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【発明の名称】 ねじ形成用工具
【発明者】 【氏名】蛤 稔章

【氏名】高垣 忠史

【要約】 【課題】ねじの形成に最低限必要なエネルギのピーク値を小さくすることのできるねじ形成用工具を提供する。

【解決手段】この工具30は、被加工物(ワーク)の内周面に圧接した状態で同ワークと相対移動させることにより、ワークの表面に多条ねじを形成する。工具30のベース部31の表面に形成された複数の歯32が、ワークの表面に多条ねじを形成する際に異なるタイミングで同ワークの表面に接触し始める形状にそれぞれ形成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の表面に圧接した状態での同被加工物との相対移動を通じて前記被加工物の表面に多条ねじを形成するねじ形成用工具であって、
前記被加工物の表面にねじ溝を形成するための複数の歯は、前記多条ねじの形成に際して異なるタイミングで前記表面に接触し始める形状にそれぞれ形成されてなる
ことを特徴とするねじ形成用工具。
【請求項2】
請求項1に記載のねじ形成用工具において、
前記複数の歯は、その全てが互いに異なるタイミングで前記表面に接触し始める形状に形成されてなる
ことを特徴とするねじ形成用工具。
【請求項3】
請求項1または2に記載のねじ形成用工具において、
当該工具は、前記多条ねじの形成に際して移動する方向における前記複数の歯の先端位置が異なる位置に設定されてなる
ことを特徴とするねじ形成用工具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のねじ形成用工具において、
当該工具は前記被加工物の表面にねじを転造するものである
ことを特徴とするねじ形成用工具。
【請求項5】
請求項4に記載のねじ形成用工具において、
当該工具は、円柱形状のベース部と同ベース部の表面においてその中心軸周りに螺旋状に延びる形状の前記歯とからなるものであって前記被加工物の内面に雌ねじを転造するタップである
ことを特徴とするねじ形成用工具。
【請求項6】
請求項1に記載のねじ形成用工具において、
当該工具は、前記表面にねじ溝を形成するための形成部を複数有してなり、
それら形成部は、いずれも円柱形状のベース部と同ベース部の表面においてその中心軸周りに螺旋状に延びる形状の前記歯とからなるものであって、且つ前記多条ねじの形成に際して移動する方向に間隔を置いて設けられてなり、
前記複数の形成部の一つに前記複数の歯のうちの幾つかが形成されるとともに前記複数の形成部の残りに前記複数の歯の残りが形成されてなる
ことを特徴とするねじ形成用工具。
【請求項7】
請求項6に記載のねじ形成用工具において、
当該工具は、二つの形成部を有してなる
ことを特徴とするねじ形成用工具。
【請求項8】
請求項7に記載のねじ形成用工具において、
前記複数の歯として四本以上の歯を有してなるとともに、前記二つの形成部にそれぞれ二本以上の歯が形成されてなり、
前記複数の歯のうちの特定の歯が前記二つの形成部の一方に形成されてなるとともに、同特定の歯によって形成されるねじ溝の両隣に位置するねじ溝を形成するための各歯が他の形成部に形成されてなる
ことを特徴とするねじ形成用工具。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一項に記載のねじ形成用工具において、
当該工具は前記被加工物の表面にねじを転造するものである
ことを特徴とするねじ形成用工具。
【請求項10】
装置本体に対して前記工具を移動可能な状態で保持する保持部と、前記工具および前記被加工物を相対移動させるための動力を発生する動力発生部とを有する加工装置に設けられてなる
請求項1〜9のいずれか一項に記載のねじ形成用工具。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、多条ねじの形成に用いるねじ形成用工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、切削加工や転造加工などを通じて、被加工物の表面にねじを形成することが多用されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平2−106219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、切削加工や転造加工によってねじを形成する際には、加工用の工具を動作させるために最低限必要なエネルギ(必要エネルギ)の大きさが加工開始直後において一時的に大きくなり、その後において小さくなるといったように推移する。
【0004】
多条のねじを形成する場合には、各ねじ溝についての必要エネルギを加算した値が多条ねじについての必要エネルギとなる。そのため、多条ねじの形成に際しては、必要エネルギのピーク値が大きくなり易い。そして、これは加工に用いる工具の耐久性能の向上を阻む一因となるため、好ましくない。
【0005】
