トップ :: B 処理操作 運輸 :: B21 本質的には材料の除去が行なわれない機械的金属加工;金属の打抜き

【発明の名称】 多重ねじ転造ダイスおよびこれを用いた多重ねじボルトの製造方法
【発明者】 【氏名】竹増 光家

【氏名】宮原 洋

【要約】 【課題】ダイス本体端面近傍におけるねじ加工部の耐久性を向上した多重ねじ転造ダイスおよびこれを用いた多重ねじボルトの製造方法の提供。

【解決手段】並目ねじを展開した並目ねじ山部5の山部5aと、細目ねじを展開した細目ねじ山と並目ねじ山との位相ずれに応じて並目ねじ山部5の谷部5bに周期的に形成された細目ねじ山に対応する突起6とを備えた多重ねじ転造ダイス1において、ダイス本体端面1aから所定幅の範囲は、並目ねじを展開した並目ねじ山の山部8aおよび谷部8bを備え、細目ねじ山に対応する突起6を備えない単一並目ねじ山部8とした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
並目ねじを展開した並目ねじ山の山部と、細目ねじを展開した細目ねじ山と前記並目ねじ山との位相ずれに応じて前記並目ねじ山の谷部に周期的に形成された前記細目ねじ山に対応する突起とを備えた多重ねじ転造ダイスにおいて、
ダイス本体端面から所定幅の範囲は、前記並目ねじを展開した並目ねじ山の山部および谷部を備え、前記細目ねじ山に対応する突起を備えない単一並目ねじ山部であることを特徴とする多重ねじ転造ダイス。
【請求項2】
前記単一並目ねじ山部は、前記山部の山頂または谷部の底が前記ダイス本体端面に向かうに連れて低くなるように前記並目ねじ山が形成されたものである請求項1記載の多重ねじ転造ダイス。
【請求項3】
前記単一並目ねじ山部の並目ねじ山は、5〜30°の勾配を設けて形成されたものである請求項2記載の多重ねじ転造ダイス。
【請求項4】
並目ねじを展開した並目ねじ山の山部と、細目ねじを展開した細目ねじ山と前記並目ねじ山との位相ずれに応じて前記並目ねじ山の谷部に周期的に形成された前記細目ねじ山に対応する突起とを備え、ダイス本体端面から所定幅の範囲が、前記並目ねじを展開した並目ねじ山の山部および谷部を備え、前記細目ねじ山に対応する突起を備えない単一並目ねじ山部とした多重ねじ転造ダイスにボルト材料を押し付けて転造する多重ねじボルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、緩み防止機能を有する多重ねじボルトの製造に用いられる多重ねじ転造ダイスおよびこれを用いた多重ねじボルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、緩み防止機能を有する種々のボルトおよびその製造方法が研究開発されている。例えば、本発明者らは、特許文献1において、並目ねじを展開した並目ねじ山の山部と、並目ねじ山の谷部に並目ねじと同一方向のつる巻き線を持ち並目ねじよりもピッチが小さくかつピッチが異なる複数の細目ねじをそれぞれ展開したときに並目ねじ山の位相ずれに応じて並目ねじ山のn巻きごとに周期的に現れるそれぞれの細目ねじ山に対応する突起とを有する多重ねじ転造ダイスを用いて、多重ねじボルトを転造により製造する技術を開示している。
【0003】
このような多重ねじ転造ダイスにより製造される多重ねじボルトでは、ボルトの並目ねじ部に並目ナットを螺合させた後、細目ねじ部に細目ナットをこの並目ナットに重ねて螺合させて、ボルトおよび両ナット間を締結させることができる。このような多重ねじボルト、並目ナットおよび細目ナットにより構成される多重ねじボルト締結体によれば、細目ナットと並目ナットのピッチが異なるので、両者が一体になって同一方向に回転すると、両ナット間の接触面(座面)に反発力が働き、並目ナットが緩み方向に回転するのを防止することができる。
