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【発明の名称】 微細凹部加工方法
【発明者】 【氏名】▲高▼嶋 和彦

【氏名】太田 稔

【氏名】上原 義貴

【要約】 【課題】ワークの円形孔の内周面に対して、摺動抵抗を効果的に低減可能な微細凹部を精度良好に且つ低コストで形成することが可能である微細凹部加工方法を提供する。

【構成】シリンダボアBの内周面Baに微細凹部Tを形成する微細凹部加工方法であって、シリンダボアBの内周面Baに鏡面加工である中ぐり加工を施した後、この内周面Baに塑性加工であるマイクロフォーミングを施して微細凹部Tを形成する。これにより、微細凹部Tを精度良好に且つ低コストで形成すると共に、シリンダボアBの内周面Baの摺動抵抗をより一層低減する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形孔の内周面に微細凹部を形成する微細凹部加工方法であって、円形孔の内周面に鏡面加工を施した後、この内周面に塑性加工を施して微細凹部を形成することを特徴とする微細凹部加工方法。
【請求項2】
鏡面加工が、中ぐり加工であることを特徴とする請求項1に記載の微細凹部加工方法。
【請求項3】
鏡面加工が、中ぐり加工及び砥粒加工を順次行う加工であることを特徴とする請求項1に記載の微細凹部加工方法。
【請求項4】
鏡面加工における砥粒加工が、ホーニング加工、研削加工、ラップ加工及び超仕上げ加工のうちのいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の微細凹部加工方法。
【請求項5】
鏡面加工による円形孔の内周面の表面粗さがRa0.1μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の微細凹部加工方法。
【請求項6】
微細凹部を形成した後、微細凹部の周辺に生じた盛上り部分を除去する加工を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の微細凹部加工方法。
【請求項7】
微細凹部周辺の盛上り部分を除去する加工が、砥粒加工であることを特徴とする請求項6に記載の微細凹部加工方法。
【請求項8】
微細凹部周辺の盛上り部分を除去する砥粒加工が、ホーニング加工、研削加工、ップ加工及び超仕上げ加工のうちのいずれかであることを特徴とする請求項7に記載の微細凹部加工方法。
【請求項9】
微細凹部周辺の盛上り部分を除去する加工を施して、円形孔の内周面の表面粗さをRa0.1μm以下としたことを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の微細凹部加工方法。
【請求項10】
微細凹部を形成する塑性加工が、円形孔の内周面に工具を押し付けながら回転させて加工する転造加工であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項の記載の微細凹部加工方法。
【請求項11】
微細凹部を形成する塑性加工が、微細凸部を具備した型を円形孔の内周面に押し付けて加工するプレス加工であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項の記載の微細凹部加工方法。
【請求項12】
円形孔を有し且つ円形孔の内周面を摺動面とした摺動部材であって、請求項1〜11のいずれか1項に記載の微細凹部加工方法により円形孔の内周面に微細凹部を形成したことを特徴とする摺動部材。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の微細凹部加工方法により円形孔であるシリンダボアの内周面に微細凹部を形成したことを特徴とするエンジン。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の微細凹部加工方法により円形孔であるシリンダボアの内周面に微細凹部を形成したことを特徴とするコンプレッサ。