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ねじの形成に最低限必要なエネルギのピーク値を小さくすることのできるねじ形成用工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、被加工物の表面に圧接した状態での同被加工物との相対移動を通じて前記被加工物の表面に多条ねじを形成するねじ形成用工具であって、前記被加工物の表面にねじ溝を形成するための複数の歯は、前記多条ねじの形成に際して異なるタイミングで前記表面に接触し始める形状にそれぞれ形成されてなることをその要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、複数の歯が異なるタイミングで被加工物の表面にねじ溝を形成し始めるようになり、各ねじ溝についての必要エネルギ(工具を動作させるために最低限必要なエネルギ)のピークが現れるタイミングをずらすことができる。そのため、各ねじ溝についての必要エネルギを加算した値のピーク値、言い換えれば、多条ねじについての必要エネルギのピーク値を小さくすることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のねじ形成用工具において、前記複数の歯は、その全てが互いに異なるタイミングで前記表面に接触し始める形状に形成されてなることをその要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、全ての歯が異なるタイミングで被加工物の表面にねじ溝を形成し始めるようになるため、各ねじ溝についての必要エネルギのピークが現れるタイミングを好適に分散させることができ、多条ねじについての必要エネルギのピーク値を好適に小さくすることができる。
【0010】
なお、異なるタイミングで前記表面に接触し始める形状に前記複数の歯をそれぞれ形成するといった構成は、請求項3によるように、多条ねじの形成に際して工具が移動する方向における前記複数の歯の先端位置を異なる位置に設定する、といった構成により実現することができる。
【0011】
また、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明にかかる構成は、請求項4によるように、被加工物の表面にねじを転造するものに適用することができる。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のねじ形成用工具において、当該工具は、円柱形状のベース部と同ベース部の表面においてその中心軸周りに螺旋状に延びる形状の前記歯とからなるものであって前記被加工物の内面に雌ねじを転造するタップであることをその要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、円柱形状のタップによって被加工物の内面に雌ねじを転造するに際して、多条ねじについての必要エネルギのピーク値を小さくすることができる。
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載のねじ形成用工具において、当該工具は、前記表面にねじ溝を形成するための形成部を複数有してなり、それら形成部は、いずれも円柱形状のベース部と同ベース部の表面においてその中心軸周りに螺旋状に延びる形状の前記歯とからなるものであって、且つ前記多条ねじの形成に際して移動する方向に間隔を置いて設けられてなり、前記複数の形成部の一つに前記複数の歯のうちの幾つかが形成されるとともに前記複数の形成部の残りに前記複数の歯の残りが形成されてなることをその要旨とする。
【0013】
上記構成によれば、複数の形成部の一つによって複数のねじ溝のうちの幾つかを形成した後に、複数の形成部の残りによって複数のねじ溝の残りを形成するといったように、複数の歯によって異なるタイミングで被加工物の表面にねじ溝を形成することができるようになる。そのため、被加工物の内面に雌ねじを転造するに際して、多条ねじについての必要エネルギのピーク値を小さくすることができる。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のねじ形成用工具において、当該工具は、二つの形成部を有してなることをその要旨とする。
上記構成によれば、二つの形成部の一方によって複数のねじ溝のうちの幾つかを形成した後に、二つの形成部の他方によって複数のねじ溝の残りを形成するといったように、複数の歯によって異なるタイミングで被加工物の表面にねじ溝を形成することができるようになる。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載のねじ形成用工具において、前記複数の歯として四本以上の歯を有してなるとともに、前記二つの形成部にそれぞれ二本以上の歯が形成されてなり、前記複数の歯のうちの特定の歯が前記二つの形成部の一方に形成されてなるとともに、同特定の歯によって形成されるねじ溝の両隣に位置するねじ溝を形成するための各歯が他の形成部に形成されてなることをその要旨とする。