【0004】
【特許文献1】特許第3546211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記多重ねじ転造ダイスでは、並目ねじ山に重ねて細目ねじ山が形成されるというねじ山(溝)形状の特殊性から、ダイス本体端面近傍においてダイスが受ける応力が非常に高い。そのため、多重ねじ転造ダイスは、通常の単一ねじ転造用ダイスに比べて、ダイス本体端面近傍におけるねじ加工部の耐久性、特に耐チッピング性が劣ってしまうという欠点がある。
【0006】
そこで、本発明においては、ダイス本体端面近傍におけるねじ加工部の耐久性を向上した多重ねじ転造ダイスおよびこれを用いた多重ねじボルトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多重ねじ転造ダイスは、並目ねじを展開した並目ねじ山の山部と、細目ねじを展開した細目ねじ山と並目ねじ山との位相ずれに応じて並目ねじ山の谷部に周期的に形成された細目ねじ山に対応する突起とを備えた多重ねじ転造ダイスにおいて、ダイス本体端面から所定幅の範囲は、並目ねじを展開した並目ねじ山の山部および谷部を備え、細目ねじ山に対応する突起を備えない単一並目ねじ山部であることを特徴とするものである。なお、本発明において、山部とは、並目ねじの有効径に対応する並目ねじ山の位置よりも高い部分をいい、谷部とは同位置よりも低い部分をいう。
【0008】
この多重ねじ転造ダイスにボルト材料を押し付けて転造を行うと、ボルト材料は、多重ねじ転造ダイスによって押圧されることにより、並目ねじ山の表面に沿って塑性変形しながら並目ねじ山の山部の間を埋めていき、並目ねじ山の谷部に周期的に形成された細目ねじ山に対応する突起の表面に沿って塑性変形しながら突起の間を埋めていく。このとき、塑性変形したボルト材料は、ボルト材料の中央から両外側に向かって流れていくが、本発明の多重ねじ転造ダイスでは、ダイス本体端面から所定幅の範囲は、並目ねじを展開した並目ねじ山の山部および谷部を備え、細目ねじ山に対応する突起を備えない単一並目ねじ山部であるため、このダイス本体端面から所定幅の範囲に流れてきたボルト材料は細目ねじ山に対応する突起に阻害されることなく、並目ねじ山の谷部に流れ込む。したがって、本発明の多重ねじ転造ダイスのダイス本体端面近傍におけるねじ加工部に掛かる応力が低くなる。
【0009】
ここで、単一並目ねじ山部は、山部の山頂または谷部の底がダイス本体端面に向かうに連れて低くなるように並目ねじ山が形成されたものであることが望ましい。これにより、本発明の多重ねじ転造ダイスのダイス本体端面から所定幅の範囲内では、転造時に流れてきたボルト材料が流れ込む領域、すなわちボルト材料の逃げる領域が広くなるので、ボルト材料はこの単一並目ねじ山部内に流れ込み、本発明の多重ねじ転造ダイスのダイス本体端面近傍におけるねじ加工部に掛かる応力は低くなる。
【0010】
また、単一並目ねじ山部の並目ねじ山は、5〜30°、より好ましくは5〜15°の勾配を設けて山部の山頂または谷部の底がダイス本体端面に向かうに連れて低くなるように形成されたものであることが望ましい。5°未満では、並目ねじボルトを螺合できない不完全ねじの領域が大きくなりすぎ、通常のボルトとしては使用できない特殊構造のボルトとなる。また、15°を超えると谷部の断面積が急激に変化することになり、ダイス本体端面近傍におけるねじ加工部に掛かる応力が高くなるので、多重ねじ転造ダイスの耐久性が悪化していくが、30°以下であれば実用上問題はない。5〜15°の範囲であれば耐久性と不完全ねじとなる領域との釣り合いが最適な多重ねじ転造ダイスとなる。