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の微細凹部加工方法により円形孔である軸孔の内周面に微細凹部を形成したことを特徴とするすべり軸受。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車用エンジンのシリンダブロックにおけるシリンダボア(円形孔)の内周面に、低フリクション化を実現するための微細凹部(油だまり)を形成するのに用いられる微細凹部加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記したようなシリンダブロックのシリンダボアの内周面に微細凹部を形成する加工方法としては、例えば、あらかじめ加工したシリンダボアの内周面に対して、レーザ加工によって所定深さの溝を格子状に形成し、この溝により囲まれた面に対して、同じくレーザ加工によって溝よりも浅い刻み目を格子状に形成するものがあった。これらの溝や刻み目は、潤滑剤のストック部(油溜まり)として機能する。
【特許文献1】特開平7−40068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記したような従来の微細凹部加工方法では、レーザ加工によって溝や刻み目である微細凹部を形成していたため、微細凹部の深さにばらつきが生じやすいと共に、微細凹部の断面形状をコントロールすることが難しく、その結果、効果的に摺動抵抗を小さくすることが困難であるという問題があった。また、加工装置が大掛かりなものになって、製造コストが高くついてしまうという問題があり、これらの問題を解決することが課題となっていた。
【0004】
なお、レーザ加工としては精密加工が可能なものも周知であるが、この場合には、制御が難しいうえに加工時間も非常に長くかかるので、シリンダブロックのように金属製で且つ量産されるワークの加工に好適であるとは言えない。
【0005】
本発明は、上記した従来の課題に着目して成されたものであり、ワークの円形孔の内周面に対して、摺動抵抗を効果的に低減可能な微細凹部を精度良好に且つ低コストで形成することが可能である微細凹部加工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、円形孔の内周面に微細凹部を形成する微細凹部加工方法であって、円形孔の内周面に鏡面加工を施した後、この内周面に塑性加工を施して微細凹部を形成する構成としたことを特徴としており、上記構成を従来の課題を解決するための手段としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ワークの円形孔の内周面に対して、鏡面加工を施した後に塑性加工により微細凹部を形成することから、摺動抵抗を効果的に低減することが可能な微細凹部を精度良好に且つ低コストで形成することができ、鏡面と高精度の微細凹部との相乗効果により円形孔の内周面の摺動抵抗をより一層低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の微細凹部加工方法は、円形孔の内周面に対して、鏡面加工及び塑性加工を行うことにより、円形孔の内周面の表面粗さを非常に小さくしたうえで、摺動抵抗の低減効果を発揮する微細凹部を高精度に形成するものである。
【0009】
ここで、円形孔の内周面は、潤滑油を介して別部材が接触する摺動面として用いられることとなり、その表面粗さが小さいほど摺動抵抗を低減させるのに有効であるが、表面粗さが小さくなり過ぎると、潤滑油の保持力が低下し、油膜厚さが薄くなってスカッフ(擦り傷)が発生し、これにより摺動抵抗が増すおそれがある。
【0010】
そこで、本発明では、円形孔の内周面に鏡面加工を施して表面粗さを極力小さくしたうえで、油溜まりとして機能する微細凹部を塑性加工により形成する。これにより、円形孔の内周面は、微細凹部により潤滑油の保持力が増して所定の油膜厚さが確保され、鏡面加工による効果と微細凹部による効果とが相俟って、円形孔の内周面の摺動抵抗をより一層低減し得るものとなる。
【0011】