【0016】
一方の形成部(あるいは他方の形成部)に形成される歯を互いに隣り合うねじ溝を形成する歯のみによって構成するようにした場合、一方の形成部(あるいは他方の形成部)によって被加工物にねじ溝を形成する際に、工具の移動方向における各歯の先端部分、すなわち各歯における被加工物の内周面に食い付く部分であって同被加工物と各歯との接触部分の中で最も面圧が高い部分が同工具の周方向における一部に偏ってしまう。そのため、工具が一方向に押圧されて撓むなどしてその回転中心がずれることにより、多条ねじの形成精度の低下を招くおそれがある。
【0017】
この点、上記構成によれば、多条ねじの形成に際して移動する方向における各歯の先端部分が同工具の周方向における一部に偏ることを抑制することができ、多条ねじを精度よく形成することができる。
【0018】
なお、請求項6〜8のいずれか一項に記載の発明にかかる構成は、請求項9によるように、被加工物の表面にねじを転造するものに適用することができる。
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか一項に記載のねじ形成用工具において、装置本体に対して前記工具を移動可能な状態で保持する保持部と、前記工具および前記被加工物を相対移動させるための動力を発生する動力発生部とを有する加工装置に設けられてなることをその要旨とする。
【0019】
多条ねじについての必要エネルギのピーク値が大きいと、その分だけ大きなエネルギを発生するものを動力発生部として採用する必要が生じ、また保持部としては同エネルギに耐えうる高強度のものを採用する必要が生じるために、加工装置の大型化を招いてしまう。
【0020】
上記構成によれば、多条ねじについての必要エネルギのピーク値を小さくして、加工装置の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(第1の実施の形態)
以下、本発明にかかるねじ形成用工具を具体化した第1の実施の形態について説明する。
【0022】
ここでは先ず、本実施の形態にかかる工具が適用される加工装置の概略構成について、図1を参照しつつ説明する。
図1に示すように、加工装置10の基台11には固定部12が設けられており、この固定部12には円筒形状の被加工物(以下、ワーク20)が固定される。
【0023】
基台11には装置本体13が固定されており、同装置本体13には保持部14が取り付けられている。この保持部14は、装置本体13に対して、固定部12に固定されたワーク20の中心軸方向(同図に矢印Aで示す方向)において移動可能に設けられている。また保持部14には、電動モータ15および工具30が取り付けられている。
【0024】
工具30は、ワーク20の内周面に多条(本実施の形態では、五条)の雌ねじ21を転造するタップであり、円柱形状のベース部31と同ベース部31の表面においてその中心軸周りに螺旋状に延びる形状の複数(本実施の形態では、五つ)の歯32とにより構成されている。また工具30は、固定部12に取り付けられたワーク20の中心軸と同工具30の中心軸とが一致するように保持部14に取り付けられる。
【0025】
電動モータ15は、保持部14に工具30を取り付けることによって、出力軸が工具30と連結されるようになっている。そして、このように工具30を取り付けた状態で電動モータ15を駆動することにより、同工具30をその中心軸周りに回転させることが可能になっている。
【0026】
本実施の形態にかかる加工装置10は、例えばマイクロコンピュータなどからなる電子制御装置16を備えている。電子制御装置16は、ワーク20の内部に雌ねじ21を形成する際に、予め定められたパターンで保持部14の位置制御や電動モータ15の駆動制御を実行する。具体的には、それら制御が以下のように実行される。
【0027】
すなわち先ず、工具30の各歯32が食い付く方向(以下、正方向)に回転するように電動モータ15が駆動されるとともに、同工具30がワーク20内部に挿入される方向に保持部14が移動される。これによってワーク20の内周面に工具30の各歯32が食い付き、さらにはワーク20の表面と工具30とが圧接した状態でそれらワーク20および工具30が相対移動するようになり、これに伴ってワーク20内部の表面に雌ねじ21が形成される。
【0028】
その後、ワーク20の雌ねじ21から工具30の歯32を取り外す方向に回転するように電動モータ15が駆動されるとともに、同工具30がワーク20から脱出する方向に保持部14が移動される。これにより、工具30がワーク20内部から取り外される。
【0029】
ここで、本実施の形態では、ワーク20内部に雌ねじ21を形成するために最低限必要なエネルギのピーク値を小さくするべく、上記工具30の形状が工夫されている。
以下、工具30の具体形状について図2を参照しつつ詳細に説明する。
【0030】