【0011】
なお、並目ねじとは、直径とピッチとの組み合わせが一般的で最も普通に使用されているねじをいう。また、細目ねじとは、並目ねじに比べて直径に対するピッチの割合が細かく、谷が浅いねじをいう。本発明の多重ねじ転造ダイスに係る細目ねじ山のピッチは、並目ねじ山のピッチ以下であればよい。また、それぞれのねじ山の形状は、三角ねじ、台形ねじ、角ねじ、鋸歯ねじ、丸ねじ、ポールねじやその他の特殊ねじなどのいずれでもよく、任意に組み合わせることも可能である。
【0012】
また、本明細書中においては、つる巻き線の方向は一致するが、ピッチの異なる二つ以上のねじ山を同軸上に持つ、円柱体または円錐体のことを多重ねじという。多重ねじは、ピッチの異なるねじ山の数が2の場合、二重ねじ、3の場合、三重ねじ、4の場合、四重ねじ、・・・、nの場合、n重ねじと呼ぶ。多重ねじは、その最も大きなピッチのねじ山と最も小さなピッチのねじ山の比をa対nとするとき(aとnは最小の整数比)、大きなピッチのねじ山のピッチaごとにその多重ねじのねじ山の形状は周期的に変化する。
【0013】
二重ねじボルトを製造する場合、多重ねじ転造ダイスとしての二重ねじ転造ダイスは、並目ねじを展開した並目ねじ山の一部と、この並目ねじ山の谷部に並目ねじと同一方向のつる巻き線を持ち並目ねじよりもピッチの小さい細目ねじ(但し、並目ねじと細目ねじのピッチの比はa対bであり、aとbは最小の整数比である。)を展開したときに並目ねじ山との位相ずれに応じて並目ねじ山のb巻きごとに周期的に現れる細目ねじ山の一部とを有するものとする。
【0014】
また、多重ねじ転造ダイスが、さらに、並目ねじ山の一部および細目ねじ山の一部により形成される谷部に並目ねじと同一方向のつる巻き線を持ち細目ねじよりもさらにピッチの小さい最細目ねじ(但し、並目ねじと細目ねじと最細目ねじのピッチの比はa対b対cであり、aとbとcは最小の整数比である。)を展開したときに並目ねじ山の一部および細目ねじ山の一部との位相ずれに応じて並目ねじ山のc巻きごとに周期的に現れる最細目ねじ山の一部を有する三重ねじ転造ダイスとすることで、並目ねじ山の一部と細目ねじ山の一部と最細目ねじ山の一部とが形成された三重ねじボルトを製造することが可能である。
【0015】
さらに、n重ねじボルトを製造する場合、多重ねじ転造ダイスとしてのn重ねじ転造ダイスは、並目ねじを展開した並目ねじ山の一部と、この並目ねじ山の谷部に並目ねじと同一方向のつる巻き線を持ち並目ねじよりもピッチが小さくかつピッチが異なる一つまたは複数の細目ねじ(但し、並目ねじと一つまたは複数の細目ねじのピッチの比はa対・・・対nであり、a,・・・,nは最小の整数比である。)をそれぞれ展開したときに並目ねじ山との位相ずれに応じて並目ねじ山のn巻きごとに周期的に現れるそれぞれの細目ねじ山の一部とを有するものとする。これにより、並目ねじ山の一部と複数の細目ねじ山それぞれの一部とが形成された多重ねじボルトを製造することが可能である。
【0016】
また、本発明の多重ねじ転造ダイスが、丸ダイス上に並目ねじ山の一部および細目ねじ山の一部を形成したものであれば、この多重ねじ転造ダイスを所定間隔で配置してそれぞれ同一方向に回転させ、この多重ねじ転造ダイス間にボルト材料を押圧させることにより、多重ねじボルトを製造することができる。
【0017】
また、本発明の多重ねじ転造ダイスが、平ダイス上に並目ねじ山の一部および細目ねじ山の一部を形成したものであれば、この多重ねじ転造ダイスを所定間隔で配置し、一方を固定して他方を平行移動させるか、または互いに逆方向に平行移動させ、この多重ねじ転造ダイス間にボルト材料を押圧させることにより、多重ねじボルトを製造することができる。
【0018】