また、本発明の微細凹部加工方法では、微細凹部を塑性加工により形成するので、微細凹部を高精度に形成することができ、微細凹部をレーザ加工で形成する従来技術と比較すると、微細凹部の深さや断面形状をコントロールすることが容易であるうえに、微細凹部周辺にばりやデブリが生じることが無くなり、これらを除去する工程が不要になるので、このような面においても製造コストの低減に貢献し得ることとなる。
【0012】
さらに、本発明の微細凹部加工方法は、鏡面加工として、中ぐり加工、あるいは中ぐり加工及び砥粒加工を順次行う加工を採用することができ、また、鏡面加工における砥粒加工として、ホーニング加工、研削加工、ラップ加工及び超仕上げ加工のうちのいずれかの加工とすることができ、さらに、より好ましい実施形態として、鏡面加工による円形孔の内周面の表面粗さをRa0.1μm以下としている。これにより、微細凹部とともに摺動抵抗の低減に貢献し得る内周面(鏡面)が得られることとなる。
【0013】
なお、上記の鏡面加工の具体的手段は、ワークの材質等に応じて適宜選択することが可能である。例えば、近年では、エンジンの軽量化や高性能化を図るために、アルミニウム合金製のシリンダブロックが用いられており、このようなシリンダブロックのシリンダボアの内周面は、中ぐり加工だけでも、表面粗さが非常に小さい鏡面を形成することができる。これに対して、鋳鉄や鋼等の材質から成るシリンダボアの内周面は、中ぐり加工だけでは充分な表面粗さを得ることが難しいので、中ぐり加工及び砥粒加工を順次行う加工を採用すると、表面粗さが非常に小さい鏡面を形成することができる。
【0014】
さらに、鏡面加工における砥粒加工として、ホーニング加工、研削加工、ラップ加工及び超仕上げ加工のうちのいずれかの加工を採用すれば、ワークの材質を問わず、表面粗さが非常に小さい鏡面を形成することができる。
【0015】
ところで、本発明の微細凹部加工方法では、微細凹部を塑性加工により形成することから、微細凹部周辺に材料の肉の盛上がり部分が生じることがある。この微細凹部周辺の盛上がり部分は、微細凹部の深さが数μmであるのに対して、その高さが非常に小さく、別部材の摺動接触により消滅してしまう可能性があるが、摺動抵抗の低減を図るうえでは無い方がより望ましい。
【0016】
そこで、本発明の微細凹部加工方法は、より好ましい実施形態として、微細凹部を形成した後、微細凹部の周辺に生じた盛上り部分を除去する加工を行うものとしている。これにより、円形孔の内周面の摺動抵抗のさらなる低減を実現することができる。
【0017】
また、本発明の微細凹部加工方法は、微細凹部周辺の盛上り部分を除去する加工として、砥粒加工を採用することができ、この場合には、砥粒加工をホーニング加工、研削加工、ラップ加工及び超仕上げ加工のうちのいずれかの加工とすることができる。なお、微細凹部周辺の盛上り部分を除去する加工として、盛上り部分を切除するような切削加工や盛上り部分を潰すような塑性加工を採用することもできる。
【0018】
盛上り部を除去する加工として砥粒加工を採用した場合には、ワークの材質を問わず、円形孔の内周面の表面粗さを小さくするのと同時に盛上り部分を容易に除去し得ることとなって、製造コストの低減が図られることとなり、この際、盛上り部分を固定砥粒を用いて除去すれば、加工能率が高いものとなる。
【0019】
さらに、本発明の微細凹部加工方法では、微細凹部周辺の盛上り部分を除去する加工により、盛上がり部分のみを除去することも可能であるが、盛上がり部分の高さが非常に小さいので、予め鏡面加工を施した内周面に対して除去加工が影響を及ぼす可能性も有り得る。そこで、本発明の微細凹部加工方法では、より好ましい実施形態として、上述した盛上り部分を除去する加工すなわちホーニング加工、研削加工、ラップ加工及び超仕上げ加工などを施すことで、円形孔の内周面の表面粗さをRa0.1μm以下としても良く、これにより微細凹部とともに摺動抵抗の低減に貢献し得る内周面(鏡面)が確保される。
【0020】
さらに、本発明の微細凹部加工方法は、微細凹部を形成する塑性加工として、円形孔の内周面に工具を押し付けながら回転させて加工する転造加工を採用することができ、この場合には、円形孔の内周面に対して、形状精度の良い微細凹部を安価に形成し得ることとなる。