図2において(a)は工具30の側面形状を示しており、(b)は工具30を先端側(同図(a)における矢印B方向)から見た形状を示している。なお図2(b)では、理解を容易にするために、各歯32として、その幅方向の中心にあたる位置を繋いだ線(実線)を示している。また図2(b)の破線は、仮に各歯32を工具30の先端まで延ばした場合に、それら歯32の幅方向の中心にあたる位置を繋いだ線を示している。
【0031】
図2(a)および(b)に示すように、工具30のベース部31の表面には螺旋形状で連続して延びる形状の複数の歯32が形成されている。それら歯32は、ワーク20に雌ねじ21(図1参照)を形成する際に工具30が移動する方向(同図(a)における矢印C方向)における先端位置(同図(a),(b)中にS1,S2,S3,S4,S5で示す位置)が異なる位置となる形状でそれぞれ延設されている。
【0032】
また各歯32は、上記先端位置から離れるのに伴って徐々に突出量(詳しくは、ベース部31からの突出量)が大きくなる形状であり、且つ上記先端位置から所定距離以上離れた位置においては突出量が一定となる形状にそれぞれ形成されている。
【0033】
さらに各歯32は、その幅方向(詳しくは、歯32の延設方向と直交する方向)における断面形状が、上記突出量が一定となった部分において上記雌ねじ21(図1参照)の歯溝の幅方向における断面形状とほぼ一致する形状となるようにそれぞれ設定されている。
【0034】
こうした形状の工具30は、複数の歯32の全てが互いに異なるタイミング(具体的には、先端位置が位置S1の歯32→同位置S2の歯32→同位置S3の歯32→同位置S4の歯32→同位置S5の歯32といった順)でワーク20(図1参照)の内周面に接触し始めるようになる。
【0035】
以下、こうした形状の工具30を用いることによる作用について説明する。
図3に示すように、転造加工によって一条ねじを形成する際には一般に、加工用の工具を回転させるために最低限必要なトルク(必要トルク)の大きさが加工開始直後において一時的に大きくなり、その後において小さくなるといったように推移する。
【0036】
多条のねじを形成する場合には、各ねじ溝についての必要トルクを加算した値が多条ねじについての必要トルクとなる。そのため、複数の歯の移動方向における先端位置が同一の工具を用いて雌ねじを形成すると、各ねじ溝が同一のタイミングで形成されるために、各ねじ溝についての必要トルクのピークが同時に現れることとなり、多条ねじの必要トルクのピーク値が大きくなってしまう。
【0037】
これは工具に作用するトルクの低減、ひいては同工具の耐久性能の向上を阻む一因となるため、好ましくない。また、そうした工具を用いる加工装置では、電動モータとして大きなトルクを発生するものを採用する必要が生じ、また工具を保持する保持部として同トルクに耐えうる高強度のものを採用する必要が生じるために、装置の大型化を招いてしまう。
【0038】
本実施の形態にかかる加工装置10(図1)では、上述した工具30が用いられるために、複数の歯32が異なるタイミングでワーク20の内周面に接触し始めて各別にねじ溝を形成するようになり、各ねじ溝についての必要トルクのピークが現れるタイミングをずらすことができる。そのため図4に実線で示すように、各ねじ溝についての必要トルクを加算した値のピーク値、言い換えれば、多条ねじ(具体的には、ワーク20の雌ねじ21)についての必要トルクのピーク値を小さくすることができる。なお図4には、比較例として、全ての歯が同一のタイミングでワーク20の内周面に接触し始める形状の工具を用いて雌ねじを形成した場合における必要トルクの推移を一点鎖線で併せ示している。
【0039】
特に、本実施の形態にかかる加工装置10(図1)では、複数の歯32の全てが互いに異なるタイミングでワーク20(図1)の内周面に接触し始める形状に工具30が形成されているために、全ての歯32が異なるタイミングでワーク20の表面にねじ溝を形成し始めるようになる。そのため、ワーク20の内周面に接触し始めるタイミングが同一の複数の歯を有する工具が採用される装置と比較して、各ねじ溝についての必要トルクのピークが現れるタイミングを好適に分散させることができ、多条ねじについての必要トルクのピーク値を好適に小さくすることができる。
【0040】
そして、このように多条ねじについての必要トルクのピーク値を小さくすることにより、電動モータ15としてトルク容量の小さいものを採用することができ、また保持部14として比較的強度の小さいものを採用することができるために、加工装置10の小型化を図ることができる。また、ワーク20の内周面に雌ねじ21を形成する際に工具30に作用するトルクを小さく抑えることができるために、同工具30の耐久性を向上させることができる。
【0041】
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
(1)工具30の複数の歯32を、ワーク20の内周面への雌ねじ21の形成に際して異なるタイミングで同ワーク20の内周面に接触し始める形状に形成した。そのため、多条ねじについての必要トルクのピーク値を小さくすることができる。
【0042】
