トップ :: B 処理操作 運輸 :: B21 本質的には材料の除去が行なわれない機械的金属加工;金属の打抜き

【発明の名称】 スプライン加工用転造工具、及び、スプライン加工用転造工具の製造方法
【発明者】 【氏名】五十嵐 正彦

【氏名】渡辺 英夫

【氏名】浅賀 信嘉

【氏名】小室 智

【氏名】望月 武志

【氏名】桜井 大介

【氏名】井草 学

【氏名】梅林 義弘

【氏名】追分 雅博

【要約】 【課題】加工歯の強度を確保して、その耐久性の向上を図ることができると共に、安価に製造することができるスプライン加工用転造工具、及び、スプライン加工用転造工具の製造方法を提供すること。

【構成】ワイヤブラシを回転させつつ矢印L方向に平行移動させる。その結果、ワイヤブラシの毛材に付着された砥流により加工歯12に面取り加工が施され、山払い面部30の周縁部に面取り面部40が形成される。これにより、多数の加工歯12の面取り加工を一度に連続して行うことができ、作業時間を大幅に短縮することができるので、スプライン加工用転造工具を安価に製造することができきる。また、山払い面部30の周縁部に面取り面部40が形成されることで、加工歯12がチッピング等により損傷することを抑制して、耐久性の向上を図ることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の加工歯が設けられた転造歯形面を備え、その転造歯形面の加工歯を被転造素材の外周面に食い込ませ、その被転造素材の外周面にスプラインを転造するスプライン加工用転造工具において、
前記転造歯形面の加工歯は、その加工歯の歯幅方向一端側に山払い加工を施して形成される山払い面部と、その山払い面部の周縁部に面取り加工を施して形成される面取り面部とを備え、
前記山払い面部は、前記歯幅方向一端側に位置し断面円弧状に形成される湾曲面部と、その湾曲面部に連設されると共に前記加工歯の頂部と略平行に形成される平面部と、その平面部に連設されると共に前記平面部から前記加工歯の歯幅方向他端側へ向けて上昇傾斜して形成される傾斜面部とを備え、
前記面取り面部は、砥粒が付着された複数の毛材を有するワイヤブラシを回転させつつそのワイヤブラシを1の方向へ平行移動させることにより、前記山払い面部の周縁部に断面R状に形成されるものであり、かつ、その面取り面部の表面粗さが略3.2μm以下に設定されていることを特徴とするスプライン加工用転造工具。
【請求項2】
複数の加工歯が設けられた転造歯形面を備え、その転造歯形面の加工歯を被転造素材の外周面に食い込ませ、その被転造素材の外周面にスプラインを転造するスプライン加工用転造工具であって、前記転造歯形面の加工歯が、その加工歯の歯幅方向一端側に山払い加工を施して形成される山払い面部と、その山払い面部の周縁部に面取り加工を施して形成される面取り面部とを備えるスプライン加工用転造工具の製造方法において、
前記スプライン加工用転造工具の転造歯形面に研削砥石を用いて加工歯を形成する歯研加工工程と、
その歯研加工工程により形成された前記加工歯に研削砥石を用いた山払い加工を施して、前記歯幅方向一端側に位置し断面円弧状に形成される湾曲面部と、その湾曲面部に連設されると共に前記加工歯の頂部と略平行に形成される平面部と、その平面部に連設されると共に前記平面部から前記加工歯の歯幅方向他端側へ向けて上昇傾斜して形成される傾斜面部とを備える山払い面部を形成する山払い加工工程と、
その山払い加工工程により山払い面部が形成された前記加工歯に、砥粒が付着された複数の毛材を有するワイヤブラシを用いた面取り加工を施して、前記山払い面部の周縁部に断面R状で且つ表面粗さが略3.2μm以下に設定される面取り面部を形成する面取り加工工程と、を備え、
その面取り加工工程は、前記ワイヤブラシを回転させつつそのワイヤブラシを1の方向へ平行移動させることにより行われるものであることを特徴とするスプライン加工用転造工具の製造方法。
【請求項3】
前記1の方向が前記加工歯の歯幅方向と略直交する方向であることを特徴とする請求項2記載のスプライン加工用転造工具の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、スプライン加工用転造工具、及び、スプライン加工用転造工具の製造方法に関し、特に、加工歯の強度を確保して、その耐久性の向上を図ることができると共に、安価に製造することができるスプライン加工用転造工具、及び、スプライン加工用転造工具の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸部材の外周面に設けられた複数条の歯形からなるスプラインは、相手部材と嵌合することにより動力(回転力)伝達等を可能とする為のものである。このスプラインは、一般に、転造工具を使用した転造加工により被転造素材の外周面に転造される。ところで、このようなスプラインは、その谷部の長手方向端部(切り上がり部)から折損等が生じ易く、かかる部位のねじり強度の確保が課題とされていた(特許文献1)。