【0021】
さらに、本発明の微細凹部加工方法は、微細凹部を形成する塑性加工として、微細凸部を具備した型を円形孔の内周面に押し付けて加工するプレス加工を採用することができ、この場合には、比較的簡単な装置構成で微細凹部を短時間で形成し得るので、生産性のさらなる向上や製造コストのさらなる低減を実現する。
【0022】
そして、上記した微細凹部加工方法によれば、円形孔を有する各種の摺動部材、より具体的には、円形孔であるシリンダボアを有するエンジンやコンプレッサ、あるいは円形孔である軸孔を有するすべり軸受において、鏡面加工を施した円形孔の内周面に高精度の微細凹部を低コストで形成することができ、これにより摺動抵抗が小さい摺動部材、エンジン、コンプレッサ及びすべり軸受を提供することができ、とくに、エンジンにおいては、摺動抵抗の低減に伴って、燃費等の性能向上を実現することができる。
【0023】
また、上記の各種摺動部材、エンジンやコンプレッサ及びすべり軸受においては、鏡面及び微細凹部により摺動抵抗を充分に低減し得るので、高価な個体潤滑材が入った材料を使用する必要がなく、例えば、片状黒鉛鋳鉄に代えてアルミニウムや鋼を使用することができる。すなわち、部品コストの低減をも実現し得ることとなる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
この実施例では、自動車用エンジンのシリンダブロックの円形孔であるシリンダボアの内周面に微細凹部を形成する場合を例に挙げて説明する。この実施例に用いる微細凹部加工装置はNC工作機械であって、昇降可能な主軸ヘッドに下向きに突出した状態で支持される鉛直方向の主軸と、主軸ヘッドの下方において水平面内で互いに直交する二軸方向に移動可能としたワーク載置用のテーブルと、主軸に同軸に装着されて一体で回転するホルダを備えている。
【0026】
図2に示すように、上記ホルダ10は、主軸に装着する部位であるシャンク部10A及びその下側に連続するボディ部10Bを有しており、このボディ部10Bの下側には、外周部に微細な凹凸を具備した加工ローラ11と、この加工ローラ11を回転可能に支持するアーム12と、このアーム12を保持するハウジング13が設けてある。加工ローラ11は、材料がとくに限定されるものではないが、例えば、超硬、超硬以外の硬質金属やアルミナ、窒化珪素等のセラミックスなどから成るものであって、シリンダボアBの直径よりも小さい直径を有している。
【0027】
上記加工ローラ11を支持するアーム12は、主軸と平行に設けられて加工ローラ11を固定した支持軸14と、複列アンギュラ玉軸受15を介して支持軸14を回転可能に支持する支持部材16を備えている。このアーム12を保持するハウジング13は、ボディ部10Bにアダプタ10Cを介して連結した中空ブロック状を成すものであって、下端側中空部分には軸線を水平にしたスプラインナット17が嵌合固定してあり、このスプラインナット17と、上記支持部材16に連結させたスプラインシャフト18とを互いにスプライン結合することで、アーム12を主軸3と直交する方向に移動させることができるようにしている。
【0028】
上記アーム12の支持部材16と、ハウジング13の上端側中空部分に嵌めこんだキャップ19との間には、圧縮コイルばね20が介装してあり、アーム12の支持部材16に対して主軸と直交する方向(加工ローラ11の径方向)の荷重を付与することで、中心軸を上記ホルダ10の回転軸Lに合致させたシリンダボアBの内周面Baに加工ローラ11の微細な凹凸を押し付けるようにしている。この場合、キャップ19と圧縮コイルばね20との間には、圧電型のロードセル21が設けてある。
【0029】
また、ハウジング13内のスプラインナット17とスプライン結合するスプラインシャフト18の支持部材16とは反対側には、スプラインシャフト18の直径よりも大径で且つウレタン樹脂などの軟質材料から成る止め具22が固定してあり、この止め具22は、圧縮コイルばね20の伸びを抑えると共に、この圧縮コイルばね20が伸びきった際の衝撃を緩和し、そして、ハウジング13からアーム12が脱落するのを阻止するものとなっている。