なお、本発明の多重ねじ転造ダイスは、所定間隔で配置する複数の多重ねじ転造ダイスのうち少なくとも一つ配置すればよいが、すべての多重ねじ転造ダイスを本発明の多重ねじ転造ダイスとすることも可能である。多重ねじ転造ダイスのうち一つを本発明の多重ねじ転造ダイスとする場合、他の多重ねじ転造ダイスは並目ねじのみを展開した通常の並目ねじダイスとする。また、ロータリプラネタリ方式のボルトの製造方法または製造装置に適用する場合、本発明の多重ねじ転造ダイスは丸ダイスまたはセグメントダイスのいずれか一方に適用すればよく、両方に適用してもよい。
【発明の効果】
【0019】
(1)並目ねじを展開した並目ねじ山の山部と、細目ねじを展開した細目ねじ山と並目ねじ山との位相ずれに応じて並目ねじ山の谷部に周期的に形成された細目ねじ山に対応する突起とを備えた多重ねじ転造ダイスにおいて、ダイス本体端面から所定幅の範囲は、並目ねじを展開した並目ねじ山の山部および谷部を備え、細目ねじ山に対応する突起を備えない単一並目ねじ山部であることにより、転造時に多重ねじ転造ダイスのダイス本体端面近傍におけるねじ加工部に掛かる応力が低くなるので、ダイス本体端面近傍におけるねじ加工部の耐久性が向上する。
【0020】
(2)単一並目ねじ山部は、山部の山頂または谷部の底がダイス本体端面に向かうに連れて低くなるように並目ねじ山が形成されたものであることにより、ダイス本体端面から所定幅の範囲内では、転造時に流れてきたボルト材料が流れ込む領域が広くなるので、ボルト材料はこの単一並目ねじ山部内に流れ込み、本発明の多重ねじ転造ダイスのダイス本体端面近傍におけるねじ加工部に掛かる応力は低くなるので、さらにダイス本体端面近傍におけるねじ加工部の耐久性が向上する。
【0021】
(3)単一並目ねじ山部の並目ねじ山が、5〜30°の勾配を設けて山部の山頂または谷部の底がダイス本体端面に向かうに連れて低くなるように形成されたものであることにより、並目ねじボルトを螺合できない不完全ねじの領域が少なく、通常使用するボルトに代えて使用することが可能な多重ねじボルトを製造することが可能となる。特に、5〜15°の範囲であれば耐久性と不完全ねじとなる領域との釣り合いが最適な多重ねじ転造ダイスとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は本発明の実施の形態における多重ねじボルトの製造装置を示す概略図、図2は図1の平面図、図3は図1の多重ねじ転造ダイスを示す斜視図である。
図1および図2に示すように、本実施形態における多重ねじボルトの製造装置は、多重ねじボルトとしての二重ねじボルトを製造するものであって、所定間隔で対向配置した一対の多重ねじ転造ダイス1と、円柱状のボルト材料(以下、「ワーク」と称す。)3を所定位置で支持するボルト支持部2とを備える。また、図3に示すように、多重ねじ転造ダイス1は、円筒形のダイス(丸ダイス)の外周に二重ねじボルト形成用の転写パターン4を形成したものである。
【0023】
図4は図3の多重ねじ転造ダイスの外周の転写パターンの一部を平面に展開した図、図5の(A),(B),(C),(D),(E),(F)はそれぞれ図4のA−A線断面図、B−B線断面図、C−C線断面図、D−D線断面図、E−E線断面図、F−F線断面図、図6の(A)は図4のA−A線断面と同位相における多重ねじ転造ダイスの端面近傍の断面図、(D)は図4のD−D線断面と同位相における多重ねじ転造ダイスの端面近傍の断面図である。
【0024】