【0003】
これに対し、本願の出願人は、図8に示すようなスプライン100(本出願時において未公知)を発明した。即ち、このスプライン100は、図8に示すように、切り上がり部に段部101aが設けられており、谷部101の谷径が軸芯O方向(図8左右方向)に沿って変化するように構成されている。これにより、切り上がり部の強度を確保して、ねじり強度の向上を図ることができる。
【0004】
このスプライン100を転造加工するための転造工具は、加工歯の歯幅方向一端側に山払い加工が施され(図2参照)、スプライン100の谷部101に段部101aを転造することができるように構成されている。
【特許文献1】特開平11−290978号公報(段落[0004]等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この場合、加工歯に山払い加工を行うと、山払い面部の周縁部が鋭角となるため、加工歯(山払い面部)にチッピング等の損傷が生じ易くなる一方、スプライン100には角部が形成されるため、応力集中が生じ易くなり、その結果、転造工具及び被転造素材の耐久性の低下を招くという問題点があった。
【0006】
ここで、例えば、特開平9−308935号公報には、各歯(加工歯)の側面を面取りして、応力集中による強度低下を防止し得るように構成されたスプライン加工用転造工具が開示されている。しかしながら、このような面取り加工は、従来、作業者が手作業により行っていたため、作業時間が嵩み、加工コストの大幅な上昇を招くという問題点があった。また、手作業であるため、面取り形状や表面粗さのばらつきが大きく、十分な加工精度が得られないという問題点もあった。
【0007】
一方、特許文献1に開示されるように、砥石を所定の軌跡で移動させる技術を応用して、山払い面の周縁部に面取り加工を施すことも考えられる。しかしながら、段付きに山払いされた山払い面部に対し、その周縁部全域をR状に面取り加工するためには、砥石を極めて高精度に3軸制御する必要が生じ、制御コストが極めて嵩むと共に、この加工を転造歯形面の各加工歯それぞれに行う必要があるため、作業時間も極めて嵩み、結局、加工コストの大幅な上昇を招くという問題点があった。
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、加工歯の強度を確保して、その耐久性の向上を図ることができると共に、安価に製造することができるスプライン加工用転造工具、及び、スプライン加工用転造工具の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、請求項1記載のスプライン加工用転造工具は、複数の加工歯が設けられた転造歯形面を備え、その転造歯形面の加工歯を被転造素材の外周面に食い込ませ、その被転造素材の外周面にスプラインを転造するものであり、前記転造歯形面の加工歯は、その加工歯の歯幅方向一端側に山払い加工を施して形成される山払い面部と、その山払い面部の周縁部に面取り加工を施して形成される面取り面部とを備え、前記山払い面部は、前記歯幅方向一端側に位置し断面円弧状に形成される湾曲面部と、その湾曲面部に連設されると共に前記加工歯の頂部と略平行に形成される平面部と、その平面部に連設されると共に前記平面部から前記加工歯の歯幅方向他端側へ向けて上昇傾斜して形成される傾斜面部とを備え、前記面取り面部は、砥粒が付着された複数の毛材を有するワイヤブラシを回転させつつそのワイヤブラシを1の方向へ平行移動させることにより、前記山払い面部の周縁部に断面R状に形成されるものであり、かつ、その面取り面部の表面粗さが略3.2μm以下に設定されている。
【0010】