【0030】
さらに、圧縮コイルばね20とロードセル21の間には、圧縮コイルばね20に予圧を与える調整駒23が設けてあり、この調整駒23の長さ(圧縮コイルばね20の伸縮方向の長さ)を選択することで、予圧力を調整することができるようにしてある。
【0031】
上記ハウジング13と連結したアダプタ10Cは、図示しないステッピングモータを具備した移動機構を内蔵しており、この移動機構の作動により、ハウジング13に保持した加工ローラ11をシリンダボアBの内周面Baに対して近接離間させることができるようになっている。
【0032】
上記した微細凹部加工装置を用いてシリンダボアBの内周面Baに微細凹部を形成するに際しては、まず、図1に示すように、ステップS1において、シリンダボアBの内周面Baに対して、鏡面加工として、ファインボーリング(精密中ぐり)を施し、内周面の表面粗さをRa0.1μm以下とする。
【0033】
ここで、シリンダボアBの材質がアルミニウム合金である場合には、単結晶ダイヤモンドの切削工具を用いると共に、中ぐり加工時における主軸の回転を高速化することによって、表面粗さRa0.1μm以下の内周面Baが高加工能率で容易に得られる。また、アルミニウム合金を単結晶ダイヤモンドで中ぐり加工する際には、切削抵抗が小さいことから、シリンダボアBの真円度及び円筒度の各精度を高め得ることとなる。
【0034】
次いで、ステップS2において、シリンダボアBの内周面Baに対して、塑性加工として、同内周面Baに沿って周方向に加工ローラ11を転動させるマイクロフォーミング(内周面に工具を押し付けながら回転させて加工する転造加工)を行い、シリンダボアBの内周面Baに微細凹部を形成する。
【0035】
すなわち、主軸とシリンダボアBの中心軸とをほぼ一致させるように位置決めをして、主軸とともにホルダ10を下降させ、シリンダボアBに対して加工ローラ11を挿入するのに続いて、アダプタ10C内の移動機構を作動させて、シリンダボアBの内周面Baに対して加工ローラ11を接触させ、ロードセル21により検出した荷重(加工ローラ11に付与される圧縮コイルばね20の反発力)が予め設定した値になるまでアダプタ10C内の移動機構の作動を継続させる。
【0036】
そして、このように荷重の設定値を検出した段階において、アダプタ10C内の移動機構の作動を停止し、主軸とともにホルダ10を回転させると、シリンダボアBの内周面Baに押し付けられている加工ローラ11が連れ回りすることとなり、この際、主軸の回転と下降速度とを同期させると、加工ローラ11がシリンダボアBの軸線回りに螺旋状に転動し、シリンダボアBの内周面Baの広い領域において、図3に示すように、円周方向に所定の間隔で微細凹部Tが連続的に形成されることとなる。
【0037】
このとき、上記のマイクロフォーミングでは、塑性加工により加工ローラ11の先端形状が形成される微細凹部Tに転写されるため、加工ローラ11の先端部の表面粗さを小さくすることで、微細凹部Tの内周面の表面粗さを小さくすることができる。
【0038】
ところで、上記のマイクロフォーミングにより形成した微細凹部Tの周辺には、図4に示すように、塑性加工による材料の肉の盛上り部分Xが生じる。この盛上り部分Xは、形成する微細凹部Tの深さD1によって範囲や高さが異なるが、材料が横方向に押されて生じるものであるから、緩やかで高さH1は非常に小さい。
【0039】
これに対して、例えば、YAGレーザにより微細凹部を形成した場合には、図5に示すように、微細凹部Taの周辺にデブリYが発生する。このデブリYは、形成する微細凹部Taの深さD2によって範囲や高さが異なるが、微細凹部Taの縁の狭い範囲に集中して生じるので、マイクロフォーミングにより生じた盛上り部分Xに比べて、急峻で高さH2が明らかに大きくなる。
【0040】