図4に示すように、多重ねじ転造ダイス1の外周には、製造する二重ねじボルトに対応する転写パターン4が1周につき10個分繰り返して形成されている。多重ねじ転造ダイス1の外径は181.444mmであり、二重ねじボルトは呼び径M20で並目ねじピッチ2.5mm、細目ねじピッチ1.25mmである。したがって、二重ねじボルト1個分の転写パターン4は、多重ねじ転造ダイス1の外周1周360°のうち36°の範囲に形成されていることになる。図4のA−A線、B−B線、C−C線、D−D線、E−E線、F−F線は、それぞれ6°間隔で設けたものである。
【0025】
図5の(A)〜(F)に示すように、多重ねじ転造ダイス1の転写パターン4(図5に実線で示す。)は、並目ねじを丸ダイスの表面に展開した基準のねじ山となる並目ねじ山の一部(以下、「並目ねじ山部」と称す。)5と、この並目ねじ山の谷部5aに周期的に形成された付加的な突起6とにより構成されている。突起6は、展開した並目ねじ山の元の並目ねじと同一方向のつる巻き線を持ち、並目ねじよりもピッチの小さい細目ねじを展開した細目ねじ山(図5に点線(想像線)6aで示す。)と並目ねじ山との位相ずれ7に応じて周期的な形状に形成されたものである。
【0026】
ここで、並目ねじと細目ねじのピッチの比をa対b(但し、aとbは最小の整数比。図示例では2対1としている。)とすると、突起6は、細目ねじを展開したときに並目ねじ山との位相ずれに応じて並目ねじ山のb巻き(図示例では1巻き)ごとに周期的に現れる細目ねじ山の一部となる。図5の(A)〜(F)に示すように、想像線6aで示す細目ねじ山は、並目ねじ山との位相ずれ7によって、この並目ねじ山から突出した部分のみが、付加的な突起6として現れている。すなわち、突起6は、細目ねじ山そのものではなく、位相ずれ7に応じてずれた分だけ細目ねじ山の想像線6aに対応するように、並目ねじ山に対して付加的に突出させた突起である。並目ねじ山部5は、多重ねじ転造ダイス1の表面に現れている細目ねじ山の一部(突起6の表面)を除く部分である。
【0027】
但し、本実施形態における多重ねじ転造ダイス1では、図6に示すようにダイス本体端面1aから所定幅の範囲は、並目ねじを展開した並目ねじ山の山部8aおよび谷部8bを備え、細目ねじ山に対応する突起6を備えない単一並目ねじ山部8とする。なお、単一並目ねじ山部8は、少なくとも多重ねじ転造ダイス1の1巻き形成すれば良い。また、単一並目ねじ山部8は、図2に示すように製造する二重ねじボルトの頭部側となる多重ねじ転造ダイス1の一方のダイス本体端面1aに形成することも可能であるが、図2の上下両方のダイス本体端面1aに形成しても良い。
【0028】
また、本実施形態における多重ねじ転造ダイス1では、単一並目ねじ山部8のダイス本体端面1a側に、多重ねじ転造ダイス1の軸方向から30°の角度にて面取りを施して面取部8cを構成している。この面取りの角度は15〜75°の範囲で設定することができる。面取りの角度が15°未満では、ダイス本体端面とねじ加工部とのなす角が大きすぎ、これらの接続部に応力が集中しやすくなる。一方、75°超では、ボルト材料の逃げる領域が少なすぎてしまい、ダイス本体端面近傍のねじ加工部に掛かる応力を低くすることが難しくなる。したがって、面取りの角度は15〜75°の範囲とするのが望ましい。
【0029】
なお、上記のような単一並目ねじ山部8を備えた多重ねじ転造ダイス1によって転造される二重ねじボルトでは、この単一並目ねじ山部8によって形成された部分には、細目ねじナットを螺合できない。しかしながら、製造される二重ねじボルトがたとえ全ねじボルトであっても、この二重ねじボルトには止まり側、すなわち、図2に示すようにワーク3が頭付きボルトであれば図面上側の頭側に並目ねじナットが螺合されるため、ダイス本体端面1aからこの並目ねじナットの幅までを単一並目ねじ山部8として形成しても二重ねじボルトとしての機能に影響はない。
【0030】