請求項2記載のスプライン加工用転造工具の製造方法は、複数の加工歯が設けられた転造歯形面を備え、その転造歯形面の加工歯を被転造素材の外周面に食い込ませ、その被転造素材の外周面にスプラインを転造するスプライン加工用転造工具であって、前記転造歯形面の加工歯が、その加工歯の歯幅方向一端側に山払い加工を施して形成される山払い面部と、その山払い面部の周縁部に面取り加工を施して形成される面取り面部とを備えるスプライン加工用転造工具の製造方法であり、前記スプライン加工用転造工具の転造歯形面に研削砥石を用いて加工歯を形成する歯研加工工程と、その歯研加工工程により形成された前記加工歯に研削砥石を用いた山払い加工を施して、前記歯幅方向一端側に位置し断面円弧状に形成される湾曲面部と、その湾曲面部に連設されると共に前記加工歯の頂部と略平行に形成される平面部と、その平面部に連設されると共に前記平面部から前記加工歯の歯幅方向他端側へ向けて上昇傾斜して形成される傾斜面部とを備える山払い面部を形成する山払い加工工程と、その山払い加工工程により山払い面部が形成された前記加工歯に、砥粒が付着された複数の毛材を有するワイヤブラシを用いた面取り加工を施して、前記山払い面部の周縁部に断面R状で且つ表面粗さが略3.2μm以下に設定される面取り面部を形成する面取り加工工程と、を備え、その面取り加工工程は、前記ワイヤブラシを回転させつつそのワイヤブラシを1の方向へ平行移動させることにより行われるものである。
【0011】
請求項3記載のスプライン加工用転造工具の製造方法は、請求項2記載のスプライン加工用転造工具の製造方法において、前記1の方向が前記加工歯の歯幅方向と略直交する方向である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載のスプライン加工用転造工具によれば、湾曲面部、平面部及び傾斜面部を備える山払い面部が加工歯の歯幅方向一端側に設けられているので、スプラインの谷部をその谷径が軸芯方向に沿って変化するように形成して、切り上がり部に大径の段部を設けることができる。即ち、切り上がり部のねじり強度の向上が図られたスプラインを転造することができるという効果がある。
【0013】
この場合、加工歯に山払い面部を設けると、その山払い面部の周縁部が鋭角となり、加工歯及びスプラインの耐久性の低下を招くところ、本発明のスプライン加工用転造工具によれば、山払い面部の周縁部には、面取り加工が施され、断面R状かつ表面粗さ略3.2μm以下の面取り面部が形成されているので、加工歯がチッピング等により損傷することを抑制して、スプライン加工用転造工具自体の耐久性の向上を図ることができるという効果がある。
【0014】
一方、被転造素材にスプラインを転造する際には、そのスプラインの切り上がり部に角部が形成されることを抑制することができると共に、切り上がり部の表面粗さも向上させることができるので、被転造素材に高強度のスプラインを転造することができるという効果がある。その結果、スプラインの耐久性の向上を図ることができる。
【0015】
ここで、面取り面部は、砥粒が付着された複数の毛材を有するワイヤブラシを回転させつつそのワイヤブラシを1の方向へ平行移動させることにより形成されるものである。そのため、本発明のように、山払い面部が湾曲面部、平面部及び傾斜面部を有する複雑な形状からなる場合であっても、毛材を撓ませて山払い面部の形状に追従させることができるので、かかる山払い面部の周縁部に断面R状かつ面粗さ略3.2μm以下の面取り面部を高効率かつ高精度に形成することができる。
【0016】
その結果、従来品のように、面取り加工が手作業で行われるために、面取り形状や表面粗さのばらつきが大きくなるという不具合を回避して、断面R状の面取り面部を均一に形成することができる。よって、加工歯のチッピング等を抑制してその耐久性の向上を図ることができると共に、スプラインの切り上がり部に角部が形成されることを抑制して高強度のスプラインを転造することができるという効果がある。
【0017】
更に、従来品のように、面取り加工により加工歯が削られ過ぎ、加工歯のストレート部が減少するという不具合を回避して、加工歯の面取り形状精度の向上を図ることができる。よって、高精度のスプラインを転造して、スプラインの嵌合精度の向上を図ることができるという効果もある。
【0018】
また、面取り面部は、ワイヤブラシを1の方向へ平行移動させることで形成されるものであるため、極めて短時間でその面取り加工を行うことができる。即ち、NC工作機を用いて研削砥石を山払い面の周縁部に沿って3軸移動させると共にその加工を転造歯形面の多数の加工歯にそれぞれ施すといった煩雑な作業を行う必要がなく、転造歯形面の多数の加工歯の面取り加工を一度に行うことができる。その結果、面取り加工工程を簡素化して、作業時間を短縮することができるので、加工コストが削減され、その分、スプライン加工用転造工具全体としての製品コストの削減を図ることができるという効果がある。
【0019】