したがって、シリンダボアBの内周面Baに対してYAGレーザにより微細凹部Taを形成する場合よりも、シリンダボアBの内周面Baに対してマイクロフォーミングで微細凹部Tを形成する場合の方が、微細凹部周辺の変形量がきわめて小さく、盛上り部分Xを残したままの状態であっても摺動抵抗を効果的に低減し得ることが実証できた。
【0041】
図6は、本発明の微細凹部加工方法の他の実施例を示しており、この実施例では、自動車用エンジンのシリンダブロックの円形孔であるシリンダボアの内周面に微細凹部を形成する場合で且つシリンダボアBが鋳鉄や鋼等の硬さが高い材質からなる場合を例に挙げて説明する。
【0042】
シリンダボアBが鋳鉄や鋼等の硬さが高い材質からなる場合、例えば、鋳鉄の切削で頻繁に用いられるCBN工具は、単結晶ダイヤモンド工具と比較して、切れ刃の形状精度が悪い。また、刃先部分に刃こぼれ防止用のホーニング加工が施された工具を使用するため、加工時の切削抵抗が高くなって、真円度及び円筒度の各精度を高めることが難しい。さらに、加工時に発生する切削温度が高いので、高速加工することができない。
【0043】
上記した理由から、シリンダボアBが鋳鉄や鋼等の硬さが高い材質からなる場合には、ファインボーリングによる中ぐり加工だけでは、能率良く表面粗さを小さくすることは困難である。
【0044】
そこで、この実施例の微細凹部加工方法では、鏡面加工として、図6に示すように、ステップS11において、ファインボーリング(精密中ぐり)によりシリンダボアBを加工した後、シリンダボアBの内周面Baに対してホーニング(砥粒加工)を行う。このホーニングは、複数の工程から成るものとすることができ、ここでは、二つの工程から成るものとした。
【0045】
すなわち、ステップS12において、シリンダボアBの内周面Baに粗ホーニングを行うのに続いて、ステップS13において、シリンダブロックBの内周面Baに仕上ホーニングを行って、シリンダボアBの内周面Baの内周面の表面粗さをRa0.1μm以下にする。
【0046】
次いで、ステップS14において、上記した実施例1のステップS2と同様に、シリンダボアBの内周面Baに沿って加工ローラ11を転動させるマイクロフォーミング(塑性加工)を行って、シリンダボアBの内周面Baに微細な凹部を形成する。
【0047】
上記したように、この実施例では、中ぐり加工だけでは表面粗さをRa0.1μm以下にする鏡面加工が困難で且つ製造コストが高くつく鋳鉄や鋼等の硬さが高い材質から成るシリンダボアBの内周面Baをに対しても、鏡面加工として中ぐり加工及び砥粒加工を順次行うことで、内周面Baを摺動抵抗の低減に効果的な鏡面に形成することができ、この鏡面を塑性加工することで、摺動抵抗の低減に効果的な微細凹部を高精度に且つ低コストで形成することができる。
【0048】
図7は、本発明の微細凹部加工方法のさらに他の実施例を示しており、この実施例においても、自動車用エンジンのシリンダブロックの円形孔であるシリンダボアの内周面に微細凹部を形成する場合を例に挙げて説明する。
【0049】
図7に示すように、この実施例における微細凹部加工方法が先の実施例1における微細凹部加工方法と相違するところは、実施例1のステップS2(シリンダボアBの内周面Baに沿って加工ローラ11を転動させる塑性加工であるマイクロフォーミング)の後に、ステップS23として、塑性加工により生じた微細凹部周辺の盛上り部分(図4参照)を除去する加工であるホーニング(砥粒加工)を行う点にある。
【0050】
ステップS23では、ホーニングによる取代を小さくすることで、具体的には、ホーニングによる取代を、盛上り部分を除いて微細凹部の所定深さを確保し得る量(例えば2μm以下)とすることで、ホーニングによる取代のばらつきを小さくすることができ、ホーニング後に残ったシリンダボアBの内周面Baに形成された微細凹部の溝深さのばらつきを極めて小さく抑えうることとなる。
【0051】