(2)複数の歯32の全てが互いに異なるタイミングでワーク20の内周面に接触し始める形状に工具30を形成した。そのため、各ねじ溝についての必要トルクのピークが現れるタイミングを好適に分散させることができ、多条ねじについての必要トルクのピーク値を好適に小さくすることができる。
【0043】
(3)ワーク20の内周面に雌ねじ21を形成する際に工具30が移動する方向における同工具30の各歯32の先端位置を異なる位置に設定したために、異なるタイミングでワーク20の表面に接触し始める形状に各歯32を形成することができる。
【0044】
(4)工具30として、円柱形状のベース部31と同ベース部31の表面においてその中心軸周りに螺旋状に延びる形状の複数の歯32とからなるものであってワーク20の内面に雌ねじ21を転造するタップを採用するようにした。そのため、円柱形状のタップによってワーク20の内面に雌ねじ21を転造するに際して、多条ねじについての必要トルクのピーク値を小さくすることができる。
【0045】
(5)工具30を回転させる電動モータ15を有する加工装置10の小型化を図ることができる。
(第2の実施の形態)
以下、本発明にかかるねじ形成用工具を具体化した第2の実施の形態について説明する。
【0046】
本実施の形態にかかるねじ形成用工具が適用される加工装置の構成、制御構造、および操作方法は、いずれも第1の実施の形態と同様であるため、その説明は省略する。
以下、本実施の形態にかかるねじ形成用工具の具体形状について説明する。
【0047】
図5は、本実施の形態にかかるねじ形成用工具(工具40)の側面構造を示している。
同図5に示すように、工具40はベース軸41を備えており、同ベース軸41には二つの形成部(第1形成部42および第2形成部43)が形成されている。それら第1形成部42および第2形成部43は、いずれもワーク20の内周面に雌ねじ21(図1参照)を形成するためのものであり、雌ねじ21の形成に際して移動する方向に間隔を置いて設けられている。
【0048】
第1形成部42は、円柱形状のベース部44と同ベース部44の表面においてその中心軸周りに螺旋状に延びる形状の複数の歯45とにより構成されている。第2形成部43は、円柱形状のベース部46と同ベース部46の表面においてその中心軸周りに螺旋状に延びる形状の複数の歯47とにより構成されている。また、第1形成部42には五条の雌ねじ21を形成するための五本の歯のうちの三本(上記歯45)が形成されており、第2形成部43には五本の歯のうちの残りの二本(上記歯47)が形成されている。さらに、第1形成部42および第2形成部43は、そのベース部44,46の中心軸と前記ベース軸41の中心軸とが一致するようにそれぞれ設けられている。
【0049】
また第1形成部42および第2形成部43に形成される各歯45,47は、雌ねじ21の形成に際して工具40が移動する方向における先端位置から離れるのに伴って徐々に突出量(詳しくは、ベース部44,46からの突出量)が大きくなる形状であり、且つ上記先端位置から所定距離以上離れた位置においては突出量が一定となる形状にそれぞれ形成されている。さらに各歯45,47は、その幅方向(詳しくは、歯45,47の延設方向と直交する方向)における断面形状が、上記突出量が一定となった部分において上記雌ねじ21(図1参照)の歯溝の幅方向における断面形状とほぼ一致する形状となるようにそれぞれ設定されている。
【0050】
工具40の表面には、ベース軸41の軸方向に延びる複数(五本)の溝48が形成されている。これら溝48は、雌ねじ21の形成に際して工具40とワーク20(図1参照)との間にグリスを供給するための溝であり、工具40の表面の周方向において等角度(72°)おきに形成されている。
【0051】
本実施の形態では、こうした工具40が用いられるために、その第1形成部42に形成された歯45によって五本のねじ溝のうちの三本を形成した後に、第1形成部42に形成された歯47によって五本のねじ溝のうちの残りの二本を形成するといったように、複数の歯によって異なるタイミングでワーク20の表面にねじ溝が形成される。
【0052】
これにより、各ねじ溝についての必要トルクのピークが現れるタイミングをずらすことができ、各ねじ溝についての必要トルクを加算した値のピーク値、言い換えれば、多条ねじ(具体的には、ワーク20の雌ねじ21)についての必要トルクのピーク値を小さくすることができる。
【0053】
図6に多条ねじについての必要トルクのピーク値と多条ねじの内径(詳しくは、その下穴の半径)との関係を求めた結果を示す。
図6において、線L1は本実施の形態にかかる工具40と同様の構造の工具を用いて多条ねじを形成した場合の上記関係を示しており、線L2は五本のねじ溝を同時に形成する工具を用いて多条ねじを形成した場合の上記関係を示している。
【0054】
図6から明らかなように、本実施の形態にかかる工具40を用いて多条ねじを形成した場合には(線L1)、五本のねじ溝を同時に形成する工具を用いて多条ねじを形成した場合と比較して(線L2)、必要トルクのピーク値が低減されるようになる。
【0055】
図7に多条ねじの形成に際して必要となる工具を軸方向に移動させる力(必要スラスト力)のピーク値と多条ねじの内径(詳しくは、その下穴の半径)との関係を求めた結果を示す。