請求項2記載のスプライン加工用転造工具の製造方法によれば、湾曲面部、平面部及び傾斜面部を備える山払い面部を加工歯の歯幅方向一端側に設ける山払い加工工程を備えるので、谷部の谷径が軸芯方向に沿って変化するスプラインを転造可能なスプライン加工用転造工具を製造することができるという効果がある。即ち、このスプライン加工用転造工具を用いれば、切り上がり部に大径の段部を有し、その切り上がり部のねじり強度の向上が図られたスプラインを転造することができる。
【0020】
この場合、山払い加工工程において、加工歯に研削砥石による山払い加工を施すと、その山払い面部の周縁部が鋭角となり、加工歯及びスプラインの耐久性の低下を招く。これに対し、本発明のスプライン加工用転造工具の製造方法によれば、面取り加工工程を備えており、山払い面部の周縁部に断面R状かつ表面粗さ略3.2μm以下の面取り面部を形成することができるので、加工歯のチッピング等による損傷が抑制され、その耐久性の向上が図られたスプライン加工用転造工具を製造することができるという効果がある。
【0021】
一方、このように、山払い面部の周縁部に上記構成の面取り面部を有するスプライン加工用転造工具を製造することができれば、このスプライン加工用転造工具を用いて被転造素材にスプラインを転造する際には、スプラインの切り上がり部に角部が形成されることを抑制することができると共に、切り上がり部の表面粗さを向上させることもできる。よって、本発明のスプライン加工用転造工具の製造方法によれば、被転造素材に高強度のスプラインを転造し得るスプライン加工用転造工具を製造することができるという効果がある。
【0022】
ここで、面取り加工工程は、山払い加工工程により山払い面部が形成された加工歯に、砥粒が付着された複数の毛材を有するワイヤブラシを用いた面取り加工を施して、山払い面部の周縁部に断面R状で且つ表面粗さが略3.2μm以下に設定される面取り面部を形成するものである。
【0023】
そのため、本発明のように、山払い面部が湾曲面部、平面部及び傾斜面部を有する複雑な形状からなる場合であっても、毛材を撓ませて山払い面部の形状に追従させることができるので、かかる山払い面部の周縁部に断面R状かつ面粗さ略3.2μm以下の面取り面部を高効率かつ高精度に形成することができるという効果がある。
【0024】
その結果、従来の製造方法のように、面取り加工を手作業で行うために、面取り形状や表面粗さのばらつきが大きくなるという不具合を回避して、断面R状の面取り面部を均一に形成することができる。その結果、加工歯のチッピング等を抑制して、スプライン加工用転造工具の耐久性の向上を図ることができるという効果がある。
【0025】
そして、このスプライン加工用転造工具を用いれば、スプラインの切り上がり部に角部が形成されることを抑制し得ると共に、被転造面の表面粗さが向上して、高強度のスプラインを転造することができるという効果がある。
【0026】
また、従来の製造方法では、面取り加工時に加工歯が削られ過ぎ、加工歯のストレート部が減少するという不具合があったところ、本発明の製造方法では、剛性の弱い加工歯の角部から順にワイヤブラシが削って行くので、加工歯のストレート部を確保することができるという効果がある。よって、加工歯の面取り形状精度の向上を図ることができるので、高精度のスプラインを転造して、スプラインの嵌合精度の向上を図ることができるという効果がある。
【0027】
更に、面取り加工工程は、ワイヤブラシを回転させつつそのワイヤブラシを1の方向へ平行移動させることにより行われるものであるので、極めて短時間でその面取り加工を行うことができるという効果がある。即ち、NC工作機を用いて研削砥石を山払い面の周縁部に沿って3軸移動させると共にその加工を転造歯形面の多数の加工歯にそれぞれ施すといった煩雑な作業を行う必要がなく、転造歯形面の多数の加工歯の面取り加工を一度に行うことができる。その結果、面取り加工工程を簡素化して、作業時間を短縮することができるので、加工コストが削減され、その分、スプライン加工用転造工具の製造コストの削減を図ることができるという効果がある。
【0028】
請求項3記載のスプライン加工用転造工具の製造方法によれば、請求項2記載のスプライン加工用転造工具の製造方法の奏する効果に加え、ワイヤブラシを平行移動させる方向(1の方向)が加工歯の歯幅方向と略直交する方向とされているので、本発明のように、山払い面部が湾曲面部、平面部及び傾斜面部を有し複雑な形状とされている場合であっても、ワイヤブラシの各毛材を山払い面部の周縁部に適切に当接させて、高効率かつ確実に面取り加工を行うことができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施の形態におけるスプライン加工用転造工具1を説明する図であり、(a)はスプライン加工用転造工具1の上面図であり、(b)は、スプライン加工用転造工具1の側面図である。なお、図1では、山払い面部30と面取り面部40との図示が省略されている。
