛造を行った。鍛造後、さらに鍛造温度で0.1〜1800秒保持し、急冷した。
得られた試料の組織観察を行い、再結晶分率Xrex及び再結晶粒径dγrexを測定した。なお、「再結晶分率Xrex」とは、試料面積(S0)に対する再結晶が生じている領域の面積(S)の比(S/S0)をいう。また、「再結晶粒径dγrex」とは、組織写真上で再結晶粒か否か(大きさで区別できる)を判断し、該当した再結晶粒径の平均値をいう。
【0034】
図4に、保持時間tと再結晶分率Xrexとの関係を示す。また、図5に、保持時間tと再結晶粒径dγrexとの関係を示す。図4及び図5より、
(1)鍛造温度が高くなるほど、短時間で再結晶が完了する、
(2)鍛造温度が高くなるほど、再結晶粒の粒成長が進行し易くなる、
(3)結晶粒の微細化を主目的として鍛造を行う場合(すなわち、仕上げ鍛造の場合)には、鍛造温度は、1050〜1150℃が好ましい、
ことがわかる。
【0035】
(実施例3)
オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304N2)からなる鋳塊から、φ15×22.5(均一圧縮試験片)を切り出した。試験片を1270℃又は1150℃で1分間保持した。鍛造前の初期粒径は、120μm(1270℃保持)又は35μm(1150℃)であった。次に、試験片を種々の鍛造温度(900〜1200℃)に加熱し、1パス当たりの最大ひずみ(ε)が0.22〜0.52となるように鍛造を行った。鍛造後、直ちに水冷した。
図6及び図7に、それぞれ、初期粒径120μm(1270℃保持)及び35μm(1150℃保持)である試験片を各種の温度で鍛造した時の1パス当たりの最大ひずみ(ε)と再結晶分率との関係を示す。図6及び図7より、
(1)初期粒径が小さくなるほど、低温・低ひずみで再結晶が進行する、
(2)1パス当たりの最大ひずみ(ε)が大きくなるほど、低温で再結晶が進行する、
(3)鍛造温度が高くなるほど、低ひずみで再結晶が進行する、
(4)結晶粒の微細化を主目的として鍛造を行う場合(すなわち、仕上げ鍛造の場合)には、1パス当たりの最大ひずみ(ε)は0.2以上、鍛造温度は1050〜1150℃が好ましい、
ことがわかる。
【0036】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法は、原子力プラントなどの各種大型プラント用の大型鍛造品の製造方法として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1(a)は、圧下量50mmで鍛伸したときのひずみ分布の数値解析結果であり、図1(b)は、圧下量100mmで鍛伸したときのひずみ分布の数値解析結果である。
【図2】再結晶及び粒成長の過程を示す模式図である。
【図3】図3(a)及び図3(b)は、それぞれ、実施例1及び比較例1で行った鍛造の加熱パターンを示す図である。
【図4】各種温度で鍛造した後、さらに鍛造温度で所定時間保持したときの保持時間と再結晶分率との関係を示す図である。
【図5】各種温度で鍛造した後、さらに鍛造温度で所定時間保持したときの保持時間と再結晶粒径との関係を示す図である。
【図6】初期粒径120μm(1270℃保持)である試験片を各種温度で鍛造したときの最大ひずみと再結晶分率との関係を示す図である。
【図7】初期粒径37μm(1150℃保持)である試験片を各種温度で鍛造したときの最大ひずみと再結晶分率との関係を示す図である。
【出願人】 【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
【出願日】 平成18年8月9日(2006.8.9)
【代理人】 【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫

【識別番号】100123537
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 かおる


【公開番号】 特開2008−36698(P2008−36698A)
【公開日】 平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願番号】 特願2006−217558(P2006−217558)