【0056】
図7において、線L3は本実施の形態にかかる工具40と同様の構造の工具を用いて多条ねじを形成した場合の上記関係を示しており、線L4は五本のねじ溝を同時に形成する工具を用いて多条ねじを形成した場合の上記関係を示している。
【0057】
図7から明らかなように、本実施の形態にかかる工具を用いて多条ねじを形成した場合には(線L3)、五本のねじ溝を同時に形成する工具を用いて多条ねじを形成した場合と比較して(線L4)、必要スラスト力のピーク値についてもこれが低減されるようになる。
【0058】
そして、このように多条ねじについての必要トルクのピーク値や必要スラスト力のピーク値を小さくすることにより、電動モータ15としてトルク容量の小さいものを採用することができ、また保持部14として比較的強度の小さいものを採用することができるために、加工装置10の小型化を図ることができる。また、ワーク20の内周面に雌ねじ21を形成する際に工具40に作用するトルクやスラスト力を小さく抑えることができるために、同工具40の摩耗や欠損の発生などを抑制することができ、同工具40の耐久性を向上させることができる。
【0059】
ここで、第1形成部42の歯45(あるいは第2形成部43の歯47)を互いに隣り合うねじ溝を形成する歯のみによって構成するようにした場合、第1形成部42(あるいは第2形成部43)によってワーク20にねじ溝が形成される際に、工具40の移動方向における各歯45,47の先端部分、すなわち各歯45,47の上記ワーク20の内周面に食い付く部分であって各歯45,47とワーク20との接触部分の中で最も面圧が高い部分が同工具40の周方向における一部に偏ってしまう。そのため、工具40が一方向に押圧されて撓むなどしてその回転中心がずれることにより、雌ねじ21の形成精度の低下を招くおそれがある。
【0060】
この点をふまえて、本実施の形態では、五条の雌ねじ21を形成する五本の歯のうちの特定の歯を第1形成部42に形成するとともに、同特定の歯によって形成されるねじ溝の両隣に位置するねじ溝を形成するための各歯を第2形成部43に形成するようにしている。
【0061】
以下、そのように第1形成部42および第2形成部43に形成される各歯45,47について、詳細に説明する。
図8は、第1形成部42を工具40の先端側から見た側面構造を示している。
【0062】
なお図8では、理解を容易にするために、各歯45として、その幅方向の中心にあたる位置を繋いだ線(実線)を示している。また図8の破線は、仮に第2形成部43に形成される歯45を第1形成部42に形成した場合に、それら歯45の幅方向の中心にあたる位置を繋いだ線を示している。
【0063】
図8に示すように、第1形成部42には五本の歯のうちの三本(上記歯45)が形成されている。第1形成部42に形成された三本の歯45は、第1形成部42によってねじ溝が形成される際に同時にワーク20に食い付くように、その先端位置が設定されている。
【0064】
ここで、ワーク20の内周面に五本のねじ溝を同時に形成する工具にあっては、それらねじ溝を形成するための各歯の先端位置が等角度(72°)おきに並ぶ。そうした各歯の先端位置を、図8に併せ示すように右回り方向に順に「D」,「E」,「F」,「G」,「H」とすると、第1形成部42には、先端位置が「D」,「F」,「H」である歯45がそれぞれ形成されている。すなわち第1形成部42には、各先端位置「D」,「F」,「H」を直線で繋いだ場合にできる三角形の中に工具40の回転中心Oが位置するように、各歯45が設けられている。なお本実施の形態では、先端位置が「F」である歯45が特定の歯に相当する。また上記各溝48は、そうした各歯の先端位置「D」,「E」,「F」,「G」,「H」の間に位置するようにそれぞれ形成されている。
【0065】
図9は、第2形成部43を工具40の先端側から見た側面構造を示している。
なお図9では、理解を容易にするために、各歯47として、その幅方向の中心にあたる位置を繋いだ線(実線)を示している。また図9の破線は、仮に第1形成部42に形成される歯45を第2形成部43に形成した場合に、それら歯45の幅方向の中心にあたる位置を繋いだ線を示している。
【0066】
図9に示すように、第2形成部43には、五本の歯のうちの第1形成部42に形成された三本の歯45(図8参照)を除く、残りの二本の歯47が形成されている。また第2形成部43には、第1形成部42に形成された三本の歯45のうちの一本によって形成されたねじ溝と係合する一本の歯(凸部49)が形成されている。そして、第2形成部43に形成された二本の歯47および凸部49は、同第2形成部43によってねじ溝が形成される際に同時にワーク20に食い付く(凸部49についてはワーク20に接触する)ように、その先端位置が設定されている。また、前述した各先端位置「D」,「E」,「F」,「G」,「H」(図8参照)を図9に併せ示すように、第2形成部43には、先端位置が「E」,「G」である歯47と先端位置が「D」である歯に対応する形状の凸部49とがそれぞれ形成されている。すなわち第2形成部43には、各先端位置「E」,「G」,「D」を直線で繋いだ場合にできる三角形の中に工具40の回転中心Oが位置するように、各歯47および凸部49が設けられている。なお本実施の形態では、先端位置が「G」である歯47が特定の歯に相当する。