【0030】
まず、図1を参照して、スプライン加工用転造工具1の全体構成について説明する。スプライン加工用転造工具1は、円柱状の軸状素材として構成された被転造素材の外周面を塑性変形させて、谷部101の切り上がり部に段部101aが形成されたスプライン100(図8参照)を転造加工により転造するための工具である。
【0031】
なお、図1では、一対のスプライン加工用転造工具1のうち、転造盤(図示せず)に固定される一方のスプライン加工用転造工具1を図示しており、かかる一方のスプライン加工用転造工具1に対して平行移動される他方のスプライン加工用転造工具1の図示を省略している。
【0032】
スプライン加工用転造工具1は、図1に示すように、転造に適した合金工具鋼または高速度工具鋼等の金属材料から略直方体状に形成されており、その上面側(図1(a)紙面手前側、図1(b)上側)には、被転造素材の外周面にスプライン100(図8参照)の転造を行うための転造歯形面11が設けられている。
【0033】
転造歯形面11には、図1に示すように、スプライン加工用転造工具1の転造方向始端側(図1右側)から終端側(図1左側)へ向けて、食付き部11a、仕上げ部11bおよび逃げ部11cが順に連続して設けられている。
【0034】
食付き部11aは、転造歯形面11を被転造素材の外周面に食い付かせる為の部位であり、いわゆる食付き部として用いられる。この食付き部11aは、図1(b)に示すように、スプライン加工用転造工具1の転造方向始端側(図1右側)から仕上げ部11b側(図1左側)へ向けて傾斜角κ1で上昇傾斜して形成されている。
【0035】
仕上げ部11bは、食付き部11aによって被転造素材に転造されたスプライン100(図8参照)を仕上げるための部位であり、図1(b)に示すように、スプライン加工用転造工具1の支持面(図1(b)下側面)に対して略平行に形成されている。
【0036】
逃げ部11cは、仕上げ部11bにより仕上げられた被転造素材を転造歯形面11から排出するための部位であり、いわゆる逃げ部として用いられている。この逃げ部11cは、図1(b)に示すように、仕上げ部11bの終端からスプライン加工用転造工具1の転造方向終端(図1(b)左側)へ向けて傾斜角κ2で下降傾斜して形成されている。
【0037】
これら食付き部11a、仕上げ部11b及び逃げ部11cで構成された転造歯形面11には、複数の歯形(以下、「加工歯」と称す。)12が刻設されている。これら複数の加工歯12は、被転造素材の外周寸法に対応した一定のピッチで転造方向(スプライン加工用転造工具1の長手方向、図1の左右方向)へ向けて連続して形成されると共に、転造方向に対して略直交する方向(図1(a)の上下方向)へ列設されている。被転造素材は、転造歯形面11上を転造方向始端側から終端側へ向けて相対的に転動移動することにより、その外周面にスプライン100(図8参照)が転造される。
【0038】
次いで、図2を参照して、加工歯12の詳細構成について説明する。図2(a)は、図1(a)のIIa−IIa線におけるスプライン加工用転造工具1の断面図であり、図2(b)は、図2(a)の矢印IIb方向から見たスプライン加工用転造工具1の側面図である。なお、図2(a)は、スプライン加工用転造工具1を加工歯12の歯底線12bに沿って断面視した断面図に対応する。
【0039】
加工歯12は、上述したように、被転造素材の外周面に食い込んで、その外周面を塑性変形させることによりスプライン100の転造を行うための部位であり、図2に示すように、その歯幅方向(図2(a)左右方向)一端側(図2(a)右側)に山払い加工を施して形成される山払い面部30と、その山払い面部30の周縁部に面取り加工を施して形成される面取り面部40とを備えている。
【0040】
山払い面部30は、スプライン100の谷部101に段部101a(図8参照)を転造するために歯丈が低く形成された部位であり、図2に示すように、腕曲面部30aと、平面部30bと、傾斜面部30cとを主に備えて構成されている。
【0041】