ところで、図5の(A)〜(F)に示す例では、基準となる並目ねじ山の谷部5aの谷底5bと、突起6に対応させた細目ねじ山の想像線6aの谷底6bとの位置を一致させているが、これに限るものではない。例えば、本実施形態における多重ねじ転造ダイス1により製造された二重ねじボルト(図示せず。)の並目ねじ山に並目ナットを螺合させると、多重ねじ転造ダイス1の突起6の分だけ接触面積が減ることになるが、突起6に対応させた細目ねじ山の想像線6aの谷底6bの位置を図5の下方へ移動させることにより、二重ねじボルトの並目ねじ山と並目ナットとの接触面積を増やすことができる。
【0031】
なお、通常の多重ねじ転造ダイスであれば、その表面に並目ねじ山または細目ねじ山のいずれか一方のみが形成されているため、並目ねじナットまたは細目ねじナットを嵌めることができる。しかし、本実施形態における多重ねじ転造ダイス1の場合、並目ねじナットおよび細目ねじナットを嵌めようとしても嵌らない。多重ねじ転造ダイス1の表面に、特許文献1に記載のように従来の並目ねじ山と細目ねじ山とが一体に形成されたもの(具体的な構造は明らかでないが)ではなく、並目ねじ山部5とこの並目ねじ山部5の元の並目ねじ山の谷部5aに周期的な形状の突起6とが形成されたものだからである。
【0032】
上記構成の二重ねじボルトの製造装置を用いて二重ねじボルトを製造するには、円柱状のワーク3をボルト支持部2上に配置し、このワーク3を一対の多重ねじ転造ダイス1間に押圧させ、一対の多重ねじ転造ダイス1をそれぞれ同一方向(例えば、図1に矢印で示すように右回り)に回転させる。
【0033】
ここで、ワーク3は、多重ねじ転造ダイス1によって押圧されることにより、並目ねじ山部5の表面に沿って塑性変形しながら並目ねじ山部5の谷部5aを埋めていき、並目ねじ山部5の谷部5aに周期的に形成された細目ねじ山に対応する突起6の表面に沿って塑性変形しながら谷部5aを埋めていく。このとき、塑性変形したワーク3は、ワーク3の中央から両外側に向かって流れていくが、本実施形態の多重ねじ転造ダイス1では、ダイス本体端面1aから所定幅の範囲が上述のような単一並目ねじ山部8であるため、この単一並目ねじ山部8に流れてきたワーク3は突起6に阻害されることなく、並目ねじ山部5の谷部5aに流れ込む。
【0034】
これにより、転造時に多重ねじ転造ダイス1のダイス本体端面1a近傍におけるねじ加工部、すなわち単一並目ねじ山部8に掛かる応力が低くなり、ダイス本体端面1a近傍におけるねじ加工部の耐久性が向上する。こうして得られた二重ねじボルトの外周表面には、図5の多重ねじ転造ダイス1の転写パターン4の逆パターンの溝(並目ねじ山部5および突起6に相当する溝)が形成される。
【0035】
このように、本実施形態における多重ねじ転造ダイス1によれば、ワーク3の外周表面上に並目ねじ山の一部および細目ねじ山の一部が一工程で一度に転写され、並目ねじ部の一部と細目ねじ部の一部とが形成された二重ねじボルトが得られる。この得られた二重ねじボルトは、従来の切削により形成した二重ねじボルトと同様、並目ねじ山が形成されたうえで、細目ねじ山がえぐり取られた状態のものとなる。したがって、得られた二重ねじボルトには並目ねじナットと細目ねじナットとを嵌めることができる。
【0036】
また、単一並目ねじ山部8は、図7に示すように、山部8aの山頂または谷部8bの底がダイス本体端面1aに向かうに連れて低くなるように5〜15°の勾配を設けて形成されたものとすることも可能である。このような勾配を設けることで、転造時に流れてきたワーク3が流れ込む領域が広くなるので、ワーク3はこの単一並目ねじ山部8内に流れ込み、多重ねじ転造ダイス1のダイス本体端面1a近傍におけるねじ加工部に掛かる応力はより低くなり、さらにダイス本体端面1a近傍におけるねじ加工部の耐久性が向上する。