【0067】
本実施の形態では、このように五本の歯45,47および凸部49が第1形成部42および第2形成部43に形成されるため、第1形成部42によって三本のねじ溝を形成するとき、および第2形成部43によって二本のねじ溝を形成するときにおいて、各歯45,47や凸部49の先端部分が同工具40の周方向における一部に偏ることが回避される。そのため、工具40の周方向側面に作用するワーク20による押圧力が一方向に偏ることが抑制されるようになり、各ねじ溝、ひいては雌ねじ21が精度よく形成されるようになる。
【0068】
図10に、同時に五本のねじ溝を形成する工具を用いて多条ねじが形成される場合における同工具とワーク20との接触部分の断面構造を示す。
同図10に示すように、上記工具を用いて多条ねじが形成される場合には、ワーク20の各ねじ溝が、隣り合うねじ溝と同時に形成される。この場合には、隣り合う歯と歯との間隔が小さく、それら歯によってワーク20の変形が拘束されるため、多条ねじについての必要トルクや必要スラスト力が大きくなってしまう。
【0069】
図11に、本実施の形態にかかる工具40を用いて多条ねじが形成される場合における同工具40とワーク20との接触部分の断面構造を示す。
同図11に示すように、本実施の形態にかかる工具40を用いて多条ねじが形成される場合には、ワーク20の各ねじ溝が、隣り合うねじ溝の一方あるいは両方が形成されない状況のもとで形成される。この場合には、各歯45(或いは各歯47や凸部49)の間隔を大きくすることができ、これによりワーク20を変形させ易くなるため、多条ねじについての必要トルクや必要スラスト力を比較的小さくすることができる。
【0070】
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
(1)工具40の複数の歯45,47を、ワーク20の内周面への雌ねじ21の形成に際して異なるタイミングで同ワーク20の内周面に接触し始める形状に形成した。そのため、多条ねじについての必要トルクのピーク値を小さくすることができる。
【0071】
(2)雌ねじ21の形成時における移動方向に間隔を置いて設けられた第1形成部42と第2形成部43とを備えた工具40において、その第1形成部42に五本の歯のうちの三本(歯45)を形成するとともに第2形成部43に残りの二本(歯47)を形成するようにした。そのため、第1形成部42に形成された歯45によって五本のねじ溝のうちの三本を形成した後に、第1形成部42に形成された歯47によって五本のねじ溝のうちの残りの二本を形成するといったように、複数の歯45,47によって異なるタイミングでワーク20の表面にねじ溝を形成することができる。したがって、ワーク20の内面に多条ねじを転造する際に、同多条ねじについての必要エネルギのピーク値を小さくすることができる。
【0072】
(3)五本の歯のうちの特定の歯を第1形成部42に形成するとともに、同特定の歯によって形成されるねじ溝の両隣に位置するねじ溝を形成するための各歯を第2形成部43に形成するようにした。そのため、雌ねじ21の形成に際して移動する方向における各歯45,47の先端部分が工具40の周方向における一部に偏ることを抑制することができ、雌ねじ21を精度よく形成することができる。
【0073】
なお、上記各実施の形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・第1の実施の形態において、複数の歯のうちの少なくとも2つが異なるタイミングでワーク20の内周面に接触し始める形状であれば、必ずしも複数の歯32の全てが異なるタイミングでワーク20の内周面に接触し始める形状に工具30を形成しなくてもよい。そうした構成によっても、全ての歯が同じタイミングで接触し始める形状の工具と比べて、多条ねじについての必要トルクを小さく抑えることができる。
【0074】
・第1の実施の形態において、複数の歯が異なるタイミングでワーク20の内周面に接触し始める形状に形成されるのであれば、各歯を、ワーク20の内周面への雌ねじ21の形成に際して工具が移動する方向における先端位置が同一位置となる形状に延設するようにしてもよい。
【0075】
・第2の実施の形態において、五本の歯のうちの第1形成部42に形成する歯45は任意に変更可能である。
・第2の実施の形態において、第1形成部42の歯45を、互いに異なるタイミングでワーク20の内周面に接触し始める形状に形成するようにしてもよい。また、第2形成部43の歯47を、互いに異なるタイミングでワーク20の内周面に接触し始める形状に形成するようにしてもよい。これら構成によれば、各ねじ溝についての必要トルクのピークが現れるタイミングを好適に分散させることができ、多条ねじについての必要トルクのピーク値を好適に小さくすることができる。