図2に示すように、腕曲面部30aは、加工歯12の歯幅方向(図2(a)左右方向)一端側(図2(a)右側)に位置し断面円弧状に形成され、平面部30bは、湾曲面部30aに連設されると共に加工歯12の頂部と略平行に形成されている。また、傾斜面部30cは、平面部30bに連設されると共に平面部30bから加工歯12の歯幅方向他端側(図2(a)左側)へ向けて上昇傾斜して形成されている。
【0042】
これにより、被転造素材にスプラインを転造する場合には、谷部の谷径が軸芯方向に沿って変化するように形成して、切り上がり部に大径の段部を設けることができ(図8参照)、その結果、切り上がり部のねじり強度の向上が図られたスプラインを転造することができる。
【0043】
なお、加工歯12に山払い加工を施し山払い面部30を設けると、その山払い面部30の周縁部が鋭角となり、加工歯12及びスプラインの耐久性の低下を招く。そこで、本発明のスプライン加工用転造工具1では、後述するように、山払い面部30の周縁部に面取り加工が施され面取り面部40が形成されている。
【0044】
これにより、加工歯12がチッピング等により損傷することを抑制して、スプライン加工用転造工具1の耐久性の向上を図ることができる。また、被転造素材にスプラインを転造する際には、そのスプラインの切り上がり部に角部が形成されることを抑制して、高強度のスプラインを転造することができる。
【0045】
面取り面部40は、山払い面部30の周縁部を断面R形状に面取り加工した部位であり(図5参照)、後述するように、砥粒が付着された複数の毛材71aを有するワイヤブラシ70(図6参照)により形成される。
【0046】
なお、面取り面部40は、その表面粗さが略3.2μm以下に設定されているので、被転造素材にスプラインを転造する際には、切り上がり部の表面粗さを向上させることができるので、より高強度のスプラインを転造することができ、その結果、スプラインの耐久性の向上を図ることができる。
【0047】
次いで、図3から図5を参照して、スプライン加工用転造工具1の製造方法について説明する。図3は、歯研加工工程により歯研された加工歯12の斜視図であり、図4は、山払い加工工程により山払い加工が施されて山払い面部30が形成された加工歯12の斜視図であり、図5は、面取り加工工程により面取り加工が施され面取り面部40が形成された加工歯12の斜視図である。
【0048】
スプライン加工用転造工具1の製造に際しては、まず、合金工具鋼または高速度工具鋼等の金属材料からなるダイス素材を略直方体状に切断した後、そのダイス素材に熱処理を施す。そして、その熱処理を施したダイス素材の一面側に研削砥石を用いた研削加工を施して、加工歯12を形成する(歯研加工工程)。
【0049】
即ち、歯研加工工程では、円盤状の研削砥石を回転させながら、かかる研削砥石を図3中の矢印W方向(スプライン加工用転造工具1の幅方向、図1(a)上下方向)に平行移動させることにより、図3に示すように、多数の加工歯12を転造歯形面11(図1参照)に形成する。
【0050】
歯研加工工程で使用される研削砥石の断面形状は、一山又は二山(一溝又は二溝)分の加工歯12の断面形状(即ち、歯底及び刃先の各円弧部を直線で接続した形状)に対応して形成されており、一般には、その研削砥石を矢印W方向へ1ストロークさせる毎に、一山又は二山(一溝又は二溝)の加工歯12が形成される。
【0051】
なお、本実施の形態では、転造歯形面11に243山(食付き部11aに188山、仕上げ部11bに43山、逃げ部11cに12山)の加工歯12が形成される。また、加工歯12の歯の高さは最大略0.975mm、各加工歯12のピッチ(転造方向間隔)は略2.503mmとされている。
【0052】
歯研加工工程の後は、山払い加工工程に移行して、加工歯12に山払い加工を施す。即ち、山払い加工工程では、上述した歯研加工工程と同様に、円盤状の研削砥石を回転させつつ、その研削砥石を図4中の矢印L方向(加工歯12の歯幅方向と略直交する方向、例えば、図1(a)上下方向)に平行移動させることにより、加工歯12の幅方向一端側(図4手前側)に山払い加工を施して、図4に示すように、山払い面部30を形成する。
【0053】
山払い加工工程で使用される研削砥石の断面形状は、加工歯12の断面形状(即ち、加工歯12を歯幅方向で切断した断面形状)に対応して形成されており、一般には、その研削砥石を矢印L方向へ1ストロークさせることで、複数の加工歯12の山払い加工が一度に連続して行われ、図4に示すように、各加工歯12に山払い面部30(湾曲面部30a、平面部30b及び傾斜面部30c)が形成される。
【0054】