【0037】
なお、図7に示す例では、山部8aの山頂および谷部8の底がダイス本体端面1aに向かうに連れて低くなるように10°の勾配を設けて平行に形成されているが、いずれか一方のみに勾配を設けることも可能である。但し、谷部8の底にのみ勾配を設けた場合には谷部8の断面積が急激に変化するようになり、ダイス本体端面近傍におけるねじ加工部に掛かる応力が高くなるので望ましくないが、山部8aの山頂にのみ勾配を設けた場合には谷部8の断面積の変化が緩やかとなるので良い。このように一方に勾配を設けた場合であっても、転造時に流れてきたワーク3が流れ込む領域が広くなるので、同様にダイス本体端面近傍におけるねじ加工部の耐久性を向上させることができる。
【0038】
また、この勾配は、5〜15°の範囲であれば耐久性と不完全ねじとなる領域との釣り合いが最適であるが、5〜30°の範囲とすることも可能である。15°を超えると谷部8の断面積が急激に変化することになり、ダイス本体端面近傍におけるねじ加工部に掛かる応力が高くなるので、多重ねじ転造ダイスの耐久性が悪化していくが、30°以下であれば実用上問題はない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の多重ねじ転造ダイスおよびこれを用いた多重ねじボルトの製造方法は、緩み防止機能を有する多重ねじボルトの製造に有用である。特に、本発明は、ダイス本体端面近傍におけるねじ加工部の耐久性を向上した多重ねじ転造ダイスとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態における多重ねじボルトの製造装置を示す概略図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図1の多重ねじ転造ダイスを示す斜視図である。
【図4】図3の多重ねじ転造ダイスの外周の転写パターンの一部を平面に展開した図である。
【図5】(A),(B),(C),(D),(E),(F)はそれぞれ図4のA−A線断面図、B−B線断面図、C−C線断面図、D−D線断面図、E−E線断面図、F−F線断面図である。
【図6】(A)は図4のA−A線断面と同位相における多重ねじ転造ダイスの端面近傍の断面図、(D)は図4のD−D線断面と同位相における多重ねじ転造ダイスの端面近傍の断面図である。
【図7】多重ねじ転造ダイスの別の例を示す図であって、(A)は図4のA−A線断面と同位相における端面近傍の断面図、(D)は図4のD−D線断面と同位相における端面近傍の断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 多重ねじ転造ダイス
2 ボルト支持部
3 ワーク(ボルト材料)
4 転写パターン
5 並目ねじ山部
5a 谷部
5b 谷底
6 突起
6a 細目螺子山の想像線
6b 谷底
6c 溝
8 単一並目ねじ山部
8a 山部
8b 谷部
8c 面取部
【出願人】 【識別番号】800000035
【氏名又は名称】株式会社産学連携機構九州
【出願日】 平成19年3月12日(2007.3.12)
【代理人】 【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久

【識別番号】100116296
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幹生


【公開番号】 特開2008−221272(P2008−221272A)
【公開日】 平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願番号】 特願2007−61881(P2007−61881)