【0076】
・第2の実施の形態において、ワーク20に雌ねじ21を形成するための形成部を三つ以上設けるようにしてもよい。
・第2の実施の形態において、工具に複数の形成部を設けることに加えて、複数のねじ溝の断面形状を適正な形状に矯正するための矯正部を設けるようにしてもよい。同構成によれば、複数の形成部によって複数のねじ溝を形成した後に、それらねじ溝を矯正部によって適正な形状に矯正することができる。そのため、ワーク20に雌ねじ21を精度よく形成することができるようになる。
【0077】
図12に、そうした矯正部を有する工具の一例を示す。同図12に示すように、工具50のベース軸51には、その先端側から順に互いに間隔を置いて、第1形成部42、第2形成部43、および矯正部52が設けられている。矯正部52は、円柱形状のベース部53と同ベース部53の表面においてその中心軸周りに螺旋状に延びる形状の複数(五本)の凸部54とにより構成されている。矯正部52は、そのベース部53の中心軸がベース軸51の中心軸と一致するように設けられている。なお、矯正部52の五本の凸部54は、雌ねじ21のねじ溝に対応する形状に形成されている。
【0078】
・各実施の形態において、電動モータ15に代えて、オイルや空気などの流体の圧力によって作動する流体圧モータを動力発生部として設けるようにしてもよい。
・本発明は、平板形状のベース部の一面に平行に延びる歯が形成された工具(平ダイス)や、円柱形状のベース部の内周面にその中心軸周りに螺旋状に延びる形状の複数の歯が形成された工具(丸ダイス)、円筒形状のベース部の外周面にその中心軸周りに螺旋状に延びる形状の複数の歯が形成された工具(ローラダイス)など、多条の雄ねじを形成する加工装置に採用される工具にも適用することができる。こうした工具にあっても、ワークの表面に複数のねじ溝を形成するための歯を、多条の雄ねじの形成に際して異なるタイミングでワークに接触し始める形状に形成するようにすればよい。これにより、上述した実施の形態に準じた作用効果を得ることができるようになる。
【0079】
・本発明は、転造加工に用いられる工具に限らず、切削加工に用いられる工具にも適用することができる。切削加工用の工具にあっても、ワークの表面に複数のねじ溝を形成するための歯を多条の雄ねじの形成に際して異なるタイミングでワークに接触し始める形状に形成することにより、上述した実施の形態に準じた作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明を具体化した第1の実施の形態にかかるねじ形成用工具が適用される加工装置の概略構成を示す略図。
【図2】(a)同実施の形態にかかる工具の側面構造を示す側面図、(b)同工具を先端側から見た形状を示す側面図。
【図3】一条ねじについての必要トルクの推移を示すタイミングチャート。
【図4】本実施の形態にかかる工具を用いて多条ねじを形成した際の必要トルクの推移を示すタイミングチャート。
【図5】本発明を具体化した第2の実施の形態にかかるねじ形成用工具の側面構造を示す側面図。
【図6】多条ねじについての必要トルクのピーク値と多条ねじの内径との関係を示すグラフ。
【図7】多条ねじについての必要スラスト力のピーク値と多条ねじの内径との関係を示すグラフ。
【図8】第1形成部を工具の先端側から見た側面構造を示す側面図。
【図9】第2形成部を工具の先端側から見た側面構造を示す側面図。
【図10】同時に五本のねじ溝を形成する工具を用いて多条ねじが形成される場合における同工具とワークとの接触部分の断面構造を拡大して示す拡大断面図。
【図11】本実施の形態にかかる工具を用いて多条ねじが形成される場合における同工具とワークとの接触部分の断面構造を拡大して示す拡大断面図。
【図12】他の実施の形態にかかる工具の側面構造を示す側面図。
【符号の説明】
【0081】
10…加工装置、11…基台、12…固定部、13…装置本体、14…保持部、15…電動モータ、16…電子制御装置、20…ワーク、21…雌ねじ、30…工具、31…ベース部、32…歯、40…工具、41…ベース軸、42…第1形成部、43…第2形成部、44…ベース部、45…歯、46…ベース部、47…歯、48…溝、49…凸部、50…工具、51…ベース軸、52…矯正部、53…ベース部、54…凸部。
【出願人】 【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
【出願日】 平成19年5月25日(2007.5.25)
【代理人】 【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣

【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠


【公開番号】 特開2008−307543(P2008−307543A)
【公開日】 平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願番号】 特願2007−139034(P2007−139034)