ステップS23で使用するホーニング装置としては、例えば、図8に示すような油圧拡張式のホーニング装置30がある。この油圧拡張式のホーニング装置30は、回転軸31と、円筒状を成し且つ外周面にホーニング砥石32を径方向に移動可能に配置して回転軸31とともに回転するホーニングヘッド33と、ホーニング砥石32を径方向に移動させる砥石駆動機構34を備えており、この油圧拡張式のホーニング装置30を用いると、ホーニング砥石32のシリンダボアBの内周面Baに対する押付け力を容易にコントロールできる。なお、最適な圧力でホーニング砥石32をシリンダボアBの内周面Baに押し付けて加工し得るのであれば、定寸拡張式のホーニング装置を用いても差し支えない。
【0052】
上記ホーニング砥石32には、表面粗さをRa0.1μm以下を満足しつつ、シリンダボアBの内周面Baに均等に接触することが求められる。この実施例では、表面粗さを小さくするのと同時に、シリンダボアBの内周面Baにホーニング砥石32を均等に接触させる。
【0053】
すなわち、ホーニング加工時において、図9(a)に示すように、内周面Baが湾曲してホーニング砥石32の全面が内周面Baに均等に接触していない場合には、図9(b)に示すように、ホーニング砥石32の押付け圧を高めることで内周面Baを弾性変形させて、同内周面Baとホーニング砥石32の全面を均等に接触させ、また、図10(a)にも示す如く内周面Baとホーニング砥石32の全面が均等に接触していない場合には、図10(b)に示すように、ホーニング砥石32の押付け圧を高めることでホーニング砥石32を弾性変形させて、同内周面Baとホーニング砥石32の全面を均等に接触させ、さらには、内周面Ba及びホーニング砥石32の両方を弾性変形させることも必要である。
【0054】
なお、上記のホーニング加工において、シリンダボアBがアルミニウム合金である場合は、耐溶着性の高いダイヤモンド砥粒を用いたホーニング砥石が好ましい。
【0055】
上記したように、この実施例では、微細凹部を形成するマイクロフォーミングによって生じた微細凹部周辺の盛上り部分を除去するようにしているので、実施例1又は実施例2と比べて、円形孔の内周面(微細凹部以外の面)がより一層平滑な鏡面になり、シリンダボアBの摺動抵抗をさらに低減し得ることとなる。そして、微細凹部周辺の盛上り部分がなくなることで、摺動時の潤滑油の流れが良くなり、また、ピストンやリングといった相手部品とのクリアランスを摺動時に均一にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施例による微細凹部加工方法の工程説明図である。(実施例1)
【図2】図1のマイクロフォーミング工程で用いる微細凹部加工装置の工具ホルダの断面説明図である。
【図3】図1のマイクロフォーミング工程でシリンダボアの内周面に形成される微細凹部のパターン説明図である。
【図4】図3の微細凹部の断面説明図である。
【図5】YAGレーザにより形成された微細凹部の断面説明図である。
【図6】本発明の他の実施例による微細凹部加工方法の工程説明図である。(実施例2)。
【図7】本発明のさらに他の実施例による微細凹部加工方法の工程説明図である。(実施例3)。
【図8】図7のホーニング工程で用いる油圧拡張式ホーニング装置を示す断面説明図である。
【図9】図7のホーニング工程においてシリンダボアの内周面を弾性変形させてこの内周面にホーニング砥石を均等に接触させる状況を示す部分断面説明図(a),(b)である。
【図10】図7のホーニング工程においてホーニング砥石を弾性変形させてシリンダボアの内周面に均等に接触させる状況を示す部分断面説明図(a),(b)である。
【符号の説明】
【0057】
B シリンダボア
Ba シリンダボアの内周面
T 微細凹部
X 盛上り部分
【出願人】 【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
【出願日】 平成19年4月17日(2007.4.17)
【代理人】 【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲


【公開番号】 特開2008−23596(P2008−23596A)
【公開日】 平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願番号】 特願2007−107976(P2007−107976)