なお、本実施の形態では、加工歯12の山払い量(加工歯12の頂部から平面部30bまでの距離)が略0.238mmに、湾曲面部30aの円弧半径が略5.5mmに、傾斜面部30cの傾斜角(平面部30bと傾斜面部30cの延長面とがなす角)が略12°に、山払い面部30の長さ(加工歯12の歯幅方向長さ)が略7.5mmに、それぞれ設定されている。
【0055】
山払い加工工程により山払い加工を施すと、山払い面部30の周縁部が鋭角となるばかりか、バリが生じることもあるため、加工歯12(山払い面部30)にチッピング等の損傷が生じ易くなる。また、かかる加工歯12で転造されたスプライン100には角部が形成されるため、応力集中が生じ易くなる。
【0056】
そこで、山払い加工工程で山払い加工を行った後は、面取り加工工程に移行して、加工歯12に面取り加工を施す。面取り加工は、ワイヤブラシ70を使用して行われる。ここで、図6及び図7を参照して、ワイヤブラシ70の詳細構成について説明する。
【0057】
図6は、ワイヤブラシ70の底面図である。なお、図6では、多数の毛材群72の内の一部のみを実線で図示し、残りは2点鎖線を用いて模式的に図示する。
【0058】
ワイヤブラシ70は、図6に示すように、基体部材71の底面に多数の毛材群72を有して構成されている。なお、本実施の形態では、基体部材71がアルミニウム合金から直径略150mmの円板状体に構成され、毛材群72は、基体部材71の軸芯と同心の仮想円に沿って2列に配置されている。内周側の列の毛材群72は、周方向略18°間隔の20箇所に、外周側の列の毛材群72は、周方向略18°間隔の30箇所に、それぞれ配置されている。
【0059】
毛材群72は、30本の毛材72aから構成され、これら30本の毛材72aは、直径略10mmの仮想円内に密集して配置されている。毛材72aは、砥粒が付着(含有)されたナイロンなどの樹脂材料から線状に構成されると共に、その毛径(直径)が略1mmに、毛丈(基体部材71の底面からの突き出し寸法)が、略13mmに、それぞれ設定されている。また、砥粒の粒材は、GC(グリーンカーボンランダム)であり、その粒度は♯120である。
【0060】
図7は、ワイヤブラシ70による加工歯12の面取り加工を模式的に示した模式図である。ワイヤブラシ70は、後述するように、基体部材71の軸芯を回転中心として回転されつつ、図7中の矢印L方向へ移動される。この場合、毛材72aは、図7に示すように、円弧状に撓みつつ移動することができるので、山払い面部30の複雑な形状に対しても、その形状に追従し、山払い面部30の周縁部を全域にわたって均一な断面円弧状に面取りすることができる。
【0061】
なお、手作業により面取り加工を行うと、加工歯12が削られ過ぎ、そのストレート部が減少するという不具合があったところ、本発明では、毛材72aに剛性の弱い加工歯12の角部から順に削らせることができるので、加工歯12のストレート部を確保することができる。その結果、被転造素材に転造したスプラインの嵌合精度の向上を図ることができる。
【0062】
図5に戻って説明する。面取り加工工程では、上述のように構成されたワイヤブラシ70を回転させつつ、図5中の矢印L方向(図4の矢印Lと同じ方向)に平行移動させる。これにより、ワイヤブラシ70の毛材72aに付着された砥流により加工歯12に面取り加工が施され、図5に示すように、山払い面部30の周縁部に面取り面部40が形成される。
【0063】
ここで、面取り加工工程では、ワイヤブラシ70が矢印L方向へ1ストロークすることで、複数の加工歯12(山払い面部30の周縁部)への面取り加工が一度に連続して行われるので、極めて短時間で面取り加工工程を完了することができる。
【0064】
即ち、NC工作機を用いる場合のように、研削砥石を山払い面部30の周縁部に沿って3軸移動させると共に、その加工を転造歯形面11の多数の加工歯12にそれぞれ施すといった煩雑な作業を行う必要がなく、転造歯形面11の多数の加工歯12の面取り加工を一度に連続して行うことができる。その結果、面取り加工工程を簡素化して、作業時間を大幅に短縮することができるので、加工コストが削減され、その分、スプライン加工用転造工具1の製造コストの削減を図ることができる。
【0065】
なお、ワイヤブラシ70を平行移動させる方向(矢印L方向)は、加工歯12の歯幅方向と略直交する方向とされているので、本発明のように、山払い面部30が湾曲面部30a、平面部30b及び傾斜面部30cを有し複雑な形状とされている場合であっても、ワイヤブラシ70の各毛材72aを山払い面部30の周縁部に適切に当接させて、高効率かつ確実に面取り加工を行うことができる。
【0066】
更に、ワイヤブラシ70を平行移動させる方向(矢印L方向)は、加工歯12に山払い加工を施す場合の研削砥石の移動方向(矢印L方向)と一致しているので、かかる山払い加工により山払い面部30の周縁部にバリが発生した場合には、そのバリをワイヤブラシ70の各毛材72aで適切に除去することができる。
【0067】
即ち、ワイヤブラシ70を矢印Lと略直交する方向(加工歯12の歯幅方向)へ平行移動させたのでは、ワイヤブラシ70の回転による各毛材72aの変位方向が加工歯12の歯幅方向と略直交する方向となるため、各毛材72aにより除去されたバリが各毛材72aと共に山払い面部30上や面取り面部40上を滑動し、山払い面部30や面取り面部40の表面を損傷させてしまう。
【0068】
これに対し、ワイヤブラシ70を矢印L方向へ平行移動させれば、ワイヤブラシ70の回転による各毛材72aの変位方向が加工歯12の歯幅方向となるため、各毛材72aにより除去されたバリを外部に飛散させることができる。よって、除去されたバリにより山払い面部30や面取り面部40の表面が損傷することなく、面取り面部40の面取り加工を行うことができる。
【0069】
なお、ワイヤブラシ70は、その毛材72aの先端が湾曲面部30aの下端に一致する高さ位置(本実施の形態では、山払い量の略0.238mmと腕曲面部30aの円弧半径の略5.5mmとを合わせた略5.738mmだけ加工歯12の頂部よりも下方位置に毛材72aの先端が位置する)に固定され、その高さ位置を固定したまま、図5中の矢印L方向へ平行移動される。
【0070】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0071】
例えば、上記実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0072】
また、上記実施の形態では、加工歯12の歯幅方向一端側のみに山払い加工が施される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、加工歯12の歯幅方向両端側にそれぞれ山払い加工を施すことは当然可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施の形態におけるスプライン加工用転造工具を説明する図であり、(a)及び(b)は、それぞれスプライン加工用転造工具の上面図及び側面図である。
【図2】(a)は、図1(a)のIIa−IIa線におけるスプライン加工用転造工具の断面図であり、(b)は、図2(a)の矢印IIb方向から見たスプライン加工用転造工具の側面図である。
【図3】歯研加工工程により歯研された加工歯の斜視図である。
【図4】山払い加工工程により山払い加工が施されて山払い面部が形成された加工歯の斜視図である。
【図5】面取り加工工程により面取り加工が施され面取り面部が形成された加工歯の斜視図である。
【図6】ワイヤブラシの底面図である。
【図7】ワイヤブラシによる加工歯の面取り加工を模式的に示した模式図である。
【図8】段部を有するスプラインの断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1 スプライン加工用転造工具
11 転造歯形面
12 加工歯
30 山払い面部
30a 湾曲面部
30b 平面部
30c 傾斜面部
40 面取り面部
70 ワイヤブラシ
72a 毛材
100 スプライン
L 1の方向
【出願人】 【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
【識別番号】000103367
【氏名又は名称】オーエスジー株式会社
【出願日】 平成17年5月6日(2005.5.6)
【代理人】 【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー

【識別番号】100103045
【弁理士】
【氏名又は名称】兼子 直久

【識別番号】100127605
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 愛

【識別番号】100129447
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 努


【公開番号】 特開2008−6443(P2008−6443A)
【公開日】 平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願番号】 特願2005−134908(P2005−134908)